まほカン

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第36話 戦乱! 渦中に放たれる一矢は少女を貫く (Bパート)

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 かなみと涼美は電車を降りてから、徒歩でB地点に向かっていった。
「……封鎖結界」
 ふと涼美は呟く。
「それってこの違和感のこと?」
 かなみも感じていた。
 駅を降りてからはびこる空気は、重く息苦しいものに変わっていることに。
「ええぇ……普通の人にはただここにいたくない気にさせられるだけの魔法よぉ」
「それでこの辺りに人がいないわけね」
「そういうことぉ、ネガサイドだってぇ、無闇矢鱈に人を殺すわけじゃないのよぉ」
「でも、だったらどうしてこんな破壊をするの?」
「それはぁ、わからない」
 涼美は微笑んで言う。
「敵の狙いがわかっていたらぁ、二手に別れてぇいないでしょう」
「それもそうね」
 そんな会話をしているうちに二人は来葉に教えてもらったB地点である公園の噴水場につく。
「この噴水ねぇ」
「こんなところに爆弾を落とすなんて」
 周りを見るとビルが立ち並んでいて、もし来葉の言う強力な爆弾が爆発しようものなら残らず吹き飛ばされて焼け野原になるのだろう。
 かなみは一度だけその光景を目にしている。
 ヘヴルが仕掛けてきた巨大ロボットの攻撃で高層ビルが次々と薙ぎ倒されたときのことだ。
 あれは思い出してみても悪魔としか言いようがないものだったが、今またそれが再現されようとしている。それだけはなんとしてでも阻止しなければならない。かなみは決意を込めて空を見上げる。
「――え?」
 そのとき、かなみは空から信じられない物が降ってくるのを目の当たりにした。

――それは怪人のスコールであった。

 空を埋め尽くさんばかりの怪人が黒い雨粒のように地上に降り注いぎ、あっという間にかなみ達の周囲を取り囲んだ。
「マジカルワーク」
 カナミは即座に変身した。
「今回は時間省略のため、簡易式だね」
「別に説明しなくてもいいのに」
 そんなやり取りをマニィとしているうちにスズミも変身を完了させていた。

オオォォォォォォォォォッ!!

 怪人達がけたたましい雄叫びを上げる。
 思わず耳をふさぎたくなり、ふさいだところでどうしようもない、音の津波。カナミ達は魔力によって自分達の身を包んでいるので、ダメージは無い。しかし、そうでなかったら鼓膜は破れ、意識を失って昏倒に陥ったことは間違いない。
 何しろ、殺気迫る怪人が放つ雄叫びなのだ。
 全方位から一点集中で攻撃されているに等しい。
 たとえ、ダメージはなくても、その精神的プレッシャーは凄まじい。
 数が多い。
 視界に広がる三百六十度に果てしなく怪人達が立ち並んでいる。

オオォォォォォォォォォッ!!

 そいつらが揃って雄叫びを上げる。
 それはこれから襲うといった警告の意味でもあった。
 カナミは身構える。
 これだけの数ならロボットの大軍が現れたときにも経験がある。
 でも、これだけの数の殺気に身を晒したことは無い。
「母さん……」
「ええ、大したことはないわ。だけど、耳障りね」
 スズミは巨大な二つの鈴を空中に放り投げて、激突させる。

チリリリーン!!

 鈴の音が鳴り響き、咆哮をかき消す。
「母さん……!」
「耳障りな騒音を撒き散らしてくれたわね、その代償は生命で支払ってもらうわよ」
 悠然とスズミは言う。
 その姿には神々しささえ感じさせる。
「カナミ、行くわよ」
「え、ええ……」
 カナミは魔力をステッキに注ぐ。
「神殺砲!!」
 ステッキを大砲へと変化させて、砲弾を放つ。
「ボーナスキャノン!!」



