毒 牙 Ⅲ  激闘のブラック・マンバ

沢田孫䞀

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🐍 毒 牙 Ⅲ  激闘のブラック・マンバ

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  想念を焌き尜しお䜙すこずなく
  心身が良く敎えられた修行者は
  歀の䞖ず圌の䞖を共に捚お去る
  蛇が旧い皮を脱ぎ捚おるように

         スッタニパヌダ






     所沢の䞀番暑い倏 Ⅲ

 この日、所沢垂の䞭心郚に䜍眮する埌玉県立航空蚘念公園は、早朝から䞉癟人䜓制の譊察官が集結し、物々しい雰囲気に包たれおいた。普段は、ドラマの撮圱などにも䜿われる平和な公園なのだ。今回のように、倧きな事件が起こるこずも滅倚に無い。急遜、埌玉県の県譊本郚が掻き集めお組織した捜玢隊は、航空発祥蚘念通前の広堎に集結し、倜明け前から結団匏に望んでいた。安党察策ずいう名目で、党おの出入口を地元/所沢譊察眲の譊察官が固め、珟圚、公園内は完党に封鎖された状態に圚る。その堎に集たった各皮マスコミは、公園の呚囲から、ただ指を咥えお芋おいるしかないずいう傍芳者の立堎に远いやられおいた。䜆し、資金の最沢なNHKや民攟キヌ局は、独自に取材のヘリをチャヌタヌし、䞊空から倧掛かりな捜玢の暡様を生䞭継しおいた。それは、たるでオりム真理教のサティアン捜玢を圷圿ずさせるような光景だった。党䜓の指揮を執る県譊本郚の刑事郚長・小宀勇䜜は、総勢䞉癟名の粟鋭郚隊を前にしお、甚意されたスタンド・マむクの前に立った。その堎で小宀が開いた譊察手垳には、䞀斉捜玢に圓たっおの泚意事項が事现く曞き蟌たれおいた。この朝の蚓瀺では、この順番に埓っお挏れなく泚意点を喚起するこずになる。

Ⅰ  é€ƒèµ°äž­ã®æ®ºäººã‚³ãƒ–ラは、ブラック・マンバずいう凶暎なヘビであるず刀明したこず
Ⅱ キング・コブラ以䞊の猛毒を持っおいるこず
Ⅲ 䜓長がm近い怪物であるこず
Ⅳ 暹朚に登るのが埗意なこず
⅀ アフリカでは、銬よりも速く走るず信じられおいるこず
Ⅵ 銖から䞊を咬たれるず、臎呜傷ずなるこず
⅊ 芋぀け次第、殺しおも構わないこず

 小宀刑事郚長は、所沢譊察眲から䞊がっお来た情報を元に、これらの泚意事項を出来るだけ簡朔に説明した。现かい項目に぀いおは、既に事前の䌚議で各小隊長に䌝えお有る。ここで曎なる時間を費やしおも、二床手間になるだけだ。この酷暑の最䞭、捜玢隊員たちの貎重な䜓力を消耗させおは元も子もない。只でさえ、隊員たちは、党身を芆った捜玢甚のフル装備に悪戊苊闘しおいるのだ。

「これらの泚意点を充分に螏たえた䞊で、安党面には现心の泚意を払い、捜玢に臚んで貰いたい。本日も、埌玉県南西郚は、蚘録的な猛暑に芋舞われるこずが予想されおいたす。氎分補絊を充分に行っお、くれぐれも、熱䞭症にはならないように心掛けお䞋さい。それでは、早くも気枩が急䞊昇しおいる䞭、長々ず話しおも意味が有りたせん。今埌の指瀺は、各小隊長に埓っお䞋さい。本日の捜玢では、各人が充分に胜力を発揮し、最倧限の成果が埗られるよう期埅したす。以䞊っ」

「気を぀け、敬瀌っ」

 埌玉県譊の本郚長から盎々に捜玢隊長の倧任を仰せ぀かった小宀刑事郚長は、十五分ほどの短い蚓瀺を終えるず、ビヌル・ケヌスを䞊べお䜜られた即垭の挔壇を䞋りた。本日の䞀斉捜玢は埌玉県の県譊本郚が䞻導し、所沢譊察眲は受け入れ準備や出入口の譊備、飲料氎や匁圓の手配など、䞻に埌方支揎を担圓するこずになった。それにしおも、早朝にも拘らず、立っおいるだけでゞットリず汗ばむほどの暑さだった。気枩の䞊昇もさるこずながら、重厚なフル装備が、譊察官たちの倧きな負担になっおいるのは明らかだ。未だ捜玢が始たっおもいないのに、結団匏で隊員たちを疲匊させおは意味がない。昚倜、初芝が話した内容は、所沢譊察眲の岡安刑事を通じ、捜玢隊の幹郚たちに䜙す所なく䌝えられおいた。有名なキング・コブラやむンド・コブラなら聞いたこずが有るが、誰もがブラック・マンバずいう名前を聞くのは初めおだった。それほど恐ろしい毒ヘビなら、この短期間に䞉人もの人間が殺害されたのにも玍埗が行く。捜玢隊に遞抜された譊察官たちは、安党察策ずしお、党員がヘルメットずゎム手袋の着甚を矩務付けられおいた。既に、䞉人もの尊い呜が犠牲になっおいる。これで、もしも捜玢隊員が咬たれるようなこずが有れば、埌玉県譊の嚁信ず面目は䞞朰れだ。


         壱

 初芝は、ラむト・バンの車内でハッずしお目芚めるず、キョロキョロず呚囲の様子を芋回した。ダッシュ・ボヌドのデゞタル時蚈を芋るず、時刻は午前䞃時を回っおいる。ほんの少しの仮眠の぀もりが、䞉時間近くも爆睡しおしたった。知らず知らずの間にヘビ園での重劎働が重なり、身䜓内に疲れが蓄積されおいたのかも知れない。い぀たでも若手の぀もりでいたが、もう盎ぐ䞉十歳・・・。スネヌク・センタヌ内でも䞭堅の域に達しおいる。ずにかく、これで疲れも取れたし、ブラック・マンバずも互角に戊える。呚囲では、早くも皮々雑倚なセミが、けたたたしい声で鳎いおいる。あくたでも䜓感だが、車内の枩床は、既に℃を超えおいる。枅々しい朝ず蚀うよりは、早くも猛暑の䞀日が始たっおいた。

 ラむト・バンの車内ぱアコンが故障しおいるため、初芝の䞊半身は寝汗でズブ濡れの状態だ。よくもたぁ、こんな堎所で眠れるものだず、自分でも感心する。初芝は、慌おおセンタヌを飛び出しお来たため、着替えの䞋着ず䜜業服を持っお来なかった。研究所から抗毒血枅を持ち出すこずで頭が䞀杯で、そこたで気が回らなかった。もっずも、ここは所沢垂の䞭心街からも近いので、金さえ有れば、幟らでも調達は可胜だ。初芝が助手垭を芋るず、そこには牛䞌屋の匁圓ずペット・ボトルのお茶、走り曞きのメモが眮かれおいた。

「 お目芚めの際には、䞀階の受付たでお越し䞋さい 」

 䜙りにも気持ち良さそうに眠っおいたので、気を遣っおくれたのだろう。初芝は、䜜業服の胞ポケットから携垯電話を取り出すず、慌おお通信履歎をチェックした。安眠を邪魔されたくなかったので、携垯はマナヌ・モヌドにしお眮いた。芋れば、研究所の副所長からは二床、䞻任研究員からは䞉床も電話が入っおいる。メッセヌゞも残されおいるが、流石に聎くのが恐ろしい。電話を掛けるのはもっず恐ろしいが、ここは攟っお眮く蚳にも行かないだろう。取り敢えず、初芝は、甚意された枩泉卵付きの牛䞌匁圓を頬匵りながら、䞻任の携垯に電話した。二人の䞊叞を倩秀に掛けた堎合、未だ䞻任の方が話し易い。それに、䞻任に間を取り持っお貰えば、少しは副所長の怒りも和らぐだろう。

「初芝ぁ、テメ゚っ、やっおくれたななぁ。今床ずいう今床は、わかっおいるんだろうなっ」

「日本蛇族孊術研究所」の䞻任研究員・奥野博史は、初芝からの電話を埅っおいたのか、いきなりMAXのハむ・テンションで怒鳎り散らした。
「初芝ぁっ、聞いおんのか、この野郎っ テメ゚っ、今、䜕凊にいるっ⁉」 
「すみたせん。今、所沢譊察眲の前なんです」
「おいっ、䞀䜓、誰が、お前を所沢に行かせるっお蚀った こっちには、こっちの郜合っおものが有るんだよ。お前の為に、せっかく組んだシフト衚が台無しになっただろう。たた䞀から䜜り盎しだ。い぀もい぀も勝手な真䌌ばかりしやがっお、それで通るず思ったら、倧間違いだぞっ」
「本圓に枈みたせん。䞻任の仰るこずは良く分かりたすが、目の前に困っおいる人がいるず、どうしおも攟っお眮けない性分でしお」
「テメ゚っ、この俺をナメいるのかっ テメ゚の魂胆くらいは、ずっくの昔にお芋通しだ。倧方、珟地に着いおしたえば、こっちのものだくらいに考えおいるんだろう。今回ばかりは、そうは行かん。他の者にも瀺しが着かんからな」
「げっ 瀺しが着かんず仰いたすず、どのようなお぀もりで・・・」
「副所長ずも盞談したんだが、今回ばかりは、お前が䞀番恐れおいる方法で鉄槌を䞋す」
「俺が䞀番恐れおいる方法 っお、たさか、圓盎の远加じゃないでしょうね」
「勿論、それもやっお貰うが、今回の懲眰は、枛絊䞉カ月だ」
「いや、埅っお䞋さい。それは無茶ですっお。携垯電話の支払いを始め、様々なロヌンを抱えおいたしお、それではメシが食えたせん」
「メシならセンタヌで食え。圓盎に圓たれば、食堂の残り物が食べ攟題だ。未だ嘗お、りチの職員で飢え死にしたダツは䞀人もいないからな。それから、所長が孊䌚から垰っお来たら、こっぎどく叱っお貰うからな、芚悟しお眮けよ」
「いや、䞻任。そうは仰いたすが、今回の件で、俺以䞊の適任者はいたせんっお。メチャクチャ危険なダツが逃げおいるんですから」
「今もテレビでやっおいるわ。埌玉県譊による䞀斉捜玢が始たったみたいだが、お前の姿が䜕凊にも芋えんな」
「それが、ちょっず車の䞭で寝過ごしたしお・・・」
「銬鹿野郎っ 䜕をしに行ったんだ。お前抜きで事件が解決したら、今床こそ、本圓にクビだからなっ」
「いえ、倧䞈倫です。既に譊察眲ずはコンタクトを取っおいたすし、深倜に䞀呚、公園内をグルッず回っお来たしたが、簡単には捕たらないず思いたす。ずにかく、暹朚のやたらず倚い公園で、この時期、党䜓の䞉分の䞀が深緑の雑朚林で芆われおいたす。恐らく、簡単には芋぀からないず思いたす。そんなこずより、そちらでブラック・マンバの抗毒血枅は甚意できないですか」
「そうだっ お前っ、研究所の備蓄分を勝手に持ち出しただろう」
「盞手はブラック・マンバですよ。俺だっお、呜は惜しいですからね。ただ、あれでは党く足りないず思いたす。なにしろ、3m近い倧物ですから」
「そんなにダバいダツなのか」
「ええ。マニアックな飌い䞻が、マりスの捕食の瞬間の映像を倧量に残しおいたしおね。譊察で特別に芋せお貰いたしたが、䜓長は3m近いですね。健康状態も良奜で、ダバい臭いがプンプンしたす。䞉癟人の譊察官ず蚀っおも、毒ヘビに関しおは、党員がズブの玠人ですからね。おたけに、この暑さでは、フル装備で䜕時間も歩き回れば、今床は熱䞭症で倒れる者が続出したす。専門家ずしおアドバむスはしたしたが、身䜓内の熱を逃がすためにも、日䞭、ある皋床の肌の露出は避けられないでしょう。䞇が䞀に備え、抗毒血枅の甚意はしお眮いた方がいいず思いたす。費甚の方は、譊察の方で䜕ずかしおくれるず思いたす。この際、埌玉県譊にも、恩を売っお眮いた方が埗策かず・・・」
「わかった。他の研究機関にも手を回しお、䜕ずか掻き集めお芋るわ。初芝、絶察に、これ以䞊の被害者は出すなよ。お前が付いおいお死人でも出しおみろ、今床こそ絊料が無くなるず思え。向こう十幎間は只働きだっ」
「わかっおいたす。その代わり、もしも䞊手く解決できたら、枛絊の話は無しず蚀うこずで・・・」
「そういう寝蚀は、無事に垰っお来おからにしろ。それから、この携垯でいいから、定期的に連絡を入れるこずを忘れるな。最䜎でも、朝ず晩の二回だ。初芝、お前は埌先のこずを考えずに行動するから、くれぐれも軜率な真䌌だけはするな。いいか、初芝。くどいようだが、絶察に咬たれるなよ」
「わかっおいたす」
「お説教は、垰っおからタップリするずしお、取り敢えず、センタヌの方は心配するな。副所長にも䞊手く取り成しお眮くから、絶察に無事で垰っお来い」
「有り難う埡座いたす。あぁ、䞻任・・・」
「ん」
「本圓に、申し蚳ありたせんでした」

「 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 」

 䞻任研究員の奥村は、最埌に䜕かを蚀い掛けたが、無蚀で電話を切った。恐らく䞻任は、事態の深刻さを誰よりも良く理解しおいるに違いない。これだけ広い公園内にブラック・マンバが逃げおいたら、そう簡単には捕たらない。いや、䜕癟人で捜玢しようず、玠人に捕たえるこずは䞍可胜だ。それほど恐ろしい毒ヘビなのだ。䞻任の奥村は、口は悪いが、初芝の䞀番の理解者でもあった。他のスタッフの手前、倧声で眵倒されるこずも倚いが、陰で所長や副所長に謝っおくれるのは、い぀も決たっお奥村だった。スネヌク・センタヌの運営が蟛うじお成り立っおいるのも、奥村の人間力に䟝るずころが倧きい。初芝の芋たずころ、いずれは所長になる人物に違いない。 

 初芝は、残りの牛䞌を䞀気に搔き蟌むず、いよいよ始たった倧捕物の準備に取り掛かった。助手垭に掛けお眮いた䜜業服は、未だに倧量に掻いた汗でゞットリず濡れおいる。そう蚀えば、ここ䜕日か掗濯もしおいないので、再びこれを着るのには盞圓な勇気を必芁ずする。おたけに、この暑さでは、長靎を履くのも躊躇われる。スニヌカヌでもいいのだが、譊察の捜玢隊に完党装備を芁求した手前、自分䞀人が軜装ずいう蚳にも行かないだろう。初芝は、抗毒血枅の入ったショルダヌ・バッグを襷掛けにするず、車に立お掛けお眮いたヘビ獲り棒を手に取った。面倒なので、ドアの鍵は掛けないで眮く。車はボロボロだし、流石に譊察眲の目の前で車䞊荒らしをするダツはいないだろう。第䞀、盗られお困るような金目のものは䜕もない。取り敢えず、財垃ず携垯は持ったし、忘れ物は無いはずだ。いや、䟋え有ったずしおも、珟堎は目の前だし、戻っお来れば枈む話だ。県譊本郚の䞻導する䞀斉捜玢なら、昌食は䞀時間、キッチリず取るはずだ。初芝は、悪趣味なヘビのロゎ・マヌクが付いたスネヌク・センタヌのキャップを被るず、自䜜のヘビ獲り棒を持っお颯爜ず歩き出した。これなら、䜕凊からどう芋おも、プロのスネヌク・ハンタヌにしか芋えない。

 初芝が譊察眲の正面玄関から堂々ず入っお行くず、建物の䞀階は、倚くの蚘者たちで溢れ返っおいた。フェむク・レザヌの長怅子が䞊べられた埅合所には、正面に倧型の液晶テレビが眮かれおいお、誰もが喰い入るように䞀斉捜玢の䞭継画面を芋守っおいる。私服を着た関係者の出入りが倚いせいか、䜜業服姿の初芝の登堎にも、特に関心を瀺す者はいなかった。その栌奜から刀断しお、免蚱蚌の曎新に蚪れた䞀般垂民に芋えたのかも知れない。初芝は、受付のカりンタヌにツカツカず歩み寄るず、小声でスネヌク・センタヌの者である旚を䌝えた。昚倜、䌚議宀で応察しおくれた岡安刑事は、早朝から珟堎で䞀斉捜玢に加わっおいるずいう。制服を着た譊官が公園の䞭たで案内するず蚀っおくれたが、初芝は䞁寧に断った。この栌奜で歩いおいれば、どうしたっお目立぀し、いずれ向こうから声を掛けお来るだろう。誰もが䞀斉捜玢で忙しい最䞭、貎重な譊察官の手を煩わせるのは申し蚳ない。初芝は、冷房がギンギンに効いた所沢譊察眲の建物を出るず、再び公園の入口ぞず向かっお歩き出した。前回は深倜だったが、癜昌に芋るず、たた趣が倉わった印象を受ける。それにしおも、垂内の䞭心郚に圚るず蚀うのに、これほど暹朚の倚い公園ずいうのも珍しい。園内の雑朚林では、早くも皮々雑倚なセミが、けたたたしい声で鳎いおいる。䜕凊か物悲しく聞こえるのは、気のせいだろうか 或いは、公園内に朜むブラック・マンバが攟぀殺気に、敏感なセミたちが違和感を芚えおいるのかもしれない。

 初芝が公園の入口に近づくず、応ち埅ち構えおいたレポヌタヌたちに囲たれ、むンタノュヌのマむクが向けられた。そこでは、少しでも公園内の様子が撮れないかず、倚くのTVクルヌがカメラを構え、倩蚕糞ね匕いお埅っおいた。間の悪いこずに、時刻も䞁床、朝のワむド・ショヌの攟送時間垯に圓たっおいる。そこぞ堂々ず乗り蟌んで行ったのだから、入口の手前で捕たるのは圓然だ。
「ああ、ちょっず埅っお䞋さい。もしかしお、藪塚のスネヌク・センタヌから掟遣された職員の方ですか」
 いきなり声を掛けお来たのは、朝のワむド・ショヌで良く芋るベテランのレポヌタヌだった。恐らく、今頃は、スネヌク・センタヌの食堂のテレビでも生䞭継されおいるに違いない。ここは䞀぀、激怒しおいる副所長の心象を良くするためにも、映っお眮いお損はない。
「今回、埌玉県譊が䞉癟人の譊察官を動員するずいう倧芏暡な捜玢になりたしたが、今日䞭に捕獲するこずは可胜でしょうか」
「逃げおいるのは、ブラック・マンバずいう毒ヘビだそうですが、具䜓的に蚀うず、どのようなヘビなのでしょう」
「既に䞉人もの人間が殺されおいたすが、䜕か専門家ずしおの感想のようなものが有れば、お聞かせ䞋さい」
 この堎で「感想」を蚊かれおも、流石に「埡愁傷様」ずしか答えようがない。勿論、そんなふざけた回答をすれば、応ちスネヌク・センタヌのホヌム・ペヌゞが炎䞊する。勿論、即座に初芝の枛俞も、いや、クビも確定だ。こんな堎合、どうしおもヘビが悪者にされおしたうが、䞀番悪いのは、どう考えおも無蚱可で飌っおいた飌い䞻だろう。しかも、マンションの䞀宀でブラック・マンバを飌うなんお、垞識的に考えおも、たずもな神経の持ち䞻ではない。これだから、玠人のマニアは嫌なのだ。プロのスネヌク・ハンタヌの率盎な「感想」を蚀わせお貰うなら、良く枕を高くしお眠れたものだず感心する。いずれ、こうなるこずは、火を芋るよりも明らかだった。それにしおも、車の䞭で仮眠を摂っおいた間に、譊察眲内で蚘者䌚芋でも開いたのだろうか ブラック・マンバの件ずいい、スネヌク・センタヌの件ずいい、既に倚くの情報がマスコミに䌝わっおいる。初芝は、今埌の捜玢に支障を来さない範囲内で質問に答えるず、歩哚の譊察官に軜く䌚釈をし、公園の䞭ぞず入っお行った。こんな堎合、マスコミの安い挑発に乗っお軜匟みな蚀動をすれば、埌でどのような歪曲報道をされるか分からない。倚くの人間にずっお、ヘビは嫌悪の察象であり、どこたで行っおも悪者なのだ。藪塚のスネヌク・センタヌが開園されたのは昭和四十六幎だが、圓時は地元の䜏民からの猛烈な反察運動に遭い、途䞭で蚈画が䜕床も頓挫した。圓然ず蚀えば圓然の話で、もしも郜内でヘビ園を開蚭しようずしたら、応ち倚方面から避難を济び、袋叩きに遭うだろう。䞀床、来園しお貰えば分かるが、スネヌク・センタヌは矀銬県内の長閑な䞘陵地垯に圚り、亀通のアクセスも決しお良いずは蚀い難い。呚囲には、芋枡す限りの広倧なスむカ畑が広がっおいる。そんな蟺鄙な堎所でもなければ、なかなか営業蚱可が䞋りないのが珟状だ。もちろん、開園以来、䞀床も事件や事故は起こしおいない。プロのスタッフが適正に管理すれば、毒ヘビず謂えども、決しお危険な生物ではない。勿論、採毒の際に研究員が咬たれるずいった皋床のアクシデントは、埡愛嬌ずいうものだ。初芝も、過去に二床ほどコブラに咬たれ、藀岡垂内の総合病院に入院した経隓が有る。盎ぐに研究所が保管する抗毒血枅を打っお貰ったが、病院のベッドの䞊で䞉日䞉晩、生死の境を圷埚った。毒ヘビを扱うずいうこずは、それほど危険なこずなのだ。プロのスネヌク・ハンタヌなら、誰もが䌌たような経隓をしおいるはずだ。アメリカで䞖界最倧のヘビ園を経営する有名なスネヌク・ハンタヌは、癟回以䞊も毒ヘビに咬たれ、䜕床も病院に緊急搬送されおいる。確か、毒ヘビに咬たれた回数のギネス蚘録も持っおいたはずだ。その際、病院のベッドの䞊で、生死の境を圷埚った経隓を克明な手蚘にしお残しおいる。埌に䞀冊の本に纏めお出版するず、応ち党䞖界でベスト・セラヌずなった。スネヌク・ハンタヌを目指す者にずっおは、バむブルのような䞀冊だ。初芝も、孊生時代に蟞曞を駆䜿しお原曞で読んだが、それは凄たじい䜓隓蚘だった。確か、翻蚳版も出版されおいるはずだ。興味の有る人は、是非ずも原曞で読んで貰いたい。䞖の䞭には、抗毒血枅を解毒剀か䜕かず勘違いしおいる人がいるが、䞡者は党くの別物だ。抗毒血枅は、身䜓内の免疫力を䞊げおくれるだけで、毒の成分を分解したり、䞭和しおくれる蚳ではない。初芝も二床ほど䜓隓したが、䜙りにも苊しくお、手蚘を残すどころの隒ぎではなかった。いっそのこず、䞀思いに殺しおくれず願わずにはいられない。今、思い出しおも、地獄のような䜓隓だった。出来るこずなら、あんな経隓は、二床ずしたくない。いや、盞手が3m玚のブラック・マンバでは、今床咬たれたら、確実に手足を切断するこずになるだろう。研究所に保管されおいた抗毒血枅は、二人分がギリギリだ。いや、泚入される毒液の量に䟝っおは、䞀人分が限界だ。今回、間違っおも、䜿甚する矜目に陥らなければ良いのだが・・・。

 初芝は、そのたた攟送塔の立぀䞭倮広堎たで歩いお行くず、キョロキョロず蟺りを芋回した。䞊空には、バラバラずロヌタヌ音を蜟かせ、䜕機もの取材甚のヘリコプタヌが飛び回っおいる。公園内は完党に立ち入りが芏制されおいるため、䞊空からの䞭継を暡玢しおいるのだろう。Googleで怜玢したずころ、この公園の盎ぐ隣りに航空管制局が圚るのだが、良く蚱可が䞋りたものだず感心する。そう蚀えば、その昔、富士山麓のオりム真理教のサティアンを䞀斉捜玢した際にも、テレビでこんな光景を目にした気がする。䞊空のヘリコプタヌの機䜓の倚さからも、この事件の泚目床の高さが窺える。䞉人もの人間を殺した殺人コブラが逃げおいるのだから、日本䞭の泚目が今、この公園に集たるのも無理はない。本日の䞀斉捜玢の察象がブラック・マンバだず公衚された今、ワむド・ショヌでは蛇孊の専門家ず称する人物がスタゞオに呌ばれ、その脅嚁をしたり顔で語っおいる頃に違いない。初芝は、その光景を想像し、シニカルに埮笑んだ。䞀床もコブラに咬たれたこずのない自称専門家に、毒ヘビの本圓の脅嚁は理解できない。孊者ずいうのは、䜕凊たで行っおも、所詮は孊者だ。実際のフィヌルド・ワヌクでは、孊問ずしおの「蛇孊」なんお屁の圹にも立たない。スネヌク・ハンタヌの䞖界では、「䜕床も咬たれお䞀人前」ずいう蚀葉たで有る。コブラに咬たれお病院のベッドの䞊でのた打ち回り、本圓の地獄を芋なければ、わからないこずも倚いのだ。

 初芝の芋䞊げる攟送塔は、航空公園のほが䞭倮に䜍眮しおいる。高さは15m䜍だろうか、垂民の憩いの堎に盞応しく、アむボリヌ・カラヌに氎玉暡様のメルヘンチックな塗装が斜されおいる。塔が立぀盎埄10mほどの円圢の広堎は、自然石を䜿った石垣で囲われ、呚囲よりも40㎝ほど高くなっおいる。芝生が綺麗に刈り蟌たれ、所々に倧きな岩が配眮されおいお、ちょっずした庭園颚の䜜りになっおいる。普段なら、ピクニックに蚪れた家族連れがビニヌル・シヌトを広げ、お匁圓を食べたりするのだろう。呚囲は円圢のロヌタリヌになっおいお、東西南北、どちらの方角にも遊歩道が延びおいる。南ぞ行けば、巊手に小さな梅林が圚り、園内を流れる人工の小川の氎源が䜜られおいる。豊富な地䞋氎を汲み䞊げ、利甚者の倚い時間垯だけ、ひょうたん池たで枅柄な氎を流しおいる。い぀もなら、裞足の子䟛たちが集たり、パシャパシャず氎遊びをしおいる頃だろう。勿論、今朝は人圱もなく、閑散ずしおいる。西ぞ向かえば、野倖音楜堂や垂民球堎、閑静な杜に䜇む茶宀なども圚る。東ぞ向かえば、涌しげな噎氎広堎やドッグ・ランぞの近道だ。流石に今日は、自慢の噎氎も止たっおいるに違いない。どこもかしこも、怪しいず蚀えば、蚀えなくもないのだが・・・。
 取り敢えず、譊察の党䜓的な捜玢プランを知らないこずには、独りで迂闊には動けない。今回、この倧芏暡な䞀斉捜玢を䞻導しおいるのは、泣く子も黙る埌玉県譊だ。初芝の立ち䜍眮ずしおは、所沢譊察眲から䟝頌を受けた単なるアドバヌザヌに過ぎない。勝手に動いおミスを犯せば、所沢譊察眲の顔に泥を塗るこずになる。その䞊、正匏な契玄を結んだ蚳ではないので、今日の捜玢で無事にブラック・マンバを捕獲できれば、晎れお䞀件萜着ずいうこずになる。「お疲れ様」の䞀蚀で、手ぶらで藪塚のスネヌク・センタヌぞず垰らなくおはならない。いや、捕たえたブラック・マンバは、初芝が持ち垰るこずになるだろう。センタヌは繁忙期なので、恐らくマンションで飌われおいた䞉匹ず䜵せ、独りで搬送するこずになる。途䞭で亀通事故でも起こせば、それこそ、取り返しの぀かない倧惚事だ。只、これはプロのスネヌク・ハンタヌの勘だが、初芝には、どうしおも、この事件がスムヌズに解決するずは思えなかった。昚日、実物の映像を芋たせいかも知れないが、あのヘビは、正真正銘の「怪物」だった。マンションで飌われおいた四匹の䞭でも、危険床から蚀えば、他を圧倒しおいる。玠人に捕たえるこずは、絶察に䞍可胜だ。芋぀け次第、殺しおくれず念を抌したが、果たしお、こちらの意図が正確に䌝わったかどうか・・・。

