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第一章 狙われた少年
keep going the time
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両親が不慮の事故により他界し、少年がこの養護施設に来たのは、十年前の季節は年の瀬がせまる12月の寒い冬、少年がまだ六歳になったばかりの頃だった。ひときわ綺麗な主立ちをした少年は早くに両親を亡くしたせいか、誰とも口を聞かず、心を閉ざしたように施設に立つ大きな木の下に座り込み1人で本を読んだり、部屋の机に向かい窓の外をぼんやりと眺めてすごしていた。その目は何処か遠くを見るような、心がここにないような、そんな掴みどころのない孤独を周りの子供たちも感じ取り、その少年に話かけるものは誰一人として居なかった。周りの子供たちはまだ幼いうちに新しい家族の元へと送り出されていくのだが、誰とも馴れ合う事のない少年は引き取る者もおらず去って行く同年代の子供達の背中をただ黙って見送るのだった。しかしそんな少年にも転機が訪れた。少年がこの施設に来てから丁度10年が経とうとしていたある冬の事、1人の男が彼を引き取りたいと施設を尋ねてきたのだ。キリッとした顔立ちで高級感のあるスーツを着こなし笑み1つ見せないその男は海堂アギトと名乗った。20代後半といったくらいの若い青年の様にも見えるのだが、アギトの落ち着いた振る舞いはもっと大人の紳士にも見える。
「この施設に神坂蓮という少年がいるとある知人に聞き今日は参ったのですが、勿論神坂蓮を私が引き取りたいと思っているのです。宜しいか?」
園長はアギトのいきなりな申し出に目を丸くして驚いている。それもそのはずでこの施設の子供はたいていが幼い年頃に引き取られていく事が当たり前のようになっているからだ。引取る側も子供が出来なかった夫婦が養子にと子供達を迎えるのだ。園長はその堂々たる態度に気後れしながらもアギトに答えた。「おりますが身内の方ではないのですよね?」
するとアギトは変わらない表情と物静かな口調でこう言い返した。
「勿論身内ではありません、ですがどうしても彼を引き取りたいのです。私には歳の離れた弟がおりまして…3ヶ月前に事故で亡くしてしまったのです。蓮君は弟より少し若いが近い歳でもあります。ゆくゆくは弟にも私の事業を手伝って貰いたいとおもっていたのですが…」
「そう…ですか…それは…」
園長が話す間もなくアギトは話を続けた。
「そこでこの養護施設にもうすぐ十六歳になる神坂蓮という少年が居ると知人に聞いてその子を私の養子に迎えようと思いここに参ったのです。私が引き取り手では何か問題が?」
園長はその変わらない表情の男に冷たい空気を感じながらも蓮の部屋へとアギトを案内する事にした。そうせざる終えない感じを受けていたのだ。
蓮は相変わらず机に向かい本を読むでもなく窓の外をただぼんやりと眺めていた。
「蓮君ちょっといいかしら?」
園長のドアをノックする音にやっと反応した蓮は
「どうぞ」
と、か細い声で返事をすると椅子から立ち上がりドアをそっと開けた。
「今日は蓮君に合わせたい人がいるの…急なお話なんだけれど、この方が貴方を養子に迎えたいとおっしゃっていてね…」
蓮は自分より遥かに背の高いアギトの顔を少し上目使いに恐る恐る見ると、アギトは初めて微笑んで見せた。
「はじめまして、君が蓮だね?私の家族になってくれるかい?私の息子というより弟としてでいいんだよ、君ももうすぐ十六歳だね?そろそろ本当の家族が側に居たほうがいいんじゃないかな、高校生になるのだから」
蓮はアギトから目を離せずにいた。少しの沈黙の後蓮は静かな口調でこう答えた。
「僕でいいのですか…?」
小さく弱々しい蓮の声をアギトは聞き逃す事は無かった。
「勿論だ!君に家族になって欲しい」
アギトはそう言うと蓮の手を握りしめた。蓮はアギトのひどく冷たい手に違和感を感じながらもアギトの家族になる事を決意するのだった。
海堂アギトが蓮に会いに来てから1ヶ月が経った。蓮がアギトの養子になる為の準備が整い遂に今日養子施設を出て行く日が来たのだ。十年という長い月日を養護施設で過ごしてきた蓮は外での暮らしというものを全く理解していなかった。友人と呼べる人間もいない蓮にはこの日を喜んでくれる者など居なかった。唯一園長だけは蓮の旅立ちを喜んでいる。だが園長は手放しで喜んでいる訳ではないようだ。あのアギトという男の冷たい表情が頭から離れないのだ。何か胸騒ぎがしながらも今この子を引き止めてしまってはと、蓮の幸せを心の中で祈りながら蓮の背中を押すのだった。園長は蓮を自分の腕の中に引き寄せ、優しく言葉をかけた。
