まほカン

jukaito

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第42話 泥濘! 少女は降りかかる災厄を自らの手で払う(Aパート)

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「ボーナスキャノン!!」
 カナミは魔力の砲弾を撃ち放ち、怪人を倒す。
「カナミさん、お疲れ様」
「翠華さんもお疲れ様です」
 カナミは一礼する。
「今の敵は厄介でしたね」
「ええ、レイピアは効かなかったし、私もほとんど役に立てなかったわ」
 スイカはため息をつく。
「そんな、スイカさんが囮になって引きつけてくれなかったら簡単に倒せませんでしたよ」
「簡単に、ね」
 スイカは素直に肯定できなかった。
 ここは深夜の人気の無い公園なので、堂々と魔法少女の姿を晒して、怪人と戦える。たまにその戦いを見かけた人も特撮や映画の撮影かと思うことだろう。
 カナミとスイカはこの公園で、怪人と戦った。
 戦ったのは一言でいえば泥のような怪人。というより泥そのものといってよかった。
 真っ先にスイカのレイピアで突き刺したが、ダメージはなく、反撃を受けた。反撃といっても思いっきり泥をかぶせられた。次にカナミは魔法弾を撃ってみたが、これも泥を思いっきり撒き散らすだけの結果になった。
 結論から言って、スイカが注意を引かせ、カナミの神殺砲で泥をまるごと吹き飛ばして倒した。
 なのに、スイカは浮かない顔をしているのは、今回自分はまるで役に立っていなかったのではないかという自責の念からであった。しかし、カナミは別の解釈をしてしまい、誤解を招くことになった。
「あ、すみません、私のせいで泥をかぶっちゃって」
「あ、これは……!」
 確かにスイカはカナミの魔法弾で泥がかかってしまった。しかし、泥の攻撃を受けたのがほとんどだ。カナミはそれも含めて自分のせいだと思った。
「お詫びに私に何か出来ることはありませんか?」
「え、出来ることって……」
 スイカはカナミが何かしてやろうという気持ちだけで十分だったが、それだけじゃカナミの気持ちはすみそうにない。
 どうしようかな……
「あ、そうだ!」
 スイカが迷っているうちに、カナミはポンと手を叩く。
「私のウチに来てください」
「……え?」
 一瞬、スイカは何を言われたのかわからなかった。驚きは遅れてやってきた。
「ええぇぇぇぇぇッ!!」



