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1-3  運命の赤い糸?

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 ダンプに戻ると勇者、ミカ、ザックが待っていた。ザックはいつの間に戻ったんだ? あのまま置いて行ってやろうと思ったのに。

 しかし改めてダンプを見ると酷いな。運転席側のドアは半分無いし、ルーフは捲れている。こんなの危なくて乗れないな。・・・・・・仕方がない、他のトラックでも拝借するか。

「ルード、もうこのダンプは運転するのに危ないから、他の車を持ってくる。荷台のカートを降ろしておいてくれないか?」

「それは構わんが何処から持ってくるのじゃ?」

「こういった施設は裏の方にトラックとか置いてあるんだよ。鍵探して来るからちょっと待っていてくれ」
「解った」

 もう一度店内に向かう。事務所とか探せばすぐに見つかるだろう。・・・・・・ん?後ろから足音が・・・・・・振り向くとミカと勇者が着いて来ている。

「・・・・・・何?」

「タカオと一緒に行く」

「わっ私も行くわ」

「・・・・・・車取って来るだけだぞ? 誰もいないんだろ? 一人で大丈夫だよ」

「うん、誰もいない。だから護衛として行く」

「わっ私もごっぎょえいよ」

 誰もいないのに護衛って・・・・・・それに勇者、ぎょえいって何だよ? 魚影か? 何噛んでるんだよ勇者。

「・・・・・・そうか、まあいいや」

 三人で再び店内に入り事務所を探す。二人は黙って俺の後を着いて来ている。なんか沈黙が嫌なんだけど。凄いプレッシャー?を感じるんですけど! 後ろを振り向くと二人は立ち止まり、俺を見ている。

「何? お腹減ったから早くして」

 ミカがそう言う。勇者は・・・・・・何だ? 緊張してるのか? 背筋を伸ばし両手を握り締めている。さっきのキレっぷりとは大違いだな。

「ああ・・・・・・」

 再び事務所を探す・・・・・・あった、あそこだな。ドアの前に立つとカードリーダーが付いている。何だよ! 金属扉の上に電子ロックかよ! ドアノブをガチャガチャやるが、開く訳が無い。そもそも電気来て無いし! 参ったな・・・・・・。

「これを開けるの?」

「ああ、だけど鍵が掛かっていて開けられないんだ。ミカの魔法でどうにか出来ないか?」

「あっ、はい! はいっ! 私がやる!」

 そういって剣を抜く勇者。軽く二回剣を振ると、ゴドンゴドンと金属製の扉が崩れ落ちた。さっきも思ったが、何でこんな簡単に金属が斬れるんだ? しかも今は斬った時の音もしなかったぞ? 剣が良いのか? 腕がいいのか? 異世界人だからか? 唖然としている俺を見て、勇者が心配そうに言う。

「こ、これでいい?」

「ん? あ、ああ、助かったよ。凄いな、ありがとう」

 そう言って事務所に入り鍵を探す。後ろでは小声で

「ミカぁ・・・・・・」

「大丈夫。今のは良かった」

 とか言ってるし。まあ助かったのは事実だからスルーして室内を見回る。

 お、これか?壁に掛かった箱を開けると、中には鍵が掛かっていた。鍵にはキーホルダーが付いており、何の鍵か書いてある・・・・・・きっと数字が書いてあるのが車だろうな。車両ナンバーとかよく書いてあるしな。数字のは全部で五本か。ナンバーだけじゃ何の車両か解らないので五本全部持って行く。

 事務所を出て店舗の裏に回り、車両ナンバーと鍵の数字を照らし合わせる。

 一番でかいのは・・・・・・4トントラックか。ロングだな、これならカート10台とルード達も大丈夫だろう。ドアを開け運転席に乗り込みエンジンを掛ける。
 うん、大丈夫だな。軽油も入ってる。ドアを閉めようとすると、またミカが下から俺を見上げている。その後ろには勇者・・・・・・こいつら、まさか・・・・・・だーーっ! また俺が座ってるのに運転席から乗ってきやがった!

「ミカ! 待て! ちょっと待ってくれ! 話を聞け!! 勇者! ちょっと下がってくれ!」

 登って来るミカを抱え上げ車から一度降りる。あん、とか言ってんじゃねーよ。

「いいか? 聞いてくれ。運転者以外はここから乗ってはいけないんだ。他の人は向こうから乗るんだ」

 そう言って助手席側を指さす。

「なぜ?」

 なぜって俺の迷惑だからだよ!