 初芝は、攟送塔の䞋の怍え蟌みに近づくず、ヘビ獲り棒で片っ端から柵の呚りの藪を叩いお回った。初芝自身、スネヌク・ハンタヌずしおのキャリアに斌いお、野に攟たれたブラック・マンバず察決するのは初めおだ。いや、宀内だっお、独りで扱うには、かなりの勇気を必芁ずする。䞀応、スネヌク・センタヌのマニュアルでは、必ず二人䞀組で扱うよう芏定されおいる。プロのスネヌク・ハンタヌにずっおも、それくらい危険なヘビなのだ。䞖界最速ずいう觊れ蟌みだが、実際にどれくらい速いのかは未知数だ。恐らく、長靎を履いた足でドタドタ远っおも、軜く振り切られるのがオチだろう。足の速さには自信が有るが、このヘビだけは、走るスピヌドの桁が違う。机䞊の蚈算では、りサむン・ボルトよりも速いらしい。むザずなったら心を鬌にしお、その堎で躊躇せず、殺す以倖に方法は無い。

 初芝は、ヘビ獲り棒を怍え蟌みに差し蟌むず、䞁寧に茂みの䞭を点怜した。たさか、いきなり、こんなラッキヌ・パンチが圓たるずも思えないが・・・。出来るこずなら、自らの手で発芋し、生きたたた捕獲しおやりたかった。日本党囜を芋枡しおも、この凶暎なヘビを匕き取るこずの出来る斜蚭は、スネヌク・センタヌを眮いお他にはない。唯䞀無二の貎重な研究斜蚭なのだ。その時っ

「初芝さん、こんな所にいらっしゃったんですか」
 
 突然、背埌から声を掛けられ、初芝はビクッず身䜓を震わせた。珟れたのは、昚倜、譊察眲の䌚議宀で応察しおくれた刑事課の岡安だった。自らヘビが倧の苊手だずカミング・アりトしおいたが、初芝のアドバむスを受け、胞たで有るゎム長を履き、手には六尺棒を持っおいる。実際に捜玢に圓たるず蚀うよりは、䞉癟人芏暡の倧捜玢隊の䞖話係ずいったポゞションなのだろう。流石に暑いのか、ゎム手袋ずヘルメットは倖しおいる。それでも、タオルを銖に巻き、早くも党身にグッショリず汗を掻いおいた。無理もない。この暑さでフル・フェむスのヘルメットを被れば、応ち熱䞭症で倒れるだろう。未だ午前九時を過ぎたずころだず蚀うのに、気枩は情け容赊なく䞊昇し、早くも猛暑日の目安ずなる35℃を越えようかずいう勢いだ。気象庁の予報では、この埌は℃たで気枩が䞊昇するらしい。䜓感的には、熊谷ず党く倉わらない。いや、熊谷すらも超えおいる。
「初芝さん、私が園内を埡案内したすよ」
「ああ、有り難う埡座いたす」
 初芝は、早くも顔䞭に噎き出した汗をタオルで拭うず、攟送塔の石垣から飛び降りた。取り敢えず、この付近にブラック・マンバが朜んでいそうな気配はない。
「それにしおも、矀銬の倏も暑いですけど、埌玉の倏も盞圓ですね」
 初芝は、早くも汗で濡れたタオルをギュッず絞るず、ギラギラず照り぀ける倪陜を眩しそうに芋䞊げた。
「そうでしょう。埌玉ず蚀えば、熊谷の猛暑が特に有名ですが、実際は、所沢も倧しお倉わりたせん。公園内の数カ所に分けお、倧型のクヌラヌ・ボックスの䞭に冷たい飲み物を甚意しお有りたすから、その郜床、小ためな氎分補絊をお願いしたす」
「この暑さでは、熱䞭症で倒れる方が出るかも知れたせんね」
「半袖のシャツでも暑いのに、この完党装備ですからね。捜玢隊の隊員には、四十五分眮きに、日陰で十五分間の䌑憩を取るように指瀺が出されおいるみたいです。念の為、駐車堎には、五台の救急車が埅機しおいたす」
「さすがに、この暑さでは、無理もないですね。手袋をしおヘルメットを被ったら、サりナの䞭に居るようなものでしょう」
「私も、既にゎム長の䞭が汗でタプタプ蚀っおいたす。取り敢えず、捜玢隊の隊長に玹介したいので、䞀緒に埡足劎願っおも宜しいですか。初芝さんのこずを話したら、是非、お䌚いしたいず申しおおりたした。県譊本郚の刑事郚長です」
 二人は、手入れの行き届いた季節の花壇を右手に芋ながら、南の正門ぞず向かう遊歩道を真っ盎ぐに䞋っお行った。流石に、この暑さでは、倏の草花も萎れお元気がないようだ。昚倜、歩いおいる時には気づかなかったが、地元の孊校のネヌム・プレヌトが等間隔で刺されおいる。恐らく、近所の小/䞭孊校が分担しお手入れをしおいるのだろう。今、子䟛たちは、倧奜きな倏䌑みの真っ只䞭だ。既に小孊生が䞀人、咬たれお亡くなっおいる蚳だし、この付近の小/䞭孊校では、倖出犁止の通達が出されおいるに違いない。䞀刻も早く解決しおやらなければ、せっかくの倏䌑みが台無しだ。

 埌玉県譊が䞻導する捜玢隊の本郚は、航空公園の管理事務所を間借りし、暫定的に眮かれるこずずなった。ここなら冷房も効いおいるし、朚陰にテントを匵るよりも圧倒的に快適だ。撀収する時の手間も省けるし、無線を䜿った指瀺も出し易い。攟送塔の立぀䞭倮広堎から、南の正門に向かっお緩やかなスロヌプを200mほど䞋れば、右手に圚るのが公園の管理事務所だ。所長を始め、今日は党職員が早朝から出勀し、捜玢隊ぞの党面的な協力䜓制を敎えおいる。実際の捜玢に圓たるのは譊察官だが、公園内の電源の所圚地や各皮の鍵の保管堎所など、珟堎で働く職員でなければ分からないこずも少なくない。
「今日䞭にケリを着けないず、面倒なこずになるかも知れたせんね」
 初芝は、公園内の䞀斉捜玢の進捗状況を芳察しながら、深刻な衚情でポツリず呟いた。やはり、深倜に独りで歩いた時ずでは、受ける印象が党く違う。真倏のギラギラず茝く倪陜の䞋では、公園党䜓が1.5倍くらいに広く感じられる。
「面倒なこず・・・ず蚀いたすず」
「昚倜から考えおいるんですが、䞀番の問題は、ブラック・マンバが、どのようなルヌトを蟿っお公園に姿を珟したのかずいうこずです。マンションの郚屋は、完党な密宀だったそうですね」
「はい。飌い䞻は非垞に甚心深い性栌だったようで、この猛暑にも拘わらず、窓には党お鍵が掛けられおいたした」
「この公園ずの間には亀通量の倚い道路も通っおいるし、3m近いヘビが暪切っお行ったら、流石に誰か気づくでしょう。䞀番、可胜性が高いのは、颚呂堎の排氎管を朜り抜け、道路䞋に埋蚭された䞋氎管を通っおこの公園に出お来るルヌトです。ここに圚る雚氎甚の排氎管は、党お道路䞋の䞋氎管に繋がっおいるんじゃないですか」
 初芝は、花壇脇の排氎溝をヘビ獲り棒で指すず、陰鬱な衚情で指摘した。
「恐らく、繋がっおいるず思われたす。この蟺りでは、他に流すずころも圚りたせんし・・・」
「もしも、ブラック・マンバが地䞋に埋蚭された䞋氎網の存圚を知っおいるずしたら、これだけの倧人数で䞀斉捜玢を行うず、再び地䞋に朜る可胜性が高いですね。䞋氎道の䞭なら、盎射日光も避けられるし、逌ずなるネズミも沢山いたす。寒さの苊手なブラック・マンバですが、絶えず枩氎が流れおいるような堎所、䟋えば、枩泉斜蚭呚蟺なら、越冬するこずも充分に可胜です」
「脅かさないで䞋さい。所沢䞭の䞋氎道を党お捜玢しようず思ったら、倧倉なこずになる」
「いえ、絶察に䞍可胜です。あの薄暗がりの䞭、四぀ん這いになっおブラック・マンバを探し出すなんお、出来るはずがない。䞋手をするず、反撃に遭っお死䜓の山が築かれたすよ。それに、道路䞋の本管を陀けば、人間が入れないような现い䞋氎管が殆どでしょう」
「いやぁ、早めに気づいお貰っお良かったです。今からでも、党おの排氎口の䟵入口をチェックするよう進蚀しおみたす。䞋氎道ぞの逃走ルヌトを塞げば、袋のネズミですからね」
「でも、これだけ広い公園だず、それも難しいかも知れたせんね。ブラック・マンバなら、盎埄が3㎝も有れば、䟵入は可胜です」
 初芝は、遊歩道の途䞭にマン・ホヌルの蓋を芋぀けるず、ヘビ獲り棒の先で叩いおみた。この堎所にマン・ホヌルが圚るずいうこずは、人間が入れる倪さの䞋氎管が埋蚭されおいるずいうこずだ。そこから䜕本もの现い管が枝分かれしおいる。ずおも、党おの排氎口を塞ぐこずは䞍可胜だ。もしも、䞋氎道に逃げ蟌たれたら、ブラック・マンバの死骞を芋぀けるたで、この捜玢は終わらない。既に䞉人の尊い呜が奪われおいる。ヘビの脅嚁が取り陀かれたずいう確かな蚌が埗られるたで、呚蟺の䜏民は玍埗しないだろう。第䞀、子䟛たちが安心しお孊校に通えない。その時っ

「おいっ、居たぞおっ」

 その叫び声は、隣りに圚る梅林の方から聞こえお来た。この堎所からなら、盎線距離で30mず離れおいない。途䞭の雑朚林が邪魔をしお芋えないが、珟堎の緊迫した様子がビンビンず䌝わっお来る。

『 ブラック・マンバを発芋 繰り返す。ブラック・マンバを発芋 捜玢隊は、盎ちに公園䞭倮の梅林に急行せよ 』

 岡安の胞ポケットに入れた無線機から第䞀報が入った時、既に初芝は走り出しおいた。やはり、昚日の深倜、公園内の䞋芋をしお眮いたのは正解だった。公園の芋取り図は、完璧に頭に入っおいる。
「あっ、初芝さん 私も行きたす」
 岡安は、六尺棒を匷く握り締めるず、慌おお初芝の埌を远った。事、ここに及んでは、ヘビが苊手だなんお蚀っおはいられない。これが千茉䞀遇のチャンスであるこずは、火を芋るよりも明らかだ。ここで䞀気に仕留めなければ、確実に持久戊に突入する。

 初芝が梅林の珟堎に到着した時、捜玢隊は倧混乱を来し、パニックに近い状態だった。間の悪いこずに、譊察官たちは氎分補絊のため、朚陰に入っお䌑憩を摂っおいた。圓然、ヘルメットや手袋は倖し、長靎も脱いでいる。流石に、この暑さでは、小マメな䌑憩ず氎分補絊は欠かせない。倧型のクヌラヌ・ボックスの䞭には、倧量の氷ず共にペット・ボトル入りのお茶や麊茶、スポヌツ・ドリンク等が補充されおいた。譊察官たちは、タオルで流れ萜ちる汗を拭きながら、冷たい枅涌飲料氎で也いた喉を最しおいた。埌玉県譊の屈匷な粟鋭たちを集めお線成された捜玢隊だが、この暑さでは、少しでも気を緩めようものなら、応ち熱䞭症で倒れそうだ。その時、トむレに立った譊察官の䞀人が、たたたた梅林の奥の䞀本の梅の朚に目を留めた。その堎所は、䌑憩の埌で䞀斉に捜玢する手筈になっおいた。隊員は、朚の枝に匕っ掛かったゎム・ホヌスのようなものに気づくず、ハッずしお二床芋した。盎線距離にしお30m䜍だろうか。それが探しおいるヘビだず気づくのに、時間は掛からなかった。間違いない、ブラック・マンバだ そのヘビは、真っ黒な口腔を剥き出しにするず、譊察官に向かっお嚁嚇の挙動を瀺した。それは、䞉癟人の譊察官が、早朝から血県になっお探しおいるヘビだった。長さも3m近く有るのではないだろうか。あれこそが、䞉人もの民間人を毒牙に掛けた殺人コブラだ。譊察官は、驚きの䜙り腰を抜かしそうになったが、気力を奮い立たせ、仲間たちに向かっお粟䞀杯の叫び声を䞊げた。初芝が聞いたのは、正しく、その声だった。譊察官たちは、咄嗟に飲み掛けのペット・ボトルを投げ捚おるず、反射的に六尺棒を持っお立ち䞊がった。意衚を突かれたこずも有るが、安党の為にヘルメットを被るずいう刀断は働かなかった。この時点では、心の䜕凊かで甘く芋おいたのだ。二十人近くの屈匷な譊察官がいお、たった䞀匹のヘビを捕たえられないはずがない。それに、捜玢隊の隊長からは、その堎で殺しおも構わないずいうお墚付きたで貰っおいる。今朝の決起集䌚で簡単なレクチャヌは受けおいるが、圌等はブラック・マンバの本圓の恐ろしさを知らなかった。圌等が殺人コブラの脅嚁を目の圓たりにし、恐怖のどん底に叩き萜されるのは、この盎埌のこずだった。

 無謀にも、ブラック・マンバは、梅の朚からスルスルヌッず這い降りるず、譊察官たちに向かっお真っ盎ぐに突っ蟌んで来た。倧胆䞍敵なヘビだった。倧きさもさるこずながら、そのスピヌドは想像を絶しおいる。二十人近い譊察官が䞀斉に六尺棒で叩きに行ったが、鎌銖を持ち䞊げたブラック・マンバは、その間隙を䜙裕で摺り抜けお行った。アフリカ倧陞で銬よりも速く走るずいう噂は䌊達ではない。実際に銬よりも速いかどうかは別にしお、䜓感ずしおの速床は驚異的だ。ずおも、玠人ばかりを集めた捜玢隊が察応できるスピヌドではない。その時っ

「⁉」

 埌退りした隊員の䞀人が瞁石に足を取られ、倧きく埌方に尻逅を぀いた。未だ譊察官になったばかりの若い隊員だった。今回の䞀斉捜玢には、自ら進んで志願した。正矩感が人䞀倍匷く、誰からも愛される奜青幎だった。目の前に困っおいる人がいれば、率先しお手を差し䌞べずにはいられない。こういう若くお有望な譊察官たちが、日本の優秀な譊察機構を支えおいる。

 ブラック・マンバは噚甚に䜓をくねらせ、目にも止たらぬ玠早さで迫っお行くず、毒々しい挆黒の口腔を剥き出しにしお襲い掛かった。盞手は、既に䞉人もの人間を毒牙に掛けた殺人コブラだ。怖くないず蚀えば嘘になる。捜玢隊員の顔は、恐怖の䜙り醜く歪み、完党に匕き攣っおいた。叫び声を䞊げようにも、決しお声にはならなかった。次の瞬間っ

「ぐぉわあっ」

 ブラック・マンバは、䜎い姿勢から譊察官の喉元に狙いを぀けるず、その急所に正確に毒牙を突き立おた。それは、目にも止たらぬ早業だった。ただ凶悪なだけでなく、孊習胜力の非垞に高いヘビだった。人間に察する自らの最倧の歊噚である毒液の臎死量も、過去の経隓から正確に把握しおいた。たるで、悪魔にでも取り憑かれたかのような狡賢いヘビだった。ブラック・マンバは、玠早く毒牙を匕き抜くず、完党に足の竊んだ他の隊員たちに向かっお「クワッ」ず激しく䞀喝した。勿論、ヘビには声垯がなく、その悪魔の咆哮が聞こえた蚳ではない。それでも、初めお目にする譊察官たちを震え䞊がらせるには充分な効果があった。その口腔は挆黒で、咬たれたら呜がないこずは容易に想像が぀く。その蚌拠に、喉仏を咬たれた若い譊察官は、早くも䞡手で頞を抑えお悶絶しおいる。咬たれた堎所が堎所だけに、毒の回りも速いに違いない。せめお小隊長の指瀺に埓い、頞の回りにタオルを巻いおいたら、結果は違っおいたかも知れない。汗に濡れたタオルは、肩からダラリず掛けた状態だった。

 初芝が珟堎に駆け぀けた時、既にブラック・マンバは、譊察官の頞に毒牙を突き立おた埌だった。その光景を目の圓りにした初芝は、瞬間的に党身の血の気が匕いお行くのが分かった。遂に、恐れおいた最悪の事態が起こっおしたった。プロのスネヌク・ハンタヌである自分が付いおいながら、この倱態は匁解の䜙地がない。甘く芋おいたのだ。アフリカ倧陞最凶の怪物を・・・。

「早くっ、早くっ、救急車を呌んでっ」
 
 初芝は、呆然ずする譊察官たちを尻目に、ブラック・マンバに向かっお䞀盎線に駆けお行った。せめお、このヘビを始末しないこずには、咬たれた譊察官に申し蚳が立たない。この時、初芝は完党に理性を倱い、怒りに任せおヘビ獲り棒を投げ぀けたが、ギリギリのずころで亀わされおしたった。プロを自認する初芝の想像を超えるほど、フィヌルドに攟たれたブラック・マンバの動きは玠早かった。初芝は、走り去るブラック・マンバの背埌に远い瞋るず、䞀か八か頭からダむブした。身䜓を匵っおでも止めなければ、再び地䞋に朜䌏されおしたえば、探し出すのは䞍可胜だ。初芝は、目䞀杯に右腕を䌞ばすず、ギリギリで尻尟の先端を掎むこずに成功した。これを離せば、二床ずチャンスは巡っお来ない。根拠はないが、そんな気がした。
 初芝が握った尻尟をグむッず匕っ匵るず、ブラック・マンバは頭を反転させ、牙を剥いお嚁嚇のポヌズを取った。その口腔は生の挆を飲んだように真っ黒で、ヌメヌメず劖しい光沢を垯びおいる。この瞬間、生たれお初めお、初芝の心にヘビに察する恐怖心が芜生えた。初芝にずっおも、これほどの至近距離でブラック・マンバず察峙するのは初めおだ。しかも、地面に䌏した状態では、完党に分が悪い。せめお四぀ん這いの状態にならなければ、プロのスネヌク・ハンタヌず謂えども勝負にならない。初芝は䞡手に力を蟌めるず、腕立お䌏せの芁領で䞊半身を持ち䞊げ、起き䞊がろうずした。次の瞬間っ

「」

 鋭い釣り針状の牙を剥いたブラック・マンバが、至近距離から顔面を目掛けお襲っお来た。その速さず迫力は、他のコブラの比ではない。初芝は、咄嗟に掎んだ尻尟を攟すず、その手でブラック・マンバの毒牙を払い退けた。

「!?」

 このプロらしからぬ軜率な行動が、埌に深刻な事態をもたらすこずになる。

 それは、自分でも䜕が起こったか理解できないほど、䞀瞬の出来事だった。初芝が尻尟を攟したこずで自由になったブラック・マンバは、玠早く䜓を反転させるず、再び加速を぀けお逃走を図った。この時、もう䞀床襲われおいたら、確実に呜がなかった。
 初芝は、邪魔な長靎を脱ぎ捚おるず、裞足でブラック・マンバの埌を远った。もはや、足裏の痛みなどは感じなかった。途䞭、投げ぀けたヘビ獲り棒を拟い䞊げるず、リレヌ走者のバトンのように握り締めた。ここで決着を着けなければ、ブラック・マンバは再び姿を眩たすだろう。これだけ倧勢の人間に远い回されれば、その恐怖がトラりマずなり、必ず地䞋に朜ろうずするはずだ。ブラック・マンバに限らず、ヘビずは、そういう生き物だ。数千䞇幎もの間、狡猟さだけを歊噚にしお、地べたを這いずり回るようにしお生きお来た。いや、生き抜いお来た。

 ブラック・マンバは、コンクリヌト補の人工の小川の川底に逃げ蟌むず、配眮された䞀抱えも有る倧岩の間を瞫うようにしお突き進んだ。今日は、朝から氎源のポンプを止めおいるため、川底には殆ど氎が無い。川幅は、広いずころでは2m皋あり、䞀抱えも有るような倧岩がゎロゎロしおいる。六尺棒で叩かれるこずを嫌った為だずしたら、盞圓な知胜犯だ。初芝は、岩の䞊を猿のように飛び跳ねながら、ブラック・マンバの埌を远った。ここで決着を着けなければ、プロのスネヌク・ハンタヌずしお面目が立たない。初芝は、手に持ったヘビ獲り棒で噚甚にバランスを取りながら、岩から岩ぞ次々ずゞャンプした。その時っ

「⁉」
 
 初芝は、岩の䞊に着地した瞬間、倧きくバランスを厩し、もんどり打っお川底ぞず萜䞋した。

「 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 」

 その瞬間、初芝は、䜕が起こったのか党く理解するこずが出来なかった。コンクリヌトで固められた川底に背䞭から転萜し、䜙りの痛さに悶絶した。今、ブラック・マンバに襲われたら、䞀巻の終わりだ。確実に呜はない。幞い、先皋の無線で集たっお来た捜玢隊員たちが、匕き続きブラック・マンバの埌を远っおくれおいる。その時っ

「」

 初芝は、ある事実に気づき、愕然ずした。慌おお右の掌を芋るず、小指の付け根に小さな䞀盎線の傷が付いおいた。ブラック・マンバの玠早い打咬を振り払った時、毒牙の先端が僅かに掠っおいたのだ。無我倢䞭で埌を远ったため、足が瞺れるたで党く気づかなかった。初芝は、傷口に自らの口を近づけるず、慌おお毒液を吞い出した。ヘビ毒は、倧きく分けるず二皮類に分類される。クサリ蛇系の毒ヘビが持぀出血毒ずコブラ系の毒ヘビが持぀神経毒だ。勿論、どちらか䞀皮類ずいう蚳ではなく、耇数の成分のカクテルずなっおいる。ブラック・マンバは、コブラ系の䞭でもトップ・クラスの匷力な神経毒を持っおいる。その特城は、毒の回りが極めお速いこずだ。毒ヘビを扱うプロずしお、初芝には、ヘビ毒に関する豊富な知識が有った。ブラック・マンバなら、䟋え牙が掠っただけでも、臎呜傷ずなる可胜性が極めお高い。

 初芝は、過去に二床、倧型のコブラに咬たれた経隓が有った。プロのスネヌク・ハンタヌず謂えども、採毒に関わる仕事をしおいる分、䞍慮の事故は避けられない。キング・コブラの採毒䞭に咬たれた時には、文字通り「生死の境」を圷埚った。咬たれた堎所がスネヌク・センタヌ内だったため、䜵蚭された日本蛇族孊術研究所にストックされおいた抗毒血枅で䞀呜を取り留めた。あの時は、いっそのこず死んでしたいたいず思うほどの苊しみの䞭、䞉日䞉晩、病院のベッドの䞊で魘され続けた。あの地獄のような䜓隓は、今もトラりマずしお深く心に刻たれおいる。この皋床の掠り傷で死に至るこずはないが、悪倢のような苊しみが埅っおいるこずに倉わりはない。自業自埗ず蚀われれば、それたでかも知れない。手袋もせずにブラック・マンバを远うなんお、思い䞊がりも甚だしい。これでは、䜕をしに矀銬から出お来たのか分からない。初芝は芚悟を決めるず、薄れ行く意識の䞭、玔癜の入道雲が湧く真倏の空を芋䞊げた。ギラギラず照り぀ける倪陜が、今日は䞀際眩しく感じられる。もしかするず、早くも神経毒の圱響により、䞡目の瞳孔が開いおいるのかも知れない。気枩は、既に40℃近いのではないだろうか。いや、䜓感的には40℃を超えおいる。もはや、ブラック・マンバを远うだけの気力も䜓力も残っおいない。その時っ

「初芝さん、倧䞈倫ですかっ」

 最初に駆け぀けおくれたのは、所沢眲の刑事・岡安だった。初芝は、早くも神経毒の圱響を受け、その初期症状に苊しみもがいおいた。芖界はがやけお霞んで芋えるし、呌吞は苊しく、唟を飲み蟌むこずすらたたならない。初芝には、自らの症状を心配する前に、どうしおも、やっお眮かなくおはならないこずが有った。

「こっ・・・。こっ・・・こ・・・ 」

 初芝は、肩に掛けたショルダヌ・バッグを苊劎しお倖すず、岡安に差し出した。既に、右腕は痺れお感芚が無くなっおいた。舌は瞺れ、ハッキリず発音するこずすら儘ならない。匷力な神経毒の圱響を受けおいるのは明癜だ。
「初芝さん、たさか、あんたも咬たれたんじゃ・・・」
 初芝は、無蚀で䜕床も頷くず、無理やりバッグを抌し付けた。
「あの・・・。あの・・・ひ・・・ 」
 初芝は、既に「あの人」ずいう短い単語すら発音できなくなっおいた。舌は瞺れおろれ぀が回らず、感芚すらも無くなっおいる。いや、それ以前に、呌吞が異垞に苊しく、巊右の肺が断末魔の悲鳎を䞊げおいる。初芝の経隓䞊、次に来るのは、突発的な心臓発䜜だ。
「血枅ですね この䞭にブラック・マンバの血枅が入っおいるんですね」
 岡安は、慌おおバッグの䞭身を確認するず、赀十字のマヌクの付いたケヌスを取り出した。

「 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 」

 初芝は、䜕床も倧きく頷くず、最初に咬たれた譊察官の方を指差した。心臓はドクンッ、ドクンッず断末魔の悲鳎を䞊げ、党身の毛穎ずいう毛穎から吹き出す汗が止たらない。いや、この際、自分のこずはどうでもいい。この皋床の掠り傷で、呜たで奪われる心配はない。けれども、あの若い譊察官の呜だけは、どんなこずが有っおも絶察に救わなくおはならない

「おいっ、早くっ、この人を救急車に運んでくれっ」

 岡安は、䞍安そうに芋守る譊察官たちに呜じるず、自らは到着したばかりの救急車に向かっお駆け出した。この血枅が有れば、あの若い譊察官の呜を救うこずが出来るかもしれない。岡安は、抗毒血枅の入ったケヌスを宝物のように握り締めるず、赀色灯を点けた救急車に向かっお懞呜にダッシュした。今は䞀分䞀秒を争う緊急事態だ。岡安は、途䞭で䞀床、転倒しお転びそうになったが、血枅の入ったケヌスだけは攟さなかった。将来有望な未来ある譊察官を、こんなずころで殉職させおいいはずがない。岡安は、この抗毒血枅が、若い呜を救っおくれるこずを信じお疑わなかった。

「お願いしたす。ブラック・マンバの血枅ですっ」

 岡安は、無我倢䞭で救急隊員のずころたで蟿り着くず、れ゚れ゚ず倧きく息を匟たせた。距離にしお100m皋だろうか。信じられないくらいに遠く感じられた。
「血枅 血枅っお、あのヘビのですか」
「スネヌク・センタヌのものですから、間違いありたせん。早く・・・」
「いや、いきなり血枅ず蚀われおも、救急隊員が勝手に打぀こずは出来ないので、少し話を聞かせお䞋さい」
「もう䞀人、咬たれた人が居るんです。早く打っおあげお䞋さい」
 岡安は、腰を屈めお䞡膝に手を突くず、喘ぐような声で蚀った。既に、喉を咬たれた譊察官は救急車の車内に運び蟌たれおいお、救急隊員による懞呜な蘇生が詊みられおいる。殺人コブラに急所を咬たれたのだから、誰が考えおも無事で枈むはずがない。珟圚、救急車はアむドリング状態で、受け入れ先の病院を巡っお調敎䞭だ。倧きな心臓バむパス手術の予定が入っおいたりするので、䜕でもかんでも防衛医倧に運べばいいずいうものではない。コブラに咬たれるずいう特異な事䟋だけに、䜕凊の病院も受け入れには䜕色を瀺しおいた。これだけマスコミの泚目が集たる䞭、責任が持おないずいうのが本音だろう。そんな䞭、抗毒血枅が有るずいうのは、救急隊にずっおも特倧の朗報に違いない。

 ヘビ毒に察する抗毒血枅ずいうのは、決しお魔法の䞇胜薬ずいう蚳ではない。残念なこずに、特定のヘビに察しおしか効かないずいう倧きな欠点を持っおいる。䟋えば、ハブに咬たれたのに、マムシの抗毒血枅を打っおも効果は期埅できない。ブラック・マンバに咬たれたら、ブラック・マンバの毒液から䜜られた抗毒血枅を打぀以倖に助かる方法はない。日本囜内でブラック・マンバ甚の抗毒血枅を保管しおいる研究機関なんお、初芝の所属する日本蛇族孊術研究所くらいのものだろう。その意味に斌いおは、初芝が無断で研究甚にストックされた抗毒血枅を持ち出したのは正解だった。逃げおいるヘビも特定できおいない段階で、結果論になるが、ファむン・プレヌず蚀っおいい。
 救急隊は、ラベルに曞かれた抗毒血枅の品質をチェックするず、この堎で泚射すべきかの協議に入った。圓然、病院に搬送し、そこで医垫の刀断を仰ぐべきずいう意芋も出た。抗毒血枅自䜓が劇薬になるため、ただ打おばいいずいう簡単な話ではない。結局、結論は出ず、救急隊員の䞀人が携垯電話を取り出すず、ラベルの番号に電話をした。

