末っ子第三王女は竜王殿下に溺愛される【本編完結】

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第一章末っ子王女の婚姻

15/メイドと護衛と離宮という名の後宮

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 翌朝、リディアは細身だが筋肉の付いたレオナルドの腕の中で目覚める。
 目の前にあるのは、絹のシャツがはだけて見えるレオナルドの素肌だった。
 びっくりして腕から逃げようとするけれど、しっかりと抱えられていて抜けることが出来ない。

――はぁ――
 しかし、考えてみるとシャツから見える素肌なんて、驚くうちに入らないと気づいた。
――夕べ、レニーと一緒にお風呂に入ったんだ。しっかり大きな手で洗われて……これから毎回なの?――
 お風呂でされるがままになっていたことを思い出し、一気に体温が上昇してしまう。
「何だ起きたのか?」
 頭の上からレオナルドの艶のある声がした。
「おっ、おはようございます」
「おはよう、愛しい私のリディ」
 頭を起こし、ごく自然に口元にキスをされる。
 中身が十五才のリディアはそれだけでドキドキしてしまう。

 レオナルドは自分の着替えを済ませると、リディアの世話に取り掛かった。それが終わった頃、リールーがメイドを連れ朝食を運んで来た。
 番の世話は全部やるつもりでいた彼は、両親と弟からあまりやり過ぎてはリディアが窮屈になると言われてしまう。
 納得は出来なかった。しかし、公務や執務の時はリディアを傍に置こともできるが、政務となるとそうもいかない。しかたなく侍女リールーの他にメイドを付ける事にした。

 メイドの名前はミルミル。猫族の十四才の娘だ。彼女は同じ猫族である第二王子サミュエルの婚約者オディーヌの紹介である。
 入国した日、獣人兵士のケモ耳が一目でお気に入りとなったリディは、猫耳のミルミルに目を輝かせると、何かにつけて耳を触るようになる。
 そしてもう一人は、狼族の護衛獣人騎士、ドラフト。
 男前の彼もまた、そのフサフサの尾と耳がリディアの餌食となってしまう。
 嬉しそうにドラフトの尾を撫でるリディアと、可愛い妃に触られデレるドラフト見たレオナルドは、嫉妬し護衛をフサフサの尾と耳の無い竜族と交代させると言い出した。
 それに対し、リディアは断固抗議した。
 涙目で、ドラフトを変えたらレニー様と口を利かないと言われ、仕方なく彼は折れる。
 番のお願いには弱いレオナルドであった。

 政務以外はいつも傍らにリディアを置いているレオナルド。どこへ行くにも片腕にリディアを抱えて歩く姿は、微笑ましく城内に仕える者の癒しとなっていく。
 二人の宮が改築を終えれば、王太子は番を囲い宮から出すことは無くなるに違いない。愛らしい妃と妖精たちを見ることが出来るのは、今の内だと皆思っていたのだった。
 妖精たちはというと、二人について来ることもあったが、大抵は城内を勝手に散策したり、タライの中で自由気ままに過ごしていた。

◇◆◇

「これは、レオナルド殿下、妖精妃殿とお散歩ですかな」
 中庭で声を掛けて来たのは、腕には鱗がある竜人の武将だった。

「ベネディクトゥスか。珍しいな。リディ、竜将軍ベネディクトゥスだ。頑固な爺だが怒らせねば気は優しいぞ」
「ベネディクトゥス将軍、ごきげんよう。リディアです」
 いつもと同じように、レオナルドの腕の中で座ったまま小さなカーテシーもどきをすると、竜将軍の顔がいきなり破顔する。
「これは、これは!竜将軍と呼ばれておりますベネディクトゥスにございます。以後お見知りおきを。いや、参りましたなぁ。晩餐の時は所用でお目に掛かることが出来ませんでしたが、皆の言う事は本当でございました。このような老いぼれでも、小さく可愛らしい妃に心を奪われてしまいそうです」
 軍人らしく背筋を伸ばした竜将軍は、二メートルを超える大柄なお爺様だった。
「全く、どいつもこいつも」
 レオナルドがほんの少し眉を顰める。
「それにしても本当に愛らしい。これではうちの孫娘が太刀打ちできないというのも分かります」
「ん?」
「殿下、昨日孫娘であるソフィアが、離宮から下がりたいと申してきましてな」
「ああ、そういう事か」
「ええ、これからその申し出に参るところにございます」
「うむ」
「まぁ、離宮入りして三年。まだ十七であります故、すぐに嫁ぎ先も決まる事でしょうよ。それに、殿下のというもございますからな」
 ガハハ、と大きな声で笑う竜将軍。

