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第36話 戦乱! 渦中に放たれる一矢は少女を貫く (Aパート)
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「四つのポイントに放った怪人がことごとく魔法少女達にやられたみたいだな」
ネガサイド中部支部長・刀吉は関東の地図を見上げて、忌々しそうに言う。
「そのようですね。ですが、関東の方の怪人も同じようにやられたみたいなので、結果的に痛み分けということになるのではないでしょうか?」
「それは敗北も同じだ」
刀吉は参謀の針金はりがねに向かって殺気を放つ。
「しかし、先行部隊にはそれだけで関東を壊滅させることができるほどの人材を投入したつもりだが、それがことごとくやられたのなら手を変えなければならないか」
「ならば次はこの私めが選りすぐった精鋭を放ちましょう。たちどころに関東を制圧するでしょう」
「いや、カリウスや魔法少女を甘く見ては足元をすくわれることになりかねん」
「それでは……」
「もはや出し惜しみはしない。全戦力を投入してカリウスや魔法少女を叩き潰す」
カリウスのその宣言とともに一人の少女が現れる。
「少々短絡すぎではないか、刀吉よ」
少女は黒い外套を羽織り、少女にしてはあまりにも不釣り合いな禍々しい大鎌を携えている。そして、何よりもその圧倒的なまでの威圧感はこの場にいる刀吉と針金を圧倒している。
「あなた様は……!」
「日本支部最高役員十二席が一人・禍津死神まがつしにがみのグランサー様!」
針金がその名を呼ぶとグランサーはフッと笑う。
「何やら面白いことが起きているので、出向いてみたが……興ざめだぞ、刀吉よ」
「グランサー様、それは……!」
「言い訳は見苦しいぞ。私はカリウス相手に戦争を仕掛けたことを責めているのではない。先行部隊の全滅という結果を招いたことを責めているのだ」
「う、ぐ……」
「この私を興ざめした罪は万死に値する」
グランサーはそう言って、刀吉の首筋に大鎌をあてる。
「も、申し訳ありません……」
「しかし、今この場でお前を殺したところでそれこそ興ざめ……許してやろう」
「く……!」
「屈辱か?」
「い、いえ……」
「よい。お前の気概は好ましく思っている。無礼な振る舞いも許す」
「こ、これが……姿を現せば、死と災厄を振りまくと言われる禍津死神……」
針金は恐れ慄く。
グランサーがその気になれば、大鎌を振り下ろすだけで刀吉と針金の首はあっさりと跳ね飛ばされるだろう。
その気にならないのは単なる気まぐれなのかもしれない。
「なんと恐ろしい御方だ……」
「そう、針金よ。お前のように平伏すことこそ正しい反応である」
グランサーの言うとおり、針金は無意識の内に彼女を前にして跪いていた。
「しかし、それでもまだ歯向かう者がいるのなら、それはこの大鎌ウィル・オ・ウィスプの血肉になる資格を持っている」
大鎌にある邪眼が見開く。
その眼を見ただけで魂が吸い寄せられ、喰らわれる錯覚を受ける。
「刀吉もカリウスもその資格を持った数少ない怪人。ただ殺すには今は惜しい、ゆえにこの座興が終わるまでは生かしておこうと思ったのだ」
「フフ……所詮俺はあなたに生かされているだけの存在というわけか。この戦争を座興などと言うあなたに……!」
「そうだ。さあ、早く次の手を打たないか。私を退屈させない好手をな」
「ク……針金、知恵を貸さぬか」
「ハハッ!」
刀吉と針金は冷や汗を垂らし、その様を見てグランサーは嘲笑する。
「中部支部からの怪人を迎撃するために放ったこちらの怪人は魔法少女達によって全滅しました」
「ここまでは私の予想通りであるな。だが、ここからは私の望む混沌極まる戦争になるであろう」
カリウスはスーシーからの報告を受けて上機嫌に高層ビルから地上を眺める。
さすがに、同じ高さのビルに阻まれて隣町まですら見ることは出来ないが、カリウスならば関東全域を見通すことが出来るかもしれない。そうスーシーは思った。
「ええ、そうですね……ですが、懸念があるとすれば魔法少女達の活躍でしょう」
「そうだな。彼女達が求めるのは秩序であって、私が求める混沌とは相反している」
「だが、秩序が続きすぎるというのも袋小路に陥ることに似ている。彼女は秩序と安定を望むとともに、そういった袋小路を打ち破りたいと考えている」
カリウスの言う彼女というのが、あるみだとスーシーは察する。
「まだまだ関東支部と中部支部とだけの戦争であるが、やがては全国に広がるだろうな。最悪この関東を明け渡すことに成ってもかまわないと思っている」
「――カリウス様、それは本気かッ!?」
その場で傍観していたカンセ―が叫ぶ。
「本気だとも、ついていけないであれば中部側につけばよい。咎めはしないよ」
「いえ、ついていけないなんて滅相もない。どこまでだってついていきますよ、カリウス様に」
「それは結構。君も同じ考えかね、テンホー君?」
「はい。私もどこへでもついていきます。例え、あなた様が混沌の極み、破滅への道を歩もうとも」
「どうやら、私は部下にとことん恵まれているようだ」
カリウスは満足した笑みを浮かべる。
「ここから私が打つ一手は最悪の悪手になるかもしれない。だが、後悔しないというのであれば聞いて欲しい」
そう言って、カリウスは誰一人去ることのない会議室という空間で、人間だったらすぐに立ち去りたくなるような話をし始めた。
「あなたの手はず通りぃー怪人を倒したわぁ」
かなみの母・涼美は誰かと携帯電話で連絡を取り合っている。
電話の相手が誰なのか、かなみには想像がついた。
「これぐらい軽いものよぉ、かなみもいてくれたからぁ」
自分の名前が出されて思わず反射的に涼美の顔を見てしまう。それに対して、涼美は笑顔を返してくれる。
「あなたの言うとおりぃ、さっさと会えばよかったわぁ」
そういえば、前にも似たような電話があった。
「臆病者って、まあその通りなんだけどぉ……はっきりと言われると傷つくわよぉ」
「臆病者……」
かなみは思わず呟いてしまう。
さっさと会いに来てくれればよかったのに、という想いがこもっていたのかもしれない。
それが聞こえたのか、涼美は少しキョトンする。
「娘にも同じ事言われたぁ」
やっぱり聞こえていた。
涼美は苦笑している。
「うん、たっぷりぃ、恨み言は聞く覚悟はできてるわぁ……」
そんなこと言うつもりないって、思った。
でも、すぐに「言ってしまうかもしれない」とも思ってしまった。
両親に対して、恨み言を呟いてしまったことははっきりと憶えていないけど、かなり呟いていたと思うし、こう実際会ったら何か言ってやろうと考えていた中に恨み言はいくつもあった気がする。
