まほカン

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第9話 発掘! 夢と浪漫が魔法少女の生きがい!! (Bパート)

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 山のふもとから登って、どこまでも続く急傾斜の林道を進んでいく。これだけでもう一時間近くも費やしているような気がする。というのも風景に変化が無く、どこまで続いてどこまで終わるのか、その不安の中進んでいくと時間が長く感じられる。
「みあちゃん、何か感じない?」
「そんなこと言われても無理よ。あんたも探しなさいよ」
「んー、私そういうのは苦手かも」
「まったくいつものバカ魔力がこーいうときには役にたたないんだから」
「バカ魔力って言い方もあんまりだと思うんだけど」
「じゃあ、バカ大砲?」
「バカはそのままつけるんだね」
「だって、あんたがバカだから」
「ああ、なるほどね。って、バカにしないでよ!」
「はいはい、そういうところよ」
「俺もバカにして欲しいもんだぜぇ」
 肩に乗っている馬のマスコット・ホミィが息を荒げる。
「あんたは引っ込んでなさい、この駄馬ァッ!」
 みあは払い落とす。
「おう、たまらんぜ」
「ああいうの見てると、あんたはまだマシなんじゃないかと思うわ」
「失礼な物言いだが、まあ同意するよ」
 かなみとマニィは前のやりとりを見ながら、しみじみと言う。
「でも、なんであなたまでついてくるのよ?」
 かなみは恨めしそうにスイスイと浮いていて楽そうな千歳に言う。
「あなたが髪の所有者だからよ。みあちゃんと相性がいいっていうのもあるけど」
 そう言われるとポケットにある髪をどうしても捨てたくなってきた。
 ただ、捨てるとどんな呪いが降りかかるかわからないため、踏みとどまるしか無かった。
――いっそのこと、みあちゃんにあげようかな?
 そんなことも考えたが、絶対にみあは受け取らないだろうなと思って止めた。
「ところでみあちゃん?」
「何かしら?」
「お父さんとはどうなの?」
「親父?」
「何度か家に行ったけど、まだ会ったことないじゃない?」
「それは親父が帰ってくる日にあんたをこさせてないだけよ」
「ええ、そうだったの? 会いたかったんだけどな、みあちゃんのお父さん」
「なんでそんなにあいたいの?」
「いつもみあちゃんにお世話になってるってお礼言おうと思います」
「それって、親父が言う側じゃないの?」
「いいじゃないの、私はみあちゃんにお世話になりっぱなしなんだし」
「まあ、確かにそうよね。一度くらい私がお世話になりたいわよ」
「じゃあ、肩たたき券とかどう?」
「そんなもんもらって嬉しいわけ無いでしょ。肩がこるような歳でもないし」
「ん……それじゃあ、一緒にお風呂入ったら髪を洗ってあげるわ」
「それもパス。お金をかけないとこがいかにもあんたらしいわ」
「バレたか。みあちゃん鋭いよ、まさかこれが感知能力?」
「普通気づくわよ。第一そういったお世話ならね」
 みあはニヤリと悪戯心に満ちた笑顔を浮かべる。
「――私の言うことなんでもきく券とか欲しいわね」
「な、なんでも……!?」
 その『なんでも』という言葉にどれほどの意味が込められているのか、想像するだけでもかなみは恐怖で震え上がる。
「みあちゃん、ごめん。それは勘弁してほしいわ」
「じゃあ、お世話のお礼はどうするの?」
「お、お礼は……また今度考えましょう、アハハハ」
「そう、期待してるわよ」
「みあちゃん、なんだか社長に似てきたんじゃない?」
「え、そう?」
「なんかその……強引なトコとか、怖い発想とか……」
「私なんかあの悪魔の足元に及ばないと思うけど」
「膝頭ぐらいはあると思う」
「……そういうこと言うとちょっと落ち込むんだけど」
「ごめん、社長とみあちゃんってほら結構似てるから母娘なんじゃないかなって思っちゃってさ」
「母娘……? 冗談じゃないわよ、あんなのが母親だったら肩がこるどころの話じゃないわよ」
「まあ、それは確かにそうだけど」