――お孫さんは十四で離宮入りされたのね。それでレニーの――
 サミュエルから聞いてはいたが、改めて言われると何かモヤっとしてしまう。

「この国の成人は何歳なのですか?」
「ん、成人か?」
「妖精妃殿、我々の国は多種族がおります。成人はその種族にもよっても違うのであります」
「えっ、そうなのですか?」
 竜将軍の説明によると、獣族の平均は十五で人族と同じだった。小型獣人のウサギ族は成熟も早く、発情を迎える成人は、十三才だという。
 寿命がもっとも長い竜族の成人は遅く十八だが、女の竜族は十五なのだそうだ。因みに獣人は相手が成人を迎えて独自の香りを放つとお互いに番と分かるが、竜族は生まれた時から魂が繋がっていると考えられており、例えそれが赤子であろうと、自分だけに向けた香りがするのだと言う。

「では、竜姫様たちのほとんどが成人前に?」
「んんっ……」
 レオナルドが咳ばらいをすると、竜将軍が悪びれも無く答えた。
「離宮に入るのは成人前後です。我らは寿命は長いのですが、成人を過ぎて二十歳迄に番が見つからなければ、諦めて婚姻を結びます。番以外で婚姻を結ぶなら体の相性の良い相手が良いと、竜人族は自由に性交をしその相手を見つけるのです。そういう訳ですから、殿下の離宮、いわば後宮には成人前後で純潔のまま上がるのですよ」
「な、ならば、その……王太子のお手付きの姫は、先ほどと言われましたが、離宮を出てお嫁に行くのは難しくないというのですか?私の国では難しいのですが」
 それもそうだ、人族の貴族は純潔を失った事が知られれば、表向きはまもとな婚姻は結び難い。大概年の離れた貴族の家に後妻に入るというのが、暗黙の了解とされいたのだから。

「我々はそのようなことは気にいたしません」
 リディアの負に落ちない様子を見た将軍は、目を細めて優しく言う。
「我が孫は、妖精妃殿と殿下の仲睦まじい姿をに見て、後宮から降りたいと申してきましたのでございます。人族と竜族は違います故、お手付きでも相手が王太子とあれば、逆に引く手あまた。一度でも子種を注がれれば、ほんの僅かですが、殿下の神竜としての魔力の恩恵が受けられるのです。他の者と一緒になっても、丈夫な子が生まれるのでございますよ」

「……そういうことですか……」

「やはり、陛下から聞いていた通り、妖精妃殿の中身は十五才の姫様なのですな。話をして見れば、うちの孫とそう変わりませんわ。六才の子どもとはこのような話は出来ませんぞ」
 竜将軍が意味ありげにクククと笑う。
「えっ?」
「リディ、上層部の者たちには君の事は話してあるのだよ」
「あっ、ああ。そうでしたの。私もつい普通に話してしまいました。気を付けなくては駄目ね」
 レオナルドのお手付きと聞いて、六歳児の容姿であることを忘れ地で喋ってしまったリディアは、しゅんとなり俯いてしまう。

「ほっほ、成る程、これがサミュエル殿下が話されていたギャップという物ですか!
 番とはいえ、それ以上に?とやらで寵愛したくなりますな」
「分かり切った事を」
 竜将軍に「ほれ、ほれ」と肘で突かれても、照れる事も無く答えるレオナルドに、リディアの方が顔を赤く染めてしまう。

「殿下のためにも早く、お身体が戻ります事をこの爺も願っております」
「そ、そうですね。そうなれれば良いのですが……」
「私は戻らなくても構わんぞ、リディ」
 そう言って頬に口づけるレオナルド。
「あはは、良いですなー。さて、私はそろそろ行って参ります」
「ああ、そうだったな。申し出はすぐに受理されるであろう」
「ええ、番を見つけられた殿下には無用ですからな。では」

 一礼して去って行くベネディクトゥス将軍の後ろ姿を見送り、二人も中庭を後にした。

「リディ、今日はこれからの予定は入っていないから早めに風呂に入ろうか」
 すれ違う人たちが、聞き耳を立てるようにケモ耳をピクリと動かす。人目も気にせず笑顔で言ってくるレオナルドに、リディアは生返事で答えるのであった。

 こうして、数日後には六人の姫が後宮から去って行った。
 それでもまだ九人の姫たちが離宮には残っていたが、日が経つにつれ一人、二人と姿を消していき、半月後、残ったのは竜族の姫二人だけとなった。




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