それは会った瞬間に消えてしまったものだけれど、何かの拍子でまた蘇って口にするかもしれない。
そういうのも含めて聞く覚悟ができていると言っているのかもしれない。
考え過ぎかな……と、かなみは思った。
「あなたともゆっくり話そうと思うからぁ、早く終わらせちゃいましょうかぁ」
そう言って、涼美は電話を終わらせる。
「ごめんねぇ、他にも電話しなくちゃならない人がいてね……」
「別にいいわよ。で、誰に電話するの?」
「うーん、友達ねぇ」
涼美は曖昧に答える。
「母さんに電話する友達いたんだ」
「酷いわねぇ……」
これも、恨み言の一つなのだろうか、と言ってみてから考えてしまう。
しかし、涼美は特に気にするでもなく電話をかけはじめる。
「もしもし、私、涼美よぉ。久しぶりねぇ」
今度の相手は誰なんだろう。
かなみは想像してみる。
さっきのが多分、あるみだったんだから、次は来葉さんあたりかもしれない。というか、それ以外考えられない。
「かなみとはもう会ったわぁ」
なんだか、さっきとまったく同じような会話が繰り広げられた。
さすがにちょっといい加減にしてほしいなと思った。
「なんだか、まずいものが視えたわ……」
来葉は頭を抱える。
「といいますと……?」
「話していいものかどうかわからないけど……」
怪人を前にしても動じなかった来葉が狼狽している。
それだけで異常事態が起きていることを翠華は感じる。
「首都一帯が無くなるわ」
「え?」
「高密度魔力爆破によってね」
「え……? こ、こうみつど、なんですか?」
「高密度魔力爆破……圧縮した魔力一気に解き放つことで起こす爆弾よ。まあ規模は核爆発並だけど」
「核爆弾ッ!?」
「それだけで十分やばいところが伝わったみたいね」
「やばい、なんてものじゃないですよ! そんなもの絶対に爆発させたらいけませんよ」
「もちろん、そのつもりよ……
――ただ、この未来は……いいえ、なんでもないわ」
来葉は何か言いかけてやめる。
その様子を見て翠華は悪い予感を抱く。
来葉が視ることが出来るのは未来だけ。
その核爆弾の威力を知っているということは、それが爆発する未来が視えてしまったということかもしれない。
そこまで考えて翠華は青ざめる。
「だから、言うのを躊躇っちゃったのよね……」
「ああ、そういうことですか」
そういう未来さえ視てしまったのだろう。
「翠華ちゃんは頭が良くて想像力が豊かだから逆にそれが困り物になるときがあるのよね」
「わ、私は、そんな頭が良いわけじゃ……」
「控えめなところが可愛いんだけど……今、そんなこと話してる場合じゃないわね、一刻も早くあるみに連絡しないと」
トゥルルル
そこで来葉の胸ポケットから着信音が鳴る。
「こんなときに……」
「私が代わりに出ましょうか?」
「いえ、他の人ならともかく……古い友人からの久しぶりの連絡なら無下にはできないわ」
来葉はそう言って
「ウシシ、それなら俺達があるみに連絡するか」
「ええ、そうね」
「ウシシ、俺とリリィならすぐにつながるぜ」
「頼める?」
「オーケー、交信してやるよ」
それから一秒で、ウシィが別のマスコットと魔力で繋がったのを感じることができた。
「ウシシ、リリィか?」
『ウシィか、何の用だ?』
「ウシシ、来葉女史がとんでもない未来を視ちまったらしくてな」
『とんでもない未来か。お前がそういうのであれば本当にとんでもないものだな』
「首都一帯が吹き飛ぶ未来らしいぜ」
『何……それは本当か……?』
これにはいつも威風堂々とした立ち振舞をしているリリィが動揺したようだ。
「来葉女史が冗談言ってなけりゃ本当だぜ」
『ならば本当であろう。来葉はたとえ冗談でもそんなことは口にしない』
「信じて貰えて何よりだ。それでこの話の何がそんなにやばいかってことも理解してるだろ?」
この話の何がそんなにやばいか。
それを聞いて、翠華は考える。
関東一帯が吹き飛ぶ未来……それ自体が緊急事態だというのに、他に何を危惧するべきか。
『当然だ。ただちにあるみに報せて対策を練るべきだ、それで来葉はどうした』
「ウシシ、古い友人からの電話らしいぜ」
『なに?』
「今終わったわ」
来葉がウシィとリリィの念話に割り込んでくる。
「本当ならもっとゆっくり語らいたかったのだけれど火急の時だからね」
『そうねぇ、帰ってみたらこんなことに駆り出されるとは思わなかったわぁ』
「こ、この声は……?」
さらにおっとりした声が念話に割り込んできた。
『緊急事態なんだから、早くスイッチ切り替えてマジモードになりなさい』
『それほどのものじゃないわよぉ、だってぇ、あるみがいるんだからぁ』
「そのあるみがいても、その未来が視えてしまった。というのが問題なのよ」
『そうねぇ、確かにそれは問題ねぇ』
『来葉が視た未来でのあるみ(わたし)もそれを止めるために戦った。それでも、止めることができなかった』
「――!」
「翠華ちゃん、気づいた?」
「え、ええ……」
「そうよ、私の未来視は千里眼じゃない。起こり得る可能性がある未来から情報を得ることができるだけ。
起こり得ない未来からは何も視ることはできない。これまで何度も首都一帯を吹き飛ばす計画はあったわ、その中にはあなた達が関わった戦いもある。そのおかげで未然に防げているし、こう防ぐためにあるみを始めとする魔法少女が頑張るおかげでその未来をもう視ることができなくなる。
――これまではそうだった」
「これまで?」
「でも、まだはっきりと視ることが出来る。つまり、これから頑張っても首都一帯が吹き飛ぶ未来がやってくる可能性があるってことよ」
「そ、そんな……!」
「でも、それでも、死力を尽くして戦うわ。当然あるみや涼美もね」
『そうね、今までそうしてきたものね』
『どのみちぃ、そうなるわよねぇ』
『だから、あんたはマジモードになりなさいよ』
『あるみがダメなら私がマジモードになってもどうせダメでしょうからなりません』
『言っても歳なんでしょ、あなたも』
『今の発言にはぁ、ちょっとぉカチンときたかしらぁ』
何やら念話が不穏な雰囲気になり始めてきた。
「あ、あの……急がないとまずいんじゃないんですか?」
「待って、翠華ちゃん。焦ってはダメよ、今場所を割り出すから」
「ウシシ、地図とカメラ用意だ」
「え、えぇ!」
来葉の目が虹色に輝き、翠華が地面に引いた関東の地図に銀色のクギを打ち込む。
「爆弾が投下されるのはこことここよ」
「に、二ヶ所ですか……」
「そうね。今可能性が揺らいでいるせいで、このどちらかにも投下される未来が視えてしまっているのよ」
「どういうことですか」
『来葉の未来視は常に分岐し続ける未来から可能性の高いものを優先して視ることができる』