 普段、変身を解くとどんな汚れも払い落とされて、変身前と変わらない綺麗な姿に戻れる。
 しかし、泥をかぶったことでこうむった不快な気分までは変身解除とともに払い落とせるものでもない、というのがかなみの言い分であった。よって、翠華はかなみに連れてこさせられた。
「………………」
 翠華は呆然とした。
「どうぞ、狭くて汚いところですが」
「そんな、シャワーを貸してもらえるだけでもありがたいわよ」
「え、シャワーですか?」
「シャワーを貸してくれるんじゃないの?」
「翠華さんのためにお湯ぐらい沸かしますよ」
「……え、でも、それじゃガス代がかかって」
「う……す、翠華さんが気にすることじゃありませんから!」
 想い人であるかなみからそう言われて翠華は得も言われぬ疎外感を味わう。
「そ、そう言われても……」
「翠華さんにはお湯に使っている姿が似合いますから是非はいってください」
「ああ、かなみさん……」
 そこまで言われては翠華も断れない。
「じゃあ、私お湯はってきますね」
 かなみはそう言ってバスルームに行った。
「かなみさん……優しいわね……」
 翠華は呟いて部屋を見回す。
 元々アパートの造りが年季が入ったものになっているためなのか、ちょっとやそっとの掃除ではどうにもならないホコリや汚れが目立つ。しかし、これは見方があれば味というか風情があるともいえる。
 物はそれほどおいてなく、可愛らしいシールやぬいぐるみといった小物類がそこかしこにある。
 きっとお金がないものだから、せめて小物だけは揃えておこうということだろう。そんな貧乏極まりのかなみの境遇に翠華は同情を禁じえなかった。
(だから、シャワーでいいって言ったのに……)
 しかし、かなみの心遣いが嬉しかった。
(こうなったらかなみさんもじっくりお湯につかってもらわないと)
 特に一番風呂なんかは最高だろう。
 問題はどうやってかなみを先に入れさせるかだ。今のかなみの態度からわかる通り、間違いなく自分よりも翠華を先に入らせようとする。
 どうやって譲るか。かなみを説得するのはとても難しい。
 一度言い出したらとことん押してくる。押しに弱い翠華としてはついつい負けてしまう。
「翠華さん、お風呂入りましたよ」
「あ~」
 あーだこーだ考えているうちに、かなみが出てきた。
「わ、私は今はいいわ。かなみさん、先に入って」
「え、でも、翠華さんは泥をかぶってしまったんですから、翠華さんが先に入るべきです」
「でも、入れてくれたのはかなみさんだし、かなみさんは家主なんだから、先に入るべきよ。私は後で十分だから」
「そうはいきません、誘ったのは私なんですから」
「かなみさんが」
「翠華さんが」
「………………」
「………………」
 譲り合いの争いは両者一歩も退かなかった。
 しかし、その想いはどちらも先に入って疲れを癒やして欲しいという思いやりからくるもので、だからこそ余計に譲れないのであった。
 本音を言えば、どちらも早く入って欲しいのだ。
 どちらが先に譲るか、どちらが先に遠慮するか。
「やれやれ……」
 マニィは面倒そうに口を挟む。
「そんなにお互いに一番風呂を譲りあうんなら良い提案がある」
「な、何よ……?」
「ウシシシ」
 ウシ型のマスコット、ウシぃが笑いながら言う
「お前ら一緒に入ればいいだろ」



「かなみさん……」
 翠華は不安げに問いかける。
「どうかしたんですか?」
「で、でも、私達女の子なのよ!」
「何か問題でもあるんですか?」
 翠華もかなみも同じ女の子なのだから、何も問題無いのに何を気にしているのか、かなみにはわからなかった。
「う、うーん……」
 そう、問題は何も無い。あるとすれば、翠華自身の気持ちだろう。
(ええい、ここまできたら!)
 翠華は一大決心する。
 マスコット達のバカな提案で、かなみと翠華は一緒に入ることになった。
 翠華とかなみは一緒に服を脱いで、一緒に入った。
 さほど広くない浴槽でかなみと翠華の肌が触れ合う。
「………………」
「翠華さんとこうして入るのは久しぶりですね」
「え、ええ……! そ、そうね!」
 そういえば、随分前にみあの家でお泊まり会をした時以来か。あのときは、翠華は耐えられずに途中で出てしまったが、今も耐えられそうにない。
「狭くてすみません…‥みあちゃんのお風呂ほど広くなくて」
「う、ううん! いいの、あっちは特別だから!」
「気を使わせてすみません」
「い、いいえ、私の方こそ!」
「……翠華さんってお風呂に入る度に慌てているような気がするんですが」
「そ、そう……!?」
「温泉旅行のときもそうでしたし、」
「ああ……」
 翠華は思い出す。
「あのときも、混浴だからといって慌てていたような気がします」
 別に混浴だから、慌てていたわけではないのだが。
「わ、私ね……のぼせるのが早くて」
 咄嗟にそんな言い訳を言ってしまった。
「それは大変ですね、早く身体を洗いましょう」
「え、ええ……」
 翠華は浴槽を出る。
「翠華さんって、身体つきいいですよね」
「え、ええッ!? そ、そう!?」
「引き締まっていて、スレンダーって感じで」
「す、すれんだー……?」
「私、たまにモデルの仕事したりするんですけど、翠華さんも十分できると思いますよ」
「そ、そうかしら……かなみさんがそんなに言うんなら……考えておく」
 翠華は照れ隠しにそう答えるだけで精一杯であった。
「かなみさんも……ウェストとか凄く引き締まっていて羨ましいわ」
「あ、これ……ただ食べていないだけですよ」
「ちゃんと食べなきゃダメよ、かなみさんまだまだ成長期なんだから」
 そうして、ゆくゆくはあの母親みたいなことになったら……男達が放っておかないだろうと想像してしまう。
「今度給料が入ったら思いっきり食べますよ」
「……だったらいいけど」
「あ、そうだ!」
「どうしたの?」
「今度の怪人退治でボーナスが出ると思いますから、一緒にご飯食べましょう!」
「い、一緒に……?」
「い、嫌でしたか?」
「いえ、そうじゃないわ。嬉しいわよ」
「よかった……翠華さんに嫌われたら、私どうしようかと思いまして」
「かなみさん……」
 それは完全に自分の台詞だった。
 かなみに嫌われたら、自分はどんな気持ちになってしまうのか。想像するだけで怖い。
 かなみに好かれたい。その想いだけで魔法少女をやっているといっても過言ではない。
 こうして、かなみと同じ空間にて同じ時間を過ごせるだけで十分過ぎるほど幸せな翠華であった。
「…………………」
 ただ、これ以上は身体と精神が持ちそうにない。
 胸の高鳴り、心臓の鼓動、何よりも風呂で温まったせいでのぼせて倒れてしまいそうだ。
「かなみさん、先に出るわ」
「そうですか」
 かなみは残念そうに言った。翠華だって本当はもっと一緒にはいっていたかった。



