まほカン

jukaito

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第129話 近隣! 少女と灯台下暗しの精霊は一期一会! (Bパート)

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 あれはまだみあがこのオフィスに入るようになる前。
 オフィスは今から考えられないほど閑散としていた。何しろ社員が社長のあるみと部長の鯖戸の二人しかいなかった。
 その二人も外回りでオフィスを留守にすることが多く、その日はたまたまあるみが一人オフィスで電話番をしていたときだった。

トゥルルルルル♪

 オフィスに黒電話のベルが鳴り響く。
「はい、株式会社魔法少女社長の金型よ」
阿方彼方あがたかなたです』
「あら、ひさしぶりね。あなたの方から連絡なんて珍しいわね」
『あまり連絡できる立場じゃないからね』
「そのお上の人が私に何の用?」
『今はその立場で連絡してきたわけじゃないんだよ』
「ああ、そういうことね」
 あるみは納得して、声色が優しくなる。
「――みあちゃんのことね」
『察しが早いのは助かる。やはり、君達は頼りになる』
「調子の良いこと言ってごまかされないわよ」
『ごまかしているつもりはないのだけどね。頼りになる人じゃなければ頼ったりはしないからね』
「その物言い、本当に困ってるみたいね」
『本当に察しがいいね。これから会ったりすることはできないかな』
「わかったわ。じゃあ、オフィス近くの喫茶店で待ってるわ。なるべく早く来なさい」
『可能な限り早く行くよ』
 あるみは席を立つ。
 オフィスは無人になった。
 オフィス近くの喫茶店で、あるみが席に着くと、彼方はすぐに来店してくる。
「可能な限り、ね……」
 あるみは電話のときの彼方のセリフを思い出して、感心する。
 きっと、大急ぎで社長の仕事を終わらせてきたのだろう。それだけの大事おおごとが起きたということだろうか。
「みあちゃんは元気?」
 挨拶は先程電話で済ませたので、話題を切り出す。
「げ、元気だよ、一応……」
 歯切れの悪い回答だった。
 明朗な物言いが彼の特徴だというのに。
「その、一応というところが、相談の件?」
「そういうことだよ」
 彼方は話し始める。
 もともと大企業の社長業で忙しかったところに、このところは輪にかけて忙しかった。
 みあとは会話すらろくに出来ていなかった。たまに帰って寝顔を見るくらいで、それでも元気に学校に通っていると思い込んで心配していなかった。
 そんな折に、学校から呼び出しがかかった。
 青天の霹靂へきれきだった。
 みあが他の生徒を殴り飛ばして、怪我をさせた。
 その一報を受けて、彼方は放心状態になってしばらく動けなかった。
 ともかく学校に行ってみて事情を聞いてみた。
 学校の応接室で、みあとみあのクラスの担任の先生。それに校長、教頭までいた。
 そこから事情を聞かされて、彼方は信じられない気持ちだった。
 その後、みあを連れてマンションの部屋に戻った。
 みあと起きているうちにこうしてマンションの部屋で対面するのも久しぶりだった。
 そんな現実逃避にも似たことを考えをすぐに捨てて、みあに問いただす。
「どうして、殴ったんだ?」
「………………」
 みあは黙っていた。
 それから何度問いただしても、みあは何も答えなかった。
 彼方はあるみにそのときのことを説明する時、
「このときの私は気が動転していて、平静でいられなかった」
 と述懐した。
 怒鳴ってしまい、みあは怯えさせてしまった。
「あ~、それは……やっちゃったわね……」
 それをきいた、あるみも苦笑いする。
「私に口をきかなくなってしまい、いや元から会話もなかったかもしれないけど……」
「それで、私の出番というわけね」
「ああ、なんとか仲をとりもってもらいたいのだけど……」
「無理でしょ」
 あるみは断言する。
「やっぱりそうだよね」
「まあ仲を取り持つとまではいかないけど、私がみあちゃんのチカラになってあげられないか、ってことね」
「できるかい?」
「できるわよ」
「頼もしいね。さすがだよ」
 彼方はそう言って、あるみの手元にある物を置く。
「あなたのマンションの鍵なら持ってるけど」
「みあちゃんの部屋の鍵だよ」
「いいの? いきなり知らないひとが入ってきたらビックリするんじゃない?」
「そこは、まあ君ならなんとかできるだろう」
「ムチャ振りね。まああんとかしてみましょうか?」
 あるみは立ち上がる。
 その頃にはもう注文しておいたコーヒーは空になっていた。



