まほカン

jukaito

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第56話 霧中! 光の妖精は少女へ運ぶのは勝運? (Bパート)

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 商店街にかなみはやってきた。商店街とはいっても、人の通りが悪いせいで店が軒並み潰れて、今やシャッター街と化してしまった隅の一角だ。
「ここのパンピって名前の喫茶店で待ってるらしいよ」
 地図を読み込んだマニィが案内してくれる。
「こんなところに来て大丈夫なのかしら?」
 かなみは不安に駆られる。
 こんな人気の無いシャッター街だったら、罠にはめて襲うことも出来る。
 テンホーはそういうことをしないような気がなんとなくするけど、それでも悪の秘密結社の幹部なのだから油断してはいけない。
「……シャッター、閉まってるんだけど……」
 この一角に来た時から予想していたけど、やっぱりこの喫茶店ももう閉まっていて、シャッターが降りている。どうみても、営業しているようには見えない。
「あげてみたら?」
 マニィが提案する。
「いいの?」
「そうしないと中に入れないから」
 少しいい加減な物言いだけど、そうするしか入れないのだから仕方がない。
「うん、しょ……!」

ガラガラガラガラガラ!

 思いの外あっさりと持ち上がり、天井まで上がっていく。ちょっと面白いかもと思ってしまう。
 シャッターを上げると、そこには灯りが消えている店の光景が見える。
「あ、開いてる……?」
 ドアノブに手をかけると軽い感触だった。

