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春の靴
赤い靴
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深い森の奥。
痩せたうさぎの足音が静かに森に積もった雪の中に消える。惜しいことをした。うまく捕まえられればスープの具くらいにはなっただろうに。
春になって野菜を育て始めるまでの間は、秋のうちに集めておいた物を食べるしかない。年を越してから寒くなる一方で、街に何かを買いに行くのも億劫だ。雪が深くて外にさえ出たくない。
薪に積もった雪を手で払って少しだけ持ち、私は家の中に入った。
「ドロシー。雪、まだ降ってた?」
スープ鍋を混ぜていた兄が振り返って私に微笑む。秋の頃はふっくらしていたけど、今は少し痩せた。男一人ならもっと食べられるだろうに、いつも私に多く食べさせようとしてくれるのだ。
「うん。でも、かなり溶けてたから近いうちに街に行ってくるね。パンを焼きに行かないと」
こんな雪の中でも兄は時々狩りに出かけるし、私も街までパンを焼きに行く。最寄りの街の町長さんはいい人で、かまど税も安い方だ。新しい仕事をもらうついでにパンを焼くのは、私にとっていい気晴らしだった。
「家で焼けば? どうせ誰も気づかないでしょ」
「酵母がないもん。いいよ。編み物売るついでもあるし」
毎日麦がゆで構わないと言う兄の意見を突っぱねて、私は暖炉の脇に薪を置いた。
夕食は薄く切った黒パンと、スープだ。
「さ、お待たせ。夕飯にしようか」
大きな肉が入ったスープだ。微かに立ち上る甘い屍肉の臭いが鼻につき、私は生唾を飲み込んだ。
二人で手を合わせ、いつか教会で聞いた祈りを真似る。そして温かいスープにパンを浸して微笑みあった。
暖炉に薪と一緒に火にかけられている服の切れ端は、見ない約束になっている。
「早く春になってほしいなぁ……」
スープを啜りながら、私は家の入り口辺りに飾った真っ赤な靴を眺めた。なけなしのお金で兄さんが買ってくれたものだ。こんな森の中で履いたってしょうがないのに、試しに履いてみた私を見る兄さんは嬉しそうだった。
「春になったら、あの靴を履いて街に行ってごらん。きっと皆お前に求婚してくれるさ」
親もいない、お金もない。
貧しい孤児の私たちにとって、結婚なんて夢のまた夢だ。
十六になった私に縁談話の一つもないのも仕方のないことだった。
「どうしようかなぁ……」
そう言いながら、私はスープに浮いた肉を口に入れた。この味にもすっかり慣れたはずなのに、やっぱり口に含むと寒気がする。いつまでも飲み込めない私を心配そうに見ながら、兄は次々に具を平らげていく。
「まずは兄さんに見てほしいな」
私は机の下に放られたままの頭蓋骨を蹴り飛ばした。三日前、私を「もらってやる」と言っていた男やもめだ。助けてくれたのは兄さんだった。
兄さんのために人間の肉を食べている。
自分以外の人間のところへ今更行けなんて、相変わらず残酷なことを言う人だ。
痩せたうさぎの足音が静かに森に積もった雪の中に消える。惜しいことをした。うまく捕まえられればスープの具くらいにはなっただろうに。
春になって野菜を育て始めるまでの間は、秋のうちに集めておいた物を食べるしかない。年を越してから寒くなる一方で、街に何かを買いに行くのも億劫だ。雪が深くて外にさえ出たくない。
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こんな雪の中でも兄は時々狩りに出かけるし、私も街までパンを焼きに行く。最寄りの街の町長さんはいい人で、かまど税も安い方だ。新しい仕事をもらうついでにパンを焼くのは、私にとっていい気晴らしだった。
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「さ、お待たせ。夕飯にしようか」
大きな肉が入ったスープだ。微かに立ち上る甘い屍肉の臭いが鼻につき、私は生唾を飲み込んだ。
二人で手を合わせ、いつか教会で聞いた祈りを真似る。そして温かいスープにパンを浸して微笑みあった。
暖炉に薪と一緒に火にかけられている服の切れ端は、見ない約束になっている。
「早く春になってほしいなぁ……」
スープを啜りながら、私は家の入り口辺りに飾った真っ赤な靴を眺めた。なけなしのお金で兄さんが買ってくれたものだ。こんな森の中で履いたってしょうがないのに、試しに履いてみた私を見る兄さんは嬉しそうだった。
「春になったら、あの靴を履いて街に行ってごらん。きっと皆お前に求婚してくれるさ」
親もいない、お金もない。
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十六になった私に縁談話の一つもないのも仕方のないことだった。
「どうしようかなぁ……」
そう言いながら、私はスープに浮いた肉を口に入れた。この味にもすっかり慣れたはずなのに、やっぱり口に含むと寒気がする。いつまでも飲み込めない私を心配そうに見ながら、兄は次々に具を平らげていく。
「まずは兄さんに見てほしいな」
私は机の下に放られたままの頭蓋骨を蹴り飛ばした。三日前、私を「もらってやる」と言っていた男やもめだ。助けてくれたのは兄さんだった。
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