「幸せになりなさい…」
園長は涙を流し蓮を強く抱きしめた。蓮は素直に園長に甘えるように腕の中で頷いた。
「さあ、車に乗りなさい」
黒いベンツの後部座席のドアが運転手らしき黒服の男によって開けられ誘導された。アギトは蓮の横に座り微笑んでいる。一方蓮はまだ緊張した面持ちで目を少しそらしたまま黙りこんでいる。
「さあ、着いたよ、ここが今日から君の新しい家だよ」
大きな屋敷へ辿り着くまで何分かかるのかと思わせるほどの広大な庭は毎日庭師が手入れをしているのだろう綺麗に整っている。噴水や不気味な銅像を抜けやっと屋敷の前に立った蓮は、目を見開いたまま、瞬きをするのを忘れて立ちすくんでいた。その様子を見るとアギトは蓮の手を取り屋敷の中を案内し始めた。
「ここが蓮、君の部屋だよ、これからは家族としてここで暮らすんだ、私の事はアギトと呼んでくれたらいい、兄さんなんて呼べないだろ?いきなりすぎるからね」
そう言うと又蓮に優しく微笑むのだった。
「夕食まではまだ時間があるから部屋でくつろぐといい、荷物は執事が後で片付けてくれるから、そのままにしてゆっくりしてなさい」
そう言い残すとアギトは執事に用事を言い付け部屋を出て行った。
蓮は「は~っ」と長い溜め息をつくとベッドに崩れ落ちるように倒れこんだ。
どれくらい眠ったのだろうか、カーテンから射し込む太陽の光もなくなり、部屋の中にはほんのりと月明かりがさしていた。
「いつの間にか眠ってしまっていたんだ」
蓮はカーテンを少しめくり外の様子をうかがった。窓の向こうはまるで今までの世界とは全く違った景色が広がっており、暗闇に立つ銅像が月明かりでぼんやりと浮かび上がり昼間とは又違う顔を見せ、それが余計に不気味さを増すのだった。
「トントン」
蓮が起きたのを見計らったようにドアをノックする音が響いた。アギトが蓮を夕食に誘いに来たのだ。
「蓮、入るよ」
カチャリとドアを開け蓮の側へアギトが近づいてきた。蓮は思わず後ずさりしてしまうのだがアギトは蓮の手を取り自分の方へと引き寄せた
「あ、あの…」
いきなりなアギトの行動に蓮は思わず小さな抵抗を見せるのだった。
「あー、すまなかった、蓮が逃げるものだから遂ね」
悪びれる様子もなくアギトは蓮の手をそっと離した。
「よく休めたかい?お腹すいただろ?ここのコックは料理がとても上手でね、きっと蓮も気に入ると思うよ、さあ、行こうか」
そう言うと一階の大広間の大きなテーブルに蓮を連れて行くのだった。見たことのない豪華な料理の数々が並んでいる。これを2人だけで食べるのか?と、そんな事を考えながら使ったことのないフォークやナイフを不慣れな手付きで使いながら何とか夕食をのりきった。
「蓮、お腹は満たされたかな?あまり食べなかったみたいだけど口に合わなかったかい?」
「い、いえ…そんな事はありません、とても美味しかったです!緊張してしまって上手に食べれなかっただけです!本当です…」
「やっと話をしてくれたね、蓮の声がやっとちゃんと聞けた気がするよ、もっと蓮の声が聞きたいんだが、もっと聞かせてくれるかい?」
アギトはそう言うと又蓮に微笑んで見せた。
「は、はい」
蓮は返事をすると少しぎこちなく微笑んだ。」
「蓮、執事にシャワー室に案内して貰いなさい、24時間何時でも温かいお湯に浸かる事も出来るよ、でも蓮と少し話もしたいから後で私の部屋に来てくれないか?さっき案内した部屋だよ、待ってるから必ず来てくれるね?」
アギトは蓮の頬に手を当て微笑むのだった。
蓮は思いのほか疲れ切ってしまっていた。慣れない屋敷になれない庭に慣れない景色にアギトというかなり変わった人間…大きなバスタブに浸かり溜め息をつきながら手のひらにためたお湯を顔にバシャリと押しあて気合いを入れ直しシャワー室を出た。
蓮はアギトに言われた通り部屋のドアをノックしアギトが出てくるのを待った。アギトは2回目のノックを待たずすぐにドアを開け蓮を部屋へと招き入れた。
「ようこそ、蓮」
蓮の肩を優しく抱きながらソファへと誘導するとテーブルに置かれたグラスにオレンジジュースを入れ蓮に手渡した。
「喉渇いただろ?飲みなさい」
「有難う御座います」
蓮は一口二口ジュースを飲むとテーブルに置きアギトの顔をじっと見つめた。
「蓮…君は私の事を何か覚えてないか?」
アギトの質問の意味が蓮には全く理解出来なかった。
