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第一章末っ子王女の婚姻
20/レオナルドの思いと侍女たちの策略
しおりを挟む竜族の頂点に立つのが黒竜であり、以下青竜・赤竜・緑竜は三竜同等の立場にあった。獣人たちはその下に続く。
王家黒竜は神竜の血を引く絶対的な存在で、黒竜以外の竜が王になる事は未来永劫有り得ない。
王家にはどんな色の竜の血が混ざろうとも、必ず一人は黒い鱗の子が生まれる。
レオナルドの祖父である先代の王竜も、父である現在の王も黒竜の血を引く妻を娶ったので、二人の王子は黒い鱗を持って生まれた。妻が黒竜以外であったら、レオナルド又はサミュエルのどちらかは違った色の鱗だったかもしれない。
そんな黒竜同士の両親のもとに生まれたレオナルドは、生まれた時全身が黒い鱗で覆われていた。これは数百年に一人と言われている先祖返りで、神竜である黒竜の血が最も濃く受け継がれた証拠であり、唯一竜に変化できる存在だと言われていたのだった。
満一歳になる頃には鱗は全て皮膚に吸収され、人の子と同じ肌となっていくとともに、時々竜に変化するようになる。
次期竜王の誕生だった。
◆◇◆
私には先祖の血が色濃く入っている。
幼い頃から祖父に番について聞かされて育った。
「お前も私と同じ先祖返りだ。番は必ず見つかる。突然目の前に現れるのだよ。私は三十まで出会う事が無かったので、側妃も迎えた。しかし、魔力も強いため、側妃たちに子が出来ることは無かったのだ。だが、五十になって番であるレニアーテルと出会った。レニアーテルを妃に迎えるとすぐに子に恵まれた。それがお前の父だ。
だからお前も焦る事は無い、ゆっくりと番と巡り逢えるのを待てばよい」
そう言っていた。
精通があってから閨教育が始まり、十六、七の頃は悪友たちとそういった遊びもしてきた。
竜族であろうが獣人であろうが抱くことが出来たのだ。
しかし、十八の時に弟であるサミュエルに番が見つかると、成人を機に私に妃を迎えようと周りが動き始めた。
それには理由があった。サミュエルの番が竜族ではなく、獣人族の猫族だったからだ。
弟夫婦に子が生まれたとしても、獣人族との間に黒竜の子が生まれる事は無い。
万が一、私の番も獣人族であったら、黒竜の血が途絶えると思ったのだ。
私が他族の番を見つける前に何としても竜族の姫たちに黒竜を産ませなくてはと考えたのだろう。私の知らないところで離宮を作り子を成すための竜姫を宛がうと勝手に決められたのだった。
本当に馬鹿々々しい事だ。
私はサミュエルが番を見つけたと分かってから、女遊びを止めた。番だけを欲するようになってから、私は性欲を失ってしまう。
離宮では一度は姫たちに子種を注がねばならないという馬鹿げた決り事が押し付けられた。
もちろん反発はしたが、それは許されなかった。
仕方なく捌け口と思い、一人目の姫の元へと渡った。
だが、捌け口どころか裸の姫を見ても何も感じず、萎えたままどうにもならなかったのだ。
閨ごとは女官が部屋の奥、仕切りの向こうで待機し性交が行われたを確認をしている。
そんな中でと思うが、それもまた致し方ない事だった。
女官は侍女にあるものを取りに行かせた。
それがあの薬だ。
飲んで暫く待てば、自分の意志とは関係なく己自身が勃ち上がって来る。
私はそれを飲むように促され、事を行い精を放ったのだった。
二番目の妃を前にしても結果は同じだった。
三番目の姫は妹のように思っていたシアンであった。
彼女の私に対する気持ちは知っていたが、それに応える事は出来ない。
薬を飲んでまでシアンを抱く事は出来ないと説得したが、一度きりの慈悲でも良いと言う彼女の気持ちは変わらなかった。
それ以降も姫たちには自分は番しか求めていないことを告げ、実家に帰るように説得をしてきた。
素直に諦めて帰る者もいたが、残ると言い張る者には薬で対処して来たのだった。
こんなことがいつまで続くのか。
誰かが身籠ればこの悪夢は終わると姫たちの元を訪れる。しかし、一度しか渡らなかった姫たちの中に私の子を身籠る者は一人もいなかった。