 スーシーは来葉が言うB地点を文字通り雲の上から俯瞰していた。
「相変わらず、凄まじい魔力ですね」
 空から見るとB地点を中心に巨大な魔力が光になって明滅しているように見える。
 言うまでもなく、カナミの神殺砲の光であった。
「あれがネガサイドのチカラになってくれればと思うと、少し惜しいですね」
「惜しんでもしょうがねえだろ。俺は嬉しいぜ、あんなすげえのと戦えるんってならよ」
 カンセ―が同じ場に立って嬉々として言う。
「あなたは単純でいいですね」
「言うぜ言うぜ。お前だって似たようなもののくせによ」
「確かに……」
 スーシーはフフッと笑う。
「あの少女の悪運もかなりのものですね、私といい勝負になりそうなぐらい」
 テンホーも同じような表情で言う。
「なんだなんだ、みんなあの嬢ちゃんと戦いたいわけか」
「ええ」
「個人的にはですね」
 そして、スーシーすらも認める。
 この戦争でカナミと戦ってみたい、と。
「俺達は好きなように戦い、好きなように死んでいくだけの運命……」
「で、あるからこそ好敵手と巡り会えたこの幸運を逃しはしたくない」
「まあ、僕にはカリウス様に本懐を遂げさせるという第一目的があるので、あなた方に譲りますよ」
「感謝する」
 カンセ―は雲の上から地上へと降りた。
「あなたは行かないのですか、獲物をとられてしまいますよ」
 スーシーは未だこの場に留まっている。
「いえ、彼女に私と比肩するほどの悪運があるのであれば、この戦争で必ず私と相見えるでしょう」
「随分と彼女を買っていますね」
「それはあなたも同じことでは?」
「そうですね。では、共に見届けましょうか。
――僕達が見込んだ魔法少女と素晴らしき我らが同胞の戦いを」
 そう言ってスーシーはB地点の戦いを見下ろす。



「ジャンバリックファミリア」
 ステッキの鈴が縦横無尽に飛び回ってビームを降り注ぐ。
 数が一向に減らない。いや、減っていることには減っているのだが、後ろからどんどんやってきて、減っている感覚がまったくないのだ。
「ハッピーコールウィンド!」
 スズミは鈴を鳴らす。
 鈴の音が鳴り響く。すると、カナミの身体はスッと軽くなり、魔力が充実していく感覚が込み上げてくる。
「私が味方と定めた魔法には癒やしと幸運を振りまく福音よ」
「ありがとう! これで戦えるわ!」
 カナミはステッキを大砲へ変化させる。
 飛ばした鈴と魔力のチャージを分担する。そうすることで一人で行うより遥かに早くチャージが完了する。
「神殺砲・三連弾!」
 カナミは間髪入れず、大砲から三発連続で巨大な魔力弾を撃つ。
「イノ・シカ・チョウ!!」
 撃ち放たれた三発の砲弾は全て怪人達を百以上吹き飛ばしていく。
 ただ、千を超える怪人達の前ではそれも多少減ったぐらいの印象しかない。
「キリがないよ、母さん」
「そうねぇ。それに爆弾を爆発させたらこいつらは全員死ぬのよねぇ」
「あ……」
 カナミは言われて気がついた。
 こいつらは爆弾を爆発させるために、やってきているのだがその爆弾はここで爆発する予定だ。
 つまり、彼らは狙い通りに爆弾を爆発させたら死ぬ運命。それはカナミ達にとって理解しがたい考えであった。
 たとえ自分がそんな命令をうけたとしても、そんなことは絶対にきけない。
「怪人達だって生命は惜しいはずなのに……」
「あんがいぃ、彼らもしられていないんじゃないんかなぁ?」
「どういうこと?」
「単純にぃ、私達を始末しろってぇ命令だけぇされてるかもしれないわねぇ」
 そう言って、スズミは鈴を鳴らす。

リンリン♪

 すると、あれだけ血気盛んに襲いかかろとした怪人達の血の気がスウッと引いていく。
「ピースフルベル。この鈴の音を聞くと興奮した気分が和らいで落ち着くのよ」
「鈴の音、便利ね」
「これでぇ、話を聞いてもらえるでしょうねぇ」

リンリン♪

「ここは超高密度爆破の投下地点なのよぉ、だからあなた達もこの場所にいたらぁ、一緒に吹きとんじゃうのよぉ」
 不思議とスズミの声はよく通った。
 スピーカーに通された声のようで、遠く離れた怪人にもこの声は聞こえただろう。
(もしかして、この鈴の音って、スピーカーの効果もあるのかしら?)
 カナミは宙を舞って響かせる鈴を見上げて思った。