「……はあ」
 オフィスで翠華は一人ため息をつく。

――翠華さんに嫌われたら、私どうしようかと思いまして

 頭の中で何回も反芻している。
 かなみが自分のことを慕ってくれている。そのことはわかっているてとても嬉しいのだが。
(私は欲張り、ね)
 翠華は自嘲する。
 かなみが慕ってくれているのはあくまで先輩として。だから、どうしてもそれ以上を望んでしまう。
「できれば、友達に」
 思わず口にしてしまう。
 もっと対等でいたい。同い年の友達のように。
「かなみさん……」
「はい、なんでしょうか?」
「――ッ!?」
 翠華は飛び上がらんばかりに驚いた。
「か、かなみさん、いつの間にッ!」
「今呼びに来たところなんですが」
「え、あ、ああ、そう……!?」
「何かあったんですか? 凄く驚いて……」
「い、いいえ、なんでもないの! ちょっと考え事してて!」
「考え事ですか?」
 かなみは不審な視線を向ける。
 翠華はいたたまれなくなるが、すぐに平常心を取り戻そうと一息つく。
「それより、呼びにきたって何かあったの?」
「はい、実は昨日の件でトミィから話があるそうです」
 かなみと翠華は下の備品室に移動する。
 ここはマスコット達の作業スペースで、ラビィが動画を編集したり、イニィが魔法少女のグッズ作りに励んでいたりする。
 その奥で、ドギィ、トリィ、トミィが控えていた。
「みんな、揃ってどうしたの?」
 この三匹のマスコットが揃っていることは珍しかった。普段、トリィとドギィは外に出て、情報収集している。
 トミィはどちらかというとラビィと一緒に動画編集したり、資料を作っていたりするため、他の二匹に比べたらここにいることは多い。
「実はな……昨日、お前らが倒した泥の怪人・ドロロなんだが……」
 ネガサイドの関東と中部の戦争が終わってから、幹部と呼ばれる存在はかなみ達の前に現れていない。しかし、あるみが言うには怪人というのは自然に発生するものもあるらしく、今回の泥の怪人もそれだった。
 おそらくこの怪人は言葉を理解し、話すことができる程の知能は無いらしく、そのため、名前が無い。それでは不便ということで、ドギィがドロロと命名した。正直、かなみはこのネーミングセンスは微妙だと思った。
「退治したからボーナスって話じゃないの?」
「そういう話は鯖戸がする」
「じゃあ、何か問題があったのね」
「翠華ちゃん、察しがいいわね」
 トリィは優しく言う。その声を聞くだけで落ち着きそうなのだが、二人の心境は穏やかではなかった。
「そのとおりよ。今朝にそのドロロの目撃情報があってね」
 トリィがそう言うと、トミィがホワイトボードを出す。ボードには、この街の簡単な地図が書かれていた。
「君達が怪人を倒したのはこの公園、それで今朝目撃されたのがここだ」
 トミィが指したのは、公園を出てすぐ側の交差点であった。
「近くですね」
「でも、昨日確かに倒したはずよ」
「だったら、仕留め損なったんじゃないか」
「そんなはずありません、ちゃんと神殺砲でぶっ飛ばしましたから」
「確かにあんなもの、まともにくらったら怪人どころか幹部もただじゃすまないね」
 マニィもかなみに同意してくれる。
「あれで倒せたと思ったんだけど……」
「でも、目撃情報があるなら倒せていなかったということになるな」
 ドギィがそう言うとトミィはボードにマグネットを貼る。
「他にもこことこことここだ」
「そんなにあるの!?」
 そこまであると見間違いじゃ済まされない。
「事の真偽を確かめて、本当にお前達が倒したと証明されないと――」
