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第一章末っ子王女の婚姻
16/狼族の護衛騎士は悶える
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今日も竜王国サザーランドの空は晴れ渡っている。
レオナルドは政務に呼び出されており、小一時間ほど一人で過ごしているリディア。
もちろん、リールーとミルミルも室内でそれぞれの仕事をしており、護衛のドラフトがバルコニーでリディアの隣に立っている。一人きりではないが、先ほどまでべったりと自分にくっ付いていた大きな体が傍にいないのは、何故か寂しく思えてしまう。
バルコニーで、タライに入ってるロロとララを眺めながら、ふと空を見上げる。
――あの青い空を竜が飛んでいるところが見たい――
レオナルドは神竜の化身と言われる黒竜だ。
その雄姿を見てみたい。
初めて彼にあって竜王国から来たと聞いた時に、嬉しくなり竜になれるかと聞いてしまった。彼はなれるよと教えてくれた。
それを聞いて竜に乗って空を飛びたいと思ったのだ。
――でも、そう簡単に出来る事ではないわよね――
「はぁー」
と、大きくため息を吐く。
「リディア様?」
心配そうなリールーの声が届く。
「ううん、何でもない。……ねぇ、あのお庭には出れないのかしら?」
部屋の真下には小さな庭があり、そこから何処かに繋がるように小道が伸びていた。
「あそこは……離宮に繋がっている庭ですので、行かない方が宜しいかと」
「あっ、離宮!」
「はい」
応えてくれたのは護衛のドラフトだった。
「今、離宮には何人の姫がいるのかしら?」
「お二人と聞いております」
「二人なのね。今も、レニーが来てくれるのを待っているのかな?」
「さぁ、どうでしょう。私は殿下の近衛になって長いのですが、離宮が出来て通われたのは最初の二、三年だけで、ここ二年は一度も足を運ばれておりません」
「えっ、後から来た姫にお渡りはしていないの?」
「はい、そうです。離宮に向かわれる際は、必ず私が入り口までお送りしておりましたので。嘘ではございません」
「そうだったんだ……」
「離宮はもう不要で、お渡りも無いと思われたからこそ、私を妖精妃殿の護衛にお付けになられたのだと思います」
「そういう事なのね。残っている姫はお二人とも竜姫なの?」
「はい、青龍姫と赤竜姫でございます」
「青龍姫と赤竜姫ね。教えてくれてありがとう」
「いえ、とんでもございません。妖精妃殿がお気になさる姫でも御座いません」
少しの沈黙があり、リディアはドラフトの袖口を引っ張った。
「ねっ、また尻尾に触っても良い?」
「えっええ、良いですが、殿下に知られますと……」
「大丈夫、レニーはまだ戻って来ないもの」
「そうですか……では少しだけでしたら」
ドラフトはバルコニーで横に並んでいたリディアの方へ尾をクイッと向ける。
椅子に座っていたリディアの膝の上にドラフトの尾が乗せらた。風でそわそわと揺れるフサフサの銀の尾は先端がこげ茶色だ。
リディアはその尾をワサっと抱えると、頬ずりをしてからブラッシングをするように小さな手で撫で始める。
「ふかふかで気持ちい♪」
「リディア様。お幸せそうなお顔をされてますね」
部屋の中から見ていたミルミルが嬉しそうに言う。
「ええ、先ほどまで少し浮かないお顔をされていたのにね」
リールーも微笑ましい光景を見て目を細めていたが、尾をモフられているドラフトは複雑な表情をしている。
時々ビクンと動く尾がまたリディアの興味を誘う。
気持ちよさそうに撫でていたリディアの手が、動く尾の付け根を捕まえるように握った。
「うひゃっ!、そ、そこはっ」
突然声を上げたドラフトにリディは驚くが、まだその手は尾の付け根を握ったままだ。
「クゥ――――!」
ドラフトが狼の声で情けなく鳴いた。