「覚えて?僕がアギトさんに会ったのは施設が初めてなので…」
「そうか…やはり覚えてはいないのだな…」
アギトは少し寂しげな表情を浮かべ呟いた。
「あの…僕の事知ってるんですか?父か母の知っている人…?」
「いや…君のご両親の事は知らないんだ…私がしっているのは蓮、君なんだよ」
「わけがわかりません!どうして僕を?!」
「蓮、こっちへ来てくれないか?」
アギトは戸惑う蓮の手をつかみ、自分の方へ引き寄せ、膝の上に座らせた。
「私は君の事を知っている…遠い昔から」
「あの…僕、部屋に戻ります!」
蓮の言葉をさえぎるようにアギトは蓮の唇を指でなぞり囁いた。
「今は思い出さなくていいよ」
そう言うとアギトは蓮に口づけをした。
蓮はアギトの手を振りほどこうと必死に抵抗するがアギトの力強い手になす術も無く、なされるがまま、熱いほうように答える事になってしまっていた。ソファに押し倒された蓮は涙を流し、アギトを見つめていた。アギトは悲しげな蓮の目を見て我にかえったように掴んでいた蓮の手を離し、ソファから立ち上がり背を向けた
「悪かった…蓮、もう部屋に戻ってくれ」
蓮は少しはだけたシャツを急いで整え、自分の部屋へ戻って行った。
「アギト、あんまり事を急ぐなよ」
ベランダの外から1人の男が現れた。
「レイ、覗き見とは悪趣味だな」
「覗き見とは失礼だな、お前に知らせといた方がいいと思って来てやったんだぞ」
レイはアギトにとって戦友の様な存在で、昔からアギトの事をずっと支えてきた家族のような存在でもある。
「知らせって、何だ?」
「美玲だよ、又食事も摂らずベッドでふせってる、お前が蓮に構いかきりなのが原因じゃないか?」
「美玲が?いつから食べてないんだ!?私が会いに行くよ、よく言って聞かせるから明日は食事を摂らせてくれ」
「血の儀式が蓮って子じゃなく、美玲だったらって思うよ、美玲はお前の事を真剣に…」
「レイ!それは言うな!私だって美玲は大切に思っている…でも…駄目なんだ…蓮には今度こそちゃんと伝えなければならない」
「だけどな、お前の事を覚えていないあの子に何を求める?!儀式は心がなくても出来るだろ!」
「覚えてないなら思い出させるまでだ!無理矢理にでも…」
「それは愛じゃないだろ!お前何を焦ってる、事を急ぐとあの子に嫌われるぞ!今よりもっと」
「そうだな…私もわからなくなる時がある…何故そこまで蓮を追い求めるのか…ただ償いたいだけなのかもしれないし、昔の言い訳をしたいだけなのかもしれない」
「だったら…」
「美玲の様子を見てくるよ、レイ有難う…お前が居てくれて助かるよ」
「美玲、入っていいか?」
「アギトさん!」
美玲はアギトの声を聞くとすぐドアを開けアギトに抱きついた。
「美玲又食事採ってないらしいな、レイから聞いたぞ、駄目じゃないかちゃんと食べなくては、弱ってしまうぞ」
「だって…アギトさん全然会いに来てくれないから…今日見たよ…あの子でしょ?アギトさんがずっと探してた子…綺麗な子…」
「美玲も綺麗だよ、私にとって美玲も大切な家族なんだから、あまり心配させないでくれよ」
美玲は蓮が屋敷に来る半年前にアギトによって救われ屋敷に来た最初の少年だった。血の繋がらない父親と兄に毎日のように虐待を受け、死に場所を探し夜の街をさまよっている所をアギトに拾われたのだ。アギトは美玲の体のあちらこちらに痣のようなものがあるのを見てこのまま家に帰す事が出来ず、屋敷に連れ帰ったのだ美玲は日常的に力による暴力や性的暴力までも受けていた。体の痣は全部消えるまで3ヶ月はかかった。美玲はアギトに拾われた夜から自分の命はアギトの為に使うのだと心に決めていた
アギトにもそんな美玲の健気な気持ちが伝わり美玲を大切に思う気持ちが日に日に増す自分自身の気持ちにも戸惑い始めていた。そんな矢先探し続けていた蓮が見つかり、その気持ちはより複雑なものへと変化しつつあった。
「明日も僕に会いに来てくれる?」
「ああ、勿論、会いに来るよ、だからちゃんと食べなさい。わかったね」
アギトは美玲の頬に優しくキスをした。美玲は目を閉じ唇にキスしろと言わんばかりに可愛くせがんでみせた。アギトはそんな美玲が可愛く愛おしく思え、親指でそっと唇をなぞると
「又今度な…」
と囁いて部屋を出て行った。
美玲はほっぺをプーと膨らませすねながらもアギトに指でなぞられた唇を自分の指でなぞり、顔を赤らめてベッドに潜り込んだ。
美玲の部屋を出た後、ドアの前で高鳴る鼓動をアギトは必死におさえていた。あのまま美玲を押し倒してしまいたくなる自分を必死にとめていたのだ。
