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第一章末っ子王女の婚姻
21リディア狙われる(前)
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それから数日後。
「リディ、今日は政務が立て込んでいて、会議が長引きそうなのだ。多分、陽が沈む頃までに戻っては来れない」
「忙しいのね、レニー」
「ああ、カーニヴァルのヤツここぞとばかりに、議題を詰め込みおった……」
「宰相さん?」
「宰相のカーニヴァルだ」
「あのおじ様ね。お仕事だもの、しかたないでしょう?」
小さな手がレオナルドの黒髪を撫でる。
「あぁー、そんな長い時間リディと離れているなんて、私には耐えられそうにない」
「そんな事言わないの。レニーは王太子様なんですよ。国民のために頑張ってお仕事をして来て下さい。――ちゅっ――」
可愛い番に宥められ、頬にキスをされて思わず頬が緩むレオナルド。
「仕方ない行ってくるよ。良い子にしてるんだぞ」
「はい」
リディアの額に口づけを落とすと、後ろ髪を引かれながら部屋を出てゆく二十五才の王太子であった。
「おはよう、ロロ、ララ。さぁて、今日は何をして遊ぶ?」
バルコニーに出て、タライの中の妖精たちに声を掛ける。
『リディ―おはよう』
『おはよー』
「お天気もいいわねー。外で遊べたら良いのに、ここから出して貰えない」
『つまんないねーレニーの過保護!』
『かほごのレニー』
「ねぇ、あの魔法見せてくれない?」
『ん、あれ?』
「うん。今日はお日様も出ているからきっときれいよ」
『あれねー』
二人の妖精が顔を見合わせて、パタパタと宙に舞った。
両手を繋ぎクルクルと回る二人の間から次々とシャボン玉が溢れて来る。
それが空に舞いキラキラと七色に輝き青空に映える。
「きれーい♪」
「ホント綺麗でございますね」
後ろから、リールーが声を掛けて来た。
部屋に入って来たシャボン玉をメイドのミルミルが、まん丸い目で追い掛ける。彼女は猫族なので、じゃれるように片手を伸ばしネコパンチで割り始めた。
扉の前に立ち護衛しているドラフトも、その光景を見て微笑んでいる。
バルコニーの前にある大きな木からは、沢山の小鳥のさえずりが聞こえていた。
数羽の小鳥が枝に茂る葉の中から飛び立ち、シャボン玉を追い掛けて空を舞う。魔法で出来たシャボン玉はまるで自分の意志があるかのように、小鳥たちのくちばしを避け浮遊している。
「何かダンスを踊っているみたいね」
リディアは妖精の国でよくこうして遊んで貰ったことを思い出し、自分も椅子から降りると、シャボン玉を追い掛ける。
部屋の中ではリディアとミルミルのシャボン玉争奪戦が始まった。
何とも平和な光景であった。
―――チチチッ―――
三羽の小鳥がバルコニーの手すりに止まった。
「わっ、小っちゃくて可愛い。フワフワよー」
手すりで囀る小鳥は、二羽が青い鳥で残りの一羽は黄色い鳥だった。
リディは小鳥たちの前へ駆け寄り「小鳥さん、おはよう」と、声をかける。
―――チチチッ―――
小鳥たちも挨拶してくれる。
「可愛いい」
ミルミルが近づくと、青い鳥二羽は慌てて手すりを飛び立った。
「もう、ミルミルったらー」
「すいません、リディア様。私は小鳥は食べないんですけどね……」
ミルミルの猫耳がペタンと倒れてしまう。
「あっ、でもこの子は、大丈夫みたいよ?」
――チチッ、チチッ――
「なんか、馴れているみたいだから手に乗るかしら?」
自分たちの遊びに夢中になっていたロロとララが黄色い鳥の存在に気付き、空中でピタリと止まる。
「ほら、おいで」
リディが人差し指を差し出すと、黄色い鳥が飛び移る体勢になった。
『リディ―ダメ!』
『だめ、だめ!』
「えっ?」
妖精たちの声に驚くリディアだったが、黄色い鳥は彼女の指に飛び移り、両足の爪を小さく柔らかい彼女の指に食い込ませた後だった。
「いたっ!」
鳥がリディアの指から離れ、バルコニーの外へ飛び立とうとした瞬間、ミルミルが飛びつき捕まえた。
「リディア様大丈夫ですか!」
ドラフトとリール―が駆け寄る。
彼女の指から黒い血が滲み出ている。
「大変、血が!」
『これ、毒!早く、タライの水で洗って!』
『たらいのみずであらって!』
ロロとララに急かされ、リールーはリディアの指をタライの水の中に入れ洗う。
指からは止まることなく黒い血が出て来て、タライの水があっという間にどす黒く染まっていく。
「どうしましょう……」
リールー顔が青ざめ、血の気を失う。
『大丈夫、そのまま水に浸けて置いて』
「は、はい」
『つけておくのよー』
リディアは脂汗を掻いていて唇は紫色に変色していた。
