明晰夢〜めいせきむ〜

夏目すず子

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第五章 最後の願い

明晰夢〜めいせきむ〜

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どれくらい時が経っただろうか…僕はまだこの神社の神様として奉られている。でもあの人の子がいた時代とは少し変わってきている。時代のせいだろうか?又人と人との争いが始まりかけている。それはこの星を汚し人の心まで汚してしまっているように見える。この神社に来る人の子もめっきりと少なくなった。人が集い色々な願いをしにこの神社に来る事が僕の力を強くする。でも、最近は僕の力もめっきりと弱くなり人の住む世を守る力もままならなくなっている。神に祈る人の子が少なくなってしまったのが原因だろう…僕はやがて力がなくなり消えてしまうだろう…消えたとき僕はどうなるのだろうか…魂というものは僕にはないのだろうか…神様なのに自分の事だけはわからない。今まで人の願いだけを聞き人の世の為に力を使ってきた。僕はあの子と会ってから欲が出てしまった。もしも僕が消えて無くなるのなら人の子として生まれ変わりあの子に会いたいと…神様らしからぬ願いだ…

「いいんじゃないですか?」
「君は…君は僕が見えるのか!?」
「見えますよ、俺は妖怪なので…元々は人間でしたが…訳あって今は妖怪です」
「そうか…人の子の姿なので遂な、人の子で僕と話ができたのはあの子だけだった」
「あの子?」
「ああ、もうあの子が居なくなってどれくらい経ったかも忘れるくらい長い時が経ってしまったらしい、僕と唯一言葉を交わし気を許した初めての人の子だった」
「人間…そうですか、貴方は神様としてここに居たようですが元々はこの神社に奉納された刀の付喪神でいらっしゃいますね」
「付喪神…そう…僕は多くの戦に使われ多くの人の命を奪ってきた、使い手が居なくなり僕はこの神社に納められ長い時を経て人の姿になったんだ」
「やはりそうだったのですね」
「君はどうして此処に?」
「俺は妖怪の世界と人間の世界の近郊を守る為にいるのです。人間世界に入り込み妖怪の住む世界に自力で帰れなくなった妖怪たちを妖怪の世界に送り帰したり、人間世界に住んでいる妖怪たちの困り事を解決したり…それが俺の仕事です、俺も一応人間としてこの世界に居るのですが貴方をお見かけしたので声をかけさせて頂きました」
「僕が困っていると…?」
「俺にはそう見えたのですが違いましたか?」
「困っていた訳ではないのだか…」
「人に生まれ変わりたいのでは?」
「それは…」
「今まで貴方は人の為に尽くしてきた。刀だった頃は人を傷付ける道具だったのに、貴方はその償いに長い時を人の為だけに力を使ってきた。だったら最後くらいは自分の為にその力を使ってみては?貴方の願いの為に!」
「僕の最後の願い…」
「そうです!神様の力が残っているうちに貴方自身の願いを叶えればいい」

僕は人の子と間違えるほどの綺麗な青年のような妖怪に聡されるまま僕の残り少なくなった力を使い天界へと昇っていった。ただ一筋の光に導かれ…
僕の意識はそこで失われ真っ白い世界に溶け込まれていった。
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