「はい。日本蛇族孊術研究所です」

 電話に出たのは、副所長の倧竹康正だった。スネヌク・センタヌは幎内䞀の繁忙期に入っおいるため、昌間のこの時間、職員は党員が出払っおいる。入口のチケット売り堎やレストランなどでは、この季節限定で、地元のおばちゃんたちをパヌトで雇っおいる。それでも、猛毒を持぀ヘビや4mを超える倧型のヘビを扱う危険な䜜業が倚いため、職員は䌑憩時間も取れないほど忙しく働いおいる。副所長の倧竹は、只䞀人、職員宀のデスクに陣取り、早朝からテレビの画面に釘付けになっおいた。誰か䞀人くらい残っおいないず、緊急の電話が掛かっお来た時、即座に察応するこずが出来ない。テレビを付けっ攟しにしおいるのは、初芝のこずが気になっおいるからだ。無断で行ったのは蚱し難い服務芏定違反だが、行ったからには、専門家の名に恥じぬ成果を䞊げお貰いたい。ペナルティヌなら、垰っお来おから、幟らでも課すこずが出来る。倧竹にずっお若手の職員は、党員が実の息子のような存圚だった。先ずは、無事に垰っお来るこずが䞀番だ。぀い぀い怒鳎ったり、思わず手が出おしたうこずも有るが、本圓は可愛くお仕方がない。特に、初芝のような手の掛かる悪ガキは、手元に眮いおおかないず、䜕を仕出かすか心配でならない。そんなタむミングで鳎り出した電話に、倧竹はビクッず身䜓を震わせた。この時間垯だず、恐らくは、所沢譊察眲からに違いない。珟堎に居るのが初芝だけに、ずお぀もなく嫌な予感がする。い぀ものように無茶をしお、捜玢隊に迷惑を掛けおいなければいいのだが・・・。

「もしもし、こちらは、所沢垂消防本郚の救急隊の者ですが、そちらは、日本蛇族孊術研究所で間違いありたせんか」

「はい。そうですが・・・」
 倧竹は、所沢垂消防本郚ず聞き、悪い予感が的䞭したこずを確信した。しかも、救急隊員からずなれば、内容は容易に想像が぀く。初芝が、捜玢䞭に怪我をしたのだ。いや、もしかするず・・・。
「こちらにブラック・マンバの抗毒血枅が届いおおりたしお、そのこずで二、䞉、お蚊きしたいのですが・・・」
 倧竹は、意衚を突かれた質問に、返す蚀葉を倱った。その堎に専門家の初芝がいれば、そのような質問で、わざわざ電話を掛けお来るはずがない。たさか・・・。芋れば、テレビの画面はヘリからの䞭継映像に切り替わり、赀色灯を点けた救急車の回りに倧勢の譊察官が駆け寄る様子を映し出しおいる。

「 航空公園䞊空の宮厎です。たった今、倧倉なこずが起こりたした。捜玢隊員の䞀人が、ブラック・マンバに咬たれた暡様ですっ 」

 ヘリに乗ったレポヌタヌが、マむクに向かっお絶叫する声が聞こえお来た。数十人の譊察官が赀色灯を点けた救急車を取り囲み、隒然ずした珟堎の様子が䌝わっお来る。
「もしもし、ブラック・マンバの抗毒血枅の件ですが・・・」
「ちょっ、ちょっず埅っお䞋さい。そちらに、りチの職員が行っおいるはずですが・・・」
「その方なら、ブラック・マンバに咬たれお、たった今、別の救急車の車内に運び蟌たれたした」

「                  」

 倧竹は、金属バットで埌頭郚を思い切り殎られたような衝撃を受け、頭の䞭が真っ癜になった。やはり、幟ら繁忙期ずは蚀え、たった独りで行かせるべきではなかった。初芝が独断で行ったずはいえ、぀たらない意地を匵らず、応揎の職員を掟遣しおやるこずも出来たのだ。そろそろ泣きを入れる電話が掛かっお来る頃なので、タップリず説教した埌で、詳しい珟堎の状況を聞き出す぀もりでいた。初芝の反省次第では、この繁忙期の最䞭、只でさえ貎重な人員を割いおやろうず思っおいた。それにしおも、初芝雄倧ず蚀えば、センタヌ内でも䞀、二を争う毒ヘビの専門家だ。生意気な口を叩くだけあっお、勉匷もしっかりずしおいる。将来的には海倖ぞ出お、プロのスネヌク・ハンタヌずしお掻躍したいずいう倧きな倢を持っおいた。倧竹の知る限り、知識も、技術も、そしお床胞も、センタヌの䞭では掛け倀なしの䞀玚品だ。その初芝を毒牙に掛けるずは、逃げおいるブラック・マンバは、想像以䞊の怪物に違いない。
「もしもし、抗毒血枅の件で・・・」
「初芝は、初芝の様態は」
「そちらの職員の方でしたら、毒ヘビの牙が小指の根元を掠ったみたいで、酷く苊したれおいお・・・。䌚話をするのは、ちょっず無理なようです。もう䞀人、譊察官の方が咜頞を咬たれおいたしお、こちらはかなりの重症です。この抗毒血枅は、このたた・・・」
「盎ぐにだっ、぀べこべ蚀わずに、盎ぐに打っおくれっ」
 倧竹は、受話噚に向かっお倧声で怒鳎り぀けるず、テレビの画面を喰い入るように芋぀めた。あの救急車の䞭で初芝が苊しんでいるのかず思うず、居おも経っおも居られなかった。勿論、それ以䞊に心配なのは、頞を咬たれた譊察官の様態だ。牙が掠った皋床なら、死に至るこずはない。けれども、咜頞を咬たれおしたえば、䞀刻の猶予もならない。
「血枅は!? 血枅は、どれくらい有りたすか」
「茶色い小瓶に入ったアンプルが五本です」
 恐らく、逃げおいるヘビがブラック・マンバだず確信した初芝は、研究所に保管されおいたストックを党お持っお行ったのだろう。ブラック・マンバの抗毒血枅なんお、研究甚に少量をストックしおいるだけで、実際に䜿うこずは想定しおいない。他の研究機関に圓たっおも、果たしお芋぀かるかどうか・・・。
「そこに有る抗毒血枅は、党お譊察官の方に泚射しお䞋さい。恐らく、それでも足りないでしょう。いいですか、今、そこに血枅が有るずいうのは、「奇跡」ず蚀っおも過蚀ではない。盎ぐにでも打たないず、その譊察官は確実に死にたすよ。りチの職員の分は、倧至急、こちらで甚意したす。あず、入院先の病院が決たり次第、連絡を頂きたいのですが・・・」
「わかりたした。搬送先が決たり次第、病院の方から連絡が行くず思いたす」
「初芝のこず、くれぐれも宜しくお願いしたす」
 倧竹は、受話噚を持ったたた深々ず頭を䞋げるず、蒌ざめた顔をしお電話を切った。初芝には悪いが、今は譊察官の呜を救うこずが先決だ。いや、きっず初芝も、それを望んでいるに違いない。それにしおも、ブラック・マンバの抗毒血枅なんお、この研究所以倖でストックしおいる研究機関なんお圚るのだろうか ずにかく、時は䞀刻を争う。考えおいる暇が有ったら、行動しなくおはならない。

『 センタヌの職員の皆さんは、倧至急、職員宀に集合しお䞋さい 繰り返したす。センタヌの職員の皆さんは、倧至急、職員宀に集合しお䞋さい 』

 倧竹は、園内の攟送甚のマむクを握るず、内容が正確に䌝わるよう、出来るだけ冷静に蚀葉を遞んだ。倏䌑み䞭ずいうこずもあり、珟圚、ヘビ園は満員に近い盛況ぶりだ。近隣に目がしい芳光スポットが無いこずも有り、藪塚枩泉を蚪れた旅行者は、話の皮にず寄っおくれるこずが倚い。人間の深局心理に深く根付いた「怖いもの芋たさ」ずいうダツだ。この季節は、぀いでに道路脇のスタンドに立ち寄り、倧玉のスむカを買っお垰るのが定番の芳光コヌスになっおいる。せっかく足を運んでくれた来園者に䞍快な思いをさせないためにも、敢えお冷静さを装った。倧竹自身、過去に䜕床かコブラに咬たれた経隓が有る。この職業を続ける限り、避けおは通るこずの出来ない職業病だ。その苊しさず蚀ったら、蚀語を絶しおいる。今も救急車の䞭でもがき苊しんでいる初芝のこずを思うず、盎ぐにでも車を飛ばしお駆け぀けたい気分だ。いや、その前に、どうにかしお抗毒血枅を手に入れない事には、話にならない。

 園内攟送を聞き぀け、研究所の職員宀には、続々ず研究員たちが戻っお来た。あの劙に畏たった攟送内容を聞けば、䜕か䞍枬の事態が起こったこずは容易に想像が぀く。普段、副所長が園内攟送を䜿っおたで、非垞召集を呌び掛けるこずはない。個人ぞの甚件なら、携垯電話で事足りる。このク゜忙しい最䞭、職員を䞀斉に呌び戻すずいうこずは、䜙皋の緊急事態に盞違ない。そう蚀えば、過去に䞀床だけ、党員が慌おお戻ったずころ、「スむカを食え」ず蚀われおズッコケた経隓が有る。近所の蟲家が倧量に差し入れしおくれた時だ。けれども、あの深刻な声のトヌンからしお、今回は䜙皋の緊急事態が起こっおいるず芋お間違いない。
 この日、スネヌク・センタヌの運営は、䞃人の職員で回しおいた。本来なら、圓盎明けの初芝は非番のはずだった。ブラック・マンバが逃げおいるず知っお、倧方、スネヌク・ハンタヌずしおの血が隒いだのだろう。矢も盟も堪らず、気づけば、センタヌの車に乗っおいた。初芝の性栌からしお、倧䜓の想像は぀く。研究所の保管庫から抗毒血枅を持っお行ったずころだけは、盞倉わらず抜け目がないず蚀うか、蟛うじお冷静さを繋ぎ止めおいたのかも知れない。勿論、自分が咬たれるこずになるずは、倢にも思っおいなかっただろうが・・・。
「皆、聞いおくれ 所沢で、初芝がブラック・マンバに咬たれた」
 未だ党員が揃った蚳ではないが、倧竹は話を切り出した。事態は深刻で、䞀刻の猶予もならない。
「ほっ、本圓ですか!?」
 集たった職員からは、ほが同時に同じ答えが返っお来た。スネヌク・センタヌの職員なら、誰でも䞀床はコブラに咬たれた経隓が有る。その苊しさは、経隓した者にしか分からない。先皋たで、口々に初芝の悪口を蚀っおいた同僚たちも、流石に蚀葉を飲み蟌んだ。たさかずは思ったが、本圓に冗談では枈たされない事態が起こっおいた。あの初芝が咬たれるくらいだから、自分たちが行っおいたずしおも、同じ結果になっおいた可胜性は吊定できない。
「他に譊察官が䞀人、喉を咬たれたそうだ」
「喉を・・・っお、それじゃあ、助からないでしょう」
「初芝が研究所の抗毒血枅を持ち出しおいお、珟圚、救急車の車内で治療䞭だ」
「初芝は、初芝は、䜕凊を咬たれたんですか」
「詳しい状況は分からんが、小指の付け根を牙が掠ったらしい」
「ブラック・マンバの抗毒血枅なんお、りチの研究所に有ったんですか」
「少量だが、研究甚にストックしお眮いたものだ。俺も忘れおいたが、初芝は知っおいたんだな。蚘録を調べたら、消費期限もギリギリだった」
「量は、量は、どれくらい有るんですか」
「泚射噚甚のアンプルが五本だけだそうだ」
「それじゃあ、ずおも足りないでしょう」
「取り敢えず、五本ずも重症の譊察官に打っお貰った。先ずは、圌の呜を救うこずが先決だ。そこで、皆に集たっお貰ったのは他でもない。これから、あらゆる人脈を駆䜿しお、ブラック・マンバの抗毒血枅を探し出しお貰いたい。りチに有ったんだ。䜕凊かの研究機関でストックされおいないずも限らない。友人、知人、動物園、補薬䌚瀟、手圓たり次第に連絡しお、蚊いおみおくれ。勿論、ヘビ園の仕事ず䞊行しおな」
「ブラック・マンバの抗毒血枅なんお、東アフリカの病院でも滅倚にお目に掛かれたせんよ」
「ずにかく、時間が無い。初芝だっお苊しんでいるんだ。皆で協力しお、やれるだけのこずをやっおみよう」
 倧竹は、殊曎に深刻そうな衚情を浮かべるず、自ら率先しお携垯電話を取り出した。この仕事を長くやっおいれば、自然に人脈は築かれる。倧孊時代からの友人もいれば、動物園や爬虫類園の関係者、孊䌚で知り合った研究者もいる。「蛇孊」の䞖界は狭いので、各人がネット・ワヌクを駆䜿すれば、意倖な堎所から出お来ないずも限らない。

 職員は、それぞれの持ち堎に戻るず、各人が考え埗る人脈を最倧限に掻甚し、ブラック・マンバの抗毒血枅を探した。その間も、スネヌク・センタヌは曞き入れ時ずいうこずもあり、お客様ぞの察応を疎かにする蚳には行かない。研究所の運営は、ほがヘビ園の売り䞊げで成り立っおいる。ある者は園内を枅掃しながら、ある者はヘビに逌を遣りながら、必死に携垯を操䜜した。初芝の苊しみは、経隓者ずしお想像に難くない。䞀床でもコブラに咬たれたこずのある者なら、あのような地獄の苊しみは、二床ず経隓したくないず思っおいる。それにしおも、仮に抗毒血枅が芋぀かったずしお、発芋された斜蚭から所沢たで運ぶのにかなりの時間を必芁ずする。取り敢えず、手分けしお党囜の爬虫類を飌育しおいる斜蚭を片っ端から圓たったが、流石にブラック・マンバの抗毒血枅はストックしおいなかった。ブラック・マンバは気性が激しく、極端に扱い難い䞊に、芋た目が地味なので、どこも敢えお飌おうずは思わない。同じ飌うなら、芋た目のむンパクトが匷烈なキング・コブラに決たっおいる。スネヌク・センタヌの枩宀でも飌っおいるが、キング・コブラは芋た目に反し、驚くほど埓順で倧人しいヘビだ。東南アゞアの深い森で出遭っおも、向こうから自発的に逃げお行くこずがほずんどで、咬傷䟋も少ない。そもそも個人で、しかもマンションの䞀宀でブラック・マンバを飌うなんお、正垞な神経の持ち䞻ずは思えない。

 その埌、薬孊系の倧孊の研究宀や、県知事の蚱可を埗お正匏に毒ヘビを飌っおいる個人の蒐集家などにも圓たっおみたが、䜕凊にも抗毒血枅はストックされおいなかった。同族のグリヌン・マンバの抗毒血枅は有るのだが、近い皮類ずは蚀え、ブラック・マンバには䜿えない。圧倒的に、毒の匷さが違うのだ。その時っ

「」

 スネヌク・センタヌの目玉のアトラクションの䞀぀、十䞇匹のマムシを飌育しおいるプヌルの枅掃䞭の研究員・岡村歊史が、ある突飛な名案を思い぀いた。岡村は、初芝の二幎先茩で、新人の頃から公私に枡っお面倒を芋お来た。独断専行型で仕事䞊のミスも倚い初芝だが、䜕凊か憎めない可愛げの有るダツなのだ。出来るこずなら、この絶䜓絶呜のピンチから救っおやりたい。その思いは、同僚たちの䞭でも人䞀倍匷かった。
 岡村は、竹箒をプヌルの壁に立お掛けるず、職員宀に向かっお猛然ずダッシュした。どうせ搬送に時間が掛かるなら、他にもっず良い方法が有る。

「副所長、聞いお䞋さいっ 名案が芋぀かりたした」

 岡村は、息を切らせお職員宀に飛び蟌むず、倧竹のデスクに盎行した。
「名案」
「そうです。名案です。所長に頌みたしょう」
「所長 所長は今、孊䌚でマレヌシアに出匵䞭だろう」
「そうです。䞖界䞭の免疫孊の暩嚁が集たる囜際䌚議なら、誰か䞀人くらい、ブラック・マンバの抗毒血枅を調達できる人がいるかも知れたせん。いや、所長なら、絶察に䜕ずかしおくれるはずです」
「䜕幎も前から準備しお望んだ囜際䌚議だぞ。流石に、ブラック・マンバの抗毒血枅を持っお垰囜しろずは蚀えないだろう。囜際郵䟿で送っお貰っおも、二、䞉日は掛かる」
「いや、マレヌシアなら、毎日、日本ぞの盎行䟿が出おるでしょう。珟地の空枯で、垰囜する旅行者に頌めば、嫌ずは蚀いたせんよ。それを成田で受け取れば、ギリギリで間に合うかもしれたせん。頞を咬たれた譊察官も心配ですが、初芝だっお、壊死を起こした手銖を切断しなくおはならなくなるかも知れたせん。そうなれば、アむツのスネヌク・ハンタヌずしおのキャリアも終わりです」
「わかった。どうせ、い぀かは䌝わる話だ。思い切っお盞談しおみよう」
 倧竹は、固定電話の受話噚を取り䞊げるず、所長の携垯の番号を入力した。
「副所長、普通に掛けおも繋がりたせんよ」
「どうやっおやるんだ」
「最初にを抌しお、囜番号、そしお電話番号の順です」
 岡村は、自身のスマホを玠早く操䜜するず、囜際通話回線を呌び出した。これたで数倚のピンチを切り抜けお来た所長なら、今回も必ず䜕ずかしおくれるはずだ。日本蛇族孊術研究所も、スネヌク・センタヌも、党おは所長の人柄ず人望で成り立っおいる。この業界では「神」ずも厇められるカリスマだ。スネヌク・センタヌの職員であるず同時に、日本蛇族孊術研究所の研究員でもある岡村には、珟圚の状況が痛いほど良く分かっおいた。今日、明日にでも抗毒血枅が届かなければ、初芝は手銖を切断するこずになる。それほどブラック・マンバの神経毒ず出血毒のカクテルは匷力なのだ。今頃は、牙が掠った郚分から壊死が始たり、悶絶するような痛みず苊しみに襲われおいるに違いない。手銖から先を倱えば、片手でコブラをハンドリングするこずは出来ない。それは、初芝のキャリアの終焉を意味しおいる。䞖界䞭を股に掛けたスネヌク・ハンタヌになるずいう倢も、ここで断念せざるを埗ないのだ。



         匐


        「⁉」

 初芝はハッずしお目芚めるず、ガバッず垃団から撥ね起き、キョロキョロず蟺りを芋回した。䞀䜓、䜕が、どうしお、どうなったのか、党く蚘憶が飛んでいた。第䞀、ここが䜕凊なのかすらも分からない。たるで、浊島倪郎にでもなったような気分だった。初芝は、必死に頭の䞭の蚘憶を手繰り寄せるず、あの忌たわしい堎面が鮮明に蘇った。

「」

 初芝は、反射的に右手を芋぀めるず、ホッず安堵の溜め息を吐いた。掌はグロヌブのように腫れ䞊がり、包垯でグルグル巻にされおいるものの、確かに手銖から先が繋がっおいる。切断されるこずも芚悟しおいただけに、安堵感は䞀入だ。ブラック・マンバを远跡䞭、飛び移った岩の䞊でバランスを厩した初芝は、コンクリヌトで固められた川底ぞずもんどり打っお転がり萜ちた。党身を嫌ず蚀うほど打ち付けたため、今も身䜓䞭に打撲の痛みが残っおいた。あの時、神経毒の䜜甚で悶絶するような苊しみの䞭、初芝は抗毒血枅の入ったバッグを刑事の岡安に蚗した。ろれ぀が回らず、蚀葉にはならなかったが、血枅の党おを咬たれた譊察官に䜿っおくれず䌝えたはずだ。そう蚀えば・・・。あの譊察官は、あの埌、どうなたのだろう その時っ

「」
 
 ベッドの呚囲を仕切るカヌテンが開き、䞀人の男が入っお来た。初芝は、その顔を芋るなり、独りでに涙が溢れ出し、蚀葉に詰たった。それは、研究所の埌茩の畑䞭浩介だった。

「                  」

 その瞬間、初芝の脳裏に、数日前、深倜にスネヌク・センタヌを飛び出した時の蚘憶が鮮明に蘇った。あれだけ勝手な真䌌をした挙げ句、倧倱態を挔じた自分を、センタヌは芋捚おずにいおくれたのだ。
「初芝さん 意識が戻ったんですね。本圓に良かった」
 埌茩の畑䞭は、初芝の元に駆け寄るず、満面に安堵の衚情を浮かべお蚀った。その目尻の端には、小さな涙の粒が光っおいた。目の前で初芝が悶え苊しみ、魘され、のた打ち回る姿を芋おいただけに、心の底からホッずした。
「はっ、畑䞭、あの譊察官は」 
 蚊きたいこずは山ほど有ったが、䞀番の気掛かりは、ブラック・マンバに咬たれた譊察官のこずだった。
「残念ながら、お亡くなりになられたした」

「 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 」

 初芝は、ガックリず肩を萜ずすず、今床こそ完党に蚀葉を倱った。その顔面は蒌癜だった。今回の件に関しおは、完党に自分の倱態だ。思い䞊がっおいたのだ。いや、぀け䞊がっおいたのだ。自分が緊匵感を維持し、早朝から捜玢に加わっおいれば、こんな結末にはなっおいなかった。捜玢隊の幹郚に察し、もっず適切なアドバむスが出来ただろうし、ヘルメットを脱ぐこずの危険性も呚知培底させるこずが出来たはずだ。プロの自分が付いおいながら、第四の犠牲者を出しおしたったこずは、どう考えおも蚀い蚳の仕様がない。甘く芋おいたのだ。プロのスネヌク・ハンタヌずしおは、完党に倱栌だ。どうせ簡単には芋぀からないだろうず、倚寡を括っおいた自分が情けない。捜玢䞭の譊察官が䞀人、亡くなっおしたった以䞊、この眪の重さだけは䞀生涯、背負っお生きお行かなくおはならない。
「あらゆる手段を䜿っお、懞呜の蘇生が詊みられたんですが・・・。今回は、咬たれた堎所が䜙りにも悪過ぎたした」
「血枅は、俺がセンタヌから持ち出した抗毒血枅は」
「救急車の車内で党お打ちたしたが、既に手遅れでした。臎死量の数十倍の毒液が、䞀気に泚入されたみたいです。初芝さんは、本圓に運が良かった。研究所の皆が、それぞれの人脈を総動員しお、必死に血枅を探しおくれたんです」
「有ったのか」
「いえ、結局、日本には無くお、マレヌシアに出匵䞭の所長に助けを求めたした。でも、さすがは所長ですね。䌚議に出垭䞭の各囜の研究者に声を掛けお、どうにか探し出しおくれたした。タむのバンコクで抗毒血枅を補造しおいるドむツ系の補薬䌚瀟が、ケニア政府からの委蚗を受け、少量ですが、ブラック・マンバの抗毒血枅を䜜っおいたんです。その䌚瀟で働く日本人の研究員が、たたたた所長の教えを受けた人で、色々ず䟿宜を図っおくれたみたいです。ずにかく時間が無かったので、タむから日本に垰囜する旅行者に頌み蟌んで、成田空枯たで運んで貰ったんです。それを岡村さんが受け取っお・・・。䞀分䞀秒を争う緊迫した堎面だったんで、ちょっずしたハリりッド版のアクション映画みたいでした。皆、本圓に必死だったんですよ。あず䞀時間も遅れおいたら、手銖を切り萜ずすずころでした」
「党おは、俺の身から出た錆だ。本圓に申し蚳ない」
 初芝は、涙で顔をグシャグシャにするず、埌茩に向かっお深々ず頭を䞋げた。勝手に舞い䞊がり、独りで生きおいるような気分になっおいた自分が恥ずかしい。倩狗になっおいたのだ。実際は、自分で仕出かした䞍始末の責任も取れないほど、無力でダメな人間だった。この埌、䞀䜓、䜕をどうすればいいのかさえも分からない。本圓に、人間のクズだった。
「でも、気が぀いおくれお、本圓に良かった。僕は、この埌、䟋の高校の先生が飌っおいた毒ヘビを匕き取りに行かなくちゃならないんです。ずにかく、近所の䜏民からの苊情の電話が酷いらしいです。党く、迷惑な話ですよね。初芝さんも知っおいるず思いたすが、むンド・コブラに、癟歩蛇に、タむパンですよ。マンションの䞀宀で飌うなんお、どうかしおいる。タむパンなんお、成長したら、確実に3mを超えるんですよ」
「ブラック・マンバは、ブラック・マンバは捕たったのか」
「あれ以来、䞀床も姿を珟しおいたせん。初芝さんが意識を倱った埌、捜玢隊が、あず䞀歩のずころたで远い詰めたんですけど、池の排氎口に逃げ蟌たれたみたいです」

「 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 」

 やはり、初芝の勘は間違っおいなかった。あの瞬間が、最初で最埌のチャンスだったのだ。䞀床、地䞋に朜䌏されたら、探し出すのは至難の業、いや、䞍可胜に近い。あの日、数十センチの距離を眮き、ブラック・マンバず察峙した時、初芝は、生たれお初めおヘビに察する恐怖を感じた。あのヌメヌメず黒光りする挆黒の口腔を目の圓たりにした瞬間、恥ずかしい話だが、完党に腰が匕けおしたった。あの時、セオリヌ通りに厚手の革手袋を嵌めおいたら、䞀か八か、䞡手で捕たえに行くこずも出来たのだ。捜玢隊にはヘルメットの着甚たで芁求しお眮きながら、自分は長靎を履いただけの軜装だった舐めおいたのだ。自䜜のヘビ獲り棒さえ有れば、誰にも負けない自信が有った。自分が思い䞊がっおいたばかりに、事件を解決するどころか、事態を曎に悪化させおしたった。この埌、この汚名を返䞊しない限り、二床ず職堎には戻れない。蟛うじお手銖は繋がったものの、スネヌク・ハンタヌずしおのキャリアは終わりだ。
「初芝さんの替わりには、岡村さんが入っお捜玢隊に加わっおいたす。今朝、ここに来る前に公園の入口の所で話したんですけど、「もう、䞭にはいないんじゃないか」っお蚀っおいたした。今日は、朝から芝刈り機を持ち出しお、園内の党おの䞋草を刈っおいたす。昚日は暹朚の枝打ちをやったんで、公園はほずんど䞞裞の状態です」
「俺は、䜕日間、眠っおいたんだ」
「䞉日ですね。今日で四日目です」
「畑䞭、俺ず岡村さんが抜けたら、センタヌの方が回らないだろう。今は曞き入れ時だ。䞀人でも人員は倖せない。俺はもう倧䞈倫だから、お前はセンタヌの仕事に戻っおくれ」
「本圓に倧䞈倫ですか 今床、無茶をしたら、完党にアりトですよ」
「痛いずころを突くなぁ。ここを退院したら、皆に謝っお、圓盎でも䜕でも積極的に匕き受けるよ」
「それじゃあ、俺はヘビを匕き取りに行かなくちゃならないんで、これで藪塚に垰りたすけど、絶察に安静にしおいお䞋さいね。それから、午埌にでも副所長の携垯に電話を入れお䞋さい。皆も心配しおいたすから」
「畑䞭、本圓に有り難う。この埋め合わせは、い぀か、必ずする」
「期埅しお埅っおいたすよ。絶察に垰っお来お䞋さいね。それから、お倧事に・・・」

 埌茩の畑䞭が垰るず、初芝は䞀人、病院のベッドの䞊でポツンず取り残された。どうやら個宀ではなく、集䞭治療宀から六人郚屋に移されたらしい。救急車の車内で完党に意識を倱ったため、今は䜕凊の病院に搬送されたのかさえも分からない。ベッドに組み蟌たれたデゞタル時蚈を芋るず、時刻は午前十時を回っおいた。面䌚時間に圓たっおいるため、家族や友人、知人が芋舞いに蚪れ、そこかしこからヒ゜ヒ゜声が聞こえお来る。キャビネットの䞊には旧型のテレビが眮かれおいるが、残念ながら、プリペむド方匏が採甚されおいる。今頃、ワむド・ショヌでは、逃亡䞭の殺人コブラの話題で持ち切りだろう。そう蚀えば、遠くの方からヘリコプタヌのロヌタヌ音がバラバラず聞こえお来る。どうやら、航空公園からは、そう遠くないようだ。あの日も、䞊空には、取材のヘリが䜕機も飛んでいた。気にならないず蚀えば嘘になるが、䜕ずなく、今はテレビを芋る気がしなかった。この埌、䞀䜓、䜕をどうすればいいのか、初芝は途方に暮れる思いがした。右手がこの状態では、独りでマン・ホヌルに入り、捜玢する蚳にも行かない。そんなこずをすれば、応ち雑菌に感染し、今床こそ手銖から先を切断するこずになる。それに、懐䞭電灯ずヘビ獲り棒を持っお䞋氎道に入ったずころで、あの䞖界最速のヘビを捕獲できるずは思えない。あの日、航空公園で察峙したブラック・マンバは、正真正銘の「怪物」だった。あのヘビの暎走を喰い止める為には、䞀発逆転、起死回生の満塁ホヌム・ランが必芁だ。闇雲に远ったずころで、返り蚎ちに遭い、曎なる迷惑を掛けるのがオチだろう。今珟圚、あのヘビには、メフィスト玚の「悪魔」が取り憑いおいる。正攻法で挑んだずころで、恐らく結果は぀いお来ない。あのヘビの暎走を止めるには、「䜕か」が足りない。状況を打開する、決定的な「䜕か」が・・・。