「だいたい、うちの親父は死んだ母さん一筋だったわ……、再婚は……まあありえないことはないと思うけど」
「その相手が社長だったとしたら?」
「は、はあ……!?」
 みあは素っ頓狂な声を上げる。だが、次第に落ち着き、考えこむようになる。かなみとしてはほんの冗談のつもりで言ったのであって、そこまで本気にされるとは思ってみなかったのである。
「そんなわけないわよ……あたしが親父と社長の隠し子なんてありえないでしょ」
「そこまでは言ってないんだけど……」
「言ってるようなものじゃない! まあ、でもないってことはないか……」
「え!? ちょ、ちょっと、どういうことなの?」
 かなみは興味を示す。あるみについて何も知らない謎だらけの存在だっただけにそんな奇想天外のエピソードがあってもおかしくなかった。
 それだけにそれが真実なのか、気になってくる。
「だって、親父と社長って昔からの知り合いみたいだからね」
「昔ってどのくらい?」
「さあ、わからないわよ。一年や二年じゃないわよ」
「そういえば、みあちゃんっていつから魔法少女なの?」
「うーん、ちょうど一年くらいかしら……初めてあいつと会ったのも親父の会食からだったし。言われてみればあの時、愛人オーラを放っていたような気もしなくはないわね」
「あ、愛人オーラって、なにそれ!?」
「娘にそこはかとなく自分は新しい母親だとアピールする感じよ。ほら、親父の方も娘に遠慮してそういうこと中々言えないじゃない、そういう感じよ」
「ほらって言われてもわからないんだけど……でも、結局社長とみあちゃんの再婚してないんでしょ?」
「うん、そうなのよね。だから社長は親父の愛人なのかもしれないわ」
「あーなるほど」
「まあ、全部推測の域は出ないけどね。ちゃんと調査して真相を突き止めないといけないわ」
「ちょ、調査?」
「あんたにも協力してもらうわよ、たきつけた責任としてね」
「わ、私も!? 協力ってどうすればいいの?」
「まあ、社長とかにそこはかとなく聞いてみるとか?」
 かなみはブンブンと首を振る。
「そんな危険な危ないことできるわけないでしょ!」
「ふうん、上手くやったら調査料でもあげようかと思ったんだけど……」
「え、調査料?」
「だって、これって依頼ってことになるわけじゃない? だったら、ちゃんと報酬を用意するのが筋すじってもんでしょ」
「みあちゃん! その依頼喜んで引き受けるわ!」
 かなみは勢い良くグイッとみあの手を取る。
 そのあまりの勢いの良さとギラつく目にみあは期待というよりも不安がよぎった。
「……単純というかチョロいというか……まあ、利用しやすいけどね」
 みあはひっそりと呟いた。それは心配と言ってもよかった。


「二人って仲が良いわよね」
 あるみは不意に呟いた。
「ふ、二人?」
 社長の気まぐれか。と翠華は頭ではわかっている。
 わかってはいても、余計なことを考えてしまう。
――二人って誰と誰?
 かなみとみあ。普通に考えてそうだろう。
 かなみと翠華。いや、そんなはずはない。
 かなみとみあ。そう思ったことはない。
 あるみと翠華。それにしては他人事のような気がする。
 かなみとみあ。やっぱりそうだろう、認めたくないけど。
「かなみさんとみあちゃんが、ですか?」
「他に誰と誰がいるってのよ」
 やっぱりそうだった。認めたくないけどやっぱりそうだった。
「で、あんたはどうなのよ?」
「私、ですか?」
「あの二人が仲が良くなることに関して、どう思ってるのよ?」
「ど、どうって……べ、別に、い、いいことなんじゃないですか」
「まあ、そうよね。仲が良いってことは仕事でも組ませやすいし、戦いでも連携とりやすいから会社としてはいいことづくめなのよね。
――で、あなたは?」
「え?」
「あなたは、それをいいことだと本当に思ってるわけ?」
「わ、私は……!」
「私は前に応援するって言ったでしょ」
「は、はい……」
「みあちゃんにかなみちゃんをとられてもいいわけ?」
「と、とるってそんな!?」
「いいわけ?」
 あるみは間近まで翠華に迫る。
 その笑顔がはりついた顔はある種の迫力を帯びており、翠華は本音を引き出される。
