まほカン

jukaito

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第43話 合成! 新たな怪人と魔法少女の邂逅 (Aパート)

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「それで、借金の方はどうなの?」
 来葉の問いかけに、かなみは困った。
「あはは、全然減りませんよ」
 かなみは苦笑して答える。
「そうね、額が額だからね」
「……来葉、知ってて訊いてますよね」
「そうね」
 意地悪だ、と、かなみは思った。
 しかし、コーヒーをご馳走になっているのだから、あまり文句も言えない。
 おそらく高級品だ。正直、ちょっと苦いぐらいしか違いがわからない。
「かなみちゃん、今日は何の用で来たの?」
「そ、それは……」
「仕事で来たんじゃないでしょ」
「わかるんですか?」
「わかるわよ」
「未来を視たんですか?」
「ええ、一日の最初にね。今日はかなみちゃんが来てくれるってわかってたから、仕事は早めに片付けておいたわ」
「そ、そうだったんですか」
 来葉はニコリと笑う。
「今日はゆっくりお話しましょう。一時間でも、二時間でも、一晩でも」
「ひ、一晩はさすがに……」
「そう、私は構わないけど」
 かなみは苦笑する。
(来葉さん、優しいけど時々凄いことさらりと言うのよね……なんていうか、そういうところ社長に似ているかも……)
 コーヒーをすすりながら、そんなことを考えた。
「かなみちゃんから話さないんだったら、私の話をしていいかしら?」
「え、あ、はい! それはいいですけど」
「フフ、そんなに緊張すること無いのに」
 来葉は笑って言う。
 しかし、来葉のような大人の女性を前にして緊張するなという方が無理であった。それに時々こちらがドキリとするような視線を送ってくる。
「私の仕事相手の話なんだけど」
「来葉さんの仕事相手って……」
「大企業の重役だったり、政府の要人だったりするわね」
「す、凄いですね……」
 そんなことをさらりと言う来葉の方が、と心の中が付け加えた。
「みんな、知りたがっているのよ。未来の情報が。
かなみちゃんも知りたいでしょ? 自分の借金がどうなるのか」
「そ、それは……」
 確かに知りたいと思った。
「なんてね」
「……え?」
「そういった情報は与えないことにしてるのよ」
「与えない、どうしてですか……」
「それが良いものとは限らないし、かなみちゃんには自分の力で解決してほしいから」
「……そ、それは」
 かなみは一転して真剣な面持ちで問いかける。
「母さんの借金も、ですか?」
 来葉は、フフッと笑う。
「そういう話がしたかったのね」
「あ……」
「いいわよ」
「わかってたんですか?」
「ええ、まあね」
 意地が悪い、と思った。どうせ未来で視ているのなら最初からそう言ってくれればいいのに。
「まあ、私の力だって万能じゃないのよ」
「え?」
「未来を視るのには時間と集中が必要なの。ましてや無数に枝分かれした未来を全部視ようとするとね」
「前、私やみんなが死ぬ未来を視たことあるって言ってましたよね」
「ええ、あるわよ」
「……それってどんな気分なんですか?」
「辛いわよ、身が引き裂かれるぐらい」
 来葉を一息つく。
「あれはね、何回視ても慣れないものよ。慣れてもいけないと思ってるわ、
かなみちゃんも嫌でしょ、翠華ちゃんやみあちゃんが目の前で死ぬところを視るのは」
「………………」
 かなみは絶句する。
 そんなの想像することだって耐えられないのに、それを目の当たりにするところなんてどれほどのショックなのか、さらに何度も視せられるなんて、果たして立ち直ることができるのだろうか。
