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第3章 リッター・デア・ヴェーヌス
第25話 境界先の金星人
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「話は遅れましたが、自己紹介としましょう」
さらにヴィーナスはそう言うと、場に緊張の空気が流れる。
「私はヴィーナス・リフェル・レイド。金星の皇です」
「アグライア・エストール。ワルキューレ・リッター『剣』の騎士」
「剣の騎士?」
フルートは首を傾げる。
「ワルキューレ・リッターにはそれぞれ古から伝わる神器を所有しているのです。
アグライアは聖剣【ノートゥング】、レダは聖弓【グシス】といったようにね」
「剣と弓……」
「フフッ、ワルキューレ・リッターに興味がありますか?」
「ええ、そうね」
エリスは嬉々として答える。
「どのくらい強いのかを、ね」
「おい、エリス!」
ダイチは注意する。
「フフッ、アグライアは強いですよ。私は彼女こそが最強の騎士だと信じていますから」
「陛下、挑発するような発言は控えてください」
そうは言いつつも、アグライアはエリスと睨み合っている。
この者がヴィーナスに飛びかかるのではないかとわずかばかりの危惧があったからだ。
ダイチは嫌な汗がさっきから出続けている。
もしも、ここでヴィーナスやアグライアに失礼なことをして最悪処刑なんて言い渡されたら、と思うととてもじゃないが落ち着いていられない。
「――さて、次はあなた方の番ですね」
「……は、はい!」
いきなり、ダイチは飛び上がるように返事する。
ヴィーナスはフフッと笑う。それに後部の座席についているイクミやミリアからも笑い声が聞こえる。
「お、俺はダイチ、です……!」
「エリス・マーレットよ」
「フルート・クリュメノスじゃ!」
「イクミ・パルサーです」
「ミリア・オーキや」
「マ、マイナ・ファインよ」
みんなそれぞれ順繰りに名前を名乗る。
「ダイチにエリス、フルートですね。よろしくお願いします」
ヴィーナスはダイチ達を順に目で追って言う。
「こ、こちらこそ!」
「そんなに畏まらなくていいですよ。あなた方は私の生命の恩人なのですから」
「い、生命の恩人って大げさですよ」
「そうですね」
「え……?」
ダイチはヴィーナスが即座に認めたことで唖然とする。
「生命の恩人というのは少々大げさにしても助けられたことは事実です。そのことについてちゃんとお礼をしたいのとお話をしたいと思いましてこうして招いたのです」
「お話って何を?」
「単なる歓談です。身構えることはありません、聴取するわけではありませんから」
「あ、は、はい……」
とはいっても、相手が超大物なだけに緊張するなとか身構えるなとか言う方が無理であった。
「さて、それでは質問です。
――あなた方は何しに金星へ来たのですか?」
訊かれたダイチはエリスに視線を移す。
「私の義手を見繕ってもらうためよ」
エリスが代表して答える。
「やはり、そうでしたか。そういう方は多いですからね。
それでは、ヒュンドラへ向かう予定ですか?」
「は、はい……!」
「あそこは職人工業都市ともいわれ、腕のいいマイスターが多いですからね、きっと良い義手を用意してもらえると思いますよ」
「それはどうも」
エリスはぶっきらぼうに答える。
「ああ、そうですね。私が推薦するマイスターのリストを差し上げます」
「え、それは……!」
「ほんの感謝の気持ちです」
ヴィーナスは微笑むと、アグライアはディスプレイを出現させて操作する。
「……これだ」
そう言ってダイチ達のディスプレイにマイスターと思われる顔写真とその人が作ったと思われる義手や義足が次々と出てくる。
「この中から気に入った方を選ぶと良いでしょう」
「どうもありがとうございます」
ダイチは礼をする。
「これはありがたい情報ですなー」
イクミは上機嫌であった。
「喜んでもらえて何よりです。それでは次の質問ですが……」
「待って」
エリスがヴィーナスを止める。
「その前にこっちから一つ訊いていい?」
「ええ、答えられる範囲なら答えます」
しかし、ヴィーナスは気分を害した様子もなく受け入れる。
「宇宙港であんたを襲った連中って何者?」
「………………」
ヴィーナスは沈黙する。
そのせいで、和らいだ雰囲気が再び緊張に包まれてしまう。
「私が代わりに答えましょう」
と、アグライアが代弁する。
「現在、彼等の身元についてはレダ卿が調べている。分かり次第、連絡が来るはずだ」
「心当たりとかないの? 皇を狙うなんて大それたことをしでかす輩がそんなにいるとは思えないけど」
「それは……」
アグライアは言い淀む。
それは金星の内情に関するところも大きく、口にするのも憚られるのだろう。特にエリス達、他の星のヒトの前ならなおさらだ。
ピッ!
