まほカン

jukaito

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第2話 疾走! 先輩と真夜中のフルスロットル!? (Aパート)

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「えっと、こっちのステッキの在庫数は合ってる。んで、そっちのヨーヨーは……と」
「問題なし。鯖戸部長に報告してもいいだろう」
 今かなみはビルの倉庫部屋で入荷した商品の在庫をチェックしている。これも業務のうちで、魔法少女としての出動が無ければ、こうして雑務をこなして給料分働いている。
「鯖戸部長、発注ミスはなかったわ。これ書類」
「うむ、ご苦労だったね、それで次の仕事なんだが」
「あの、……部長?」
「ん、なんだね?」
「前々から気になったいたんだけど……あのステッキとかヨーヨーなんて、どこから仕入れてどこで売りさばいてるの?」
 この職場についてからしばらく経つが、未だに魔法少女としての仕事もこの業務もまったく実態がつかめていない。
 はじめのうちはそんなこと考えている余裕もなかったが、ここ最近は慣れ始めてきたせいか気になって、つい訊いてしまったというわけだ。
「しかも、あのステッキ……私のものだよね?」
「うむ、まあそうなんだが、あれはあれで結構売れるものなんだよ」
「売れるってマジで言ってるの?」
「ああ、マジさ。これを見てくればわかる」
 そう言って鯖戸はパソコンの画面を見せる。
「えっと……これ、『神殺砲』の発注数……? えぇっと、売上数は……百!?」
 これは驚きだった。自分がイメージしたステッキが百も売れてるなんて思いもしなかったことだからだ。
「驚くことはないよ。魔法少女が使用したステッキとか変身アイテムとか、そういうグッズは売れ行きがいいからな」
「それはアニメとかやってて、小さな子が欲しがるからでしょ? でも私の場合は、アニメじゃなくて現実の話よ! しかも、誰にも知られていないのに、こんな売れるなんて思わないでしょ!」
「そうかね……私はそうは思わないがね。幼女というのは直感的に判断するものだ。アニメや流行に乗っかることなく、自分の目で見て「いい」と判断したものを求める。その点で言えば君の『神殺砲』は実にチャーミングだよ」
「チャーミング、ね……」
 そんな鯖戸の説明でも、かなみは腑に落ちなかった。
「それはともかく次の仕事だよ、かなみ君」
「ああ、そろそろ来るんじゃないかと思ったわ」
 鯖戸がこういう言い方をするときは魔法少女としての仕事が言い渡される前振りなのだと最近わかった。
「次の仕事って……いい加減、勤務時間外は勘弁して欲しいわ。いつか労働基準法違反で訴えてやるわ」
「我が社に労働基準法は適用されない。それは実際に働いている、君がよくわかってるだろ」
「そ、それぐらいわかってるわよ! そのぐらいの気持ちは持ってるって言いたいのよ!」
「そのぐらいならまだ可愛いな。社長だったら訴えるどころか打ち壊すぐらいのことは言う」
「す、凄まじい社長ね……」
 一体どんな社長なのだろうか。ここで働くようになってからしばらくたつが、未だに社長に会ったことはない。鯖戸は出張中だと言っているけど、会える日はいつになるんだろう。
 鯖戸の話からするとかなり物騒な人物のように聞こえるが、会ったらすぐにでも労働環境を改善させるために抗議してやるとかなみは密かに意気込んでいる。
「まあそれはともかく、今回の仕事はこれだ」
 そう言って話題を切り替えた鯖戸はパソコンを操作し、ある映像を出した。その映像は夜の高速道であり、いくつもの車が並行して走っている。
「あ……!」
 異変はすぐに起こった。
 それは一台の白い車であった。高速道路で猛スピードで走ること自体は自然なことなのだが、この車は異常だった。
 並行している他の車やトラックを次々と追い越していくのだ。しかも時速三百キロ以上の速度で、無茶なカーブやコーナリングで前を走る車に迫るものだから、運転手は慌てふためき、クラッシュしていく。
「こんなことがここ一週間立て続けに起こっている……被害は見ての通りさ」
「この白い車はどうしろっていうのよ?」
「捕まえる。できれば車体ごとね」
「でも、私14歳だから免許持っていないんだけど……いくら魔法少女でも走って追いかけるのはちょっと無理なんじゃ?」