「されないと……何よ?」
 トミィはわざともったいぶった言い方でかなみをじらす。
「ボーナスは出ない」
「なんてことよッ!?」
 かなみは絶叫した。
「……というわけで、再度撃退するために集まったわけだ」
「あ~暗くてジメジメして昼寝にはちょうどいいわね」
 萌実が入ってくる。
「遅かったじゃないか」
 ドギィは萌実に文句を言う。
「いいじゃない、それで、話って何よ」
「まあ座りなさい」
「はいはい」
 萌実はイスに座る。
「何で萌実を呼んだわけ?」
 かなみは不満を漏らす。
「今回のドロロ退治に協力してもらおうと思ってな」
「……え?」
「あははははは!!」
 萌実は大笑いする。
「私が、こいつに協力!? おかしくておかしいわ!」
「何がそんなにおかしいのよ!?」
「だって、私はあんたが大嫌いなのよ! それが協力って、どうやったらそういう発想になるわけ!?」
「ああ、もううっとおしい! なんでこいつに協力なんて頼もうとするのよ!」
 かなみはトミィに文句を言う。
「昨日の報告にあったドロロを聞く限り、どうにも翠華と相性が悪いみたいだと思ってな」
「そ、それは……」
 翠華は素直に認めた。
 何しろ、レイピアで突いたり、斬ろうとしたりしてもまったく効果が無い。ぬかに釘ならぬ剣に泥だ。
「有効手段としては、かなみの神殺砲というのは間違いないが、、他に有効な攻撃ができそうな魔法少女とコンビを組んだ方と思ってね」
「それじゃ、かなみさんと萌実がコンビを組むってことなの?」
「その可能性も選択肢として入れているってことだよ」
 トミィの返答に翠華は胸を締め付けられる想いがした。
「萌実とコンビって冗談じゃないわよ! 翠華さんの方が絶対に上手くいくわ!」
「かなみさん……」
 かなみを翠華を推してくれたことに感動する。
「へえ」
 萌実はそれを見て、ニヤリと笑う。
「ふうん、面白そうじゃない」
「萌実、何言ってんの?」
「あんたと組んでもいいって言ったのよ」
「はあ!?」
「そうなったら、あんたと翠華のコンビは解消ね、フフフ」
「か、解消……?」
 翠華はこの言葉にショックを受ける。確かに泥相手じゃレイピアは役に立たない。解消もやむなしなのだが、だからといって納得できるかといったらそんなに簡単じゃない。
「ま、待ちなさいよ! 第一なんで萌実が適任なのよ、トミィ?」
「それはなあ、敵は泥で出てきているから打撃や斬撃での攻撃は通じないということがわかっている。
まず、翠華はレイピアだし、これが役に立たないことは昨日証明されている」
「う……」
「同じように打撃主体の紫織も二の足を踏むことになる。みあも工夫次第でどうにかなるかもしれないが、基本がヨーヨーによる打撃では分が悪い。千歳の糸も泥相手ではすり抜けてしまうだろうと本人が言っていた」
「そんなにみんな相性が悪いのね、あの泥」
 そこまで聞いてかなみは昨晩自分があのドロロをあっさりと倒せたことが少し出来過ぎやしないかと思ってしまった。
「あるみ社長なら、どうとでもなるが」
「あはは……社長は規格外だから」
 かなみと翠華は苦笑する。
「あいにくと今は出張でな。そうでなくとも、このぐらいの敵は自分達で片付けろって言うだろう」
「もちろん、社長に任せるつもりはないわよ。ボーナスが出ないから!」
 かなみは意気込む。
「そのためだったら、大嫌いな私とコンビを組むっての?」
「え、ええ、そうよ……本当は嫌だけど……」
 かなみは本音を包み隠さず言う。
「でも、やっぱり翠華さんがいいです」
「――!」
 翠華は胸が高鳴る。