そこでアグライアの手前にディスプレイが表示される。
『アグライア、ヴィーナス様はそこにいるわね?』
現れたのはレダであった。
「はい。彼等とともにいます」
『彼等ともか……それでは報告は後にした方が』
「構いませんよ、レダ」
ヴィーナスがアグライアの通信に割り込んで、顔を出す。
「彼等も関係者ですからね。それに言えない内容かどうかはあなたで判断できるでしょう」
『………………』
レダは顎に手を当てて少し考える。
『わかりました。報告します』
「それで何かわかったのですか?」
『――全員、息を引き取りました』
「なッ!?」
『おそらく遅効性の毒薬を盛られていたのだろう。彼等の暗殺が成功しようがしまいが、口封じで始末する予定だったのでしょう』
「なんと残酷な……! ですが、それでは裏で手を引いているヒトがいるということの裏付けなのでは?」
『それも含めて調査する予定よ。ただ彼等の身元は……』
「わかったのですか?」
『いえ、それが……彼等の身元を検索してみましたが、わかりませんでした』
「わからなかったのですか……? 彼等は金星人だと思っていたのですが……」
『いえ、金星人なのは確かです。遺体からエヴォリシオンの検査しましたが全員金星人だという結果が出ました』
「それでは……一体……?」
アグライアは考える姿勢をとる。
『私に心あたりがあります』
「それは何でしょうか?」
『――彼等が境界先の金星人なのかもしれません』
「――!」
アグライアは驚きの声を上げる。
『まだ確証は取れていませんので、これから調査します』
「よろしくお願いします」
レダは一礼する。
一部始終を聞いていたダイチ達は絶句していた。
「思い切ったことをしてきましたね」
「はい、彼等の気迫は文字通り後に退けない覚悟からくるものだったようです」
ダイチはクップァの必死の形相を思い出す。
両肩から血を流し、もう戦えない状態にも関わらず、立ち向かってきた。
生命を懸ける。よく聞く言葉だが、それをまざまざと見せつけられた。とダイチは改めて実感が込み上げてくる。同時に頭がずしりと重石をおかれたように重くなる。
「死んだって……マジ、かよ……?」
ようやく声が出た。
「それは本当のことだ。失敗して情報が漏れることを阻止するためだろう」
「だからって、ヒトの生命だろ!」
「それが連中のやり方だろう。私とて憤っている」
アグライアは拳を震わせる。その悔しさが痛いほど伝わってくる。
「――必ず黒幕をこの手で捕らえる!」
その決意を力強く口にする。
「ところで一つ訊いていい?」
「何でしょうか?」
エリスの問いかけにヴィーナスは優しく答える。
「境界先の金星人って何?」
それはダイチも気になっていたことだ。
「あなた方も御存知の通り、この金星のイシュタル大陸は三分の一ほどの領地を木星に明け渡してしまっています」
シャトルでイクミから聞いた話だ。
「境界……というのは、あの国境の壁のことです。
境界先の金星人というのはその国境を超えた先にいる金星人のことです。残念ながら彼等は木星政府の管理下にあるため、こちらにはデータがないのです」
「そんな……同じ星のヒトなのに……!」
ダイチが口にした憤りにヴィーナスは顔に僅かに無念の色を浮かべて言う。
「そうですね、彼等もまた金星人。
同じ金星という地で生きていることに変わりはありません。だというのにあのような壁によって隔たれているのは間違っています」
「………………」
ダイチ達は息を呑んでその話を聞き入った。
星の皇から放たれた紛れもない本音に聞こえたからだ。
「ああ、ごめんなさい。他の星のヒトに話す内容ではありませんでしたね」
「確かに少し喋りすぎですね」
アグライアが釘を刺す。
「ですが、そのような背景がこの事件を引き起こしてしまったのでしょう。巻き込まれたあなた方にも話すのが筋というものでしょう」
「いえ、俺達は、ただ人殺しを止めたかっただけで……まさかその標的が……」
「――私のような大物だとは思いもしなかった、と?」
「…………………」
ヴィーナスに先に言われて、ダイチは頷くだけであった。
「フフッ、あなたは素直ですね。そういうあなただからこそ私も安心して話せるのです」
「……俺が?」
思いもよらないヴィーナスからの称賛に、ダイチは戸惑う。その隣でフルートは面白くない顔をしている。
「彼等は私を殺すために文字通り生命を懸けました。それはあの壁を取り払うことができない私に限界を感じたからなのだと思っています」