「おはよう、蓮」
アギトは昨日の夜何も無かったかのように蓮に話しかけた。
「おはようごさいます…」
一方蓮は昨日の事が頭から離れず、眠れぬ夜をすごしたようだった。
「蓮、今日から君には家庭教師をつけるからしっかり勉強しなさい」
「家庭教師…?あの…学校へは…」
「学校へは行かなくてもいいんだよ、家庭教師がしっかり教えてくれるから、それから私の許可なく敷地内から出ないように」
「何故です!?」
「何故でもだ…敷地の外に出る時は私が同行する、わかったね」
アギトは昨日とは人が変わったように、厳しい口調で蓮に接していた。
「それから敷地内にあるあの建物には近づかないように、言いつけは必ず守りなさい。」
「わかりました…」
蓮は心の中で思っていた。きっと昨日の夜自分がこばんだから、腹をたててるんだと。
それからというもの、蓮は何日も何週間も屋敷の中だけで過ごしていた。息がつまりそうになるのを必死にこらえながら毎日を過ごしていたのだ。そしてある夜、又アギトに部屋へ呼ばれ重い足取りで部屋の前に立っていた。
「あの…何かご用ですか…?」
「どうだ、ここの生活に少しは慣れたか?」
蓮は暗い表情で答えた。
「はい…でも…外に出てみたいです…何故外に出てはいけないんですか?!」
「外に出たいなら出てもいい、私と一緒だが」
「何故1人で出てはいけないのですか?!」」
アギトは蓮の側までくると又蓮の手首を掴もうと手を伸ばした。蓮はとっさに後ずさりした。
「これが答えだよ、君は私がコワイのだろ?君を1人外に出したら君はもうここに戻って来ないからね…だから1人では出さない!」
「だって…あんな事するから…」
「あんな事?」
アギトは蓮の手首を掴みそのままベッドへと引っ張って行った。
「あんな事って、こういう事か?!」
アギトは蓮を押さえ込み着ている服のボタンを引きちぎってしまった。
「君は私の事を全く覚えていない、それどころかおもいだそうともしない!君の記憶が戻るなら多少は荒療治になるが我慢してもらうしかないな、蓮」
「辞めてっ!嫌だっ」
蓮は力一杯抵抗するがアギトにはかなわず、あっという間に服を脱がされ白い肌があらわになってしまった。アギトは蓮の体を指でなぞりながら少し悲しげな表情で口づけをする。アギトは蓮のプックリとしたチクビを舌で転がしたり吸い付いたりして、蓮の顔を冷たい目で見つめる。
「嫌っ…う…ん」
アギトに体を触られる度に言葉とは裏腹な声がこぼれてしまう。アギトは蓮のズボンを脱がせおしりを指でなじませた。
「蓮、少しキツイかもしれないが、最初だけ我慢しろ、すぐに良くなる」
アギトは、硬くなった自分の股間を蓮にゆっくりと押し当てた。
「いっ…やめ…て」
アギトはそのままゆっくりと腰を動かしはじめた。
「あ…蓮…う…」
アギトの腰の動きが段々と早くなる。蓮はただ涙を流しながら何度も辞めてと懇願するのだった。
アギトは絶頂をむかえると、又蓮の体を指でなぞり始めた。蓮の肌の感触をたしかめるようにそして優しくキスをした。蓮はいつまでも止まる事のない涙をぬぐいながら、アギトの部屋を出て行った。アギトは、蓮に愛して貰えない寂しさから逃げ、美玲の健気で一途な心に惹かれ始めている事を否定する為に卑怯な手で蓮を傷つけた事を今になって後悔していた。こんな自分だから思い出して貰えない、そもそも信じて貰えなかったのだと。そして又大切な人を傷つけ失ってしまうのかもしれないのだと。
蓮は部屋に戻り、この屋敷を出て行く決心を固めていた。機会は必ず訪れる。それまでなんとしても耐えようと心に誓っていた。
蓮がアギトの屋敷に来てからもうすぐ半年になろうとしていた。蓮が屋敷を出て行くチャンスが訪れたのだ。アギトと初めて交わって以来幾度となくアギトは蓮を求め部屋を訪れていた。蓮は初めほど抵抗する事はせずアギトに求められるがまま体を許し感じている振りもしていたのだ。アギトの信用を得る為の演技だった。アギトは蓮の心を知ってか知らずか、ただ血の儀式を待っているようにも見えた。
「蓮、私は今日から1週間屋敷を留守にする、君は変わりなく勉強にはげみなさい。」
アギトはそう言い残すと旅の準備をし始めた。蓮はやっと逃げ出すチャンスが来たのだと逃げ出す方法を探り始めた。まずは見張りの人数と逃げ道のルートだ。蓮は半年の間ずっと気になっている場所があった。敷地内にある建物だ。自分のいる屋敷に比べると比較的に出入りが自由そうに見える。それに見張りのような人間も見当たらない、あくまでも遠目で見た感じでしかわからなかったが、何となく空気の重々しさがないように感じられたのだ。
