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本編 第2章
交換条件
「……最低」
その後、ヴェルディアナの口から出たのはそれだけの言葉だった。
本当は、今にも泣きだしたかった。初めての口づけを強引に奪われた挙句、こんな風に身体を撫でまわされて。
それでも、リベラトーレは自分よりも七つも年下だ。そう自分に言い聞かせることで、泣きたい気持ちを押し殺した。しかし、その考えはしっかりとリベラトーレに伝わっていたらしい。彼はヴェルディアナのことを抱きしめながら、優しく「泣いて」なんて言ってくる。
絶対に、泣くものか。そういう意味を込めて、ヴェルディアナは首を横に振る。
「……強情。俺、ヴェルディアナの泣き顔が見たい。……ほら、泣いて」
リベラトーレはそう言うと、ヴェルディアナを抱きしめる力を強める。その抱きしめてくる力はとても強く、ヴェルディアナは苦しくなってしまった。
「苦しいでしょ? 俺、これよりももっと苦しかった。……だから、ヴェルディアナ、俺と結婚しましょう?」
「……ぁ」
リベラトーレの手が、ヴェルディアナの脇腹に触れる。そのまま厭らしく指を這わせられ、ヴェルディアナの口からは艶っぽい吐息がこぼれた。でも、それよりも。結婚しろなんて、どうして言うのだろうか。呪いたいほど恨んでいるのならば、そんなこと言ってくるはずがないのに。
「……ど、うして」
ゆっくりとそう問いかければ、彼は「ヴェルディアナのことが好きだから」と言ってくる。好きならば、呪わないでほしいのに。そう思うが、その気持ちは言葉にはならなかった。けれど、リベラトーレは「呪いたいほど、好きなんです」と言ってくる。意味が、全く分からない。
「ヴェルディアナ、交渉しましょう。……その呪い、俺にしか解けないんです。だから、ヴェルディアナが俺の望みを叶えてくれたら、解いてあげます」
そう言って、リベラトーレはようやくヴェルディアナの身体を解放してくれた。その瞬間、ヴェルディアナの身体からは力が抜け、地面に座り込んでしまう。苦しい。辛い。そう思っていれば、リベラトーレっはヴェルディアナの顎を掴み、無理やり自身と視線を合わせる。その目に宿っているのは……とんでもないほどの、狂気。
「俺がヴェルディアナに望むことはたった一つ。俺と結婚してもらうこと。一生愛しますから、ね?」
堕とすように、甘ったるくそう言われればヴェルディアナはうなずいてしまいそうになる。
それでも、理性で踏みとどまり「……いや」と告げた。リベラトーレに自分は似合わない。だから、彼のことを考えれば自分が彼の側にいていいはずがない。
「本当に強情ですよね。……今、ここで襲ってやってもいいんですよ?」
「……それでも、嫌」
脅すようにそう言われたとしても、ヴェルディアナはうなずきたくなかった。たとえ、このまま呪われた人生を送るとしても。この際構わない。リベラトーレの未来の方が大切だから。
一度は婚約者として関係を築いてきた彼には、確かに情があった。
「……じゃあ、このまま呪われたままの人生を送るっていうんですか? それで、ヴェルディアナは幸せなんですか?」
「……それでも、なの」
たとえ自分が破滅したって構わない。そういう意思を目に込めてリベラトーレのことを見つめれば、彼はただ一言「お人好し」なんて馬鹿にしたように言ってくる。その後、ヴェルディアナと目線を合わせるかのようにしゃがみこんだ。
「俺はヴェルディアナが好きなんですよ。大好きなんですよ。愛しているんですよ。……わかりますか?」
「それ、は」
「もしも俺の幸せや未来を考えているのならば、ヴェルディアナは俺と結婚するべきなんです」
そう言って、リベラトーレはヴェルディアナの目元を拭う。どうやら、ヴェルディアナはついに涙を零してしまったらしい。それに驚き目を見開けば、リベラトーレは「じゃあ、条件を変えましょうか」と言って、ヴェルディアナの涙を拭った指を見せつけながら自身の口に含む。
「俺の家で、侍女として働いてください。……俺の側にいれば、その呪いの効力は弱まるので」
指を舐めながらリベラトーレはそう言い、「侍女として働いている間に、俺と結婚したいって言わせてみせますので」と続ける。
どうやら、リベラトーレはここまで来てもヴェルディアナのことをあきらめようとはしないらしい。
「……で、も」
「もしも、それを拒否するんでしたら俺はヴェルディアナの意思を奪います。……俺、人形みたいになったヴェルディアナでも愛せる自信があるので」
そして、その言葉が決定打だった。意思を奪われ、人形のようにされるなんて絶対にごめんだ。
そう思い、ヴェルディアナは静かに「……考え、ます」と答えていた。いきなり答えを導き出すことはどうしてもできなかった。だからこそ、その返答を選んだ。
「……今は、それで納得してあげますよ。一週間後、ヴェルディアナの元に答えを聞きに行きます。……いい返事を、待っていますよ」
リベラトーレはそれだけの言葉を残すと、颯爽と路地裏を立ち去っていく。
最後に一度だけヴェルディアナの方を振り返り、「俺以外の男に身体を許すようなことがあったら……問答無用で、殺しますから」とだけ告げた。それは、本気でそう思っているような声音だった。
(……わた、し)
ふらふらと立ち上がりながら、ヴェルディアナは考える。どうして、こんなことになってしまったのだろうか。どうして、リベラトーレはこんなにも自分に執着しているのだろうか。
「……もう、嫌だ」
そう思ってしまうが、リベラトーレから逃げ出そうとしても彼はしつこく追ってくるだろう。