――翠華さんがいいです

 その言葉が反芻する。
「あんたって……実は質、悪いわね」
 これには萌実は呆れる。
「どういう意味よ、それ?」
「教えてあげてもいいけどね~」
 萌実はニタリと笑いながら、翠華に視線を移す。
「や、やめなさい!」
 翠華はそうとしか言えなかった。
 かなみにはそれが先輩らしく注意している姿に見えた。実際は萌実に胸の内を勝手に打ち明けられないか、自分のことでいっぱいいっぱいになっているだけなのだが。
「しかし、どうしたものか」
 トミィは弱り果てる。
「能力うんぬんでコンビを組ませようとするから、そうなるのよ」
 それをトリィが諭す。
「本人達の相性もあるんだから」
「反省はする。しかし、あの泥の怪人にはかなみと萌実のコンビが一番なんだ」
「かなみちゃんと翠華ちゃんのコンビでも十分いけると思うけど」
 トリィは三人の様子を見守る。
「で、結局どうするの?」
「あんたと組むつもりなんてないわよ」
「私はあるんだけど……」
「どういう風の吹き回しよ?」
「面白そうだから。ね、翠華?」
「え、そうね……今回、私役に立てそうにないし……」
「翠華さん、何言ってるんですか! 昨日翠華さんが引きつけてくれなければ倒せませんでしたよ」
「それはちょっとオーバーなんじゃ……」
 翠華はかなみが素直に褒めてくれるのは嬉しいが、今回の敵との相性は最悪だ。事実、レイピアは一切通じず、泥をかぶってしまった。足手まといになるのは目に見えている。
「私よりも萌実と組んだ方がいいと思うわ」
「何言ってるんですか、翠華さん! 私がこいつと組めるわけないでしょ」
「そうね、後ろからズドンといくのも悪くないわね」
 萌美はフフッと笑う。
「ほら、あんなこと言ってますよ!」
「じょ、冗談でしょ。いくらなんでも後ろから撃つなんて」
「翠華さんは萌実がどれだけクレイジーか知らないからそんなこと言えるんですよ」
「く、クレイジーって……」
「趣味はロシアンルーレットと弱いものいじめなんですよ」
「あと借金持ちの子を後ろから撃つこと」
 萌実は付け足す。
「翠華さん、一緒にいてください……!」
「え、えぇ……」
 翠華は弱り果てる。
 頼ってくれるのはとても嬉しいのだが、今回役に立てそうになく、その板挟みで揺れている。
「これはコンビは無理ね」
「俺もそう思っていた」
「……社長に相談だな」
 トミィはこれは自分の手に負えないと判断して、電話機に手をかける。