「あの建物からなら出られるかも」
蓮は庭を散歩する度に何か役に立つような物は落ちていないかと役に立ちそうなものは片っ端から拾い部屋に隠していた。そしてアギトが屋敷を発つ時が来た。
「じゃあ、蓮行って来るよ」
「はい、気をつけて行って来て下さい」
蓮からの思わぬ優しい言葉に少し心をなごませたのかアギトは優しく微笑んだ。その笑顔は蓮も今まで見たことのない優しい顔だった。その笑顔がアギトの本当の素顔なのかもしれないと今から逃げ出す事を実行しようとしている自分が悪い子のような気がしてしまうほどその笑顔は今の蓮には酷だった。
第ニ章へ続く
「この施設に神坂蓮という少年がいるとある知人に聞き今日は参ったのですが、勿論神坂蓮を私が引き取りたいと思っているのです。宜しいか?」
園長はアギトのいきなりな申し出に目を丸くして驚いている。それもそのはずでこの施設の子供はたいていが幼い年頃に引き取られていく事が当たり前のようになっているからだ。引取る側も子供が出来なかった夫婦が養子にと子供達を迎えるのだ。園長はその堂々たる態度に気後れしながらもアギトに答えた。「おりますが身内の方ではないのですよね?」
するとアギトは変わらない表情と物静かな口調でこう言い返した。
「勿論身内ではありません、ですがどうしても彼を引き取りたいのです。私には歳の離れた弟がおりまして…3ヶ月前に事故で亡くしてしまったのです。蓮君は弟より少し若いが近い歳でもあります。ゆくゆくは弟にも私の事業を手伝って貰いたいとおもっていたのですが…」
「そう…ですか…それは…」
園長が話す間もなくアギトは話を続けた。
「そこでこの養護施設にもうすぐ十六歳になる神坂蓮という少年が居ると知人に聞いてその子を私の養子に迎えようと思いここに参ったのです。私が引き取り手では何か問題が?」
園長はその変わらない表情の男に冷たい空気を感じながらも蓮の部屋へとアギトを案内する事にした。そうせざる終えない感じを受けていたのだ。
蓮は相変わらず机に向かい本を読むでもなく窓の外をただぼんやりと眺めていた。
「蓮君ちょっといいかしら?」
園長のドアをノックする音にやっと反応した蓮は
「どうぞ」
と、か細い声で返事をすると椅子から立ち上がりドアをそっと開けた。
「今日は蓮君に合わせたい人がいるの…急なお話なんだけれど、この方が貴方を養子に迎えたいとおっしゃっていてね…」
蓮は自分より遥かに背の高いアギトの顔を少し上目使いに恐る恐る見ると、アギトは初めて微笑んで見せた。
「はじめまして、君が蓮だね?私の家族になってくれるかい?私の息子というより弟としてでいいんだよ、君ももうすぐ十六歳だね?そろそろ本当の家族が側に居たほうがいいんじゃないかな、高校生になるのだから」
蓮はアギトから目を離せずにいた。少しの沈黙の後蓮は静かな口調でこう答えた。
「僕でいいのですか…?」
小さく弱々しい蓮の声をアギトは聞き逃す事は無かった。
「勿論だ!君に家族になって欲しい」
アギトはそう言うと蓮の手を握りしめた。蓮はアギトのひどく冷たい手に違和感を感じながらもアギトの家族になる事を決意するのだった。
海堂アギトが蓮に会いに来てから1ヶ月が経った。蓮がアギトの養子になる為の準備が整い遂に今日養子施設を出て行く日が来たのだ。十年という長い月日を養護施設で過ごしてきた蓮は外での暮らしというものを全く理解していなかった。友人と呼べる人間もいない蓮にはこの日を喜んでくれる者など居なかった。唯一園長だけは蓮の旅立ちを喜んでいる。だが園長は手放しで喜んでいる訳ではないようだ。あのアギトという男の冷たい表情が頭から離れないのだ。何か胸騒ぎがしながらも今この子を引き止めてしまってはと、蓮の幸せを心の中で祈りながら蓮の背中を押すのだった。園長は蓮を自分の腕の中に引き寄せ、優しく言葉をかけた。
「幸せになりなさい…」
園長は涙を流し蓮を強く抱きしめた。蓮は素直に園長に甘えるように腕の中で頷いた。
「さあ、車に乗りなさい」
黒いベンツの後部座席のドアが運転手らしき黒服の男によって開けられ誘導された。アギトは蓮の横に座り微笑んでいる。一方蓮はまだ緊張した面持ちで目を少しそらしたまま黙りこんでいる。
「さあ、着いたよ、ここが今日から君の新しい家だよ」
大きな屋敷へ辿り着くまで何分かかるのかと思わせるほどの広大な庭は毎日庭師が手入れをしているのだろう綺麗に整っている。噴水や不気味な銅像を抜けやっと屋敷の前に立った蓮は、目を見開いたまま、瞬きをするのを忘れて立ちすくんでいた。その様子を見るとアギトは蓮の手を取り屋敷の中を案内し始めた。