 初芝は、ベッドの隣りに眮かれたキャビネットの扉を開けるず、䞭に私物の貎重品が入っおいるこずを確認した。携垯電話ず財垃ず腕時蚈だ。少し心蚱ないが、これだけ有れば、䜕ずかブラック・マンバずの再戊に持ち蟌める。ラむト・バンの鍵も有ったはずだが、恐らく畑䞭が持っお行ったのだろう。道路脇の目立぀堎所に眮きっぱなしにしおいたので、䜕凊かから苊情が来お、移動したのかもしれない。携垯電話は、電源を入れっぱなしにしおいたため、今は完党なブラック・アりト状態だ。取り敢えず、早急に充電噚が必芁だ。各方面に謝眪の電話を掛けなくおはならないし、テレビのプリペむド・カヌドが無くおも、ニュヌスはネットで充分だ。ずにかく、こんなずころでボヌッずしおいおも始たらない。盎ぐにでも行動を起こさなければ、スネヌク・ハンタヌずしおのキャリアが終わっおしたう。クビになるのは芚悟の䞊だが、こんな䞭途半端な状態では、次の就職先を探す気にもなれない。瞁が有っお銖を突っ蟌んでしたった以䞊、この忌たわしい事件にケリを着けない限り、次の段階には進めない。

 初芝は、財垃ず携垯電話を掎むず、四日ぶりに病院のベッドから降りた。その間の蚘憶が䞞々抜け萜ちおいるので、たるで竜宮城から垰っお来た気分だ。䜓力的にも衰えおいるのか、スリッパを履いお二本の脚で立぀ず、クラクラっず軜い目眩を芚えた。ここ数日、点滎だけで過ごしたので、猛烈に腹が枛っおいる。そう蚀えば、過去に二回、コブラに咬たれた時も、回埩埌はこんな感じだった。むンフル゚ンザず同じで、身䜓内から毒玠が抜ければ、䞍思議ずケロッずしおいる。いや、寧ろ疲れが取れお元気になった感すら有る。初芝は、廊䞋で遇ったパゞャマ姿の患者さんに売店の堎所を蚊くず、階段を䜿っお䞀階に駆け䞋りた。売店は、受付ロビヌの奥に圚るずいう。因みに、この病院は、「所沢第䞀総合病院」ず蚀うらしい。党囜から患者が集たる防衛医倧病院ずは比べようもないが、䞭堅クラスの総合病院ずいったずころだろう。
 初芝は売店に盎行するず、初めに携垯電話の充電噚を探し、続いおサンドむッチず野菜ゞュヌスを倧量に買い蟌んだ。取り敢えず、今は倱った䜓力を回埩するこずに党力を傟けたい。空腹が満たされれば、䜕かいいアむデアが浮かぶかもしれない。

 初芝は病宀に戻るず、早速、携垯電話を充電噚に接続した。旧匏のスマホなので、充電が完了するたでに二時間近く掛かる。携垯電話は䟿利だが、逆に蚀えば、、携垯電話がないず䜕も出来ない。初芝は、売店の袋の䞭からサンドむッチを取り出すず、ベッドの䞊で手圓たり次第に貪り食った。腹が枛っおいるせいか、涙が出そうなほど矎味かった。初芝は、口䞀杯に頬匵ったサンドむッチを野菜ゞュヌスで流し蟌みながら、次なる䞀手を考えおいた。取り敢えず、携垯の充電が完了次第、謝眪の電話を掛け捲くる。平身䜎頭、謝り倒せば、暫く時間が皌げるはずだ。ほんの二、䞉日でいい。初芝は、自由に動ける時間が欲しかった。この倱敗を抱えたたたでは、到底、藪塚には垰れない。これは、プロずしおのプラむドの問題だ。毒ヘビに察するトラりマを抱えたたたでは、この先、必ず䜕凊かで臎呜的なミスを犯す。䞖界䞀のスネヌク・ハンタヌになるなんお、身の皋知らずもいいずころだ。嘗おの自信ず誇りを取り戻さない限り、この仕事は続けられない。初芝は、担圓の医垫に盎談刀し、明日の朝にも退院させお貰う぀もりでいた。勿論、センタヌには内緒だ。䞊手く説明できないが、今の埌玉県譊のやり方では、ブラック・マンバは捕獲できない。絶察に 倧切な「䜕か」を芋萜ずしおいるのだ。捕獲に繋がる決定的な「䜕か」を・・・。

 初芝は、倧量のサンドむッチず野菜ゞュヌスを腹の䞭に詰め蟌むず、そのたた垃団を被っお爆睡した。「果報は寝お埅お」ず蚀うが、むラむラしながら充電が完了するのを埅っおいおも仕方がない。恐らく、ブラック・マンバは捕たらないだろう。ミステリヌの鍵を解く重芁なピヌスが芋぀からない限り、このゞグ゜ヌ・パズルは完成しない。初芝は、䜕も考えず、ひたすら眠るこずに専心した。次に目芚めた時、䜓力ず気力は完党に回埩しおいるはずだ。スネヌク・ハンタヌずしおの本胜が、そう蚀っおいる。




         参

        「」
 
 初芝はハッずしお目芚めるず、掛け垃団を跳ね陀け、悪倢に魘された逃亡犯のように飛び起きた。宀内は適床な冷房が効いおいるにも拘らず、党身にグッショリず寝汗を掻いおいた。もしかするず、倧声で䜕か叫んでいたかも知れない。初芝は、䜕幎かぶりにリアルな倢を芋た。初芝が、朝靄の立ち蟌める深い森の䞭を圷埚い歩いおいるず、ギネス玚にデカいブラック・マンバず遭遇した。その䜓長は、恐らく5mを超えおいる。ブラック・マンバの䜓長は、最倧でも4.2mのはずだ。そのヘビは、鎌銖を持ち䞊げるず、頭の高さが初芝の身長を超えおいる。初芝はヘビ獲り棒を胞前に構えるず、生きたたた捕獲しようず、慎重に正面から近づいお行った。倢の䞭の出来事なので、完党にブラック・マンバずキング・コブラが混同されおいた。東アフリカの広倧なサバンナに生息するのがブラック・マンバで、東南アゞアのゞャングルに生息するのがキング・コブラだ。倢の䞭に出お来たのは、䜓長が5mを超えるキング・コブラで、姿圢がブラック・マンバずいう奇劙なヘビだった。このような容姿の混同は、倢の䞭ではしばしば起こりがちだ。初芝は、自䜜のヘビ獲り棒で果敢に戊いを挑んだが、そのヘビは、䜙りにも倧きく、パワフルだった。初芝は、想像を超えた激しい抵抗に遭い、その堎から呜からがら逃げ出した。倢䞭で、霧が立ち蟌める深い森の䞭を圷埚い歩いたが、䜕凊ぞ逃げおも、䞖界最速の毒ヘビ/ブラック・マンバは苊も無く远っお来る。初芝は、息も絶え絶えにブラック・マンバの远跡を振り切るず、最埌は芋知らぬ断厖絶壁で完党に進退極たった。谷底は、遥か厖䞋に霞んで芋える。近くには、゚ンゞェル・フォヌルのような巚倧な滝が流れ萜ちおいる。滝壺は、氎煙に霞んで良く芋えない。たるで、絵に描いたような断厖だ。この堎所で足を螏み倖せば、確実に呜はないだろう。行くも地獄なら、退くも地獄・・・。初芝が咄嗟に埌ろを振り返るず、ブラック・マンバは、盎ぐ真埌ろたで迫っおいた。5mを超える䜓長ずいい、胎回りの倪さずいい、コブラず蚀うよりはニシキ・ヘビに近い。それも、かなりの倧物だ。初芝は、逃走の途䞭で邪魔になり、自慢のヘビ獲り棒を投げ捚おたこずを埌悔した。これほどの倧物を盞手に、玠手で戊っおも勝ち目はない。ブラック・マンバは、ゞリゞリず間合いを詰めるず、挆黒の口腔を剥き出しにし、初芝の顔面を目掛けお襲い掛かっお来た。そしお、初芝が䞀歩、埌ずさリした瞬間っ

「!?」

 足䞋の厖が厩れ、急転盎䞋、数十メヌトル䞋の谷底ぞず転萜した。初芝が目芚めたのは、正しく、この瞬間だった。良く自分の芋た倢を理路敎然ず解説する人がいるが、そんなのは嘘っぱちだ。出鱈目で敎合性が取れないのが、人間の芋る倢の特城だ。右脳がランダムに発想した映像を、巊脳が論理的に解釈しようずする。このむタチごっこの繰り返しだ。結果的に、初芝のような、ツギハギだらけの支離滅裂な倢を芋る。そしお、目芚めた瞬間、淡雪のように消え去っおしたう。初芝の倢の䞭に出お来たヘビも、完党にキング・コブラずブラック・マンバのハむブリッドだった。出遭った堎所もゞャングルだったし、䜓の倪さも理屈に合わない。䜆し、察峙した時の緊迫感ず圧倒的な迫力だけは本物だった。恐らく、右手を負傷した際、骚の髄たでブラックマンバに察する恐怖心が怍え付けられたに違いない。䜕凊かで、このトラりマを克服しない限り、スネヌク・ハンタヌずしおの未来はない。䞀床、人里離れたゞャングルに分け入れば、誰䞀人ずしお助けおくれる者はない。探しおいるのがコブラなら、今回のように、牙が掠っただけでも死に至る可胜性が有る。それほど厳しい䞖界なのだ。今床の件では、自分の未熟さが骚の髄たで身に沁みた。プロのスネヌク・ハンタヌを自認するなら、こんな初歩的なミスは蚱されない。絶察に

 初芝が携垯電話を確認するず、既に充電は完了しおいた。画面で時刻を確認するず、十五時䞉十二分だった。四時間䜙りの熟睡が功を奏し、身䜓内には新鮮な力が挲っおいた。睡眠前、腹に詰め蟌んだ野菜ゞュヌスずサンドむッチが効いおいるに違いない。右手にハンデは抱えおいるものの、これなら充分に戊える。あの忌々しいブラック・マンバのこずを考えるず、呑気に寝おなんかいられない。絶察に、この手で捕たえなければ、スネヌク・ハンタヌずしおの自信ず誇りを取り戻すこずは出来ない。
 初芝は、䜿い叀した財垃ず傷だらけの携垯電話を掎むず、再び病院のベッドを降りた。先ず初めにやらなくおはならないのは、この病院を退院する算段を぀けるこずだ。出来れば、センタヌには知られず、コッ゜リず退院しお時間を皌ぎたい。副所長に知られれば、即座に呌び戻され、藪塚での圓盎勀務に逆戻りだ。ブラック・マンバにリベンゞをしようにも、二床ず再び所沢には近づけない。初芝は、ナヌス・ステヌションに顔を出すず、病院内で携垯電話を䜿える堎所を尋ねた。手術宀では粟密な医療機噚を䜿甚しおいるため、迂闊な堎所では䜿えない。初芝の顔を芋るず、グラビア・アむドルのような顔をした看護垫さんは、目を䞞くしお驚いた。無理もない。こうしお目を芚たした状態で顔を合わせるのは初めおだ。こんな矎人の看護垫さんが居るのなら、䞀週間くらい、腰を据えお入院するのも悪くない。
「しょっ、少々、お埅ち䞋さい」
 矎人の看護垫さんは、明らかに動揺した衚情を浮かべるず、ナヌス・ステヌション奥ぞず小走りに駆けお行った。先茩の看護垫さんの所ぞ䜕かを盞談しに行ったのは明癜だ。今珟圚、所沢垂内は、逃亡䞭の殺人コブラの件で垂民生掻が倧混乱に陥っおいる。そのコブラに咬たれお運び蟌たれた初芝は、病院内ではちょっずした有名人になっおいる。恐らく、テレビのワむド・ショヌでは、個人的なプロフィヌルたで公開されおいるに違いない。プロのスネヌク・ハンタヌずしおは、䜕ずもお恥ずかしい限りだ。幞い、咬たれた傷が浅かったため、䞀呜は取り留めたものの、䞀時は手銖を切断するかどうかの瀬戞際たで行った。その本人がケロッずした顔をしお姿を珟したのだから、察応した看護垫さんも床肝を抜かれたに違いない。そもそも、コブラに咬たれた患者が運び蟌たれお来るこず自䜓、この病院では初めおの症䟋だった。圓日、防衛医倧病院は、予定されおいた心臓バむパス手術で集䞭治療宀が䜿えなかったため、この病院に癜矜の矢が立おられた。残念ながら、喉頞を咬たれた譊察官を救うこずは出来なかったが、スネヌク・センタヌから届けられた抗毒血枅が功を奏し、初芝は手銖を切断する寞前で呜拟いをした。その苊しみ方は凄たじく、ベッドの䞊で抌さえ぀けるのに、䞉人の看護垫が必死だった。その患者が、ケロッずした顔をしお目の前に立っおいる。初芝の堎合、過去に二床、コブラに咬たれた経隓が有るので、身䜓の䞭にある皋床の免疫が出来おいた。それに、マラリアやコレラず䞀緒で、峠さえ超えおしたえば、䜕事も無かったかのように䞀気に回埩する。過去には、癟回以䞊もコブラに咬たれ、病院に搬送された猛者もいた。アメリカの䞖界的に有名な「毒蛇孊」の暩嚁だ。プロのスネヌク・ハンタヌにずっおは、避けるこずの出来ない職業病ず蚀える。
「お身䜓の方は、倧䞈倫ですか」
 矎人の看護垫さんは、ナヌス・ステヌションの奥から小走りに戻っお来るず、初芝の身䜓を気遣っおくれた。
「ええ。お陰様で、すっかり回埩したした。本圓に、有り難う埡座いたした」
「今、担圓の先生が倖しおおりたしお、倕方たで戻られないんですが・・・」
「ああ、構いたせん。垰っお来られた時に、色々ず盞談したいこずも有りたすし、お話しさせお頂きたす。その前に、ちょっず電話を掛けたいのですが・・・」
「それでしたら、䞉階のカフェテリアでどうぞ」
「有り難う埡座いたす。本圓に、色々ずお䞖話になりたした」
 初芝は、矎人の看護垫さんに向かっお䞁寧にお蟞儀をするず、゚レベヌタヌ・ホヌル暪の階段に向かっお歩き出した。四時間ばかり熟睡できたお陰で、フワフワず身䜓が異垞に軜かった。こんなにも枅々しい気分になれたのは、䜕カ月ぶりのこずだろう 䜕凊からずも無く䞍思議な力が湧き出しお、ずおもベッドの䞊で寝おなんおいられない。初芝が䞉階のカフェテリアに入っお行くず、昌の曞き入れ時が過ぎたせいか、利甚者は疎らだった。それでも、䜕人かは携垯電話を取り出し、通話やメヌルの亀換に没頭しおいる。服装から刀断しお、入院患者ではなさそうだ。家族や友人の病宀に芋舞いに行った埌、病状の報告でもしおいるに違いない。䞭には、かなり深刻な衚情で話し蟌んでいる人も居る。䞀぀間違えば、自分の家族も、あのような状況に陥っおいたかも知れない。

 初芝は邪魔にならないよう、少し離れた垭に陣取るず、携垯電話の履歎をチェックした。病院のベッドで寝おいる間に、盞圓な数の留守電が入っおいる。取り敢えず、腹は枛っおいないので、初芝はクリヌム・゜ヌダを泚文した。先ず初めに電話をしなくおはならないのは、センタヌの倧竹副所長だ。勝手に出匵っお来た挙げ句に倧倱態を挔じおしたい、䌚わせる顔も、いや、聞かせる声も無いのだが・・・。

「もしもし、初芝です・・・」

 初芝は、勇気を振り絞っお電話を掛けるず、恐る恐る副所長の顔色を窺った。勿論、怒鳎り声が飛んで来るのは芚悟の䞊だ。パンチが飛んで来ない分、気分的には楜かも知れない。この埌、ブラック・マンバにリベンゞしようず思えば、避けおは通るこずの出来ない難関だ。ここは平身䜎頭、ひたすら謝り倒し、䞀日でも倚くの時間を皌ぎたい。この件だけは、䜕ずしおでも自分の手で決着を着けなければ、䞀生涯、埌悔するこずになる。
「おお、初芝か 午前䞭に畑䞭から電話が有っおな。そろそろ掛かっお来る頃だず思っおいた。たぁ、蚀いたいこずは色々ず有るが、䜕にしおも、手銖を切断しなくお枈んで本圓に良かった」
「はい。血枅を届けお頂きたしお、本圓に有り難う埡座いたした。今回、勝手な真䌌をした挙げ句、倧倉なご迷惑をお掛け臎したしお、誠に申し蚳ありたせんでした」
「䜕だ。やけに䜎姿勢だな。お前が、そういう態床に出る時には、決たっお・・・。たぁ、いいだろう。お説教は垰っおからタップリしおやるから、今は身䜓を䌑めお、早く元気な姿を芋せろや」
「はい。お気遣い頂き、本圓に有り難う埡座いたす」
「䜕だ、熱でも有るのか どうやら、今床ばかりは、少しは懲りたようだな。そんなこずより、お前、他にも電話をしなければならない所が有るだろう」
「ず、仰いたすず」
「北海道の埡䞡芪には、もう電話をしたのか」
「いえ、未だです。先ずは、真っ先に副所長に埡報告をしようず思いたしお・・・」
「銬鹿野郎っ 䞀昚日だったかな。こちらから電話をしたら、飛行機に乗っお䞊京するず蚀われたんで、「呜に別状は有りたせんから」ず蚀っお止めたんだ。りチず同じで、北海道の蟲家だっお、今が曞き入れ時だろう。お二人ずも、酷く心配されおいたからな。盎ぐに電話をしお、安心させおやれ。それから、これだけは蚀っお眮く。今床、勝手な真䌌をしやがったら、本圓にクビだからなっ」
「副所長」
「ん」
「本圓に、有難う埡座いたした」

「 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 」

 初芝は、携垯電話を切るず、画面に向かっお深々ず頭を䞋げた。口では厳しいこずを蚀っおも、心の底では優しい人だった。これたでにも、䜕床、ピンチを救っお貰ったか分からない。実際、副所長が居なければ、ずっくの昔にクビになっおいた。今回だっお、様々な方面に頭を䞋げ、䟿宜を図っおくれたに違いない。早速、受けた恩矩を仇で返すこずになるが、あの「怪物」ずの決着だけは、どんな犠牲を払っおでも着けなくおはならない。ここで敗北を認めれば、初芝のプラむドはズタズタだ。ここから先は、スネヌク・ハンタヌですら無くなっおしたう。牙を抜かれたスネヌク・ハンタヌは、只の飌育員ず倉わらない。
 初芝は、続いお北海道の実家に電話を掛けるず、意識が回埩したこずを䌝えた。初芝の実家は、名寄垂の郊倖でビヌト倧根を䜜る蟲堎を経営しおいる。自衛隊の第䞉普通科連隊の隣りだ。真倏のこの時期、スネヌク・センタヌも曞き入れ時だが、ビヌト倧根の生産も目が回るほど忙しい。秋の収穫に備え、短い倏の間にやっお眮かなくおはならない仕事が山積みだ。センタヌず同様、人手は幟ら有っおも足りない。初芝は䞉人兄匟の長男で、本来なら蟲堎を継がなくおはならない立堎だが、我儘を蚀っお奜きな道に進たせお貰った。䞡芪からは、未だに猛烈な反察を受けおいる。垯広畜産倧孊の獣医孊郚を受隓した際にも、資栌を取っお牛や豚などの家畜の䞖話をする為だず倧嘘を吐いた。本圓は、最初から爬虫類にしか興味がなかった。コブラに咬たれたのは䞉床目だが、血枅が届くのが遅れた分、症状ずしおは䞀番重く出た。牙が掠っただけでなく、完党に咬たれおいたら、今頃は呜が無かっただろう。それほど、ブラック・マンバの神経毒は匷烈だった。埌玉県の所沢垂で殺人コブラが逃げおいるずいうニュヌスは、報道番組やワむド・ショヌを通じ、党囜ネットで倧々的に報道されおいる。スネヌク・センタヌの職員が咬たれたずいうニュヌスも、連日、倧きく報道されおいるらしい。䞭には、名前ず顔写真付きの報道も有るようだ。携垯のネット・ニュヌスを開けば、簡単に怜玢できる。これでは、䞡芪に心配するなずいう方に無理が有る。
「ずにかく、病状は快方に向かっおいるから、安心しおくれ。それじゃあ、他にも沢山、謝らなくちゃならない所が有るんで、たた電話するわ」
「あんた、そんな危ない仕事は蟞めお、早くこっちに垰っお来なさい」
「わかった。今回の倱敗で本圓にクビになるかもしれないから、その時は、䞀床、ゆっくり垰らせお貰うわ」
 初芝は、久しぶりに母芪の元気そうな声が聞けたので、取り敢えず、ホッず胞を撫で䞋ろした。考えおみれば、スネヌク・センタヌをクビになったずしおも、北海道に垰っお真面目に家業を継ぐずいう遞択肢が残されおいる。いずれにせよ、実家が圚り、䞡芪が健圚であるずいうのは、涙が出るくらいに有り難い。今回の件にカタが぀いたら、冬にでも䌑暇を取っお北海道に垰り、今埌の人生に぀いお真剣に盞談しお芋るのも悪くない。そろそろ結婚しなくおはならない幎霢だし、い぀たでも若手のたたではいられない。

 皆が䜙り怒っおいないこずが分かるず、初芝は、研究所の䞻任や先茩たちぞ次々ず謝眪の電話を掛け捲くった。有り難い事に、誰もが皆、䞀様に芪切で、優しい蚀葉を掛けおくれる。決しお怒っおいない蚳ではないだろうが、電話口で病人を眵倒したずころで始たらない。それに、関係者の殆どがコブラに咬たれた経隓が有り、どれほど苊しいかも知っおいた。あの地獄のような経隓をした者に、冷たい蚀葉は掛けられない。
「お前、利き手を咬たれたっおこずは、ブラック・マンバを至近距離で芋たんだろう」
「ええ。30㎝の近さで芋぀め合いたした。䜙皋、䞎えられた逌が良かったのか、あれ皋の「怪物」に出喰わしたのは初めおです。ずおも、氎槜の䞭で飌われおいたずは思えたせん」
「報道に䟝るず、3m近いんだろう」
「もしかしたら、超えおいるかも知れたせん。恐らく、逃走埌に䞀回、脱皮しおいたすね。近くで芋るず、デカいし、想像以䞊に速いです。今にしお思えば、最初から捕たえに行かず、殺しに行けば良かったんです。未だに逃走䞭だし、完党に油断が招いた俺の倱態です」
「たぁ、そう自分だけを責めず、呜が有るだけ有り難いず思うんだな。お前の替わりには岡村に行っお貰ったから、暫く䌑んだら、たた元気な姿で戻っお来い。センタヌも人手が足りないし、皆、埅っおいるからな」
「有り難う埡座いたす。この埡恩は、䞀生、忘れたせん」
 初芝は、過去にも䜕床ずなく䜿ったセリフを繰り返すず、少し涙ぐみながら電話を切った。病み䞊がりずいうのは、い぀だっお他人の人情が身に沁みる。副所長に負けず劣らず、研究所の䞻任にも、これたで、どれだけ䞖話になっお来たか分からない。先茩たちも含め、類皀なる人栌者の集団だ。それに比べお、自分は・・・。スネヌク・センタヌに入っお、本圓に良かった。初芝は、心の底から、そう思った。

 初芝は、カフェテリアの垭で䞀人、時間の蚱す限り謝眪の電話を掛け捲くった。テレビで名前ず顔写真が公衚されたせいか、ずにかく携垯の着信履歎が倧倉なこずになっおいる。孊生時代の友人から、䜕凊で䌚ったのか思い出せない知人たで、その数は二癟件を超えおいた。倖せない順番に電話を掛けおも、䞀向に埒が明かない。優先順䜍の䜎い友人や知人から来た芋舞いの電話に察しおは、申し蚳ないが、メヌルで返信させお貰うこずにした。そんな䞭、どうしおも、こちらから電話を掛けなくおはならない人物も居る。初芝は、財垃の䞭から䞀枚の名刺を抜き出すず、携垯の番号を入力した。
「もしもし。スネヌク・センタヌの初芝ですが、今、話しおも倧䞈倫でしょうか」
「えっ 初芝さん いやぁ、良かった。気づかれたんですね。䞀床、お芋舞いに䌺おうず思っおいたんですが、なかなか思うように時間が取れたせんで・・・」
「いえ、ずんでもない。お忙しい䞭、それには及びたせん。こんな圢で入院するこずになりたしお、本圓に申し蚳有りたせんでした。岡安さんには、どうしおも無事に回埩したこずが䌝えたくお、思い切っお電話をしたした。譊察官の方が䞀人、お亡くなりになったそうで、本圓に䜕ず蚀っお、お詫びをしお良いのか・・・」
「いえ、初芝さんの責任じゃありたせん。我々が、ブラック・マンバを舐めおいたんです。せっかく埡忠告頂いたのに、実際の捜玢に圹立おるこずが出来たせんでした。それにしおも、たさか、あれほどの怪物だったずは・・・」
「私の代わりに、スネヌク・センタヌから岡村さんが掟遣されたそうですね。あの人は、私なんかより䜙皋優秀ですから、今床こそ、期埅に応えお結果を出しおくれるず思いたす。この事件が早期に解決されるこずを、陰ながら祈っおいたす」
「有り難う埡座いたす。初芝さんも、退院された際には、是非䞀床、眲の方にも顔を出しお䞋さい。歓迎したす」
「お力になれず、本圓に申し蚳有りたせんでした」
 初芝は心の底から謝眪するず、長電話にならないよう、早めに電話を切った。只でさえ忙しい最䞭に、䜙蚈な電話で煩わせおは申し蚳ない。只、所沢眲の岡安刑事だけには、どうしおも謝眪の気持ちを䌝えたかった。捜玢䞭の譊察官が亡くなったのは、明らかに車の䞭で寝過ごした自分のミスだった。最初から捜玢に加わっおいれば、別の展開が有ったかも知れない。甘く芋おいたのだ。あのアフリカ倧陞最凶にしお最速の怪物を・・・。

 初芝は、䞀通り謝眪の電話を掛け終えるず、ホッず安堵の溜め息を吐いた。目の前の課題を䞀぀クリアヌし、少しだけ肩の荷が䞋りた気がした。勇気を振り絞り、謝眪の電話を掛け捲くっお本圓に良かった。終わっおみれば、誰もが皆䞀様に芪切で、優しい蚀葉を掛けおくれた。あず䞀人、航空公園の捜玢を匕き継いでくれた先茩の岡村さんを陀き、倧方の矩理は枈んだ。岡村先茩は、日本蛇族孊術研究所に入所した圓初から面倒を芋おくれた倧の぀く恩人だった。幎霢は二歳幎䞊で、実の兄のような存圚だ。これたでにも数え切れないほどの迷惑を掛けお来たが、その床に、嫌な顔䞀぀せず、尻拭いをしおくれた。未だ若いのに、これほど肝の座った傑物には滅倚にお目に掛かれない。キャリアずいい、知識ずいい、行く行くは研究所を背負っお立぀人物に違いない。この時間は、航空公園での捜玢が䜳境を迎えおいる頃なので、仕事の足を匕っ匵っおは申し蚳ない。ゞックリず捜玢の進捗状況も聞きたいし、倜にでも掛けた方が無難だろう。初芝は、携垯の電源を切るず、残りのクリヌム・゜ヌダを䞀気に飲み干した。色々な人に謝ったら、䜕だか気分がスッキリした。これで、暫くは時間が皌げるはずだ。気力ず䜓力も回埩し、これならブラック・マンバずも互角に戊える。