「何をしておる!!!」
いつの間にか戻って来たレオナルドが、顔色を変え目の前に立ってた。
「お帰りなさいレニー、何怒ってるの?」
「リディ、いいから早くその手を離してあげなさい。そこは急所だ!」
「えっ?」
慌てて、ドラフトの尾から手を離すリディア。
「クゥ……」
ドラフトが耳を垂れその場に座り込んだのを見て、リディアは慌ててしまう。
「ご、ごめんなさいドラフト、私、知らなくて……」
「人族のリディが知る由もない事だから謝る必要はない。先に言って置かなかった此奴が悪い。そうだな、ドラフト?」
「は、はい。ハァハァ、そうであります。ハァハァ……」
リディアに力いっぱい握られてよっぽど辛かったのか、まだ息が整わない。
レオナルドは申し訳なそうにしているリディアを抱き上げて、もう一言添える。
「狼族の尾の付け根はな。急所でもあり、性感帯でもあるのだよ」
「まぁ!」
それに反応したのは二十歳になるリールーだった。
真っ赤になって俯いており、その隣でミルミルが分かったような、分からなかったような、どちらとも言えぬ表情をしている。
リディアに至っては全く何を言われたのかも理解していない。
「ドラフトはそこで少し頭を冷やしていろ」
「ハァ、お気遣い感謝いたします……ハァ」
レオナルドはリディアを抱いたまま室内に入り、軽く窓を閉じるとカーテンの紐を解いた。
抱かれている肩越しに窓の外を見ると、閉じるカーテンの隙間から見えたドラフトは、背中を向けて蹲ったままだった。
「全く、私の番は悪戯っ子だな」
ソファに座り膝の上に乗せたリディアの後頭部にキスをして、溜息を吐くレオナルド。
「ドラフトは大丈夫?」
「ああ、放って置けばその内に治まる」
「なら良かった!」
屈託なく笑うリディアに、レオナルドは思わず吹き出してしまう。
その意味が分かったリールーも、二人から背を向けた。
二人がお茶を飲み終わる頃、カーテンを開けてドラフトが戻って来た。
「ごめんね、ドラフト。痛かったよね?もうしないから」
「いえ、先にお知らせしてなかった私のせいであり、妖精妃殿には何の落ち度もございません」
「その通りだ、リディは悪くない。リディ、獣人にとって、尾は命に値する大事なものだ。それゆえもう、お触りは禁止だ。良いな?」
「……はい」
自分のせいでモフモフとはもうお別れなのね。
リディアはグスンと鼻を鳴らして彼の胸に頭を付けた。
レオナルドは落ち込むリディアの頭を優しく撫でている。
部屋にいる三人はそんな二人の姿を見て、一礼をすると静かに退室して行くのであった。
夕食を部屋で済ませて、お風呂タイムである。
――パシャ、パシャ――
「ねぇ、レニー。離宮の姫様二人はどうなるの?」
「はぁー、その話か。無理やり追い出す訳にもいかぬと父上が言っているのだ」
「寂しいだろうね?」
「あ?」
「だって、何年もレニーが来てくれるのを待っているんでしょう?」
「あっちが好きで待っているだけだ。私には関係ない」
「レニーちょっと冷たい」
例のごとく、ブクブクと水面に息を吐くリディア。
「そう言われてもな。下手に通って妃になれると勘違いされても困るだろう?言い方は悪いが、無視して諦めてもらうしかないのだ」
「無視…」
「それともリディは、姫たちが可哀相だからと言って、私が離宮に通い、彼女たちと閨を共にして来ても構わぬと言うのか?」
「そ、そんな事は言ってない……けど」
フフっと頭の上でレオナルドが笑う。
「安心しろ。番が見つかった以上、私は他の姫たちと閨を共にすることは無い、というか出来ないのだからな」
くるりとリディの体の向きを変え、向い合わせになると、額に口づけると胸に抱き寄せた。
肌が密着する。
傍から見たら親子のように見えているのではないかと思う。
十八で成人し、すぐに妃を娶っていれば、早ければ二十には子が生まれていただろうと思う。