………………

 その話を聞いた怪人達は静まり返る。
 さすがに衝撃を受けたのだろう。今この場で命令を全うして魔法少女達を倒すべきか、それとも、爆発で吹き飛んでしまうから早くこの場から逃げるべきか、決めかねているのだろう。
「――信じない」
 ふと、とある怪人が言ったのを何故かはっきりと聞き取れた。
「……俺はそんな話、信じねえぞ!」
 その一言でこれまで押しとどめられていた怪人達の興奮が堰を切ったかのように湧きだってくる。


「そうだ! そうだ!」
「奴らは魔法少女だ! 敵だぁッ!」
「敵の言うことなんか信用するなぁッ!」
「俺達はこいつらを倒せばいいんだッ!」


 どんどん、嫌な方向に話が向かっていく。
「ああ、ちょっとは信用しなさいよ!」
「まあぁ、所詮は敵の戯言だしねぇ」
「母さんのその言い方のせいでしょ、戯言に聞こえるのは」
「だってぇ、これが性分だからぁ」
 こんな反応されたら、この母親に話しても仕方がない。
「結局戦うしかないんでしょ」
「しょうがないわねぇ……ハッピーコールウィンド!」
 スズミは鈴の音を響かせる。
 すると、カナミの魔力は再び充実してくる。
「それにこの鈴には敵の魔力も削ぐ効果があるのよ」
「だから便利すぎよ、その鈴は」
 カナミは呆れつつも、その恩恵を受けて攻撃する。
「ジャンバリック・ファミリア!」
 カナミは鈴を飛ばして大量の砲弾を撃つ。
「タフよね、カナミ」
「母さんの鈴のおかげでしょ」
「それにしてもぉ、これだけ魔力を放出していたらぁ普通はへたばっているところよぉ」
「魔法少女に普通とか言われてもわからないんだけど」
「まったくね」
 スズミは同意する。
――普通の魔法少女。そう言われても違和感しか残らない。そもそも魔法少女という時点で普通とはかけ離れているのではないかと思ってしまう。
 母の場合、十年以上魔法少女(?)やっているのだから、それが普通だから仕方無いのかもしれない。
「それで、カナミぃ。あとどのくらい保ちそうぅ?」
「今は絶好調だから神殺砲五発は撃てるわ」
「あの大砲を五発ぅ……だったら、十発はいけるわねぇ」
「なんで倍計算なの?」
 カナミはどうこう言っているうちに、鈴はだんだんと砲弾を撃って怪人を蹴散らす。
「派手にやってやるじゃねえか!」
 その倒れ込んでいる怪人をかき分けて、黒いタンクトップとトレーナーのズボンを着て、テンガロンハットを被った幹部カンセ―が現れる。
「カンセー様! お越しになられたのですか」
「楽しそうにやってるから来てやったぜ!」
「あんたは来なくていいのよ」
「嫌がるお前の顔を見たくてなッ!」
「最低ね……」
 カナミはこんな時になんて敵がやってくるんだと思った。
 しかも、ただ物見遊山に来たわけではないことは雰囲気でわかっていた。
「カナミ、私一人でもなんとか戦えるから、アレの相手頼める?」
「母さん、いいの?」
 今カナミがカンセーと戦うということは、一対一で全力を尽くすということだ。
 それはつまり、残った怪人――千にも及ぶ数の怪人をスズミが相手しなければならないということだ。
 いくら、母が自分よりも実力のある魔法少女といえどもこれだけの数の怪人を一人で相手にするとなると、心配しない方が無理というもの。
「人の心配している場合じゃないわぁ」
 そんなカナミの心配を察してスズミは促す。
「あれはかなり強いわよぉ、今のカナミでもぉ、勝てるかどうかわからないわぁ」
「そ、それは……」
「だから、全力で戦いなさい。なりふり構わずね」
「え……うん」
 スズミの言葉に急に重みを感じて、「うん」と答えてしまった。
 そして答えてしまったからには戦わなければならない。
 そのやり取りを見て、カンセーはニヤリと笑う。
「お前ら、手をだすんじゃねえぞ」
「しかし、カンセー様」
「余計な犠牲者を出したくねえんだよ、どれだけやられてたと思ってるんだ?」
 カンセーはそれ以上口答えするなと言わんばかりに怪人達に釘を刺す。
「よお、決闘はやっぱ一対一だよな?」
「そんなの興味ないわね、ただ私があんたに勝つだけよ」
「ククク、やっぱ気が合うじゃねえか」
 カンセーは腰のホルスターから銃を抜き、空へと撃つ。
「こいよ、いつでもいいぜ!」
「言われるまでもなく!」
 カナミは魔法弾を撃つ。
 カンセーは即座に撃ち返して、魔法弾は爆散する。
 そこから激しい撃ち合いが始まる。
 カナミは特訓を積んで、百連射しても平気になった。鈴を飛ばして手数を増やせばその数はさらに倍増する。
「く、手数じゃもう負けるか!」
 弾幕をかいくぐってきた魔法弾が頬をかすめ、魔法弾の数が自分を超えていることを悟るカンセー。しかし、その顔には未だ笑みが張り付いている。
「だがよ、威力じゃ負けねえんだよ」