「…………………」
「フフフ」
 かなみは不機嫌顔で萌実を睨み、萌実はそれを嘲笑で受け流す。
「あの……二人とも仲良くやったら」
「冗談じゃないですよ!」
「そうね、ギャグセンスを疑うわ」
「……別にギャグで言ったわけじゃないんだけど」
 かなみはプイッとそっぽ向く。
 いつも自分に対して素直なかなみは今日ばかり反抗的だ。原因は明らかに萌実にある。
 結局、三人でならなんとかなるだろう、という結論にトミィは達して、かなみは反論したのだが、従えないなら罰金だと横暴な手段をとられたのですごすごと引き下がるしか無かった。
「かなみさん……」
「翠華さんだけが頼りです」
「え……?」
「あいつは私の生命を狙ってるから、絶対に後ろから撃ってきます」
「そんな……たしかに変わってる子だと思うけど、さすがに後ろから撃つなんて」
「いいえ、あいつは平気でそういうことやってきますから!」
「二人とも、ちゃんと聞こえてるわよ」
「――!!」
 萌実の一言でかなみと翠華は身構える。
「そんなに心配しなくてもちゃんと後ろから撃ってあげるから♪」
「……冗談よね、まさか本気で?」
「さあ……本気で撃つなら確実に仕留めるし、冗談で撃っても面白そうだからやってみるかもよ」
 翠華はその返答に呆れたが、すぐに決意をみなぎらせる。
「そんなことさせないわ、かなみさんの後ろは私が守るわ」
「翠華さん……」
 言い終えて、翠華は自分があまりにも恥ずかしいこと言ってしまったと気付き、赤面する。
「かっこいいわね。そういうの見てると踏みにじりたくなるわ」
 笑う萌実に翠華は警戒心を抱かずにはいられなかった。
「……萌実」
「何よ?」
「あんた、何の目的でここに残ってるわけ?」
「そのことね」
 萌実は忌々しそうにぼやく。
 あの戦争が終わってから、あるみが言うにはカリウスは消息不明になった。
 幹部も全滅したため、関東支部も事実上機能していないと聞いている。萌実はカリウスの命令でかなみ達のもとへやってきた。命令するものがいなければ会社に留まる必要もない。
「……別に、興味が向いただけよ」
「今回もそうなの」
「ええ、昼寝ばっかりじゃ退屈だしね」
「あんた、一日中寝てるわね」
「寝る子は育つってね♪」
「まるでナマケモノね」
「ふうん、面白い冗談ね」
 萌実は殺気を込めて言う。
「まあまあ、二人とも。敵は怪人の方なのよ」
 翠華は仲裁に入る。
 何気なく入っているように見えるが正直言って怖い。いつあの殺気が自分に向けられるか、本当にこの場で戦いになりはしないか。
「まあ、そうね」
 しかし、意外なことに萌実は納得して引き下がる。
「……なんなのよ、もう」
 かなみは文句を言う。
「こんなんでうまくいくのかしら」
 不安からかなみが口にしたことに翠華は何も答えられなかった。
 まず向かったのは昨晩の公園であった。
 怪人は公園を中心として目撃情報を出ている。それだけに公園に何かあるかと思うのは自然であった。
「普通の公園ですね」
 砂場に滑り台、ブランコ、噴水がある、ありふれた公園であった。
 昼間はここで子供達が遊んでいたことは容易に想像できるが、それだけに真夜中の人気の無さが不気味さを際立てている。
「私はここで遊んでるから、調査は勝手にしておいてね」
 萌実はそう言って、ブランコに腰掛ける。
「こら、さぼろうとするな!」
「いいじゃない。公園に来たら遊ぶ、これが社会の常識よ」
「あんたに常識とか言われたくないわ」
 かなみは怒りでブルブル震える。ブランコはブラブラ揺れている。
「まあまあ、かなみさん。下手に動かれるよりはいいじゃないの」
「翠華さんがそう言うんなら……」
 かなみはそれで納得してしぶしぶ公園を見回る。
 いざ観察してみると、怪人の痕跡はしこかしこに見つけることが出来た。
 それは足跡にも似た魔力の残滓であった。
 普通、怪人はこういうものは残していかない。魔力を常に垂れ流して歩いているようなものだからだ。怪人にとって魔力は人間にとって血に近い。魔力を垂れ流すということは血を流しながら歩いているとも良いのだ。
「本当に妙な怪人ね……」
 怪人というのは総じて妙な生き物だが、この泥の怪人はとりわけ妙であった。
 何しろ、魔力の痕跡を残していて、それもただ公園中を歩き回っているようにしか感じない。
「公園の周囲をただ徘徊しているだけなんですかね?」
「さあ、わからないわ。ただ自然発生した怪人は犬や猫みたいに徘徊するものが多いみたいよ」
「ノラ怪人ってやつですか、迷惑ですよね」
「ノラって……本当に犬猫みたいね」
 翠華は苦笑する。
「でも、この移動経路、本当猫みたいですよ。気まぐれというかなんというか……」
「待って、かなみさん……」
「どうかしましたか?」
「なんだか、この怪人……一つの場所に行ったり来たりしてるみたいだけど……」
「あー退屈!!」
 萌実は急に叫んでブランコから降りる。
「ちょ、萌実!」
 萌実はそそくさと公園を出ていってしまう。
「あんた、勝手にどこいくつもりよ!」
 かなみは萌実を追いかける。
「かなみさん!」
 二人が出て行ってしまっては調査も何も無い。やむをえず、翠華も追いかけた。
「……見失った」
 翠華がかなみに追いついたときにはそう呟いていた。
「ああ、もう何なのよ!!」
「かなみさん、落ち着いて。こうなったら昨日と同じように二人で」
「ですね! むしろ、邪魔者がいなくなってせいせいしたわ!」
「切り替えが早いわね」
「翠華さんも借金のこと考えたら落ち込んでなんかいられなくなりますよ」
 かなみは乾いた笑いを翠華に向ける。
「は、はは、それはまた今度にするわ」
「今度で借金はできませんよ」
「そ、それもそうね」
 翠華は苦笑する。

