血を吸うかぐや姫

小原ききょう(TOブックス大賞受賞)

文字の大きさ
104 / 133

自転車の少女①

しおりを挟む
◆自転車の少女

 もう散会の時間だ。町の中を闇が押し寄せている。
 神城は、「遅くなったから急いで帰る」と言いながら、君島さんを横目で見て、
「どうせ、私がいなくなったら、屑木くんの血を吸うんでしょ」と嫌味たらしく言った。
 君島さんが「悪い?」と対抗するように言って、「何なら、神城さんも私達の仲間に入る?」と問いかけた。
「遠慮しておくわ」神城はそう言って去った。

 神城の姿が見えなくなるや否や。僕と君島さんは近くの路地裏に入り込み、互いに血を吸い合った。
 先ほど大量の血を見たせいか、体が血に飢えていた。
 それは君島さんも同じだ。
 互いに吸い合うという行為。それは血を循環させているだけのようだが、不思議と充足感がある。
 先に血を吸われている君島さんは喘ぎ声を洩らしながら、
「もうたまらないわ・・」
 何が「たまらない」のか・・訊くまでもなく僕にはわかる。
 ・・もっと血を吸いたいのだ。
 けれど、この吸い方では、それほど、体に入ってこない。入ってきても相方の君島さんに吸われる。
 まるで慰め合っている行為のようだ。互いの欲求を循環し合っている。
 その先には何もない。
 あるのは、こんな状態では収まりがつかなくなっているということだ。
 体が無意識に「あれ」を欲している。そうすれば・・
 
 その時だった。
 どんっ・・ガチャンッ!
 激しい音がした。何かと何かがぶつかり、破壊された大きな音だ。
 通りを見ると、軽自動車の前に、自転車・・そして、僕らと同年代くらいの女子高生が倒れていた。同じ高校の制服だ。知っている子かもしれない。
 急に道に飛び出してきた自転車を車が避けられなかったようだ。そのまま車は自転車に追突した格好のようだ。

「き、君っ、だっ、大丈夫か!」
 車から慌てて飛び出てきた中年男が少女に駆け寄った。悲壮な顔をしている。
 救急車を呼ばなければならない事態だ。
 男は僕達が見ているのを知っているので、まさかひき逃げというわけにもいかない。

 少女の方に目をやると、かなりの重傷に見える。
 君島さんが、息を飲むような顔で僕の腕を引き、
「屑木くん・・あ、あれ・・」と少女のある部位を指した。
 僕は仰向けに倒れている少女を見た。足がおかしな方向に曲がっている。
 それよりも異様に映ったのは、その腹部だった。
 おそらく自転車のハンドルには、それを覆うグリップが元々無かったのだろうか、
 ハンドルが少女の腹部から衣服を突き破り、飛び出していた。折れ曲がったブレーキレバーがあらぬ位置から顔を覗かせている。
 じわじわと血が少女の体に溢れ出してきた。ドクンドクンと音が聞こえるようだ。
 いかにハンドルにグリップがないとはいえ、人間の体を貫くことはない。そう思う。しかし、現に僕はそんなものを見ている。
 つまり・・少女の体が異様に柔らかいのだ。

 男もその様子を見たのか、一瞬で顔が凍りついたのがわかった。
「ああっ・・何てことだ。どうしたらいいんだ」男は誰ともなく言った。
 男は電話を取り出し、警察や、救急車の手配を始めた。
 そんな男の行動とは関係なく、
 少女は、体に突き刺さった自転車のパーツからその身を起こし、ゆらりと立ち上がった。更に血がポタポタと足元に垂れ落ちる。よく見ると、少女のふくらはぎに自転車のタイヤのスポークが刺さっている。

 男はその様子を見るなり、
「君っ、じっとしっといてくれ。今、救急車を呼んだから・・立つと傷口がひろがる・・」
 男の言葉はそこで止まった。
 少女が向かってきたからだ。

 君島さんが小さく言った。
「屑木くん・・彼女は、吸血鬼よね」
 僕は、
「ああ。それも『あれ』が体内に寄生しているタイプだ」と言った。
「あれ」が見えるわけではないが、あの様子は尋常ではない。
 この少女がいつ吸血鬼になったのか知らない。今まで何人の血を吸ったのか、それも知らない。
 だが、松村や、佐々木奈々よりはるかに時間が経過した状態だと推測される。
 まず、少女の顔・・首が曲がっている上に、あちこちが、ひび割れている。少しでも頬を突けば、その皮膚がぺろっと捲れて、落ちそうだ。
 それにさっきから一言も発していない。言語機能がないのか。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/19:『ひるさがり』の章を追加。2025/12/26の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/18:『いるみねーしょん』の章を追加。2025/12/25の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/17:『まく』の章を追加。2025/12/24の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/16:『よってくる』の章を追加。2025/12/23の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/15:『ちいさなむし』の章を追加。2025/12/22の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/14:『さむいしゃわー』の章を追加。2025/12/21の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/13:『ものおと』の章を追加。2025/12/20の朝8時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!? そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

処理中です...