「大丈夫、その点は心配ないよ。翠華君」
「はい」
 翠華と呼ばれた青髪の少女がやってくる。少女は高校生らしく年齢や経験的に見ても「先輩」と呼んだ方がいい人なのだが、まだ入社して日が浅いため、会話を数回した程度で、あまり親しくはなっていない。
「今回は、翠華君とコンビでやってもらうよ」
「こ、コンビ……?」
「よろしくお願いします、かなみさん」
「は、はい……」
 丁寧に頭を下げて挨拶する翠華にかなみは戸惑う。
「ウシシシ、嬢ちゃんと組める日を楽しみしてたぜ」
 翠華の肩に乗っている牛をモデルにしたマスコットが独特の笑い方で喋る。
「この子はウシィ、私の専属マスコットなの」
「ウシィね……」
 また変なマスコットが現れたな、と内心思った。
「さて、では今夜から張り込んでもらうよ」
「こ、今夜から……?」
 もう日が沈んでくる時間帯だ。この会社の従業員であるかなみ達は学生であることを配慮して、主に夕方や夜に業務をしている。ある意味部活動に近い感覚かもしれない。
 時折思わぬ残業で徹夜明けしてしまうことを除けばだが、今回がそれだ。
「ちょうど明日は休日だからね、ちょうどいいだろう」
「そういう問題じゃないでしょ……」
「これは業務命令だよ」
 それは言われてはこれ以上文句も言えない。
「わかったわ。それで今回の報酬は?」
「そうだね……今回は二人だから一人五万だ」
「五万って、ちょっとケチってない? もう一声!」
「そうは言っても、決めているのは社長だからね。私を煽っても無駄だよ」
「だったら、社長に会わせてよ!」
「スケジュールがあったらね。それまでは仕事だよ仕事」
「は~い」
 かなみは渋々了承する。


 待ち合わせは高速道路のパーキングエリアだ。ここで例の暴走車の報告が来れば、即座に追うことになっている。
「本当にここでいいの、マニィ?」
「ドギィの予測だ、間違いはない」
「随分信頼しているのね、まあ私も毎回助かっているけど」
「彼の情報と予測は信頼できる。その足で稼いできたものだからな」
「足って、毎回走ってるの?」
「ほぼな。さすがに全部は回れないが、捜査は足でするものとは彼のためにある言葉だと僕は思う」
「それは凄いわね。会ってみたいな……」
「いずれ機会があれば会えるだろう」
「会えるといえば、社長もね……いつになったら、会わせてもらえるんだろう……」
「色々と多忙だからな」
 そこへ携帯電話の着信が鳴る。「青木翠華さん」と表示されている。
「青木さんからだ、もう現れたのかな?」
 そこでメールをチェックする
「『この仕事が終わったら、一緒にお茶しない?』……え、お茶?」
 これはつまり、一度話しあわないかという誘いのメールだった。
 別に断る理由もない。むしろ、先輩と話す機会を向こうから作ってくれたのだからありがたいくらいだ。
「『いいですよ』と……」
 メールを返信した瞬間、すぐさま返事が返ってくる。
「はやッ!? 『お誘いを受けてくれてありがとうございます』……メールなのに、丁寧な書き方ね。やっぱりきちんとした人だからかな……」
「ふむふむ、そちらは大興奮か……」
 マニィはかなみから顔を背けて誰かと通話していた。
「誰と話してるのよ?」
「今からドギィだ」
「今から?」
「そろそろこちらにやってくるそうだ」
「そろそろってどれくらい?」
「三分後だそうだ」
「三分ってすぐじゃない!? そういうことは先に言いなさいよ!」
「うむ、変身バンクは一分だから、今からでも十分は間に合う」
「だからって余裕があるわけじゃないでしょ! とにかく変身よ!」
 かなみは胸元のポケットから会社のロゴ入りコインを取り出し、コイントスする。
「ウィッチワークス!」
 コインは宙を舞い、光のシャワーを降り注がせる。
 その光に包まれ、黄色を基調としたフリフリのコスチュームが身にまとわりつく。
「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上! 世界の平和とボーナスのために悪を撃つわ!」
「間に合ったようだな」
「よおし、来るなら来なさい!」
 カナミは車道を覗き見る。そこで見えたのは高速で走っていく車の中でもひときわ速く、力強く走る白い車だった。
 目の前まで迫ってきたのは一瞬で、対応しようと動いた瞬間にはもう通り過ぎ去っていった。
「って、速い! 速すぎるわよ!」