――九十対百
 単純な数の撃ち合いではカナミに分がある。

――五十対百
 しかし、カンセーは数を落として銃に込める魔法弾の威力を引き上げた。

 結果、カナミの弾を撃ち落とした銃弾は勢いを殺されることなく直進し続けた。
「くッ!」
 カナミはたまらず後退する。
「数と威力を並行して引き上げられないのかい?」
「そんな器用な真似はできないわ。あとは神殺砲しかないけど」
「今の彼じゃかわされるのが関の山」
「そうよね――だったら!」
 カナミは魔法弾を撃つ。
 カンセーが撃つ威力のある銃弾を無効化する魔法弾だ。
「プラマイゼロ・イレイザー!」
 五十もの弾丸は魔法弾の発光とともにその勢いは削がれ、消滅する。
「なんて奇妙奇天烈な魔法だ!」
「奇妙なのは――」
 カンセーが驚愕しているうちに、カナミは鈴を飛ばして左右に回り込ませる。
「――あんたでしょッ!」
 左右からの魔法弾の挟撃で爆発する。
「やった?」
「手応えがない!」
 マニィの問いかけにカナミはあくまで冷静に答える。
「この程度でやられるかよ!」
 案の定、爆煙の中から銃口を向けてくるカンセーの姿が見えた。
「やれると思っないわよ!」
 しかし、カナミも備えていたため、迎撃は容易にできる。

バゴォォォォン!!

 魔法弾の撃ち合いはカナミに分があった。
 服がボロボロになったカンセーを見てもそれは明らかだった。
「成長著しいな、そうそうに切り札の一つを切る羽目になるとは!」
「切り札……!」
 その一言でカナミは身構え、表情を引きつらせ、カンセーはニヤリと笑う。
 どちらが有利かわからなくなる。
 切り札を切れば、あっという間に負けるかもしれない。
「こいつをかわせるか、やってみろよ! リフレクトカーテン!」
 これは以前、一度食らったことがある魔法だ。
 二人の周囲を包むカーテンは、魔法弾や銃弾を弾き返して縦横無尽に飛び回らせる。そのあまりの予測不能の弾道に苦戦させられた記憶はカナミの中に残っている。
「神殺砲!」
 そして、その対処法も心得ている。

――これが結界なら壊せばいいだけのこと。

「ボーナスキャノン!」
 巨大な魔力で無理矢理結界に穴を開ける。
「おいおい、一度破られたことあるって言ってもよ! そんなやわじゃないぜ、このカーテン!」
「だから、壊せないわけじゃないでしょうが!」
 カナミは一気に踏み込んで、カンセーとの間合いを詰める。
「チィ!」

キィィィン!

 仕込みステッキの刃がテンガロンハットをかすめる。
 すんでのところでかわされた。
「くそ、一度見たもんは通用しないか。だったら、これでどうだ!」
「――くる!」
 カナミは身構える。
(どんな攻撃が来たって、防いで見せる!)
 その気構えで攻撃を待つ。
 しかし、その攻撃はやってこなかった。

コキン!

