まほカン

jukaito

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第42話 泥濘! 少女は降りかかる災厄を自らの手で払う(Bパート)

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 結局、萌実が折れて三人でかなみの部屋にいくことになった。
「あ~汚い部屋ね」
 萌実は第一声にそう言った。
 萌実がこの部屋を見た瞬間にこういうことを言うのは予想できた。ただ、わかっていても、いらつくことには変わりない。
「まるであんたの心みたいね」
「ムカッ!」
 このまま、取っ組み合いの戦いが始まりそうな勢いであった。しかし、この雰囲気が翠華にとってはありがたかった。
 少なくとも二人とも沈黙して重苦しくて辛いことにならない。
「まあまあ二人とも」
 かなみと萌実は睨み合う。
「じゃあ、お風呂入れてきますね」
「え、今日も?」
「は、はい。翠華さんにも入っていただきたいので」
「じゃあ、私が一番風呂ね」
「なんでそうなるのよ!?」
 かなみは文句を言う。
「年功序列なんだから、翠華さんが一番よ」
「それもちょっとおかしいんだけど……」
 翠華は苦笑する。
「ほら、翠華もああ言ってるんだから私が一番でいいでしょ」
「だからなんでそうなるのよ!」
「まあ、かなみさんが一番でいいんじゃないの? 家主だし、泥かかっているんだから、ベタベタでしょ?」
「そうなんですよ、出来ればはやくおとしたいんですけど」
「だったら、かなみさんが一番でいいじゃない?」
 翠華は萌実に言う。
「そうはいってもね、譲るつもりはないわよ」
「そこは譲ってもらえないかしら?」
「私は翠華さんに譲りますよ」
「……話がややこしい」
 翠華は頭を抱える。
「面倒くさいね」
「ウシシシ、昨日みたいに一緒に入れたら良いのにな」
 ウシィはとんでもない一言を何気なく言う。
 思い悩んでいた翠華は「それだ」とうっかり思ってしまった。
 しかも、それを提案したら萌実は気まぐれであっさりオーケーした上に、かなみも「翠華さんがそう言うなら」と渋々ながらオーケーしたのだから、トントン拍子に話が進む。
「どうしてこうなったの……?」
 先に翠華と萌実は浴槽に浸かる。そのあとにかなみが入ってくる予定だ。
「はあ、狭いわね……」
 萌実はため息をつく。
「なんで、オーケーしたの?」
 翠華は今更ながら疑問を萌実に投げる。
「面白そうだから」
 萌実は憎たらしい笑顔を浮かべて答える。
「………………」
 翠華は非情に困った。
 二日連続で一緒にお風呂に入るなんて、神経が保ちそうにないと思っていないが、まさにそれが現実になってしまった。
(でも、でも、今日は……萌実がいるから、二人っきりじゃないし……!)
 翠華は必死に自分に言い聞かせて理性を保とうとする。
「大丈夫? 息、荒いけど」
 萌実は面白そうに問いかけてくる。
「え、だ、大丈夫よ!」
「何をそんなに焦ってるの?」
「え、ええ、えぇ、私、のぼせるのが早いから!」
「それにしちゃ早すぎじゃない」
「早いから!」
 翠華は必死に言い訳をする。
 そこへガタンとかなみが風呂場に入ってくる。
「あ、やっぱり狭いですね。ごめんなさい、翠華さん」
 かなみは苦笑しながら言う。
「い、いいのよ。それよりかなみさん、しっかり身体を洗っておいて」
「はい。でも、この泥、魔力じゃ落ちないのに、水やボディソープで落ちるから不思議ですね」
 それは確かに思った。
 魔力で泥を落とそうとしたのに、一切落ちなかった。だが、昨日の風呂で身体を洗ったことで落とせることはわかっている。
 というわけで、最初に泥をかぶったかなみがまず身体を洗ったことで落とそうとする。
(ああ、かなみさんの身体が泡に隠れて……)
 そのおかげで、ある程度かなみを見ることができる。
「泥が落ちていって気持ちいいですね」
「……そうね」
 翠華はそう答える。
 昨日、翠華は風呂はこの泥を落としていったのだが、泥を落とす時に気持ちいいとか、悪いとか、そういった感覚は覚えていない。かなみと一緒の空間で丸裸になっている事実に、精神を平静に保つだけで精一杯でそれどころではなかったのだ。
 今日もそうなので、かなみが何度話しかけてきたも、相槌を打ち続けてしまった。
「それじゃ、次は翠華さんですね」
「え、ええ」
 翠華は浴槽から出て、代わりにかなみが入る。
「まさか、あんたとこんなことをするなんてね」
 萌実とかなみは浴槽で対面する。かなみは警戒している強張っているが、それに対して萌実はどこか楽しげに笑顔を浮かべている。もっとも、萌実は楽しみながら人を撃ち殺すような女の子なので油断はできないせいもある。
「私だって思わなかったわよ」
「同じ部屋で寝泊まりは何度もしてたのにね」
「お、同じ部屋……!?」
 翠華はその言葉に凍りつく。
「それはネガサイドにいたときの話よ、今は関係ないわ!」
「フフ、それでも事実には変わりないわ。一緒のベッドで寝たこともあったわよね」
「い、一緒のベッド……!?」
「そ、それはそうだけど……」
「なんなら、今夜も一緒のベッドで寝てみる?」
「うちにはベッドなんて高級なものはないわよ」
「アハハハ、そうだったわね、貧乏だものね借金持ち」
「ムッ!」
「怒った? なんならここで始めてもいいのよ」
「――いいわよ」
 かなみは挑発に乗る。
「ちょ、ちょっと、かなみさん!」
 それで翠華は我に返って止めようとする。しかし、遅かった。