「ヴィーナス様、それはあなたの責任ではありませんよ……」
アグライアはヴィーナスを気遣って言う。
「でも、取り払うことはできないんでしょ?」
「おい、エリス!」
ダイチはエリスがまた失礼なことを言うせいで焦る。
「良いのです、事実ですから」
しかし、ヴィーナスは憤慨することは無く、かといって聞き流すことも無く、ただ重く受け止めているようだった。
「あの壁を取り払い、境界先の金星人を解放すること。それこそ母……先代ヴィーナスから続く使命だというのに、未だ兆しすら掴めていないという体たらくなのですから」
「ですが、それは怠惰とは違います。あなたが懸命に木星政府と交渉しています。のれんに腕押しですが」
「一言余計ですよ、アグライア」
「失礼しました」
「……失礼だとは思っていないくせに、フフッ」
「結局、それで壁は取り払えそうにないのが現実で、それに業を煮やした連中が今回の事件が起こしたってことなのよね」
「あなたは随分とはっきりとした物言いなのですね、エリス」
「失礼は俺が謝ります」
ダイチは申し訳なくて頭を下げる。
「フフッ、私はあなたのそのはっきりとした物言いを好ましく感じます」
「こう言ってはなんですが、ヴィーナス様は物好きなんです」
アグライアは最早諦めたような表情で言う。
「でしょうね」
思わず無礼なことを言ってしまったんじゃないかと思ったが、ヴィーナスは気にしていないようだった。
「なので、あなたに質問していいでしょうか・」
「何?」
「あなたは私を救ったことを正しかったと思いますか?」
エリスは眉をひそめる。
「何いってんの?」
「私のような者ではなくもっと相応しい皇ならば壁を取り払うことができるかもしれない。そう考えたからこそ彼等が行動を起こしました。あなたも同じようにお考えですか?」
「バカじゃないの」
エリスは率直に言う。
「壁を取り払うのに皇に頼っている時点でダメよ。私だったら自分でぶっ壊してやるわよ」
「…………………」
エリスの返答にヴィーナスは驚き、沈黙する。
「……――フフッハハハハハハハ!」
そして、堰を切ったように大笑いする。
「なるほど、自分のチカラで壊す、ですか! それは凄い答えです!」
「そう? そんな考え持ってるやつなんていくらでもいるんじゃない? 例えば隣の奴とか?」
そう言われて、ヴィーナスはアグライアの方を見る。
「そうですね、アグライアならそんなことを考えてもおかしくありませんね」
「いえ、私は……」
「まあ、可能でしょうがさすがに強引過ぎるから遠慮はしているのでしょう」
「……そういうことにしておきます」
アグライアは困った顔をする。さすがにダイチは申し訳なくなってくる。
(なんかこの会話、気をつかうな……いや、つかっってるのは俺だけか……)
ダイチは気疲れを感じるようになってきた。
「ヴィーナス様、まもなく宮殿につきます」
運転手がそう言ってくる。
「もうそんな時間ですか。つい楽しくて時を忘れてしまいましたね」
車が止まり、運転手がドアを開ける。
ヴィーナスが最初に降りて、次にアグライア。そのあとダイチ達が続く。
「長旅、ご苦労様です」
甲冑を身に包んだ緑髪の女性と桃色の髪の、こちらはどちらかというと少女といった面持ちの女性が一礼して出迎える。特に緑髪の女性のその凛とした眼差しにダイチは思わず緊張してしまう。
「ミーファにトリアもよく来てくれました」
「いえ、あなたを守護するのがワルキューレ・リッターの役目なので、護衛を欠けさせるわけにはいきません」
トリアと呼ばれた緑髪の女性はキリッとした口調で言う。
一方、ミーファはアグライアの元へ歩み寄る。
「アグライア卿はどうかごゆっくりお休みください」
「不本意ですが、デメトリア卿がいるなら安心して任せられます」
「ええ、私は?」
「ああ、すまない。ミーファ卿もだったな」
「今忘れていましたよね?」
ミーファはジト目で睨む。
そんな会話を傍らでみながら、ダイチはイクミに耳打ちする。
「イクミ、あのヒト達は誰だ?」
「アグライアと同じワルキューレ・リッターの二人や。
緑のがデメトリア・ライラシア
ピンクのがミーファ・レンハット」
「デメトリアにミーファ……」
ダイチがその名前を口にすると、ミーファがこちらの方を向いてくる。
「彼等がテロリストからヴィーナス様をお守りしてくれた方々ですか?」
「ああ、ヴィーナス様の希望で同席した」
そう言うとミーファはダイチ達の方へ一礼する。