「でも、その未来を覆すために私は必死に戦おうって思えば頑張れるのよ」
「……来葉さんは凄いですよ」
「フフ、まあ希望はあるのよ」
「希望?」
「私はね、一度も視たことがない未来があるのよ」
「一度も視たことがない未来? それはなんですか?」
「あるみが死ぬ未来よ」
「え、社長の!?」
 かなみは驚いた。
「他の人が死ぬ未来ならいくらでも視てきた。私やかなみちゃん、鯖戸も涼美も、みんな死ぬ未来も視たことがある。でも、あるみが死ぬ未来だけは何千何万何億回視ても視ることはなかったわ。おそらくこの先も視ることはないでしょうね」
「……社長って凄いんですね」
 かなみにはその言葉しか出来なかった。
「ええ、あるみは凄いわ。私がどんな酷い未来を視たって絶望しないのは彼女のおかげよ」
「…………………」
「ああ、私の話ばっかりしてしまったわね。かなみちゃんの話を聞くつもりだったのに」
「い、いえ……私の方は大したことじゃありませんから」
「本当に? わざわざ私を訪ねてきたのに?」
「……母さんのことですから」
 来葉はカップをテーブルに置く。
「結城涼美、ね」
 かなみは頷く。
「母さんと社長、来葉さんは昔からの友人だって言っていたのは本当ですか?」
 それが今回かなみが聞き出したいことであって、わざわざ休日に来葉を訪ねた理由であった。
 このことを知っていそうな鯖戸に聞いても当然のごとく黙秘されそうだし、あるみに聞いてもごまかされるに決まってるし、第一怖い。
「ええ、そうね。昔からの親友よ」
「その話を詳しく聞きたいんですが」
「話すと長くなるし、あんまり私の口からも話しづらいのよね」
「そこをなんとか……」
「かなみちゃんの言うことはできるだけ聞きたいんだけどね」
「それじゃ、来葉さんの目から見て母さんってどう思いますか?」
「また変わった質問ね」
「変わってますか?」
「ちょっと予想外だったわ」
「……未来が視える来葉さんでも予想外ってあるんですか?」
「ええ、常に未来を視ているわけじゃないわ。こういうなんでもない会話とかだと予想外ってかなりあるものなのよ」
「へえ」
 それはかなみにとって意外に思うことであった。来葉には未来が視えるのだから予想外なんてないものとばかり思っていた。
「なんだか、来葉さんって未来が視えるから無敵だと思っていました」
「私が無敵っていうのは確かに大げさよ。あるみの方がよっぽど無敵だしね」
「あはは、そうですね。社長はもう別格って感じですよ」
 二人でそんなことを話して笑った。
「それで、涼美の話だったわね」
「あ、そうでした……」
「まあ、かなみちゃんが思っていることとそう対して変わらないわよ。あの人は誰に対してもそうだから」
「そうなんですか……」
「ああ、でも、かなみちゃんと接している時は特に優しくて繊細で、かなり臆病になっているって感じたわ」
「繊細で、臆病……?」
 それは、かなみの母親の人物像と結びつかない単語であった。
 繊細。あんなにもおっとりとしていて落ち着いた印象しか出てこないのだから、繊細とは思えない。
 臆病。ときに涼美はその落ち着きからは想像できない大胆になったりして驚かされることがある。あれからは臆病という言葉は出てこない。
「想像できないでしょ?」
「ええ、まあ……」
「私も想像しなかったわ。あの涼美が弱音を吐いたって」
「弱音……!?」
「まあ、とはいっても、かなみちゃんと会うのが怖いって話なんだけどね」
「ああ……」
 それなら、かなみも直接聞いた。

「本当はぁ、会うのが怖かったのよぉ……母さん、殺されても仕方ないくらい~、あなたのこと放って置いたからぁ……」

 思い出すのは再会したばかりの頃に聞いたあの声だった。
 あれは、確かに弱音だった、と今なら思える。
「母さん、私と会うのがそんなに怖かったんでしょうか?」