――プシャ!

「ん!?」
 萌実の顔面に思いっきり水が発射される。
 かなみが手に持っていたのは水鉄砲であった。
「な、なんでそんなものが……」
 これには萌実も驚かされた。というか、桶とソープ類ぐらいしかないとばかり思っていたのだ。
「みあちゃんから貰った水鉄砲!」
 萌実に一泡吹かせることが出来て、かなみも得意満面であった。
「驚いたでしょ? いつもバカにしているからそういう目にあうのよ!」
「ええ、驚いたわ。フフフ、あんたっていつも私を怒らせてくれるわね! 愛おしいほどに憎たらしいわ!」
 かなみと萌実は睨み合う。
(……心臓に悪い)
 翠華は早く出てしまいが、放っておけないジレンマで胸が痛んだ。



『どう、楽しんでる?』
「ええ、退屈はしてないわ」
 電話越しの相手に向かって、萌実は笑って答える。
『そう、よかった』
「案外心配性ね。もっと放任主義だと思っていたけど」
『そりゃ、あなたのことはね……事情があるから』
「いい加減、その事情あたり教えてもらえると嬉しいんだけど」
『嫌よ。それ話したら私の前から消えるつもりでしょ?』
「今あんたの前から消えても良いんだけど」
『――嘘ね』
 電話越しの相手から萌実は嘘を見抜かれる。
「どうして、わかるの?」
『わかるわよ。それがあなたにとって是が非でも知りたいことだって知ってるから』
「……嫌な女」
『自覚はしてるわ、それでも言われると傷つくんだけど』
「あんたが傷つくようなタマ? ハハ、笑えるわ」
『まったく……どうして、そう捻くれているのよ。あの娘はそんなんじゃなかったのに』
「あの娘……」
 その言葉で萌実の目は鋭くなる。
『ああ、口が滑ったわ。これ以上、話すとボロが出そうだから切るわね』
「まったく、何の用でかけてきたのよ」
『あなたのことが気になってね、かなみちゃんと仲良くやれてる?』
「仲良くしたいとは思わないわね」
『向こうはそう思ってないかもよ』
「まさか。それこそ冗談にならないんだけど」
『どう冗談にならないか、聞かせて欲しいところなんだけどね』
 ここで、萌実は電話を切る。
「なんなのよ、まったく……!」
 一人吐き捨てる。
「金型あるみ……あいつは私に何をさせたいっていうの?」
 それも知っておかなければならない。
 金型あるみもカリウスも何を考えているのかわからない。それゆにそんな連中の思惑にまんまとはめられているようなきがする。
 好き勝手振る舞わさせてもらっているようで実は利用されている。そんな状態が心底気に食わない。
(別にこのまま姿を消したって……)
 そう思うときだってある。
「萌実!」
 そんな中に、あの憎たらしい声が自分を呼んでくる。
