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小さな出来ることから

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結局、全く身にならなかった気がする……。
闇雲に戦ったって何も培うものが無い。どうしたらいいんだろうか。
辺りはすっかり深い夜になった頃、皆はそれぞれの場所で健やかに眠っている。
そんな中俺はと言うと、小さな池の水面に自分を映し、溜息ばかりをついていた。
全然眠くない……。助けられない、そう考えれば考える程、心臓は早まり……。

「ね、眠れない、のです、か?」

そんな俺の前に木陰からヒョコッと一人の少女が現れた。
「まあ、な……。あと二日。こんな調子じゃ、って考えれば考える程さ」
「え、えっと……」
「ん?」
少女は何か言いたげだ。でも昼同様、どこか遠慮がちで言葉を拒む。
「言いたいことがあれば何でも教えて欲しいな。昼間も何か言いたげだったよね?」
「え、ええと……」
少女は考える。
「俺と一緒に来るの嫌だった?」
「い、いえ!そんな事は……、絶対に、ありえ、ません……。そうでは、なく、名前を……」
「名前?」
「は、はい」
「そう言えば自己紹介も何もしてなかったね」
少女は勇気を振り絞って聞いてくれたのだろう、心臓を抑えて動機を落ち着かせていた。
「俺はシオだよ」
「し、シオ、さん?」
「さん、は良いよ。そんな大した人じゃない」
「え?そ、そんなことは、無いと、思うんですけど……。で、では、シ、シオ?」
「うん、その方がしっくりくるな。君は」
「き、希片の、め、メアト、と呼ばれています」
希片……。
「じゃあメアト、でいい?」
「は、はい」
俺は握手をメアトに求めた。が、やはり怖いんだろうか。差し出した手に怯えながらそっと手を握った。
「と、自己紹介はここ等辺にして、昼間のあれは何だったんだ?」
「え、えっと、その……」
「ゆっくり喋りな。時間はまだあるよ」
「わ、わざわざ、私なんかに、合わせてくれるんですか?」
俺は一つ頷く。
「さ、先程の、戦いなんですけど、な、なんで、避けることを、行わなかったのですか?」
「え?そんな事無理だっただろ?」
「わ、私には、避けられるはずなのに、わざと体を傷つけてる様に、見えて……。攻撃を受けてからどうしようか、考えてるような……。そう見えました。
「え?いやいや」
俄には信じ難い。
俺は手を使って全力で否定する。しかし、メアトの目は本気だ。
「……マジで?」
「ま、マジです……。し、シオは、頭の回転が、速くて、相手の動きが、見えてる筈です。でも、体が付いていかないからって……、可能性を潰している、そんな、き、気がします」
「……」
「あ、頭の回転が速くて、予測が出来るなら……、相手の攻撃を待つ必要なんて、あり、ありません……。先に、動く、べきだと、か、考えます……」
確かに……。
「予測、か。いつも後手だったな……」
「わ、私は、シオは、凄いと、思います……。もっと、出来ると、思います」
「ありがとうな!凄いよ!!メアトがいなかったらやばかったよ」
「お、お役に立てて、良かったです。え、えへへ」
メアトは初めて俺の顔を見ながら優しく笑った。俺の心はほんわかだ。
「そ、それに」
「ん?」
「自分の、体を、犠牲に、戦っては、自分も痛いですし、私も、か、悲しいです」
「……」
うん、と俺は一つ頷く。
「……そう、そうだよな。誰かを苦しめてちゃ、駄目だよな。俺が望むのは、誰もが悲しまない事……。それが幸せな筈だ」
「わ、私の個人的、意見ですけど、ね……」

『努力の方向性を間違えるな』

また、脳裏に焼き付いた言葉がリフレインする。
……ああ、何となく分かるよ。俺の勝手な解釈だけど。
自分は自分の体を傷つけてまで何が何でも勝とうという努力をしてきた。やり方が、間違ってたんだな。
小さいことでも大きいことでも自分に出来ることをやらなきゃ……。俺の場合はなんだ。メアトが言った通りだ。
予測、頭を全力で使わないと。落ち着いて考えないと。
逆に何が駄目だ。何が得意で、何が不得意で。もっと、自分を知らないと、出来ないことに目を向けないと。自分と向き合わないとな。
努力は自分の成すもののためにやれ、か。
……勝つ可能性は一縷だ。でも一縷ある。
「メアト」
「は、はい」
「俺。頑張るわ」
「な、何か。方向性がき、決まったんですか?」
「うん、メアトのおかげでな」
「よ、良かったです」
「そういや、メアトも寝れないのか?」
「す、少し……」
「じゃあ、少しお話でもしようか」
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