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第一章
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しおりを挟む収穫祭の準備は着々と進み、あっという間に当日となった。その日は秋晴れで、うろこ雲が浮かぶ空は高く広がっていた。
朝食を終えると、二手に分かれて行動した。司祭様とルーク、ユアンは収穫祭の会場設営に向かい、残りの者は中庭の野菜を収穫し、クッキーとパイ作りに勤しんだ。
お昼が近づくと、司祭様と一緒に礼拝の準備に入った。僕はリリィが編んでくれた髪紐で髪をまとめ、白い祭服を身に纏った。祭服はいつも着ている黒の長衣とほぼ同じデザインだが、袖や裾には金糸で蔦模様の刺繍が施されている。最後に祭祀の時に着用するストールを首に掛けて、身支度は完了だ。
「ユイお兄ちゃん、キレイ…」
準備ができた僕を見て、リリィがうっとりした表情で呟いた。アリスは言葉に出さず、こくこく頷いている。
「でも髪に花飾ったら、花嫁っぽく見えるな」
そう言ったのはライルだ。どう応えたらいいかあぐねていると、院長が声をかけてくれた。
「はいはい、みんな。礼拝堂に移動しますよ。シグルド司祭、ユイ。礼拝の進行、よろしくお願いしますね」
院長に促されて、子ども達は礼拝堂に向かった。一緒に移動するはずのルークは、みんなの隙を見て近づいてきた。
「本当の花嫁みたいで綺麗だよ?」
僕にそう一言囁いて、みんなの後を追った。何だか急に恥ずかしくなった。
礼拝堂には村の半数近くが集まり、堂内の席が埋め尽くされていた。ここに来ていない人たちは、この後の収穫祭のために村に残っているようだ。
時間になると司祭様が入堂し、開祭の言葉を述べた。<世界樹>に感謝と祈りの言葉を捧げている間、礼拝者たちも<世界樹>に祈りを捧げる。そして最後に閉祭の言葉を述べて礼拝は終了した。定期的に行われる礼拝と流れは同じだっだが、<世界樹>に捧げる言葉はいつもと違い、今日の礼拝は静粛で厳かな雰囲気になった。
僕も普段は司祭様の入堂時や閉祭の際は演奏することはないけど、今回は特別な祭祀だから緊張しながら終始演奏した。
こうして礼拝は粛々と行われ、滞りなく終えた。
礼拝堂にいた人たちが全て外に出ると、僕は演奏を止めた。ホッと息をつくと、司祭様が労ってくれた。
「お疲れ様、ユイ。今日は一段と素晴らしい演奏だったよ」
「ははっ、さすがに緊張しました。司祭様もお疲れ様でした。選曲の時も、相談に乗っていただいて助かりました」
「なに、どうってことないさ。さぁ、我々も着替えて収穫祭の準備に向かおうか」
「はい」
今日の山場を越えて肩の力が一気に抜けたが、収穫祭の本番はこれからだ。自室に戻って動きやすいズボンとスタンドカラーブラウスに着替えると、ダイニングに降りた。そこでは院長がリリィの髪を結っており、既に準備が整っていたアリスは傍らに座っている。
「ユイ、演奏お疲れ様。着替えてきたのね」
「はい。他のみんなは?」
「先に会場に向かったわ。もうすぐパイが焼けるから、それができたら私たちも向かいましょ?」
院長はリリィの髪を仕上げると、満足げに微笑んだ。左右に分けられた髪は三つ編みにされ、編み目のところどころに小さな白い花が挿されていた。アリスの髪とお揃いだ。
「さぁ、できたわ!ユイも座って?あなたも結ってあげる」
「いんちょう先生!私がやる!」
「あらそう?じゃあ、お願いねリリィ」
リリィとアリスに手を引かれて椅子に座らされると、リリィが僕の髪を解いて櫛を通し始めた。
「あのっ、僕はいい──」
「だめ!みんなおそろいにするの!」
リリィの勢いに押され、僕は成り行きに身を任せた。
リリィは器用に僕の髪を編み込み、アリスは籠に残っていた小さな白い花を差し入れた。
「よしっ、できた!キレイよ、ユイお兄ちゃん!」
「きれいきれい!」
「今日はとくべつに、ユイお兄ちゃんが好きな青のリボンもいっしょにあんでみたよ!」
手鏡で仕上がった髪を見せながら、リリィは得意げに言った。その5歳とは思えない腕前に、僕は驚いた。
「スゴイねリリィ。ありがとう。アリスも、お花ありがとうね」
「いつもユイお兄ちゃんやアリスで練習してたから!」
胸を張って言うリリィがすごく可愛い。
「ふふっ、練習相手になった甲斐があったよ」
「準備できたかしら?…あら、ユイ!とても綺麗に仕上げてもらったわね」
「はい」
「じゃあ行きましょうか。あっ、ユイ。その格好だと冷えるかもしれないから、これを羽織っていきなさい」
「ありがとうございます」
院長がチェック柄のショールを貸してくれると、僕は髪が乱れないよう注意しながらそれを羽織った。
外は朝から変わらず、蒼天が高く広がっていた。
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