「勝手に何やってるのよ!? ちゃんと仕事しなさい!」
 かなみはやってくるなり、即座に文句を言ってくる。
「仕事なんてちゃんとやってられないわよ」
「ボーナスがかかってるのよ!」
「別に……食って寝るだけのお金には困ってないし、あんたみたいに借金があるわけじゃないし」
「なんですって!」
「二人ともやめて!」
 翠華が仲裁に入る。この女も真面目なことだと萌実は思った。
「今は仲間なんだし、ケンカは良くないわ」
「仲間、ね……私にはそんなもの必要無いわ」
「どうしてそんなことを?」
 翠華は疑問を萌実に投げる。
「ネガサイドにだって、仲間はいたんじゃないの?」
「――!」
 そう言われて萌実の表情が一変する。
「なか、ま……」
「どうしたの?」
「翠華さん、こいつに仲間なんていないんですよ」
「ええッ!?」
 翠華の驚いた顔を見て、少しだけ萌実はいつもの澄まし顔に戻る。
「ええ、そうよ。どうやら私は相当大事にされてたみたいでね、他のネガサイドの連中とは会話以外させてもらえなかったわ」
「そ、そうだったの」
「おかげでこうしてあんた達と行動して撃ち殺す時にも余計な仲間意識を持つこともないわ」
「………………」
 翠華は絶句する。
 性格や物腰はともかく、萌実はあまりにも魔法少女らしくて忘れかけていた。
 萌実は元々ネガサイドであり、こちら側にいるのは本来ありえない。なのに、萌実は魔法少女の側についている。それは、かつてのネガサイドの仲間と戦って倒しているということになる。
 つまり、自分だったらかなみやみあと戦っているようなものだ。
 そんなことになったら、翠華は戦いたくないし、戦えない。何よりも想像するだけで辛くて耐えられない。それを、萌実は平然と割り切ってネガサイドの怪人を倒している。
(いったい、どういう神経をしているの……?)
 萌実から得体のしれなさを感じずにはいられない。
「だからといって、あんた達と仲良くなるつもりもないんだけどね」
「だったら、どうして私達といるわけ?」
「ま、あんたが借金で苦しむところのを見るのは好きよ」
「なんですって!」
「かなみさん、やめて。萌実も挑発しないで」
「挑発が私の生き甲斐よ。それに乗る方が悪いのよ」
「よく言うわよ、本当はかまって欲しい寂しがり屋のくせに」
「へえ、誰が寂しがり屋だって?」
「他に誰がいるっての言うよ」
「先輩がいなくちゃ、心細いあんたのことじゃないの」
「翠華さんは関係ないでしょ!」
「……か、関係ないって……」
 翠華はショックを受ける。
「え、いや、そういうわけじゃ……翠華さんが部外者ってそういう意味で言ったわけじゃないんですよ!」
「アハハハ、とんでもなく面倒ね、あんた達」
 萌実は嘲笑する。