「……か、かなみさんと仲良くなりたいです」
「はい、よくないわけね」
「でも、かなみさんとみあちゃんが仲が良いのはいいことだって思います」
「友達ならね」
「う……!」
「それならあなただって十分かなみちゃんと仲良いと思うけどね」
「は、はい……」
「でも、友達じゃ満足出来ないのよね?」
「はい」
 今度は即答だった。徐々にあるみのペースにはめられているようだ。
「みあちゃんに嫉妬しってるでしょ?」
「……それはわかりません」
「じゃあ、かなみちゃんともっと親密になりたいでしょ?」
 翠華は首を縦に振る。
「よしよし、それだったら私がチャンスをあげるわ」
「……チャンス?」
「今夜、一緒に温泉に入るのよ!?」
「お、おお、温泉ッ!?」
 翠華は顔を真赤にして、湯に入っていないのに湯気を勢い良く上げる。
「だ、だだ、だだだ、ダメですよ、社長!? そ、そそそんな、おおおおんせんなんて、とてもとてもとてもとてもできません!」
「だって、あの二人はもう一緒にお風呂に入る仲なのよ。対抗するならそれぐらいしないと無理よ」
「え、ええぇ!? でもでもでもでもでもッ! やっぱりダメダメですよ! 二人で一緒に温泉に入るなんてッ!!」
「大丈夫よ、旅館の温泉は混浴だから」
「そそそ、そういう問題じゃありません!」
「じゃあ、濁り湯がよかった?」
「ですから、そういう問題じゃありません!」
「もしかして、露天風呂が嫌だった?」
「そういう問題でもありません!」
「じゃあ、どういう問題なのよ?」
「私とかなみさんは女の子です!」
「ああ、そこかーいいんじゃない。女の子同士がつきあっても」
「え?」
「問題は当人の気持ちなんだからね」
「は、はあ……」
「とりあえず、今は『仕事が出来て頼りになる』先輩か『一緒に旅行して楽しい』友達か……どっちがいいか考えなさい」
「先輩か、友達か……」
「まずはそこからよ。何事にもステップがあるのよ、恋人までの階段を確実にあがるためにはね」
「か、考えておきます」
「――ちなみに私はそれを三段ぐらい飛ばすのが大好きなんだけどね」
 あるみの最後の一言で翠華は不安が一気に膨れ上がり、立ち尽くすのであった。


「あんた、ホントどこにあるか心当たりないの!?」
 みあは怒声を千歳にぶちまける。
「さあね、何しろ随分昔のことだから」
「昔のことだからって、そんなに大切だったら憶えてるはずでしょ」
「これだから、十年しか生きていないおこちゃまは困るのよね。あと五十年生きていれば嫌でもわかるわよ」
「わかんないわよ。年取ってモーロクなんてしたくないし」
「こーんの、言うじゃないのおこちゃまが!」
 千歳は笑いながらこめかみがピキピキ青筋を立てていく。側にいるかなみは気で気でいられない。
「まあまあ、ふたりともそのぐらいにしてよ」
「かなみは黙ってなさい。こいつがちゃんと思い出したら私達はこんな苦労しなくてもすむのよ!」
「そこまで言われたら、たとえ思い出しても素直にここほれほれワンワンなんて出来ないわね」
「このへそ曲がりが! いっそ犬になってしまいなさいよ!」
「ハァハァ……俺ならいつでもお嬢の犬になる準備は出来てるぜ」
「あんたはややこしなくなるから黙ってなさい」
 かなみはみあの肩に乗っているホミィを引っ張り上げる。
「はあ、なんでこんな貧乏くじ引かされるのよ」
 ケンカの仲裁なんて割に合わないことをやる羽目になって不満をもらす。
「そりゃそういう星のしたに生まれたからよ」
「そうね、満天の借金星しゃっきんぼしのもとに生まれたに違いないわ」
 千歳とみあが揃って、言いたい放題言ってくる。そういう時だけは息が揃う。
「原因はあんた達よぉ!」
 かなみは怒りをぶちまける。
「う!?」
 さすがにみあもこれには一歩引く。
「あははは、おこっちゃった」
 千歳は笑って受け流す。
「もう、こうなったら何が何でもお宝を見つけてやるわ!!」
 かなみはどかどかと山道を進んでいく。
「あ、ちょ、ちょっと、かなみ~」
 みあは慌てて追いかける。
「うんうん、前向きでいいわね」