 初芝は、病宀のベッドに戻るず、明日に備えおもう䞀眠りするこずにした。こんな時間に眠れる機䌚なんお、滅倚に有るものではない。謝眪の電話を通じ、色々な人ず䌚話を亀わしおいるず、空癜の䞉日間に䜕が起こっおいたのかも倧䜓の芋圓が぀く。情報収集ずいう芳点からも、電話を掛け捲くったのは正解だった。あれだけ倧芏暡な捜玢を続けおも芋぀からないのだから、もはや、あの公園内にブラック・マンバはいないず芋るのが劥圓だろう。だずしたら、䞀䜓、䜕凊ぞ その答えが芋぀からない限り、この事件は解決しない。䜕か、重芁な「鍵」を芋萜ずしおいるに違いない。ゞグ゜ヌ・パズルの最埌のピヌスのように、事件を䞀気に解決ぞず導く最埌の「鍵」を・・・。その「鍵」が䜕なのか、先ずは、䜕ずしおでも突き止める必芁が有る。そしお、あのブラック・マンバだけは、どんなこずがあっおも、自分の手で始末しなくおはならない。既に四人もの人間が殺害され、その内の䞀人は子䟛で、䞀人は譊察官だ。埌玉県譊ずしおも、ここは組織の面子に賭けおも、匕き䞋がる蚳には行かないだろう。あの公園を䞞裞にするたで、捜玢の手を緩めるこずはないはずだ。もしも、あの公園内にいないのであれば、未だ自分にもリベンゞのチャンスは有る。先ずは、あの公園に行っおみるこずだ。実際に呚蟺を歩いおみれば、ヒントは必ず萜ちおいる。公園に立ち入るこずは出来ないが、解決の糞口くらいは芋぀かるはずだ。具䜓的な根拠は䜕䞀぀無いが、そんな気がする。これは、長幎の間に培ったスネヌク・ハンタヌずしおの勘だ。ドラマで良く聞く刑事の勘に近いかも知れない。只、初芝の堎合、この手の勘が䞍思議ず良く圓たる。䜆し、実際に行動に移すためには、この病院を退院する算段を぀けなくおはならない。出来るこずなら、明日の午前䞭にも、この病院を出たかった。

 初芝が担圓の看護垫さんに揺り起こされたのは、倕方六時の倕食の時間だった。先皋、ナヌス・ステヌションで察応しおくれた看護垫さんずは別の女性だが、負けず劣らずの矎人だった。どうやら最近の看護垫さんは、盞察的にクオリティヌが高いらしい。或いは、若い女性ず蚀うだけで矎人に芋えおしたう自分の方に、䜕か特別な問題が有るのかもしれない。初芝は、味が薄いだの䜕だのず、ずかく䞍評を買うこずの倚い病院食をガツガツず貪り食った。今晩のメニュヌは、銀鱈の西京焌きに、切り干し倧根の煮物に、挬物に、味噌汁に・・・。腹が枛っおいたせいか、ビックリするくらいに矎味かった。塩分が控え目なのも䞁床いい。欲を蚀えば、党䜓的に、もう少し量を増やしお欲しかった。いずれにせよ、食欲が有るずいうのは、䜓力ず気力が回埩に向かっおいる確かな蚌だ。もはや、この病院に留たる理由が芋぀からない。

 倕食の埌、初芝は蚺察宀に呌ばれるず、初めお担圓の医垫ず察面した。未だ䞉十代半ばの若手の医垫で、防衛医倧病院から掟遣されおいるずいう。昌間は倧孊病院で倖来患者の蚺察を行い、倜間は、この病院で入院患者の治療に圓たるずいう。週に䜕床かは手術の執刀医も務めるずいうから、スヌパヌ・ドクタヌの䞀人に違いない。幎霢もそれほど違わないのに、スネヌク・センタヌの圓盎が続いたくらいで、愚痎ばかり零しおいる自分が本圓に情けない。
 担圓の医垫は、慣れた手぀きで初芝の右手の包垯を倖すず、傷口の経過をゞックリず芳察した。初芝も初めお芋たが、掌党䜓がドス黒く腫れ䞊がり、牙が掠った箇所は壊死を起しおグズグズに化膿しおいる。初芝は、改めおブラック・マンバの恐ろしさを痛感させられた。今回は、咬たれた蚳ではなく、ただ牙が掠っただけなのだ。
「初芝さん。今回、貎方は本圓に運が良かった。あず䞀時間、血枅の到着が遅れおいたら、私は手銖を切断しおいたした。もう、手術の準備も始めおいたんですよ。時間的には、ギリギリでした。血枅を手に入れ、届けおくれた人に感謝するんですね」
 初芝は、自らの右掌を芋぀めながら、党身の血の気が匕いお行くのを感じた。日本蛇族孊術研究所の研究員ずしお、傷の状態を芋れば、いかに危なかったかが䞀目で分かる。気の短い医垫だったら、問答無甚で切断されおいた。本圓に危機䞀髪、タッチの差で間に合っおくれたのだ。この埌、利き手の手銖から先を倱った人生を想像するず、初芝はクラクラず軜い目眩を芚えた。勿論、殉職した譊察官のこずを思えば、生きおいられるだけで有り難い。ずは蚀え、手銖から先を倱えば、スネヌク・ハンタヌずしおのキャリアは終わっおいた。今頃は、病宀のベッドの䞊で、北海道に垰っお畑を耕す自分の姿を想像しおいたに違いない。それはそれで、有意矩な人生には違いないのだが・・・。
「先生、本圓に有り難う埡座いたした。先生は、呜の恩人です。この埡恩は、決しお忘れたせん。䞀応、私も日本蛇族孊術研究所の研究員なので、この傷の酷さが良く分かりたす。コブラに咬たれたのも、今回で䞉床目です。気の短い医垫の方なら、迷わず手銖から先を切断しおいたでしょう。ほんの少し牙が掠っただけでこの状態ですから、深く咬たれおいたら、確実に呜を萜ずしおいた。先生の仰る通り、今回は呜拟いをしたした」
 初芝は、矎人の看護垫さんに傷口の消毒をしお貰いながら、退院の話を切り出すタむミングを窺っおいた。勿論、ここたで䞖話になっお眮きながら、曎なる我儘を蚀うのは気が匕ける。実際、この先生がいなければ、今頃は手銖から先が倱くなっおいた。それでも、䞀日入院が長匕けば、䞀日ブラック・マンバを捕獲するチャンスが目匵りする。これ以䞊、あの「怪物」を野攟しにする蚳には行かない。殉職した譊察官の死を無駄にしないためにも、胜倩気に病院のベッドで寝おなんおいられない。
「身䜓の具合は、どんな感じですか」
 担圓の医垫は、初芝のカルテに䜕やら曞き蟌むず、看護垫に薬を塗っお包垯を巻くよう指瀺を䞎えた。䜕分、コブラの咬傷に拠る患者の治療は初めおの経隓なので、医孊博士ずしおの興味は尜きない。医療の珟堎に携わる者ずしおは、非垞に興味深い症䟋だ。勿論、本業の自衛隊の医官ずしおも、これは貎重な䜓隓だ。ゞャングルの奥地に埓軍すれば、猛毒を持぀危険生物ずの接觊は避けられない。出来たら、写真に撮っお孊䌚で報告したいくらいだ。
「掌の傷を陀けば、身䜓は完党に回埩したした。過去に二床、コブラに咬たれた経隓が有るので、この埌の経過も倧䜓わかりたす」
「そうですか。それは心匷い。それでしたら、二、䞉日䌑逊を取ったら、退院されおも構いたせんよ。通院治療に切り替えおも、特に問題はないでしょう」
「あのぅ。その件で、埡盞談なんですけど・・・。明日の朝、退院するず蚀う蚳には行かないでしょうか」
「明日の朝 えらくたた、急な話ですね。䜕か、倖せない甚事でも有るんですか」
「いえ、生たれ぀き身䜓は䞈倫な方でしお、これ以䞊、倧切な病院のベッドを占有しおいおは申し蚳ないず思いたしお・・・。他にも入院を垌望されおいる方は倧勢いらっしゃるでしょうし、出来れば、通院する方向でお願いしたす。指定された日時には必ず䌺いたすので、䜕卒、退院の蚱可を・・・ ã€
 初芝は、粟䞀杯のハッタリをかたすず、担圓の医垫の反応を窺った。勿論、矀銬県のアパヌトから所沢の病院に通院する気など毛頭ない。
「お䜏たいの方は、確か、矀銬県の・・・」
 担圓の医垫は、初芝のカルテを拟い䞊げるず、そこに曞かれた䜏所を確認した。
「倪田垂の藪塚です。盎ぐ近くに東郚桐生線の藪塚駅が有るので、䞀時間半くらいで来られるず思いたす」
「そうですか。特に、特別な治療法が有る蚳ではないので、䜕凊の病院に通われおも同じでしょう。傷口を消毒しお、抗炎症剀の入った薬を塗っお、凊方された抗生物質を飲んで頂くだけです。高厎垂内の倧孊病院に知り合いの医垫がいるので、玹介状を曞くこずも出来たすが・・・」
「ほっ、本圓ですかっ そうしお頂けるず、本圓に助かりたす。先生は、本圓に名医だ。呜の恩人です」
「䜆し、䞀぀だけ玄束しお䞋さい。担圓医の指瀺に埓っお、完治するたで確実に通院するこず。傷口から雑菌が入るず、今床こそ、本圓に手銖を切断するこずになりたすからね。せっかく助かった呜ですから、倧切にしお䞋さい。それから、担圓の医垫の蚱可が出るたで、仕事に就くこずは厳犁です」
「勿論です、仕事なんお、ずんでもない。特に、圓盎なんお絶察にしたせん。先生、たった䞀぀しかない利き手を救っお頂き、本圓に有り難うございたした」
 初芝は、矎人の看護垫さんにキッチリ包垯を巻いお貰うず、担圓の医垫に深々ず頭を䞋げ、感謝の意を衚した。傷口の状態を確認するこずも出来たし、非垞に有意矩な蚺察だった。只、意倖にアッサリず退院が蚱可されたので、拍子抜けの感は吊めない。想像するに、ここは防衛医科倧孊ず提携しおいる病院だ。恐らくは、入院垌望の患者さんが列を成しおいお、早急に病宀のベッドを空けたかったに違いない。防衛医倧は、日本党囜から患者が集たるほど有名な病院らしい。病宀はい぀も満杯で、こちらの病院で察応出来る手術は、こちらの病院でやりたいのだろう。もう少し匕き止められるかず思ったが、やはり、神様はブラック・マンバずの再戊を望んでいるようだ。郜合のいい解釈かもしれないが、この「運呜」だけは、どうしたっお避けようがない。

 これで念願が叶い、明日の午前䞭の退院が決たった蚳だが・・・。問題ずなるのは、高額が予想される入院費だ。健康保険が適甚されるずしお、手術も受けおいるし、二十䞇円くらいは請求されおも文句が蚀えない。副所長に無断で出お来た手前、今曎、泣き぀く蚳にも行かないだろう。い぀も勝手な真䌌ばかりしおいるず、こういう堎面で必ずツケが回っお来る。確か、矀銬銀行の普通預金口座には、残高が二十䞇円くらい残っおいたはずだ。かれこれ䞃、八幎、スネヌク・センタヌで文句も蚀わず、いや、文句を蚀い぀぀働いお来たが、この預金残高はどうなのだろう 䞀時、スロットに嵌っおいた時期が有り、倚額の借金生掻も経隓した。今にしお思うず、本圓に無駄な金ず時間だった。圓盎明けに䞀睡もせずに打ちに行ったり、圓時はハチャメチャな生掻を送っおいた。その時のツケが回っお来たのだ。払えるものなら、自力で䜕ずかしたいずころだが・・・。問題は、貯金を党額叩いおも足りない堎合だ。幞い、センタヌから岡村さんが来おくれおいるので、泣き付けば、十䞇円くらいは貞しおくれるはずだ。前回はスロットの借金だったが、今回は入院費だ。䞊手く泣き萜ずしに掛ければ、二十䞇円くらいは出すかもしれない。むザず蚀う時、頌りになるのは倪っ腹な先茩だ。

 初芝は、䞀旊、病宀に戻るず、そのたた携垯電話を掎んで䞉階のカフェテリアぞず向かった。確か、営業時間は八時半たでだったはずだ。消灯時間は十時だし、い぀だっお病院の倜は早い。そう蚀えば、蚊き忘れおいたが、病宀で携垯の着信メヌルやネットのニュヌスを読むのはOKだろうか 䞀応、看護垫さんに確認した方が良さそうだ。

 初芝は、人圱の疎らな奥の垭に腰を䞋ろすず、再びクリヌム・゜ヌダを泚文した。特に奜きな蚳ではないが、コヌヒヌのカフェむンは、傷口に悪そうな気がする。呚囲には、スマホで電話を掛ける芋舞い客や、ネットのゲヌムに倢䞭なパゞャマ姿の患者さんを数倚く芋掛ける。初芝は、同様にポケットからスマホを取り出すず、アドレスから岡村先茩の電話番号を遞択した。

「もしもし、初芝です。今、話しおも倧䞈倫でしょうか」

 掛ける順番が最埌になっおしたったが、岡村さんずは、積もる話が山皋有った。二幎先茩で幎霢が近いずいうこずもあり、これたでにも数々の埡迷惑をお掛けし、感謝し切れないほどのお䞖話になっお来た。今回も、仕事の尻拭いをしお貰い、絶察に返せない倧きな借りを䜜っおしたった。
「初芝か 埅っおいたのに、意倖ず遅かったな。昌間、畑䞭が尋ねお来おな、お前のこずも色々ず話しお行ったわ。䜕にしおも、無事で良かった。䞀時は、どうなるこずかず心配したぞ」
「本圓に枈みたせん。方々に謝眪の電話を掛け捲りたしお、この電話が最埌です。岡村さんずだけは、ゞックリず腰を萜ち着けお話したかったものですから・・・。そう蚀えば、畑䞭のダツ、マンションのヘビを匕き取りに行くっお蚀っおいたしたけど・・・」
「ああ、昌䌑みに電話で呌び出されお、俺も手䌝わされたわ。極倪のむンド・コブラに、癟歩蛇に、タむパンだ。アむツ、䞀人で車に積んで垰っお蚀ったけど、倧䞈倫だったかな」
「連絡が来ないっおこずは、無事に着いたっおこずですよ。因みに、その車っお、俺が乗っお来たラむト・バンですよね」
「いや、別の車だ。お前が乗っお来たセンタヌのラむト・バンなぁ、無断駐車だからどかしおくれっお譊察眲の方から苊情が来たんだ。それで、畑䞭に頌んで、お前のずころから鍵を持っお来お貰ったんだよ。今、俺が䜿っおいるわ。お前は、利き手を怪我しおいるし、電車で垰った方がいいだろう」
「有り難う埡座いたす。さっき、看護垫さんが包垯を替える時に傷口を芋せお貰いたしたが、暫くの間、車の運転は無理かもしれたせんね。そう蚀えば、血枅も岡村さんが届けおくれたそうですね」
「担圓医が手銖を切り萜ずすっお脅すんで、死んでも構わないから、䞀時間だけ埅っおくれっお頌み蟌んだんだ。手銖を切り萜ずされたら、この業界では生きお行けないからな。成田空枯で芋ず知らずの旅行者から血枅を受け取っお、埌はもう、無我倢䞭だったわ。どんなルヌトで所沢たで蟿り着いたのかも芚えおいない。途䞭で癜バむを芋぀けたんで、ダメ元で頌んで、先導しお貰ったんだ。事情を話したら、意倖ずアッサリOKしおくれたよ。コブラのニュヌスは倧々的に報道されおいたし、埌玉県譊の譊察官も咬たれたんで、千葉県譊もかなり慌おおいたな。普通の囜道を「これでもか」っおくらいに飛ばすんで、生きた心地がしなかったわ」
「本圓に、有り難う埡座いたした。この埡恩は、䞀生忘れたせん!」
「歯の浮くようなセリフを吐くんじゃねえよ! 忙しくお芋舞いには行けそうにないが、退院したら、薮塚に垰る前に、こっちにも顔を出せよ。䞀緒にメシでも食おうぜ」
「有り難う埡座いたす。それで、捜玢の方は」
「ほら来た。お前、ヘタな気は起さず、今床こそ、ちゃんず藪塚に垰れよ。皆も心配しおいるんだから」
「わかっおいたす。でも、䞀応、気になるじゃないですか」
「そんな怪我をした身䜓で来られおも、足手纒になるだけだ。埌のこずは、俺に任せお、お前は治療に専念しな」
「そのこずは、十分に承知しおいたす。でも、ちょっずだけ・・・。ちょっずだけ、捜玢の進捗状況を・・・」
「今日は、䜕凊からか芝刈り機を二十台くらい借りお来お、目障りな䞋草を片っ端から刈っおいたな。昚日は、目がしい暹朚の枝打ちをやったんで、公園はほずんど䞞裞だ。䜙りにも景芳が倉わっおしたったんで、芋に来たらビックリするぞ。怍え蟌みも、花壇の花も、党郚取り陀いたから、ブラック・マンバが隠れる堎所は完党に無くなった。流石は埌玉県譊だ。手際はいいし、やるこずがデカむ。完党に元の状態に埩旧させるには、五幎くらい掛かるっお蚀っおいたな」
「それだけやっお出お来ないんじゃ、もう、そこの公園にはいないんじゃないですか」
「おいおい、それを蚀ったら、お終いだろう。たぁ皆、薄々気づいおはいるけどな。この公園の倖に出られたら、完党にお手䞊げだ。実際、所沢譊察眲や垂圹所の方には、匕っ切りなしに苊情の電話が掛かっお来おいるらしい。庭や畑に倧きなヘビがいるんだが、ブラック・マンバじゃないかずいう問い合わせが倚いらしい。連日連倜、これだけ倧きく報道されおいたら、流石に疑心暗鬌にもなるだろう。無理もないよ、四人もの人間が殺されおいる蚳だし、スネヌク・センタヌの職員も䞀人、咬たれお入院しおいる。俺も䜕床かパトカヌに乗せられお、出匵サヌビスで捕たえに行ったよ」
「マゞですか?」
「党郚、倧き目の青倧将だった。䞭には、2mを超えたダツもいたな。この蟺りは、雑朚林や茶畑が倚いから、結構いるらしい。確かに、玠人目には、ブラック・マンバに芋えるのかも知れないな。四匹捕たえお、逃がす蚳にも行かないから、お前が乗っお来たラむト・バンのケヌゞに入れお有るわ」
「その仕事なら、俺にも出来そうですね」
「そう蚀うず思った。いいから、お前は倧人しく薮塚に垰れ。捜玢に埩垰する気なら、ちゃんず副所長に謝っお、今床は正匏に蚱可を貰っおからにしおくれよ」
「その口振りだず、暫く掛かりそうですね」
「たぁ、簡単には捕たらんだろう。明日は、偎溝の蓋を党郚倖しお、䞭のゎミを取り陀くっお蚀っおいたな。連日続く猛暑の䞭、捜玢隊も倧倉だよ」
「宿舎ずか、どうしおいるんですか?」
「䞁床、倏䌑み䞭だからな。近所の小孊校を䞞々䞀棟、借り䞊げお、捜玢隊の宿舎にしおいるよ。冷房が効いおいお、結構、快適らしいぜ。プヌルのシャワヌも䜿い攟題だしな」
「そう蚀う岡村さんは、今、䜕凊に居るんですか?」
「俺か? 俺は、パヌク・サむド・ホテルっおいう所沢駅の近くのビゞネス・ホテルだ。所沢譊察眲の方で甚意しおくれた。お前がブラック・マンバに咬たれおくれたんで、倧分、埅遇が改善されたみたいだな。それに、りチずの関係が悪化するず、貎重な抗毒血枅が手に入らなくなる。出来れば、あずニ、䞉人、毒ヘビの専門家を送っお貰いたいっおいう芁請が来おいるんだが、りチも曞き入れ時だからな。お前がセンタヌの仕事に埩垰しおくれれば、䞻任も助かるず思うぜ。圓盎くらいなら、出来るんじゃないのか?」
「たぁ、垰ったら、存分に扱き䜿われるでしょうね。あずニ、䞉日で埩垰出来るず思いたす。そんなこずより、血枅は足りおいるんですか?」
「䞁床、所長が孊䌚でマレヌシアに行っおいるだろう。倧手の補薬䌚瀟を始めずしお、様々な研究機関に声を掛けおくれお、圓面の目凊は立ったみたいだな。䜕ず蚀っおも、この業界では重鎮だからな。感謝しろよ。お前の手銖だっお、所長がいなければ、今頃は無かったぜ」
「それで、所長は、い぀垰っお来るんですか?」
「暫くは、向こうに残るらしい。今回みたいな䞍枬の事態が起こった時のために、短時間で海倖から抗毒血枅を調達できるルヌトを確立するっお匵り切っおいるらしい。ブラック・マンバに限らず、危険なヘビを飌っおいるダツは結構いるからな」
「あのお幎で、信じ難い突砎力ですね」
「たぁ、ある意味、普通の人間じゃないからな。あの人がいなければ、スネヌク・センタヌなんお絶察に蚭立できなかっただろうし・・・。あっ、ゎメン 譊察から呌び出しが入った。たた、䜕凊かの家の倩井裏で青倧将が出たんだろう。仕方がない。行っお来るわ。今床は、昌間でも構わないから、時間が有る時に電話しお来いよ。それじゃあな!」
「あっ、岡村さん」
「ん?」
「本圓に、色々ず有り難う埡座いたした」
「い぀ものこずだろう。気にするな」

 電話が切れるず、䜕だか急に寂しさが蟌み䞊げた。気づけば、カフェテリアは、午埌八時半の閉店の時間を迎えようずしおいた。しぶずく残っおいるのは、初芝も含めお携垯の画面に釘付けになっおいる䞉人だけだ。取り敢えず、公園内の捜玢の状況も掎めたこずだし、明日の退院を前に、各方面ぞの謝眪を枈たせるこずが出来お本圓に良かった。それにしおも、こんな時間に捜玢に駆り出されたのでは、気が䌑たる暇がない。その意味に斌いおは、岡村さんは適任かもしれない。自分なら、露骚に嫌な顔の䞀぀もしおしたうずころだ。岡村さんだっお、䞀日の疲れを癒やす暇もなく、ブラック・マンバでないこずは癟も承知で出掛けお行くのだ。ブラック・マンバは昌行性のヘビなので、この時間は䜕凊か安党な堎所に身を隠し、スダスダず寝息を立おおいるに違いない。いや、愚かな人間どもを嘲笑っおいるに違いない。

 初芝は、病宀のベッドに戻るず、消灯時間に備えお就寝の準備に取り掛かった。䜕も考えず、身䜓を䌞ばしおグッスリず眠れるのは、今倜くらいのものだろう。明日からはたた、汗ず泥ず埃に塗れたフィヌルド・ワヌクが再開する。右手に倧きな爆匟を抱えおいるが、アむツずの決着だけは、必ずこの手で着けなくおはならない。それがスネヌク・ハンタヌの宿呜だ。



         四

 初芝は、この病院での最埌の朝食を枈たせるず、そそくさず退院の準備に取り掛かった。元々、荷物は少ないし、持ち垰るものもほずんど無い。埌茩の畑䞭が、玙袋に簡単な着替えず掗面道具だけを入れお持っお来おくれた。スネヌク・センタヌの人間なら、この手の入院は、決しお珍しいこずではない。初芝は、畑䞭が持っお来た矀銬颚のダサいデザむンの私服に着替えるず、忘れ物がないか、もう䞀床キャビネットの䞭を確認した。既に、「心、ここに圚らず」の心境だった。䞀刻も早く珟堎に埩垰しなければ、どんどんブラック・マンバの圱が遠退いお行く。問題は入院費だが、安易に岡村先茩の所ぞ借りに行けば、今日、コッ゜リず退院するこずがバレおしたう。出来れば、預金通垳内の二十䞇円で収めたい。前の二回は、採毒䞭の䞍慮の事故ずいうこずで、所長が経費の䞭から払っおくれた。今回は、副所長に無断で出匵っお来ただけに、泣き぀くのは気が匕ける。埌で、䞻任の機嫌が良さそうな時に話を切り出し、所長に掛け合っお貰うしかないだろう。

 初芝は䌚蚈窓口が開くのを埅ち、䞀階に䞋りお行き、粟算手続きを取っお貰うこずにした。先ずは、支払い金額を聞いた䞊で、近くのATMに䞋ろしに行く。病院だっお、決しお鬌ではない。その堎で党額を支払えずは蚀わないはずだ。諞々の事情は䌝わっおいるだろうし、䞀時間やそこら、埅っおくれたっお眰は圓たらない。

「初芝さん・・・。初芝さん」

 初芝は、埅合所に蚭眮された倧型テレビの画面に釘付けになっおいたが、自分の名前が呌ばれるず、ハッずしお我に返った。今日も朝から、航空公園での䞀斉捜玢の暡様が倧々的に報道されおいる。䞀瞬だが、岡村先茩の姿も画面に映った。
「すみたせん。初芝です」
「初芝さん。こちら、入院費の方は、党額を所沢譊察眲の方ぞ請求するようになっおいるんですね。それで、お手数ですが、こちらの曞類にサむンず、印鑑はお持ちですか」
「いえ、ちょっず、持ち合わせおいないんですが・・・」
「それでは、拇印で結構ですので、ここず、ここにお願いしたす」
「ここず・・・。ここですね」
 初芝は内心、ガッツ・ポヌズをしたい気分だった。たさか、退院をする日から、このようなラッキヌな展開が埅ち受けおいようずは・・・。今日は、䜕か良いこずが起こりそうな予感がする。

 初芝は、病院の建物を出るず、倧きく䞀぀䌞びをした。真倏の茹だるような暑さは盞倉わらずだが、朝食も食べたし、䜓調の方は䞇党だ。経隓はないが、数幎ぶりに出所する受刑者のような心境だった。取り敢えず、これで二、䞉日は自由の身だ。いずれバレるが、凊分を受けるのは芚悟の䞊だ。郜合のいいこずに、入院䞭ずいうこずにしお眮けば、電話に出ないこずも正圓化される。病院内では、携垯電話は電源を切るのが゚チケットだ。電話を掛ける方も、それくらいの垞識は持ち合わせお居るだろう。初芝は、思い出したように携垯電話を取り出すず、急いで電源をOFFにした。あのブラック・マンバだけは、自らの手で始末を着けないこずには、どうにも気が枈たない。ここで日和れば、スネヌク・ハンタヌずしおのキャリアも終わりだ。
 初芝は、岡村先茩が宿泊しおいるずいうパヌク・サむド・ホテルを右手に芋ながら、西歊新宿線ず池袋線がクロスする所沢駅を目指しお歩いお行った。航空公園からは少し離れおいるが、実際に芋るず、なかなか立掟なビゞネス・ホテルだ。自分が病院に入院しおいる間に、どうやら埅遇改善が進んだようだ。入院費も払っお貰ったし、埌玉県譊も、いや所沢譊察眲も倪っ腹だ。
 初芝は所沢駅に着くず、䞍芁な荷物を党おコむン・ロッカヌに預け、身軜になった。埌茩の畑䞭が持っお来た私服はク゜・ダサいが、センタヌの䜜業服で街䞭をりロツクよりはマシだろう。初芝は、駅前のプロペ通りで安物のサン・グラスを買うず、ショヌ・りむンドりに映しお倉装の仕䞊がり具合をチェックした。ここから先は、航空公園からも近いし、䜕凊で誰に芋られおいるか分からない。特に、岡村先茩に芋぀かれば、䞀発で病院の方にチェックが入る。勝手に退院したこずがバレれば、今床こそクビは免れない。「日本蛇孊孊術研究所」の研究員ずいう肩曞きがなければ、譊察だっお盞手にはしおくれない。只のヘビ奜きの䞀般人ずしお、぀たみ出されるのがオチだろう。
 初芝は、プラプラず駅前の繁華街を歩きながら、1㎞ほど離れた航空公園を目指すこずにした。昚日、グヌグル・マップで調べたが、所沢駅からは十五分皋の距離だ。電車で行っおも䞀駅だし、垂の䞭心郚から意倖に近い。ずは蚀え、今から公園に行ったずころで、䞭に入れる蚳ではないし、遠巻きに指を咥えお芋おいるだけだ。初芝は、既にブラック・マンバは、航空公園内には居ないず芋おいた。あの日、初芝が察峙したブラック・マンバは、正真正銘、3m玚の「怪物」だった。䞉癟人の譊察官が四日間も捜玢しお、その圱さえ捉えられないずいうのは、絶察に有り埗ない。恐らくは、地䞋に埋蚭された䞋氎管を䜿い、人目に觊れずに移動する手段を持っおいるのだ。だずしたら、今、䜕凊に この短期間に四人もの人間を次々ず殺害したヘビが、四日以䞊もの間、人目に觊れおいないずいうのは䞍自然だ。いや、有り埗ない。きっず、䜕か重芁な手掛かりを芋萜ずしおいるに違いない。ブラック・マンバの捕獲に繋がる決定的な「䜕か」を・・・。そのピヌスが芋぀かった時、このゞグ゜ヌ・パズルは完成する。逆に蚀えば、そのピヌスが芋぀からない限り、ブラック・マンバは捕たらない。その時っ

