末っ子第三王女は竜王殿下に溺愛される【本編完結】

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第三章

2/ 飲み方には注意しましょう

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 あれから一月が過ぎた。
 毎夜大人の口づけに翻弄されているリディアではあるが、それ以上の進展はない。
 胸を触られたりするのはお風呂の中だけある。

 レオナルドは悩んでいた。

――もう少し進展をしたいがどうも上手くいかない。
 風呂の中ではリディのからだに触れているのに……
 同じベッドで寝ているというのに、手が出せないのだ。
 どうしたものか。
 ベッドの上で触れてしまうと、我慢が出来なくなりそうで怖いのだ。私はあの時、リディアに少しずつと言ってしまった。湯の中ではいつも後ろから抱きしめ触れているのに、ベッドの上で組敷かれたら恐怖に思ってしまうのではないだろうか。
 そんな思いが頭を過ってしまう。
 年相応になったリディは美しすぎるのだ。
 すぐにでも食べてしまいたい。
 私は一人悶々としている。

 そろそろ血も飲ませなくてはならない。
 器が出来るまで一年以上、そしてそれが満ちるまでには何年掛かるか分からない。
 弱い人族だから我々とは違いもっと時間が掛かるかもしれない。


 レオナルドは心を決め、リールーを呼びワインよりも飲み易い果実酒を用意させる事にした。

 
「リディも成人を過ぎたのだから、少し酒を飲んでみないか?」

「えっ、お酒ですか!」
「これは軽めの食前酒だから、初めてでも大丈夫だと思うぞ」
「綺麗ね」

 小さなグラスを持ち上げ、ロゼ色の果実酒を嬉しそうに眺めている。

「初めての酒に乾杯をするか?」
「はい」

 二人はグラスを合わせた。
 舐めるように味を確かめたリディアは、甘みのあるとろりとした味にうっとりと微笑み一気にそれを飲み干す。
「おいおい、大丈夫か?」
 慌てるレオナルドに頬を少し染めたリディアが頷く。
「美味しいです、レニー」

 言って置くが、この果実酒には他には何も混ぜたりはしてない。
 まずアルコールに慣れさせようというだけだ。
 目の周りまでほんのりピンクに染まったリディアから、色気を感じてしまうレオナルド。
 思わず膝の上にいる彼女の唇を奪ってしまう。

「可愛いな、美味いか?」
「うん、すこし、顔が熱いけど。気に入っちゃったわ」
「そうか、では夕食の時はこれから用意させよう」
「うれしい、何か大人になった気分よ」
「あはは、君はもう十分大人だよ」
 レオナルドは嬉しそうに微笑み、リディアの手からグラスを取るとテーブルに置いた。そしていつものように、料理を番の口へと甲斐甲斐しく運ぶのであった。

――どうやら、アルコールは大丈夫の様だな。しばらく続ければもう少し飲めるようになるであろう。血とアルコールの相性は良い。吸収も早まるからな。うん、まず酒に慣れてそれからだ。

 二人の食前酒での晩酌が、十日を過ぎた頃にはリディアはワイングラス一杯ほど飲めるようになっていた。



 夕食が並べられ、レニーの膝の上にいるリディアの前に大小二つのグラスが置かれている。
「レ、レニー、この小さい方のはもしかして……」
「そうだよリディ。私の血だ」

「……」
 血と聞いて一瞬怯んでしまうが、何とか持ち堪えた。

「匂いはないが、飲み易くするため少し冷やしてある」

 リディアは恐る恐る赤い液体が入っている小さなグラスを手に取る。
 紅色の血は揺らしてみると果実酒よりとろみが無くサラサラとしていそうに見えた。
 口元に持って行くと、レオナルドの言う通り匂いはないが飲む勇気が出て来ない。

「嫌か?」
 心配そうに覗き込んでくるレオナルドの顔を見ると、どう答えて良いのか分からない。

――これを飲まないと、器も出来ないし、レニーとも一緒にいられないのよね。

「無理しなくても良い。またこの次でもよい、あっ、リディ!」

 リディアは彼の言葉を遮るように一気にグラスを傾け赤い血を飲み干した。
 そして無言のまま、飲みなれた果実酒のグラスに手を伸ばし、こちらも一気に空ける。

「げほっ、げほっ!」
「大丈夫かリディ?そんな、一気に……」
 リディアが飲んでくれたのは嬉しいが、無理をしているのも分かる。心配そうに背中を摩するレオナルドを見て、リディアが微笑む。

「レニー、飲めたわ。これ毎日飲むの?」
「えっ、ああ、出来ればその方が良いが、辛いなら二、三日空けても構わない」
「そう……」

「ん?」

 リディアの言葉が途切れ、そのまま静かになってしまう。
 レオナルドは慌ててリディアの頬を触るが、身動きする事もない。

「リディ?」

 リディアはレオナルドの首に頭を付けて寝息を立て始めた。

「ねっ、寝たのか?」

 どうやら血よりも食事の前の空腹時に果実酒を一気に煽り、酔いが回ってしまったらしい。

「はぁー、肝が潰れたぞリディ。しかし、よく頑張って飲んでくれたな」

 レオナルドは満足そうに微笑みながら、腕の中のいる愛おしい番の頬を撫でた。






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