「この度は我らが皇をお守りしていただき、ありがとうございます」
軽い口調なものの、意外と丁寧な物言いであった。それに続けてデメトリアが言う。
「ここから先は我らがお守りしますので、皆様はどうかご旅行を楽しんでください」
「ああ、うちらはここまでというわけですかい?」
イクミが訊くと、ヴィーナスは頷いて肯定する。
「そうですね、まだお礼が足りないと思うのでホテルの方へ連絡するかもしれません。出来れば皆様が泊まるホテルを教えていただきたいのですが……」
「え、ホテル? いや、それが泊まるホテルはまだ決めてないんです」
思っても見なかった申し出にイクミは慌てる。
「泊まるホテルは現地で決めようってことになっていますので。それにお礼ならもうマイスターのリストを受け取ったので十分かと思います」
ミリアが落ち着いて、申し出を断る。
「あのくらいでは十分とはいえません。そうですね、ではホテルを手配しましょうか、もちろん宿泊料も払っておきます。謝礼としてそれで十分かと思いますが、どうでしょうか?」
「ほ、ホテルの手配……!」
ダイチ達はそれぞれお互いに顔を見合わせる。
ホテルの手配。それはとても魅力的な提案であった。まだ賞金が十分にあるとはいえ、金星にこのあと何日滞在するかもわからないし、義手の料金と天王星へのシャトルのチケットは決して安くないため、ホテル代が浮くとなればそれに越したことはない。
「どうする?」
しかし、皇たっての申し出ともなると反射的に恐縮してしまい、相談になってしまうのは仕方がなかった。
「こ、断る理由は無いわね……」
さっきから緊張で汗を流しっぱなしのマイナはどもりながら言う。
「そうですね、ありがたい話だと思います」
「ただ、話が出来すぎてる気がするんやけど……」
「なんの! 妾達の功績からすれば当然の報酬じゃろ!」
「エリス、どう思う?」
ダイチはエリスに訊く。
「別に……いいんじゃない。向こうがお礼したいって言ってるわけだし、それに悪巧みするようなヒトにも思えないし」
エリスはヴィーナスに視線を映しながら言う。
「そっか、じゃあ決まりだな」
ダイチはそう言うと、もう周りも話は固まっていた。
「そのお礼、ありがたくいただきます」
「フフッ、喜んでもらえて何よりです。それでは、ホテルまではアグライアに案内させます」
「「――なッ!?」」
これには全員驚いた。というか、アグライアまでも驚愕していた。
「ヴィーナス様、何故!?」
「彼等はもうこの事件の関係者です。テロリストの仲間に狙われるかもしれませんので護衛は必要です」
「護衛は必要なのはわかりますが、何故私なのですか? 私には陛下の護衛があるではありませんか!?」
「私の護衛ならトリアとミーファがいれば十分ですよ」
「ですが!」
「これは命令ですよ」
「――!」
アグライアは納得がいかない顔をして、ヴィーナスを睨む。が、一度出した命令をすぐに取り払うような皇ではないこともよくわかっていた。
「……承知しました」
一礼して、ダイチ達の方を向く。
「あ、あの……そこまでしてもらわなくてもいいのですが……悪いですし」
二人のやり取りを目の当たりにしていただけに、ダイチは恐縮してしまう。
「いえ、これも命令ですから。それに私の方でも個人的にお礼をしたいところでしたからちょうどよかったです」
アグライアはそう言って笑顔を向ける。
それを見たダイチは、このヒトは真面目で良いヒトだという印象を受けた。
「それじゃ、さっそく案内してもらいましょうか」
「おい、エリス。さっきから態度がでかいぞ」
「別に……ただ私はいつもどおりにしてるだけよ」
「そういえば……」
言われてみると、確かにエリスはいつもどおりなだけだったことに気づく。ただ、それを金星の皇であるヴィーナスや護衛の騎士であるアグライアがいてもそうしているだけの話で。
「お前って凄いな」
「何よ、あらたまって」
「いや、素直にそう思っただけだ」
「………………」
エリスは黙り込む。
「ホテルはここからすぐの場所だ。では、ヴィーナス様。この者達を送ったらすぐ戻ってきます」
「ゆっくりでいいですよ」
ヴィーナスは笑って手を振って、講堂の中へ入っていく。アグライアは困った顔で見送った。
「さあ、こっちだ」
「はあ、よろしくお願いします」
思わずダイチは一礼する。
しかし、エリスやフルートがいて問題が起きないだろうか不安になる。
さらにヴィーナスはそう言うと、場に緊張の空気が流れる。