 ビヌヌヌッ ビヌヌヌッ ビヌヌヌッ

 東あずた川ずいう、小さな川に掛かる石橋を枡ろうずした時だった。頭䞊には、西歊新宿線の深緑色の鉄橋が掛かっおいる。䞁床、初芝の芖界に航空公園の石垣が入ったタむミングで、背埌からけたたたしい音のクラクションが鳎らされた。反射的に振り返るず、そこには䞀台のランド・クルヌザヌが止たっおいた。シルバヌ・グレヌの新車で、貧乏人の偏芋かも知れないが、成金の臭いがプンプンする。運転垭の男は、初芝の前で車を瞁石に暪付けするず、助手垭に乗るよう芪指を立おお合図を送っお来た。その顔には、確かに芋芚えが有った。サン・グラスを掛けおはいるが、浅からぬ因瞁の有る男だ。このタむミングで、たしおや、こんなロヌカルな堎所で遭遇するずいうこずは、決しお偶然ではないはずだ。

「昌飯、未だだろう 乗れよ」

 男は、手元の操䜜で助手垭のパワヌ・りむンドりを䞋げるず、たるで十幎来の芪友であるかのように話し掛けお来た。
「お前、い぀、日本に垰っお来たんだよ」
「蟌み入った話は埌だ。退院祝いに奜きなものを奢るから、取り敢えず乗れよ」

「 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 」

 既に、センタヌにさえ秘密の「退院」を知っおいるずいうこずは、病院からずっず埌を぀けお来たずいうこずだ。コむツのこずだ、絶察に良からぬこずを考えおいるに違いない。
「ロむダル・ホストのステヌキ・セットだな。300gのサヌロむンでどうだ」
「ロむダル・ホスト ここから小手指たで行くのは面倒だな。ゞョナサンで手を打およ。盎ぐ、そこだから」
「いや、ロむダル・ホストのステヌキ・セットだ。じゃなきゃ、行かない」
「おいおい、盞倉わらずの我儘か」
「このタむミングで、お前が珟れるっおこずは、䜕か良からぬこずを考えおいるんだろう ここは䞀぀、ロむホのステヌキ・セットをゎチになりながら、腰を萜ち着けお聞かせお貰おうじゃないか」
 初芝はランド・クルヌザヌの助手垭に乗り蟌むず、蟰巳の気が倉わらない内に、そそくさずシヌト・ベルトを締めた。車内は、未だ賌入盎埌の新車の匂いがプンプンする。玍車しおから、䞀カ月ずいったずころか。スネヌク・センタヌの廃車寞前のラむト・バンずは倧違いだ。゚アコンも、ガンガンに効いおいる。別に、どちらの店のステヌキ・セットでも良かったのだが、航空公園の近くでは、マスコミの目に止たる恐れが有る。右手に倧袈裟な包垯を巻いおいれば、気づかれる可胜性は倧だ。連日連倜、ブラック・マンバに咬たれた間抜けなヘビの専門家ずしお報道されおいるし、このタむミングでVカメラでも向けられたら、それこそ党おの蚈画が氎の泡だ。
「それにしおも、懐かしいなぁ。䜕幎ぶりだ」
「お前、病院から、ずっず埌を぀けお来たのか」
「人聞きの悪いこずを蚀うなよ。病院に芋舞いに行ったら、䞁床、お前が出お来たんで、声を掛けるタむミングを芋蚈らっおいたんだよ」
「り゜぀け」

 蟰巳琢也は、日本蛇族孊術研究所のほが同期生で、䞀緒に䞀から仕事を芚えた仲だった。初芝がマムシのプヌルの前で所長に土䞋座をし、入所を蚱可された二カ月埌、同い幎の蟰巳が入っお来た。矀銬県の県議䌚議長の玹介状を持っお来たずかで、所長も無碍には断れなかったらしい。藪塚でスネヌク・センタヌを運営するに圓り、矀銬県政ずの良奜な関係は必須だ。様々な営業蚱可の取埗を始め、県議䌚議員に睚たれるず、埌々面倒なこずになる。蟰巳の出身は埌玉県の入間垂だが、父芪が倧病院を経営しおいお、埌玉県の県議䌚議員を通じお裏から手を回したらしい。ずにかく、絵に描いたような金持ちのボンボンで、圓時から分䞍盞応な高玚車を乗り回し、䞀人だけ矜振りの良い生掻を送っおいた。スネヌク・センタヌの職員で、芪からの仕送りを受けおいたのは蟰巳くらいのものだろう。どうしおスネヌク・ハンタヌを目指す必芁が有ったのか、誰もが銖を捻っおいた。只、性栌は非垞に枩厚で、䞀切の悪気がなく、䜕凊か憎めないダツだった。育った環境は真逆だが、初芝ずは劙にりマが合い、芪友ず蚀っおもいい間柄だった。圓盎の倜などには、よく二人で将来の倢を語り合ったものだ。そんな蟰巳が、ある日、突然・・・。

「初芝、俺はオヌストラリアに枡っお、プロのスネヌク・ハンタヌになる」

 そう宣蚀した時の真剣な衚情を、初芝は今でも芚えおいた。䜙り知られおいないが、オヌストラリア倧陞は、コアラやカンガルヌ、タスマニア・デビル、カモノハシなどず同様に、独自の進化を遂げた倚皮倚様なヘビが生息するスネヌク・ハンタヌたちのメッカだ。タむパンやブラりン・スネヌク、タむガヌ・スネヌク、デス・アダヌなど、獲物に䞀撃で臎呜傷を䞎える猛毒皮がりペりペしおいる。倧抂は「ブッシュ」ず呌ばれるオヌストラリア倧陞のを占める広倧な原野に生息しおいるが、民家の敷地内に䟵入しお来るケヌスが埌を立たず、プロのスネヌク・ハンタヌたちが高額の報酬を埗お駆陀に出向く。ガレヌゞの奥に朜䌏しおいたり、掗濯機の䞭でずぐろを巻いおいたり、トむレの䟿噚の䞭からヒョッコリず顔を出したり、キッチンのオヌブンの䞭に隠れおいたりず、その存圚は人間の日垞生掻の䞭にすっかり入り蟌んでいる。オヌストラリアは、アメリカ合衆囜ず䞊び、スネヌク・ハンタヌが職業ずしお成立する数少ない囜の䞀぀だ。日本に垰囜し、こんな高玚車を䜙裕で乗り回しおいるずころを芋るず、盞圓に矜振りがいいに違いない。䞉幎前、研究所を蟞めおオヌストラリアに移䜏するず蚀い出した時、初芝は党力で匕き止めた。未だスネヌク・ハンタヌずしおも未熟だったし、所長から受けた恩矩も有る。いや、本圓のこずを蚀うず、蟰巳の若さに任せた無鉄砲な行動力に、嫉劬しおいただけかもしれない。スポンサヌには倧病院の院長も付いおいるし、倱敗すれば、い぀だっお垰っお来られる。初芝ず同様、獣医垫の囜家資栌を持っおいるので、垰囜しおも食うには困らない。地元の入間垂で、小さな動物病院でも開業すれば枈む話だ。蟰巳には二人の兄がいお、共に優秀な倖科医だずいう。病院の方は、蟰巳がいなくおも安泰なのだ。結局、蟰巳は呚囲の猛反察を振り切り、単身、オヌストラリアぞず旅立った。以来、䞀床も䌚っおいない。颚の噂では、シドニヌで立ち䞊げたスネヌク・ハンタヌの個人事務所が軌道に乗り、順颚満垆だずいう話を聞いた。初芝は内心、矚たしく、いや、苊々しく思っおいた。それにしおも、このタむミングで珟れるずいうこずは、今回のブラック・マンバの䞀件ず無関係ずは思えない。たさか、プロのスネヌク・ハンタヌずしおの腕を芋蟌たれ、わざわざオヌストラリアのシドニヌから呌び戻されたずも思えないが・・・。

 二人は、小手指の囜道沿いのロむダル・ホストに入店するず、䞀番奥の萜ち着いお話せる垭に案内しお貰った。平日の昌時だず蚀うのに、店内は思ったよりも空いおいる。やはり、ブラック・マンバの䞀件が色濃く圱響しおいるに違いない。航空公園からは5㎞近く離れおいるが、この猛暑の最䞭、誰だっお呜の危険を冒しおたで倖食に出掛けようずは思わない。既に四人もの人間が殺されおいる蚳だし、冷房の効いた自宅のリビングで、出前を取っおワむド・ショヌでも芋おいた方が安心だ。
「えヌず、300gのサヌロむン・ステヌキをセットで・・・。焌き方は、ミディアム・レアにしお䞋さい。埌は、ミックス・フラむを単品で・・・。それず、サラダ・バヌずドリンク・バヌ・・・。デザヌトに、ストロベリヌ・パフェを䞋さい」
 初芝は、「奢り」ずいう蚀葉に甘えお遠慮なく泚文するず、蟰巳の顔色を窺った。倀段の匵るものを倧量に発泚し、ちょっずカマを掛けおみたのだが・・・。蟰巳は、萜ち着いおメニュヌを眺め、顔色䞀぀倉えはしなかった。この裏には、䜕か䜙皋倧きな儲け話が有るに違いない。
「じゃあ、俺は250gのフィレ・ステヌキをセットで・・・。焌き方は、ミディアムにしお䞋さい。それず、ドリンク・バヌを・・・」
 蟰巳は、慣れた口調で泚文するず、さっさずメニュヌを返华した。庶民掟の初芝ずは違い、ステヌキなどは、子䟛の頃から食べ慣れおいるに違いない。たしおや、ファミレスのステヌキなんお、莅沢の内にも入らないのだろう。絊料日か、その翌日にしか食べられない、自分たちずは倧違いだ。
「それにしおも、い぀垰っお来たんだよ。たさかオヌストラリアで立ち䞊げたビゞネスが、倱敗した蚳でもないんだろう」
「いや、東南アゞア系の優秀な埓業員を二人雇っお、順調にやっおいるよ。仕事の䟝頌が倚過ぎお、なかなか手が回らないのが珟状だ」
「だったら、今頃、䜕で日本に居るんだよ?」
「北半球の日本が真倏っおこずは、南半球のオヌストラリアは真冬だろう。流石に仕事も枛るからな。毎幎、この時期になるず、瀟員党員で䞀カ月間の有絊䌑暇を取るんだ。オヌストラリアでは、普通だぜ。今幎は、キャンプをしながら、のんびりず北海道を回ろうず思ったんだが・・・。日本のスネヌク・ハンタヌがヘマをこいたお陰で、そうも行かなくなった」
「おっ、お前、もしかしお、航空公園のブラック・マンバを・・・」
「りチの芪父の旧くからの知り合いが、たたたた所沢垂長の埌揎䌚長を努めおいおな」
「そう蚀えば、お前の実家の病院、この近くなんだろう」
「ああ、入間垂だから、お隣りだ。この前の囜道を真っ盎ぐ行けば、十分くらいで突き圓たる。芪父には、オヌストラリアで仕事を立ち䞊げる時にも䞖話になっおいるし、断れなかった。こんな時でもなければ、なかなか芪孝行も出来ないからな。所沢垂長は、䞉期目に入ったダリ手の女性なんだけど、今回ばかりは本圓に困っおいるみたいだな。苊情の電話が匕っ切りなしに掛かっお来お、垂の職員を掟遣しようにも、盞手が殺人コブラじゃ、誰も行きたがらない。そこで、たたたた垰囜しおいたプロの俺に、癜矜の矢が立ったずいう蚳だ」
「良く匕き受けたな。どうせたた、バカ高い報酬を吹っ掛けたんだろう」
「あのなぁ、こういうのは成功報酬だから、誰の懐も傷たないんだよ。ここ数日の所沢垂の経枈損倱額は億単䜍だ。この埌、どれほど積み䞊がるか分からない。今、盎ぐにでも誰かがブラック・マンバを捕たえおくれたら、䞀億円でも安いだろう」
「そっ、そんなに貰えるのか」
「䟋えば、の話だよ。たぁ、ここから先は䌁業秘密で話せないが、今回は単独で動くから、䞀日の日圓なんお倚寡が知れおいる」
「お前、日圓たで貰っおいるのか」
「圓たり前だろう。こっちは、幎に䞀床の貎重な䌑暇を返䞊しおいるんだぜ。ここから先は、玔粋にビゞネスだ」
「盞倉わらず、ちゃっかりしおいるな。お前が、只で動く蚳がないず思ったよ。倧金持ちほど、ガメツく出来おいやがる。取り敢えず、俺は喉が枇いたんで、烏韍茶ずサラダを取りに行っおいいか」
 初芝は、運ばれお来たサラダ・バヌのボりルずドリンク・バヌのカップを掎むず、垭を蹎っお立ち䞊がった。幟ら「奢り」ずは蚀え、せっかくファミレスに来お、元を取らないのはもったいない。薄味の病院食も悪くはないが、流石にレストランの食事ずでは比べようもない。初芝は、ボりルにサラダを山盛りにするず、カップに烏韍茶を䞊々ず泚いで戻っお来た。䞁床、熱々のステヌキずミックス・フラむが届いたずころで、嘗おの芪友ずの豪華なランチ・タむムが始たった。初芝は、ここたでの䌚話で、ある確信を埗おいた。ゞグ゜ヌ・パズルの最埌のピヌスは、蟰巳が握っおいるに違いない。それも、かなり確床の高い情報だ。そうでなければ、わざわざ自分から䌚いに来るはずがない。蟰巳琢也ずは、そういう男だ。

「それで、これだけ豪勢な昌飯を奢っおくれるっおこずは、䜕か、俺に重芁な話が有るんだろう そろそろ手の内を明かせよ」
 初芝は、ガツガツずステヌキを貪り喰いながら、蟰巳の反応を窺った。
「お前の性栌からしお、このたたじゃ、センタヌに垰り蟛いんじゃないかず思っおさ。やられっ攟しでスゎスゎず藪塚に垰るほど、埓順な性栌じゃないだろう」
「蚀い難いこずを、ハッキリず蚀っおくれるねぇ」
「ここは、スネヌク・センタヌで苊楜を共にした芪友ずしお、お前に最倧にしお最埌の挜回のチャンスをやろうず思っおさ」
「はあ」
「たぁ、論より蚌拠だ。぀べこべ蚀わずに、これを芋ろよ」
 そう蚀うず、蟰巳は高玚そうなカッタヌ・シャツの胞ポケットから数枚の写真を取り出し、初芝の前に投げお寄こした。
「䜕だよ、これ・・・」
 初芝は、ナむフずフォヌクを眮くず、目の前の写真を拟い䞊げた。そこに映っおいたのは、芋枡す限りの広倧な草原だった。たるで、アフリカのサバンナを圷圿ずさせるような光景だ。目を凝らすず、遠くの方に鉄塔やアンテナのような斜蚭も芋える。䞀芋するず、䜕の倉哲もない颚景写真のようだが・・・。初芝は、喰い入るように写真を芋぀めるず、ある事実に気づき、愕然ずした。それは、正しく初芝が探し求めおいた最埌のピヌスだった。
「おっ、お前っ、䜕凊でこれを」
「けやき通り沿いに建぀䞭孊校の屋䞊から写した写真だ。隣りの小孊校の方には、譊官隊が倧勢で寝泊たりしおいるよ。今回は、所沢垂長のお墚付きを貰っおいるからな。理由を蚀ったら、簡単に屋䞊に䞊がらせおくれた。テントを匵っお䞀昌倜、粘りに粘っお撮ったのが、この写真ずいう蚳だ。これを今、テレビ局や週刊誌に持ち蟌んだら、䞀䜓、幟らになるず思う」
「お前、本圓に悪いダツだな」
「冗談だよ。そんなこずをする぀もりなら、お前をメシに誘ったりしないだろう。勿論、この話には続きが有る」
「面癜くなっお来たじゃないか。是非、聞かせお貰おう」
「先ずは、この写真の珟堎だが、所沢譊察眲の暪のけやき通りに面しお小孊校ず䞭孊校が隣同士に䞊んで建っおいるだろう。こういう堎所っお、圚りそうでいお、意倖に珍しいず思わないか」
「確か、昔、飛行堎だった堎所が米軍に接収されお、暫く経っおから返還されたんだろう。航空蚘念公園も、その時に造成されたっお聞いたぞ」
「そう。譊察眲も、垂圹所も、防衛医倧病院も、小孊校も、䞭孊校も、高校も・・・。皆、その時に移転しお来たものだ。䜆し、その時に䞀カ所だけ、どうしおも米軍が返還を枋った堎所が圚った」
「それが、この空き地か」
「小孊校ず䞭孊校の建物が邪魔をしお、けやき通りからは芋えないからな。広さは、ちょうど航空公園ず同じくらいだ。米軍関連の通信斜蚭が圚るだけで、普段は党くの無人になっおいる。恐らく、空軍の暪田基地の管理䞋に眮かれおいるんだろう。所沢垂は、前々からこの堎所の返還を芁求しおいるんだが、どういう蚳か米軍も、ここだけは絶察に手攟そうずしない。それにしおも、これだけ広倧な空き地が無傷のたた残っおいるっおこずは、嘗お圚った飛行堎っお、䞀䜓、どれだけ広かったんだよっお話だよな」
 初芝は、写真の䞀枚を喰い入るように芋぀めながら、蟰巳の話に真剣に耳を傟けおいた。そこには、確かにブラック・マンバの姿が映っおいた。倕暮れ時、叢の䞭からちょこんず鎌銖を持ち䞊げおいるのは、玛れもなく数日前に察峙したアむツだ。屋䞊から高性胜の望遠レンズで狙ったのだろうが、かなり鮮明に撮れおいる。スネヌク・ハンタヌず蚀うよりは、どちらかず蚀うずパパラッチの仕事に近い。それにしおも、東京郜の近郊で、これだけ広倧な空き地が残っおいるずいうのは「奇跡」に近い。ここからなら、新宿ず池袋たで、どちらも電車で䞉十分だ。地面も完党にフラットだし、このたたマンモス倧孊が䞀぀移転できる。いや、高玚タワヌ・マンションが幟぀建぀か想像も぀かない。駅からも近いし、捚お倀で売っおも数千億円芏暡だろう。初芝が、初めお所沢に来たのは深倜だったし、このような堎所が圚るずは気づかなかった。「䜕か」が欠けおいるず感じおいたのは、明らかにこの堎所のこずだった。あれだけ行動力旺盛なヘビが、䞀箇所にゞッずしおいられるはずがない。
「それにしおも、良くこの堎所に目を぀けたな」
「返還前は、米軍関係者の䜏宅が圚ったらしいが、今は誰も䜏んでいない。廃墟ず化したバラックが幟぀か残っおいるだけだ。呚囲は高いフェンスが匵り巡らされおいお、蚱可を取らなければ、誰も入るこずが出来ない。䞀カ月くらい前に、委蚗された業者が入っお、草刈りをしたらしい。どうだ、ブラック・マンバにずっおは、䜕から䜕たで理想的な環境が揃っおいるだろう」
「それにしおも、航空公園からこの堎所たでは、結構な距離が圚るだろう」
「いいか、この地図を芋おみろよ」
 蟰巳は、ショルダヌ・バッグの䞭からクリア・ファむルを取り出すず、䞭から䞀枚の地図を抜き出した。それは、グヌグル・マップを拡倧し、パ゜コンからプリント・アりトしたものだった。
「お前、そんなものたで甚意しおいたのか」
「今時、を䜿いこなせないスネヌク・ハンタヌなんお、䞖界では通甚しないぜ。ああ、いいこずを教えおやるよ。今、スネヌク・ハンタヌなんお叀颚な呌び方をしおるのは、日本人だけだ。オヌストラリアでは、スネヌク・キャッチャヌずか、スネヌク・ハンドラヌず呌ばれおいるよ。ヘビを専門に扱う探偵みたいな皌業だ。時々、ワニを捕たえおくれっお䟝頌も舞い蟌むけどな。金額次第では、受けおいる。タフで優秀な助手がいるからな。5m近いダツもいお、結構な倧捕物に発展する。たぁ、そんな話はさお眮き、この地図を芋おみろよ。この途䞭に圚るのが、ヘビの飌い䞻が䜏んでいたマンションだ。リビングで飌い䞻を殺害し、济槜の排氎口から決死の脱出を詊みたブラック・マンバは、この矜ばたき通り䞋の䞋氎道に合流した。ここから右ぞ行けば航空公園だし、巊に行けば米軍の通信斜蚭だ。どちらも300mくらいで、韋駄倩のブラック・マンバにずっおは䞀駆けだ。倧方、ドブ・ネズミでも远い駆けおいる間に、偶然、行き着いたんだろう。或いは、草原の匂いを嗅ぎ぀ける特別な嗅芚が備わっおいるのかもしれないな。䟋えば、䜕癟キロも離れた氎堎を嗅ぎ぀けるアフリカ象のように・・・。どうだ、これで耇数のミステリアスな点が䞀本の線に繋がっただろう」
「確かに繋がったけど、そんなに䜕床も奇跡的な「幞運」が重なるものか たたたた飌われおいたマンションの近くに倧きな公園が圚ったり、今床は無人の通信斜蚭だ。ちょっず、出来過ぎおいないか」
「どうやら、このヘビには腕利きの「悪魔」が取り憑いおいるようだ。そうでなければ、この短期間に四人もの人間は殺せない。お前は、本圓に運が良かったんだぜ。危なく五人目になるずころだった」
「敢えお、それは吊定しないが・・・。それじゃあ、埌玉県譊は今、䞉癟人䜓勢で的倖れな堎所を捜玢しおいるっお蚳だ。俺の替わりには、今、お前も散々䞖話になった岡村さんが入っおくれおいるし、早速、知らせなきゃ」
 初芝は、胞ポケットから携垯電話を取り出すず、電源ボタンに指を掛けた。
「あのなぁ、譊察に知らせるくらいなら、お前にこんなものを芋せたりするか あの堎所を䞉癟人の玠人にズカズカず螏み荒らされおみろ、もう䞀床、地䞋に朜られお、二床ず再び出お来やしねぇよ。次に䜕凊かに珟れた時には、確実に死者が出る。それが子䟛だったら、誰が責任を取るんだよ。䞀床、倧倱敗をやらかしたのに、未だ懲りおいなかったのか」

「 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 」
 
 初芝は粟䞀杯の反論を詊みようずしたが、考えおみれば、蟰巳の蚀っおいるこずの方が正論だ。確かに、前回の倱敗は、捜玢の方法自䜓に問題があった。あのヘビは、フル装備の譊察官ず謂えども、玠人には捕たえられない。それくらいの「怪物」だ。
「ここから先は、プロの仕事だ。俺ずお前の二人で決着を着ける」
「これだけの広い堎所を、たったの二人でか」
「その写真を、良く芋おみろよ」
「どれだ。これか・・・」
「そこに写っおいるのは、コンクリヌト補の排氎路だ。珟圚は䞋氎が敎備されおいるが、その昔、この蟺り䞀垯は、倧雚が降るず氎浞しになった。䜕日も氎が匕かない状態だな。それは、飛行堎ずしお非垞にマズい。そこで、呚囲に排氎路を巡らせお、倧量の雚氎を逃しおやった。高さも幅も、倧䜓1m50㎝䜍だな」
「やけに詳しいな。入ったのか」
「これも偶然なんだが、子䟛の頃に䞀床、友達ず忍び蟌んで探怜したこずが圚る。この蟺りの子䟛は、結構やるんだよ。捕たったら、倧事になるけどな。最近は、金網も高くお頑䞈になったし、そこら䞭にセンサヌが匵り巡らされおいるから、そんなバカげた真䌌をする子䟛はいない。それに、䟋え入ったずしおも、䜕もないからな。りチの近所には航空自衛隊の入間基地が圚るから、そこだず、チャレンゞする子䟛が埌を絶たない。䞀皮の肝詊しだな。向こうは譊備が厳重だから、俺の友達も䜕人か捕たっおいるよ。芪が譊察に呌ばれお、こっぎどく叱られる。翌日は、職員宀に呌ばれお説教だ」
「なるほど。昌間は盎射日光がキツむから、この排氎路の䞭で䌑んでいるっお蚳か」
「鉄塔は熱くお登れないし、日差しを避けられるような暹朚も殆ど無い」
「この円呚䞊に立おられた電信柱みたいなダツは䜕だ」
「それは、別名が「象の檻」ず呌ばれる特殊な受信アンテナだ。朚補だが、この時期、昌間は暑くお登れない。日䞭の日の高い時間垯は、必ずこのコンクリヌト補の排氎路に逃げ蟌むはずだ。日陰に入れば、結構、涌しいからな。そこを二人で前埌から挟み撃ちにする」
「出来るのか」
「やるんだよ お前は、俺のこずを頭が良くおハンサムなだけの金持ちのボンボンだず思っおいるけど、プロのスネヌク・キャッチャヌになれば、この皋床の無茶は日垞茶飯事だ。䞀床、匕き受けた仕事は、呜の危険を冒しおでもやり遂げなくおはならない。アむツはチキンだずいう評刀が街䞭に流れおみろ、二床ず仕事の䟝頌は来なくなる。それほど厳しい䞖界なんだ。時には、甚氎路で5mもある倧蛇ず栌闘しなくおはならないこずも有る。初芝、プロの䞖界は甘くない。ここで匕いたら、お前のキャリアは確実に終わるぞ」
「ちょっず、お前の本気床を詊しお芋ただけだ。最初から匕く気なんおサラサラねぇよ。それで、い぀決行する」
「明日の朝、九時から始めお、午埌䞉時たでにはケリを着ける。その時間垯が䞀番、排氎路に朜んでいる可胜性が高いからな。俺は北東の角から、お前は南西の角から時蚈回りに排氎路を半呚する。恐らく、䜕凊かでブラック・マンバず出喰わすはずだ。䜕ず蚀っおも、3m玚の「怪物」だからな。完党に姿を隠すのは䞍可胜だ」
「その間の連絡は、どうやっお取る」
「明日の朝たでに、俺がマむクの付いたむダホンを甚意する。この蟺りには、家電量販店も倚いからな。お前のスマヌト・フォン、ブルヌ・トゥヌスだろう」
「バカにするな」
「取り敢えず、携垯の電話番号を教えおくれ。捜玢䞭は、繋ぎっ攟しにする。それから、䞀床、捜玢を始めたら、䌑憩時間は無しだ。二人で䞀気にカタを着ける。背䞭にナップ・サックを背負っお、氎も匁圓もその䞭だ。くどいようだが、明日はプロずしおの仕事をしお貰う」
「お前、この俺を誰だず持っおいるんだよ」
「わかっおいるず思うが、これが最初にしお最埌のチャンスだ。倱敗は絶察に蚱されない。明日、結果が出なければ、俺は、この写真を埌玉県譊に提出し、この仕事からは完党に手を匕く。ここたでやれば、芪父の顔も立぀からな。俺は、有力な情報提䟛者ずしお埌玉県譊から衚地される。埌は、所沢垂に諞経費を請求しお、䌑暇の続きに戻るだけだ。北海道の雄倧な自然の䞭、釣りでもしながら、のんびり過ごすさ。あっ、そうそう。お前、確か、北海道の出身だったよな。この前、ドンキでゞンギスカン鍋のセットを買ったんだよ。あの、鉄兜みたいなダツ」
「いい埡身分で矚たしいが、この決着は、必ず俺が着ける」
「それじゃあ、お前は名誉で、俺は報奚金っおこずで・・・」
「垂長から幟ら貰えるのか、教えろよ。芪友なんだろう」
「䌁業秘密だっお蚀っただろう。絶察に公衚しない玄束なんだ。垂長の裁量で自由に䜿える機密費っおダツだな。取り敢えず、これは支床金だ。その矀銬の山奥から出お来たヒッピヌみたいな栌奜を䜕ずかするのず、右手の怪我の察策費だ。明日は、包垯の䞊から革手袋を嵌めお、その䞊から厚手のゎム手袋を履いた方がいい。病院で薬ず包垯は貰ったんだろう」
「ああ、山皋な。あっ、いっけねぇ、忘れおた。食埌に抗生物質を飲たなくちゃ」
 䜕気に封筒を芗くず、䞭には数枚の䞀䞇円札が入っおいた。ザッず数えるず、気前良く十枚も重なっおいる。恐らく、報奚金の額は䞀千䞇円を䞋らないだろう。少なく芋積もっおも、五癟䞇円・・・。それでこの問題が解決するなら、決しお高くはないはずだ。矚たしくないず蚀えば、嘘になる。折半ずたでは蚀わないが、二割、いや、䞉割くらい貰っおも眰は圓たらない。たあ、金の話は眮いずいお、自分にずっおの最優先事項は、倱った名誉ず自信の回埩だ。ブラック・マンバずの再戊が果たせるなら、蟰巳ず手を組むのも悪くない。それに、蟰巳だっお鬌じゃない。䜜戊が銖尟よく成功すれば、癟䞇円くらいは出すだろう。いや、癟歩譲っお、出しお欲しい。いや、出しおくれ、頌むっ
「ずころで、今晩、泊たるずころは有るのか」
「いや、未だ決めおいない」
「そこの倚摩湖の畔に、「湖畔荘」ずいう芳光ホテルが圚る。俺も今、滞圚䞭なんだが、良かったら郚屋を取っおやるよ。今晩、寝る前に、明日の打ち合わせも出来るからな」
「有り難う。そうしお貰えるず助かるよ。この埌、久しぶりに街をブラブラしたいんで、買い物が枈んだら向かうわ」
「ここから少し歩けば、小手指駅だ。確か、途䞭にワヌクマンが圚ったな。駅前でパチスロなんかしおいないで、必芁なものを揃えお眮けよ」
「お前が最初に誘ったんだろう 絶察に儲かるずか蚀っおいたよな」
「ギャンブルに絶察はない いい勉匷になっただろう。ずにかく、買い物をするには䟿利な街だ。ああ、肝心のヘビ獲り棒は有るのか」
「いや、どさくさに玛れお玛倱した。倚分、岡村さんが䜿っおいるんじゃないかな」
「この道を真っ盎ぐに行った所にホヌム・センタヌが圚るから、䜜っお眮けよ。確か、奥に工䜜宀が圚ったはずだ。排氎路は狭いから、少し短めの方がいいな。俺は、これから垂長に䌚っお来る。途䞭経過の報告ず、通信斜蚭の鍵も借りなくおはならないからな。出来れば、この写真は䌏せお眮きたいずころだが・・・。切れ者の垂長だからな、決定的な蚌拠もなしに、亀枉するのは難しいかもしれない。ずにかく、詳しい打ち合わせは今晩だ。絶察に、䞃時迄にはホテルに来おくれよな。ビビっお、フケたりするなよ」
 目の前の料理をあらかた平らげるず、デザヌトのストロベリヌ・パフェが運ばれお来たタむミングで蟰巳が蚀った。気づけば、単品で頌んだミックス・フラむの倧半は、殆ど蟰巳が䞀人で食べおいた。初芝は、点滎生掻で胃袋が瞮んだせいか、思ったほど食欲が湧かなかった。いや、食欲が湧かない理由は、それだけではなかった。どうやら、暫く䌚わない間に、二人のキャリアには倧きな差が出来おしたったようだ。共闘の䜜戊䌚議をしおいるのに、䞻導暩を握っおいるのは、完党に蟰巳の方だった。これがプロずセミ・プロの違いなのだろうか 蟰巳の自信に溢れた態床は、プロずしお数々の修矅堎を朜っお来たずいう、確かな実瞟に裏打ちされおいる。䞀方、自分はず蚀えば、盞も倉わらずセンタヌでの飌育員生掻だ。特別、珟状に䞍満が有る蚳ではないが、このたたで良いのかずいう疑問は残る。所詮、自分は「井の䞭の蛙」だったのかもしれない。「日本蛇族孊術研究所」の研究員ずいう肩曞きを倖せば、只のヘビ奜きの玠人ず倉わらない。それに察しお蟰巳は、匷力な芪のコネが有るずは蚀え、垂長から盎々に䟝頌が来るほどのプロフェッショナルだ。目の前の難題を解決するため、自分が䜕をすれば良いのかも完党に掌握しおいる。そろそろ腹を括る時が来たのかもしれない。スネヌク・センタヌを卒業し、思い切っお䞖界に飛び出さなければ、プロずしおの明るい未来は切り拓けない。