 頭を打たれた。
 まったく警戒していなかった接近して銃身で殴りつけるというシンプル極まりない攻撃によって、カナミは倒れ伏す。
「くあッ!」
「引っかかったな! まだまだ甘いな、角砂糖みたいによぉ!」
「……フェイント」
 それを理解したときには遅かった。
 今までさんざん銃撃で攻撃した男が切り札を出すといったからには当然銃撃で来るものとばかり思っていた。そこへまさか銃身で殴ってくるなんて完全に想定の範囲外。そこを突かれた。
(迂闊だったわ……)
 一瞬の反省と後悔。
 それを行うことでカナミは平静を取り戻した。その次に何をして体勢を立て直すべきか、身体が自然と動いた。

ズゴォォォォン!!

 魔法弾を撃って砂塵を巻き上げる。
 カンセーに向かっての目くらましだ。
「甘いぜ、そんなもので目がくらむか!」
 カンセーは怯むこと無く、カナミに向かって銃弾を撃つ。
「ぐあッ!」
 足に当たる。これで走れなくなった。
 立っていられるものの激痛のせいで強力な魔法弾を撃つと反動で倒れそうになる。
「負けるかぁぁぁッ!」
 それでも負けじと撃ち返す。
 魔力弾を撃つ度に、その反動で足に痛みが走る。
「その根性と気合、恐れ入ったぜ! だが!」
 カンセーの放った魔法弾をカナミが魔法弾を撃って、落とす。
 すると魔法弾はカナミの足元の手前に落ちる。
 そこから炸裂する。

バァァァァァァァン!!

 爆発によってカナミは爆煙ごと空へと舞い上がる。
「くッ!」
 しかし、このまま黙って地面に叩き落されるわけにはいかない。
 カナミは空へと魔法弾を撃つことで落下地点を調整する。
 そして、カンセーの真上に合わせて、落下する。
「ピンゾロの半!」
 これにはカンセーも予想外だったのか、回避が遅れた。

バシャァァァァァァァッ!!

 頭から真っ二つに斬るつもりだったが、すんでのところでかわされた。
 代わりに肩から腹をバッサリと斬ってやった。
 並の怪人だったらこの一撃で倒せているところだ。
「ぐふ、やるな……!」
 そこは幹部らしくしぶとかった。重症を負いながらもまだまだ闘志は消えていない。
 しかし、それはカナミも同じこと。
 爆発のダメージと着地のことをまったく考えていない反撃のせいで地面に思いっきり激突したダメージがあるものの、まだ戦える。
「神殺砲!」
「間髪入れずに追撃かよ!?」
 ステッキから大砲へ変化させ、魔力を注ぐ。ダメージがある今の状態だと激痛が伴うが、そんなことは言っていられない。
「ぐ、ぐぅ……!」
 文字通り歯を食いしばって、撃ち放つ。
「リフレクト・ウォール」
 カンセーはとっさに反射する光のカーテンを自分の前方に張り巡らせる。
「一度突破したんだから、何度だって突破してやるわよ!」
 カナミは激痛をおして気合の一声を上げる。
 すると、光のカーテンがパリンと窓ガラスのようにあっさりと破られる。
「チィ、本当に強くなりやがったな」
 そう言い残して、カンセーは砲弾の光に飲み込まれて消える。