「私はヴィーナス・リフェル・レイド。金星の皇です」
「アグライア・エストール。ワルキューレ・リッター『剣』の騎士」
「剣の騎士?」
フルートは首を傾げる。
「ワルキューレ・リッターにはそれぞれ古から伝わる神器を所有しているのです。
アグライアは聖剣【ノートゥング】、レダは聖弓【グシス】といったようにね」
「剣と弓……」
「フフッ、ワルキューレ・リッターに興味がありますか?」
「ええ、そうね」
エリスは嬉々として答える。
「どのくらい強いのかを、ね」
「おい、エリス!」
ダイチは注意する。
「フフッ、アグライアは強いですよ。私は彼女こそが最強の騎士だと信じていますから」
「陛下、挑発するような発言は控えてください」
そうは言いつつも、アグライアはエリスと睨み合っている。
この者がヴィーナスに飛びかかるのではないかとわずかばかりの危惧があったからだ。
ダイチは嫌な汗がさっきから出続けている。
もしも、ここでヴィーナスやアグライアに失礼なことをして最悪処刑なんて言い渡されたら、と思うととてもじゃないが落ち着いていられない。
「――さて、次はあなた方の番ですね」
「……は、はい!」
いきなり、ダイチは飛び上がるように返事する。
ヴィーナスはフフッと笑う。それに後部の座席についているイクミやミリアからも笑い声が聞こえる。
「お、俺はダイチ、です……!」
「エリス・マーレットよ」
「フルート・クリュメノスじゃ!」
「イクミ・パルサーです」
「ミリア・オーキや」
「マ、マイナ・ファインよ」
みんなそれぞれ順繰りに名前を名乗る。
「ダイチにエリス、フルートですね。よろしくお願いします」
ヴィーナスはダイチ達を順に目で追って言う。
「こ、こちらこそ!」
「そんなに畏まらなくていいですよ。あなた方は私の生命の恩人なのですから」
「い、生命の恩人って大げさですよ」
「そうですね」
「え……?」
ダイチはヴィーナスが即座に認めたことで唖然とする。
「生命の恩人というのは少々大げさにしても助けられたことは事実です。そのことについてちゃんとお礼をしたいのとお話をしたいと思いましてこうして招いたのです」
「お話って何を?」
「単なる歓談です。身構えることはありません、聴取するわけではありませんから」
「あ、は、はい……」
とはいっても、相手が超大物なだけに緊張するなとか身構えるなとか言う方が無理であった。
「さて、それでは質問です。
――あなた方は何しに金星へ来たのですか?」
訊かれたダイチはエリスに視線を移す。
「私の義手を見繕ってもらうためよ」
エリスが代表して答える。
「やはり、そうでしたか。そういう方は多いですからね。
それでは、ヒュンドラへ向かう予定ですか?」
「は、はい……!」
「あそこは職人工業都市ともいわれ、腕のいいマイスターが多いですからね、きっと良い義手を用意してもらえると思いますよ」
「それはどうも」
エリスはぶっきらぼうに答える。
「ああ、そうですね。私が推薦するマイスターのリストを差し上げます」
「え、それは……!」
「ほんの感謝の気持ちです」
ヴィーナスは微笑むと、アグライアはディスプレイを出現させて操作する。
「……これだ」
そう言ってダイチ達のディスプレイにマイスターと思われる顔写真とその人が作ったと思われる義手や義足が次々と出てくる。
「この中から気に入った方を選ぶと良いでしょう」
「どうもありがとうございます」
ダイチは礼をする。
「これはありがたい情報ですなー」
イクミは上機嫌であった。
「喜んでもらえて何よりです。それでは次の質問ですが……」
「待って」
エリスがヴィーナスを止める。
「その前にこっちから一つ訊いていい?」
「ええ、答えられる範囲なら答えます」
しかし、ヴィーナスは気分を害した様子もなく受け入れる。
「宇宙港であんたを襲った連中って何者?」
「………………」
ヴィーナスは沈黙する。
そのせいで、和らいだ雰囲気が再び緊張に包まれてしまう。
「私が代わりに答えましょう」
と、アグライアが代弁する。
「現在、彼等の身元についてはレダ卿が調べている。分かり次第、連絡が来るはずだ」
「心当たりとかないの? 皇を狙うなんて大それたことをしでかす輩がそんなにいるとは思えないけど」
「それは……」
アグライアは言い淀む。
それは金星の内情に関するところも大きく、口にするのも憚られるのだろう。特にエリス達、他の星のヒトの前ならなおさらだ。
ピッ!
