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本編
第5話 『アイザイア・フェリシタル』 ②
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「……懐かしい夢、だったわ……」
私は目が覚めると一番にそんな言葉を呟いていた。カーテン越しに感じる朝日はとても眩しい。なので、朝だと嫌でも告げるその態様に、思わず少しだけ顔をしかめてしまいました。
「モニカ様。本日のお時間通りのお目覚めですね。おはようございます」
「……えぇ、おはよう、ヴィニー」
侍女のヴィニーが側にやってくると、私はそれだけ声をかけて寝台から降りました。すると、いつものようにヴィニーが毛布等をたたみ始めます。それを眺めながら、私は今日見た夢のことを考えていました。
「……ねぇ、ヴィニー。先ほど、とても懐かしい夢を見たのよ」
そして、テーブルの横に私は移動します。そこで用意されている朝の紅茶を飲みながら、私はそう言いました。私の起床時間はいつも同じ。だからこそ、ヴィニーは私の起床時間に合わせて紅茶を淹れてくれます。目が覚めるようなブレンドを選びながらも、日替わりで味が変わるこの紅茶を楽しむことが、私の朝一番の楽しみでした。
「夢、でございますか?」
ヴィニーは毛布をたたみ終えると、そう言って私に向き合いました。その美しい髪が、向き直る際にさらりと揺れます。
私にとっての理想の女性像とは、王妃様とお母様でした。いつも優しく、温かく見守ってくださるような存在。そんな存在に、私は幼い頃から憧れておりました。ですが、理想の容姿というのはまた別にあり、それがヴィニーの容姿や体型でした。魅力的な凹凸のある体型に、美しい髪。いつ見ても羨ましいと思ってしまいます。だって、私は凹凸の少ない、世に言う「幼児体型」ですから。
「うん、アイザイア様と出逢ったころの夢よ。……私ね、あの時の男の子がアイザイア様だなんて思わなかったの。で、お父様に紹介されて、初めてこの人が私の婚約者になる人なんだって、分かった。驚きも強かったけれど、それ以上に私は嬉しかったの。……こんなにも美しくて優しい人のお嫁さんになれるんだって、思ったから」
紅茶を飲みながら、私はそう言って遠いところを見つめます。本日のお妃教育は、教師の都合で一日お休みになってしまいました。何をしようか。どこに出掛けようか。そう思うと、心は弾むはずなのに。なのに、私の表情は浮かないものになっている気がします。
「……私、夢を見て思ったの。やっぱり、アイザイア様のことが好きなんだって。この気持ちが恋じゃないって、私だって分かっているの。けどね、それでもいいの。……政略結婚に、恋なんて必要ないでしょう? 政略結婚は結婚してから恋をするものだというしね。……お父様と、お母様が、そうだったように」
そう言いながら、私はカップに残っていた紅茶を飲み干しました。
私の両親、エストレア公爵夫妻も政略結婚でした。お母様は名門伯爵家の次女であり、エストレア公爵家に嫁いできました。その結婚は、私から見てお爺様同士が決めたものであり、本人たちの望んだものではありません。ですが、関係は今も良好であり、家族仲も良好。そんな夫婦に、私は憧れていたのです。
「でも、私が嫁ぐ相手は王太子殿下。……もしかしたら、側妃だって娶られるかもしれないし、愛妾だって出来るかもしれないわ。……それでも、やっぱり私、アイザイア様のお嫁さんになりたいの」
そこまで言うと、私はヴィニーに向き直り、とびきりの笑顔を向けました。
「……アイザイア様に対する感情が、少しわからなくなってきたの。それでも……私のことを、アイザイア様は愛してくださるかしら?」
「……えぇ、きっと愛してくださいますよ」
私の問いかけに、ヴィニーは微笑みながら答えてくれました。だから……彼女には、きっと分かっていたのでしょうね。徐々に私がアイザイア様に向ける感情が……「恋」に変わっていたということに。
