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プルガトリオ
嫉妬する者はまぶたを縫われる
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グノートス遺跡 第8階層 08:54 a.m.(推定) フランチェスコ
十数分後、生存者はパラヘルメースの大部屋に集まった。
しばらく誰も口を開けなかった。あるものはふさぎ込み、あるものを周囲へ疑いの目を向けた。
「これってどういうことになるの」
ロミーは指を絡ませると皆に向けて云った。
「どうって…あのじじいが死んだんだよ。おめぇも見たろ」
ラルフは足を組んだ。
「そういうことを云ってるんじゃない。どうして黒獣病で死んでるのかって聞いてるの」
黒獣病。その名を知らない人はいないであろう忌々しい病。主にモンスターに媒介し、傷口から侵入して体中の細胞を内側から破壊する。罹患すると死体が真っ黒に内出血して死ぬことからその名がつけられた。150年前のモンスター襲来によって多くの人や生き物が命を落としたが、そのほとんどが黒獣病によるものと云われている。
「そりゃあモンスターにやられたんだろ」
「なんでモンスターがいるの、どこに潜んでいたっていうの」
ロミーは反駁した。首元に脂汗がうき、忙しなく見を揺すっている。冷静なときの彼女とは大違いだ。
「落ち着いてください。多分クロウル・ドラゴンに襲われた時点で感染していたんですよ。それがなんらかの出血を伴って死に至った、そう考えられませんか」
フランチェスコは彼女の気が立たないように云った。
「それはありえないな。あんたの推理は絶対にありえない」
パラヘルメースは無情にもフランチェスコの説を打ち砕く。
「時間のつじつまが合わないだろう。あの死体は内出血がまだら状に浮き上がっていた。黒獣病の初期症状だな。この症状が出始めるのは生きている者で大体10時間。10時間前は昨夜22時、既にクロウル・ドラゴンから逃げきっている」
「ちょっと待って、『生きている者で』ってどういう意味かしら。まるで他の場合もあるみたい」
ベアトリーチェがつぶさに質問した。
「それはもちろん死んでいる場合もありますから。肉体が死んでいると免疫が働かず、3時間で初期症状が現れます。これは最低の数字ですからこれより長い場合もあります。まあ死亡推定時刻は5時前後といったところでしょうか」
「……5時くらいというと、ちょうどラルフが見張りをやっていた時間に当たるな」
リュディガーは指を折って時間を数えた。皆の視線がラルフに集中する。
「え、いやいやちょっと待ってくれ。俺が見張ってた時はなんもなかったぜ」
ラルフは自分の胸の前で手を振った。
リュディガーは指を鳴らした。
「ラルフが何も見なかったいう事は、階上からモンスターが侵入したという線はないな。となると残るは、モンスターが地下に潜んでいたか、それか壺に入れたクロウル・ドラゴンが息を吹き返したとか」
「それこそあり得ない。あの部屋の扉は閉め切られていた。この世のどこに扉を開け閉めするモンスターがいるというんだ。犯人は間違いなくこの中にいる人間だ」
パラヘルメースは真剣な声色で言い放った。はっきりと、この中に犯人がいると。
「本当にそうでしょうか」
アイディンはあごに手を当てて無精ひげをさすった。
「…まさか、扉を閉めるほど利口なモンスターが存在するとおっしゃりたいのですか」
「そうではありませんよ。パラヘルメースくん、私は結論を出すには早すぎると思うだけです。君の意見は納得に値しますが、すべての謎が解けるわけではない。
まずは謎を整理しましょうか。博士を夜の間に殺すには3つの障害が発生します。
1つは見張りの目。
博士の死亡推定時刻はおそらく午前5時。その時間はラルフ君が見張りを行っていました。彼が何も見なかったということは、わたしたちの中にその時間に第8階層から下に降りた者はいなかったということになります。
2つ目は黒獣病の症状。
博士はモンスターが媒介となる黒獣病を発症していました。感染したのは今から3時間前。死亡した後か、死亡と同じタイミングであると云っていいでしょう。そうなると博士を殺したのはモンスターでなければならない。
3つ目は密室。
博士の死んでいた石室には外開きの扉が設置されています。あれには取っ手がないため、完全に締め切ると内側から押すか、破壊することでしか開くことができません。犯人は扉を閉じることが可能な人間でなくてはならない」
そこまで云うとアイディンはささやかに微笑んだ。
「お判りいただけましたか。今ある情報で推理すると犯人が人間でもモンスターでも当てはまらない。
どちらが正しいかを議論したとしても、事件の謎が完全に解けることはありません」