そこでアグライアの手前にディスプレイが表示される。
『アグライア、ヴィーナス様はそこにいるわね?』
現れたのはレダであった。
「はい。彼等とともにいます」
『彼等ともか……それでは報告は後にした方が』
「構いませんよ、レダ」
ヴィーナスがアグライアの通信に割り込んで、顔を出す。
「彼等も関係者ですからね。それに言えない内容かどうかはあなたで判断できるでしょう」
『………………』
レダは顎に手を当てて少し考える。
『わかりました。報告します』
「それで何かわかったのですか?」
『――全員、息を引き取りました』
「なッ!?」
『おそらく遅効性の毒薬を盛られていたのだろう。彼等の暗殺が成功しようがしまいが、口封じで始末する予定だったのでしょう』
「なんと残酷な……! ですが、それでは裏で手を引いているヒトがいるということの裏付けなのでは?」
『それも含めて調査する予定よ。ただ彼等の身元は……』
「わかったのですか?」
『いえ、それが……彼等の身元を検索してみましたが、わかりませんでした』
「わからなかったのですか……? 彼等は金星人だと思っていたのですが……」
『いえ、金星人なのは確かです。遺体からエヴォリシオンの検査しましたが全員金星人だという結果が出ました』
「それでは……一体……?」
アグライアは考える姿勢をとる。
『私に心あたりがあります』
「それは何でしょうか?」
『――彼等が境界先の金星人なのかもしれません』
「――!」
アグライアは驚きの声を上げる。
『まだ確証は取れていませんので、これから調査します』
「よろしくお願いします」
レダは一礼する。
一部始終を聞いていたダイチ達は絶句していた。
「思い切ったことをしてきましたね」
「はい、彼等の気迫は文字通り後に退けない覚悟からくるものだったようです」
ダイチはクップァの必死の形相を思い出す。
両肩から血を流し、もう戦えない状態にも関わらず、立ち向かってきた。
生命を懸ける。よく聞く言葉だが、それをまざまざと見せつけられた。とダイチは改めて実感が込み上げてくる。同時に頭がずしりと重石をおかれたように重くなる。
「死んだって……マジ、かよ……?」
ようやく声が出た。
「それは本当のことだ。失敗して情報が漏れることを阻止するためだろう」
「だからって、ヒトの生命だろ!」
「それが連中のやり方だろう。私とて憤っている」
アグライアは拳を震わせる。その悔しさが痛いほど伝わってくる。
「――必ず黒幕をこの手で捕らえる!」
その決意を力強く口にする。
「ところで一つ訊いていい?」
「何でしょうか?」
エリスの問いかけにヴィーナスは優しく答える。
「境界先の金星人って何?」
それはダイチも気になっていたことだ。
「あなた方も御存知の通り、この金星のイシュタル大陸は三分の一ほどの領地を木星に明け渡してしまっています」
シャトルでイクミから聞いた話だ。
「境界……というのは、あの国境の壁のことです。
境界先の金星人というのはその国境を超えた先にいる金星人のことです。残念ながら彼等は木星政府の管理下にあるため、こちらにはデータがないのです」
「そんな……同じ星のヒトなのに……!」
ダイチが口にした憤りにヴィーナスは顔に僅かに無念の色を浮かべて言う。
「そうですね、彼等もまた金星人。
同じ金星という地で生きていることに変わりはありません。だというのにあのような壁によって隔たれているのは間違っています」
「………………」
ダイチ達は息を呑んでその話を聞き入った。
星の皇から放たれた紛れもない本音に聞こえたからだ。
「ああ、ごめんなさい。他の星のヒトに話す内容ではありませんでしたね」
「確かに少し喋りすぎですね」
アグライアが釘を刺す。
「ですが、そのような背景がこの事件を引き起こしてしまったのでしょう。巻き込まれたあなた方にも話すのが筋というものでしょう」
「いえ、俺達は、ただ人殺しを止めたかっただけで……まさかその標的が……」
「――私のような大物だとは思いもしなかった、と?」
「…………………」
ヴィーナスに先に言われて、ダイチは頷くだけであった。
「フフッ、あなたは素直ですね。そういうあなただからこそ私も安心して話せるのです」
「……俺が?」
思いもよらないヴィーナスからの称賛に、ダイチは戸惑う。その隣でフルートは面白くない顔をしている。
「彼等は私を殺すために文字通り生命を懸けました。それはあの壁を取り払うことができない私に限界を感じたからなのだと思っています」