「もちろん、時間をかければいくらでも別に分岐した未来を視ることが出来るわ。未来は絶えず変化し続ける、例えば私が未来を視ただけでも視てしまった事実を基に行動を起こしてしまうから、既に私が視た未来とは別の未来に分岐してしまうの」
「そんなこと言ったら、未来って本当にいっぱいあるってことじゃないですか」
「ええ、今の私じゃその全てを視ることはできない。でも、可能性の高い未来をいくつか視ることで的中率の精度を上げることは出来るわ」
「あの……それでは、今の的中率ってどのくらいの精度なんですか?」
翠華は恐る恐る訊いてみる。もしそれが百に近いのであれば、それだけ確実に首都一帯は吹き飛んでしまうことになってしまう。
「うーん」
来葉は顎に手を当てて、考えてから言う。
「二十パーセントぐらいってところかしらね……」
「二十パーセント……」
それは高いような気もするし、低いような気もする。なんとも微妙な数字だ。
「首都一帯が吹き飛ぶ危険性を考えるならかなり高いわね。あるみが全力で阻止しようとしているって込みも考えてね」
「そ、そうですね……」
あるみが全力で阻止しようと動くならそれこそ百パーセントで阻止できるのではないかと考えてしまう。それなら二十パーセントというのは恐ろしく高い数字に思えてくる。
「ひとまずこの二ヶ所ね。ここをA地点とB地点と言いましょう。二手に別れて向かいましょう」
『それがいいわね、私達がA地点に行くわ』
『うーん、それじゃぁ、私とかなみはB地点にぃ』
「それじゃ、私と翠華ちゃんはA地点の方が近いからそっちに。気になるのは千歳さんとみあちゃんの方だけど、さっきから念話に応じてくれないんだけど」
『千歳のことだからやられたなんてことはまずないだろうし、メッセージだけ飛ばしてくれば勝手にかけつけてくれるでしょ』
『信頼しているのねぇ、私、その千歳さんに会ったこと無いんだけどぉ』
『あとでゆっくり紹介してあげるけど、今は信頼できる魔法少女とだけ言っておくわ』
『そうねぇ、あるみが信頼しているなら十分信頼できるわぁ』
「それじゃ、よろしくね。必ずこの未来を実現させないために」
『もちろんよ』
念話越しでも、あるみの返事の力強さを感じることができた。
『高密度魔力爆破によって首都一帯が吹き飛ぶ未来を来葉は視てしまったから、私達はそれを防ぐために動くわ』
留守番電話のようにあるみの声が流れる。
「まーた、厄介なことになったわね」
ミアチトセは面倒そうに髪をむしりながら言う。
「これ以上厄介事を持ち込まないでほしいんだけど」
「そうね、私としては大したことじゃないけど」
「大問題よ!」
ミアチトセはその場に一人しかいないにも関わらず、まるで二人いるようなやりとりをしている。
「ここからみてると中々愉快な一人芝居だな、ハァハァ」
「イシィ、蹴られたくなかったら黙ってなさい」
「むしろご褒美だぜ、ハァハァ」
「フンッ!」
ミアチトセはイシィを蹴り潰す。
「ゴフゥッ!?」
「そこで黙ってなさい」
「酷いことするわね……それより、首都一帯が吹き飛ぶって言われちゃ黙ってるわけにはいかないわよ」
「当然。阻止してやるわよ!」
「あ~、やっぱり、正義の魔法少女ね」
「正義ってガラじゃないけどね!」
「さっさといくわよ!」
「はいはい!」
ミアチトセはビルの屋上から別の屋上へと飛び移りながら、来葉が示してくれたB地点に向かう。
「ところで、これて本当にどうやって解除するのよ!?」
「まあまあ、楽しいからいいでしょ」
「ちっとも楽しくない!」
「まあ、解除の仕方はこれから考えるからいいのよ。今はこの身体でなんとか戦えるから」
「今すぐ! 考えなさい!」
「はいはい……じゃあ、私は頭脳担当で、身体は任せたわ」
「なんであんたが仕切ってんのよ。頭も身体も私が担当するに決まってるでしょ。あんたは解除の方法だけ考えてればいいのよ」
「じゃあ、私が身体の主導権もらうわね」
「はあ? ちょ、ちょっとッ!?」
ミアチトセは突然空高く舞い上がり、目的地に向かって文字通り一直線に飛んでいく。
「さてえ~、私達も向かいましょぉかぁ」
涼美は緊急事態にも関わらず、相変わらず間延びした口調を続けている。
「母さん、呑気ね」
「焦ったところでぇ、しょうがないでしょぉ~」
「それはそうだけど」
首都一帯が吹き飛ぶと聞いて、かなみはいてもたってもいられなくなる。
「私の分までかなみがぁ、焦ってくれるからぁ、安心していられるのよぉ」
「母さんもちょっとは焦ってよ!」
かなみはため息をつく。
「うーん、これが性分だからねぇ」
「ああそうよね、母さんはそういうもんだからね」
かなみは諦める。
「それで、B地点に行く道ってこっちであってるの?」
「そうねぇ、多分あってると思うわぁ」
「多分じゃ困るんだけど……」
「じゃあ、大体あってるぅ」
「どっちも変わらないわよ!」
「まあまあ、落ち着いてぇ」
「こんな状況で落ち着いていられないよ」
「ココアを飲んでおにぎり食べれば落ち着くわぁ」
「なんでそんな組み合わせにしたの。せめてサンドイッチとかにしてよもう」
母の自由さに辟易するかなみであった。
今、涼美とかなみは電車を乗り継いでB地点に向かっている。
そのせいで、着実に目的地に向かっているものの、じっとしていなければならないジレンマでかなみは焦らされている。
「サンドイッチもいいわねぇ、今度母さんが作ってあげるわぁ」
「母さん、作ってくれるの……?」
そこだけ、かなみは真面目に訊いてしまった。
「ええ、母さん、料理は得意なの知ってるでしょ?」
「それじゃ、今度近所のスーパーが卵とハムの特売だからお願いしていい?」
「あらぁ、そうなのぉ」
「一人一個ずつだから」
「ええ、一緒に並ぶわぁ」
「代金は母さんが持ってね」
「え、ええぇ……それぐらいだったら……」
「じゃあ、楽しみにする!」
「かなみ、母さん泣けてきたわぁ」
「なんで?」
かなみは本気で首を傾げる。
「あ、次の駅で降りるんでしょ? 話はこれがあとゆっくり聞かせてもらうわよ」
「そうねぇ、本当にゆっくり話さないといけないこともあるしね」
多分、それは何日あっても足りないような長い話になりそうな気がしてくる涼美であった。
「クク、ハーハッハッハハハッ!」
グランサーは大笑いが暗闇の空間に木霊する。
「これは傑作だ。よもやこのような奇手を打ち出してくれようとは!」
「傑作などではありません。あの愚か者のカリウスが、またトチ狂ったことを……」
「いや、このようなトチ狂ったモノこそネガサイドの上層部に相応しい」
「何をおっしゃりますか! このような無差別な破壊を振りまくだけのモノ、放ってはおけません!」
「では、お前が止めてみせよ。魔法少女達も全力で止めに入るからな、混戦の極みに陥るであろうことうけあいであるな、ククク……」
「ならば、この刀吉も全力で阻止しましょう!