私は、渡りを拒否する事を決め、それから入宮してきた姫たちのところへは勿論、一度も離宮に足を向ける事をしなかった。
それから二年の時が過ぎ、私は運命の番を見つける事となった。
番というものがこれほど心を乱し、恋焦がれてしまうものだと知った時の喜びは、言葉には出来ない。
愛おしくて、愛おしくて、ただひたすらに求めてしまう存在なのだ。
リディに出逢えて私の全てが変わった。
番が見つかる前に義務で精を放った姫たちに子が授かる事は無かったうえに、リディは人族だ。彼女に出会ってしまった私は当然ことながら他の者を抱くことが出来ない。
リディの体が年相応になったとしても、過去に人族の番を得た竜がいたかどうか定かではないので、どのような子が生まれるのか分からない。しかし、私達の子供に黒竜が生まれる可能性は殆どないだろう。
私は弟に時期が来たら竜族の側室を迎え、黒竜の子を産ませて欲しいと頭を下げた。
サミュエルは先祖返りでないため、番がいても側室を迎えることが出来るからだ。
番であるオディーヌは竜族に嫁ぐ以上は理解しているからとあっさり了承してくれた。
弟はそんな婚約者の言葉に肩を落としながらも、王家のためならと渋々了承してくれたのだった。
世継ぎの心配はなくなった。リディも世継ぎが産めない事を悲観する事もないだろうと思う。
◆◇◆
「東宮の改築がもうすぐ終わってしまいます」
「今でさえ、お見かけする機会も無いのに、東宮に入られたらチャンスは無くなります」
「姫様たちのためにも何とかせねば」
「しかし、毒を盛るにもあのように囲われいては……」
「わたくしに良い考えがあります」
離宮の一室。
つい先日まではこの離宮に十五人の姫たちがいた。
二年前は三十人近くの姫たちがここで暮らし、レオナルドのお渡りを待っていたのだ。
しかし、たった一度きりで放置された姫たちは、王太子の頑なまでの番に対する思い(執着)を知り、望みは無いと離宮から去って行った。
ここにいた姫たち全員が、王太子妃の座を狙っていた訳ではない。
以前ベネディクトゥス竜将軍が言っていたように、神竜の化身と言われるレオナルドの慈悲(子種)を一度でも受ければ妊娠しなくても体内に王家黒竜の僅かな魔力が残り、その姫からは生命力の強い子が生まれると言われている。
自分たちの族の繁栄を願い、離宮に送られた姫も少なくはなかった。一度でも精を受けることが出来、その後の渡りが拒否されたと知れば、ここに長居する必要はなく、早々と実家へ戻って行くのも当然の事である。
そんな中、番が現れても諦めない竜姫二人。
青龍姫シアンの侍女サマンサは、シアンが幼い頃からのレオナルドへの想いを知っていた。
赤竜姫マゼンダの侍女ラベンダーは、赤竜族長とマゼンダの思惑を知っていた。
この二人の侍女は当初自分の姫を王太子妃にと、いがみ合って来た。
だが、レオナルドに番が見つかり、妃(本妻)と言う道が断たれたため、側室として離宮に残るためにお互いに協力し合う事を決めたのだった。
「ラベンダー様のいいお考えとは?」
「ええ、妖精妃が一人になるのは、殿下が政務に出られる時だけです。もちろん、殿下のお部屋には侍女と護衛がおりますけど、チャンスはそこしかありません」
「確かに」
「噂に聞くと、小娘はフワフワが好きだそうです」
「フワフワですか?」
「ええ、フワフワとは可愛い物の事ですわ」
「ああ、なるほど」
「それでですね……ごにょごにょ」
「えっ、それは何処から?」
「鳥族の……ごにょごにょ」
「ええ、でもそれで足が着きませんか?」
「それは、魔法の……ごにょごにょ」
「そのような方法が」
「ええ、そういう事です」
「分かりました、では、わたくしの方では出所が分からないような毒をご用意いたしますわ」
「お願いします」
ひっそりとした部屋が並ぶ一室から出て来た二人は、お互いに仕える姫の元へとそ知らぬ顔で戻って行く。
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