末っ子第三王女は竜王殿下に溺愛される【本編完結】

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第二章リディア

3/ 姫たちに言えない理由

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 食事が終わり、リールーが町まで行き購入して来てくれたワンピースに手を通す。もちろんお着替えは彼の手で。

「リディ似合っている。可愛いな」
「ありがとう、レニー」
 レオナルドに褒められて素直に喜ぶリディア。
 長い金色の髪もレオナルドが丁寧に器用に編んでくれた。

「レニーは髪を編むのも上手なのね。リールーにも負けてないわ」
 鏡に映るレオナルドの顔を見ながら褒めてみた。

「ああ、小さい頃はよく、シアンの髪を編んでやったからな」

「えっ、シアンって……青竜姫?」

「ああそうだ、シアンは母方の親類筋で幼い頃から城に出入りしていたからな。当然、私やサミュエルが相手をしていた」
 懐かしむように微笑み話すレオナルドの顔を見て、リディアの胸がチクリと痛んだ。

「そう言えばそんなこと青竜姫が言ってた。小さいころからレオお兄様が好きだったんでしょう?」
「ん、気になるのか?ハハ、案ずるな。私は妹のようにしか思っていない」
「ん-。レニーはそうでも、青竜姫は違うでしょう?それに閨だって……」
「何度か妻にしてくれと言ってきたが、シアンは私の番ではないからな。そう言った感情は生まれなかった。それにアレは離宮の決まりごとで仕方なかった。私は出来ないと言ったのだが、彼女はそれでもと……仕方く薬を飲んで事に至った訳で、何の感情もない。それにリディと言う番が見つかったのだ。諦めると思うぞ?」
 いつの間にか髪を編み終わり、ソファに移動するレオナルド。
 リディアは彼の膝の上で、お茶会での事を思い出していた。

「ねえ、レニーは番の私が死んだら、竜姫のお嫁さんを貰うの?」

「はぁ?誰がそのような事を」
「青竜姫と赤竜姫のお姉さんたち」
「ああ、あの茶会の時か。くだらんことを」
「前にサミー様がレニーは竜の血が濃いから、私が死んでも次の妃を迎えられないってたでしょう?」
「ああ、その通りだ。万が一でも考えたくはないが、今リディが死んでしまったら、私はずっと独り身のまま過ごすことになる。番の相手が同じ竜族なら相手が死んでも、竜族の娘で妥協して妻に出来るけれどな」

「妥協って……」

「兎に角、私や爺様は特別なのだ。番を亡くすと他のものでは妥協できない。私にとってリディアは唯一無二の存在。他の者で変わりは務められないし、身体も拒絶してしまう」

「さっき言ってたお薬を飲んでも?」

「ああ、見つかるまでは効いたが、今では無理だ」
「そうなのね。でもお姉さんたちはその事を知らないみたいよ。だから私がいなくなれば、レニーの妃になれるって思ってるの」

「無理もない、普通の竜族ならそれもあるからな。でも先祖返りと言われる血の濃い祖父や私は特別なのだ。その事は女官は知っているが、意図的に伝えなかったのだろう」
「だったら教えてあげないと可哀相だと思うの」

「うむ。しかし、普通の竜族も番を亡くすと一気に力が落ちる。それを埋める為に竜の後添えを貰うのだが、私はそれが出来ない。リディが死んで次の妻を迎えられず、力が衰退したままと分かると争いも起きて来る」

「その時はサミー様に王の座を変わってもらえば良いんじゃないの?」

「それも難しいが出来ない事ではないな。しかし、獣人の血が混ざった子は王になれない。そうなると、猫族との間に生まれた子は次の王になれないから、サミュエルは竜の側室を迎え子を成さなければならない。番を見つけたサミュエルにそれを強いるのは気の毒に思うのだが……
 実は、もうその事は頼んである」
「えっ?」

「リディにはまず、何故黒竜の子に拘わるのかという事から話せねばならないな。
 当然の事だが神竜が黒竜であったところからきている。
 何千年、いや億年前は天上の世界で黒、青、赤、緑の竜の中で強いものが竜の世界を束ねて来た。その為争いが絶えず、地上にも多くの被害をもたらしていたのだ。それを見かねた神が、その時一番強かった竜に女神を伴侶と迎え生まれた子を神竜として崇めるように言った。誕生したのは黒竜だった。その赤子は生まれながらに神力と魔力を備えていた。そして、ある時人化をするようになったのだ。それは女神が母であったからと言われている」

「最初の神竜様のお母様は女神だったのね!」

「ああ、その神竜は圧倒的な力を持ち、他の竜もそれに従い獣族も支配した。子孫を残すことにより、竜人族と獣人族が生まれるようになった訳だ」
「じゃぁ、人化した竜族の血が混ざり獣族も人化出来るようになったのね」
「ああ、そう言われている」