現在二十五のレオナルドにしてみれば、六才児の姿のリディアは我が子みたいなものなのだ。
―― でも、中身は十五なのだよ ――
小さく笑い抱き寄せたリディアの顔を見て焦る。
大人しくなったなと思っていたリディアの方はもう茹でたこ状態である。
慌てたレオナルドが、彼女を抱き上げ湯から上がる。
歩きながら温風魔法をかけ二人の体を乾かした。
こんな簡単に乾かすことが出来るにも拘らず、普段は丁寧にリディアの体をタオルで拭いているレオナルドであった。
ベッドに寝かせ寝着を着せる。
「水を飲むか?」
「うん」
小さな口に甲斐甲斐しくグラスを運ぶ。
「実はリディに離宮から茶会の申し込みが来ているのだ」
「お茶会に?そのお二人から?」
「ああ、そうだ。リディと話をしてみたいと言って来ている。私は断るつもりでいるが、一応耳に入れて置く」
「えっ、それ行きたいです!」
「なに?」
「だって、この部屋へ来てからお話したのって、両陛下とサミー様、ミルミルとドラフト、後は……竜将軍様だけなんだもん」
「ああ、ベネディクトゥスか」
「うん」
「しかし、なぁ。あの二人に危害と迄はいかなくとも、嫌味など言れると思うぞ」
「そんなのへっちゃら。妖精の国にもいじめっ子はいたから慣れてるのよ」
妖精の世界にもいじめっ子はいた。彼らにとっては遊びのつもりだったのだろうけれど。中でも特に土の妖精は意地悪で、口が先に立つ子だった。その妖精と言い合う内にリディアはかなり鍛えられていたのである。
そんな事を思い出し思わず笑ってしまう。
「ねっ、お願いレニー?」
この様な可愛い顔で強請られれば、ダメだと言えなくなってしまうだろうという計算ずくの笑顔だ。
「ふぅ、仕方ない。東宮に住まう様になれば、会う事も無いだろうし、番を直に見せれば諦めてもくれるか」
「ありがとう」
レオナルドの首に手を回してお礼のキスを頬にする。
「はぁ、私は番のお願いには弱いからな」
そう言って返礼とばかりにリディアの小さな唇に「ちゅっ」とリップ音を立ててキスをする。
二人は顔を見合わせて微笑み合った。
レオナルドは政務に呼び出されており、小一時間ほど一人で過ごしているリディア。
もちろん、リールーとミルミルも室内でそれぞれの仕事をしており、護衛のドラフトがバルコニーでリディアの隣に立っている。一人きりではないが、先ほどまでべったりと自分にくっ付いていた大きな体が傍にいないのは、何故か寂しく思えてしまう。
バルコニーで、タライに入ってるロロとララを眺めながら、ふと空を見上げる。
――あの青い空を竜が飛んでいるところが見たい――
レオナルドは神竜の化身と言われる黒竜だ。
その雄姿を見てみたい。
初めて彼にあって竜王国から来たと聞いた時に、嬉しくなり竜になれるかと聞いてしまった。彼はなれるよと教えてくれた。
それを聞いて竜に乗って空を飛びたいと思ったのだ。
――でも、そう簡単に出来る事ではないわよね――
「はぁー」
と、大きくため息を吐く。
「リディア様?」
心配そうなリールーの声が届く。
「ううん、何でもない。……ねぇ、あのお庭には出れないのかしら?」
部屋の真下には小さな庭があり、そこから何処かに繋がるように小道が伸びていた。
「あそこは……離宮に繋がっている庭ですので、行かない方が宜しいかと」
「あっ、離宮!」
「はい」
応えてくれたのは護衛のドラフトだった。
「今、離宮には何人の姫がいるのかしら?」
「お二人と聞いております」
「二人なのね。今も、レニーが来てくれるのを待っているのかな?」
「さぁ、どうでしょう。私は殿下の近衛になって長いのですが、離宮が出来て通われたのは最初の二、三年だけで、ここ二年は一度も足を運ばれておりません」
「えっ、後から来た姫にお渡りはしていないの?」
「はい、そうです。離宮に向かわれる際は、必ず私が入り口までお送りしておりましたので。嘘ではございません」