「ここが蓮、君の部屋だよ、これからは家族としてここで暮らすんだ、私の事はアギトと呼んでくれたらいい、兄さんなんて呼べないだろ?いきなりすぎるからね」
そう言うと又蓮に優しく微笑むのだった。
「夕食まではまだ時間があるから部屋でくつろぐといい、荷物は執事が後で片付けてくれるから、そのままにしてゆっくりしてなさい」
そう言い残すとアギトは執事に用事を言い付け部屋を出て行った。
蓮は「は~っ」と長い溜め息をつくとベッドに崩れ落ちるように倒れこんだ。
どれくらい眠ったのだろうか、カーテンから射し込む太陽の光もなくなり、部屋の中にはほんのりと月明かりがさしていた。
「いつの間にか眠ってしまっていたんだ」
蓮はカーテンを少しめくり外の様子をうかがった。窓の向こうはまるで今までの世界とは全く違った景色が広がっており、暗闇に立つ銅像が月明かりでぼんやりと浮かび上がり昼間とは又違う顔を見せ、それが余計に不気味さを増すのだった。
「トントン」
蓮が起きたのを見計らったようにドアをノックする音が響いた。アギトが蓮を夕食に誘いに来たのだ。
「蓮、入るよ」
カチャリとドアを開け蓮の側へアギトが近づいてきた。蓮は思わず後ずさりしてしまうのだがアギトは蓮の手を取り自分の方へと引き寄せた
「あ、あの…」
いきなりなアギトの行動に蓮は思わず小さな抵抗を見せるのだった。
「あー、すまなかった、蓮が逃げるものだから遂ね」
悪びれる様子もなくアギトは蓮の手をそっと離した。
「よく休めたかい?お腹すいただろ?ここのコックは料理がとても上手でね、きっと蓮も気に入ると思うよ、さあ、行こうか」
そう言うと一階の大広間の大きなテーブルに蓮を連れて行くのだった。見たことのない豪華な料理の数々が並んでいる。これを2人だけで食べるのか?と、そんな事を考えながら使ったことのないフォークやナイフを不慣れな手付きで使いながら何とか夕食をのりきった。
「蓮、お腹は満たされたかな?あまり食べなかったみたいだけど口に合わなかったかい?」
「い、いえ…そんな事はありません、とても美味しかったです!緊張してしまって上手に食べれなかっただけです!本当です…」
「やっと話をしてくれたね、蓮の声がやっとちゃんと聞けた気がするよ、もっと蓮の声が聞きたいんだが、もっと聞かせてくれるかい?」
アギトはそう言うと又蓮に微笑んで見せた。
「は、はい」
蓮は返事をすると少しぎこちなく微笑んだ。」
「蓮、執事にシャワー室に案内して貰いなさい、24時間何時でも温かいお湯に浸かる事も出来るよ、でも蓮と少し話もしたいから後で私の部屋に来てくれないか?さっき案内した部屋だよ、待ってるから必ず来てくれるね?」
アギトは蓮の頬に手を当て微笑むのだった。
蓮は思いのほか疲れ切ってしまっていた。慣れない屋敷になれない庭に慣れない景色にアギトというかなり変わった人間…大きなバスタブに浸かり溜め息をつきながら手のひらにためたお湯を顔にバシャリと押しあて気合いを入れ直しシャワー室を出た。
蓮はアギトに言われた通り部屋のドアをノックしアギトが出てくるのを待った。アギトは2回目のノックを待たずすぐにドアを開け蓮を部屋へと招き入れた。
「ようこそ、蓮」
蓮の肩を優しく抱きながらソファへと誘導するとテーブルに置かれたグラスにオレンジジュースを入れ蓮に手渡した。
「喉渇いただろ?飲みなさい」
「有難う御座います」
蓮は一口二口ジュースを飲むとテーブルに置きアギトの顔をじっと見つめた。
「蓮…君は私の事を何か覚えてないか?」
アギトの質問の意味が蓮には全く理解出来なかった。
「覚えて?僕がアギトさんに会ったのは施設が初めてなので…」
「そうか…やはり覚えてはいないのだな…」
アギトは少し寂しげな表情を浮かべ呟いた。
「あの…僕の事知ってるんですか?父か母の知っている人…?」
「いや…君のご両親の事は知らないんだ…私がしっているのは蓮、君なんだよ」
「わけがわかりません!どうして僕を?!」
「蓮、こっちへ来てくれないか?」
アギトは戸惑う蓮の手をつかみ、自分の方へ引き寄せ、膝の上に座らせた。
「私は君の事を知っている…遠い昔から」
「あの…僕、部屋に戻ります!」
蓮の言葉をさえぎるようにアギトは蓮の唇を指でなぞり囁いた。
「今は思い出さなくていいよ」
そう言うとアギトは蓮に口づけをした。