「そりゃあね……愛する娘から恨みつらみ言われるのって結構こたえるのよ」
「あ、愛する娘……」
「私もこたえるわよ。かなみちゃんから罵詈雑言浴びせられたら」
「なんで来葉さんがこたえるんですか?」
「――愛してるから」
 来葉はニコリと笑って言う。また、かなみは反射的にドキリとしてしまう。
「そ、そう言ってくれるのは嬉しいんですけど……」
「涼美も同じ気持ちだと思うわ」
「母さんが……?」
「だって親友だもの。そのぐらいの気持ちはわかるわ」
「なんだか、羨ましいです」
 来葉が何の恥ずかしげもなく、言うとかなみは少しだけ羨望がこみ上げてきた。
「離れていてもそれだけ信じられる人がいて……」
「何言ってるの、かなみちゃん。あなただっているじゃない、素敵な仲間が」
「……それはそうですけど、私なんかにはもったいないっていうか……」
「フフ、借金のせいで気後れしてるのね。大丈夫よ、いくら借金があってもあの娘達はかなみちゃんを見捨てたりはしないわ」
「そう言ってもらえるのは嬉しいです」
「もちろん、私もね」
「あ、ありがとうございます」
 かなみは赤面したので顔をそらす。
「涼美だってそうよ」
「母さんは私以上に借金ありますからね」
「ああ、そうだったわね。まったく母娘揃って金運に見放されているのね」
「来葉さん、酷いことさらっと言うんですね」
「ああ、ごめんなさい。かなみちゃんを傷つけるつもりはなかったの」
 そう言って女神のように微笑む来葉はある意味、あるみより質が悪いかもしれないと、かなみは思った。
「あ、そうだ。かなみちゃん、私とドライブしない?」
「ドライブ?」
 それは意外な申し出であった。
 しかし、未来が視える来葉からの提案だけあって、何か意味があるはずだと思えた。
「いいですけど、どこに?」
「いいところ」
 来葉はそう言って、かなみの手を引いて立たせる。
 はっきりいって、少し強引じゃないか。



「相変わらずなんですけど……」
「なあに?
「この車、凄く高いんじゃないですか」
「そう……?」
「なんていうか、黒って高級感がありますよね」
「客からの貰い物なんだけどね」
「え……?」」
 かなみは絶句する。
「自動車会社を経営している人からの依頼を受けたら、依頼料代わりにね」
「そ、そうだったんですか……来葉さんのお客って凄い人ばっかりなんですね」
「だから大したことないわよ。さ、行きましょう」
 かなみはシートベルトを締めると、来葉はエンジンを付ける。
 走り出すとすぐに高速に乗って、首都圏を出て行く。
 一体どこへ行くのだろうか、かなみは疑問に思ったが、来葉は答えてくれそうにないので聞かなかった。
 しばらく経ってから郊外のパーキングエリアにとまる。
「ひとやすみよ」
「乗り心地良かったです」
「ありがとう。お礼にジュース買ってあげるわ」
「え?」
 来葉は自販機でジュースを買う。
「はい」
「ありがとうございます」
 さっきはコーヒーを飲んだばかりだけど、という言葉をジュースと一緒に飲み込んだ。
「おいしいです」
「かなみちゃんに喜んでもらえてよかったわ」
「でも、私、来葉さんがこんなに良くしてくれるのに、なんにもお返しできなくていいのかなって思う時が……」
「かなみちゃんの笑顔が何よりのお返しよ」
「………………」
 かなみは気恥ずかしくなって缶で顔を隠そうとする。
「――あら、偶然ね」
 唐突に放たれた一言で、場に一気に緊張が走る。
「こんなところで、あなた達に会うなんて。これも縁かしら? それとも運命かしら?」
 和服で彩った魔性の美女・いろかは歌を口ずさむように言う。
「……来葉さん」
 かなみは戸惑い、来葉を頼るように呼びかける。
「大丈夫よ」
 来葉は一言そう言って、いろかと向き合う。

