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第二章
74 -ルークside- ㉘
しおりを挟む姉さんと一緒に王都行きが決まった数日後、俺たちは早朝、王都のタウンハウスのエントランスに転移した。俺たちが来ることは先触れがしてあり、タウンハウスを管理する執事が玄関前で待ち構えていた。
本来、王の住まう王都は、警備上の理由で王都外から中へ直接転移できない。しかし、一部例外もあり、クイントス家は領地の邸からタウンハウス間の転移は許可が下りている。
俺はすぐに、ユイがいるであろう場所に向かおうとした。ユイには言っていなかったが、誕生日に贈ったイヤーカフの魔石には、保護魔法とは別に所有者の魔力をたどることができる、追跡魔法を付与している。魔法を発動させると、範囲は国内に限られるが所有者がどこにいるのか、相手の魔力ですぐに分かる。
ユイの性格上、身に着けなくなったとしても売り払うことはしないはずだ。それに、イヤーカフをユイの耳に着けたとき、所有者をイヤーカフ本体に記録したから、仮に誰かの手に渡っていたら魔力の追跡はできない。
魔法を発動させたら、意外にもこの邸と同じ西地区にいることが分かった。ユイがまだイヤーカフを着けてくれていることに、俺は喜びと安堵を覚えた。魔力の位置からして、商業街の辺りだ。
「ちょっと待て」
俺がその場を離れようとしたら、姉さんに肩を掴まれて止められた。
「今夜、私の友人が主催する夜会が開かれる。そこでお前には、私のエスコートをしてもらう」
「……聞いてないんだが?」
「今言ったからな。お前、夜会に出られるような服がないだろう?今から買い物に行くぞ。今夜の夜会分は既製品になるが、謁見や王家主催の夜会までには、我が家が後援する工房が仕立ててくれるはずだ」
そう言うと、姉さんは有無を言わせず俺を無理やり馬車に詰め込み、商業街に強制連行した。王都内では転移魔法を使うことはできるが、頻繁に訪れる場所意外は目的地までは大抵が馬車移動だ。ちょうど目的地が同じ方向だったこともあり、俺は強く抵抗しなかった。
夜会の衣装を見繕ったら、すぐに別行動を取ろう。
収穫祭が間近に迫った王都は、住民だけでなく地方や他国の人間も加わり、通りは人で溢れていた。それでも、貴族向けの店が多い通りはきれいに整備されていて、馬車が通るのに問題なかった。
俺は姉さんに強引に手を引かれ、洋服店に足を踏み入れた。採寸されたり既製品を身体に当てがわれたりと、ただ黙って立っているだけで事が進んでいった。それが終わると、次は後援する工房に向かうため、再び馬車に詰め込まれた。
平民街に近い場所にあるそうで、馬車は飲食店や雑貨店などが建ち並ぶ通りを走った。窓から外を眺めていると、行き交う人たちは平民から貴族まで様々だった。
「そういえば、この辺に気に入っている飲食店があると、エルゼが言っていたな」
姉さんの言葉を右から左に聞き流し、移り変わる風景をぼんやりと眺めていた。すると、目的地への道の途中、一時的に平民街に入り、中央に噴水がある広場のそばを通った。この辺りは人通りが特に多いらしく、人にぶつからないように馬車は減速して進んだ。
広場には多くの平民の姿があり、子ども連れやカップルが思い思いに過ごしている。特に噴水周りは子どもが遊ぶ姿が多くみられ、そのそばには親らしき人が寄り添っている。そんな微笑ましい風景を見て和んでいると、俺はある人に目が釘付けになった。長く艶のある黒髪に、すらりとした線の細い身体。遠目で見ても艶やかな雰囲気を纏うその人は、榛色の髪をした小さな子と、手を繋いで歩いている。
「止めてくれ!」
減速して動いていた馬車は、俺の一言ですぐに止まった。御者が動くよりも早く、俺は馬車のドアを開け、外へ飛び出した。胸のざわつきを抑えながら、気付かれないようにその人の顔が見える位置まで移動した。
その人はさっきまで歩いていた子どもを抱き上げ、愛おしそうに夜明け色の瞳を細めている。
───ユイ。
ユイのそばに、抱き上げた子どもと同じ髪色の男が近づいてきて、子どもとじゃれ合い始める。1年前より少し大人びた彼は、二人が笑い合っている姿を見て優しく微笑んでいた。その光景は、まるで……。
「あらあら、素敵なご家族ねぇ」
彼らのそばを通りかかった老婆が、俺が今一番否定したい言葉を口にした。ユイと榛色の髪の男が何か話すと、三人は噴水広場を後にして、やがて商業街の方へと姿を消した。
俺はその場から動くことができず、ただその後ろ姿を黙って見つめていた。
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