彼女の身体を抱えたドラフトが、懐からハンカチを出しその汗を拭っう。
そうしている間にタライの水が徐々に透明になって来た。
『ララ、レニーを呼んで来て。魔力のお薬が必要』
『うん、わかった。レニーよんでくるよー』
ララは光とともに消えた。
タライの水はすっかり元の透明な水に戻っていた。
気を失っているリディアを、ベッドへ運ぶようにロロがドラフトに指示する。
リールーは新しい布を持って来て、リディアの指に残っていた僅かな血をきれいに拭き取った。
人差し指にはポツンと赤い爪痕が六つ残っている。
「リディ!」
壊れるかと思う勢いで扉が開けられ、レオナルドが部屋に飛び込んできた。
ベッドに横たわるリディアに駆け寄ると、その小さな体を起こして自分の懐に抱き寄せる。
「リディ、リディ、一体何があったのだ」
レオナルドの怒りが爆発し、体から魔力が触れ出てた。
室内が一気に凍り付く。
『レニーダメ、リディの治療が先!凍え死んじゃう』
『リディがさむいよー』
妖精たちに言われ、少しだけ落ち着きを取り戻したレオナルドが魔力を体の中に戻すと、部屋の中が暖かくなってくる。
『リディ、毒針で刺された。毒は精霊の水で流した。だけど中に残ったのをレニーの強い魔力で中和しないと駄目』
「中和……?」
『うん、キスして唾液流して』
『ちゅうわしてー』
「わっ、分かった」
彼は紫色に変色した小さな唇を見て、また怒りが沸いて来るのをどうにか抑え、そっと口づけた。
――リディ―ー
閉じている口を開ける為に顎に親指をあて開かせる。そして自分の唾液を小さな口の中に流し込んだ。
小さな唇から離れたレオナルドの口元に、リディの口と繋がる銀色に光る唾液の糸が煌めく。
周りにいた者は、この不安な状況にも関わらず、その淫靡さに一瞬だけ我を忘れ息を呑み込む。
口の中に流し込まれた魔力の唾液に、リディアは少しむせてしまうが、直ぐにこくりと飲み込んだ。
唾液が最初に触れた唇から紫色が消え、リディアの唇に色が戻って来る。
「リディ、大丈夫か?」
薄っすらと目を開けたリディアが口元に笑みを浮かべる。
「良かった……」
「レニーの魔力……あったかい」
「そうか、私の魔力は暖かいのか」
そう言って、腕の中のリディアの額に口づけをし、優しく抱きしめるレオナルドの肩は僅かに震えていた。
リディアはそのまま眠りにつく。レオナルドはベッドに彼女を寝かせると、みんなの方へ戻って来てドカリとソファの上に腰をおろす。
「何があったのか報告を」
「リディ、今日は政務が立て込んでいて、会議が長引きそうなのだ。多分、陽が沈む頃までに戻っては来れない」
「忙しいのね、レニー」
「ああ、カーニヴァルのヤツここぞとばかりに、議題を詰め込みおった……」
「宰相さん?」
「宰相のカーニヴァルだ」
「あのおじ様ね。お仕事だもの、しかたないでしょう?」
小さな手がレオナルドの黒髪を撫でる。
「あぁー、そんな長い時間リディと離れているなんて、私には耐えられそうにない」
「そんな事言わないの。レニーは王太子様なんですよ。国民のために頑張ってお仕事をして来て下さい。――ちゅっ――」
可愛い番に宥められ、頬にキスをされて思わず頬が緩むレオナルド。
「仕方ない行ってくるよ。良い子にしてるんだぞ」
「はい」
リディアの額に口づけを落とすと、後ろ髪を引かれながら部屋を出てゆく二十五才の王太子であった。
「おはよう、ロロ、ララ。さぁて、今日は何をして遊ぶ?」
バルコニーに出て、タライの中の妖精たちに声を掛ける。
『リディ―おはよう』
『おはよー』
「お天気もいいわねー。外で遊べたら良いのに、ここから出して貰えない」
『つまんないねーレニーの過保護!』
『かほごのレニー』
「ねぇ、あの魔法見せてくれない?」
『ん、あれ?』
「うん。今日はお日様も出ているからきっときれいよ」
『あれねー』
二人の妖精が顔を見合わせて、パタパタと宙に舞った。
両手を繋ぎクルクルと回る二人の間から次々とシャボン玉が溢れて来る。
それが空に舞いキラキラと七色に輝き青空に映える。
「きれーい♪」
「ホント綺麗でございますね」
後ろから、リールーが声を掛けて来た。
部屋に入って来たシャボン玉をメイドのミルミルが、まん丸い目で追い掛ける。彼女は猫族なので、じゃれるように片手を伸ばしネコパンチで割り始めた。
扉の前に立ち護衛しているドラフトも、その光景を見て微笑んでいる。
バルコニーの前にある大きな木からは、沢山の小鳥のさえずりが聞こえていた。
数羽の小鳥が枝に茂る葉の中から飛び立ち、シャボン玉を追い掛けて空を舞う。魔法で出来たシャボン玉はまるで自分の意志があるかのように、小鳥たちのくちばしを避け浮遊している。
「何かダンスを踊っているみたいね」
