血を吸うかぐや姫

小原ききょう

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女友達①

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◆女友達

「話が、おかしい」僕はそう言った。
 伊澄瑠璃子は黙って僕の顔を見ている、
「お姉さんが、男の人を惹きつけなかったって、話が矛盾していないか?」
 神城も「そうよね」と言って、「何かをされたのって、お姉さんの方なんでしょ?」と指摘した。
 伊澄瑠璃子は薄らと微笑み、「私の説明不足でしたね」と言って、
「姉は、私の身代わりになったのです」と静かに答えた。
「身代わり?」僕と神城が同時に声を出した。そして、「伊澄さんじゃなくて、お姉さんが、男の人にイヤらしいことをされたの?」と神城が訊いた。
「はい」と伊澄瑠璃子は言って、
「ある男が、山の中で無理やり、その行為に及んだ・・と聞いています」
 神城の顔が「厭な話を聞いてしまった」と言う風な表情になる。
 そして、
「お姉さんは、またどうして、そんな山の中へ行ったりしたの? 連れていかれたの?」と尋ねた。
「それに、その男の人は、伊澄さんじゃなく、どうしてお姉さんの方を?」

 ・・醜い心は嫌いだ。そんな心を私は憎む。
 また、伊澄瑠璃子の心の声が聞こえてきた。声は、この部屋の中に漂っている。そんな気がする。そして、その声はさっきより大きくなっている。
 まるで、他の誰かの心と共鳴し合っているようだ。

 ずっと黙っていた君島さんが、「山の中って、汚いわ。あの屋敷といい、どうして、そんな汚い所で・・」と呟くように言った。
 伊澄瑠璃子は、そんな君島さんを無視して、
「姉は、親友だと思っていた人に裏切られたのです」
 そう淡々と言った。
 裏切り?
「えっ、どういうこと?」神城が訊く。
「噂では、その人の姉の美貌に対する妬みだとも聞きました」
 妬み?
 ずるっ、ずるっ。
 どこかを這いずるような音。畳の上、いや、違う。土の上? 何かが近づいてくるような。それともただの幻聴か?
 なんだろう。さっきからイヤな感じがする。

 君島さんが「話が見えないわ」と言い、神城も「そうね、よくわからないわね」と小さく言った。
 だが、渡辺さんは何かを知っているのか、黙って聞いている。

 伊澄瑠璃子の話によると、
 お姉さんは、中学に上がった頃、同級生、又はその周辺の女子に嫌がらせを受けていたらしい。伊澄さんに似て、姉の方も眉目秀麗だったのだろう。
 同性の美に、醜い心が覆いかぶさっていく。
 周囲の目が憧れに向いていけば問題はないのだが、淡い憧れには向かわず、彼女を見る目が嫉妬、妬みに向かい、そのまま固執していった。
 人は一度醜い心を持ってしまうと、中々その心を変えることは出来ない。
 伊澄瑠璃子はそう言った。
 そんな妬みは次第にエスカレートしていったようだ。

 同時に、伊澄瑠璃子自身には、性的な好奇の目、厭らしい願望を寄せる男たちがまとわりつくようになった。
 そして、その二つの心を利用した者がいた。
 つまり、姉妹に寄せる二種類の願望をうまく取り換えた者がいたのだ。
 
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