――針金よ!」
「既に我が精鋭はここに用意しております!」
「よし、ただちに爆弾の爆破地点に向かわせよ!」
「ハッ!」
針金は暗闇の中へ消えていく。
「しかし、カリウスめ……馬鹿げたことを……!」
「刀吉よ、カリウスが破壊しようとしているのは己おのが支配領域である関東。
破壊されたところでお前には何の損もないのではないか?」
「いいえ、彼の地はこの戦争の勝利の暁には我が領地となるもの。未来の領地の損失に黙っていらいれるものがいましょうか!」
「そうか、確かにそのとおりだな」
グランサーは嘲笑する。
「滑稽であるな。いや、道化であるなら滑稽は十八番か」
「それはカリウスのことですか、それとも……」
「それは自分で決めよ」
「承知致しました」
「トリィからの報告があった。A地点には中部と関東の怪人がもの凄い数集まっているらしい」
ワゴンの助手席に置物のように居座ったリリィはあるみに報告する。
今、あるみ、紫織、萌実の三人は鯖戸のワゴン車に乗せられて目的のA地点に向かっている。
「そうね、向こうも必死だわ」
あるみは当然と言わんばかりにコメントする。
「そんなところに飛び込むんだから、自殺志望者もいいところだわ」
「そ、そんな言い方……」
「紫織ちゃんはしたいの、自殺?」
「い、いいえ、決して、そんな」
「じゃあ、死なないわ」
「あるみさん……」
あるみにそう言われると無条件に信じられる。それだけの力強さがあるし、実力だって何度も目の当たりにした。
ついさっきだってそのチカラの凄まじさを見せつけられた。
――あるみさんがいればなんとかなる。
そう思えば、これから向かう恐ろしい戦場に行くのも怖くない。
震える手を抑えて、紫織はそう自分に言い聞かせた。
「しかし、物凄い数っていうのはトリィにしては大雑把な言い方だね」
運転している鯖戸はぼやく。
「それだけ多いってことでしょ。数えるのも面倒になるぐらい」
「つまり、十や二十どころじゃないってことか。下手をするとこの間のロボット騒動並の規模になるんじゃないか?」
鯖戸はまるで世間話でもするかのようにあるみに話を振る。
その様子を見て、紫織は不思議に思った。
自分はこうして恐怖で震えるのを必死に抑えているのに、鯖戸は一切そんな素振りを見せない。
彼には戦う力も無く、怪人に襲われたらひとたまりもないはずなのに。
しかも、そんな恐ろしい怪人が集まっている場所に自分の運転で向かっている。
手が震えてハンドルがきれなくなることはないのか。
足が震えてアクセルを踏めなくなることはないのか。
紫織が見る限り、そんな素振りは一切無い。
怖くないのか。
恐ろしくないのか。
紫織は気になった。でも、聞く勇気は今はちょっとだけ持てなかった。
ワゴンは向かう。来葉が未来視の魔法によって得た予測地点へ。
信号が不思議と青が続いていて、止まることはない。
まるでこのワゴンが止まることを許さないかのように。
スピードが速くなったような気がする。
鯖戸がアクセルを踏んだのだろうか。
周囲の景色を見てみると、いつの間にか他の車を見かけなくなっている。
というより、人気そのものがなくなっているような気さえしてきた。
「……踏み込んでしまったみたいだ」
鯖戸は呟く。
「ええ、そうみたいね」
あるみはそれを肯定する。
一体どんなやり取りを交わしているのか、この二人には時々ついていけない気がする。
なんて言ったかな、こういうの……
「ツーカーの仲ね、私にもわかるように話して欲しいんだけど」
萌実が言いたいことを代わりに言ってくれた。
「そうね、ここから先はもう戦場ってことよ」
あるみの返答に紫織はビクッと身体を震わせる。
「実はもう知ってたけど」
それを萌実は当たり前のように返す。
「え? えぇ?」
ただ一人、紫織は困惑するだけであった。
ワゴンはそこで止まる。
「僕はここまでだ」
そう言われて、即座にあるみは降りた。
続いて萌実が、つられて紫織が降りた。
道路の真ん中に立った。
こんなことが出来るのは本当に車が無くて、ゴーストタウンというのはこのことだと思えてならない。
「何が起きているんでしょうか?」
「封鎖結界でも張ったのかしらね」
「ふう、さ、けっかい……」
「人を寄り付かさないようにする魔法よ。とにかくこの場所にいたくなるよう気持ちが誘導される効果があるのよ」
萌実に説明されて、紫織はその魔法が自分に聞いているかもしれないと思った。
とにかくこの場から逃げたいと思った。
多分一人だったら間違いなく逃げている。あるみがいてくれるからなんとか立っていられる。
果たしてこんな状態で戦えるのだろうか。
「――来るわよ」
あるみがそう告げると、紫織の心臓が飛び上がらんばかりに跳ね上がる。
オオォォォォォォォォォッ!!
けたたましい怪人達の雄叫びが響き渡る。
一つや二つだけではなく、数十に及ぶ獣の咆哮が混ざりあったものだ。
耳を塞いだくらいじゃ、抑えられない身体の芯から震わされる恐怖の雄叫びであった。
「くうぅぅぅッ!!」
シオリはその雄叫びに耐えかねていつの間にか変身していた。
それでも、身体は震えてしまう。
見ると、アルミとモモミも変身し終わっている。このただならぬ気配のせいだろう。
オオォォォォォォォォォッ!!
とてつもない咆哮がまた鳴り響く。
その次に待っていたのは、地鳴りだ。
ガダガダガダガダガタ!!
小さなシオリの身体を飛び上がらせるばかりの揺れだ。
その揺れの原因である怪人達が大挙として押し寄せてくる。
一目見て、獣とわかるそいつらはまさに百面相といった面構えである。
獅子、虎、熊、蛇、猿、馬、なにがなんだかわからないけど、とにかくいっぱいいる。
怪人がたくさん押し寄せてくるのは前回のロボットで経験しているが、今回のおびただしさはその比ではなかった。
ロボットは元が玩具だから、どこか無機質だったのだが、獣はとにかく剥き出しの感情を向けてくる。
それがたまらなく、怖い。
やっぱり逃げればよかった、シオリは後悔した。
あれだけの数をとてもじゃないが戦うなんてできない。
おそらく一体一体が今まで戦ってきた怪人と同じくらいの力を持っている。
そんなの道路を埋め尽くしてはて無く広がっている。百体どころか、千体を超えているんんじゃないかと思えてしまう。
どうやって戦えばいいの……?