――かなみちゃんと仲良くやれてる?
――向こうはそう思ってないかもよ。

 そんなやり取りを思い出す。
(そんなわけないじゃない。私も仲良くしたいと思わないし)
 そうほくそ笑む。
 今日は休日の昼間だけあって、遊具や砂場で遊んでいる子供達の姿が見える。こんなところで怪人が暴れだしたらひとたまりもない。
「……それにしても、人に危害を加えたって報告は来てないんですね」
「ええ、そうね。なんとも不思議な怪人ね」
「そういえば、翠華さんが昨日言ってたんですけど」
「何かしら?」
「魔力の痕跡が一箇所を通ってるって……」
「え、ああ、それね」
「どこなんですか、それ? 泥の怪人が現れるヒントかもしれないので」
「ヒントね……そうなるとは限らないけど、泥の怪人が通っている場所はね、
――あそこよ」
 翠華が指差した先にあったのは、噴水であった。
「噴水ですか?」
「ええ、魔力の痕跡を辿っていくとあそこに集中している感じがするわ」
「うーん……何か関係があるんでしょうか?」
「関係大ありなんじゃないの。泥は水が無いと出来ないもの」
「……え?」
 萌実に言われて面を喰らう。
「言われてみれば確かにその通りね」
「泥……あの怪人、噴水を浴びて泥になってるんでしょうか?」
「じゃあ、あの怪人は元は泥じゃなかったってことになるんじゃない?」
「……え?」
「鈍いわね、水を浴びて泥になるんだったら、水を浴びる前は泥じゃなかったってことじゃない」
「ああ!」
「泥が水を浴びる前になってるものっていったら……って、ここまで言ったらわかるでしょ。いくら鈍いあんたでも」
「バカにして……」
 かなみはムッとする。
「泥が水を浴びなかったら砂じゃない、そんなの常識よ」
「となると、砂場あたりも怪しいんじゃない」
「そうよ。あの泥の怪人は砂から水を浴びて泥になっている、って考えられるわ」
「それにしても萌実、どうしたの? 急にまともなこと言い出して……」
 かなみは意外そうな顔をして訊く。
「別に、ただ思ったことを言ってるだけよ」
「ふうん……」
「それで、砂場のことなんだけど」
「「「わあああああああ」」」
 翠華が言いかけた時、突然砂場の方から声が上がる。
「何!?」
 かなみ達は砂場へ向かって走る。
 案の定、泥の怪人が現れていた。それを小学一年ぐらいの子が、わあわあ騒いでいる
「何が起きてるんですか?」
「怪人が出てきて、子供が喜んでる……?」
 今までの怪人と命懸けの戦いを繰り広げてきたかなみ達からしてみれば、信じられない光景であった。
「あれ、倒して良いんでしょうか?」
 かなみは翠華に訊く。しかし、本当のところ、翠華もよくわからない。
 怪人は子供に危害を加える様子はない。むしろ、子供とじゃれている印象すら与える。
 これで怪人を強引に倒してしまったら、こちらが悪者じゃないのかと危惧してしまう。
「倒さなきゃ、ボーナス入らないでしょ」
 正論を萌実から言われた。

バキュン!

 その直後に、いきなり萌実は銃を撃った。
 撃たれた泥の怪人はバラバラに飛び散った。
「うわああああッ!?」
 子供達は悲鳴を上げる。
「ちょっと、何やってるのよ!」
「ん、絶好のチャンスだと思って」
「だからって子供がいるのに銃を撃つなんて!」
「逃げられたら、また骨折り損でしょうが。それにまだ仕留めきれちゃいないわ」
「え……?」
 飛び散った泥が砂場の砂を巻き上げて、泥の怪人として形を成す。
「おおおッ!?」
 子供達は歓声を上げる。
「あれ、倒せっていうんですか?」
「そうね、とりあえずあそこの木陰に隠れてから変身しましょうか」
「え、ええ、はい」
 魔法少女の正体は誰にも知られてはいけない。
 それがうちの会社の大原則であることをかなみはうっかり忘れていた。今子供達が見ている中で変身したら一発でバレてしまう。銃を撃ったことは、また別件で処理されるだろう。
 ひとまず、かなみ達は木陰に隠れて変身する。
「マジカルワークス!!」
 かけ声でバレないだろうか、心配になったが、マニィが何も言ってこないところ大丈夫なのだろう。
「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!」
「青百合の戦士、魔法少女スイカ推参!」
「暴虐と命運の銃士、魔法少女モモミ降誕!」
 盛大に名乗り口上を木陰から上げる。果たして、子供達はこれをどう受け取っているのだろうか。
「さあ、倒しましょう!」
 カナミは張り切って、飛び出す。
「子供もいるんだ、サービスを忘れないこと」
 肩に乗ったマニィは忠告する。
「わかってるわよ。そぉりゃッ!」
 カナミは魔法弾を発射する。

パン! パン!