 千歳はしみじみと言いながらゆっくりと追う。
「これってさ、一日歩きまわっても見つけられないんじゃないの?」
 みあはぼやく。
「見つけられなかったら、私の借金生活が続くだけよ!」
「なんだ、大したことないじゃない」
「む!」
 かなみは激しく睨みつける。
「あ……!」
 その迫力におされてみあは黙りこむ。
「みあちゃんが本気を出せばすぐ見つかるんじゃないの・」
「ほ、本気って? どうやって出せばいいのさ?」
「千歳さん! どうすればいいんですか?」
「え、そこで私にふるの?」
「だって、感知能力が高いのがみあちゃんだって言ったの、千歳さんじゃない!?」
「あ~そうだったわね」
 面倒に言う千歳。
「しょうがないわね……じゃ、まずは変身してみなよ」
「なんで変身なのよ?」
「魔力が充実している状態なら感知範囲も拡大できるからよ」
「なるほどね、それでどのくらい感知できるの?」
「それはやってみないとわからないわよ」
「まったく、いい加減なのね」
「だって、こういうことは資質がモノをいうからね。ま、私のピークなら関東一帯は軽いわよ」
「じゃあ、さっさとそれをやりなさいよ。そうしたら役立たずの汚名は返上してあげるわ」
「あんたに返上してもらわなくてもいいわよ。第一幽霊の烙印なんて消そうと思っても消せるものじゃないし」
「言ってる意味がわからないんだけど」
「死んだ人間は生き返らないってことよ」
「――!」
「わかったら、さっさと変身しなって」
「わ、わかったわよ!」
 みあは慌ててコインを取り出す。
 その仕草に違和感をかなみは感じた。
――死んだ人間は生き返らない
 千歳に言われてからみあは嫌なことを思い出したようであった。
「マジカルワーク!」
 そんなことを考えているうちにみあはコインを頭上にあげ、おなじみの変身の言葉を唱える。
「勇気と遊戯の勇士、魔法少女ミア登場!」
 おなじみの口上と共に、赤いフリフリの衣装をまとった魔法少女ミアが姿を現す。
「さあ、変身したわよ。次はどうするの?」
「魔法を使ってみなさい」
「魔法ってどんなのよ?」
「魔法っていうのはイメージだからね。なんか広い範囲を探す魔法ってのを自分でイメージするのよ」
「いい加減ねえ」
「それだけ魔法はあいまいで自由なのよ」
「自由ねえ……しようがない、やってみるか!」
 ミアは手から「G」のロゴの入ったヨーヨーを魔法で出す。
 その数は十個。指一本につき一つである。
「ミアちゃん、これは?」
「説明はあとよ。とりあえずやってみるから!」
 ミアは十のヨーヨーを垂らしながら水平に両手を広げる。
「なるほど、いい発想ね」
「なんなのよ、あれ?」
「ダウジングよ。あの十個のヨーヨーはそれぞれ十の方角を示してるのよ」
「ええ、そういうことなの?」
「あれはあの子だから出来る魔法よ。かなみ、あなたにはあなたの魔法があるわ」
「私の?」
「ま、それはまたの機会にしましょう。ほら、見つかったみたいよ」
「え!?」
 ミアの左手の中指に吊り下げられたヨーヨーが小さく円を描いた回り出す。
「こっちの方向にあるみたいね」
「凄いみあちゃん! 本当にわかったの!?」
「まだわからないわよ、こんなの初めてなんだから」
「こっちの方向だと真東になるわね」
「山道だとまっすぐ進めないから。カナミ、あなたも変身して向かった方がいいわね」
「ええ、そうね」
 一目見渡してもそっちの方角には道らしい道は無く、まともな人間がまっすぐ通れるような獣道といった具合なのがわかる。まともな人間なら。
「というわけで変身シーンは以下省略」
 マニィの一言でカナミの変身は終わってミアの指し示した方角へ進む。起伏の激しい山道を魔法少女となって向上した身体能力によって難なく進んでいく。
「本当にこっちにあるの?」
「さあね、初めてだって言ったでしょ」
 十分と経たないうちに山を一つ超えたところで違和感を感じた。
「なんかイヤな予感がする」
「かなみがそう言うとろくなことにならないわね」
「ミアちゃん、なんでそういうこというわけ?」
「だって自分で貧乏くじって言ってたじゃないの」