「うーむ、取り逃がしてしまったか……」
「青木さんになんて報告すれば……」
「素直に逃がしましたといえば言い」
「あんたのそのはっきりと言う言い方は今が恨めしいわよ」
 しかし、報告しないわけにはいかないのでカナミは携帯電話を取り出す。
「えっと……『申し訳ありません青木さん、白い車を取り逃がしてしまいまし……』」
 とここまで打ったところで、着信がきた。
「『私も逃してしまいました、今夜はこれまででしょう』……え? これまで?」
「今日はもう上がり、というわけだ」
「え、これでおしまいなの?」


 その後、翠華と合流して約束通りパーキングエリアの喫茶店で話し合うことになった。
「今日のところは様子見ね。部長もいきなり時速二百キロで高速移動する車を捉えられるとは思っていなかったみたいだから」
「はあ、そういうわけだったんですか……」
「それにいきなりコンビでうまくいくはずがないから、様子見も兼ねてということなの」
「様子見、ですか……」
「ウシシシシ、誰だって初めての人とは緊張するものな!」
「ウシィ、余計なこと言わない」
 肩に乗ったウシィを諌める。
「君も相変わらずだな」
 マニィは呆れたようにウシィを見る。
「ウシシシシ、人間正直に生きるのが一番楽しいのよ! おっと俺は牛だったか! なあ、嬢ちゃんもそう思うだろ?」
「え、私は別に……」
「ウシィ、失礼よ!」
「おう、すまねえすまねえ」
 彼女もマスコットには苦労しているのがそのやりとりで見て取れた。そう思うと妙に親近感が湧いてきた。
「この子、とても思ったことすぐ話すから失礼なこと言うと思うけど、許してね」
「はい……全然気にしてませんから」
「そう、よかった。お互いマスコットには苦労してるわね」
「そうなんですよ、こいつはいちいち余計なこと言って、そのくせ肝心なことは後回しにするんだからいい迷惑よ」
「心外だな、僕だって情報の取捨択一は心得ているつもりだが」
「それが出来ていないって言うのよ。さっきだって車が来る直前に報せてきて対応が遅れたじゃないの」
「あれはちゃんと間に合っただろう」
「ギリギリよ、もうちょっと余裕があれば結果も違ってきたでしょ」
「そういう君だって、直前にメールのチェックしていたじゃないか」
「あれは青木さんからのだったから……」
「あら、私のメールのせいで失敗してしまったの……」
 驚きに目を見張る翠華。それは自分の責任だと思いこんでいるようでかなみは申し訳なくなってきた。
「あ、いえいえ、違いますよ。たまたまメールしてるときに現れただけで、青木さんのせいじゃありません!」
「そうかな? 私がメールをしたばっかりに、失敗したんじゃないかな?」
「そんなことありません! 変身にも間に合いましたから、完璧に私の失敗です!」
「そう、なら……二人の失敗ということにしましょう」
「え……?」
「私達はコンビだから、相方の失敗は自分の失敗でもあるんだから」
「はあ、ありがとうございます……」
 なんとなくわかった理屈で、結局は自分の失敗を取り持ってくれたので翠華に礼を言った。
「ふふ……かなみさんって責任感が強い人だと思っていたけど、その通りだったわ」
「そんなことありませんよ、私って結構いい加減ですよ」
「かなみさんは借金を返すために仕事をしているんでしょ?」
「え、ええ……親がいつの間にか作っちゃってて、それを娘の私に払わせようとしてるんですよ」
「それは大変だったわね」
「はい、おかげでこんな仕事までさせられて身体が持ちませんよ」
「じゃあ、魔法少女になるのは嫌なの?」
「え……?」
 そう訊かれて返事に困った。というのも、最近かなみは小さい頃魔法で少女が変身するアニメを見てそういうものに憧れたときの記憶があって、その憧れが実現していること自体は苦しいわけではない。
 ただ、借金のためという名目でやっているというのがどうにも歯がゆいばかりなのだ。
「別に嫌というわけじゃないわよ。あのコスチュームとか結構可愛い」
「そう、そうよね! 可愛いわよ!」
 いきなり翠華は身を乗り出す。かなみは思わず驚いてたじろぐ。
「あ……」
 ハッと我に返り、翠華は我に返り、元の位置に座る。
「ご、ごめんなさい……つい、興奮してしまって……」
「いえいえ、気にしませんから……」
「そう……」
 気まずい雰囲気になった。翠華は今取り乱したことを反省して何も言わないようにしている。無言になってしまうのはまずい。だからここはかなみが自分から話題を切り出さなければならない。