蓮はアギトの手を振りほどこうと必死に抵抗するがアギトの力強い手になす術も無く、なされるがまま、熱いほうように答える事になってしまっていた。ソファに押し倒された蓮は涙を流し、アギトを見つめていた。アギトは悲しげな蓮の目を見て我にかえったように掴んでいた蓮の手を離し、ソファから立ち上がり背を向けた
「悪かった…蓮、もう部屋に戻ってくれ」
蓮は少しはだけたシャツを急いで整え、自分の部屋へ戻って行った。
「アギト、あんまり事を急ぐなよ」
ベランダの外から1人の男が現れた。
「レイ、覗き見とは悪趣味だな」
「覗き見とは失礼だな、お前に知らせといた方がいいと思って来てやったんだぞ」
レイはアギトにとって戦友の様な存在で、昔からアギトの事をずっと支えてきた家族のような存在でもある。
「知らせって、何だ?」
「美玲だよ、又食事も摂らずベッドでふせってる、お前が蓮に構いかきりなのが原因じゃないか?」
「美玲が?いつから食べてないんだ!?私が会いに行くよ、よく言って聞かせるから明日は食事を摂らせてくれ」
「血の儀式が蓮って子じゃなく、美玲だったらって思うよ、美玲はお前の事を真剣に…」
「レイ!それは言うな!私だって美玲は大切に思っている…でも…駄目なんだ…蓮には今度こそちゃんと伝えなければならない」
「だけどな、お前の事を覚えていないあの子に何を求める?!儀式は心がなくても出来るだろ!」
「覚えてないなら思い出させるまでだ!無理矢理にでも…」
「それは愛じゃないだろ!お前何を焦ってる、事を急ぐとあの子に嫌われるぞ!今よりもっと」
「そうだな…私もわからなくなる時がある…何故そこまで蓮を追い求めるのか…ただ償いたいだけなのかもしれないし、昔の言い訳をしたいだけなのかもしれない」
「だったら…」
「美玲の様子を見てくるよ、レイ有難う…お前が居てくれて助かるよ」
「美玲、入っていいか?」
「アギトさん!」
美玲はアギトの声を聞くとすぐドアを開けアギトに抱きついた。
「美玲又食事採ってないらしいな、レイから聞いたぞ、駄目じゃないかちゃんと食べなくては、弱ってしまうぞ」
「だって…アギトさん全然会いに来てくれないから…今日見たよ…あの子でしょ?アギトさんがずっと探してた子…綺麗な子…」
「美玲も綺麗だよ、私にとって美玲も大切な家族なんだから、あまり心配させないでくれよ」
美玲は蓮が屋敷に来る半年前にアギトによって救われ屋敷に来た最初の少年だった。血の繋がらない父親と兄に毎日のように虐待を受け、死に場所を探し夜の街をさまよっている所をアギトに拾われたのだ。アギトは美玲の体のあちらこちらに痣のようなものがあるのを見てこのまま家に帰す事が出来ず、屋敷に連れ帰ったのだ美玲は日常的に力による暴力や性的暴力までも受けていた。体の痣は全部消えるまで3ヶ月はかかった。美玲はアギトに拾われた夜から自分の命はアギトの為に使うのだと心に決めていた
アギトにもそんな美玲の健気な気持ちが伝わり美玲を大切に思う気持ちが日に日に増す自分自身の気持ちにも戸惑い始めていた。そんな矢先探し続けていた蓮が見つかり、その気持ちはより複雑なものへと変化しつつあった。
「明日も僕に会いに来てくれる?」
「ああ、勿論、会いに来るよ、だからちゃんと食べなさい。わかったね」
アギトは美玲の頬に優しくキスをした。美玲は目を閉じ唇にキスしろと言わんばかりに可愛くせがんでみせた。アギトはそんな美玲が可愛く愛おしく思え、親指でそっと唇をなぞると
「又今度な…」
と囁いて部屋を出て行った。
美玲はほっぺをプーと膨らませすねながらもアギトに指でなぞられた唇を自分の指でなぞり、顔を赤らめてベッドに潜り込んだ。
美玲の部屋を出た後、ドアの前で高鳴る鼓動をアギトは必死におさえていた。あのまま美玲を押し倒してしまいたくなる自分を必死にとめていたのだ。
「おはよう、蓮」
アギトは昨日の夜何も無かったかのように蓮に話しかけた。
「おはようごさいます…」
一方蓮は昨日の事が頭から離れず、眠れぬ夜をすごしたようだった。
「蓮、今日から君には家庭教師をつけるからしっかり勉強しなさい」
「家庭教師…?あの…学校へは…」
「学校へは行かなくてもいいんだよ、家庭教師がしっかり教えてくれるから、それから私の許可なく敷地内から出ないように」
「何故です!?」
「何故でもだ…敷地の外に出る時は私が同行する、わかったね」
アギトは昨日とは人が変わったように、厳しい口調で蓮に接していた。
「それから敷地内にあるあの建物には近づかないように、言いつけは必ず守りなさい。」
「わかりました…」
蓮は心の中で思っていた。きっと昨日の夜自分がこばんだから、腹をたててるんだと。