「ああ、そうだったわね」
 自分で言ってしまったことだと納得すると同時にむなしくなってしまう。
 その直後、ガタンと大きな音がなる。
「か、雷!?」
「ミアちゃん、雷が怖いの?」
「こ、こここ、怖いわけ無いじゃない! た、ただ驚いただけよ」
「でも、あれは大きな音よね。雷じゃないにしてもなんだか気になるわね」
「そうよ、そうそう!」
 ミアは張り切って前を走る。
 張り切っているところへ木が倒れこんでくる。
「ええッ!?」
「ミアちゃん、危ない!」
 カナミは魔法弾を撃って、木の倒れる方向をそらす。
「助かったわ……もう危ないじゃないの!」
「木こりでもいるのかしら?」
「もう! それならちゃんと人見て切り倒して欲しいもんだわ!」
「キル……?」
「キルじゃなくて切るよ、物騒なこと口にしないで!!」
「キルキル……!」
「何言ってるの!? 日本語大丈夫なの!?」
「ミアちゃん、なんだか様子が変よ」
「頭がちょっとイッてるだけみたいよ?」
「ミアちゃんの発言も物騒だよ」
「ああ、大丈夫よ。ちゃんと自主規制するみたいだから」
「そういう問題じゃないと思うんだけど」
「カナミの発言も大分規制してるほうだけど」
「あんたは黙ってなさい」
「キルキルキルキルキルキルキルキル……!」
 片言でひたすら同じことをつぶやく声の主が木の陰から姿を現す。
「はあッ!?」
 現れたのは三メートル以上もある巨漢で、太い両腕にはその太さに見合った二本のマサカリを持っていた。
「な、なんなの、こいつ!?」
「木こりの怪物だわ!」
「こ、これはネガサイドの怪人だわ!」
「いきなり決めつけるのはよくないわ」
「あんなのそんなの他にいるわけないでしょ!」
 ミアは早速ヨーヨーを構える。
「クラッシュ・スピン!」
 高速回転するヨーヨーをもの凄い勢いで木こりへと襲いかかる。
 だが、木こりはヨーヨーをマサカリで切り払う。
「ああ、G・ヨーヨーが!?」
「す、すごい」
「キルキルキルキルキルキルキルキル……!」
 さらに木こりは一歩ずつゆっくり確実に迫ってくる。その無骨さと不気味さが恐怖の相乗効果となった。
「か、カナミ、こうなったら同時に仕掛けるわよ!」
「え、えぇ!」
 カナミはステッキを構える。
「魔法弾!」
 カナミが何十発もの魔法弾を撃ち出す。
「ビッグ・ワインダー!」
 その隙に左右からヨーヨーの二連撃が襲いかかる
 だが、木こりは二つのマサカリに旋風のごとく振り回して、魔法弾の全てを切り払い、二つのヨーヨーまでも叩き落としてしまう。
「全部落とされた!?」
「にぶそうなクセして、ちょこざいね!」
「キルキルキルキルキルキルキルキル……!」
 木こりは相変わらず同じ言葉を延々と呟きながら、カナミ達の方へ一歩ずつ確実に近づいてくる。
 そのどっしりとした一歩、どんどんと詰まってくる距離に、カナミ達は恐怖と脅威を覚える。
「どーする、カナミ?」
「こうなったら、神殺砲かんさいほうを試すしか無いわ」
「ああ、あれね。でも、あれはチャージに時間がかかるでしょ」
「だから、ミアちゃん時間稼ぎお願い!」
「しっかたないわね、絶対に仕留めなさいよ!」
「ええ!」
「そいじゃいくわよ!」
 ミアはヨーヨーを投げつける。
 木こりはマサカリでそのヨーヨーを苦もなく切り裂く。
 それに続いてミアは十個のヨーヨーを右から、左から、上から投げつける。しかし、木こりはその十個のヨーヨーをものともせず、全てを切って落とす。
「それぐらいで引き下がれるかってのよ!」
 ミアはめげずに特大のヨーヨーを木こりの頭上へ落とす。
「メテオホイール!!」
 唸る回転音を上げて落下する。

ガキン!!

 木こりは二つのマサカリを力強く振り上げ、激突させる。
 砕けたのはヨーヨーの方だった。
「ちぇ、とっておきだったのに!」
 こうなってしまってはカナミの神殺砲かんさいほう頼みだ。
「神殺砲かんさいほう!」
 カナミのステッキが砲台へと変化する。
 その砲台に莫大な魔力が注がれ、砲弾となる。
「ボーナスキャノン!」
 そして発射される。

ドォォォン!!

