「水の行方」~ 花言葉の裏側で(水シリーズ②)

小原ききょう(TOブックス大賞受賞)

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長田恭子の回想

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 その日は四年生の秋の遠足だった。
 新しい学校はまだ慣れていないけれど新しい生活の始まりだった。
 押し花はこれまでもうたくさん配った。じきにお友達がたくさんできるわ。
 花言葉を百科事典でちゃんと調べておいたから、きっと大丈夫。
 私には押し花はスミレ以外は考えられなかった。

 お弁当を食べ終わった子たちがみんな芝生の方で遊んでいる。アスレチックをしたり、バトミントンをしたりしている。
 みんな楽しそう・・私もはやく遊びたいな。
 さっきアスレチックをしようと寄っていったら「怪我をしたらだめだから、見てた方がいいよ」と言われた。他のみんなも「そうそう」と言いながら私をシートに座らせた。
 静子さんの作ってくれたお弁当を食べた後、リュックからカメラを取り出した。
 このカメラはお父さまの最後のお誕生日プレゼント。
 誰か話しかけてきたら、このカメラで撮ってあげると決めていた。
 私はカメラの使い方がわからないから、使い方を知っている子だったらいいな。
 カメラのことを教えてもらって仲良くなろう。
 みんなが遊んでいる声が青空の下に響き渡っている。
 まだ誰も私に話しかけてこない。でもきっと・・

「すごいやん、そのカメラ、ライカとちゃうんか!」
 私が持っているカメラを見てその男の子は話しかけてきた。
 女の子じゃなかった。
 私は女の子のお友達が欲しいのに。
「このカメラ、ライカって言うの?」
 私はお父さまに頂いたこのカメラの名前も知らなかった。けれど、この子は知っていた。
「なんや、知らないんか?」
 私は頷いた。
 私はあまり人としゃべったことがない。
 お父さまは昔「お友達をたくさん作りなさい」と言っていた。
 友達ができればたくさんしゃべることができる。
 そして、友達ができれば、すごく楽しい、と。
 でも、お友達はまだ一人もいない。
 近くに寄ってきて荷物を持ってくれたりする子はいたけれど。
「そのカメラの使い方、わからへんのやろ?」
「あなたは知っているの?」
 少し、腹が立った。どうして私が使い方を知らないことがわかるのだろう。
「僕のお父さんがええカメラ持ってるから、よう知ってるんや」
 いいな。この男の子もお父さんがいるんだ。たぶんお母さんも。
「ライカは初めてやけど、たぶん、わかる。ちょっと、貸して」
 男の子はカメラを少しいじった後「これでOKや」と言った。何か調節したのかしら?
「その木の下に立ってみて、撮ってあげる」
 私は言われた通りそばの木陰に立った。
「撮られる時はこうやってピースするんや」
 男の子はVサインを私に見せた。
「笑わんとあかんやん」
 笑うって、どうしたらいいの?
「こうするんや」
 私の考えていることがわかったかのように男の子は変な顔をした。
 あれって笑顔なの?
 私が笑った瞬間、男の子はシャッターを押した。
 あれ、今、私、笑っていたの?
 私は久しぶりに笑ったんだ。
 わかった・・この子はわざと変な顔をして私を笑わせてくれたんだ。

 男の子が私にカメラを返すと、別の男の子が寄ってきて男の子に耳打ちするように言った。
「おまえがしゃべってる女の子、あの有名な長田さんやぞ!」
 私は特別な子ではないの。普通の女の子よ。
「知ってるけど、思わずしゃべってもうた。だって、修二、あのカメラ、すごいんやって。ライカやぞ!」
 お父さまがプレゼントしてくれたのは、そんなにすごいカメラだったの?
 もしかしたら、この男の子と話すきっかけはお父さまがくれたものかもしれなかった。
「村上が女の子としゃべるなんて思わへんかったわ。それも長田さんと」
 村上くんっていう男の子、恥ずかしがりなんだ。
「僕もそう思った。修二、そんなことより、ライカなんて見たの初めてなんや。家に帰ったらお父さんに言わんとあかん」
 二人は言い合いながらも笑っていた。
 友達同士って、こんな二人のことをいうのかしら?
 二人を見てると何だか私も可笑しくなって笑った。
 そうだ。お友達が出来たら、あの子たちのように一緒に笑い合おう。
 きっと、すぐにできるわ。
 そしたら、そのお友達に、今、習っているピアノの曲を聴かせてあげよう。

                                  (了)
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