SARAという名の店と恋のお話

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第22話 清算②

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SARAに貴史が着いたのは午前零時近かった。

「貴史さん、今夜はずいぶん遅いのね。残業?飲み会?」

「いや今日は・・・野暮用で」

「あら、それはお疲れさま」

香織の労いの言葉に後ろめたさで無口になる。
今更ながら何故来てしまったんだろうと思う。
女を抱いた直後に無性に香織の顔を見たくて来てしまったが、どう考えてもありえない行動だったと悔いた。

「さっきまで松ちゃんと遠野ちゃんがいたのよ。貴史さんの顔が見えないって寂しがってたよ」

そう言って笑っている香織は可愛い。
でも二人が居なくて良かった。
松ちゃんが隣に居たら少し前までの情事に絶対に気づいてしまう筈だ。
貴史は胸を撫でおろし、ため息をついた。
そして頼んだ水割りを煽るように飲む。

「そんな飲み方をしたら・・・」

するとカウンターの端から
「ママご馳走様チェックして」
先客が声を掛けてきた。

「はーい、ありがとうございます」

支払を終え「ご馳走様」と先客が帰ってゆく。
残ったのは貴史一人だけ。
香織はいつものウォッカトニックをもって貴史の隣に座った。

「何かあったの?」
心配そうに聞いてくる。

貴史はもう一口飲んで

「俺の」と言いかけ一旦止まった。
いつもは自分の事を『私』という貴史が今は『俺』と云う。
「私」「僕」「俺」を使い分けしてますよね。
酔っているのか素はそうなのか香織が考えていると

「俺の方の整理は終わりました。けじめを付けてきた」
と真剣に香織の目をしっかりと見つめ告げた。

「貴史さん、あの。。。」

貴史は香織の言葉をじっと待っている。

「前に会社で彼女役をしたでしょう?ホントに付き合っている人とかいなかったんですか?」

「離婚して恋人ととして付き合った人はいませんでした、、、
 でもセフレが居りました」

「セっセフレですか!」

「ええ、今、自分の整理は終わったと言いましたが、それはセフレとの関係を解消してきたという意味です」

「はぁ。」

セフレと聞いて香織は戸惑った。

「軽蔑されるのを覚悟で正直に言います。
 俺は今日そのセフレだった彼女と話をし、関係を終わらせて帰ってくるつもりで。
 でも彼女の関係を解消するなら最後に・・・という言葉を断り切れず、彼女に対するケジメとして抱いてきたんです」

「抱いてって・・・」香織は頬を目を丸くしてしいる。

貴史は言わない方が良かったのか、でも、もう自分を曝け出すと決め、香織に拒否られたら諦める覚悟だった。
いや、それでも諦めきれないだろうとも思っているが。

「彼女との情事中、貴女の事しか考えられず、どうしても顔が見たくてここへ来てしまった。こんな最低な男です」

暫く沈黙が続いた。

目の前にる彼は言われてみるとまだシャンプーだかボディソープの残り香を漂わせている。ほんの少し前までその手で女性の肌に触れていたんだと思うと香織の胸にチリっと痛みが走った。

「はあ。そうだったのね。何と答えて良いか。。。」

「軽蔑されましたか」

「あっ、いや、その、貴史さんも大人の男性だからそういったこともあるとは思うんだけど、、、」

「これまでこの店では紳士ぶって無害の男をやって来ました。でも、本当は初めてこの店に来た時から香織さんに惹かれていた。彼女役をして貰い、パーティーでは夫婦役を演じてハッキリっと判ったんだ」

香織は貴史の顔をしっかりと見つめている。

「俺は貴女が欲しい。好きだから貴女を抱きたい。この年になってみっともないくらい貴女に恋焦がれて。。。」

貴史は切なそそうに心の内を話す。

『恋焦がれて』最後の言葉に香織の胸にさっきとは違う思いが流れ込む。
体だけの関係だったその人と決別し香織に会いたいという気持ちだけでここへ来、馬鹿みたいに正直に話す貴史の気持ちを信じたいと香織は思ったのだ。
 
『私も覚悟を決めよう。』

「真中との話を聞いてもあたしで良いと言ってくれるの?子供も望めないあたしと」

香織はずっと聴きたいと思っていたことを言葉にした。

「先日の話を聞いて貴女が6年間背負ってきたものがどれ程重く、また女性として理不尽な思いをしてきたのかと思うとどう言葉にしていいか正直わからない。
 だけど、自分は今の香織さんを好きになった。だからこれから先の香織さんを俺は守りたい。
 子供が授からなくても構わない二人で生きていきたいと」

「貴史さん」

貴史の精一杯の言葉に涙が溢れてきた。

「嬉しい。でも。。。」

「でも?」



「でも、ここへ来る前に女の人を抱いてきたというかセックスをしてきたんですよね?」

「あっ、は い。」

8つも年上の貴史が眉を下げ切なそうに答える姿を見て香織は申し訳ないが可愛いと思ってしまった。

でも、悔しいから少し虐めてしまおう。

「だから・・・」

「だから?」
貴史が不安そうに顔を覗き込む。


「だから今夜はハグもキスもしません」


そう言って涙を拭いながらクスッと笑った香織を見て貴史はため息をついた。


「貴女って人は。。。いつもの斜め上から来ますね。。。」


貴史はもう一度ため息をついた。


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