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第三章
1/ 竜の血
しおりを挟む「ごちそうさまでした」
ミルミルが食器を下げに来るのを見計らって、レオナルドがソファの方へとリディアを誘う。
「少し話をしたいのだが良いか?」
「ええ、何?」
「君がこの体になって半年近くなるがもう違和感はないか?」
「うん」
「三月前から月のモノも来ているとリールーから聞いた。だからその……もう少しリディに触れても良いだろうか?」
「えっ……」
――お風呂も一緒だし、今もこうして膝の上にいるのに、今以上というと……
「いきなりはしない。少しずつ肌を合わせたい」
――は、は、は、肌を合わせる……?
レオナルドの言葉に心臓が破裂しそうなほど驚き戸惑う。
「怖いか?」
「そ、そんな事はないけど……」
「そうか」
レオナルドが触れるだけのキスをしてきた。
「前に話しただろう?リディの中に器を作るためには、魔力酔いを起こさないようにするため秘薬を飲むと」
「ええ」
「実はまだリディに話していないことがある」
「どんなこと?」
「我々が長寿だという話はしたな」
「ええ、百五十歳近く生きるって」
「ああ、そうだ。でもそれは普通の竜人であって、祖父や私のような先祖返りの黒竜は違う」
「えっ?」
「私たち神竜の化身と呼ばれる者は、普通の竜人の倍は生きると言われている」
「倍って……三百歳!!!」
「そんなところだな。本当のところは分からいが……」
「私はそんなに生きられないわ!私が死んだら二百年以上もレニーは一人ぼっちになっちゃうじゃない」
「うむ。しかしリディの寿命を私に合わせる事が出来るのだ」
「な、何を言ってるの?そんなこと無理よ」
「無理ではないのだよ」
「嘘だ……」
「竜族に伝わる秘薬を飲むと、魔力への耐性と器が出来る」
「うん、それは分かった」
「だがそれとは別に、番の寿命を延ばす力が神竜の化身と言われる先祖返りだけに与えられた」
「なら、それを飲むと私もレニーと一緒に長く生きられるの?」
「そうだよ。寿命を全うして死ぬときは一緒に命を終えることが出来る」
「番と一緒に人生を終えることが出来るのなら、レニーのお婆様も秘薬を飲まれたの?」
「婆様は元々魔力の器も魔力も持っていた。だからその為に飲む必要はなかった。でも、爺様の願いを聞き入れ父上を産んでから飲んだと聞いている」
「……だとしたら、お二人ともまだ生きていなくてはおかしいわ」
「そうだな。先祖返りは三百近くまで生きるからな」
「ええ、さっきレニーはそう言ったわ。お爺様だってまだ百五十になっていないのでしょう?」
「……実はな、死んだことになっているが本当はまだ生きている」
「えっ、どういうことなの……本当に?」
「爺様が王位を譲ったのは三十年前。私が生まれる前だ。そして私が成人した年に二人で竜の山へ行き崩御した事になっている。実際は竜の山で野生の竜たちと二人仲良く隠居生活をしているのだよ」
「えーーー! でもなぜ、死んだことになっているの?」
「それは、先祖返りは長命だ。そのままだと私の代まで竜王を務めることになる。先に息子である私の父が逝ってしまうからな。それと、いきなり神竜の化身が死んだら世が乱れるからだ。まず王位を譲り次の世代が何事も無く国を治めるのを見守る。そして次世代の王の子供が成人したら自ら命を終えるとされている。それが神竜の化身に課せられた最後の役目だ。それ故竜の山へ行った時点で死んだと見做されるのだよ。まあ、隠居していても人知れず竜王国を守ってはいるのだけれどな」
「そうなんだ……」
「リディア、私は例え二人の間に黒竜が生まれなくとも、私の長い生が終わる隠居後までリディに一緒にいてもらいたい。その為に私の血を飲んで欲しいと思っている」
――えっ、今『血』って言った?秘薬って レニーの血を飲むの?
「……」
「血を飲むと聞いて驚いたか?」
「えっ、ああ、うん。信じられないというか」
――血を飲んで寿命が延びるなんて、それが神竜の力なの?
「でも、私がそんなに生きたら魔法使いのお婆さんみたいになっちゃうわ!」
「あはは、大丈夫だ。竜族は元々長寿のため老化が遅い。私の血を飲めばリディも遅くなる。因みに母上は元から器も持っていたし、父上の番ではないから血は飲んでいない。だが、幾つだと思う?」
「お義母様?レニーが二十五だからまだ四十半ば?」
「クククッ、母上が聞いたら喜ぶぞ。二十一で父上に見初められて私を産んだのは三十二だ」
「えっ、という事は……五十七???」
――あの美しいお義母様がもうすぐ六十才?信じられない。
リディアの腕に鳥肌が立った。
「父上は今年七十だな」
――竜族って何なの?!その年齢であの若さを保っているなんて。
「まずはそれを飲み始めて君の体に馴染んでからだが、その準備としてリディの体に今以上に触れたいのだ」
「……」
「器を作るためとは言ったが、こんなに美しくなったリディを早く抱きたいというのが本音だ」
耳を少し赤くして照れながら言うレオナルドに、また心臓の鼓動が早くなってしまうリディア。
「少しずつなら」
「そ、そうか、よかった」
少年のような笑顔で嬉しそうに微笑んだレオナルドがリディアに口づける。
「んっん」
「リディ、今日から少しずつだ。まずは大人のキスからだな」
「?」
レオナルドはリディアの唇を食むようにして遊ぶ。何度もそれが繰り返されたあと、いつもより長く唇を押し当てられる。
「リディ、少し口を開けてごらん」
訳も分からず言われるままにほんの少し唇を開くと、僅かな隙間からレオナルドの舌がねじ込まれてきた。
「んっ?」
薄く長い舌はリディアの口内を貪り上顎をなぞる。
「はぅ……」
小さな息が隙間から洩れる。
リディアの舌先をチョロチョロと刺激してきてくるので、くすぐったくて逃げるように動かすと、待っていたかのように絡めとられてしまった。
お腹の奥の方からじんわりと何かが広がってゆく。
息ができず頭の中が真っ白くなる寸前に唇が離れた。
「はぁーーー」
「大丈夫か?苦しいから次は鼻で息をしてごらん」
訳が分からず朦朧としているリディアにレオナルドは優しく言葉をかけくる。
「こんな、キス……」
「慣れると気持ち良くなる」
初めて大人の口づけを経験したリディアであったが、これから先の事を思うと……。
秘薬と言われる血は器を作るだけではなく、飲む事で自分も長く生きるようになるなんて考えもしない事だった。
**********
※第三章突入です。
宜しくお願い致します_(._.)_
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