ネガサイド日本局九州支部長・いろか

 前に一度、オフィスにやってきて情報を提供してくれたが、決して油断ならない大敵だと、かなみは認識している。
 何しろ得体がしれないのだ。ここまでドス黒い邪気を放ちながら、甘い声で天使のように囁いてくるのだから、悪魔という他無い。
「偶然……というよりも、今日あなたがここに来ることはわかっていたから」
「噂の未来視ね。なんだかあなたの手の平の上で踊らされているようでいい気分じゃないわね」
 ウフフ、と、いろかは淑女のように笑う。
「やっぱり、踊るなら自分の意志でないとね」
「それについては同感ね。私はあくまで未来を視て、自分の判断で動くわ。自分で視た未来に躍らされるのはまっぴらゴメンだから」
「あら、見所あるじゃないの。どうにも魔法少女っていうのは私好みの娘が揃っているわね。
フフ、一人ぐらい私のもとに来てくれないかしらね」
 そう言って、いろかはかなみを見る。
 誘われている。しかし、この誘いには絶対にのってはいけないと思った。
「お断りよ、って、かなみちゃんは言っているわ」
 来葉が勝手にかなみの気持ちを代弁する。
「そう、残念ね。
――でも、私は執念深いのよ。欲しいと思ったものは必ず手に入れてみせるわ」
 いろかの瞳が妖しく光る。
 かなみは思わずすくみ上がる。こんな恐ろしい悪魔はカリウスと対面して以来だ。
 絶対にこの人に勝てない。この言い知れぬ威圧感を浴びるとそう認めざるを得ない。
(でも、だからって……負けて良いわけじゃない……!)
 そう思い、かなみは拳を握り締める。
 その様子を見て、来葉は満足げに笑う。
「しつこい女は嫌われるわよ」
「嫌われても、私のものになればいいのよ。
――別にあなたでもいいけど」
「……お断りよ」
 来葉はあっさりと受け流す。
「そうね、ウフフ。あなたは死神の鎌に魅入られているものね」
「………………」
「死神の、鎌……?」
 それは不吉なものを想起させるものだった。言った相手が相手なだけに来葉が心配になる。
「そんなことはどうでもいいことよ。それよりあなたはどうしてこんなところに?」
「散歩よ、ただのね」
「九州支部長のあなたが関東にただの散歩でくるというの?」
 来葉は問いただす。これだけでも命懸けの行為だとかなみには思えた。
 この女は気分や機嫌一つで簡単に自分達の生命を奪いに来る。
 今の問いかけで、もしもその機嫌が斜めに傾いたら……そう思うだけで生きた心地がしなくなる。
「フフ、そうね。いずれ自分のものになる土地の散歩ってそそられるものがあるじゃない」
「それ、どういう意味……?」
 かなみにとって聞き捨てならないを聞いて、問いかけた。
 ここは自分が生まれて、育った場所だ。それが悪の秘密結社、しかも九州からやってきた怪人に勝手に我が物顔されていいわけがない。
「知ってた? 関東は今誰のものでもないのよ」
 いろかはあっさりと答える。
「まるで世界は全てネガサイドのものだって言いたげな物言いね」
 これには来葉も黙っていなかった。
「ええ、事実そうだからね」
「……傲慢ね」
 来葉は吐き捨てる。
「ウフフ、関東と中部、東北の支部長、それに十二席の一人ヘヴルを倒してその気になっているみたいだけど、見くびらない方がいいわよ。
この程度で揺らぐほど、ネガサイドは脆弱な悪の秘密結社じゃないから」
「ええ、重々承知しているわ」
 いろかと来葉は睨み合う。
「まあ、今日のところはその忠告にきたわけじゃないわ。さっきも言ったとおり、私は今日はただの散歩のつもりで来ただけだから。
ウフフ、どうしてもというのならついてきても構わないけど」
 いろかは敵であるかなみ達の前にも関わらず背を向ける。
「ついていきましょうか?」
「で、でも……」