戦う前から弱音を吐きそうになる。
助けを求めるように視線をアルミに向けた。
「ああ、雑魚が雁首そろえてきたわね」
アルミはけだるげにそう言って、ドライバーを掲げる。
「マジカルドライバー!」
高らかにその武器を掲げる。
ドライバーから渦が吹き荒れる。
風ではなく魔力の奔流であった。当然、アルミから溢れである魔力であった。
「やっぱ怪人じゃ化け物には勝てないわよね」
モモミは呆れるように言った。
「ディクラックスクリュー」
巨大な魔力の渦を生み出したドライバーの回転はそのまま、怪人達を襲う。
千を超える怪人がその渦に飲まれ、またバラバラに引き裂かれていく。
為す術はなく、ただの理不尽な暴力とかしたその一撃はあれほど恐ろしくおびただしい数であった怪人達を残らず、光の塵に変えてしまった。
「………………」
シオリは何が起きたのかわからずただ呆然と立ち尽くしていた。
夢か幻か何か見ていたのではないかという気にさせられる。
しかし、そんなはずはなかった。
あれだけの大軍が大挙として押し寄せてきたのは紛れもなく現実だ。
そして、それを一瞬のうちに全てをアルミは倒してしまった。
「さすがに、フルパワーじゃない状態でこれやるのはしんどかったわ」
アルミが珍しく息を上げている。
あれだけの魔力の渦を放出したのだから、動けなくなってもおかしくない。
ただ、これはスポーツでいうと100メートル走を思いっきり走ったあとみたいで、一旦疲れて
息を上げているもののすぐにまた走れるように体力は回復するみたいなもので、ようするにまだまだ余力はあるように見える。
「さすがです、アルミさん……」
「何言ってるのよ、あなたも頑張るのよシオリ」
「え、えぇ、私がですか!?」
思いもがけない返答にシオリは面を食らった。
アルミ一人いればなんとかなる状況で、こんな自分に何ができるというのか。足を引っ張る姿しか想像できない。
「今のは連発できないし、一休みが必要なのよ」
「それじゃ、一休みの間は……?」
恐る恐る訊いたシオリに対して、アルミはニコリと残酷なまでに笑顔を向けてこう言った。
「だから、頑張ってね」
「怪人軍団第一弾、その八割が信号を絶ちました。全滅したものと思われます」
「まだ二割残っている。すぐに第二弾と合わせて敵を倒すのだ」
針金は使い魔の羽蟲を使って伝令を飛ばす。
針金は金属である自らの身体をいじって、金切り音を出す。相当苛立っているのが傍からみてもわかる。
「まだだ……まだ、二割の四百は残っているのだ。第二弾を合わせれば必ず隙は生まれるそのときこそ、我が精鋭を放つときだ」
「焦っていますね」
針金の側にくノ一が立つ。
「来たか」
「針金様のご要望とあらばこのジャニがあのアルミという女を見事仕留めてみせましょう」
「期待している。あのような化け物は支部長クラスでさえ手に余る」
「まさか、刀吉様が負けるとは思えませんが」
「そのまさかがありうるのだ」
「…………………」
そこまで聞いてくノ一はただただニヤリと邪悪な笑みを浮かべる。
「承知。刀吉様から疎まれて、使う機会に恵まれずにいたこの牙をご披露致しましょう」
「頼むぞ。見事、最高役員の鼻を明かしてみせよ」
「ハッ!」
くノ一のジャニは姿を消す。
「あれだけの魔力の放出……そうそう連発出来るものではあるまい。もしも、そんなことが可能であるなら……もはや人間という枠組を遥かに超えた存在であるが、よもや……」
針金はそこまで言って、考えるのをやめる。
最悪の結論を考えないのが彼の悪い癖だ。それが最悪の結果を招くとも知らないで。
ネガサイド中部支部長・刀吉は関東の地図を見上げて、忌々しそうに言う。
「そのようですね。ですが、関東の方の怪人も同じようにやられたみたいなので、結果的に痛み分けということになるのではないでしょうか?」
「それは敗北も同じだ」
刀吉は参謀の針金はりがねに向かって殺気を放つ。
「しかし、先行部隊にはそれだけで関東を壊滅させることができるほどの人材を投入したつもりだが、それがことごとくやられたのなら手を変えなければならないか」
「ならば次はこの私めが選りすぐった精鋭を放ちましょう。たちどころに関東を制圧するでしょう」
「いや、カリウスや魔法少女を甘く見ては足元をすくわれることになりかねん」
「それでは……」
「もはや出し惜しみはしない。全戦力を投入してカリウスや魔法少女を叩き潰す」
カリウスのその宣言とともに一人の少女が現れる。
「少々短絡すぎではないか、刀吉よ」
少女は黒い外套を羽織り、少女にしてはあまりにも不釣り合いな禍々しい大鎌を携えている。そして、何よりもその圧倒的なまでの威圧感はこの場にいる刀吉と針金を圧倒している。
「あなた様は……!」
「日本支部最高役員十二席が一人・禍津死神まがつしにがみのグランサー様!」
針金がその名を呼ぶとグランサーはフッと笑う。
「何やら面白いことが起きているので、出向いてみたが……興ざめだぞ、刀吉よ」
「グランサー様、それは……!」
「言い訳は見苦しいぞ。私はカリウス相手に戦争を仕掛けたことを責めているのではない。先行部隊の全滅という結果を招いたことを責めているのだ」
「う、ぐ……」
「この私を興ざめした罪は万死に値する」
グランサーはそう言って、刀吉の首筋に大鎌をあてる。
「も、申し訳ありません……」
「しかし、今この場でお前を殺したところでそれこそ興ざめ……許してやろう」
「く……!」
「屈辱か?」
「い、いえ……」
「よい。お前の気概は好ましく思っている。無礼な振る舞いも許す」
「こ、これが……姿を現せば、死と災厄を振りまくと言われる禍津死神……」
針金は恐れ慄く。
グランサーがその気になれば、大鎌を振り下ろすだけで刀吉と針金の首はあっさりと跳ね飛ばされるだろう。
その気にならないのは単なる気まぐれなのかもしれない。
「なんと恐ろしい御方だ……」
「そう、針金よ。お前のように平伏すことこそ正しい反応である」
グランサーの言うとおり、針金は無意識の内に彼女を前にして跪いていた。
「しかし、それでもまだ歯向かう者がいるのなら、それはこの大鎌ウィル・オ・ウィスプの血肉になる資格を持っている」
大鎌にある邪眼が見開く。
その眼を見ただけで魂が吸い寄せられ、喰らわれる錯覚を受ける。
「刀吉もカリウスもその資格を持った数少ない怪人。ただ殺すには今は惜しい、ゆえにこの座興が終わるまでは生かしておこうと思ったのだ」
「フフ……所詮俺はあなたに生かされているだけの存在というわけか。この戦争を座興などと言うあなたに……!」
「そうだ。さあ、早く次の手を打たないか。私を退屈させない好手をな」
「ク……針金、知恵を貸さぬか」
「ハハッ!」
刀吉と針金は冷や汗を垂らし、その様を見てグランサーは嘲笑する。
「中部支部からの怪人を迎撃するために放ったこちらの怪人は魔法少女達によって全滅しました」
「ここまでは私の予想通りであるな。だが、ここからは私の望む混沌極まる戦争になるであろう」
カリウスはスーシーからの報告を受けて上機嫌に高層ビルから地上を眺める。
さすがに、同じ高さのビルに阻まれて隣町まですら見ることは出来ないが、カリウスならば関東全域を見通すことが出来るかもしれない。そうスーシーは思った。
「ええ、そうですね……ですが、懸念があるとすれば魔法少女達の活躍でしょう」
「そうだな。彼女達が求めるのは秩序であって、私が求める混沌とは相反している」
「だが、秩序が続きすぎるというのも袋小路に陥ることに似ている。彼女は秩序と安定を望むとともに、そういった袋小路を打ち破りたいと考えている」
カリウスの言う彼女というのが、あるみだとスーシーは察する。
「まだまだ関東支部と中部支部とだけの戦争であるが、やがては全国に広がるだろうな。最悪この関東を明け渡すことに成ってもかまわないと思っている」