さらに言えば、あの態度だとヴェルディアナの周辺にまで手を出すかもしれない。ならば、自分が導き出せる答えはたった一つ。そんな気が、した。
その後、ヴェルディアナの口から出たのはそれだけの言葉だった。
本当は、今にも泣きだしたかった。初めての口づけを強引に奪われた挙句、こんな風に身体を撫でまわされて。
それでも、リベラトーレは自分よりも七つも年下だ。そう自分に言い聞かせることで、泣きたい気持ちを押し殺した。しかし、その考えはしっかりとリベラトーレに伝わっていたらしい。彼はヴェルディアナのことを抱きしめながら、優しく「泣いて」なんて言ってくる。
絶対に、泣くものか。そういう意味を込めて、ヴェルディアナは首を横に振る。
「……強情。俺、ヴェルディアナの泣き顔が見たい。……ほら、泣いて」
リベラトーレはそう言うと、ヴェルディアナを抱きしめる力を強める。その抱きしめてくる力はとても強く、ヴェルディアナは苦しくなってしまった。
「苦しいでしょ? 俺、これよりももっと苦しかった。……だから、ヴェルディアナ、俺と結婚しましょう?」
「……ぁ」
リベラトーレの手が、ヴェルディアナの脇腹に触れる。そのまま厭らしく指を這わせられ、ヴェルディアナの口からは艶っぽい吐息がこぼれた。でも、それよりも。結婚しろなんて、どうして言うのだろうか。呪いたいほど恨んでいるのならば、そんなこと言ってくるはずがないのに。
「……ど、うして」
ゆっくりとそう問いかければ、彼は「ヴェルディアナのことが好きだから」と言ってくる。好きならば、呪わないでほしいのに。そう思うが、その気持ちは言葉にはならなかった。けれど、リベラトーレは「呪いたいほど、好きなんです」と言ってくる。意味が、全く分からない。
「ヴェルディアナ、交渉しましょう。……その呪い、俺にしか解けないんです。だから、ヴェルディアナが俺の望みを叶えてくれたら、解いてあげます」
そう言って、リベラトーレはようやくヴェルディアナの身体を解放してくれた。その瞬間、ヴェルディアナの身体からは力が抜け、地面に座り込んでしまう。苦しい。辛い。そう思っていれば、リベラトーレっはヴェルディアナの顎を掴み、無理やり自身と視線を合わせる。その目に宿っているのは……とんでもないほどの、狂気。
「俺がヴェルディアナに望むことはたった一つ。俺と結婚してもらうこと。一生愛しますから、ね?」
堕とすように、甘ったるくそう言われればヴェルディアナはうなずいてしまいそうになる。
それでも、理性で踏みとどまり「……いや」と告げた。リベラトーレに自分は似合わない。だから、彼のことを考えれば自分が彼の側にいていいはずがない。
「本当に強情ですよね。……今、ここで襲ってやってもいいんですよ?」
「……それでも、嫌」
脅すようにそう言われたとしても、ヴェルディアナはうなずきたくなかった。たとえ、このまま呪われた人生を送るとしても。この際構わない。リベラトーレの未来の方が大切だから。
一度は婚約者として関係を築いてきた彼には、確かに情があった。
「……じゃあ、このまま呪われたままの人生を送るっていうんですか? それで、ヴェルディアナは幸せなんですか?」
「……それでも、なの」
たとえ自分が破滅したって構わない。そういう意思を目に込めてリベラトーレのことを見つめれば、彼はただ一言「お人好し」なんて馬鹿にしたように言ってくる。その後、ヴェルディアナと目線を合わせるかのようにしゃがみこんだ。
「俺はヴェルディアナが好きなんですよ。大好きなんですよ。愛しているんですよ。……わかりますか?」
「それ、は」
「もしも俺の幸せや未来を考えているのならば、ヴェルディアナは俺と結婚するべきなんです」
そう言って、リベラトーレはヴェルディアナの目元を拭う。どうやら、ヴェルディアナはついに涙を零してしまったらしい。それに驚き目を見開けば、リベラトーレは「じゃあ、条件を変えましょうか」と言って、ヴェルディアナの涙を拭った指を見せつけながら自身の口に含む。
「俺の家で、侍女として働いてください。……俺の側にいれば、その呪いの効力は弱まるので」
指を舐めながらリベラトーレはそう言い、「侍女として働いている間に、俺と結婚したいって言わせてみせますので」と続ける。
どうやら、リベラトーレはここまで来てもヴェルディアナのことをあきらめようとはしないらしい。
「……で、も」
「もしも、それを拒否するんでしたら俺はヴェルディアナの意思を奪います。……俺、人形みたいになったヴェルディアナでも愛せる自信があるので」
そして、その言葉が決定打だった。意思を奪われ、人形のようにされるなんて絶対にごめんだ。
そう思い、ヴェルディアナは静かに「……考え、ます」と答えていた。いきなり答えを導き出すことはどうしてもできなかった。だからこそ、その返答を選んだ。
「……今は、それで納得してあげますよ。一週間後、ヴェルディアナの元に答えを聞きに行きます。……いい返事を、待っていますよ」
リベラトーレはそれだけの言葉を残すと、颯爽と路地裏を立ち去っていく。
最後に一度だけヴェルディアナの方を振り返り、「俺以外の男に身体を許すようなことがあったら……問答無用で、殺しますから」とだけ告げた。それは、本気でそう思っているような声音だった。
(……わた、し)
ふらふらと立ち上がりながら、ヴェルディアナは考える。どうして、こんなことになってしまったのだろうか。どうして、リベラトーレはこんなにも自分に執着しているのだろうか。
「……もう、嫌だ」
そう思ってしまうが、リベラトーレから逃げ出そうとしても彼はしつこく追ってくるだろう。
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