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本編 第1章
第2話
あの浮気事件から数時間後。
私は、街にある大衆食堂で今後のことを考えていた。
(持っているのは、銀貨二枚と銅貨数枚か……)
お世辞にも、お金がたくさんあるとは言えない現状に、項垂れそうになる。でも、これは私が決めたことだ。その一心で、自身の頬をパンっとたたいた。
「とりあえず、お腹空いたし……」
そう呟いて、私は目の前にあるパンを口に運んだ。
ここにきてすぐにランチセットを注文していた。今はしばらく時間が経っているので、スープとかは冷めている。けど、猫舌の私には丁度いいような気もする。
「さぁて、本当にこの後どうするか……」
小さくそう零して、スープを口に運ぶ。
周囲をぐるりと見渡せば、よくわからない恰好をしたグループがたくさんいる。旅芸人とか、そういう人、なのかも。
(そもそも、大衆食堂に来たのも初めてだしね……)
ただ、専属の侍女からこういう店があるということ。そして、割と治安のいいお店を教えてもらっていたので、迷いなくこのお店にやってきた。なんでも、このお店は貴族がお忍びで来ることもあるというのだから、驚きだ。
貴族って、私の両親みたいに高級なものしか口にしないのかと思っていたんだもの。
って、今はそんなことはどうでもいい。
「というか、やっぱり働かないとダメよね……」
グラスに入ったオレンジジュースを飲みながら、私はぽつりとそう零す。
働かざるもの食うべからずである。だから、私は働くべきだ。……貴族じゃ、なくなったわけだしね。
「まぁ、なんとでもなる……か?」
サラダを口に運びつつ、私はそう言葉を漏らした。
あの後、お屋敷に戻れば門が固く閉ざされていた。門番に声をかけたものの、彼らはゆるゆると首を横に振るだけで、なにも言わない。……多分、両親から「なにも言うな」と命じられているのだろう。それと、「メリーナを絶対に屋敷に入れるな」とも。
ただ、門番は手紙らしきものを私に手渡してきた。そこにはお父さまの字で「お前を勘当する」ということが綴られていた。
幸いだったのは、さすがに無一文で放り出すという醜聞の悪いことはせずに、お金を持たせてくれたことだ。
……銀貨二枚と、銅貨数枚だけだけれど。
いや、ないよりは全然マシだけれど。
(多分、ここら辺の相場で言えば三日は宿にでも泊まれるはずだわ)
侍女に教えてもらっていた相場と照らし合わせつつ、私は頭の中で素早く計算していく。正直、こういう計算とかは好き。
両親は「女に勉強は必要ない」って言ってたけど。……思い出しただけで腹が立つので、思い出さない方向で行こう。
「けど、三日、三日かぁ……」
その間にお仕事が決まるなんて思えない。ついでに、住む場所が見つかるとも思えない。住み込みとか、そういうのだったらまだなんとかなる……かもだけど。
(得体のしれない女、しかも未経験。こんなの、雇うだけ無駄よねぇ)
相手だって慈善事業じゃないのだ。戦力になる人間ならばまだしも、こんな働いたことのない小娘を簡単に雇うとは思えない。
……ある意味、ヤバい状況だ。
「……うーん、どうしようかなぁ」
手っ取り早いのは酒場のウェイトレスとかなんだけれど……。
そこもやっぱり、愛想が必要だし。あんまり表情が動いてくれない私には、不向きな仕事と言えよう。あと、純粋に反発心の強い私じゃあ、お客さんと喧嘩になる可能性も高い。うん、無理だ。
「ともなれば……」
パンをかじりつつ、一人で考えをまとめていく。……が、全くまとまらない。
挙句唸りだした私を、周囲の人が痛いものを見るような目で見つめている。わかる。だけど、こっちはお金が――というか、生死が関わっているのだ。こんなこと気にしている余裕なんてない。
「……はぁ。どっか働ける場所、ないかなぁ」
そう小さく零したとき。不意に、「お隣、いいですか?」という声が聞こえてきた。