「あ、あの……青木さんはどうして魔法少女になったんですか?」
 思わず出た言葉がそれだった。言った後に「失礼だったかな?」と思うがもう遅い。声に出して言ってしまったらもう取り返しはつかない。
「どうしてかって……ああ、そっか気になるわよね……あなたの経緯を考えると……」
「す、すみません」
「謝ることはないわ。別に大したことじゃないのよ。ほら、私可愛い服とか大好きだったし、魔法少女に憧れていたから、それで鯖戸部長にスカウトされたってだけなの」
「は、はあ、そうなんですか」
「ウシシシシ!!」
 そこでウシィは大笑いする。
「ウシィ、黙りなさい」
「おうおう、腹がよじれそうだぜウシシシ!」
 一体何がそんなにおかしいのだろう。
「ウシィ!」
 翠華は強く言うと、ようやくウシィは笑いを止める。
「ごめんなさいね、うちのマスコットは失礼なものだから」
「い、いえ……」
 もしかして、マニィはまだマシな方なのではないかと。あんな笑い方されるより、一言多い方がまだいいかもしれないとは思った。あくまで「まだいいかもしれない」だが。
「……ねえ、かなみさん?」
「何ですか?」
「一つお願いがあるんだけど……きいてくれるかしら?」
 気のせいか、翠華の態度は落ち着いた物腰のままなのだが少し前と比べるとそわそわしているような気がする。
「お願い、ですか……? わ、私にできることだったら、なんでもききますよ! あ、でも……お金のことだけは勘弁してくださいね」
 最後の一言はせめてもの冗談だった。
「え、ああそうね……もちろん、そんなことじゃないわ」
 しかし、そんな冗談も通じず翠華は続ける。
「お願いっていうのは、……」
 そこから一呼吸置いてから、極めて真剣な顔つきで言った。
「私のことを名前で呼んでほしいの!」
「な、名前!?」
 あまりにも意外なことだった。
「そう、青木さんじゃなくて、「翠華」って呼んで欲しいの! コンビなんだから!」
 急に強気な口調で言う翠華にかなみは圧倒される。
「で、でも、私と青木さんは年の差もありますし、青木さんって高校生でしょ?」
「そんなこと関係ないわよ、私がいいって言ってるんだから!」
「そ、そうですか……?」
「それともう一つ!」
「な、なんですか?」
「敬語もできれば、やめてほしいなって……」
「え、ええ!?」
「コンビなんだし、歳なんて関係なく立場は対等にしたいのよ!」
「た、対等ですか!?」
「そう、お願い!」
 両手を合わせてそこまで言われると断りづらい。翠華にとってはこれは「一生のお願い」といってもいいものだと感じ取れた。
 そして、これは決してできないお願いではなかった。何しろお金が絡まないお願いなのだから。
「わ、わかりました……あ、いえ、わかったわ、翠華さん」
 うっかり、敬語で了承してしまったがすぐに訂正する。さすがにいきなりだったので、まだぎこちない。
「ありがとう、かなみさん」
 だが、翠華にとってそれが満足だったらしい。
「それじゃあ、私はこれでね。今夜はゆっくり休みましょう」
「は、はい……!」
 そう言って翠華は伝票をもって店を出る。


「ウシシシシ、中々の急接近だったじゃねえか」
「え、ええ……そうね!」
 店を出たところで、翠華は壁に手をついた。自分の身体を支えるように。
「結構頑張ったじゃないか、いい先輩ヅラだったぜ、ウシシシシ!」
「そうよ、この日のために何度シミュレーションしてきたと思ってるのよ!」
 かなみと接してきたときとは大違いの荒い息遣いに、力強いガッツポーズ。もしかなみが見ていたら、別人なんじゃないかと戸惑っているところだ。
「これで、私はかなみさんから名前で呼んでもらえる! かなみさん、翠華さん、かなみさん、翠華さん、かなみさん、翠華さん、かなみ、翠華、かなみ、翠華……」
 一人芝居で何度も互いの名前を呼ぶ。そのうち、呼び捨てになっていたが気にしなかった。むしろそうなることが理想であった。
「ウシシシシ、浮かれるのも無理ねえな。理想の娘がやってきて、しかもコンビで仕事なんて、美味しすぎるシチュエーションだもんな」
「ええ、そうよ。この日を何度夢見たことか……結城かなみ、まさに私の理想の魔法少女よ! 不幸で泥まみれになって、それでもめげずに頑張る。でも報われない。思わず守ってあげたくなる。そんな子が、ああ、理想の少女だったのよ」