 その倜、小手指駅呚蟺で必芁な買い物を枈たせた初芝は、ホテルのカフェテリアで再び蟰巳ず合流した。時刻は、既に午埌八時を回っおいた。ホヌム・センタヌでヘビ獲り棒の制䜜を枈たせた埌、二぀ほど個人的な甚件を枈たせたので、䞀時間ほど遅れおしたった。勿論、蟰巳の携垯に連絡を入れたので、党く問題はない。二人ずも、倕飯は枈たせお来たので、蟰巳はビヌルを、初芝はクリヌム・゜ヌダを泚文した。初芝は、右手の傷に響くので、流石にアルコヌルは遠慮した。倕飯は、小手指の駅前の回転寿叞で、久しぶりに生魚を堪胜した。蟰巳が郚屋を取っおくれたのは、県䞋に倚摩湖のレむク・ノュりが広がるオシャレな芳光ホテルだった。湖の正匏名称は「村山貯氎池」ず蚀うらしい。東京郜民の貎重な氎瓶になっおいお、この連日の猛暑にも拘らず、゚メラルド・グリヌンの枅柄な氎を満々ず湛えおいる。巊手に西歊遊園地、右手にドヌム球堎、背埌に狭山湖ず、芳光ホテルずしおの立地条件も満点だ。航空公園からも車で十五分ほどの距離だし、決戊前倜の宿ずしおは申し分がない。初芝は、倜の垳が䞋りた倚摩湖の湖面を眺めながら、蟰巳の説明にがんやりず耳を傟けおいた。蟰巳は、必芁なデヌタをパ゜コンからプリント・アりトし、クリア・ファむルに纏めおいた。金持ちのボンボンに特有の倧雑把な性栌なのかず思いきや、オヌストラリアで䌚瀟を経営しおいるせいか、意倖にも甚意呚到だ。いや、恐らくは、ここたでしなければ、プロずしおはやっお行けないのだろう。初芝は、又しおも、自らの考えの甘さを痛感させられた。プロずしお生きお行く為には、奜きな仕事をしおいるだけではダメなのだ。
「必芁なものは、党郚揃ったのか」
「ああ、小手指のワヌクマンで、いい感じの迷圩柄の䜜業服を芋぀けたよ。埌はVカットの保護県鏡ず、線み䞊げのブヌツに、革手袋に、その䞊から履くゎム手袋、センタヌでも䜿えそうなナむキ補のナップ・サックだな。それず、ホヌム・センタヌで1m20㎝のヘビ獲り棒も䜜っお来た。明日も、間違いなく茹だるような暑さになる。装備品は、出来るだけ軜い方がいいだろう」
「肝心のサバむバル・ナむフは」
「なかなか芋぀からなかったが、䜕ずか䞀䞁、駅前のホビヌ・ショップで手に入れた。刃先もバッチリ研いで来たから、心配するな」
「確認しお眮くが、生け捕りにしようなんお仏心は埮塵も起こすなよ。党力で殺しに行かなければ、どちらか䞀方が倧怪我をする。悪いが、お前の二の舞だけは埡免だ。この埌、俺には、北海道での楜しい䌑暇が埅っおいる」
「嫌なこずを思い出させるなよ。アむツの「怪物」ぶりは、俺が䞀番良く知っおいる。芋぀け次第、今床は躊躇なく始末する」
「それじゃあ、倜もいい感じに曎けお来たこずだし、さっさず明日の䜜戊を確認しよう」
 そう蚀うず、蟰巳はクリア・ファむルの䞭から䞀枚の地図を抜き出し、テヌブルの䞊に眮いた。
「これは、米軍の通信斜蚭内の芋取り図だ。拡倧したグヌグル・マップを参考に、䞭孊校の屋䞊から撮圱した写真ず照らし合わせながら䜜成した。俺は、この北東の角、この䜍眮からスタヌトする。お前は南西の角、この䜍眮からのスタヌトだ。同時に時蚈回りに進んで行けば、二時間くらいで半呚できるはずだ。排氎路の底は、䜕十幎も攟ったらかしの状態だからな。コンクリヌトの底の䞊に瓊瀫の山が築かれおいお、腰を屈めお歩くには、盞圓な困難が予想される。恐らくは、這っお進むような圢になるだろう。先にブラック・マンバに気づかれたら、今床こそ、確実に逃げられる。排氎路の䞭では、圧倒的に向こうの方が有利だからな。芋぀けたら、即座に応揎を呌び、䞡方向から挟み撃ちにする。草地を走っおいおは間に合わないから、折り畳み匏の自転車を甚意した。俺は北海道の山の䞭で乗り回そうず思っおいたから、ハマヌの頑䞈なマりンテン・バむクを買っお、車に積んで眮いたんだ。お前の分は、今日、所沢のドンキで䞀番安いダツを買っお来た。気に入ったら、藪塚たで乗っお垰れよ」
「随分ず気前がいいんだな。成功したら、垂の方から幟ら入るんだ」
「それは、䌁業秘密だっお蚀っただろう。契玄䞊、守秘矩務が有るから、蚀えないこずになっおいる。そんなこずより、これはマむク付きのむダホンだ。コヌドが邪魔にならないよう、少し高いが、ブルヌ・トゥヌスにした。セッティングしおやるから、スマホを出せよ」
「䜕でも良く知っおいるねぇ」
「垞識だろう。捜玢の間は、必ず繋ぎっ攟しだ。芋぀けたら、即座に報告をしお、ゞッずその堎で盞方の到着を埅぀。呌ばれた方は、自転車眮き堎たで走っお行っお、そこから党速力で挕いで駆け぀ける。互いに察角線䞊を進むから、到着たでに䞉分くらいは掛かるんじゃないかな」
「その間に逃げられたら」
「プロだろう、䜕ずかしろよ。取り敢えず、䜕凊にいたのかが刀明すれば、捜玢の範囲を絞り蟌むこずが出来る。恐らく、䜙皋のこずがない限り、氎路の䞭から出るこずはないだろう。たあ、出おくれた方が、こっちずしおは郜合がいいけどな。車で远跡できるし、自転車も有る。あの排氎路は、道路䞋の䞋氎管ず繋がっおいるからな。䞀番困るのは、再び䞋氎道に逃げ蟌たれるこずだ。いずれにせよ、先に発芋した方の適切な察応が肝心だ。珟圚地は、このコヌドを䜿っおくれ。東の排氎路を五分の䞉たで進んだずころなら「-」だ。北の排氎路の五分の二なら「-」。埌は、空に向かっおヘビ獲り棒を突き出せば、それを目暙に走っお行ける。少し先回りしたずころで挟み撃ちにし、どちらかが確実に止めを刺す」
「なかなか良く出来た蚈画だ。埌は、互いの腕次第っお蚳だ」
「俺はプロだから問題ないが、お前の腕には、倧きな疑問笊が付く。䞀床、倱敗しおいるからな」
「良く蚀うよ。俺だっお、この䞉幎間、センタヌで遊んでいた蚳じゃない」
「冗談だよ。挫才コンビじゃないけど、盞方の腕を信じおいなけりゃ、この蚈画は成立しない。だから、お前を誘ったんだ。どちらか䞀方がヘマをしたら、その時点で、この蚈画は終了だ。初芝、今床こそ、絶察に咬たれるなよ」
「嫌なこずを思い出させるな。同じヘビに二床も咬たれたら、スネヌク・ハンタヌずしおは倱栌だ」
「期埅しおいるぜ。それじゃあ、長々ず説明しおも始たらない。明日に備えお、今倜は早めに寝るずするか。お互いにプロだからな。明日の朝は、ここで軜く朝食を枈たせお、八時前には出発する。途䞭でコンビニに寄るから、ペット・ボトル入りの氎ず、パンかオニギリでも買えばいい。䞀床、始めたら、結果が出るたで䌑憩はなしだ。䞀気にカタを着ける」
「確かに、俺も、お前もプロだ。明日の仕事は、「阿吜」の呌吞で決着を着けようぜ」
「くどいようだが、チャンスは䞀床切りだ。䞇が䞀にも取り逃がすようなこずが有れば、そこから先は、譊察の仕事だ。屋䞊から撮った写真ず䜵せお、埌玉県譊に党おを匕き継ぐ」
「プロが二人掛かりで捕たえられないダツが、玠人の譊察官に捕たえられるか」
「センタヌから岡村さんが来おいるんだろう 俺は手を匕くが、この埌、お前が譊察に協力するのは䞀向に構わない。二人で協力すれば、案倖、䞊手く行くかもしれないぜ」
「芁らぬ心配だ。決着は明日、必ず着ける」
「その意気だ。そうず決たれば、明日の決戊に備えお、グッスリ眠るのも仕事の内だぜ」
「蟰巳・・・」
「ん」
「今回は、誘っおくれお有り難うな。この借りは、明日、必ず返す」
「期埅しおいるぜ、盞棒」
 そう蚀うず、蟰巳は䌝祚を持っお立ち䞊がり、そっず巊手を差し出した。初芝は、残ったクリヌム・゜ヌダを䞀気に飲み干すず、蟰巳が差し出した巊手をガッチリず握った。初芝の右手には、取り替えたばかりの新品の包垯が巻かれおいる。倚少の䞍安は残るが、革手袋の䞊からゎム手を履けば、ブラック・マンバず謂えども恐れるに足りない。ずにかく、ミスの蚱されない䞀発勝負だ。初芝は、身䜓の奥底から湧き䞊がる歊者震いを抑えるこずが出来なかった。ここでリベンゞしなければ、男じゃないだろう

 初芝は、カフェテリアで蟰巳ず別れるず、郚屋に戻っおフカフカのベッドに身䜓を投げ出した。アパヌトの郚屋は䞇幎床だし、病院を出たばかりで、傷぀いた身䜓を癒やすのには䞁床いい。それにしおも、流石は老舗の芳光ホテルだ。自分の郚屋ずもだが、病院のベッドずも比范にならない心地良さだ。初芝は、がんやりず倩井を芋䞊げながら、明日の察決に思いを銳せた。今倜は気持ちが昂ぶり過ぎお、なかなか眠れそうにない。前回、航空公園でブラック・マンバず察峙した時の蚘憶は、未だに脳裏に鮮明に焌き付いおいる。明日、もう䞀床ブラック・マンバず睚み合うこずになったら、恐怖の䜙り足が竊み、肝心な堎面で身動きが取れなくなる可胜性が有る。心に負ったトラりマだけは、簡単には消し去れない。今回は、ひょんなこずから、同期であり、芪友であり、ラむバルでも有る蟰巳琢也ずバディヌを組むこずになった。アむツの前では、臆病な姿は芋せられない。絶察に 
 初芝は、頭の埌ろで䞡手を組むず、がんやりず若手時代のこずを思い出しおいた。自分も、蟰巳も、生意気だけが取り柄の新米研究員だった。あの頃、蟰巳の方は、党おに斌いお芁領が良かった気がする。副所長に怒鳎られる回数も、圧倒的に自分の方が倚かった。圓時は䞍満に思っおいたが、今にしお思えば、蟰巳の方が確実に仕事が出来た。今回のこずだっお、蟰巳の持ち蟌んだ貎重な情報がなければ、恐らくは、手も足も出ず、スゎスゎず手ぶらで藪塚に垰るこずになっおいた。これは、背氎の陣で臚む最埌の䞀戊だ。ここでミスを犯すようなこずが有れば、今床こそ、スネヌク・ハンタヌは廃業だ。故郷の北海道に垰り、蟲䜜業の傍ら、牛や豚や銬や矊を盞手に、獣医垫ずしお生きお行くより他はない。たぁ、それはそれで、悪い人生ではないのだが・・・。

 翌朝、ホテルのカフェテリアで簡単な朝食を枈たせるず、二人は蟰巳の運転で米軍の通信斜蚭ぞず向かった。新品のランド・クルヌザヌの車内は、䜕凊か昔懐かしい匂いがした。これから決戊の地ぞ向かうのかず思うず、緊匵も䞀入だ。途䞭、コンビニに立ち寄るず、二人は倧量の氎ずサンドむッチを買い蟌んだ。この手の捜玢では、砂糖が入ったスポヌツ・ドリンクや炭酞飲料ではなく、必ず氎を買うのが鉄則だ。氎分の補絊だけでなく、頭から济びお䜓枩を䞋げたり、傷口を掗い流したりず、様々な甚途で掻甚できる。蟰巳は、自分の氎分補絊甚ずは別に、2のペット・ボトルに入った氎を四本ず倧量の氷も買い蟌んだ。恐らく、通信斜蚭内に䜿える氎道はないだろう。倧型のクヌラヌ・ボックスに入れお車に積んで眮けば、幟ら有っおも邪魔にはならない。
「䜕か、忘れおいるものはないか」
「俺は、特に・・・」
 いよいよブラック・マンバずの盎接察決が始たるのかず思うず、初芝は、昂ぶる気持ちを抑えるこずが出来なかった。きっず「歊者震い」ずは、このような粟神状態を蚀うに違いない。
「蟰巳、もしもスネヌク・センタヌをクビになったら、暫くの間、お前のずころで働かせおくれないか」
 米軍の通信斜蚭が近づくず、初芝が遠い目をしお呟いた。
「䜕だよ、未だ始たっおもいないのに、やけに匱気だな」
「そんなんじゃねぇよ。今床ばかりは、色々ず考えるずころが有っおな」
「お前なら、経隓や知識も豊富だし、即戊力ずしお歓迎するぜ。たあ、実際に働くかどうかは別にしお、䞀床、遊びに来いよ。オヌストラリアはいいぜぇ。ビヌチは近いし、極倪のヘビもりペりペしおいる。二、䞉幎、俺の䞋で真面目に働けば、仕事を芚えお独立するこずも可胜だ」
「今回、病院のベッドの䞊で色々ず考えおな。廃業しお北海道に垰ろうかずも思ったんだが、やっぱり、この仕事は蟞められそうにない。奜きなんだろうな、毒ヘビが・・・。取り敢えず、このチャンスを䞎えおくれたこずに感謝するわ」
「未だ、瀌を蚀うのは早いだろう。無事にブラック・マンバを退治しおからにしおくれ。いいか、俺たちは、八岐倧蛇に立ち向かう須䜐之男呜なんだ。返り蚎ちに遭ったら、シャレにならない。成功すれば英雄だが、倱敗すれば、ドン・キホヌテだ。マスコミからも、䞀斉に叩かれる。さあ、着いたぜ」
 蟰巳は、颯爜ずランド・クルヌザヌの運転垭から降りるず、西偎ゲヌトの南京錠を解陀した。その埌ろ姿が劙に様になっおいお、たるでハリりッド映画の䞀堎面を芋おいるかのようだった。初芝は、助手垭でヘビ獲り棒を匷く握り締めるず、ゎクリず唟を飲み蟌んだ。䞀床、このゲヌトを朜ったが最埌、もう埌戻りは出来ない。殺るか、殺られるかの二぀に䞀぀だ。自分がヘマをやらかせば、今床は蟰巳の呜たで危険に晒すこずになる。信じおくれた蟰巳の為にも、絶察に倱敗は蚱されない。責任は重倧だ

 斜蚭の倖呚を囲うフェンスが頑䞈な割に、チェヌンに付けられた南京錠は、至っおシンプルな構造だった。その蟺のホヌム・センタヌで売っおいる、手頃な倀段で買えるダツだ。そのこずからも、ここは只の通信甚アンテナが建぀斜蚭で、特に米軍の軍事機密ずいったものには関係がないのだろう。初芝も手䌝い、再びゲヌトを締めお斜錠するず、そこには広倧な草原が広がっおいた。たるで、東アフリカのサバンナの䞀郚を切り取ったかのような光景だ。長い間、人間が立ち入った圢跡もないし、ブラック・マンバにずっおは、これほど奜条件の揃った環境棲は他にない。ゞグ゜ヌ・パズルの最埌のピヌスは、間違いなく、この堎所に有る。この埌、䞊手く嵌め蟌むこずが出来るかは、神のみぞ知る。いや、プロフェッショナルな蟰巳ず二人なら、絶察に完成させられる。

 蟰巳は、シルバヌ・グレヌのランド・クルヌザヌを広倧な敷地のほが䞭倮に駐車するず、埌郚のハッチ・バックをフル・オヌプンにした。確かに、これだけ広倧な面積を二人でフル・カバヌするには、自転車は必須だ。自力で走ったら、端から端たで十分近く掛かるだろう。その間に、ブラック・マンバは確実に逃げおしたう。それにしおも、プロの蟰巳の仕事には、䞀切の゜ツがない。芋倣うべき点が少なくない。
「お前、その怪我で、自転車に乗れるのか」
 折り畳み匏の自転車を車から䞋ろしながら、蟰巳が蚊いた。
「包垯をキッチリず巻いお来たし、手袋を二重にするから問題ない」
「それじゃあ、最埌に時蚈を合わせるか。今、八時四十二分んだから、九時䞁床にスタヌトでいいか」
「問題ない。この匷烈な日差しなら、必ず排氎路に朜んでいるはずだ」
 二人は党おの準備を敎えるず、ナップ・サックを背負い、折り畳み匏の自転車に跚った。ブラック・マンバは、必ず近くにいるはずだ。スネヌク・ハンタヌの研ぎ柄たされた嗅芚が、その存圚を身近に感じ取っおいる。それは、単なる「予感」ず蚀うよりも、「確信」に近かった。
「それじゃあ、䜜戊開始だな。幞運を祈る」
 最初に自転車を挕ぎ出したのは、オレンゞ色のハマヌに跚った蟰巳だった。マりンテン・バむク仕様の高玚車で、ドンキで買っおも十䞇円以䞊はするはずだ。背䞭のナップ・サックにスチヌル補のヘビ獲り棒を差し、その姿は自身に満ち溢れおいる。そしお、どこから芋おも様になっおいる。毒ヘビの本堎/オヌストラリアでは、この皋床の捕物は、日垞茶飯事に違いない。䜕だか、緊匵しお震えおいる自分が、バカらしく思えお来た。
「蟰巳、ブラック・マンバを芋぀けたら、䞀人でいい栌奜をしようなんお思わずに、盎ぐに連絡するんだぞ」
 初芝は、同様に量産型のシルバヌの折り畳み匏自転車に跚るず、スタヌト地点を目指しおゆっくりず挕ぎ出した。さすがに利き手の握力は戻っおいないが、自転車に乗るのに䞍自由は感じない。唯䞀、䞍䟿な点を挙げるなら、自䜜のヘビ獲り棒が邪魔なこずだ。折り畳み匏のミニ・サむクルなので、この自転車には前カゎが付いおいない。蟰巳が持っおいるヘビ獲り棒は、スチヌル補で、釣り竿のように䌞瞮自圚なタむプだ。軜量で、䞀般人にも扱い易いように工倫されおいる。毒ヘビに限らず、幎間を通しお様々なタむプのヘビが出没するオヌストラリアでは、䞀般家庭でも需芁が有る為、普通にホヌム・センタヌで買えるらしい。この仕事が無事に成功すれば、蟰巳から䞀本、貰える玄束になっおいる。
「初芝、聞こえるか」
「ああ、問題ない。バッチリだ」
 蟰巳が甚意したむダホン付きのマむクは、驚くほど高性胜だった。携垯電話を基点にすれば、問題なく通話ができる。
「スタヌト地点に着いたら、排氎路の角の底の方を芋おくれ。雚氎を䞋氎道に流す排氎口が芋えるだろう。恐らく、ブラック・マンバは、そこから䟵入したはずだ」
「どうする、塞ぐか」
「いや、䜕カ所有るのか分からないし、党おを塞いでいたら半日は掛かる。それに、二人で前埌から挟み撃ちにすれば、問題はない。䜆し、倱敗は蚱されないぜ。埌ろに逃したら、今床こそ地䞋に朜っおしたう。くどいようだが、ここから先は、プロの仕事だ。お互いの力を信頌しなきゃ、この䜜戊は成立しない」
「信じおいるぜ、スネヌク・キャッチャヌ」
 初芝は、カットの保護メガネを掛けるず、排氎路の底に向かっお飛び降りた。コンクリヌトで固められた排氎路の底には、数十幎分の埃ず枯れ草ず瓊瀫が堆積しおいる。その䞊から雑草が生え攟題で、進路方向の芋通しは極めお悪い。昚日、奮発しお線み䞊げのブヌツを買ったのは正解だった。普段、愛甚しおいるスニヌカヌでは、歩くのに倍以䞊の時間を芁しおいた。前回、ブラック・マンバの牙が掠った傷口には、今朝、䞁寧に薬を塗っおキツく包垯を巻いお来た。䞀時は壊死する寞前たで行ったので、珟圚、傷口は化膿しおグズグズに膿んでいる。こんな状態で、良く退院の蚱可が䞋りたものだず感心する。朝食を枈たせた埌、念の為、病院で凊方された倧量の抗生物質を飲んで来た。その䞊で、バむ菌が入らないよう、包垯の䞊から革手袋を履き、厚手のゎム手袋で厳重に保護しおいる。これだけやっおも、ブラック・マンバの毒牙なら、難なく貫通するはずだ。アフリカ象の極倪の脚にも咬み぀くくらいだから、その砎壊力は凄たじい。

 初芝は䞀歩䞀歩、慎重に足堎を確かめながら、瓊瀫の山を乗り越えお行った。排氎路に降り立った瞬間から、ビシビシず感じる殺気は、決しお気のせいではないだろう。䞊手く説明できないが、人間には、毒ヘビの存圚を本胜的に察知するセンサヌのようなものが備わっおいる。感じない人は、垞日頃、毒ヘビず遭遇する危険に曝されおいないからだ。長幎、毒ヘビに係る仕事を続けおいるず、このセンサヌが鋭敏に研ぎ柄たされ、二十メヌトルくらい離れおいおも、盎感的に察知できるようになる。䞭でも、この党身の産毛が総毛立぀ような匷烈な殺気は、あの「怪物」のものに違いない。初芝は、ブラック・マンバから発せられる邪悪な「気」をヒシヒシず感じながら、党身に緊匵を挲らせおいた。
「蟰巳、䜕か感じるか」
「いや、未だだ」
「俺の方はビンビンだ」
「行こうか」
「いや、未だ確蚌はない。姿が芋えたら連絡する」
 初芝は、腰のベルトに付けたサバむバル・ナむフに右手を掛けるず、い぀でも抜けるように身構えた。もはや、盎感などずいう生易しい感芚ではない。必ず、この近くにいるはずだ。初芝は、曎に姿勢を䜎くするず、巊手を突いお匍匐前進の姿勢を取った。あれほど再戊を願っおいたのに、むザずなるず、心臓がバクバクだ。きっず、最初からこうなる「運呜」だったのだ。玠盎に埓うしかない。実際のずころ、初芝には、ブラック・マンバず出喰わした際の具䜓的なプランが䜕䞀぀無かった。スマホのマむクで蟰巳を呌んでも、到着たでには、最䜎でも䞉分は掛かるだろう。その間、ブラック・マンバの興味を匕き付け、その堎に釘付けにしなくおはならない。あの䜓長3mの「怪物」を盞手に、そんな離れ業が可胜だろうか
 初芝は物音を立おないよう、慎重に歩を進めるず、党身の神経を進行方向の瓊瀫の山に集䞭した。間違いない。感じる殺気は、次第に匷くなっおいる。この西偎の排氎路の䜕凊かに、あの「怪物」は朜んでいる。䜙りにも殺気が匷過ぎお、早くも初芝の党身には鳥肌が立っおいた。その時っ

「」

 10m皋先の瓊瀫の山の埌方から、ブラック・マンバが鎌銖を持ち䞊げ、ヒョッコリず顔を芗かせた。間違いない あの時のヘビだ。初芝は、党身の動きをピタリず止めるず、ゎクリず唟を飲み蟌んだ。犠牲ずなった四人の為にも、キッチリず敵は打たせお貰う。

「蟰巳、いた。-、いや、に近い」

「わかった。盎ぐに行く」
 蟰巳は、コンクリヌトの瞁に䞡手を掛けるず、反動を぀けお䞀気に排氎路から這い䞊がった。未だ捜玢を始めお䞉十分だが、早くも本日最倧の山堎が蚪れた。この千茉䞀遇のチャンスをものにしなければ、再びブラック・マンバは地䞋に朜る。そうなれば、この案件は、譊察に匕き継ぐ以倖に方法はない。
「初芝、頌む。その堎に惹き付けお眮いおくれ」
 蟰巳は、祈るような気持ちで自転車眮き堎に走っお行くず、愛車のハマヌに飛び乗った。ここから先は、䞀分䞀秒が生死を分ける戊いだ。蟰巳は、背䞭に背負ったナップ・サックを乱暎に脱ぎ捚おるず、スチヌル補のヘビ獲り棒䞀本を掎んで自転車を挕いだ。䟋え二、䞉分でも、䞀぀の堎所にブラック・マンバを匕き付けお眮くのは至難の業だ。そのこずは、実際にプロのスネヌク・キャッチャヌずしお掻動する蟰巳も充分に承知しおいた。
「初芝、行けそうか」
「いや、今にも反転しお逆方向に走り出しそうだ」
「今、自転車で向かっおいる」
「向かっおいる」ず蚀われおも、ブラック・マンバは埅っおくれない。初芝は、曎に姿勢を䜎くするず、宿敵のブラック・マンバず目線を合わせた。芚えおいるずは思えないが、五日ぶりの因瞁の再䌚だ。その距離は、今や5mず離れおいない。ブラック・マンバは、ヌメヌメず劖しく光る挆黒の口腔を芋せ぀け、牙を剥いお初芝を嚁嚇する。それでいい。こちらに少しでも興味を瀺しおくれれば、その分、時間が皌げる。初芝は、䞀か八かヘビ獲り棒を投げ捚おるず、銖に巻いたタオルを慎重に倖した。䞇が䞀、埌ろに向かっお走られたら、その瞬間、この蚈画は砎綻する。只でさえ足堎の悪い瓊瀫の山で競争しおも、こちらに䞀切の勝ち目はない。突き圓りの排氎口から道路䞋の䞋氎道に逃げ蟌たれたら、䞀巻の終わりだ。初芝は、䞀瞬たりずも芖線を倖すこずなく、ゞリゞリず間合いを詰めお行った。察決のクラむマックスは、刻䞀刻ず近づいおいる。勝負を決めるなら、今しかない。絶察に
 初芝は、倖したタオルを巊手に巻くず、自らの身䜓を匵った最埌の賭けに打っお出た。既に、その間合いは3mを切っおいる。ブラック・マンバのスピヌドを持っおすれば、完党に射皋距離圏内だ。このたた突っ蟌んで来られたら、䜕凊にも逃げ堎がない。ずは蚀え、咬たれるのは怖いが、逃げられるのは、もっず怖い。初芝にずっおは、スネヌク・ハンタヌずしおのキャリアが懞かっおいるのだ。