「カリウスの側近、三幹部カンセー敗北か……」
 針金は羽虫からの伝聞を読み上げる。

――第二弾全滅

 もう一匹の羽虫は言っているが、そちらはさほど問題には思えなかった。
「そちらは第三弾を用意しましょう。いや、ここはもう正念場に入ったというところであるからして、こちらも切り札を切るべきか」
「何をお悩みになりましょうか、針金殿」
「む、炎尾えんびか」
 針金の傍らに突然炎がゆらめき、人の形になる。
「この戦争が負けられぬ戦いであるならば、わたくしどもを即座に投入すべきではないでしょうか?」
「承知している。だが、負けられぬ戦いであるからこそ一度しかない好機を見定めなければならないのだ」
「少し慎重すぎるのでは?」
「刀吉様の進退と生命がかかっているのだ」
「それは……」
 さすがにそこまでは言われては炎尾は進言を躊躇った。
「だが、この針金も決断をしなければならないときがきたようだ」
「それでは!」
「うむ……炎尾、お前を始めとする尾張五人衆を解き放つ」
「ご英断、感謝いたします。他の四人にも伝達します」
「そうだな、炎尾と氷馬ひょうま、風路ふうろはアルミという女を狙え。
地眼ちがんと雷口らいこうは関東三幹部の二人を殺せ」
「五人のうち、三人はアルミを集中砲火ですか」
「ヘヴル様を倒した実力者であるからな、五人衆総掛かりでも勝てないかもしれない」
「ご冗談を。我ら尾張五人衆総掛かりで勝てないであれば刀吉様や針金殿でもどうにもなりませんよ」
「そう思うのであれば戦ってみよ」
「ハハッ!」
 炎尾は炎とともに消える。
「尾張五人衆総掛かりで勝てないであれば刀吉様や針金殿でもどうにもならない、か……だが、たしかにそのとおりだが、秘策はある」
 針金は羽虫の羽に指先をなぞって文字を塗る。
「ジャニ、頼むぞ。必ずや必殺の一撃を突き立てろ」



 シオリはバットで怪人を殴り倒し、モモミは銃弾で撃ち抜く。
 怪人が次から次へと押し寄せてきて息をつく暇がない。アルミが息を整える時間がやけに長く感じる。
 時間にして一分間ぐらいだが、一時間ぐらい戦っている気がする。
「フルスイング!」
「はい、これで五人目! あんたもやるじゃん」
「いえ、そんなことは……」
 モモミがいるからなんとか戦えている。一人だけだったら十秒と保たずやられている。

オオォォォォォッ!!