 そうして、あるみはみあのいる部屋に行ってみた。
(まさしくお姫様みたいね)
 部屋の隅で塞ぎ込んでいるみあを見つけて、あるみはそう思った。
「ん?」
 みあは勝手に入ってきたあるみに気づく。
「あんた誰?」
「私はあるみ、よろしくね。魔法少女よ」
 あるみは笑顔でそういうと、みあは何を言っているのか理解できずに硬直した。
 その瞬間、時間が停止したような錯覚を起こしかけた。
「魔法、少女?」
 みあはその言葉に興味を示した。



 学校の授業によるグループ課題は、グループで決めて調べることにした場所へ行くことになった。
「自分ンに帰るのと大して変わらないわね……」
 みあは誰にも聞こえない声でぼやく。
 行き先は、みあの提案した高級高層マンションの裏手にある寺になった。
「どんな場所なんだろうな」
 男子は楽しそうに言う。
(あんたにとっては初めての道かもしれないけど、あたしにとってはただの帰り道なのよ)
 みあは心中でぼやく。
「阿方さんはどう思う?」
 女子は、みあに訊く。
 この女子、事あるごとにみあに声をかけてくる。
 相変わらず名前がわからない。
「さあ……」
 みあはいい加減に答える。
 実際のところ、みあはその寺のことを知らなかったから、こう答えるしかなかった。
 そのせいで、知っている道を通っているのに、知らない場所に向かっている奇妙な感覚だった。
「大きいマンションだなあ」
 男子は、みあのマンションを見上げる。
 みあはその様子を見て、内心「バカ……」と呆れる。
 みあにとっては見慣れた我が家のようなものだから、わざわざ見上げたり、コメントすることはなかった。
「一番上ってどんな景色なんだろうな?」
 男子はそう言った。
(そんな珍しいものじゃないわよ)
「絶景じゃないかな」
「一度上がってみてみたい」
 女子はそう言った。
(一度くらいだったら、部屋に入れてもいいかな。ああ、いや!)
 そこまで考えて、みあは自分の心境の変化に気づく。
(あたしはなんでそんなこと考えてるのよ!? 学校のやつをウチにあげるなんて!!)
 そんなことするつもりなんて絶対にないと思っていた。
 クラスメイトに嫌な目にあわされた。彼女は無関係なはずなのだけど。
 それでも同じクラスメイトというだけで、何か嫌で、関わり合いになりたくない。そう思っていた。
(いや、前は誰も上げるつもりなんてなかった……最近、かなみや紫織をしょっちゅうあげてるから……おかしくなったのね……)
 などと自己分析までしはじめた。
(ともかく、この子を部屋に上げるなんてありえないわ。まだ名前も知らないし)
 みあは結論づける。
 そうこうしているうちに、目的地の寺に着く。
(ずっと住んでたけど、こんなとこあるなんて知らなかったわ)
 みあは改めて寺の境内を見て思う。
「古そう」
 男子は感想を漏らす。
「……ボロい。今にも崩れそう……」
 そんな中、みあは正直に言う。
 自分が住んでいるマンションのすぐ近くにこんな寺があったなんて、今まで知らなかったけど、これは知っていても気にもとめなかった、といった方が正しかったかもしれない。
 寺は年季の入った木造で、カビが生えている箇所も見受けられていて、みあが言う通り、今にも崩れ落ちそうな趣がある。

パシャ!