「――カリウス様、それは本気かッ!?」
その場で傍観していたカンセ―が叫ぶ。
「本気だとも、ついていけないであれば中部側につけばよい。咎めはしないよ」
「いえ、ついていけないなんて滅相もない。どこまでだってついていきますよ、カリウス様に」
「それは結構。君も同じ考えかね、テンホー君?」
「はい。私もどこへでもついていきます。例え、あなた様が混沌の極み、破滅への道を歩もうとも」
「どうやら、私は部下にとことん恵まれているようだ」
カリウスは満足した笑みを浮かべる。
「ここから私が打つ一手は最悪の悪手になるかもしれない。だが、後悔しないというのであれば聞いて欲しい」
そう言って、カリウスは誰一人去ることのない会議室という空間で、人間だったらすぐに立ち去りたくなるような話をし始めた。
「あなたの手はず通りぃー怪人を倒したわぁ」
かなみの母・涼美は誰かと携帯電話で連絡を取り合っている。
電話の相手が誰なのか、かなみには想像がついた。
「これぐらい軽いものよぉ、かなみもいてくれたからぁ」
自分の名前が出されて思わず反射的に涼美の顔を見てしまう。それに対して、涼美は笑顔を返してくれる。
「あなたの言うとおりぃ、さっさと会えばよかったわぁ」
そういえば、前にも似たような電話があった。
「臆病者って、まあその通りなんだけどぉ……はっきりと言われると傷つくわよぉ」
「臆病者……」
かなみは思わず呟いてしまう。
さっさと会いに来てくれればよかったのに、という想いがこもっていたのかもしれない。
それが聞こえたのか、涼美は少しキョトンする。
「娘にも同じ事言われたぁ」
やっぱり聞こえていた。
涼美は苦笑している。
「うん、たっぷりぃ、恨み言は聞く覚悟はできてるわぁ……」
そんなこと言うつもりないって、思った。
でも、すぐに「言ってしまうかもしれない」とも思ってしまった。
両親に対して、恨み言を呟いてしまったことははっきりと憶えていないけど、かなり呟いていたと思うし、こう実際会ったら何か言ってやろうと考えていた中に恨み言はいくつもあった気がする。
それは会った瞬間に消えてしまったものだけれど、何かの拍子でまた蘇って口にするかもしれない。
そういうのも含めて聞く覚悟ができていると言っているのかもしれない。
考え過ぎかな……と、かなみは思った。
「あなたともゆっくり話そうと思うからぁ、早く終わらせちゃいましょうかぁ」
そう言って、涼美は電話を終わらせる。
「ごめんねぇ、他にも電話しなくちゃならない人がいてね……」
「別にいいわよ。で、誰に電話するの?」
「うーん、友達ねぇ」
涼美は曖昧に答える。
「母さんに電話する友達いたんだ」
「酷いわねぇ……」
これも、恨み言の一つなのだろうか、と言ってみてから考えてしまう。
しかし、涼美は特に気にするでもなく電話をかけはじめる。
「もしもし、私、涼美よぉ。久しぶりねぇ」
今度の相手は誰なんだろう。
かなみは想像してみる。
さっきのが多分、あるみだったんだから、次は来葉さんあたりかもしれない。というか、それ以外考えられない。
「かなみとはもう会ったわぁ」
なんだか、さっきとまったく同じような会話が繰り広げられた。
さすがにちょっといい加減にしてほしいなと思った。
「なんだか、まずいものが視えたわ……」
来葉は頭を抱える。
「といいますと……?」
「話していいものかどうかわからないけど……」
怪人を前にしても動じなかった来葉が狼狽している。
それだけで異常事態が起きていることを翠華は感じる。
「首都一帯が無くなるわ」
「え?」
「高密度魔力爆破によってね」
「え……? こ、こうみつど、なんですか?」
「高密度魔力爆破……圧縮した魔力一気に解き放つことで起こす爆弾よ。まあ規模は核爆発並だけど」
「核爆弾ッ!?」
「それだけで十分やばいところが伝わったみたいね」
「やばい、なんてものじゃないですよ! そんなもの絶対に爆発させたらいけませんよ」
「もちろん、そのつもりよ……
――ただ、この未来は……いいえ、なんでもないわ」
来葉は何か言いかけてやめる。
その様子を見て翠華は悪い予感を抱く。
来葉が視ることが出来るのは未来だけ。
その核爆弾の威力を知っているということは、それが爆発する未来が視えてしまったということかもしれない。
そこまで考えて翠華は青ざめる。
「だから、言うのを躊躇っちゃったのよね……」
「ああ、そういうことですか」
そういう未来さえ視てしまったのだろう。
「翠華ちゃんは頭が良くて想像力が豊かだから逆にそれが困り物になるときがあるのよね」
「わ、私は、そんな頭が良いわけじゃ……」
「控えめなところが可愛いんだけど……今、そんなこと話してる場合じゃないわね、一刻も早くあるみに連絡しないと」
トゥルルル
そこで来葉の胸ポケットから着信音が鳴る。
「こんなときに……」
「私が代わりに出ましょうか?」
「いえ、他の人ならともかく……古い友人からの久しぶりの連絡なら無下にはできないわ」
来葉はそう言って
「ウシシ、それなら俺達があるみに連絡するか」
「ええ、そうね」
「ウシシ、俺とリリィならすぐにつながるぜ」
「頼める?」
「オーケー、交信してやるよ」
それから一秒で、ウシィが別のマスコットと魔力で繋がったのを感じることができた。
「ウシシ、リリィか?」
『ウシィか、何の用だ?』
「ウシシ、来葉女史がとんでもない未来を視ちまったらしくてな」
『とんでもない未来か。お前がそういうのであれば本当にとんでもないものだな』
「首都一帯が吹き飛ぶ未来らしいぜ」
『何……それは本当か……?』
これにはいつも威風堂々とした立ち振舞をしているリリィが動揺したようだ。
「来葉女史が冗談言ってなけりゃ本当だぜ」
『ならば本当であろう。来葉はたとえ冗談でもそんなことは口にしない』
「信じて貰えて何よりだ。それでこの話の何がそんなにやばいかってことも理解してるだろ?」
この話の何がそんなにやばいか。
それを聞いて、翠華は考える。
関東一帯が吹き飛ぶ未来……それ自体が緊急事態だというのに、他に何を危惧するべきか。
『当然だ。ただちにあるみに報せて対策を練るべきだ、それで来葉はどうした』
「ウシシ、古い友人からの電話らしいぜ」
『なに?』
「今終わったわ」
来葉がウシィとリリィの念話に割り込んでくる。
「本当ならもっとゆっくり語らいたかったのだけれど火急の時だからね」
『そうねぇ、帰ってみたらこんなことに駆り出されるとは思わなかったわぁ』
「こ、この声は……?」
さらにおっとりした声が念話に割り込んできた。
『緊急事態なんだから、早くスイッチ切り替えてマジモードになりなさい』
『それほどのものじゃないわよぉ、だってぇ、あるみがいるんだからぁ』
「そのあるみがいても、その未来が視えてしまった。というのが問題なのよ」
『そうねぇ、確かにそれは問題ねぇ』
『来葉が視た未来でのあるみ(わたし)もそれを止めるために戦った。それでも、止めることができなかった』
「――!」
「翠華ちゃん、気づいた?」
「え、ええ……」
「そうよ、私の未来視は千里眼じゃない。起こり得る可能性がある未来から情報を得ることができるだけ。
起こり得ない未来からは何も視ることはできない。これまで何度も首都一帯を吹き飛ばす計画はあったわ、その中にはあなた達が関わった戦いもある。そのおかげで未然に防げているし、こう防ぐためにあるみを始めとする魔法少女が頑張るおかげでその未来をもう視ることができなくなる。
――これまではそうだった」
「これまで?」
「でも、まだはっきりと視ることが出来る。つまり、これから頑張っても首都一帯が吹き飛ぶ未来がやってくる可能性があるってことよ」
「そ、そんな……!」
「でも、それでも、死力を尽くして戦うわ。当然あるみや涼美もね」
『そうね、今までそうしてきたものね』