 一度に襲いかかってくる敵の数は限られている。
 三、四匹。多くて五匹。
 パンチ、キック、斬撃、魔法弾……それらの攻撃をかわしてから反撃だ。
 攻撃しきったあとに隙が出来て、それを狙う。
「サヨナラホームラン!!」
 渾身の一撃で五体の怪人を一度に薙ぎ払い、吹き飛ばす。
 「やった」と喜んでいる暇はない。
 今倒したのは千以上に及ぶ怪人のうちの五体に過ぎない。すぐまた次の五体が襲ってくる。
「わ、わわわッ!」
「世話が焼けるわね」
 モモミの援護射撃のおかげで怪人の攻撃をなんとかかいくぐることが出来た。
「いつまで休んでるのよ、やっぱり歳? いい加減、引退したらどうなのよ?」
 モモミは背後で休んでいるアルミに向かって言う。
「それは出来ないわね」
 アルミはそう答えて、怪人を一突きする。
「生きている限り、現役だからね」
「だったら、トドメでも刺してあげましょうか?」
「それは今じゃないわね」
 それだけ言葉をかわして、アルミは怪人達を薙ぎ払い、モモミは怪人を撃つ。
「す、凄い、です……」
 シオリはバットを杖代わりにして立ちながらそれを見る。
 この二人を見るとまだまだ遠くおよばない、自分はまだまだだと痛感させられる。
「やるじゃない、ロートル!」
「そっちこそね!」
 アルミとモモミは競い合うかのように次々と怪人を倒す。
 しかも、お互いに言い争いながらである。
 怪人の死体が積もっていく中、その光景は異様に映った。
「にしても雑魚ばかりじゃ、歯ごたえに欠けるわね」
「そう? これだけ多いと撃ち殺し甲斐があるわよ」
「あ~、そういうこと言わない。一寸の雑魚にも五分の魂があるのよ」
「それを容赦なく千体も蹴散らしてよく言うわよ」
「容赦してたら敵に失礼でしょ。ほらほら、次の千体がお見えよ」
 そして、次の千体の怪人軍団が、築き上げられた死体を踏み荒らしながらアルミとモモミに襲いかかる。
 しかし、いくら数を揃えたところで疲れを知らない二人の前には再び死体の山を築き上げていくだけであった。
「シルバーサイクロン!」
 アルミはドライバーを回転させて竜巻を巻き起こす。
 そのあまりの暴風に怪人も死体ごと綺麗さっぱり吹き飛ばされる。
「って、ちょっと私まで吹っ飛ばすつもり!?」
「吹っ飛ばなかったからいいでしょ」
 無茶苦茶言うと、さすがにシオリも思った。
「それに、これから戦うのにこいつら邪魔だから出払ってもらっただけのことよ」
 そう言ってアルミの顔は真剣なものに変わる。
「そうですね、あなたがやなければ私がやっていたところです」
 うちわを持ち、法衣を羽織った男が現れる。
「尾張五人衆が一人・風路です」
「尾張ねえ……勝手に人の庭を土足で踏み荒らしてきたんだから覚悟はできてるんでしょうね?」
「もちろんです。関東を殲滅して踏み荒らし抜く覚悟はできています」
「そんな覚悟なら犬に食わせときなさい」
「それは聞き捨てならんな!」
 下半身が獣の足を象った氷でできた怪人が現れる。
「尾張五人衆が一人・氷馬!」
「ってことは、あと三人は出てくるってことかしら?」
「残念ながら、私で最後だ」
 炎を撒き散らして、炎尾はやってくる。
「五人のうち三人ね……随分な大盤振る舞いじゃない」
 モモミは素直に感心する。
 その傍らでシオリは震える。
 この三人は誰もが実力が自分よりも遥かに上だということが一目見てわかる。
「三人共強すぎると思います……」
「怖いの?」
「は、はい……」
 シオリは強がることが出来ない。
 それが謙虚なところであり、素直であるともいえる。
「だったらそこで引っ込んでなさいよ、私も引っ込むから」
「え、モモミさんは戦わないんですか?」
「勘違いしないで。私はあんた達の味方じゃないから、むしろあの女はくたばってくれた方が都合がいいのよ」
「そんな……いくらアルミさんでも」
「負けると思うの、あの怪物が?」
「そ、それは……」
 負けるとは思えないし、負けてほしくなかった。
 でも、今回ばかりはあるいは負けてしまうんじゃないかと不安に駆られる。
 それだけ、強い魔力をこの三人から感じる。
「負けると思うんだったら手伝いなさいよ」
「い、いえ……私なんかが言っても足手まといですよ……」
「自分のこと、よくわかってるじゃない」
 モモミは感心する。
 そして、じっくりとこの戦いを見させてもらおうと思った。
「五人衆なのに、たった三人でいいの?」
 アルミは問いかける。
 その態度は、三人の幹部を名乗る怪人を前にしても、まったく動じていない。
「たった三人とは、心外ですね」
「これでも大盤振る舞いだというのに」
「ですが、我々は怒らない。あなたはそれに相応しい実力の持ち主だから」
 風路、氷馬、炎尾はそれぞれ三方に別れて想い想いを口にする。
 それはもう攻撃といっていいほどの威圧感を秘めており、言葉だけで火傷し、身体は凍りつきそうになる。しかし、それをアルミは平然と受け流す。