 魔法弾で泥の怪人は次々と弾け飛ぶ。
「おおッ!」
 子供は驚く。
「お姉ちゃん、凄い!」
「まるで魔法みたい!」
「魔女ってやつか!」
 カナミはずっこける。
「魔女じゃなくて魔法少女よ! ちゃんと動画みなさい!」
「宣伝を怠らない君も中々だね」
「商売熱心なのよ、それで怪人は!」
 飛び散った怪人の方を見やる。
 怪人は弱々しく、砂場を出ようとする。
「逃さないわよ!」
 カナミは魔法弾で追撃する。
「今日という今日は! 絶対に! 逃がさない!」
 降り注ぐ魔法弾が泥の怪人を次々と葬っていく。
「お姉ちゃん、こわい」
「やっぱ悪い魔女だぜ」
「魔法少女なんて嘘っぱちだろ」
 子供達の歓声で耳が痛い。
(気にしない、気にしない……あいつを倒さないと、ボーナスがもらえないから!)
 そう自分に言い聞かせて、ドロロを追撃する。
「これで全滅よ!」
「いや、まだね!」
 モエミは高く飛んで、その銃身を砂場に向ける。
「……え、ちょ、モエミ!」
 カナミが気がつくと、止める間も与えず、砂場に弾丸を放つ。

バシャアアアアアアアン!!

 砂が噴水のように飛び散る。
「きゃあッ!?」
 カナミは思いっきり砂を浴び、身体中砂まるけになった。
「な、なんてことするのよ、子供達は大丈夫なの!?」
 巻き込まれた子供達が心配になって、すぐに目を開ける。
 魔力で視力強化すれば、巻き上がった砂煙の中でも砂場を見渡すことが出来る。
「こっちは大丈夫よ、カナミさん!」
 スイカが子供達の前に立って守ってくれたようだ。
 あの突然のモエミの行動にすぐ対応するなんてさすがだ、とカナミは思った。
 でも、それもこれもモエミがそんなことしようするのが悪い。
「モエミ!」
 カナミは文句を言おうと、降りてきたモエミを呼ぶ。
「うるさいわね……」
「うるさいって、あんた自分が何をしたか」
「ええ、わかってるわ。これで怪人はもう復活できないわ」
「え、どういうこと?」
「泥が出来るのに必要なのは砂と水。それがある限り、どんなにダメージを与えてもすぐ復活する」
「なるほど、それで攻撃しても次の日には復活していたのね」
 萌実がそれを当てたのは釈然としないが、何にしても怪人に対する対処法がわかった。
「もう回復用の砂は巻き上げたし、噴水は遠い。これなら確実に倒せるわ」
「ちょっと、強引過ぎるけど……」
 カナミは苦言を呈するが、モエミはどこ吹く風で銃口を怪人へ向ける。
「これでチェックメイトよ」



