血を吸うかぐや姫

小原ききょう(TOブックス大賞受賞)

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幼馴染の記憶②

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 僕は・・景子さんが好きだった。
 姉である景子さんが女性として大好きだった。
 もちろん、最初は、僕たちが姉と弟の関係だとは知らなかった。
 だが、景子さんと僕の父の様子を見て、僕は気づいた。
 父と景子さんは本当の父娘に見えた。父の景子さんに対する態度は、ただの近所の女の子に対する接し方ではなかった。父と景子さんが親子であるということは、景子さんは僕の姉なのだ。そう確信した。
 気づいた頃には、みんな、知っているということがわかった。一部の人間には周知の事実だったのだ。
 祖父母の家に行った時や、親戚の人が来た時など、そんな話題が出ることがあった。
 ずいぶん昔のことだ。
 僕のいるところで無神経な人間が話題に出したりすると、「和也のいる前でその話をするな!」そんな空気が流れた。
 つまり、僕の家や親戚中では景子さんの存在がタブー化した。
 けれど、元々、景子さんの家、小山家は屑木の家の隣だ。タブー化しようがしまいが、その存在は大きい。
 それ故、母の感情は昂ぶり、おかしな言動を繰り返すようになった。
 父の浮気相手である小山蘭子が、おかしな宗教にはまっていくようになったのもそのせいだと推測できる。
 景子さんの母、蘭子さんは、僕の父が隣にいることに耐えられなかった。
 何故、隣の家のままだったのか?
 当然、どちらかが、引っ越しをしようとしたはずだ。それは、僕の父も同じだったのかもしれない。
 それを許さなかったのが、小山家の主、つまり、蘭子さんの夫だ。
 蘭子さんの夫である小山は、景子さんが自分の娘ではないとわかった時、怒り狂った。
 だが、敢えて引っ越そうとはしなかった。
 それが、妻に対する歪んだ罰だったのではないか、と解した。
 同じように、僕の母もそうだったのかもしれない。つまり、父への当てつけだ。
 同時に、母は昔から僕に「景子さんと遊ぶな!」としきりに繰り返していた。

 だが、僕の父はそうではなかった。
 幼い頃、こっそり、この公園で僕と景子さんを引き合せていた。
 それは景子さんの妹の美也子ちゃんがいる時もあったけれど、父と僕、そして、景子さんの三人のパターンが多かった。

 僕が美也子ちゃんに抱く感情と、景子さんに抱く感情には、大きく隔たりがあった。
 妹の美也子ちゃんは、ただの近所の女の子だ。
 けれど、景子さんは、僕にとって、想い焦がれる女性。
つまり、初恋の人だった。
 その人が、姉であると知った時には、僕の感情は後戻りができないところまで来ていた。
 
 そう・・いまさら、景子さんが姉だと知っても、愛することを止めることなんてできない。
 それに、景子さんと血が繋がっているという確証がなかった。あくまでも町の噂と父や母の態度で勝手に僕が判断しているだけなのかもしれない。
 だったら、いつまでも景子さんを隣に住むお姉さんだということにしておこう。
 そして、僕は景子さんをこっそり慕う少年だ。
 それでいい。そう思うことにした。姉であることを知らなければいいことだ。
 僕は気持ちを抑えた。
 幸いなことに、そう思うことで僕を戒める人間など誰もいなかった。景子さんが僕のそんな気持ちを知っていたか、どうかはわかならい。

 だが、この幼馴染の二人だけは騙せなかったようだ。そういうことだ。
 この二人は、何度か、景子さんに会い、僕の様子や、近所の噂で知ることになったのだろう。佐々木と松村は、僕が景子さんを好きだということを気づいていた。

「それで、僕をどうする気だ?」
 僕の中に「あれ」を入れるのか? 二人のどっちが入れるんだ? 
 佐々木、それとも、男同士は考えたくはないが、松村が入れるのか?
 僕は自暴自棄になっていた。
 元々、体内に「あれ」を入れられた佐々木や松村を救うために僕は動いていた。その二人がこんな状態では心が折れてしまって当然だ。
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