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第一章
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しおりを挟む孤児院では、朝食が終わると掃除・洗濯を分担して行う。そして、作業中に生活魔法を使うことで、魔力操作を身に着ける。ただし、魔力切れや魔法に過度に依存しないように、一部は手作業で行う。
食器を片付けると、子ども達は自分が割り振られた持ち場に向かった。
僕は司祭様と礼拝堂の掃除を割り当てられ、作業をしながら教会の仕事を教わった。仕事といっても、その内容は司祭様が不在時に訪れる人の話し相手や、週に一度行われる礼拝の日の準備といった簡単なものだ。
「教会運営は司祭である私の仕事だが、君が読み書きができるようになったら書類作成の手伝いを頼めるかな?」
「はい、もちろんです」
この世界では言葉は通じるが、使われている文字は元いた世界とは異なる。そのため、読み書きが全くできない僕は、子ども達と一緒に学習することになった。
掃除・洗濯が終わると、子ども達は1時間ほど学習時間に入る。孤児院を出た後、職に困らず身を立てられるよう、簡単な読み書きと算術を教えているそうだ。
礼拝堂の掃除と仕事の説明がひと段落したところに、女の子2人が声をかけてきた。
「あのっ、いんちょう先生が、ユイお兄ちゃんを呼んできてって……」
ちょっと恥ずかしそうに言ったのはリリィで、まだ5歳なのにしっかり者なのだそうだ。その後ろに隠れているのは3歳のアリス。リリィとは姉妹のように仲がいいと院長が紹介してくれた。
「呼びに来てくれてありがとうリリィ、アリス。じゃあ、僕をお勉強する部屋まで連れて行ってくれる?」
目線を合わせて話しかけると、リリィとアリスは満面の笑みを見せてくれた。
「うんっ、こっちだよ!」
「いこ~!」
両手を握られて引っ張っていこうとするふたりは、とても可愛らしくてほっこりした。
司祭様もそんなふたりを見て、優しく微笑んでいた。
学習室は孤児院の1階にあり、子ども達に合わせた机が向かい合わせに4つ設置されていた。一緒に勉強する8歳のライルは既に席に着いており、その傍らに座っている院長と話をしていた。
「いんちょう先生!ユイお兄ちゃんをつれてきたよ!」
「リリィ、アリス、ありがとう」
頭を撫でられて嬉しそうにしながら、ふたりはそれぞれの席に着いた。リリィはライルの隣で、アリスはリリィの向かい側だ。
「さぁ、ユイはアリスの隣にどうぞ。子どもサイズの机で使い難くてごめんなさいね」
「大丈夫です。ありがとうございます」
席に着くと、アリスがにっこり笑いかけてくれた。僕もつられて笑顔になってしまう。
「それじゃあ、早速始めましょう」
僕とアリスは文字の読み書き、リリィとライルは算術の勉強を始めた。院長は最初、僕に文字の一覧を見せながら基礎を一通り教えてくれて、あとはアリスと一緒に絵本を読むことを勧めてくれた。
「絵本は簡単な文で構成されているから、文字を初めて学ぶにはちょうどいいのよ。アリス、ユイお兄ちゃんに教えてあげて?」
「うん!」
物や動物の名前が出てくる絵本は、確かに教材として適している。それに、アリスも僕に教えることで、自分の理解をより深めることができて一石二鳥だ。
「ユイ兄ちゃんって、字も読めないのか?」
自分の勉強に集中できないのか、ライルが少し棘のある声で話しかけてきた。
「ちょっとライルお兄ちゃん!!」
「リリィ、大丈夫だよ」
ライルの悪意を感じ取ったのか、リリィはライルを諫めようとして語気を荒げるが、僕はそれを制した。
「うん、そうなんだ。僕は読み書きができない。ライルは得意なの?」
「そうだよ!自分の名前も書けるし、看板とかに何が書いてあるのかもわかる!」
「でも、算術はにがてだよね?」
リリィがライルを揶揄うように、会話に割って入った。
「うっ、うるさい!算術はむずかしんだよ!」
「だったら、ライルも僕に字の読み書きを教えてくれる?その代わり、ライルが算術で解らないことがあったら、僕が教えてあげる」
「ユイ兄ちゃん、算術できるの?」
「うん。割と得意な方だよ」
ライルの表情が途端に明るくなった。
「しょ、しょうがねぇな!おれが兄ちゃんに字を教えてやるよ!…だから、兄ちゃんもおれに、ちゃんと教えろよ?」
「わたしもユイお兄ちゃんにおしえてあげる!」
「アリスも~!」
子どもの笑顔というのは、どうしてこんなにも気持ちを明るくしてくれるのだろう。僕にいろいろ教えようと意気込む子ども達を見て、僕と院長は笑いあった。
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