 魔力の洪水が木こりを飲み込む。
「やった!」
 ミアが飛び上がらんばかりに喜んだ。

ドスン!

 だがその喜びも束の間、マサカリの柄がカナミの横腹へと飛び込んでくる。
「ごふッ!?」
 カナミの膝とマサカリが地面へ同時に落ちる。
「な、なんで……?」
「あの木こり、とっさにマサカリを投げ込んできたんだ。苦し紛れの反撃に過ぎないが、刃の方が当たらなかっただけでも幸いだ」
「そ、そうね……」
 もし、これが腹に当たったのが刃の方だったら、胴体が真っ二つになっていただろう。それに比べたら大したことはない。とは思っていても痛くて苦しいことに変わりなかった。
「まったくついてるんだか、ついてないんだかわからないわね」
 ミアは呆れたように苦笑する。
「だが、安心するのはまだ早いぜ」
「はぁ!?」
 ミアはホミィの視線の先に目を向ける。
 その先にボロボロになりながらも立っている木こりの姿があった。その右腕にはもうひとつのマサカリをしっかり持っている。
「ああ、もうしぶといわね!」
 ミアはヨーヨーを持ち出す。
 カナミはさっきの一撃で立つのも難しい。そうなると、自分でこの木こりを倒すしか無い。
「あたしがやるわ!」
「いいの? さっきことごとく防がれたのよ」
「う!」
 千歳の忠告にミアは踏みとどまる。
「い、今はダメージ受けてるから通じるはずよ!」
「だからって不用意に近づいたらマサカリの餌食になるだけよ」
「そ、それもそうね……だったらどうしろってのよ? カナミはこのザマだし、私がなんとかするしかないでしょ!」
「血気盛んね。若さかしら?」
「何わけわかんないこと言ってんの?」
「まあいいわ、助言ぐらいはしてあげる」
「こんな時でも上から目線なのね」
「そんなこといってる場合じゃないでしょ」
「じゃあ、ちょっとぐらいならアドバイスされてもいいわよ」
「自分が上に立ちたいだけじゃないの。でもそういうの嫌いじゃないわ」
 千歳は満足気に笑う。
「私が見たところ、注意すべきはあのマサカリだけ。まあ、思ったより頑丈だったのは計算外だけど、この際それは置いておくわ。
とにかくあいつの動きは鈍いし、他に特筆すべき特徴もない。ただ、攻撃への迎撃だけは一級品。それもマサカリだけでさばいている。今はそのマサカリさえも一本になっちゃってるから半減していると言ってもいいわ」
「つまり、どういうことよ?」
「あのマサカリさえ封じちゃえば楽勝ってことよ」
「封じれば楽勝ね。で、どうやるわけ?」
「それは自分で考えなさい」
「肝心なことは教えないのね、役立たずもいいとこね」
「助言っていうのはそういうものだからね。役立てるようにするもしないも助言を受けた人次第」
「つまり、これだけでなんとかしてみせろって言いたいわけ?」
「なんとかできないの?」
「なんとかできるわよ!」
 ミアは飛び込む。
「お手並み拝見といこうかしら」
 千歳は楽しげに呟く。
「とおりゃッ!」
 ミアは十個のヨーヨーを再び一斉に投げつける。
 だが、それではさっきと同じように十個のヨーヨーは、木こりのマサカリの餌食になってしまうことが容易に予想がつく。
「ところがどっこい!」
 ミアは右手だけ引く。すると右手にあった五個のヨーヨーが垂直に上がる。
 左手にある五個のヨーヨーだけが木こりへとまっすぐ向かっていく。
 木こりはまっすぐに飛んできた五個のヨーヨーだけ切り落とす。
「もう一回ッ!」
 今度は右手の五個のヨーヨーが木こりへと追いかける。
「スネイピングウォーク!」
 しかし五個のヨーヨーは曲線を描きながら、廻り回って木こりの腕へと絡みつく。
「シュート!」
 最後に親指のヨーヨーが勢い良くマサカリに当たり、はじかれる。
「これで最後よ! メテオフォール!」
 左手から巨大なヨーヨーを出現させ、木こりの頭上へと落下させる。
 木こりは今度は抵抗らしい抵抗もできずに巨大なヨーヨーの落下に押し潰される。
「やりぃッ!」
「お見事。最初からあのマサカリをとることが目的だったんだから」
「まあ、敵が単純だからなんとかなったけどね」
「そのとおりよ、それがわかっていれば上出来よ」