「ヴィーナス様、それはあなたの責任ではありませんよ……」
アグライアはヴィーナスを気遣って言う。
「でも、取り払うことはできないんでしょ?」
「おい、エリス!」
ダイチはエリスがまた失礼なことを言うせいで焦る。
「良いのです、事実ですから」
しかし、ヴィーナスは憤慨することは無く、かといって聞き流すことも無く、ただ重く受け止めているようだった。
「あの壁を取り払い、境界先の金星人を解放すること。それこそ母……先代ヴィーナスから続く使命だというのに、未だ兆しすら掴めていないという体たらくなのですから」
「ですが、それは怠惰とは違います。あなたが懸命に木星政府と交渉しています。のれんに腕押しですが」
「一言余計ですよ、アグライア」
「失礼しました」
「……失礼だとは思っていないくせに、フフッ」
「結局、それで壁は取り払えそうにないのが現実で、それに業を煮やした連中が今回の事件が起こしたってことなのよね」
「あなたは随分とはっきりとした物言いなのですね、エリス」
「失礼は俺が謝ります」
ダイチは申し訳なくて頭を下げる。
「フフッ、私はあなたのそのはっきりとした物言いを好ましく感じます」
「こう言ってはなんですが、ヴィーナス様は物好きなんです」
アグライアは最早諦めたような表情で言う。
「でしょうね」
思わず無礼なことを言ってしまったんじゃないかと思ったが、ヴィーナスは気にしていないようだった。
「なので、あなたに質問していいでしょうか・」
「何?」
「あなたは私を救ったことを正しかったと思いますか?」
エリスは眉をひそめる。
「何いってんの?」
「私のような者ではなくもっと相応しい皇ならば壁を取り払うことができるかもしれない。そう考えたからこそ彼等が行動を起こしました。あなたも同じようにお考えですか?」
「バカじゃないの」
エリスは率直に言う。
「壁を取り払うのに皇に頼っている時点でダメよ。私だったら自分でぶっ壊してやるわよ」
「…………………」
エリスの返答にヴィーナスは驚き、沈黙する。
「……――フフッハハハハハハハ!」
そして、堰を切ったように大笑いする。
「なるほど、自分のチカラで壊す、ですか! それは凄い答えです!」
「そう? そんな考え持ってるやつなんていくらでもいるんじゃない? 例えば隣の奴とか?」
そう言われて、ヴィーナスはアグライアの方を見る。
「そうですね、アグライアならそんなことを考えてもおかしくありませんね」
「いえ、私は……」
「まあ、可能でしょうがさすがに強引過ぎるから遠慮はしているのでしょう」
「……そういうことにしておきます」
アグライアは困った顔をする。さすがにダイチは申し訳なくなってくる。
(なんかこの会話、気をつかうな……いや、つかっってるのは俺だけか……)
ダイチは気疲れを感じるようになってきた。
「ヴィーナス様、まもなく宮殿につきます」
運転手がそう言ってくる。
「もうそんな時間ですか。つい楽しくて時を忘れてしまいましたね」
車が止まり、運転手がドアを開ける。
ヴィーナスが最初に降りて、次にアグライア。そのあとダイチ達が続く。
「長旅、ご苦労様です」
甲冑を身に包んだ緑髪の女性と桃色の髪の、こちらはどちらかというと少女といった面持ちの女性が一礼して出迎える。特に緑髪の女性のその凛とした眼差しにダイチは思わず緊張してしまう。
「ミーファにトリアもよく来てくれました」
「いえ、あなたを守護するのがワルキューレ・リッターの役目なので、護衛を欠けさせるわけにはいきません」
トリアと呼ばれた緑髪の女性はキリッとした口調で言う。
一方、ミーファはアグライアの元へ歩み寄る。
「アグライア卿はどうかごゆっくりお休みください」
「不本意ですが、デメトリア卿がいるなら安心して任せられます」
「ええ、私は?」
「ああ、すまない。ミーファ卿もだったな」
「今忘れていましたよね?」
ミーファはジト目で睨む。
そんな会話を傍らでみながら、ダイチはイクミに耳打ちする。
「イクミ、あのヒト達は誰だ?」
「アグライアと同じワルキューレ・リッターの二人や。
緑のがデメトリア・ライラシア
ピンクのがミーファ・レンハット」
「デメトリアにミーファ……」
ダイチがその名前を口にすると、ミーファがこちらの方を向いてくる。
「彼等がテロリストからヴィーナス様をお守りしてくれた方々ですか?」
「ああ、ヴィーナス様の希望で同席した」
そう言うとミーファはダイチ達の方へ一礼する。