それからというもの、蓮は何日も何週間も屋敷の中だけで過ごしていた。息がつまりそうになるのを必死にこらえながら毎日を過ごしていたのだ。そしてある夜、又アギトに部屋へ呼ばれ重い足取りで部屋の前に立っていた。
「あの…何かご用ですか…?」
「どうだ、ここの生活に少しは慣れたか?」
蓮は暗い表情で答えた。
「はい…でも…外に出てみたいです…何故外に出てはいけないんですか?!」
「外に出たいなら出てもいい、私と一緒だが」
「何故1人で出てはいけないのですか?!」」
アギトは蓮の側までくると又蓮の手首を掴もうと手を伸ばした。蓮はとっさに後ずさりした。
「これが答えだよ、君は私がコワイのだろ?君を1人外に出したら君はもうここに戻って来ないからね…だから1人では出さない!」
「だって…あんな事するから…」
「あんな事?」
アギトは蓮の手首を掴みそのままベッドへと引っ張って行った。
「あんな事って、こういう事か?!」
アギトは蓮を押さえ込み着ている服のボタンを引きちぎってしまった。
「君は私の事を全く覚えていない、それどころかおもいだそうともしない!君の記憶が戻るなら多少は荒療治になるが我慢してもらうしかないな、蓮」
「辞めてっ!嫌だっ」
蓮は力一杯抵抗するがアギトにはかなわず、あっという間に服を脱がされ白い肌があらわになってしまった。アギトは蓮の体を指でなぞりながら少し悲しげな表情で口づけをする。アギトは蓮のプックリとしたチクビを舌で転がしたり吸い付いたりして、蓮の顔を冷たい目で見つめる。
「嫌っ…う…ん」
アギトに体を触られる度に言葉とは裏腹な声がこぼれてしまう。アギトは蓮のズボンを脱がせおしりを指でなじませた。
「蓮、少しキツイかもしれないが、最初だけ我慢しろ、すぐに良くなる」
アギトは、硬くなった自分の股間を蓮にゆっくりと押し当てた。
「いっ…やめ…て」
アギトはそのままゆっくりと腰を動かしはじめた。
「あ…蓮…う…」
アギトの腰の動きが段々と早くなる。蓮はただ涙を流しながら何度も辞めてと懇願するのだった。
アギトは絶頂をむかえると、又蓮の体を指でなぞり始めた。蓮の肌の感触をたしかめるようにそして優しくキスをした。蓮はいつまでも止まる事のない涙をぬぐいながら、アギトの部屋を出て行った。アギトは、蓮に愛して貰えない寂しさから逃げ、美玲の健気で一途な心に惹かれ始めている事を否定する為に卑怯な手で蓮を傷つけた事を今になって後悔していた。こんな自分だから思い出して貰えない、そもそも信じて貰えなかったのだと。そして又大切な人を傷つけ失ってしまうのかもしれないのだと。
蓮は部屋に戻り、この屋敷を出て行く決心を固めていた。機会は必ず訪れる。それまでなんとしても耐えようと心に誓っていた。
蓮がアギトの屋敷に来てからもうすぐ半年になろうとしていた。蓮が屋敷を出て行くチャンスが訪れたのだ。アギトと初めて交わって以来幾度となくアギトは蓮を求め部屋を訪れていた。蓮は初めほど抵抗する事はせずアギトに求められるがまま体を許し感じている振りもしていたのだ。アギトの信用を得る為の演技だった。アギトは蓮の心を知ってか知らずか、ただ血の儀式を待っているようにも見えた。
「蓮、私は今日から1週間屋敷を留守にする、君は変わりなく勉強にはげみなさい。」
アギトはそう言い残すと旅の準備をし始めた。蓮はやっと逃げ出すチャンスが来たのだと逃げ出す方法を探り始めた。まずは見張りの人数と逃げ道のルートだ。蓮は半年の間ずっと気になっている場所があった。敷地内にある建物だ。自分のいる屋敷に比べると比較的に出入りが自由そうに見える。それに見張りのような人間も見当たらない、あくまでも遠目で見た感じでしかわからなかったが、何となく空気の重々しさがないように感じられたのだ。
「あの建物からなら出られるかも」
蓮は庭を散歩する度に何か役に立つような物は落ちていないかと役に立ちそうなものは片っ端から拾い部屋に隠していた。そしてアギトが屋敷を発つ時が来た。
「じゃあ、蓮行って来るよ」
「はい、気をつけて行って来て下さい」
蓮からの思わぬ優しい言葉に少し心をなごませたのかアギトは優しく微笑んだ。その笑顔は蓮も今まで見たことのない優しい顔だった。その笑顔がアギトの本当の素顔なのかもしれないと今から逃げ出す事を実行しようとしている自分が悪い子のような気がしてしまうほどその笑顔は今の蓮には酷だった。
第ニ章へ続く
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