「なぜって俺がめ・・・・・・解った言い方を変える。ミカ、あのな? ここから乗りたいのなら俺よりも先に乗ってくれ。俺が乗ってから俺の上を通って行くのは止めてくれ。」

「なぜ? 私はタカオの上に座りたい」

「いや、なぜって。それはこっちのセリフだよね?」

「あ、ならわ、私も座ってみたい」

 俺は椅子じゃねーぞ! 勇者まで何言い出してんだよ! それに勇者! 膝の上に座らせる程仲良くなった覚えも無いぞ! ミカもな!

「車は一人一席って、ルールで決まってるの。膝の上に座らせて運転するのはダメなの!」

「私たちは異世界人。この世界のルールは関係ない」

 こ、コノヤロウ・・・・・・

「・・・・・・そうか、解って貰えないか・・・・・・ならしょうがない」

「タカオの上に座っていい?」

「いや、違うぞミカ。ルード達と一緒に荷台に乗ってもらう」

「ええ!? そんな!?」

 ええ!? そんな!? じゃねーよ勇者。なんでお前も俺の上に座る気満々なんだよ。て言うかそこまでびっくりしているお前にびっくりだよ。お前は最初から後ろだろ!?

「・・・・・・・・・・・・」

「どうする? ミカ。大人しく横に座るかルード達と荷台に乗るかだ。俺はどっちでも良いぞ」

「・・・・・・むー、解った。横に座る」

「ミカ! いいの!?」

「仕方がない。これ以上ごねたら本当に荷台になる。それだけはダメ」

「・・・・・・そう・・」

 ふう、やっと諦めたか。しかしなんだ? この勇者の変わりようは。ミカの奴何を言ったんだ? 助手席のドアを開けて乗り込んでく・・・・る? 勇者が先頭? 何で? その後にミカが続く。

「ルシア、狭い。もっと詰めて」

「で、でも」

「それとも私と場所を変わる?」

「そ、それはダメ」

「じゃあもっと詰めて」

 ミカは何を言ってるんだよ。もう一人座れる位開いてるじゃねーか。勇者に至ってはシフトレバーに足が当たっている。

「・・・・・・あのな、ミカ。この棒をゴキゴキ動かして運転するんだよ。そんなにこっちに詰めたら勇者の足にこうやって当たってな、運転し辛いだろ? だからもうちょっとそっちに行ってくれないか?」

「・・・・・・ルシアがそこにいたら運転が出来ない?」

「いや、やろうと思えば出来るよ? ただ勇者の足にガンガン当たって痛いぞ? 可哀想だろ?」

「ルシアなら大丈夫。勇者だし鎧も着ている。問題無い」

 両膝を揃え、膝の上で手を握り締め俯いている勇者は、何かブツブツ言っている。

「カワイソウ・・・・・・ワタシニアタッテカワイソウダッテ・・・・・・フフフ」

「・・・・・・・・・・・・もういいや、行くぞ」

「ちょっと待って」

「今度は何だよ、ミカ」

「ルシアが話があるって」

「はあ? 何よ?」

 勇者と目が合う・・・・・・初めて勇者の顔を間近で正面から見たが、顔真っ赤だぞ?
 ・・・・・・なんだこいつ、ものすごい美人だ。美人? いや違うな“綺麗”が正しいか? 腰までありそうな艶のあるプラチナシルバーの髪。染み一つない白い肌。瞳の色は淡いグリーンか。綺麗な色だ。

 ん?段々と勇者の瞳の色が濃くなってきてないか? 顔のパーツは・・・・・・おかしい、目が離せない・・・・・・頭がボーッとする。いくら美人でもここまで見惚れた事なんか・・・・・

 手を勇者に伸ばし、その髪に触れる。柔らかい。まさにシルクのように指からさらりと流れ落ちる。その頬にも触れる。勇者はピクンと体を震わすが逃げない。逃げない? こんな綺麗な女逃がしてたまるか。それに我慢出来ない。このまま今すぐモノにしてやる。

 勇者の顔を引き寄せ唇を重ねる。勇者は「んっ」と軽く声を出すが拒否はしない。なんだ、勇者もその気なのか。だったら話は早い。俺は鎧を外しにかかる。何故かは解らんが俺が触るだけで鎧が落ちる。

 なんだよ勇者、鎧の下は何も着けてないのか?その形の良さそうな胸を隠している腕を取り払い、想像通りの美しい胸に顔をうずめる。おいおい勇者よ、震えてるのか? 可愛い奴だ。桜色をしている胸の先端にキスを・・・・「・・・・カオ! タカオ!!」

 はっと我に返る。何だ今のは!? 夢か!?