『どのみちぃ、そうなるわよねぇ』
『だから、あんたはマジモードになりなさいよ』
『あるみがダメなら私がマジモードになってもどうせダメでしょうからなりません』
『言っても歳なんでしょ、あなたも』
『今の発言にはぁ、ちょっとぉカチンときたかしらぁ』
何やら念話が不穏な雰囲気になり始めてきた。
「あ、あの……急がないとまずいんじゃないんですか?」
「待って、翠華ちゃん。焦ってはダメよ、今場所を割り出すから」
「ウシシ、地図とカメラ用意だ」
「え、えぇ!」
来葉の目が虹色に輝き、翠華が地面に引いた関東の地図に銀色のクギを打ち込む。
「爆弾が投下されるのはこことここよ」
「に、二ヶ所ですか……」
「そうね。今可能性が揺らいでいるせいで、このどちらかにも投下される未来が視えてしまっているのよ」
「どういうことですか」
『来葉の未来視は常に分岐し続ける未来から可能性の高いものを優先して視ることができる』
「もちろん、時間をかければいくらでも別に分岐した未来を視ることが出来るわ。未来は絶えず変化し続ける、例えば私が未来を視ただけでも視てしまった事実を基に行動を起こしてしまうから、既に私が視た未来とは別の未来に分岐してしまうの」
「そんなこと言ったら、未来って本当にいっぱいあるってことじゃないですか」
「ええ、今の私じゃその全てを視ることはできない。でも、可能性の高い未来をいくつか視ることで的中率の精度を上げることは出来るわ」
「あの……それでは、今の的中率ってどのくらいの精度なんですか?」
翠華は恐る恐る訊いてみる。もしそれが百に近いのであれば、それだけ確実に首都一帯は吹き飛んでしまうことになってしまう。
「うーん」
来葉は顎に手を当てて、考えてから言う。
「二十パーセントぐらいってところかしらね……」
「二十パーセント……」
それは高いような気もするし、低いような気もする。なんとも微妙な数字だ。
「首都一帯が吹き飛ぶ危険性を考えるならかなり高いわね。あるみが全力で阻止しようとしているって込みも考えてね」
「そ、そうですね……」
あるみが全力で阻止しようと動くならそれこそ百パーセントで阻止できるのではないかと考えてしまう。それなら二十パーセントというのは恐ろしく高い数字に思えてくる。
「ひとまずこの二ヶ所ね。ここをA地点とB地点と言いましょう。二手に別れて向かいましょう」
『それがいいわね、私達がA地点に行くわ』
『うーん、それじゃぁ、私とかなみはB地点にぃ』
「それじゃ、私と翠華ちゃんはA地点の方が近いからそっちに。気になるのは千歳さんとみあちゃんの方だけど、さっきから念話に応じてくれないんだけど」
『千歳のことだからやられたなんてことはまずないだろうし、メッセージだけ飛ばしてくれば勝手にかけつけてくれるでしょ』
『信頼しているのねぇ、私、その千歳さんに会ったこと無いんだけどぉ』
『あとでゆっくり紹介してあげるけど、今は信頼できる魔法少女とだけ言っておくわ』
『そうねぇ、あるみが信頼しているなら十分信頼できるわぁ』
「それじゃ、よろしくね。必ずこの未来を実現させないために」
『もちろんよ』
念話越しでも、あるみの返事の力強さを感じることができた。
『高密度魔力爆破によって首都一帯が吹き飛ぶ未来を来葉は視てしまったから、私達はそれを防ぐために動くわ』
留守番電話のようにあるみの声が流れる。
「まーた、厄介なことになったわね」
ミアチトセは面倒そうに髪をむしりながら言う。
「これ以上厄介事を持ち込まないでほしいんだけど」
「そうね、私としては大したことじゃないけど」
「大問題よ!」
ミアチトセはその場に一人しかいないにも関わらず、まるで二人いるようなやりとりをしている。
「ここからみてると中々愉快な一人芝居だな、ハァハァ」
「イシィ、蹴られたくなかったら黙ってなさい」
「むしろご褒美だぜ、ハァハァ」
「フンッ!」
ミアチトセはイシィを蹴り潰す。
「ゴフゥッ!?」
「そこで黙ってなさい」
「酷いことするわね……それより、首都一帯が吹き飛ぶって言われちゃ黙ってるわけにはいかないわよ」
「当然。阻止してやるわよ!」
「あ~、やっぱり、正義の魔法少女ね」
「正義ってガラじゃないけどね!」
「さっさといくわよ!」
「はいはい!」
ミアチトセはビルの屋上から別の屋上へと飛び移りながら、来葉が示してくれたB地点に向かう。
「ところで、これて本当にどうやって解除するのよ!?」
「まあまあ、楽しいからいいでしょ」
「ちっとも楽しくない!」
「まあ、解除の仕方はこれから考えるからいいのよ。今はこの身体でなんとか戦えるから」
「今すぐ! 考えなさい!」
「はいはい……じゃあ、私は頭脳担当で、身体は任せたわ」
「なんであんたが仕切ってんのよ。頭も身体も私が担当するに決まってるでしょ。あんたは解除の方法だけ考えてればいいのよ」
「じゃあ、私が身体の主導権もらうわね」
「はあ? ちょ、ちょっとッ!?」
ミアチトセは突然空高く舞い上がり、目的地に向かって文字通り一直線に飛んでいく。
「さてえ~、私達も向かいましょぉかぁ」
涼美は緊急事態にも関わらず、相変わらず間延びした口調を続けている。
「母さん、呑気ね」
「焦ったところでぇ、しょうがないでしょぉ~」
「それはそうだけど」
首都一帯が吹き飛ぶと聞いて、かなみはいてもたってもいられなくなる。
「私の分までかなみがぁ、焦ってくれるからぁ、安心していられるのよぉ」
「母さんもちょっとは焦ってよ!」
かなみはため息をつく。
「うーん、これが性分だからねぇ」
「ああそうよね、母さんはそういうもんだからね」
かなみは諦める。
「それで、B地点に行く道ってこっちであってるの?」
「そうねぇ、多分あってると思うわぁ」
「多分じゃ困るんだけど……」
「じゃあ、大体あってるぅ」
「どっちも変わらないわよ!」
「まあまあ、落ち着いてぇ」
「こんな状況で落ち着いていられないよ」
「ココアを飲んでおにぎり食べれば落ち着くわぁ」
「なんでそんな組み合わせにしたの。せめてサンドイッチとかにしてよもう」
母の自由さに辟易するかなみであった。
今、涼美とかなみは電車を乗り継いでB地点に向かっている。
そのせいで、着実に目的地に向かっているものの、じっとしていなければならないジレンマでかなみは焦らされている。
「サンドイッチもいいわねぇ、今度母さんが作ってあげるわぁ」
「母さん、作ってくれるの……?」
そこだけ、かなみは真面目に訊いてしまった。
「ええ、母さん、料理は得意なの知ってるでしょ?」
「それじゃ、今度近所のスーパーが卵とハムの特売だからお願いしていい?」
「あらぁ、そうなのぉ」
「一人一個ずつだから」
「ええ、一緒に並ぶわぁ」
「代金は母さんが持ってね」
「え、ええぇ……それぐらいだったら……」
「じゃあ、楽しみにする!」
「かなみ、母さん泣けてきたわぁ」
「なんで?」
かなみは本気で首を傾げる。
「あ、次の駅で降りるんでしょ? 話はこれがあとゆっくり聞かせてもらうわよ」
「そうねぇ、本当にゆっくり話さないといけないこともあるしね」
多分、それは何日あっても足りないような長い話になりそうな気がしてくる涼美であった。
「クク、ハーハッハッハハハッ!」
グランサーは大笑いが暗闇の空間に木霊する。
「これは傑作だ。よもやこのような奇手を打ち出してくれようとは!」
「傑作などではありません。あの愚か者のカリウスが、またトチ狂ったことを……」
「いや、このようなトチ狂ったモノこそネガサイドの上層部に相応しい」
「何をおっしゃりますか! このような無差別な破壊を振りまくだけのモノ、放ってはおけません!」
「では、お前が止めてみせよ。魔法少女達も全力で止めに入るからな、混戦の極みに陥るであろうことうけあいであるな、ククク……」
「ならば、この刀吉も全力で阻止しましょう!