「……懐かしい夢、だったわ……」
私は目が覚めると一番にそんな言葉を呟いていた。カーテン越しに感じる朝日はとても眩しい。なので、朝だと嫌でも告げるその態様に、思わず少しだけ顔をしかめてしまいました。
「モニカ様。本日のお時間通りのお目覚めですね。おはようございます」
「……えぇ、おはよう、ヴィニー」
侍女のヴィニーが側にやってくると、私はそれだけ声をかけて寝台から降りました。すると、いつものようにヴィニーが毛布等をたたみ始めます。それを眺めながら、私は今日見た夢のことを考えていました。
「……ねぇ、ヴィニー。先ほど、とても懐かしい夢を見たのよ」
そして、テーブルの横に私は移動します。そこで用意されている朝の紅茶を飲みながら、私はそう言いました。私の起床時間はいつも同じ。だからこそ、ヴィニーは私の起床時間に合わせて紅茶を淹れてくれます。目が覚めるようなブレンドを選びながらも、日替わりで味が変わるこの紅茶を楽しむことが、私の朝一番の楽しみでした。
「夢、でございますか?」
ヴィニーは毛布をたたみ終えると、そう言って私に向き合いました。その美しい髪が、向き直る際にさらりと揺れます。
私にとっての理想の女性像とは、王妃様とお母様でした。いつも優しく、温かく見守ってくださるような存在。そんな存在に、私は幼い頃から憧れておりました。ですが、理想の容姿というのはまた別にあり、それがヴィニーの容姿や体型でした。魅力的な凹凸のある体型に、美しい髪。いつ見ても羨ましいと思ってしまいます。だって、私は凹凸の少ない、世に言う「幼児体型」ですから。
「うん、アイザイア様と出逢ったころの夢よ。……私ね、あの時の男の子がアイザイア様だなんて思わなかったの。で、お父様に紹介されて、初めてこの人が私の婚約者になる人なんだって、分かった。驚きも強かったけれど、それ以上に私は嬉しかったの。……こんなにも美しくて優しい人のお嫁さんになれるんだって、思ったから」
紅茶を飲みながら、私はそう言って遠いところを見つめます。本日のお妃教育は、教師の都合で一日お休みになってしまいました。何をしようか。どこに出掛けようか。そう思うと、心は弾むはずなのに。なのに、私の表情は浮かないものになっている気がします。
「……私、夢を見て思ったの。やっぱり、アイザイア様のことが好きなんだって。この気持ちが恋じゃないって、私だって分かっているの。けどね、それでもいいの。……政略結婚に、恋なんて必要ないでしょう? 政略結婚は結婚してから恋をするものだというしね。……お父様と、お母様が、そうだったように」
そう言いながら、私はカップに残っていた紅茶を飲み干しました。
私の両親、エストレア公爵夫妻も政略結婚でした。お母様は名門伯爵家の次女であり、エストレア公爵家に嫁いできました。その結婚は、私から見てお爺様同士が決めたものであり、本人たちの望んだものではありません。ですが、関係は今も良好であり、家族仲も良好。そんな夫婦に、私は憧れていたのです。
「でも、私が嫁ぐ相手は王太子殿下。……もしかしたら、側妃だって娶られるかもしれないし、愛妾だって出来るかもしれないわ。……それでも、やっぱり私、アイザイア様のお嫁さんになりたいの」
そこまで言うと、私はヴィニーに向き直り、とびきりの笑顔を向けました。
「……アイザイア様に対する感情が、少しわからなくなってきたの。それでも……私のことを、アイザイア様は愛してくださるかしら?」
「……えぇ、きっと愛してくださいますよ」
私の問いかけに、ヴィニーは微笑みながら答えてくれました。だから……彼女には、きっと分かっていたのでしょうね。徐々に私がアイザイア様に向ける感情が……「恋」に変わっていたということに。
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