「なので、全力をもって始末させてもらいます」
「これは燃やし甲斐がある」
「いや、凍らせてやろう」
「飛んだり、燃えたり、凍ったりで忙しそうね」
 アルミは肩にドライバーを乗せて挑発する。
「三人まとめてかかってきなさいよ。まとめて片付けてあげるから!」
「その余裕は命取りになるぜ」
「そうですね、その首貰います」
「魔法少女への焼き討ちは面白そうだ」
 炎尾、氷馬、風路の三人はそれぞれその名のごとく炎、氷、風を放つ。
「マジカルドライバー!」
 その攻撃を全てドライバーの回転によって束ねて吹き飛ばす。
「我々三人も駆り立てられた理由がわかったな」
「ですが、負けるわけがありません」
「全力でいくからな、今度は!」
 氷馬は巨大な氷柱と作る。
 刃の長さは頭上の信号に届くほどで、巨大な槍にも見える。
 それを投げつける。何者をも貫き、凍てつかせる冷気放つ一迅の槍となって。
「これが全力ねえ」
 それをいとも容易く氷柱を貫き、砕く。
「ぬう!」
 氷馬は渾身の一撃をあっさりと破られて、動じる。
 しかし、それは炎尾や風路の予想していたことに過ぎなかった。
「燃え散れ!」
「吹き飛びなさい!」
 炎と風が左右から攻め入ってくる。
「これは無理!」
 一撃を防いだあとだとさすがにアルミはこの炎と風の攻撃は逃れようがなかった。
「アルミさん!」
「大丈夫よ、あの程度でどうにかなるんだったら化け物だなんて言われないわよ」
 モモミがそう言うと、炎や竜巻の中から無事な姿を現すアルミがいた。
「これで仕留められませんか」
「なら、もう一回!」
「同じ手が通用すると思わないことね」
 アルミは先手を取り、ドライバーを氷馬に投げつける。
 氷柱の投擲、風路の竜巻をも凌ぐ勢いで直進するドライバーが氷馬を貫く。
「ぐわぁぁぁッ!!」
「氷馬!」
「だが、奴は武器を捨てた!」
 炎尾はこれをまたとないと好機と見て襲いかかる。
「燃え散り、灰になれぇッ!!」
 炎尾は渾身の炎を吐く。
「あっついわねぇ!」
 アルミはマントをなびかせて盾のように展開する。
 それで炎は防ごうとする。
 だが、さっきの炎と竜巻のダメージもあって、完全に防ぎきれず、右腕が燃えてしまう。
「次は左だ!」
 風路は風で形成されたカッターを投げ込む。
 それは左腕を斬り落として、この戦いに勝つための一撃。
「残念ながら左まであげる義理はないのよね!」
 アルミがそう言うと、氷馬に突き刺したドライバーがひとりでに抜けて、アルミの左腕へと飛んでくる。
「なッ!?」
「勝算無しに得物を手放すかってのよ!」
 ドライバーを一閃すると風のカッターはあっさりと消滅する。
「ば、馬鹿な!」
 ザシュという風切り音が鳴ったあと、風路は真っ二つになる。
 風のカッターを消した余波による斬撃が風路を斬り裂いたのだ。
「氷馬、風路、あなた達の犠牲は無駄にはしない!」
 炎尾は闘志の炎を燃やす。
 しかし、これで敵は残り一人。三対一からあっという間に二人やられたことによる劣勢は覆しようがない。
 ただし、炎尾はまだ切り札を残していた。
「――ッ!?」
 アルミの周囲に炎が揺らめく。
 それもただの炎ではなく、蒼い怨嗟に満ちた地獄の炎であった。
「二人の死肉を媒体にして、召喚する獄炎! どんな存在であろうと焼き尽くすまで消えることのない業火だ!!」
「なるほど、そんな切り札があったわけね」
 氷魔と風路の死体が燃え、そこから溢れ出る炎がアルミに襲いかかる。
「あ~これはさすがにやばいわね」
 モモミは面白くない顔で呟く。
「ディストーションドライバー!」
 突き出されたドライバの先端は激しく回転し、旋風を巻き起こす。いや、旋風のみならず、真空さえも発生させ、その空間そのものを異次元へと変化させていく。 
 その次元の裂け目に地獄の蒼い炎は飲み込まれる。
「ぬう!」
 渾身の策が破られた炎尾は驚愕する。そして、絶望する。
 五人衆のうち二人までも犠牲にして使った攻撃がこうもあっさりと突破されたことに。
 こいつは本当に人間なのか。こんな奴に挑んだこと自体、間違いではなかったのかとまで思えてしまう。
「さすがにあれをくらったらまずいところだったわ」
「――ですが、本当にまずいのはこれからです」
 不意にアルミの背後から女性の声が聞こえる。
「――ッ!」
 完全に隙を突かれてしまった。
 いくらアルミでも異次元の裂け目を生み出す大魔法を使った後は、一呼吸入れる必要がある。
 そこをくノ一のジャニは突いた。

――それはどんな敵を抹殺する必殺の毒であった。

 アルミが振り返ると同時に刺された。

ブシャァァァァァァァッ!!

 鮮血が舞い散り、白銀の魔法少女は真紅に染め上がった。
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