「そうだったんだ……」
「離宮はもう不要で、お渡りも無いと思われたからこそ、私を妖精妃殿の護衛にお付けになられたのだと思います」
「そういう事なのね。残っている姫はお二人とも竜姫なの?」
「はい、青龍姫と赤竜姫でございます」
「青龍姫と赤竜姫ね。教えてくれてありがとう」
「いえ、とんでもございません。妖精妃殿がお気になさる姫でも御座いません」
少しの沈黙があり、リディアはドラフトの袖口を引っ張った。
「ねっ、また尻尾に触っても良い?」
「えっええ、良いですが、殿下に知られますと……」
「大丈夫、レニーはまだ戻って来ないもの」
「そうですか……では少しだけでしたら」
ドラフトはバルコニーで横に並んでいたリディアの方へ尾をクイッと向ける。
椅子に座っていたリディアの膝の上にドラフトの尾が乗せらた。風でそわそわと揺れるフサフサの銀の尾は先端がこげ茶色だ。
リディアはその尾をワサっと抱えると、頬ずりをしてからブラッシングをするように小さな手で撫で始める。
「ふかふかで気持ちい♪」
「リディア様。お幸せそうなお顔をされてますね」
部屋の中から見ていたミルミルが嬉しそうに言う。
「ええ、先ほどまで少し浮かないお顔をされていたのにね」
リールーも微笑ましい光景を見て目を細めていたが、尾をモフられているドラフトは複雑な表情をしている。
時々ビクンと動く尾がまたリディアの興味を誘う。
気持ちよさそうに撫でていたリディアの手が、動く尾の付け根を捕まえるように握った。
「うひゃっ!、そ、そこはっ」
突然声を上げたドラフトにリディは驚くが、まだその手は尾の付け根を握ったままだ。
「クゥ――――!」
ドラフトが狼の声で情けなく鳴いた。
「何をしておる!!!」
いつの間にか戻って来たレオナルドが、顔色を変え目の前に立ってた。
「お帰りなさいレニー、何怒ってるの?」
「リディ、いいから早くその手を離してあげなさい。そこは急所だ!」
「えっ?」
慌てて、ドラフトの尾から手を離すリディア。
「クゥ……」
ドラフトが耳を垂れその場に座り込んだのを見て、リディアは慌ててしまう。
「ご、ごめんなさいドラフト、私、知らなくて……」
「人族のリディが知る由もない事だから謝る必要はない。先に言って置かなかった此奴が悪い。そうだな、ドラフト?」
「は、はい。ハァハァ、そうであります。ハァハァ……」
リディアに力いっぱい握られてよっぽど辛かったのか、まだ息が整わない。
レオナルドは申し訳なそうにしているリディアを抱き上げて、もう一言添える。
「狼族の尾の付け根はな。急所でもあり、性感帯でもあるのだよ」
「まぁ!」
それに反応したのは二十歳になるリールーだった。
真っ赤になって俯いており、その隣でミルミルが分かったような、分からなかったような、どちらとも言えぬ表情をしている。
リディアに至っては全く何を言われたのかも理解していない。
「ドラフトはそこで少し頭を冷やしていろ」
「ハァ、お気遣い感謝いたします……ハァ」
レオナルドはリディアを抱いたまま室内に入り、軽く窓を閉じるとカーテンの紐を解いた。
抱かれている肩越しに窓の外を見ると、閉じるカーテンの隙間から見えたドラフトは、背中を向けて蹲ったままだった。
「全く、私の番は悪戯っ子だな」
ソファに座り膝の上に乗せたリディアの後頭部にキスをして、溜息を吐くレオナルド。
「ドラフトは大丈夫?」
「ああ、放って置けばその内に治まる」
「なら良かった!」
屈託なく笑うリディアに、レオナルドは思わず吹き出してしまう。
その意味が分かったリールーも、二人から背を向けた。
二人がお茶を飲み終わる頃、カーテンを開けてドラフトが戻って来た。
「ごめんね、ドラフト。痛かったよね?もうしないから」
「いえ、先にお知らせしてなかった私のせいであり、妖精妃殿には何の落ち度もございません」