リディアは妖精の国でよくこうして遊んで貰ったことを思い出し、自分も椅子から降りると、シャボン玉を追い掛ける。
部屋の中ではリディアとミルミルのシャボン玉争奪戦が始まった。
何とも平和な光景であった。
―――チチチッ―――
三羽の小鳥がバルコニーの手すりに止まった。
「わっ、小っちゃくて可愛い。フワフワよー」
手すりで囀る小鳥は、二羽が青い鳥で残りの一羽は黄色い鳥だった。
リディは小鳥たちの前へ駆け寄り「小鳥さん、おはよう」と、声をかける。
―――チチチッ―――
小鳥たちも挨拶してくれる。
「可愛いい」
ミルミルが近づくと、青い鳥二羽は慌てて手すりを飛び立った。
「もう、ミルミルったらー」
「すいません、リディア様。私は小鳥は食べないんですけどね……」
ミルミルの猫耳がペタンと倒れてしまう。
「あっ、でもこの子は、大丈夫みたいよ?」
――チチッ、チチッ――
「なんか、馴れているみたいだから手に乗るかしら?」
自分たちの遊びに夢中になっていたロロとララが黄色い鳥の存在に気付き、空中でピタリと止まる。
「ほら、おいで」
リディが人差し指を差し出すと、黄色い鳥が飛び移る体勢になった。
『リディ―ダメ!』
『だめ、だめ!』
「えっ?」
妖精たちの声に驚くリディアだったが、黄色い鳥は彼女の指に飛び移り、両足の爪を小さく柔らかい彼女の指に食い込ませた後だった。
「いたっ!」
鳥がリディアの指から離れ、バルコニーの外へ飛び立とうとした瞬間、ミルミルが飛びつき捕まえた。
「リディア様大丈夫ですか!」
ドラフトとリール―が駆け寄る。
彼女の指から黒い血が滲み出ている。
「大変、血が!」
『これ、毒!早く、タライの水で洗って!』
『たらいのみずであらって!』
ロロとララに急かされ、リールーはリディアの指をタライの水の中に入れ洗う。
指からは止まることなく黒い血が出て来て、タライの水があっという間にどす黒く染まっていく。
「どうしましょう……」
リールー顔が青ざめ、血の気を失う。
『大丈夫、そのまま水に浸けて置いて』
「は、はい」
『つけておくのよー』
リディアは脂汗を掻いていて唇は紫色に変色していた。
彼女の身体を抱えたドラフトが、懐からハンカチを出しその汗を拭っう。
そうしている間にタライの水が徐々に透明になって来た。
『ララ、レニーを呼んで来て。魔力のお薬が必要』
『うん、わかった。レニーよんでくるよー』
ララは光とともに消えた。
タライの水はすっかり元の透明な水に戻っていた。
気を失っているリディアを、ベッドへ運ぶようにロロがドラフトに指示する。
リールーは新しい布を持って来て、リディアの指に残っていた僅かな血をきれいに拭き取った。
人差し指にはポツンと赤い爪痕が六つ残っている。
「リディ!」
壊れるかと思う勢いで扉が開けられ、レオナルドが部屋に飛び込んできた。
ベッドに横たわるリディアに駆け寄ると、その小さな体を起こして自分の懐に抱き寄せる。
「リディ、リディ、一体何があったのだ」
レオナルドの怒りが爆発し、体から魔力が触れ出てた。
室内が一気に凍り付く。
『レニーダメ、リディの治療が先!凍え死んじゃう』
『リディがさむいよー』
妖精たちに言われ、少しだけ落ち着きを取り戻したレオナルドが魔力を体の中に戻すと、部屋の中が暖かくなってくる。
『リディ、毒針で刺された。毒は精霊の水で流した。だけど中に残ったのをレニーの強い魔力で中和しないと駄目』
「中和……?」
『うん、キスして唾液流して』
『ちゅうわしてー』
「わっ、分かった」
彼は紫色に変色した小さな唇を見て、また怒りが沸いて来るのをどうにか抑え、そっと口づけた。
――リディ―ー
閉じている口を開ける為に顎に親指をあて開かせる。そして自分の唾液を小さな口の中に流し込んだ。
小さな唇から離れたレオナルドの口元に、リディの口と繋がる銀色に光る唾液の糸が煌めく。
周りにいた者は、この不安な状況にも関わらず、その淫靡さに一瞬だけ我を忘れ息を呑み込む。
口の中に流し込まれた魔力の唾液に、リディアは少しむせてしまうが、直ぐにこくりと飲み込んだ。
唾液が最初に触れた唇から紫色が消え、リディアの唇に色が戻って来る。
「リディ、大丈夫か?」
薄っすらと目を開けたリディアが口元に笑みを浮かべる。
「良かった……」
「レニーの魔力……あったかい」
「そうか、私の魔力は暖かいのか」
そう言って、腕の中のリディアの額に口づけをし、優しく抱きしめるレオナルドの肩は僅かに震えていた。
リディアはそのまま眠りにつく。レオナルドはベッドに彼女を寝かせると、みんなの方へ戻って来てドカリとソファの上に腰をおろす。
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