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第三章

10/ 番に恋われたい

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「リディ、母上から孤児院への慰問の許可が出たぞ」

「えっ、ホント?」
 レオナルドの執務の手伝いで書類整理をしていたリディアが、その手を止めブルーの瞳を輝かせて私を見る。
「本当だ。一週間後と決まった」
「レニーのお仕事は?」
「大丈夫ですよ、妖精妃殿。レオのスケジュールはちゃんと調整するから」
「ありがとう、ファビ。楽しみだわ!」

 リディは嬉しそうにファビアンの手を取るとぶんぶんと振っている。
 そこは違うだろう。礼を言うべきは母上から許可を取って来た私にではないのか?
 そんなことを思ってしまうが、嬉しそうな彼女の顔を見ていると何も言えなくなってしまう。
 参ったな(笑)

「母上も同行すると言っていたぞ」
「まぁ、お義母様も!」
「ああ、私は来なくても良いと言ったのだが、どうしても行くとゴネてな」
 私が苦笑するのを見てリディもゴネる母の姿を思い浮かべたのか小さく笑った。
「ふふふ、そうだったのね」

「良かったですね、妖精妃殿の願いが叶って」
「ええ、ありがとうファビ。子供たちに会えるのが本当に楽しみよ」
「いえいえ」

 だからなんでファビなのだ。ファビも何故赤くなって照れているのだ?

「ファビ、書類は全部サインした。すぐに宰相の所へ届けて来い」
「えっ?あっ、ああ、分かった」
 不愛想に言う私にファビアンは「何だコイツ」という目を向けながら書類を受け取る。

「レニーどうしたの?」
「何でもない。おいで、リディ」
「そう?ならいいけど。あー、本当に楽しみだわ♪」

 気持ちが慰問へと向いているリディを抱きしめてキスをする。
 幼なじみの側近にまで嫉妬する自分が少し情けなくもあるが、こればかりは仕方がないのだ。
 年相応になったリディが美しすぎる。
 城内を連れて歩いても皆が振り返り見惚れているのだ。
 やはり私室、いや妖精宮に閉じ込めて置きたい。
 そんな衝動に駆られてしまう。
 精霊の秘薬を飲み始めていると聞いたがまだリディと繋がってはいない。
 もう限界だとそう思う反面、無理に奪おうとも思わなかった。
 否、夫婦だし夫なのだから営みとして行うことはダメではないのだが。
 何故か今以上に手を出せないでいる自分がいる。
 
――ああ、どうしたものか……

 番への思いが止められない自分に苛立ち、本能からか思わずリディのうなじに歯を当ててしまった。

「痛っ!」

 ハッ、と我に返る。

「ごめん。リディ、痛かったよな」
 強く噛んだ訳ではないが、薄っすらと歯の跡が付いたうなじに口づけてから舌を這わせる。

「や、やだ、レニー。くすぐったい」

 宰相のところへ行ったファビアンは暫く帰って来ないだろう。もう少しリディを独り占めしていたい。
 彼女を抱いてソファに移動する。

「レニー?何か変……」
 不思議そうに私の顔を覗き込む。
「ああ、少し変だな」
「?」
「リディ、精霊からもらった薬は飲んでいるのだよな?」
「ええ、数日前に月のものが終わって飲んだわ。これで三回目ね」
「何ともないか?」
「ええ、大丈夫」
 笑顔で答えるリディアに私は熱いまなざしを向けた。

「リディ、君が欲しい」
「えっ?」

 目を見開き驚くリディの半開きになった口に、食らいつく様に唇を押し付け舌をねじ込んでいく。
 私の体を押し返そうと腕を突っ張るが、彼女の頭を後ろから押さえて逃がすものかと、深い口づけを続けた。
 徐々にリディの体の力が抜けていくのが分かった。
 ドレスの上から胸を弄りながら、首筋へと唇を這わせる。

「ん、あぁ……」
 
 膝の上のリディから甘い声が洩れて来た。
 ゾワリとした感覚が背中を走る。
 この場所でドレスを脱がす訳にはいかないか。
 リディの力が抜けているのをいいことにスカートの中に手を忍ばせ膝から柔らかい太腿へと指を滑らせればリディアの身体が少し跳ねる。

「レニー……何を」
「大丈夫だから、力を抜いてごらん」
「で、でも」
 下着の上から腰を撫で足の間へと手を下していく。

「レニーってば、そんなところ触らないでっ、うっ」

 それ以上進めない襟ぐりから唇をリディの口元に戻し、言葉を遮るように塞いだ。
 布の上を彷徨う指をリディの大切な部分へと滑らせて窪んだ溝を擦りあげた。

「んんっ」

 秘所のあわいに添ってをゆっくりと指で撫でつける。
 徐々に布越しに湿り気を感じ、自分の口角が上がるのが分かる。

「可愛いよ、リディ」

 ほんの少し唇を離し囁くとリディが身体を震わせる。

「ああ、早く君が欲しい。ここに入り番と一つになりたい」
「あ、んん、レ、レニー。なんか変……な気持ちに」
「変になって良いんだよ、リディ」
 何度も啄むようなキスをしながら指を動かす事も止めない。

「あっ、いや……」

 リディの足に力が入った。
 まだ達するまでには至ってないようだが、それなりの快感を覚えたのだと思う。
 腕の中で脱力したリディアを暫しのあいだ見つめ、服の乱れを直した。
 布越しに触れていた指からはリディの甘い香りがする。番の香りに眩暈を起こしそうだ。
 私はその指を口に含み舐めてから、彼女の事を優しく抱きしめる。

 ふぅ……。

 リディは今、普段と違う触れ方をされどう思い、どう感じたのだろうか。
 もっと触れて欲しいと自ら思って欲しい。
 ああ、そうか、私は突然番だと言われて嫁いで来た義務としてではなく、一人の男として愛し繫がりたいとリディから思って欲しいのだ。
 ずっと胸の中で靄が掛かっていた気持ちが明らかになり、腑に落ちた。 

 うつろな瞳で見つめてくるリディアに口づけて魔力をさらに流し込み少し眠らせる事にした。
 リディは何か言いたげに唇を少し動かすが、そのあとに言葉を続けることなく瞳を閉じる。
 私はリディを抱き上げ、彼女の私室へと向かった。


「えっ、どうされたのですか?」
 腕の中にいるリディを見て、リールーが慌てて駆け寄って来た。
「すこし、驚かせてしまったようだ。悪いが後で身体を清めてやってくれ」

 リディの鎖骨辺りに薄っすらと付いているキスマークに気付き、リールーは察したらしい。

「かしこまりました。失礼ですが、最後までは……?」
「今はしてはいないが、今宵は……こちらの寝室を使う」
「はい」
「頼んだ」

 リディを夫婦の寝室へ運びベッドに寝かせて、後はリールーに任せ執務室へと戻った。
 本当は自分で彼女の身体を拭き、着替えをさせたかった。
 けれど、ファビアンも執務室に戻って来ている頃だと思えたし、いま彼女を着替えのために服を脱がせて肌を見てしまったら……。
 そう思うと少し落ち着きを取り戻していた己自身が疼いてきた。
 私は苦笑しながら深呼吸を繰り返し執務室へと戻って行った。


「レオ何処に行っていたんだ?」
「リディが眠ってしまったので部屋に送り届けてきた」
「何だ、そうか」

 何も知らないファビはそれ以上気にする事も無く、宰相の愚痴を言いながら手元の書類に視線を戻した。
 否、気付かないふりをしていたのかもしれない。
 
 私はそんなファビアンを見て少しだけ罪悪感を覚え、身を引き締めるのだった。



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