「この度は我らが皇をお守りしていただき、ありがとうございます」
軽い口調なものの、意外と丁寧な物言いであった。それに続けてデメトリアが言う。
「ここから先は我らがお守りしますので、皆様はどうかご旅行を楽しんでください」
「ああ、うちらはここまでというわけですかい?」
イクミが訊くと、ヴィーナスは頷いて肯定する。
「そうですね、まだお礼が足りないと思うのでホテルの方へ連絡するかもしれません。出来れば皆様が泊まるホテルを教えていただきたいのですが……」
「え、ホテル? いや、それが泊まるホテルはまだ決めてないんです」
思っても見なかった申し出にイクミは慌てる。
「泊まるホテルは現地で決めようってことになっていますので。それにお礼ならもうマイスターのリストを受け取ったので十分かと思います」
ミリアが落ち着いて、申し出を断る。
「あのくらいでは十分とはいえません。そうですね、ではホテルを手配しましょうか、もちろん宿泊料も払っておきます。謝礼としてそれで十分かと思いますが、どうでしょうか?」
「ほ、ホテルの手配……!」
ダイチ達はそれぞれお互いに顔を見合わせる。
ホテルの手配。それはとても魅力的な提案であった。まだ賞金が十分にあるとはいえ、金星にこのあと何日滞在するかもわからないし、義手の料金と天王星へのシャトルのチケットは決して安くないため、ホテル代が浮くとなればそれに越したことはない。
「どうする?」
しかし、皇たっての申し出ともなると反射的に恐縮してしまい、相談になってしまうのは仕方がなかった。
「こ、断る理由は無いわね……」
さっきから緊張で汗を流しっぱなしのマイナはどもりながら言う。
「そうですね、ありがたい話だと思います」
「ただ、話が出来すぎてる気がするんやけど……」
「なんの! 妾達の功績からすれば当然の報酬じゃろ!」
「エリス、どう思う?」
ダイチはエリスに訊く。
「別に……いいんじゃない。向こうがお礼したいって言ってるわけだし、それに悪巧みするようなヒトにも思えないし」
エリスはヴィーナスに視線を映しながら言う。
「そっか、じゃあ決まりだな」
ダイチはそう言うと、もう周りも話は固まっていた。
「そのお礼、ありがたくいただきます」
「フフッ、喜んでもらえて何よりです。それでは、ホテルまではアグライアに案内させます」
「「――なッ!?」」
これには全員驚いた。というか、アグライアまでも驚愕していた。
「ヴィーナス様、何故!?」
「彼等はもうこの事件の関係者です。テロリストの仲間に狙われるかもしれませんので護衛は必要です」
「護衛は必要なのはわかりますが、何故私なのですか? 私には陛下の護衛があるではありませんか!?」
「私の護衛ならトリアとミーファがいれば十分ですよ」
「ですが!」
「これは命令ですよ」
「――!」
アグライアは納得がいかない顔をして、ヴィーナスを睨む。が、一度出した命令をすぐに取り払うような皇ではないこともよくわかっていた。
「……承知しました」
一礼して、ダイチ達の方を向く。
「あ、あの……そこまでしてもらわなくてもいいのですが……悪いですし」
二人のやり取りを目の当たりにしていただけに、ダイチは恐縮してしまう。
「いえ、これも命令ですから。それに私の方でも個人的にお礼をしたいところでしたからちょうどよかったです」
アグライアはそう言って笑顔を向ける。
それを見たダイチは、このヒトは真面目で良いヒトだという印象を受けた。
「それじゃ、さっそく案内してもらいましょうか」
「おい、エリス。さっきから態度がでかいぞ」
「別に……ただ私はいつもどおりにしてるだけよ」
「そういえば……」
言われてみると、確かにエリスはいつもどおりなだけだったことに気づく。ただ、それを金星の皇であるヴィーナスや護衛の騎士であるアグライアがいてもそうしているだけの話で。
「お前って凄いな」
「何よ、あらたまって」
「いや、素直にそう思っただけだ」
「………………」
エリスは黙り込む。
「ホテルはここからすぐの場所だ。では、ヴィーナス様。この者達を送ったらすぐ戻ってきます」
「ゆっくりでいいですよ」
ヴィーナスは笑って手を振って、講堂の中へ入っていく。アグライアは困った顔で見送った。
「さあ、こっちだ」
「はあ、よろしくお願いします」
思わずダイチは一礼する。
しかし、エリスやフルートがいて問題が起きないだろうか不安になる。
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