 罠かもしれない、と、かなみは警戒する。
「大丈夫よ、ここで私達が殺される未来は無いわ」
「そうですか……」
「……でも」
「怖いのはわかるわ。でも、ここで怖気づいたら情報は手に入らないわ」
「来葉さん……」
 来葉は不安がるかなみの手を握る。
「――!」
「一緒だから大丈夫よ」
「……は、はい」
 来葉はちょっと強引だけど、それでもいまはとてつもなく心強いと思った。



 いろかに連れられて、パーキングエリアの施設に入る。
 施設といっても、トイレとちょっとした食事処があるぐらいで珍しいということはない。
 しかし、いろかが案内しているというだけで何か裏があるのではないかと思えてしまう。
 どこへ連れて行くつもりなのだろうか。そんな疑問と不安が入り混じった視線の中、いろかは【関係者以外立ち入り禁止】のついたて看板を平気で抜けていく。
(……本当に裏があった)
 その先にあったのは非常階段に入る。
 塗装や装飾が一切無い殺風景な非常階段を下へ、下へ降っていく。
 一階から降りたので間違いなく地下に向かっている。
 もう、何メートルも降り続けている。
 おそらく、今はもう地下五階ぐらいだろう。
「この地下には何があるのかしら?」
 来葉はいろかに問いかける。
「さあ、行ってみてからのお楽しみよ」
 いろかは楽しげに答える。
「ここはあなた達の基地?」
「ええ、そうじゃなかったら、こんなに深い地下室なんて意味なく作らないわよ。人間は」
「……こんなところに基地を作って何が目的なのよ?」
 かなみが問いかけると、いろか一瞬振り向く。
 その仕草だけで思わずかなみは怯む。
「さあ、わからないわね」
「……わからない?」
「ウフフ、彼が何を考えているのか、わかる人がいる?」
「彼?」
「――カリウスよ」
「――!」
 その名前を聞いただけで反射的に身構える。
「関東支部長・カリウス。彼はちょっと前の関東戦争から姿を消しているわ。生きているか死んでいるかすらわからないのよ」
「支部長のあなたでも、それはわからないことなの?」
「ええ、支部長といっても、所詮は一地方を納めている役職に過ぎないものなのよ」
「………………」
 驚きのあまり、言葉が出なかった。
 ネガサイドのトップはカリウスやいろかのような支部長と呼ばれる怪人達だとばかり思っていたからだ。
 この上にさらに強大な敵がまだまだいる。その現実が受け止められずにいた。
「ネガサイドは関東や中部みたいな地方の支部長の上に役員がいるのよ。その数は十二席あるから最高役員十二席と言われているわ」
 来葉はかなみに説明してくれる。
「最高役員十二席……」
「あら、よく知っているわね」
「あなた達のことはよく調べさせてもらっているわ」
「そっちの娘は知らなかったみたいだけど」
「あまりいっぺんに教えると混乱させちゃうからね」
「フフ、気遣いね。知らないことがいいことはいくらでもあるものね」
 階段をさらに降りる。
 もう地下十階ぐらい降りている気がする。
 一体どこまで降り続けるのだろうか。
「エレベーターはないのかしら?」
 来葉がそんな不満を漏らす。かなみが言いたかったことだ。
「文句ならカリウスに言いなさい。私が作ったんじゃないんだから」
「いない人に文句を言っても仕方ないじゃない。かなみちゃんも疲れたし、いい加減にしてよ、って言いたそうにしてるわよ」
「ちょ、来葉さん!」
 そんなこと言ったら、矛先が自分にも向いてしまうではないか。
 ネガサイドと戦うことは成り行きで仕方ないと諦めるにしても、これは少々理不尽に思えてならない。
「これぐらい我慢しなさい。
――出来ないならさっさと消えなさい」
 かなみは鳥肌が立つ。
 本当ならすぐにこの場から逃げ出したい。
「怖がることはないわ、かなみちゃん」