――針金よ!」
「既に我が精鋭はここに用意しております!」
「よし、ただちに爆弾の爆破地点に向かわせよ!」
「ハッ!」
針金は暗闇の中へ消えていく。
「しかし、カリウスめ……馬鹿げたことを……!」
「刀吉よ、カリウスが破壊しようとしているのは己おのが支配領域である関東。
破壊されたところでお前には何の損もないのではないか?」
「いいえ、彼の地はこの戦争の勝利の暁には我が領地となるもの。未来の領地の損失に黙っていらいれるものがいましょうか!」
「そうか、確かにそのとおりだな」
グランサーは嘲笑する。
「滑稽であるな。いや、道化であるなら滑稽は十八番か」
「それはカリウスのことですか、それとも……」
「それは自分で決めよ」
「承知致しました」
「トリィからの報告があった。A地点には中部と関東の怪人がもの凄い数集まっているらしい」
ワゴンの助手席に置物のように居座ったリリィはあるみに報告する。
今、あるみ、紫織、萌実の三人は鯖戸のワゴン車に乗せられて目的のA地点に向かっている。
「そうね、向こうも必死だわ」
あるみは当然と言わんばかりにコメントする。
「そんなところに飛び込むんだから、自殺志望者もいいところだわ」
「そ、そんな言い方……」
「紫織ちゃんはしたいの、自殺?」
「い、いいえ、決して、そんな」
「じゃあ、死なないわ」
「あるみさん……」
あるみにそう言われると無条件に信じられる。それだけの力強さがあるし、実力だって何度も目の当たりにした。
ついさっきだってそのチカラの凄まじさを見せつけられた。
――あるみさんがいればなんとかなる。
そう思えば、これから向かう恐ろしい戦場に行くのも怖くない。
震える手を抑えて、紫織はそう自分に言い聞かせた。
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あるみの返答に紫織はビクッと身体を震わせる。
「実はもう知ってたけど」
それを萌実は当たり前のように返す。
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ただ一人、紫織は困惑するだけであった。
ワゴンはそこで止まる。
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そう言われて、即座にあるみは降りた。
続いて萌実が、つられて紫織が降りた。
道路の真ん中に立った。
こんなことが出来るのは本当に車が無くて、ゴーストタウンというのはこのことだと思えてならない。
「何が起きているんでしょうか?」
「封鎖結界でも張ったのかしらね」
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「人を寄り付かさないようにする魔法よ。とにかくこの場所にいたくなるよう気持ちが誘導される効果があるのよ」
萌実に説明されて、紫織はその魔法が自分に聞いているかもしれないと思った。
とにかくこの場から逃げたいと思った。
多分一人だったら間違いなく逃げている。あるみがいてくれるからなんとか立っていられる。
果たしてこんな状態で戦えるのだろうか。
「――来るわよ」
あるみがそう告げると、紫織の心臓が飛び上がらんばかりに跳ね上がる。
オオォォォォォォォォォッ!!
けたたましい怪人達の雄叫びが響き渡る。
一つや二つだけではなく、数十に及ぶ獣の咆哮が混ざりあったものだ。
耳を塞いだくらいじゃ、抑えられない身体の芯から震わされる恐怖の雄叫びであった。
「くうぅぅぅッ!!」
シオリはその雄叫びに耐えかねていつの間にか変身していた。
それでも、身体は震えてしまう。
見ると、アルミとモモミも変身し終わっている。このただならぬ気配のせいだろう。
オオォォォォォォォォォッ!!
とてつもない咆哮がまた鳴り響く。
その次に待っていたのは、地鳴りだ。
ガダガダガダガダガタ!!
小さなシオリの身体を飛び上がらせるばかりの揺れだ。
その揺れの原因である怪人達が大挙として押し寄せてくる。
一目見て、獣とわかるそいつらはまさに百面相といった面構えである。
獅子、虎、熊、蛇、猿、馬、なにがなんだかわからないけど、とにかくいっぱいいる。
怪人がたくさん押し寄せてくるのは前回のロボットで経験しているが、今回のおびただしさはその比ではなかった。
ロボットは元が玩具だから、どこか無機質だったのだが、獣はとにかく剥き出しの感情を向けてくる。
それがたまらなく、怖い。
やっぱり逃げればよかった、シオリは後悔した。
あれだけの数をとてもじゃないが戦うなんてできない。
おそらく一体一体が今まで戦ってきた怪人と同じくらいの力を持っている。
そんなの道路を埋め尽くしてはて無く広がっている。百体どころか、千体を超えているんんじゃないかと思えてしまう。
どうやって戦えばいいの……?
戦う前から弱音を吐きそうになる。
助けを求めるように視線をアルミに向けた。
「ああ、雑魚が雁首そろえてきたわね」
アルミはけだるげにそう言って、ドライバーを掲げる。
「マジカルドライバー!」
高らかにその武器を掲げる。
ドライバーから渦が吹き荒れる。
風ではなく魔力の奔流であった。当然、アルミから溢れである魔力であった。
「やっぱ怪人じゃ化け物には勝てないわよね」
モモミは呆れるように言った。
「ディクラックスクリュー」
巨大な魔力の渦を生み出したドライバーの回転はそのまま、怪人達を襲う。
千を超える怪人がその渦に飲まれ、またバラバラに引き裂かれていく。
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「………………」
シオリは何が起きたのかわからずただ呆然と立ち尽くしていた。
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しかし、そんなはずはなかった。
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恐る恐る訊いたシオリに対して、アルミはニコリと残酷なまでに笑顔を向けてこう言った。
「だから、頑張ってね」
「怪人軍団第一弾、その八割が信号を絶ちました。全滅したものと思われます」
「まだ二割残っている。すぐに第二弾と合わせて敵を倒すのだ」
針金は使い魔の羽蟲を使って伝令を飛ばす。
針金は金属である自らの身体をいじって、金切り音を出す。相当苛立っているのが傍からみてもわかる。
「まだだ……まだ、二割の四百は残っているのだ。第二弾を合わせれば必ず隙は生まれるそのときこそ、我が精鋭を放つときだ」
「焦っていますね」
針金の側にくノ一が立つ。
「来たか」
「針金様のご要望とあらばこのジャニがあのアルミという女を見事仕留めてみせましょう」
「期待している。あのような化け物は支部長クラスでさえ手に余る」
「まさか、刀吉様が負けるとは思えませんが」
「そのまさかがありうるのだ」
「…………………」
そこまで聞いてくノ一はただただニヤリと邪悪な笑みを浮かべる。
「承知。刀吉様から疎まれて、使う機会に恵まれずにいたこの牙をご披露致しましょう」
「頼むぞ。見事、最高役員の鼻を明かしてみせよ」
「ハッ!」
くノ一のジャニは姿を消す。
「あれだけの魔力の放出……そうそう連発出来るものではあるまい。もしも、そんなことが可能であるなら……もはや人間という枠組を遥かに超えた存在であるが、よもや……」
針金はそこまで言って、考えるのをやめる。
最悪の結論を考えないのが彼の悪い癖だ。それが最悪の結果を招くとも知らないで。
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ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
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