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第一章
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しおりを挟む陽が傾き、西日が射しこむ時間帯になると、楽団のステージ演奏が始まった。
広場の中央がダンスフロアになり、パートナーとなった人々が音楽に合わせて楽しそうに踊っている。
陳列した料理がなくなって片づけていると、孤児院の子ども達が迎えに来てくれた。リリィとアリスに手を引かれてフロアに行こうとしたら、一緒に片付けをしていたアランが背後から声を上げた。
「ユイ!後で誘いに行くから!」
「うん!分かった!」
初めはリリィと2人で踊り、その間ユアン、ライル、アリスが3人で手を繋いで踊っていた。その次は僕とライルとアリスの3人で踊り、最後はユアンと2人で踊って子ども達とのダンスが終了した。気ままなステップを踏むダンスはとても楽しかったけど、3回ともアップテンポな曲ばかりでさすがに疲れた。
ベンチに座って、もらった飲み物を飲みながら一息ついていると、なおも踊る子ども達を見た。元気だなぁと思いながら目で追っていると、視界の端にルークとサラが踊っている姿が映った。
サラは顔を綻ばせて楽しそうに踊っている。ルークは背中をこちら側に向けていて、どんな表情をしているか分からない。
………きっと、それなりに楽しんでいるんだろう…。
視線を落として飲み物に口を付けていると、ふと足元に影が差した。
「ユイ」
顔を上げると、そこには少し顔を赤らめたアランが立っていた。持っていた樽ジョッキを僕の傍らに置くと、すっと手を差し伸べてきた。
「やっと見つけた。踊ってくれるか…?」
「…もちろん」
ちょうどスローテンポな曲になって、僕はアランの手を取り再びフロアに戻った。
アランがリードしてくれたおかげで思いのほか上手く踊れたが、距離を意識し過ぎたせいで足がもつれて、アランの胸に倒れかかってしまった。しかしアランは動じることなく、僕を抱きとめてくれた。
「ごっ、ごめん!」
急いで離れようとしたけど、アランは力を緩めてくれなかった。それどころか、少し力が入って抱きしめられるような状態になった。
「あの……っ、アラン?」
「もう少し……、このままで」
僕は動揺しながら、どうしたらいいか考えを巡らせていると、音楽がふっと止まった。どうやら1曲終わったようで、そこでようやくアランの力が緩み、身体が離れてほっとした。
でも、離れた後もアランはじっと僕を見つめて、視線を外さなかった。
何か話を切り出そうと口を開いた途端、誰かに後ろから抱き寄せられてアランとの間の距離が更に開いた。
「ユイ、次は俺と踊る番だよ?」
耳元で響いた声に冷たさを感じて、一瞬ゾクッとした。ゆっくり振り返ると、ルークが笑みを浮かべていたが、そこにはいつもの柔らかな空気はなかった。
「それじゃあ、アランさん。この後も楽しんでくださいね?」
ルークはそう告げると、アランに返事をする隙を与えないかのように、半ば強引に僕の手を引いてその場を離れた。
前にも、同じことがあった気がする……。
遠くでは、次の曲がゆったり流れている。
あのあと、ダンスフロアから離れた人気の少ない所まで足早に歩き、ルークは振り返ると僕を力いっぱい抱きしめてきた。
こんな状況なのに、案外冷静に以前のことを思い返す自分に少し驚く。
いや、あの時はこんな風に抱きしめてはいなかったか。肩に頭を乗せたくらい──。
「嘘つき」
それは虚を突いたルークの一言だった。
「距離を取るって言ったのに」
「…不可抗力だよ。アランは躓いた僕を支えただけ」
ルークの背中をポンポン叩きながら宥めるように言ったが、ルークは納得しなかった。
「でもその後もしばらく抱き合ってた」
「それは……」
あの時、どうしてアランがすぐに僕を離さなかったのかは分からない。でも、どこか思いつめた様子の彼を、突き放すこともできなかった。
「…とにかく、距離には気をつけたよ?さっきのあれは、どうしようもなかったんだ」
身体を離して俯くルークの顔を覗くが、むっとした表情でまだ納得していない様子だ。
「それより、サラはどうしたの?」
「…どうでもいい」
さすがにこの物言いにはカチンときて、つい語気を荒げてしまった。
「そんな言い方ないだろ!?せっかく人が気を利かせたのに!」
「そんなこと頼んでない!!」
売り言葉に買い言葉。そんなことは分かっていたし、ルークも言ったことを後悔したような表情を見せた。僕も昂ってしまって感情的な言葉をルークにぶつけそうになったけど、寸でのところで言葉を吞み込んだ。
今はルークと一緒にいちゃダメだ。一度離れて冷静にならなきゃ…。
「ユイ!」
ルークの呼び掛けにも振り返らず、さっき座っていたベンチに戻って、残していた樽ジョッキの中身を一気に飲み干した。
……あれ?さっき飲んでたのって、こんな味だったっけ?
飲んだ瞬間、フルーティーな香りがしたけど、後味に苦みがある。それに何だか顔や身体が熱くて心臓がドキドキしてきた…。
そこに、追いかけてきたルークが駆け寄ってきた。
「ユイ、ごめん!言い方が悪かっ──」
「どうしてルークが僕のことを怒るのっ!?」
ルークは謝ってきてくれたが、身体が熱くなって気分も昂揚していたせいか、口をつぐむことができなかった。
「……ユイ?」
「ルークだって、いつもいつも思わせぶりなことして……、肝心なことは何も言わないくせにっ!」
なぜだか、涙が滲んできた。
僕は一体何を言ってるんだろう……。自分だって、本当はルークの気持ちを分かっていて、知らないふりをしているくせに………。
はっきり拒まず、変に期待を持たせているのは、自分の方なのに………。
だんだん頭がぼおっとしてきて、瞼が重くなり開けていられなくなってきた。
意識が遠のく中、ルークの慌てたような声が聞こえた気がした。
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