 その恐怖を来葉が和らげてくれる。
(来葉さんが余計なこと言わなければ……)
 ついでに心の中で、文句を言う余裕まで出てきた。
 階段をさらに降り続ける。
「もう二十階ぐらい降りたんじゃないですか?」
 かなみはたまらず来葉に訊く。
「そうね……地下五十メートルぐらいかしら」
 それだけ深い地下室なのにどうしてエレベーターを作らなかったのか。
 本当にカリウスは理解できない怪人だったんだと、かなみは改めて思った。
「ようやく終着ね」
 いろかはそう言うと、階段は終わる。
 その先にある廊下は暗闇であった。
 灯りはただ道だけを照らしており、ただ進めと言われているように思えた。
 天井が見えない、壁が見えない。
 自分がどこにいるかわからない。
 地下深い暗闇をただ道なりに歩かされる。
「………………」
 暗闇の廊下に入ってからずっと無言が続いている。
 場が重苦しくなる。密閉空間に閉じ込められたかのような圧力すら感じる。
(この先に何があるのか……)
 ただ、かなみはそれだけが気になった。
 あのカリウスが作った地下室。それだけで不気味なことこの上ないというのに、いろかに案内されてやってきているという事実がまた恐怖を掻き立てられる。
「――怪人はどうやってできるか知ってる?」
 不意にいろかがかなみに問いかけてくる。
「そ、そんなの……あんた達が、ダークマターの魔法をかけて怪人にしているからに決まってるじゃない」
 かなみは震える声で答える。
「そうね、それが一番手っ取り早く簡単に怪人を作る方法ね。
でも、それだと本当に強い怪人はできないの」
「………………」
「私達、ネガサイドの幹部に連なるような強い怪人はダークマターでは作れない
――では、私達はどうやって生まれてきたか」
「自然発生、ね」
 来葉は笑う。
「ウフフ、そう正解よ」
「多くの怪人は自然発生で生まれる。あなた達は自然から出来た魔力の吹き溜まりから生まれてきた」
 かなみはこの前の泥の怪人を騒動を思い出した。
 あの怪人は公園の砂が急に動き出して噴水の水を浴びて泥の怪人になった。
 あれは公園にたまたま魔法少女になれないものの、高い魔力の素質を持った子供が砂遊びをしていたから出来てしまったものかもしれない、と、後からトリィに聞かされた。
「そうね、実のところを言うと私も詳しくは知らないの」
「それは意外ね。
支部長だったら知っていると思っていたわ」
「そういうことは専門家に任せる主義なの
魔力の吹き溜まりがどうやって発生するのか。どれだけの魔力が溜まったら、それが怪人として生まれる卵と成りうるのか。
カリウスはそのあたり、知っていたみたいだけど」
「その答えがここ、ということなのね?」
「ええ――見るもおぞましい怪人生産工場よ」
 いろかは指をパチンと鳴らす。
 すると灯りがついて辺りを照らす。
 そこにはずらりと怪人が立ち並んでいた。
 さながら動物園のような多種多様さであった。
 魚、馬、牛、豚、鶏、やぎ、どれもこれもが見覚えのある何らかの動物を連想させる姿をしている。
「――!」
 かなみは思わず身構える。
「大丈夫よ、こいつらは私の命令しなければ襲いかかったりはしないわ」
 いろかはそう言って人形を愛でるように怪人達を見回す。
 というより、本当に人形のようだった。ただ今にも襲い掛かってきそうな雰囲気だけは身体中からにじみ出ている。
「既に支配下においてたわけね」
 来葉が問いかけると、いろかはフッと鼻で笑う。
「いいえ、私も初めてきたわ」
「…‥え?」
 意外に思った。
 どうみても我が物顔で歩いているのだから、既にこの地下室の主になっているものだとばかり思ったからだ。
 いや、実際に主になろうとしているのだろう。いろかにはその風格がある。一瞬にして辺りの怪人を支配する女帝のそれだ。