「その通りだ、リディは悪くない。リディ、獣人にとって、尾は命に値する大事なものだ。それゆえもう、お触りは禁止だ。良いな?」
「……はい」
自分のせいでモフモフとはもうお別れなのね。
リディアはグスンと鼻を鳴らして彼の胸に頭を付けた。
レオナルドは落ち込むリディアの頭を優しく撫でている。
部屋にいる三人はそんな二人の姿を見て、一礼をすると静かに退室して行くのであった。
夕食を部屋で済ませて、お風呂タイムである。
――パシャ、パシャ――
「ねぇ、レニー。離宮の姫様二人はどうなるの?」
「はぁー、その話か。無理やり追い出す訳にもいかぬと父上が言っているのだ」
「寂しいだろうね?」
「あ?」
「だって、何年もレニーが来てくれるのを待っているんでしょう?」
「あっちが好きで待っているだけだ。私には関係ない」
「レニーちょっと冷たい」
例のごとく、ブクブクと水面に息を吐くリディア。
「そう言われてもな。下手に通って妃になれると勘違いされても困るだろう?言い方は悪いが、無視して諦めてもらうしかないのだ」
「無視…」
「それともリディは、姫たちが可哀相だからと言って、私が離宮に通い、彼女たちと閨を共にして来ても構わぬと言うのか?」
「そ、そんな事は言ってない……けど」
フフっと頭の上でレオナルドが笑う。
「安心しろ。番が見つかった以上、私は他の姫たちと閨を共にすることは無い、というか出来ないのだからな」
くるりとリディの体の向きを変え、向い合わせになると、額に口づけると胸に抱き寄せた。
肌が密着する。
傍から見たら親子のように見えているのではないかと思う。
十八で成人し、すぐに妃を娶っていれば、早ければ二十には子が生まれていただろうと思う。
現在二十五のレオナルドにしてみれば、六才児の姿のリディアは我が子みたいなものなのだ。
―― でも、中身は十五なのだよ ――
小さく笑い抱き寄せたリディアの顔を見て焦る。
大人しくなったなと思っていたリディアの方はもう茹でたこ状態である。
慌てたレオナルドが、彼女を抱き上げ湯から上がる。
歩きながら温風魔法をかけ二人の体を乾かした。
こんな簡単に乾かすことが出来るにも拘らず、普段は丁寧にリディアの体をタオルで拭いているレオナルドであった。
ベッドに寝かせ寝着を着せる。
「水を飲むか?」
「うん」
小さな口に甲斐甲斐しくグラスを運ぶ。
「実はリディに離宮から茶会の申し込みが来ているのだ」
「お茶会に?そのお二人から?」
「ああ、そうだ。リディと話をしてみたいと言って来ている。私は断るつもりでいるが、一応耳に入れて置く」
「えっ、それ行きたいです!」
「なに?」
「だって、この部屋へ来てからお話したのって、両陛下とサミー様、ミルミルとドラフト、後は……竜将軍様だけなんだもん」
「ああ、ベネディクトゥスか」
「うん」
「しかし、なぁ。あの二人に危害と迄はいかなくとも、嫌味など言れると思うぞ」
「そんなのへっちゃら。妖精の国にもいじめっ子はいたから慣れてるのよ」
妖精の世界にもいじめっ子はいた。彼らにとっては遊びのつもりだったのだろうけれど。中でも特に土の妖精は意地悪で、口が先に立つ子だった。その妖精と言い合う内にリディアはかなり鍛えられていたのである。
そんな事を思い出し思わず笑ってしまう。
「ねっ、お願いレニー?」
この様な可愛い顔で強請られれば、ダメだと言えなくなってしまうだろうという計算ずくの笑顔だ。
「ふぅ、仕方ない。東宮に住まう様になれば、会う事も無いだろうし、番を直に見せれば諦めてもくれるか」
「ありがとう」
レオナルドの首に手を回してお礼のキスを頬にする。
「はぁ、私は番のお願いには弱いからな」
そう言って返礼とばかりにリディアの小さな唇に「ちゅっ」とリップ音を立ててキスをする。
二人は顔を見合わせて微笑み合った。
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