ペタペタ

 そこへ不穏な足音がする。
 ねっとりと水たまりに浸かって進んでいくかのような気持ち悪い足音。これは昨日聞いたものだ。
「きゃっ!?」
 かなみはそれから泥をかぶせられる。
 それは泥の怪人・ドロロだ。
 気がつくと同時に攻撃を仕掛けてきた。脅威の早業なのだが、いかんせん泥なのでダメージはない。ただ苛つかせただけだ。
「よくもやってくれたわね! 今度こそ倒してやるわ!」
 かなみと翠華は即座に変身する。
「バンクは省略だ」
 マニィが言う。おそらくこの動画が出来上げる頃には編集でこの場面での変身シーンはカットされているのだろう。
「さ、行きましょうスイカさん!」
「え、ええ……」
 スイカは少し躊躇った。レイピアでは攻撃が通じない。それでも自分はかなみと一緒に戦っているのだろうか。
「ていやッ!」
 かなみは魔法弾を撃つ。
 ドロロに魔法弾がぶつかると、その泥が吹き飛ぶ。やはり、魔法弾で泥を吹き飛ばすのは有効な攻撃手段のようだ。
「ていッ!」
 それに引き換え、スイカのレイピアでは泥は切ったり、貫いたりすることはできない。
「く……やっぱり、私のレイピアじゃ」
「スイカさん、下がってください!」
 カナミは鈴を飛ばす。
「ジャンバリック・ファミリア!」
 飛ばした鈴達が魔法弾を雨あられのように撃ち尽くす。

ズゴゴゴゴン!