「神竜の次の世代となった時、神竜と黒竜の妃との間に生まれた子は、魔力は持っていたが神力は持っていなかった為に神竜にはなれなかった。だが、祖父や私のように時々先祖返りと呼ばれる神力と魔力を備え、全身鱗に包まれた者が生まれてくるのだ。その者は竜と人の二つの姿を持つことが出来る。彼らはそれを神竜の化身と呼んだ。神竜の化身が生まれるのはごく稀な事で、祖父の前は二百年以上空いている。短い期間で孫の私に出たのは、実に信じられない事だったようだ。
 神竜の化身が生まれていない間は、黒い鱗を持つ黒竜が国を治めて来た。
 今の国王である父上と同じ立場だな。ある時代の王がキツネ族の番を見つけ子を授かった。生まれた子は黒の鱗を持ってはいたが、キツネの耳と尾も持って生まれた。その時すでに側妃が、黒竜を産んでいたので、側妃の子が後継と決まっていた。しかし側妃と黒の鱗の子が鱗病で死んでしまったのだ。残されたのは伴侶であるキツネ族の特徴を持つ子だった。黒の鱗は体に持っていても見た目はキツネ族だ。どうなったと思う?」

「混乱したの?」
「ああ、竜族の下となる獣人たち同士は族に関係なく平等とされている。が、キツネの特徴を持つ子が王の座に就けば、獣人の中でキツネ族の地位が上がり、彼らの中での平等という秩序が乱れる事になる。そして、他の獣族から恨みを買った番のキツネ妃と子が暗殺されてしまったのだよ。それ以降、獣族の姿の子は王の座に就かせないと決められた。その後竜族から後添えの妃を迎え黒竜の後継となる子が生まれ世は安定したのだ」
「そんな過去があったのね。世継ぎを持つって大変なのね」
「そうだな」

「私がレニーとの子を産んだら黒の鱗があるんだろうけれど、見た目は?人族だから、耳も尾もないよね?」
「見た目は人族だろうな。だが人と交わった歴史が無いから鱗を持つかどうかも分からないのだよ。何せ、人化する事に依り鱗が一部にしか残らなくなったのだからな。人と交われば鱗が無くなってしまう可能性もある訳だ。生まれてみなければわからないが、大臣や族長たちは鱗が無くなる可能性の方を信じているという事だ」
「そっか、それで竜の側妃を持つように躍起になっているのね。私がレニーの子供を産んで、黒竜の赤ちゃんがもし生まれれば問題は解決するけど……って、私の体が成人の姿にならなかったら無理だよ!」

「確かにそうだが。でも戻る兆候は出て来たのだから大丈夫だと思うぞ」
「そうかなー。でも、もし戻った時もうお婆さんだったら?」
「ハハハ、その時はその時だ。」

「でも、もし私たちに黒竜の子が出来ていなかったらその時は……
 私が側妃を迎えた事にして、サミュエルに子を作らせる。しかし、それはあまり好ましくないから彼に側妃を迎えさせて子を作らせ、生まれた子を私たちの養子にするのだ。サミュエルは私程血は濃くないから、黒竜の血を残すという義務とあれば他の竜姫を抱くことは出来る。オディーヌもそれは分かっているから、側妃を持つ事に反対はしない。万が一のためにそれは頼んであるのだよ」

「……じゃぁ、お姉さんたちにはそのことは教える事は出来ないのね」
「それを知ったら今度はサミュエルが被害に遭うだろうしな。そう云う事だから自分から諦めて離宮を出て行って貰うしかない」

 後から聞いた話、青竜姫シアンは十九才。赤竜姫マゼンダは十七才。
 マゼンダ姫はまだ良いけれど、シアン姫は早く見切りを付けないと行き遅れになってしまうのではとレニーに聞いてみたところ、竜族は長生きで平均が百二十才だから、三十過ぎて婚姻する者も多いんですと。五十を過ぎて子供を産む竜人の女性も普通にいるとか。人族には無理だと思う。
 寿命が長いってそ云う事なのだと思ったリディアだった。

「リディ、そろそろ池に行って口づけを交わそうか」
 妖精の掛けた魔法を早く解くために池の中でキスをする。
 レオナルドは自分の上着を脱ぐと、リディアのワンピースを脱がせ始めた。
 シュミーズになったリディの少し丸みを帯びた胸が目に入る。その視線に気づいたリディアが、隠す様に手で覆った。
「隠さなくともよい。どうせ池に入った後は二人で風呂に入るのだらな」
 と笑いながら言った。

「レニーなんて嫌い!」

 恥かしさで怒るリディ。
 そんな彼女を笑いながら抱き上げ、レオナルドは池と向かったのだった。


**********

※補足:第二王子のサミュエルには気の毒ですが、黒竜の子孫を残す為には仕方のないこと。
 現王のように伴侶が番でない場合も多いので、彼らは納得しており我々が思う程ではないです。
 ただサミュエルは番を見つけているのでちょっと……ね。





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