「これで本当に終わりよね?」
 かなみは息を切らして、確認する。
「徹底的にやったからね、怪人の方に同情するわ」
「確かに徹底的だったわね」
 翠華は唖然とドロロを蹴散らした様を振り返る。
 それはもう圧巻であった。
 カナミは鈴を飛ばし、モエミは銃弾をこれでもかと撃ち込んだ。
 もう数の暴力と言ってもよかった。無数の魔法弾と銃弾に晒された怪人は憐れにさえ思えた。あれではさすがにもう復活はできないだろう。
 念の為、トリィが空からドロロが復活してこないか監視している。
 その連絡が来ないということは、復活してないのだろう。というか、あれだけやってまだ復活してきたら、もう倒す手段は無いんじゃないかとさえ思う。
「一時間……」
 カナミ達は公園近くの喫茶店でコーヒーを飲みながら時計を見る。
「もう出てこないでしょ、完全に消滅したと考えていいわ」
「あ~くたびれた……」
 かなみはドタンとテーブルに突っ伏す。
「そうね、今回は連日の出動だったし」
「あんたは砂まるけだしね」
「それは萌実のせいでしょ! ああいうのは事前に打ち合わせして」
「そうしたら、あんたが砂まるけにならなくてつまらないでしょ」
「それじゃ、私をああいう目にあわせるために」
「今頃気づいたの、中々愉快な姿になったじゃない」
「こんの……!」
 かなみは萌実を睨みつける。
「勝負よ! 今日という今日はきっちり優劣決めてやるわ!」
「ああ、それいいわね。二度と楯突かないように徹底的にやってやろうじゃない!」
「ちょ、ちょっと二人とも……」
 もう何度目かわからなくなった翠華の仲裁であった。
「どうして二人はそんなに仲が悪いの……」
「だって、向こうがちょっかいかけてくるからです」
「そのちょっかいに乗ってくるあんたが低俗なのよ」
「ほら!」
「かなみさんもなんだか楽しそうね」
「え、どこがですか!?」
「私にはそう見えるわ」
「翠華さん、からかってるんですか?」
「え、本音なんだけど」
「翠華さん、味方だと思ってましたのに」
 かなみは立ち上がって店を出て行く。
「え、か、かなみさん!?」
「上手いこと、逃げたわね」
 萌実は鼻高々に言う。
「かなみさんは逃げないわよ。ただちょっと困惑しただけよ」
「そう……まあ、どっちでもいいけど」
「かなみさんと仲良くできないの?」
「……笑える冗談ね」
 しかし、そう答えた萌実の目は笑っていない。
「どうしてそこまで頑ななの?」
「さあね、元々敵同士でしょ、私達」
「今は味方でしょ」
「それもいつまでの話だが」
「――いつまでも」
 翠華の一言に萌実は目を見開く。
「社長ならそういうでしょうね」
「あはは、よく教育が行き届いてるようで」
「みっちり鍛えられたからね」
「それで隙がないわけね」
「隙があったらどうするつもりなの?」
「そりゃ、もちろん撃ち殺すわよ」
 萌実はニヤリと笑う。
 本気だ、と翠華は思った。汗が一滴したたり落ちる。
「……私やかなみさんは簡単にやられるつもりはないわよ」
「わかってるって、だから潰し甲斐があるんじゃない」
「本当にあなたは私達を潰したいの?」
「さあ、どうだか……」
 萌実は両手を広げておどけてみせる。
「少なくとも今日は楽しめたからやめておくわ」
 そう言ってスタスタと去っていく。
「……はあ」
 一人残った翠華は一息つく。
「生きた心地がしなかった」
「ウシシ、お疲れ様だぜ」
「あなたはいいわね、そうやって黙っていられて」
「ウシシ、俺達は必要以上に介入まではしないからな」
「そうだったわね」
 翠華はコーヒーをすすって、乾いた喉を潤す。
「……仲良くなれるかしら?」
 翠華はウシィに問いかける。
「ウシシ、さあな。だが、仲良くなりたいんだろ?」
「……それは、どうかしら?」
 この気持ちに自信が持てない。
 果たして、自分やかなみは萌実と本当に友達のように仲良くなれるのだろう。というか、なりたいのだろうか。
 わからない。昨日や今日接していたまったく距離感が掴めなかった。
 銃弾のようにどこへ向かうか、わからないアウトローといった表現が似合う少女。
 私が恋した魔法少女とはまったく違う彼女。
 果たして、仲良くなりたいのだろうか。
「わからないけど……少なくとも敵には回したくないわね」
 今はそれだけにしておこう。

――そして、翠華は三人分のコーヒー代を払うことにした。
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