「それじゃあ……八方ふさがりですね」
エーレンフリートがうつむいて云った。
十数分後、生存者はパラヘルメースの大部屋に集まった。
しばらく誰も口を開けなかった。あるものはふさぎ込み、あるものを周囲へ疑いの目を向けた。
「これってどういうことになるの」
ロミーは指を絡ませると皆に向けて云った。
「どうって…あのじじいが死んだんだよ。おめぇも見たろ」
ラルフは足を組んだ。
「そういうことを云ってるんじゃない。どうして黒獣病で死んでるのかって聞いてるの」
黒獣病。その名を知らない人はいないであろう忌々しい病。主にモンスターに媒介し、傷口から侵入して体中の細胞を内側から破壊する。罹患すると死体が真っ黒に内出血して死ぬことからその名がつけられた。150年前のモンスター襲来によって多くの人や生き物が命を落としたが、そのほとんどが黒獣病によるものと云われている。
「そりゃあモンスターにやられたんだろ」
「なんでモンスターがいるの、どこに潜んでいたっていうの」
ロミーは反駁した。首元に脂汗がうき、忙しなく見を揺すっている。冷静なときの彼女とは大違いだ。
「落ち着いてください。多分クロウル・ドラゴンに襲われた時点で感染していたんですよ。それがなんらかの出血を伴って死に至った、そう考えられませんか」
フランチェスコは彼女の気が立たないように云った。
「それはありえないな。あんたの推理は絶対にありえない」
パラヘルメースは無情にもフランチェスコの説を打ち砕く。
「時間のつじつまが合わないだろう。あの死体は内出血がまだら状に浮き上がっていた。黒獣病の初期症状だな。この症状が出始めるのは生きている者で大体10時間。10時間前は昨夜22時、既にクロウル・ドラゴンから逃げきっている」
「ちょっと待って、『生きている者で』ってどういう意味かしら。まるで他の場合もあるみたい」
ベアトリーチェがつぶさに質問した。
「それはもちろん死んでいる場合もありますから。肉体が死んでいると免疫が働かず、3時間で初期症状が現れます。これは最低の数字ですからこれより長い場合もあります。まあ死亡推定時刻は5時前後といったところでしょうか」
「……5時くらいというと、ちょうどラルフが見張りをやっていた時間に当たるな」
リュディガーは指を折って時間を数えた。皆の視線がラルフに集中する。
「え、いやいやちょっと待ってくれ。俺が見張ってた時はなんもなかったぜ」
ラルフは自分の胸の前で手を振った。
リュディガーは指を鳴らした。
「ラルフが何も見なかったいう事は、階上からモンスターが侵入したという線はないな。となると残るは、モンスターが地下に潜んでいたか、それか壺に入れたクロウル・ドラゴンが息を吹き返したとか」
「それこそあり得ない。あの部屋の扉は閉め切られていた。この世のどこに扉を開け閉めするモンスターがいるというんだ。犯人は間違いなくこの中にいる人間だ」
パラヘルメースは真剣な声色で言い放った。はっきりと、この中に犯人がいると。
「本当にそうでしょうか」
アイディンはあごに手を当てて無精ひげをさすった。
「…まさか、扉を閉めるほど利口なモンスターが存在するとおっしゃりたいのですか」
「そうではありませんよ。パラヘルメースくん、私は結論を出すには早すぎると思うだけです。君の意見は納得に値しますが、すべての謎が解けるわけではない。
まずは謎を整理しましょうか。博士を夜の間に殺すには3つの障害が発生します。
1つは見張りの目。
博士の死亡推定時刻はおそらく午前5時。その時間はラルフ君が見張りを行っていました。彼が何も見なかったということは、わたしたちの中にその時間に第8階層から下に降りた者はいなかったということになります。
2つ目は黒獣病の症状。
博士はモンスターが媒介となる黒獣病を発症していました。感染したのは今から3時間前。死亡した後か、死亡と同じタイミングであると云っていいでしょう。そうなると博士を殺したのはモンスターでなければならない。
3つ目は密室。
博士の死んでいた石室には外開きの扉が設置されています。あれには取っ手がないため、完全に締め切ると内側から押すか、破壊することでしか開くことができません。犯人は扉を閉じることが可能な人間でなくてはならない」
そこまで云うとアイディンはささやかに微笑んだ。
「お判りいただけましたか。今ある情報で推理すると犯人が人間でもモンスターでも当てはまらない。
どちらが正しいかを議論したとしても、事件の謎が完全に解けることはありません」
「それじゃあ……八方ふさがりですね」
エーレンフリートがうつむいて云った。
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