 ドロロの泥がどんどん吹き飛んでいく。
 つまり、それはダメージを受けている。
「よし、今度こそ決めるわ! 神殺砲!」
 カナミのステッキが砲台へと変化する
「――!!」
 そこでドロロは動いた。
「へ?」
 ドロロの身体である泥がほうぼうに飛び散ったのだ。
「じ、自爆……?」
 追い詰められて、自ら爆散したのか。
 最初はそう思った。
「――!」
 先にカナミは異変に気づいた
 地面を走るいくつもの影が公演に向かっていったのだ。
「い、今の、何!?」
 カナミは追いかけた。
「あ、待ってカナミさん!」
 スイカも慌てて追いかけた。速度ではスイカの方が上のため、すぐに追いつけた。
「もしかして、あれってさっきの怪人が分裂したんじゃないんでしょうか?」
「それは考えられるわね。昨日、倒しきれていないのも飛び散った泥から復活したのかもしれない」
「きっとそうですよ! でも今日は逃しません!」
 かなみは張り切って泥達を追い掛ける。
 そうしているうちに公園に戻ってきた。
「あ、あれ……?」
 公園に入ったところで泥達を見失ってしまった。
 魔力の痕跡が残っていないか探ってみるが、あいにくとこの公園のそこかしこに魔力の痕跡があって、どれが今入ってきた泥なのか判別ができない。
「ど、どこに行ったんでしょうか?」
「私にもわからないわ……」
 カナミもスイカも弱り果てる。
「あ~あ、逃がしちゃったわね」
 ここで萌実は嘲り笑いながらやってくる。
「萌実、あんたどこに行ってたのよ!?」
「別に、どこだっていいじゃない」
「よくない! あんたのせいで取り逃がしちゃったじゃない!」
「私のせいじゃないでしょ、あんたがヘボだから逃したんじゃないの」
「ヘボですって!」
 カナミは萌実を睨みつける。
 萌実はそれを笑って受け流す。
「まあまあ、二人とも。仲間割れは良くないわ」
「誰が仲間ですか!」
「私もこんな借金持ちと一緒にされるのは心外ね」
「なんですって!」
「怒った? だったらここで殺り合いましょうか?」
「望むところよ!」
「ふ、二人とも、落ち着いて」
 スイカは意を決して、二人の間に入る。
「今はこの三人で戦うように言われてるんだから、殺し合いなんてダメよ」
「スイカさん……」
「あ~うっとおしいわね」
 萌実は面倒そうに頭をかく。
「わかったわよ。殺し合い、今はやめておくわ」
 スイカはホッと一息つく。
「油断しないでください」
 カナミはスイカに耳打ちする。あまりにもいきなりでスイカはドキッとする。
「あいつはきまぐれだから、いつ邪魔してくるかわかりませんから」
「……邪魔、ね」
 スイカは萌実を訝しげに見る。
 確かに、萌実は何をしてくるかわからないから警戒してしまう。今だって自分の間に入らなければそのまま殺し合いが始まっていたかもしれない。
「萌実、もっと協力的になれないの?」
 スイカは提案する。
「協力なんてちゃんちゃらおかしくてへそで茶をわかすところだわ」
 しかし、萌実は鼻で笑われてしまう。
「スイカさん、こいつには何言っても無駄ですよ」
 カナミは変身を解いた。
「あ~!」
 そこで、かなみは思い出す。
 変身する前にあのドロロに泥を思いっきりかけられたことを。
「変身のときは綺麗に消えてたのに」
「どういう仕組みなのかしら、これ……?」
「昨日のお風呂でちゃんととれましたよね?」
「お、お風呂……?」
 翠華はその時のことを思い出して、赤面する。
「のぼせてるんじゃないの」
「じゃあ、お風呂に入るわよ! 翠華さん、帰りましょう!」
「え、えぇッ!?」
「あぁ、付き合いきれないわ」
 そう言って、萌実は立ち去ろうとする。
「――!」
 しかし、服の裾を翠華が掴まれていた。すでに変身が解けているはずなのに電光石火の早業であった。
「ちょ!」
「ふ、二人っきりじゃ……」
 翠華は声を震わせて言う。
「はあ、どういうこと?」
「ほら、私達チームでしょ。三人で一組。一緒にいないと!」
「わけわからない理屈つけてないで離しなさいよ!」
「一緒に来るの!」
 翠華は是が非でも離さないつもりだった。
 二日連続でかなみと二人っきりだなんてとても神経が保ちそうにない。
「翠華さんがそこまで言うなら仕方ありませんね」
 かなみも渋々納得する。
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