 女子は写真を撮る。
「いい感じに撮れたよ」
 嬉しそうだった。
「それじゃ、帰るわよ」
 みあは、回れ右しようとする。
「よーし、中に入ってみるか!」
 男子が思わぬ提案をする。
「おー!」
 もう一人の男子がその提案に乗る。
「えぇッ!?」
 みあは嫌そうな声を上げる。
「なんで、そんな面倒なことを? 写真とったんだからもう十分じゃない」
「だって、せっかくここまできたんだからな。中に何がある気になるじゃねえか」
「せっかく、ここまで、って……」
 他の生徒からしてみれば遠出してやってきたつもりなのだろうけど、みあからしてみれば目と鼻の先が我が家だ。
 物珍しさはあるものの、グループで一緒にいる時間が早く終わってほしいと思う気持ちが勝(まさ)る。
「あんたも早く帰りたいでしょ?」
 みあは女子に問いかける。
「え……?」
 女子はみあから急に振られてキョトンとする。
「ね、中に興味なんてないでしょ?」
「え、えぇ……うーん、ごめん。……私も中みてみたい」
 女子は正直に答える。
「えぇ……」
 その返答は、みあにとってあてが外れるものだった。
 これで三対一。
 大企業の社長令嬢とはいえ、魔法少女とはいえ、同じ小学生という立場無き対等な多数決の前には逆らえなかった。
「ハァ……しょうがないわね」
 面倒くさいけど、どうせ特別なものなんて何もないだろう。
 「なーんだ」と落胆の声を上げて、引き上げることになるだけのこと。もう少し一緒にいる時間を我慢すればいい、それだけの話だ、と、みあは割り切った。
 男子は寺の戸を開ける。
 寺は無人のようで、人の出入りが無くなって久しい雰囲気を放っている。
(かなみだったら、何か出てきそうって言ってビビるところかも……)
 みあはそんなことを言いながら、寺内に入る。
「――!」
 中に入った途端、違和感を覚える。
 空気が変わった。身体が浮き上がりそうな感覚を覚える。
 寺内は思ったよりも広いが、手入れされてないせいで、木製の天井や壁が剥がれてたり、床が抜けていたりする。
「おー!」
 男子は驚嘆の声を上げる。
 みあの予想と違い、喜んでいるようだった。
「なんか、すごいな!」
「すごいって何が?」
 みあが呆れた調子で訊く。
「古くて! ボロくて! なんかいい!!」
「……はあ」
 みあはため息をつく。
(何がいいのよ……?)
 違和感はあるものの、寺内はカビ臭くてボロっちい。一刻も早く立ち去り気分になる。

パシャパシャパシャパシャ

 女子は淡々と写真を撮っていく。
「雰囲気あるね。なんか出てきそう」
 女子も楽しそうだった。
「なんか出てきそうって、何が出てくるのよ?」
「うーん、おばけとか妖怪とか……」
(こいつはそういうのが好きなのか……)
 面倒だと思った。
 かなみみたいに恐怖で震えれば、早く帰れたというのに。
 しかし、確かに何か出てきそうな雰囲気はある。
 いや、もうすでに何か出ているのかもしれない。
「寺だから神様とか仏様とか、とか出てきたりして」
「あ、それいいね! 願い事くれる神様出てきてほしいな!」
「そんな都合のいい神様だったらいいんだけどね」
「来週のおこづかいいっぱいもらえますように!」
「いや、そんな神頼みしても……って、あぁ」
「どうしたの?」
「男子がいなくなった……」
「えぇッ!?」
 女子はキョロキョロ周囲を見回す。
 男子二人の姿がどこにもいない。
「いつの間に、帰っちゃったの?」
「帰ったとは思えないけど……」
 みあも周囲を見回してみる。
 人かどうかまではわからないけど、何かいる。
(多分、寺に住み着いている……怪人かもしれない……こんなに近くに住んでたのに、わからなかったなんて……)
 みあは周囲を警戒する。
 ひとまず女子だけでもここから出した方が良さそうだと思った。
 彼女がいると変身もできない。
「外に出たかもしれないから、見てきて」
「え……うん」
 急な提案にみあは驚くものの、女子も男子達が外に出てないか気になったので出入り口へと向かう。
(これであの子が戸を閉めたら、すぐ変身して)
 ところが、出入り口の戸を開けて、日の光が差し込んできた時に事が起きた。
 日の光とともに女子の姿が消えていた。
「え!?」
 みあは慌てて出入り口に駆け寄る。
 女子は外に出ていった様子は無い。もちろん、外に男子の姿は見えない。
「神隠し……まさか本当に神様がいるってわけじゃないわよね……!」
 みあは寺内の奥へ進む。
 嫌な予感がしたので、外に出てみる気になれなかったからだ。
「寺の真ん中? あ~真ん中というか……」
 気づいたら出入り口から真反対の奥の方へ辿り着いていた。
「幻を見せられているか。それとも空間が歪んでいるか。誰の仕業よ、まったく……」
 関係の無い同級生まで巻き込まれてしまった。
 あの子達は何としてでも無事に家に帰さないといけない。それ以前に、今無事なのだろうか。
「とりあえず、敵を見つけることね」
 みあは冷静にそう判断する。
 そして、目を閉じる。
 下手に目が見えていると、敵が作り出す幻に惑わされてしまう。
(ん、なんかいる!)
 みあは真後ろの方へ魔法のヨーヨーを投げ込む。

ゴツン!