「タカオ! 大丈夫? 正気に戻った?」

 ミカが俺の顔を覗いている。おい、近いぞミカ。周りを見回す。俺は運転席に座っている。俺の隣にミカがいて、勇者は助手席側の一番隅で膝を抱えて俯いている・・・・・・なんだ? 耳まで真っ赤じゃないか。どうしたんだ? それに今のは夢なのか? 随分生々しかったが・・・・・・。

「あ、ああ、ミカか。すまん、ちょっと疲れてるのかな。居眠りして夢を見ていた様だ」

「タカオ、今何があったか覚えている?」

「今? 今って、勇者の眼を見ていたら・・・・・・」

 俺の言葉で勇者が体を震わせる。

「ミカ、俺何かやったのか? 何で勇者はあんな隅で丸くなっているんだ?」

「・・・・・・いいえ、正確にはタカオは何もやっていない。ただ・・・・・・」

「ただ?」

「良いか悪いかで言うとタカオも少しは悪い」

「はあ? 俺何やったんだよ!?」

「それに答えるには少し説明する事がある。ルシアの事だけど、何を以って勇者とされるか解る?」

「んー、人より優れた能力を持っているとか、神から力を授かったとかか?」

「正解は後者。何故かは今は問題じゃ無いので省くけど、ルシアは神から勇者としての力を授かった。その証拠が緑の瞳。イグナスでは多数の瞳の色があるけど、全種族中瞳の色がグリーンなのはルシアだけ。普段は薄めのライトグリーンだけど、勇者としての力を顕現させると、瞳の色が徐々に濃くなってくる」

「ああ、それで?」

「勇者の能力として、ステータスの大幅上昇の他にも色々なスキルを持っている。一般的な物から勇者固有のものまでね。その固有スキルの一つにイモシアと言うスキルがある。相手の感情を増幅して、それを術者自身が意識しなくても読み取れるもの。」

「待て、相手の感情を読み取る?無意識でか?」

「そう、相手が喜びの感情だけしか持っていないなら良いけど、敵意、恐怖、蔑みなどの負の感情だったら? 戦場で三万の兵を一人で壊滅させたら? 酸のブレスを撒き散らしながら王城に迫るエンシェントクラスのドラゴンゾンビをルシアが単独で討伐したら? 孤児院の子供たちを奴隷商人に横流ししている領主の首を斬り落としたら? 圧倒的武力を目の当たりにした全員が全員、感謝の気持ちだけになるとおもう?」

「そりゃあ、まあ・・・・・・」

「中には感謝のみの悪感情が無い人もいるにはいる。でもそんなのは本当にごく少数。最初は良くても後から事の成り行きを聞いて、負の感情になる人がほとんど。解る?好感情なのは最初の数日。後日顔を合わせると殆どの人が化け物を見るような悪感情でルシアを迎える。その後のルシアの落ち込み様」

 勇者の肩が震えている・・・・・・思い出して泣いているのか?

「そんな事が数年続いてルシアは徐々に笑わなくなり、結果心を閉ざしたの」

「そうか・・・・・・でもそれなら何でさっきは・・・・・・」

「私がタカオの器に惹かれた話をした時に、ルシアも惹かれているって言ったはず」

「ああ、覚えてるよ」

「タカオだって誰かを好きになった事はある筈。その時の気持ちは? 幸せな気持ちでは無かった?」

「まあそうだな。人を好きになるって事はそうだもんな」

「マナの器に惹かれるという事は、人を好きになる事と同義以上の意味を持つ。しかしそんな感情を忘れていたルシアはどうすれば良いのか解らなかった。今迄のタカオに対する言動はそれが原因」

「そうか・・・・・・」

「そして今。感情が戻ったルシアは、至近距離で正面から思い人の顔を見て感情が暴走。無意識に視線を合わせてしまい、イモシアを発動させてタカオの感情を読んでしまった。その結果がこれ」

 これ、と言われた勇者は再び肩をビクンと震わせる。

「・・・・・・なあ、感情を読むって言ったよな。それって・・・・・・」

「対象者の考えた事をそのまま読み取る」

 おいいいぃぃぃー!! そのまま? そのままなの? 妄想とは言えさっきのヤバくないか? 勇者の耳がまた真っ赤になっている。確実だよね? 確実に俺が何をしたがっていたか解ってるよね。どうする? どうすればこの場を、いや、俺は実際にはなあーんにもしていないんだ。ちょっと下ネタ話をした程度だろ? 今の日本じゃ挨拶代わりだ。んな訳ねーだろ! 昔、彼女に隠してあったアダルトビデオを発見されて泣かれた以上のショック! いや、何か違った。どうすればいいの? ちらりとミカを見る。ミカちゃーん、ヘループ。

「因みにこれはタカオとルシアの問題。私にはイモシアは使えないので二人が何を見ていたのかは全く解らない。それに喋り過ぎて喉が渇いた。ルードの所に行って何か飲んで来る。タカオはルシアを元通りにしてから来て」

 ミカはそう言い、さっさと車から降りて行ってしまった。
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