慌てて声のほうに視線を向ける。そこには、野暮ったいという言葉が似合いそうなほどに冴えない男が、いた。
私は、街にある大衆食堂で今後のことを考えていた。
(持っているのは、銀貨二枚と銅貨数枚か……)
お世辞にも、お金がたくさんあるとは言えない現状に、項垂れそうになる。でも、これは私が決めたことだ。その一心で、自身の頬をパンっとたたいた。
「とりあえず、お腹空いたし……」
そう呟いて、私は目の前にあるパンを口に運んだ。
ここにきてすぐにランチセットを注文していた。今はしばらく時間が経っているので、スープとかは冷めている。けど、猫舌の私には丁度いいような気もする。
「さぁて、本当にこの後どうするか……」
小さくそう零して、スープを口に運ぶ。
周囲をぐるりと見渡せば、よくわからない恰好をしたグループがたくさんいる。旅芸人とか、そういう人、なのかも。
(そもそも、大衆食堂に来たのも初めてだしね……)
ただ、専属の侍女からこういう店があるということ。そして、割と治安のいいお店を教えてもらっていたので、迷いなくこのお店にやってきた。なんでも、このお店は貴族がお忍びで来ることもあるというのだから、驚きだ。
貴族って、私の両親みたいに高級なものしか口にしないのかと思っていたんだもの。
って、今はそんなことはどうでもいい。
「というか、やっぱり働かないとダメよね……」
グラスに入ったオレンジジュースを飲みながら、私はぽつりとそう零す。
働かざるもの食うべからずである。だから、私は働くべきだ。……貴族じゃ、なくなったわけだしね。
「まぁ、なんとでもなる……か?」
サラダを口に運びつつ、私はそう言葉を漏らした。
あの後、お屋敷に戻れば門が固く閉ざされていた。門番に声をかけたものの、彼らはゆるゆると首を横に振るだけで、なにも言わない。……多分、両親から「なにも言うな」と命じられているのだろう。それと、「メリーナを絶対に屋敷に入れるな」とも。
ただ、門番は手紙らしきものを私に手渡してきた。そこにはお父さまの字で「お前を勘当する」ということが綴られていた。
幸いだったのは、さすがに無一文で放り出すという醜聞の悪いことはせずに、お金を持たせてくれたことだ。
……銀貨二枚と、銅貨数枚だけだけれど。
いや、ないよりは全然マシだけれど。
(多分、ここら辺の相場で言えば三日は宿にでも泊まれるはずだわ)
侍女に教えてもらっていた相場と照らし合わせつつ、私は頭の中で素早く計算していく。正直、こういう計算とかは好き。
両親は「女に勉強は必要ない」って言ってたけど。……思い出しただけで腹が立つので、思い出さない方向で行こう。
「けど、三日、三日かぁ……」
その間にお仕事が決まるなんて思えない。ついでに、住む場所が見つかるとも思えない。住み込みとか、そういうのだったらまだなんとかなる……かもだけど。
(得体のしれない女、しかも未経験。こんなの、雇うだけ無駄よねぇ)
相手だって慈善事業じゃないのだ。戦力になる人間ならばまだしも、こんな働いたことのない小娘を簡単に雇うとは思えない。
……ある意味、ヤバい状況だ。
「……うーん、どうしようかなぁ」
手っ取り早いのは酒場のウェイトレスとかなんだけれど……。
そこもやっぱり、愛想が必要だし。あんまり表情が動いてくれない私には、不向きな仕事と言えよう。あと、純粋に反発心の強い私じゃあ、お客さんと喧嘩になる可能性も高い。うん、無理だ。
「ともなれば……」
パンをかじりつつ、一人で考えをまとめていく。……が、全くまとまらない。
挙句唸りだした私を、周囲の人が痛いものを見るような目で見つめている。わかる。だけど、こっちはお金が――というか、生死が関わっているのだ。こんなこと気にしている余裕なんてない。
「……はぁ。どっか働ける場所、ないかなぁ」
そう小さく零したとき。不意に、「お隣、いいですか?」という声が聞こえてきた。
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