「ウシシシシ、彼女もまさかお前から好意を寄せられてるなんて夢にも思ってもいないだろうな」
「ええ、あなたがいつ暴露するんじゃないかとヒヤヒヤしたけどね」
「ウシシシシ、俺は嘘は言わねえが秘密は作る主義なんでな。それに翠華のおしおきは喰らいたくねえものな!」
「当たり前よ、言ったら生まれたことを後悔させてやるわ」
「ウシシシシ、こえぇこえぇ」
 ウシィはそれ以後喋らなくなった。人通りの多い場所に出たからだ。
「結城かなみは理想の魔法少女よ。借金という不幸を背負って過酷な運命と立ち向かう少女……ああ、想像しただけでも興奮が止まらないわ……魔法少女になったのも、入社していれば必ず理想の娘が魔法少女になって来てくれると鯖戸が言ってくれたから……そして私も確信していた! それが現実になってくれたとき、どんなに嬉しかったか……! そして、あの娘とコンビを組めたんだから、感無量よ……あとは少しでもあの娘に気が引ければ……」
 翠華はグッと拳を握り締める。
「言うことはないわ!」


 翌日、かなみは学校が終わってからすぐに前日と同じパーキングエリアに行った。
 そこで翠華と一緒に白い車が現れるのを待った。夜も深くなっていくうちに白い車が現れた。
「かなみさん、行くわよ!」
「はい!」
「「マジカルワークス!」」
 二人の声が重なり合い、辺りは金色と青色の光で満たされる。二人の変身が終わったときには、白い車がもう目前に迫っていた。
「神殺砲!」
 ステッキを取り出し、すぐさま魔法弾を放つ。
 しかし、白い車はハンドルをきって、急転してかわす。
「なッ!?」
 これにはカナミは驚くことしかできなかった。
「美安びあん!」
 その隙に、スイカはレイピアを出す。
「スティング!」
 突きが光となり、レーザーのように白い車に向かって放たれる。
「――ッ!?」
 それでも、白い車のスピードはスイカの予想を越えて、レーザーをかわすにいたった。
 そして、白い車は呆然とする二人の横を通り過ぎ去っていった。
「ああ、逃がした……!」
「仕方ないわ……スピードだけではなく、テクニックも備えていたんだから」
「あんなの、いくら魔法少女でも捕まえられませんよ」
「そうね。どうしたものか……」
「ウシシシシ、出し惜しみは無しにしようぜ、手はあるだろ?」
「ウシィ、余計なことを言わないで」
「手はあるって……? 本当なんですか?」
 そこにカナミは反応する。
「え、ええ、一応あるけど、あれはちょ、ちょっと、ね……」
 スイカは珍しく口調がとたどたどしくなっている。
「手があるならやりましょうよ! じゃないと、ボーナスがもらえませんよ!」
 カナミは強引にスイカに迫る。
 カナミにとっては借金返済がかかっているだけに必死になる。
「あ、ええ、そうね」
 しかし、そんなことスイカには関係無かった。少しでも長くカナミとコンビを組んでいたいというのが本音なのだから。
「ウシシシシ、そんなこと知ったこっちゃないと言ってやれよ!」
「あ……」
 ウシィにそう言われたことで、カナミは気づく。
「そうでした。ボーナスがもらえないと困るのは私だけですから、スイカさんには関係ありませんよね」
「え、ああ、そういうわけじゃなくて」
「ううん、すみません。スイカさんがやりたくないことを無理にやらせてまでボーナスをもらおうだなんて思っていません」
「かなみさん……」
 このとき、スイカは心の中でこう思っていた。
(なんて正直で素直な娘なんだろう……その上、借金にまみれて……! なんとかしてあげたい、私がなんとかしてあげたい!)
 ここでスイカは穏やかな笑みを浮かべたまま心中で激しく葛藤した。
(ここで奥の手を使って彼女からの好感度を上げておくのもいいけど、……ああ、でも、でも、毎晩こうしてカナミさんと一緒に変身する楽しみがなくなってしまうのは……!!)
「ウシシシシ、悩ましき少女の苦悩。酒の肴には最適だぜ」
「?」
 ウシィの言動がまったくわからず、カナミは首を傾げる。
「決めた!」
「え?」
 いきなりのスイカの宣言にカナミは驚く。
「明日、私は勝負に出るわ!」
「しょ、勝負ですか?」
「カナミさん、楽しみにしていてね」
 スイカの満面の笑顔にカナミは何故か寒気が走った。
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