「 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 」

 初芝は、タオルを巻いた巊手でヘビの圢を䜜るず、ブラック・マンバの芖線の先に突き出した。棲息地の東アフリカでは、ブラック・マンバがシロクチ・コブラを襲い、頭から䞞呑みにする姿が床々目撃されおいる。キング・コブラず同様、ブラック・マンバもたた、ヘビを獲物ずしお認識しおいる。初芝は、姿勢を䜎くしたたたゞリゞリず間合いを詰めるず、遂に1m50㎝の距離たで肉薄した。䜓長が3mのブラック・マンバなら、完党に打咬の射皋距離圏内だ。この間合いなら、ブラック・マンバの毒牙は確実に届く。い぀、攻撃されおも䞍思議はない。初芝は、ブラック・マンバのビヌズ玉のような瞳を芋぀めるず、ゎクリず唟を飲み蟌んだ。利き手を負傷した状態で戊っお、果たしお勝ち目は有るのだろうか 頌みの綱のサバむバル・ナむフも、右手は包垯を巻いた䞊から革手袋ずゎム手袋を履いおいるので、䞊手く扱えるか自信がない。途䞭で萜ずせば、䞀巻の終わりだ。このたた蟰巳の到着を埅っおもいいのだが・・・。ここで逃せば、今床こそ、確実にスネヌク・ハンタヌずしおのキャリアが終わる。

「蟰巳、揎護を頌むっ」

 スマホのマむクに向かっお芁請するず、初芝は決死の芚悟を決め、タオルを巻いた巊手をブラック・マンバの目の前に突き出した。次の瞬間っ

「」

 ブラック・マンバの鋭いカりンタヌ・パンチのような打咬が、初芝のタオルを巻いた巊手の指先を捉えた。その䞋にゎム手袋を履いおいなければ、確実に毒牙の先端が届いおいた。
「どうした、初芝・・・初芝 黙っおないで、䜕か蚀えっ」
 蟰巳の懞呜の呌び掛けも、初芝の耳には届かなかった。チャンスは䞀床しかない。ここで止めを刺さなければ、今床は自分の呜が危ない。初芝は、ケガをした右手で腰のサバむバル・ナむフを探るず、その柄を掎んで匕き抜いた。次の瞬間っ

「」

 ブラック・マンバの鋭い毒牙が、ゎム手袋を履いた初芝の指先を貫いた。ほんの先端だが、確かに指の腹に届いおいる。初芝は、反射的に巊手を匕き抜くず、ケガをした右手でブラック・マンバの銖根っこを掎みに行った。これ以䞊、毒液が泚入されれば、呜が危ない。いや、既に入院は避けられない。ブラック・マンバは、咄嗟に毒牙を匕き抜くず、今床は初芝の顔面目掛けお鋭い打咬を繰り出した。最初の䞀撃は右肩から倒れ蟌むようにしお亀わしたが、間髪入れずに二発目の巊フックが飛んで来た。その激しい攻撃を止められるほど、右手の握力は回埩しおいない。ブラック・マンバは、スルスルっずゎム手袋の間を摺り抜けるず、初芝の無防備な唇を目掛けお襲い掛かった。そのスピヌドは、想像を超えおいる。぀ぎの瞬間っ

「」

 初芝は、党おが終わったず思った。ここで顔面を咬たれたら、䟋え抗毒血枅が有っおも助からない。瞬間的に瞌を閉じるず、初芝は最悪の結末を芚悟した。

「 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 」

 初芝が恐る恐る䞡目を開けるず、ブラック・マンバの真っ黒な口腔は、保護メガネを掛けた初芝の顔面の数センチ手前で止たっおいた。初芝の目には、毒牙の先端の小さな毒液の粒たでハッキリず芋えおいた。むカ墚を含んだような挆黒の口腔は、ヌメヌメず劖しく蠢き、芋おいるだけで惹き蟌たれそうになる。その背景には、真倏の青い空ず玔癜の入道雲・・・。ギラギラず照り぀ける倪陜は、カットの保護メガネを掛けおいおも、盎芖できないほど眩しかった。芋れば、間䞀髪、ギリギリのずころで蟰巳のヘビ獲り棒がブラック・マンバの頞を正確に掎んでいた。これこそが、実践で培ったプロの神業に違いない。たた䞀぀、倧きな借りを䜜っおしたった。

 蟰巳は、スチヌル補のヘビ獲り棒で挟んだブラック・マンバの頞を排氎路から匕っこ抜くず、ブヌツを履いた巊脚で容赊なく尻尟を螏み぀けた。ブラック・マンバは、激しく身を捩っお最埌の抵抗を詊みたが、堎数を螏んだプロのスネヌク・キャッチャヌの敵ではなかった。プロずセミ・プロの違いは、その行動に䞀切の迷いがないこずだ。少しでもヘビに感情移入すれば、自らの身が危険に曝される。どんな堎面でも非情に培しなければ、この仕事は務たらない。蟰巳は、慣れた手぀きで腰に付けたサバむバル・ナむフを匕き抜くず、ノコギリ刃の郚分でブラック・マンバの頞から䞋を暪䞀閃に切断した。たるで氎道の蛇口を党開にした時のホヌスのように、ブラック・マンバの胎䜓は血飛沫を撒き散らしながらのた打ち回った。その生呜力の匷さは、毒ヘビ界の䞭でも矀を抜いおいる。オヌストラリアで堎数を螏んで来た蟰巳でさえ、これほど匷靭な生呜力を持぀「怪物」は芋たこずがなかった。実際の䜓長は3m匱ずいったずころだろう。蚘録に残るブラック・マンバの最倧䜓長は4.2mなので、アフリカのサバンナでは通垞サむズず蚀っおいい。けれども、氎槜の䞭でここたで成長したら、玠人の毒ヘビ・マニアの手には負えない。なぜ、この恐ろしく危険なヘビを飌おうず思ったのか、飌い䞻が死んでしたった今、知る術はない。

「初芝、倧䞈倫か」

 蟰巳は、排氎路の瞁から芗き蟌むず、初芝の様子を窺った。初芝は、排氎路の底で仰向けに倒れ、空を芋䞊げたたた攟心状態だった。その様子を芋れば、䜕凊かを咬たれおいるこずは䞀目瞭然だ。
「気絶をするんなら、そこから這い䞊がっおからにしおくれ」
 蟰巳は、腰を屈めお巊手を差し出すず、フラフラの状態の初芝の身䜓を排氎路から匕き䞊げた。その顔面は蒌癜で、早くも神経毒の圱響を受けおいるのは明らかだ。初芝は、朊朧ずした意識の䞭、麻痺した身䜓で懞呜に排氎路から這い䞊がろうずした。その顔面には、玉のような汗が浮かんでいる。蟰巳は、初芝のズボンのベルトを掎むず、力任せに匕き䞊げた。どうやら、臎呜傷たでには至っおいないようだ。
 蟰巳が保護メガネを倖しおやるず、その䞋には、信じられない量の冷たい汗が浮かんでいた。数有るヘビ毒の䞭でも、神経毒は回りが早い。早くも、初芝の呌吞は苊しげで、必死に唟を飲み䞋そうずしおいた。ここから先は、喘げば喘ぐほど苊しさが増す。地獄の底の䞀䞁目䞀番地だ。
「䜕凊を咬たれた」

「あっ・・・ごっ・・・がっ・・・ぐっ・・・ 」

 蚀葉にならないのか、初芝は苊悶の衚情を浮かべるず、力なく巊手を挙げた。先日、咬たれた右手に続き、今床は巊手・・・。䞀䜓、この埌、どうやっお生掻しお行く぀もりだろう 蟰巳は、巊手に巻いたタオルずゎム手袋を倖しおやるず、初芝の背負っおいたナップ・サックの䞭からペット・ボトル入りの氎を取り出した。蟰巳は、ペット・ボトルのキャップを倖すず、勢い良く初芝の顔面にぶちたけた。
「埅っおろよ。盎ぐに救急車を呌んでやる」
 毒ヘビの本堎、オヌストラリアで堎数を螏んだ
プロだけに、この埌の蟰巳の応急凊眮は迅速か぀適切だった。蟰巳は、愛甚の自転車/ハマヌに跚るず、片手でスマホを操䜜しながら西偎ゲヌトに向かっお挕ぎ出した。
「・・・そうです。米軍の通信斜蚭内です。事情は埌で説明したす。北高の向かいの西偎ゲヌトを開攟するので、そちらから入っお䞋さい。倧至急、お願いしたす。いえ、芁りたせん。抗毒血枅は、こちらで甚意したす」
 蟰巳は、西偎ゲヌトをフル・オヌプンにするず、そのたた通信斜蚭の䞭倮に止めたランド・クルヌザヌに盎行した。蟰巳は、オヌストラリアで築いた独自のネット・ワヌクを駆䜿し、個人でブラック・マンバの抗毒血枅を甚意しおいた。オヌストラリア倧陞は、独自の進化を遂げた固有皮の毒ヘビが跋扈する䞖界有数の危険地垯だ。䞀幎を通し、咬傷事件/事故は埌を絶たないが、死亡にたで至るケヌスは皀だ。そこでは、医療機関や研究機関、補薬䌚瀟等で抗毒血枅を融通し合うシステムが確率されおいお、質/量ずもに䞖界トップ・クラスを誇っおいる。プロのスネヌク・キャッチャヌなら、抗毒血枅を扱う医療機関ずの連携は䞍可欠だ。実際、倧孊病院や医薬品メヌカヌに務める友人や知人も倚い。蟰巳は、地元の医療系の倧孊に通い、オヌストラリア版の救急救呜士の資栌も取っおいた。珟堎で郚䞋が咬たれたら、䞀々救急車など埅っおはいられない。オヌストラリアは広いので、到着たでに時間が掛かる堎合が殆どだ。蟰巳はパ゜コンでメヌルを遣り取りし、ブラック・マンバの抗毒血枅を保管しおいる研究機関を調べるず、䞇が䞀に備えお航空䟿で送っお貰った。自分甚のバック・アップの぀もりだったが、甚意しお眮いお正解だった。

 蟰巳は、乱暎な運転でランド・クルヌザヌを初芝の隣りに暪付けするず、その身䜓を車䜓の陰たで匕き摺った。応急凊眮ずしおは、熱射病に近い。初芝は、早くもグッタリしおいお意識がなかった。恐らくは、臎死量に近い毒液が泚入されおいるに違いない。蟰巳は、初芝の䜜業服のファスナヌを党開にするず、クヌラヌ・ボックスの䞭から2入りのペット・ボトルの氎を取り出し、党身にゞャブゞャブずぶちたけた。倧量の氷ず䞀緒に入れお眮いたので、かなり冷たいはずだ。早急に䜓枩を䞋げおやらなければ、身䜓が耐たない。臎死量はほんの僅かなので、手元に抗毒血枅が無ければ、手銖の切断は避けられなかった。いや、それでも呜の保蚌は出来ない。蟰巳は、ランド・クルヌザヌのトランク・ルヌムを持るず、奥から抗毒血枅の入ったゞュラルミン・ケヌスを匕っ匵り出した。今回、たたたた初芝が被害に遭ったが、自分がブラック・マンバず遭遇しおいたら、同じ目に遭わなかっずも限らない。それほど桁倖れな「怪物」だった。

 やがお、最寄りの所沢消防眲/北分眲から救急車が到着するず、ストレッチャヌに乗せられた初芝が車内に運び蟌たれた。その苊しむ様子は、同業者ずしお芋るに堪えない。蟰巳にも経隓が有るだけに、必芁以䞊に感情移入しおしたう。初芝は、䞍自由な䞡手で喉頞を搔き毟り、必死の圢盞でもがき苊しんでいる。冷たいようだが、甚意した抗毒血枅を救急隊員に手枡す以倖、しおやれるこずは䜕もない。蟰巳は、胞のポケットからスマホを取り出すず、所沢垂長の個人の携垯を呌び出した。今頃は、執務宀でダキモキしながら、結果報告を埅っおいるに違いない。今朝も早くから、垂圹所の電話は鳎りっぱなしだ。

「ああ、蟰巳です。䜜戊は無事に完了したした。逃亡䞭のブラック・マンバは、この堎で殺凊分したので埡安心䞋さい。埌玉県譊の䞊局郚には、そちらから連絡しお頂いおも宜しいでしょうか 蚌拠の写真は、今からメヌルで送りたす。はい・・・。お借りした斜蚭の鍵も返华しなくおはならないので、詳しい話は、その時ずいうこずで・・・。はい。それでは・・・」

 事件は無事に解決したこずだし、こんな所で垂長ず長話をしおも始たらない。蟰巳は、簡朔に必甚な報告だけ枈たせるず、ビゞネス・ラむクに電話を切った。この埌、垂長から譊察眲長に連絡が行けば、この堎所は倧混乱を来すだろう。玄束の報奚金だけ貰っお北海道に逃げる算段をしおいたが、初芝があの状態では、マスコミの矢面に絶たない蚳には行かないだろう。蟰巳は、ホヌム・グラりンドのオヌストラリアでも、䜕床か地元のテレビ番組で取り䞊げられおいた。日本で蚀えば「情熱倧陞」のような番組で、長期に枡る密着取材も受けお来た。遠い北半球の島囜からやっお来たスネヌク・キャッチャヌずいうこずで、最初の頃は、䜕凊ぞ行っおも奜機の目に曝された。もっずも、目立぀のは嫌いな方ではないので、ここは䞀぀、凱旋した母囜でヒヌロヌになるのも悪くない。負傷した初芝には悪いが、ここから先は、金も名誉も独り占めずいうこずになりそうだ。

 皋なくしお、航空公園で䞀斉捜玢䞭の譊察官たちにブラック・マンバが殺凊分されたこずが䌝えられるず、各所で䞀斉に倧歓声が沞き䞊がった。捜玢に圓たる誰もが、もはや、この公園内にはいないこずに薄々気づいおいた。それでも、近隣䜏民の䞍安を考えるず、簡単に捜玢を䞭止する蚳には行かなかった。ここで安易な方向に舵を切れば、呚蟺䜏民からの苊情の電話が殺到する。只でさえ手に負えない状況なのに、通信回線がパンクするのは目に芋えおいる。その䞊、譊察や垂圹所のホヌム・ペヌゞが倧炎䞊し、収集が぀かなくなるだろう。少なくずも、これだけ倧人数の譊察官が捜玢に圓たっおいれば、付近の䜏民は安心する。500m皋離れた蟰巳の所にも、公園党䜓を揺るがすほどの倧歓声が䌝わった。圌等の気持ちは、蟰巳にも痛いほど良く分かる。フィヌルド・ワヌクを生業にしおいれば、空振りするこずの方が圧倒的に倚い。せっかく出向いお行っおも、ヘビは跡圢もなく消えおいる。それでも、䜏民の䞍安を考えるず、捜玢は止められない。今回は、たたたた「運」が良かっただけだ。それは、譊察官の仕事も同じであるに違いない。毎回、毎回、出動の床に犯人が捕たるなら、こんなに楜な仕事はない。二時間もののサスペンス・ドラマじゃあるたいし、䞖の䞭は、それほど郜合良く出来おいない。特に、この灌熱の倪陜の䞋では、肉䜓的にも、粟神的にも、隊員たちの消耗が激し過ぎる。挞く、この地獄のようなミッションから開攟され、誰もがホッず胞を撫で䞋ろしおいた。今は、冷房の効いた自宅のリビングで、冷たいビヌルを片手に、゜ファヌでうたた寝がしたい。そんな现やかな莅沢に、誰もが心を螊らせおいた。

 䜕台もの譊察車䞡が赀色灯を回し、サむレンの音を蜟かせお西偎ゲヌトに殺到するず、応ち米軍の通信斜蚭は封鎖された。蟰巳は、倧勢の刑事たちに取り囲たれ、酷暑の䞭での実況芋分に立ち䌚わされた。圓初の蚈画では、ここから先は、党お初芝に任せる予定だった。面倒な譊察ぞの察応は初芝に、報奚金の出る垂圹所ぞの察応は自分で・・・。予定は未定ず蚀うが、初芝がブラック・マンバに咬たれ、圓初の蚈画に倧幅な狂いが生じたのだから仕方がない。問題は、劂䜕にしお譊察を煙に巻き、この混乱した状況を切り抜けるかだ。䞭孊校の屋䞊から撮った写真を提出すれば、なぜ譊察に通報しなかったのかず突っ蟌たれる。たさか「玠人に倧勢でズカズカ螏み蟌たれるず、航空公園の二の舞いになる」ずは蚀い難い。本圓のこずを蚀えば、角が立぀のが䞖の垞だ。譊察にだっお、面子ずいうものが有る。いや、譊察にこそ面子が有る。䜙り心象を悪くするず、取調宀に連れお行かれ、面倒な事態になり兌ねない。わざわざ所沢垂長を通じ、譊察眲長に話を通しお貰ったのは、この堎所での捜玢の合法性を担保する為だ。この斜蚭に入るのにも蚱可を取っおいるし、所沢垂長から盎々にお墚付きも貰っおいる。蟰巳ずしおは、譊察に察しお埌ろ暗い所は䞀぀もない。只䞀぀だけ、初芝がブラック・マンバに咬たれたのは倧きな誀算だった。捜玢䞭に怪我人が出おしたった以䞊、譊察ずしおも調べない蚳には行かないだろう。

 珟堎に所沢譊察眲の鑑識課チヌムが到着するず、ブラック・マンバの死骞を䞭心に実況芋分が始たった。倧慌おで駆け぀けたマスコミは、その様子をフェンス越しに食い入るように芋぀めおいた。やがお、ワむド・ショヌの䞭継を芖おいた近所の野次銬も集たり出し、珟堎は隒然ずした空気に包たれた。西偎ゲヌトに面した矜ばたき通りは、党面が通行止めにされ、車䞡での珟堎ぞの乗り入れは出来なくなっおいる。それでも、四人もの人間を殺した「怪物」を䞀目芋ようず、珟堎に抌し掛ける近隣䜏民が埌を絶たなかった。それほど、今回の毒ヘビ隒動は、䞀般垂民に匷烈なむンパクトを䞎えおいた。ここ䞀週間ほど䞍自由な生掻を匷いられおいただけに、䞀目くらい実物を芋たいず思っおも、決しお眰は圓たらないだろう。

 幞い、所沢垂長からの匷力な口添えも有り、蟰巳ぞの事情聎取は圢匏的なもので枈んだ。これで航空公園呚蟺の䜏民が枕を高くしお眠れるのだから、感謝こそされ、非難される筋合いは毛頭ない。もしも、䞉癟人の譊官隊が䞀斉に螏み蟌んでいたら、ブラック・マンバは通信斜蚭内の排氎口から道路䞋の䞋氎道ぞず逃げ蟌み、捜玢はより䞀局の困難を極めおいただろう。アフリカ倧陞最凶の殺人鬌/ブラック・マンバがプロのスネヌク・キャッチャヌの手に䟝っお殺凊分された今、双方が笑っお鉟を収めるのが、倧人のやり方ずいうものだ。
 激闘の舞台ずなったコンクリヌト補の排氎路を挟み、通信斜蚭のフェンスの向こう偎には、倚くのマスコミ関係者が詰め掛けおいた。その数は、䞉癟人を䞋らない。䞊空にはバラバラず、ワむド・ショヌのラむブ䞭継のヘリが忙しなく飛び回っおいる。鈎生りのフェンスから珟堎たでは、距離にしお10m皋だ。蟰巳の䜍眮からざっず芋回しおも、テレビ・カメラだけで十台は䞋らない。䜕凊から持ち出したのか、折畳み匏の脚立に乗り、䞡手を䞀杯に䌞ばしおバラ線の䞊から撮圱しおいる匷者もいる。

「すみたせん、ちょっず凊分されたヘビを芋せお䞋さい」

 蟰巳はレポヌタヌからのリク゚ストに応え、ヘビ獲り棒でブラック・マンバの胎䜓を挟むず、高々ず頭䞊に持ち䞊げた。その想像を超えた長さから、取材陣の間からは䞀斉に感嘆の声が挏れた。四人もの人間を殺したヘビは、正真正銘の「怪物」だった。こんなにも凶暎なヘビを自宅の氎槜で飌うなんお、傍迷惑にも皋が有る。

 これほどの倧隒動を巻き起したにも拘らず、今でも密かに毒ヘビを飌い続けおいるマニアは少なからずいる。そのような毒ヘビの魅力に取り憑かれおしたった飌い䞻は、もう䞀床、この栌蚀を肝に銘じるべきだろう。


 自宅で毒蛇を飌育するずいうこずは
 匟を蟌めた銃をテヌブルの䞊に眮き
 そのたた攟眮するようなものである

        アメリカ合衆囜栌蚀






         五

 初芝が目を芚たしたのは、米軍の通信斜蚭でブラック・マンバに巊手の指先を咬たれおから四日埌のこずだった。前回は小指の付け根に牙が掠っただけだったが、今回は毒牙の先端が指の腹に完党に突き刺さっおいた。流石は、キング・コブラず䞊ぶ䞖界最匷の毒ヘビだ。埮量の毒液が身䜓内に入っただけで、生死の境を圷埚わせるだけの圧倒的な砎壊力を秘めおいる。今回も、蟰巳が甚意した抗毒血枅が無ければ、確実に手銖から先を倱っおいた。いや、呜を萜ずしおいた。それにしおも、䞀週間以内に同䞀のヘビに二回も咬たれるずいうのは、プロのスネヌク・ハンタヌずしおは倱栌だ。あの瞬間、蟰巳のヘビ獲り棒が正確にブラック・マンバの頞を捉えおいなければ、確実に呜を萜ずしおいた。ほんの1㎜毒牙が指先を貫通しただけで、この有り様だ。顔なんか咬たれた日には、今頃は死んでいたに違いない。結局、蟰己はプロ䞭のプロで、自分は玠人に毛が生えた皋床のセミ・プロに過ぎなかった。二人の間に暪たわる、実力の差は歎然だ。

「おう、やっず目が芚めたか」

 病宀に入っお来たのは、スネヌク・センタヌの岡村先茩だった。
「ここは・・・」
「防衛医倧病院の個宀だ。所沢垂長の粋な蚈らいでな、特別に入れお貰えたんだ。入院費も、垂の特別䌚蚈から出るらしい。感謝しろよ」

「 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 」

 初芝は、取り敢えず、金の心配をしなくお枈むこずにホッず胞を撫で䞋ろした。今時、倧孊病院の個宀になんぞ入った日には、幟ら貯金が有っおも足りはしない。前回は六人郚屋だったが、流石に個宀は気分がいい。これで䞉食ず昌寝が付いおいるのだから、パラダむスだろう。出来る事なら、䞀カ月くらい、のんびりず入院したいくらいだ。

「そうだっ 蟰巳はっ、蟰巳はどうしたした」

「今頃は、あのピカピカの新車で、北海道旅行を満喫䞭だろう。党く、優雅なもんだよ。䞀人で知床を䞭心に、道東の方を巡るっお蚀っおいたな。幻の魚/むトりを釣るんだっおさ。蟰巳も、あの日以来、ずっずテレビ局の取材で远い回されおいたからな。蚘者䌚芋やら䜕やらで倧倉だったよ。䜕ず蚀っおも、四人も殺した殺人鬌/ブラック・マンバを退治した英雄だからな。八岐倧蛇を蚎ち取った須䜐之男呜に擬えお、連日、新聞やテレビで倧々的に報道されおいたよ。たあ、本人は迷惑そうだったがな。ああ、この病宀にも芋舞いに来おくれお、お前にプレれントだっお蚀っお眮いお行ったわ」
「俺に・・・」
 岡村が指差す方向を芋るず、そこには新聞玙に包たれた棒状のものが眮かれおいた。病宀に持っお来るずいうこずで、䞀応、芋えないように包んだ感じだ。䞭身は、芋なくおも分かっおいる。オヌストラリア補のヘビ獲り棒だ。確かに、欲しいずは蚀ったが・・・。考えおみれば、そうでもなかった。
「あい぀、所沢垂から、報奚金が幟ら出たか蚀いたしたか」
「いや、話の流れで蚊いたけど、それは䌁業秘密だっおさ。所沢垂の機密費の䞭から出るんで、契玄䞊、蚀えないらしい。本圓かどうかは、わからないけどな。でも、久しぶりに䌚ったけど、いいずころが有るよな。日本蛇族孊術研究所に、研究費の名目で二癟䞇円も寄付しおくれたよ」
「げっ、それっお、俺の取り分じゃないですか」
「お前に倧金を枡すず、無駄遣いをするず思ったんだろう。䜿い方ずしおは倧正解だよ。副所長のずころに電話があっお、お前をクビにしないよう頌んだらしい。所長も䞊機嫌でな、今回のこずは䞍問に付すっお蚀っおくれたよ」
「所長、垰っお来たんですか」
「マレヌシアでの䌚議の予定を短瞮しお、急遜、垰囜したみたいだな。お前のこずも心配しおいたぞ。早く退院しお、元気な姿を芋せおやれ」
「藪塚に垰ったら、ムチャクチャ怒られそうですね」
「芚悟の䞊でやったんだろう。蟰巳も心配しおいたぞ。今埌の進路に぀いお盞談されたっお・・・。だから、二癟䞇円も寄付しおくれたんだ。感謝しろよ。䞻任も、圓盎者が足りないっお悲鳎を䞊げおいたから、お前の垰りを心埅ちにしおいるはずだ。それじゃあ、俺はちょっず、副所長に電話をしお来るわ。぀いでに売店に寄るけど、䜕か欲しいものは有るか」
「腹が枛りたした。野菜ゞュヌスずサンドむッチをお願いしたす」
「了解」

 岡村が出お行くず、初芝は䞀人、病宀にポツンず取り残された。芋れば、右手ず巊手には、同じように真っ新な包垯が巻かれおいる。この状態では、流石に近日䞭の職堎埩垰は無理だろう。いや、それでも䜕らかの雑甚を芋぀け出すのがスネヌク・センタヌだ。来園者に展瀺物の説明をしたり、職員宀の電話番をするくらいは出来るだろう。取り敢えず、ニ、䞉日は、この冷房の効いた快適な個宀で安静にしお、今埌の身の振り方に぀いお考えたい。今頃、蟰巳は北海道の真っ青な空の䞋、バカンスを満喫しおいるに違いない。知床の雄倧な自然の䞭でキャンプを匵り、優雅にフラむ・フィッシングでも楜しんでいるのだろう。この季節、北海道では、ビヌルを飲みながらのゞンギスカンは栌別だ。予定倖の倧金をせしめたし、蟰己にずっおは最高のバカンスだろう。釣った魚を焚き火の炎で塩焌きにし、ワむルドに頭からかぶり぀く・・・。そんな光景が目に浮かぶようだ。倧金持ちの実家ずいい、新品のランド・クルヌザヌずいい、スネヌク・ハンタヌずしおは完党な勝ち組だ。矚たしくないずいえば、嘘になる。そう蚀えば、あの新品の折畳み匏の自転車は、眮いお行っおくれたのだろうか スネヌク・センタヌで園内の芋回りに乗るには、䞁床いいサむズだった。

 初芝は、病宀の窓から真倏の青い空を眺めるず、倧きく䞀぀深呌吞をした。生きおいるっお、本圓に玠晎らしい 南の空には、巚倧な玔癜の入道雲がモクモクず湧き䞊がっおいる。そろそろ䞀雚あっおも良い頃だ。八月も終盀に差し掛かり、季節は確実に秋ぞず向かっおいる。初芝にずっお、今回の事件が人生の転機になったのは間違いない。倱敗も倚かったが、色々ず考えさせられるこずが倚かった。取り敢えず、藪塚に垰ったら、今埌の身の振り方に぀いお所長に盞談しお芋よう。時間はタップリ有るのだから、慌おお答えを出す必芁はない。初芝は、病宀の倩井を仰ぐず、静かに瞌を閉じた。明日は、明日の颚が吹く。今はただ、䜕もかも忘れ、グッスリず眠りたかった・・・。



                  了
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