 何か岩のような物に当たった感触がする。
「あいた!?」
 野太い声がヨーヨーを投げた方向からする。
「ああ、そこね」
 みあは声のした方向へ移動する。
 気がつけば、寺内の最奥に立っていた。最奥の壁際にふくよかな老夫の木像のようなものがあった。
 寺内は入口から最奥まで薄暗い見渡せるほど狭く、そのときは何も無かった。それがいつの間にか立っている。
 普通なら不気味なことこの上のない超常現象なのだけど、この手の現象には、みあは慣れている。
「あの子達は無事?」
 みあは木像に問いかける。
「無事じゃ。危害を加えるつもりはない」
 木像は動き出して喋り出した。
「じゃあ、何が目的よ?」
 みあは冷静にさらに問いかける。
「久しぶりの最後の客だから、からかってみたかったのじゃ」
「はあ?」
 みあはイラッときて、ヨーヨーを構える。
「ああぁぁッ! 待ちなさい! 落ち着きなさい!」
「あたしは落ち着いているわよ。どうやったら、あんたを叩き潰せるか、れ・い・せ・いに考えてるわ」
「考えてることが物騒じゃな」
「魔法と関係ない子を巻き込んだのよ。他じゃそうはいかないわよ」
「それもそうじゃ。他人のために動けるひとは、儂は好きじゃよ」
「別にあたしは他人のために動いたわけじゃなくて……」
「ふむふむ、ひとの本質は言動ではなく行動に現れるものじゃ」
「なんかその言い方、ムカつくわね」
「ハハハ! この世に生を受けて千余年せんよねん、知らず知らずのうちに百年生きられぬひとに対して傲慢になっていたかもしれない」
「千余年? あんた、仙人?」
 みあは脳裏に煌黄を思い浮かべる。
 老夫の木像と煌黄は雰囲気が似ているような気がする。超然としていて、人をからかってその反応を見て楽しむところなんかは特に。
「いや、儂は仙人ではない」
 それはみあにとっては予想を外す返答だった。
「仙人じゃないんだったら、何なのよ?
「儂は精霊せいれい。精霊の恵寿けいすじゃ」
「あんた、精霊だったの!?」
「おお、多少は驚いたか。いや、それでも多少か」
 恵寿は残念そうに言う。
「いや、結構驚いてるんだけど……なんで、精霊がこんなオンボロでらに住み着いてんのよ?」
「オンボロとは随分な言い様じゃな。まあ本当のことじゃからな。もうじき取り壊すことになっとるしのう」
「は? 取り壊す?」
「そういうわけで、お主ら最後の参拝者ということで歓迎したわけじゃ」
「大きなお世話よ。第一あたしらは参拝にきたわけじゃないし」
「学校の課題じゃろ。それでもお主らがやってきたことは嬉しく思うぞ」
「嬉しいんだったら、ご利益くらい分け与えなさいってのよ」
「ハハハ! 生意気な童女じゃ。よくぞここまで成長したものじゃ」
「成、長……? あんた、あたしのこと知ってんの?」
「そりゃ、ご近所じゃからな」
「あ、ああ……」
 みあは納得する。
「精霊様にはお見通しってわけね」
「ごく自然に見えるだけの話じゃ。父親と二人暮らしで苦労しとるようじゃのう」
「別に苦労してるわけじゃないわよ」
「そうかそうか」
 恵寿は嬉しそうに言う。
 この精霊はどこまで知っているのだろうか、と、みあは警戒する。
 いや、精霊のことだから全て知っていてもおかしくない。とすぐに諦めて警戒心を解く。
「賢明な子じゃ」
 恵寿は、みあの心境の動きを察して言う。
「最後に話せてよかったぞ」
 そして、満足そうに言う。
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