僕の事を嫌いな騎士の一途すぎる最愛は…

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4 「…アン…様、あなたは王家の次男なのです」


「……リン」

「カイル、腕は痛くない?今日添え木、取るんでしょ?」

「っ、リン…こんな所に居たのか…杖があれば何とか歩けるとは言っても、こんな家の裏で作業するのは止めろと、あれ程……」


あれから、ひと月程経った頃だろうか。
私の身体は簡単な料理や掃除くらいは出来る様になったので、殿下に世話や家事をして頂くのは止めた。

心は軽くなったが、殿下は退屈なようだ。
今も、風呂を焚くなどと言って…私の側から離れてしまう。

ずっとずっと…私の目の届く所に居てくれたら…それ以外望まないのに。

だが、そんな私にとって都合のいい日常に殿下は一石を投じた。


「……カイル、両腕と足…使える様になったなら僕いらないよね。そもそも、最初から何もさせて貰えなかったけどさ」


私は、殿下になんでもしてあげたかった。
本当なら王宮でもこの美しい御髪を梳き、料理を振る舞い寝床の準備をしたい。

だが、私は殿下の側でお守りして、従者たちが殿下の世話をして私は一歩後ろで見守るのが仕事。
皇太子時代、服を自分で選んだ事すらないくせに、何故か記憶を失った殿下は家事をやりたがる。

今の生活は、私にとってあまりの幸福…世話も守護も出来る、殿下はただ私から与えられた全てを甘受していればいい。

だが、そんな私の幸福とは裏腹に…殿下が呟いたそれは…私にとって意味の分からない言葉だった。

「…リン、いらない…とは?」

「あ、いや…世話ももう必要無いし、僕も家と仕事をそろそろ探そうと思ってるって話」

仕事だと?
私のやるべき事は殿下になるべく快適に過ごして貰う事と、その身をお守りする事。
王家の次男として仕事などさせるはずがない…だが、それをうまく説明する言葉を私は持っていなかった。


「リン、ダメに決まっている。外に出るのも…ましてや仕事など。頼むから、ここで大人しくしていてくれ。私もようやく身体が動く様になって、君に今よりもいい生活をさせてやれるんだ」

だが、殿下は目を潤ませる。

「……カイルさんは、本当に僕を知らなかったの?落下した馬車にたまたま乗り合わせていただけ…?カイルさんは……僕を知ってたんじゃないの?」

聡明な殿下には、私のつまらない嘘など似合わない、この関係の図星を突かれ…私は動揺した。

この方に嘘を指摘されれば、私は黙っている事が出来るとは思えない。

どうにか誤魔化しの言葉を浮かべていると、私に振り返ったのはありえない言葉だった。


「カイルさん、僕は……もしかしてあなたの恋人……だったとか?」

そう、殿下に言われて驚き…あまりに幸せな殿下の予想に嘲笑を浮かべた。
実際は殿下に懸想を抱え、産まれた時からの命も解任され、殿下をお守り出来る立場にもいない愚かな騎士だというのに。

「恋人……そんなはずがない。恋人…?はは……ありえない」

ありえない、殿下が私を恋人にするなど。

私が…過去に思いを馳せ目を伏せると、殿下は私達の過去を察したようだった。

殿下を知っているのか、という問答が続くと殿下はあの時のように冷静さを失っていく。


「よく考えたら、赤の他人のあなたの家にずっと住んでいる方がおかしいんだから、僕はすぐに出ていくよ。王都にいけば…住み込みで出来る仕事だって……」

涙を溜めるその姿は、あの…忌々しい日に見たきりだ。殿下がお命を狙われたあの日。

私は、それだけはどんな命令よりも聞き入れることが出来なかった。
あなたが私の目の前から居なくなる、それだけは。

殿下を止める為とはいえ、触るなと命ぜられているのにも関わらず、その細い身体を抱き締める。
殿下は…その事を知りもせず嬉しそうに私を抱き締め返した。

そのまま持ち上げると、以前も行っていた行為なのにまるで違う。
殿下は私の首筋に鼻を押し当て、恋仲の二人のように背中に腕を回す。

「……リン、私は嘘が苦手だ。元々…無理だったのだ、こんなのは。でも…あなたと私の話はどうしても出来ない……そして、私はあなたを引き止める為には、閉じ込める事しか知らない。そんな私を許さなくていい…お願いだ、側にいて欲しい」

私は、殿下の足元に縋り付き顔を歪ませる。

「カイルさん…、何があなたをそんなに苦しめるの」

「あなたの側にいるには、どうしたらいいのか…それを考えると……いつも、酷く苦しい」

リンが出ていく事に向けた言葉ではない。
私を解任すると言った殿下のお側に居れる方法を…どうしても探してしまう。

「カイルさん……僕、カイルさんの恋人じゃダメかな、ここに居る理由。何もさせても貰えない、家族でもない、そんなの辛いよ」

殿下は…ここに居る意味を探していたらしい。
私からすれば、意味なんて殿下が殿下であるという事実でしかないのだが。

私は殿下の気持ちを何も考えてはいなかった、記憶も家もないと言われ…私のような大男と同居をさせられる。

そんな殿下から恋人になるという打診をさせてしまった事を悔いた。

「っ、リン……出来ない」

もし……今のリンが私と恋仲になりたいと思っても、それは記憶の無い彼にとって、私が唯一の拠り所であっただけだ。

私を解任すると言った殿下の本意で無い事は手に取るように分かる真実。

だが…それでも、殿下の恋人じゃダメなのかという言葉が…嬉しいのだから私も大概頭がおかしい。

「カイルさん…僕に記憶、戻って欲しい?」

「……戻らなければ…いいな、ずっと」


無意識に投げ出されたその言葉。
私は…もうこれ以上苦しむ殿下に見て見ぬふりを出来ない。

言ったから何になるわけでもない、困惑させるだけなのも理解出来る。

しかし…先程までは突き通そうとした嘘だが、どうしてもこの方にはもう嘘を吐く事がどうしても嫌だった。

私は深呼吸すると決心する。

ブラウン殿には言うなと言われたその真実。



「…アン…様、あなたは王家の次男なのです」

「……っえ?」
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