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本編 第2章
第13話
近くの街で買い物を済ませ、帰路に就く。
隣を歩くヴィリバルトさんの手には、大きな紙袋。中には日用品と数日分の衣類が入っている。
「本当にすみません。たくさん買っていただいて……」
衣類はある程度の数あったほうがいいだろうと、彼はほかにも注文していた。それらはあとで邸宅に届けてもらう予定だ。
「いえ、俺が好きでしていることなので気にしないでください」
どうしてだろう。ヴィリバルトさんの声を聞くと安心する。声のトーンは心地よく、話し方が穏やかだからなのかな。
「ヴィリバルトさんって、街の人と親しいんですね」
お店が並ぶ通りに入ると、ヴィリバルトさんはたくさんの人に声をかけられていた。だれもが笑顔で声をかけていて、彼に人望があるのがよくわかる。私だって貴族令嬢だった。人の笑顔が作り物か本物かくらい見抜ける。
「みなさん、とても良くしてくれるんです。俺みたいなよそ者にも優しくしてくれて、ありがたい限りです」
貴族の中には、自分が良くしてもらって当然だという人がいる。元婚約者もそうだった。
そんな人たちに囲まれてきたからこそ。私はヴィリバルトさんという人がいかに素晴らしいのかがわかる。
「いつか、優しくしてくれた人に恩返しできたらいいんですけどね」
彼のぽつりとしたつぶやきに、私は静かにうなずいた。
私もいつか、ヴィリバルトさんに恩返しがしたい。この気持ちに嘘なんてない。
遠くに邸宅が見えてくる。ようやく帰ってきたんだ――って実感していると、ヴィリバルトさんが一瞬立ち止まった。
「どうしました?」
首をかしげて問う。彼の視線は一点に注がれている。
私は目を凝らすけど、よく見えない。なにかあるのだろうか?
「ヴィリバルトさん?」
反応がないことが不安で、彼の名前を呼ぶ。彼ははっとして、ごまかすように咳ばらいをした。
「いえ、来客のようです。……知らせは受けていないんですけどね」
もう一度目を凝らす。しかし、私には人影なんて見えない。
「メリーナさん。悪いのですが、少々応対してもいいですか?」
「はい」
私に拒否する権利なんてない。うなずくと、彼は駆け足で敷地のほうに近づいた。
私はゆっくり彼のあとを追う。
(あ、確かに人だ)
少し歩いて、ようやく人らしきシルエットが見えてきた。あの距離で見えるって、ヴィリバルトさんの視力はどうなっているんだろう。素直に疑問だ。
(私が会ってもいいのかな……?)
迷った。同居するからといって、なにもかもを知る権利なんてない。親しき中にも礼儀あり。ある程度の距離は必要だ。
どうするべきかと考えて、足を止める。近づくべきか、ここで待っているべきか――。
(もしも、私に会ってほしくなかったら、ここで待つように言うよね?)
だから、大丈夫――と、自分に言い聞かせる。
足を前に勧めていくと、来客の姿がはっきりしてくる。背丈は高く、がっしりとした体格の男性だ。
「――で、いつ頃になる」
耳に届く真剣な声。これは聞いていいのか、ダメなのか。
「現状わかりません。俺はギードに無理なんてさせたくない」
「その気持ちは尊重する。しかしだな……」
たぶん、お仕事の話だ。
「……無理強いする権利など、私にはない。だが、前向きに考えておいてほしい」
相手の言葉にヴィリバルトさんは返事をしなかった。
同時に、強い風が吹く。風は私の帽子をさらって、道端に落ちた。……最悪なことに、ヴィリバルトさんたちの側だ。
「――すみません!」
男性が私の帽子を拾う。謝りながら近づくと、男性の視線が私を捉えた。
「キミは」
男性は目を見開く。まるでお化けでも見たみたいな表情だ。私はお化けなんかじゃないのに。
隣を歩くヴィリバルトさんの手には、大きな紙袋。中には日用品と数日分の衣類が入っている。
「本当にすみません。たくさん買っていただいて……」
衣類はある程度の数あったほうがいいだろうと、彼はほかにも注文していた。それらはあとで邸宅に届けてもらう予定だ。
「いえ、俺が好きでしていることなので気にしないでください」
どうしてだろう。ヴィリバルトさんの声を聞くと安心する。声のトーンは心地よく、話し方が穏やかだからなのかな。
「ヴィリバルトさんって、街の人と親しいんですね」
お店が並ぶ通りに入ると、ヴィリバルトさんはたくさんの人に声をかけられていた。だれもが笑顔で声をかけていて、彼に人望があるのがよくわかる。私だって貴族令嬢だった。人の笑顔が作り物か本物かくらい見抜ける。
「みなさん、とても良くしてくれるんです。俺みたいなよそ者にも優しくしてくれて、ありがたい限りです」
貴族の中には、自分が良くしてもらって当然だという人がいる。元婚約者もそうだった。
そんな人たちに囲まれてきたからこそ。私はヴィリバルトさんという人がいかに素晴らしいのかがわかる。
「いつか、優しくしてくれた人に恩返しできたらいいんですけどね」
彼のぽつりとしたつぶやきに、私は静かにうなずいた。
私もいつか、ヴィリバルトさんに恩返しがしたい。この気持ちに嘘なんてない。
遠くに邸宅が見えてくる。ようやく帰ってきたんだ――って実感していると、ヴィリバルトさんが一瞬立ち止まった。
「どうしました?」
首をかしげて問う。彼の視線は一点に注がれている。
私は目を凝らすけど、よく見えない。なにかあるのだろうか?
「ヴィリバルトさん?」
反応がないことが不安で、彼の名前を呼ぶ。彼ははっとして、ごまかすように咳ばらいをした。
「いえ、来客のようです。……知らせは受けていないんですけどね」
もう一度目を凝らす。しかし、私には人影なんて見えない。
「メリーナさん。悪いのですが、少々応対してもいいですか?」
「はい」
私に拒否する権利なんてない。うなずくと、彼は駆け足で敷地のほうに近づいた。
私はゆっくり彼のあとを追う。
(あ、確かに人だ)
少し歩いて、ようやく人らしきシルエットが見えてきた。あの距離で見えるって、ヴィリバルトさんの視力はどうなっているんだろう。素直に疑問だ。
(私が会ってもいいのかな……?)
迷った。同居するからといって、なにもかもを知る権利なんてない。親しき中にも礼儀あり。ある程度の距離は必要だ。
どうするべきかと考えて、足を止める。近づくべきか、ここで待っているべきか――。
(もしも、私に会ってほしくなかったら、ここで待つように言うよね?)
だから、大丈夫――と、自分に言い聞かせる。
足を前に勧めていくと、来客の姿がはっきりしてくる。背丈は高く、がっしりとした体格の男性だ。
「――で、いつ頃になる」
耳に届く真剣な声。これは聞いていいのか、ダメなのか。
「現状わかりません。俺はギードに無理なんてさせたくない」
「その気持ちは尊重する。しかしだな……」
たぶん、お仕事の話だ。
「……無理強いする権利など、私にはない。だが、前向きに考えておいてほしい」
相手の言葉にヴィリバルトさんは返事をしなかった。
同時に、強い風が吹く。風は私の帽子をさらって、道端に落ちた。……最悪なことに、ヴィリバルトさんたちの側だ。
「――すみません!」
男性が私の帽子を拾う。謝りながら近づくと、男性の視線が私を捉えた。
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