 千歳の指摘にミアは不満そうに見返す。
「やっぱり上から目線なのね」
「悔しかったら、早く大きくなりなさい」
 千歳は不敵に返す。
「あの二人って案外ウマがあってるかもしれないわね」
「そう思ってるのなら、君は幸せかもね」
「カナミ、何グズグズしてるの!」
 ミアの不満の矛先がカナミに向けられる。
「ご、ごめん……っていいうか、ミアちゃん、私怪我人なんだからちょっとはいたわってよ……」


「で、あれは結局なんだったの?」
 千歳が訊く。
「私にわかるわけないでしょ」
「やっぱり、ネガサイドの怪物だったのかしら?」
「他に何が考えられるってのよ」
「通りすがりの木こりさん?」
 みあはため息をつく。
「あんた、本当におめでたいわね。借金で頭が回らなくなるって悲惨なことなのね」
「私はこれでもまとものつもりなんだけど……」
「本当にまともならそんなこと言わない」
「みあちゃん、厳しい」
「私は本当のこと言ってるだけだから」
 みあはスコップを持ち出して、その足元を掘っていく。
「さっさと掘り出すわよ!」
 ここはみあがダウジングでここだと定めた地点。
 さっそく千歳の宝が無いか、持っていたリュックからスコップを取り出して掘り出すことにしたのだ。
「うう、傷口に響く……はやく温泉にはいりたーい」
「年寄り臭いこと言ってんじゃないわよ! ほらさっさとやる!」
「ねえ、本当にここであってるのー?」
「そんなの知らないわよ。あってるかどうかとにかく掘りまくるのよ」
「みあちゃん、元気ね。やっぱり若さかしら?」
「だから年寄り臭い言ってんじゃないわよ!」
 みあは怒声とともにスコップを地面に突き刺す。
「お? 何かあたったわ」
「何かって何?」
「知らないわよ、さあ掘って掘って!」
 その後、二人で勢い良く掘り起こした。
 みあの背丈がすっぽり入るぐらい掘ると何かに当たった。
「あ、何か箱があるわね」
「箱?」
「かなみ、引き上げなさい。あたしはもうクタクタよ」
「はいはい」
 かなみは箱を掘り出して、穴の上へ引き上げる。
 手負いの上に、これだけ掘ってもまだ体力を残しているかなみにみあは頭が下がると正直思った。
(どこからあんな底力をひねり出してるのかしら、バ怪力?)
「まあ、お前も大きくなればあれぐらいの力が出るかもな」
「お前はすっこんでろ!」
 みあはホミィを蹴っ飛ばす。
「ハァハァ……」
 疲れているところにキックをかますものだから一気に息を荒げる。
「あたしだって、すぐに大きくなるんだから……!」
 密かにみあは謎の敗北感を募らせるのであった。
「みあちゃん、早く開けようよ!」
「うるさいわね! 開けてもいいわよ、どうせお宝なんだから!」
「すっごい自信ね! でも、お宝なら楽しみね!」
 自信というより投げやりな状態になっているだけなのだが。何にせよ、これだけ苦労してお宝じゃなかったらそれはそれで苛立たしいとみあは思った。
「よーし、それじゃ御開帳ぉ!」
 かなみは力任せに箱の蓋を開ける。
「え、これは……!」
 かなみは中身を見て唖然としました。
「なになに、なにが入ってたの?」
 みあはそっと中身を見た。
「こーれがお宝よ、家宝よ! よく見つけてくれたわね!」
 千歳は大喜びで飛び回る。
「こ、これがおたから……」
 そこにあったのは、鮮やかな緑色の髪。ちょうどかなみが持ってきた千歳の髪と同じものだった。
「つまり、これってその……?」
「そう! 何をかくそう、私は――ツインテールなのでした、アハハハハ!」
 二つの髪が頭にくっついてそれは見事な緑髪のツインテールになったのであった。
 大喜びして小躍りまでして飛び回る千歳に対して、かなみとみあはブルブルと震える。
「遺髪を二つを残していたなんて――!」
「それを家宝だなんて言って私達に探させて――!」
 二人はまったく同じ怒りを胸に抱いた。
「ふっざけんな、こんちくしょーッ!!」
 二人の魂の叫びが山びこで何度も響いていく。
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