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第一章
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しおりを挟む「ユイ、王都に行ってみないか?」
裏口の近くでへたり込んでいる僕を見つけた司祭様は、何も聞かずゆっくりと手を引いて、教会のダイニングまで連れてきてくれた。そして泣き続ける僕の隣で、背中を優しくさすりながら、ただ黙って寄り添ってくれた。
ようやく落ち着いてきたとき、司祭様が濡れタオルを渡してくれた。椅子にもたれかかって目元を冷やしていると、司祭様がそう提案をしてきた。
「王都……ですか?」
「ああ。前にここを出る話をしただろう?もし行き先がまだ決まっていなかったら、王都はどうかと思ってね」
察しのいい司祭様なら、もう気づいているはずだ。僕とルークの関係も、最近の僕たちの関係の変化にも。それを考慮したうえで、そう提案してくれているんだろうと、僕は感じた。
「ここに来て2年、君は村の外に出ることがなかっただろう?読み書きも出来るようになって、随分この世界にも馴染んだ。だから、ここいらで冒険してみるのもいいと思うが?」
司祭様は少しでも僕の気が晴れるようにと、明るく話してくれた。それに“冒険”という言葉を聞いて、僕もほんの少し胸がときめいた。
確かに、せっかく異世界に来たんだから、いろんな土地を見て回りたい。今ここに留まっても、気持ちが吹っ切れることはないだろう。それほどこの場所は、どこにでもルークとの思い出で溢れていた。
「…そうですね。それも、いいかもしれません」
「だろう?まぁ…、そう急ぐこともない。少し考えてみるといい」
話を終わらせると司祭様は、今夜は教会の休憩室を利用することを勧めてくれた。今の僕の状態だと子ども達も心配するし、何よりルークと顔を合わせたくない。僕は司祭様の配慮に感謝して、そのまま教会に留まった。
休憩室のベッドで横になると、目を閉じてルークの言葉と司祭様の提案を反芻した。今まで悲しみに呑まれて、いかに視野が狭くなっていたか思い知らされた。でも司祭様の言葉で、ようやくこれからのことに目を向けられる気がする。
ルークが急に変わったのには、何か理由があるはずだ。でも、さっきの言葉が全て偽りとも思えない。きっとルークは心のどこかで、僕に対する不信感を拭いきれていなかったんだろう。そして今日、はっきりと訣別の言葉を向けられた。
だったら、僕にできることは──。
考えを巡らせて、僕はひとつの答えを出した。
僕がそばにいると、ルークはきっと幸せになれない。どんなに過去の想い人を忘れなくていいと言っていても、心の奥底では苦しかったはずだ。それに、ルークは成人を迎えたらサラと結婚すると言っていた。その方が、僕と一緒にいるより幸せかもしれない。
でも、ふたりの結婚を祝福できるほど、僕の心は広くない。
……一日あれば十分だ。急で申し訳ないけど、司祭様には、すぐにここを出ると伝えよう。でも、その前に───。
自分のこれから取るべき行動がはっきりして、少し気持ちが落ち着いてきた。なんだか、久しぶりにちゃんと眠れる気がする。そう思った途端に睡魔が襲ってきて、僕は抗うことなくそれを受け入れた。
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