「だからといって、何が問題があるわけ? ウフフ、ないでしょ」
「……ありすぎるわよ、まっとうな組織なら不法侵入罪ね」
「まっとうならね」
 いろかは笑う。
「話の続きよ。ここでカリウスはダークマターに頼らない怪人の生産を行っていた。
そうすれば、より純度の高い魔力を持った強い怪人が生まれやすいってことを彼は知っていたのよ。
「ダークマターは大気中に散らばっている魔力を無理矢理凝縮して怪人にしているから、魔法少女に比べたら力は格段に落ちるらしいのよ」
 来葉はかなみに補足して説明する。
(格段に落ちる……結構苦戦すること多いんだけど、死にかけたこともあるし)
「本当によく調べているわね。そうよ、ここで生まれた、この怪人達は純粋な魔力によって生まれた精鋭よ」
「純粋な魔力……それはどうやっって集めるものなの?」
 かなみは恐る恐る訊いた。
「方法はいくつかあるわ。例えば自然の中に空気のように漂っている魔力をかき集める。人間が雨水をタンクに溜めるようにね。ただ、今回はもっと効率的な方法を使ったみたいよ」
「もっと、効率的な方法……?」
「――人間を使ったのよ」
 いろかは妖しく微笑む。
 その笑みは悪魔のように残忍で、恐ろしさを感じた。
 人間を使った。
 それはまるで生贄。人間の生命を使って怪人を生み出したかの物言い。
 いや、実際使っているかもしれない、人間の生命を。
 そんなことを平気でしそうなのが悪の秘密結社ネガサイドであり、この女はそんな魔性を持っている。もちろん、カリウスも。
「使った……」
「フフ……ダメよ、いけない想像しちゃ」
 いろかの言動はあらぬものを想像させる意味を含めているように感じた。
「い、いけない!?」
「確かに、死は一時的に人間の中に宿っている魔力を莫大に高めることができる」
 来葉の声に怒気がこもる。
 それは憎悪なのか、、後悔なのか、いずれにしてもとてつもない感情が来葉の中で蠢いているのが視える。
「――でも、それはあくまで一瞬のこと。
一度死んだ人間に魔力が宿ることは二度と無い」
「ええ、そうよ。だから私達ネガサイドが人の生命をつかうのは非常手段のときだけ。
人間の生命は地球よりも」
「よくもぬけぬけと――!」
「く、来葉さん……」
「ウフフ、怖いわね。そういう顔もできるのね、もっと達観しているかと思ったわ」
「達観できるほど人生経験を積んだわけじゃないからね。
――それで、ここではどういう方法で人から魔力を掻き集めたの?」
「その答えはこの先にあるわ」
 いろかはそう言って鋼鉄の扉を指す。
 その扉は見るからに重々しく、おぞましい秘密が隠されていることを示すかのようにそこにあった。
(人を使って、一体何を……?)
 かなみは恐怖で震えそうになりながらも、知らなければならないといった使命感みたいなものが芽生えた。

――本当におぞましいことだったら、やめさせなければならない。

「あなた達も知っているとおり、人間の感情の起伏は大きな魔力を生む。
 正義、勇気、希望、愛、闘志……俗に言う正の感情があなた達魔法少女の魔力の原材になっている。
 反対に私達ネガサイドは、
 怨恨、嫉妬、激怒、悲嘆、後悔……負の感情が相性がいいみたいなの。まあ、どっちも炎にくべる薪であることには変わりないけどね、ウフフ」
「負の感情……!」
「少なくとも、ここから正義があるとは感じられないわね」
 来葉の意見にかなみも同感だった。
「それはそれで素敵だったんだけどね。
――残念ながら、想像の通りおぞましいものよ」
 いろかは扉を開ける。
 その先にあったのは、――自転車であった。
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