カラカラ

 ドアを開けると鈴の音が鳴る。
 まるで、来客を歓迎するかのように。ここだけはまるで店が営業しているみたいだと感じた。しかし、目の前に広がる店の光景がその感想を消し去った。
(潰れたお店……)
 灯りが消え、薄暗い中で、並ばれた埃被ったテーブル。くすんだカウンターの向こう側には壊れたサイフォンまで見える。
 何よりも長い間、誰も足を踏み入れてないせいで、廃墟特有の静けさが物悲しい。
「……いる!」
 そんな中で人ならざる気配をかなみは感じ取った。
 一番奥のテーブル。外から決して見えない、内緒話にはもってこいの場所にその女は座っていた。
「思ったより早かったわね」
 和服を着崩して、あえて胸や肩を強調させた大胆な悪女。それが元悪の秘密結社・ネガサイド関東支部の幹部――『悪運の愛人・テンホー』だ。
 元がつくのは、既に関東支部が壊滅状態で幹部の体制が成していないのと何故か九州支部長・いろかの配下にくだっているせいで、その辺りの事情はかなみは詳しく知らない。
「久しぶりね」
「このところに何の用?」
「あなたに依頼したいことがあってね」
「私に依頼したいこと?」
 テンホーはニヤリと笑う。その笑みを見て、かなみは緊張する。今この場で仕掛けて来てもおかしくない。
「とある怪人の始末」
 テンホーは一枚の写真をかなみに見せる。金属棒を持った仮面の男で、両腕が異常なまでに太い。
「名前はバッタイ。この辺りの店に潜伏してる怪人よ」
 かなみは呆然とする。
 依頼内容はいつもの怪人退治。しかし、依頼人はその怪人と同類であるはずの幹部の怪人。
「ど、どういうつもり?」
 何か企みがあるはずだとかなみは問いただす。
「報酬はちゃんと払うわ。二十万でどうかしら?」
「に、にじゅう……」
 かなみはその金額に心が揺れ動く。が、すぐに我に返る。
「金額の問題じゃないわよ。こいつ、仲間じゃないの?」
「仲間よ、怪人としてはね。ただ、今は敵対している」
「敵対? 怪人同士でもそんなことあるの?」
 かなみは素直に疑問に思ったことを訊く。その素直さにテンホーはニヤリと笑う。
「ええ、人間同士でもあるじゃない。受験戦争、出世争い、そういった類のものよ」
「どういうものなのよ?」
「私はヨロズを次期関東支部長にする」
「――!」
 かなみはヨロズの名前を出されて反射的に強張る。
「いろか様もそのつもりで私をヨロズの教育係に任命してくださった」
 テンホーはそれをとても誇らしげに言う。
「これはそのための依頼よ」
「この怪人を倒せば、ヨロズは関東支部長になれるってこと?」
「さあ……関東支部長というのはそこまで簡単になれるものじゃないわ。あのカリウス様でさえ、関東では反抗勢力がいたぐらいよ」
「え、そうなの?」
 それは意外なことだった。
 実際に相対したことが何度かあるからこそわかるカリウスの圧倒的な威圧感、高いカリスマは敵である自分でさえ逆らうのが難しい。それが同じ仲間、部下であるはずの怪人なら尚更だと思えた。
「敵愾心を持つ血の気の多い怪人は案外いるものよ。こいつもそんな一人。カリウス様がいなくなった今、くすぶっていた連中が動いてるってことよ」
「迷惑な話ね。怪人が動くってことは人間に危害を加えるってことでもあるじゃない!」
「フフ、わかってるじゃない。だから、あなたはこの依頼を受けざるを得ない」
 利用されているようで、気分が悪い。
「……冗談じゃないわ」
「かなみ、社長は……」
 マニィが釘を刺すように言う。
「わかってるわ」
 あるみは依頼を受けろ、と。そのつもりで、かなみに仕事をよこしてきたに違いない。
 テンホーがどんな仕事の依頼を持ち出すか知ったうえで、かなみに任せた。
「……反抗勢力っていうのはどのくらいいるのよ?」
「さあ、くすぶっていた連中。地下に潜っていた連中も含めるとどのくらいいるのか、私も把握しきれていないわ。スーシーの方が詳しいんじゃない?」
「あいつの名前は出さないで」
 かなみは不快を露にして言う。
「フフ、嫌われているわね。まあいいわ」
「もう一つ質問よ」
「なあに、私に答えられるものならなんでも答えるわよ」
 テンホーは楽し気に答える。
 かなみはあくまで冷静につとめて続ける。
「こいつを野放しにしたらどれだけ危険なの?」
 あるみが、ネガサイドに利用されているとわかった上で引き受けた仕事。それは、それでも人の為、平和を優先した結果なのだろうと思った。
「暴れん坊よ。今はこの商店街にくすぐっているけど、いずれ街を壊して回るわ。ようやく情報を掴んでここまで来たけど」
「あんた達が倒さないの。ヨロズが前やってたじゃない」
 以前、ヨロズは自分の実力を関東の怪人に知らしめるために、怪人達を倒して回っていた。
 反抗勢力にそれをやらないのか、とかなみは訊いた。
「あれは中々使えないのよ。思っていたより反抗勢力のはねっかえりがきつくてね。ヨロズの実戦経験にもちょうどよかったんだけどね」
「でも、私達が倒せば怒りの矛先は魔法少女に向かって好都合じゃないの」
 テンホーはニヤリと笑う。
「それを跳ね返してこそ魔法少女。あんたのところの社長がそう言っていたわ」
 いかにもあるみが言いそうなことだ。
「……わかったわ」
 かなみは意を決して言う。
 テンホーが持ち掛けた依頼。
 ネガサイドに魔法少女を利用している。それをわかった上での仕事。
 それでも、平和の為、ボーナスの為なら戦う。
「……跳ね返してみせるわよ」
 テンホーは心底から愉快気に笑う。



 テンホーから言い渡されたバッタイの潜伏先は、シャッター街のさらに最奥の位置にある家電屋。
「本当にこんなところにいるのかしら?」
 マニィに不安げに訊く。
「君は……本当に鈍いんだね」
「な、なんですって!?」
「これぐらいの魔力なら感知できるようになって欲しいんだけどね。それに違和感を感じないかい?」
「……え、違和感?」
 そう言われて、かなみに気づく。
 どんより重たくひりついた空気。ただここにいたくないと本能的に思わさせる不快感が辺り一面に漂っている。
 それは、言われるまで気づかない程度だが、確かにシャッターが降りた家電屋から魔力が流れている。それが原因なのは間違いない。
「ここ、誰もいないよね。元々人気の無いシャッター街だけど、それ以上にあの店から出てる魔力による不快感が原因だろう。普通の人間は魔力を感じないけど、本能で嫌な気配を避けて通っているんだよ」
「――!」
 ここまで好きに飛び回っていたリュミィは、かなみの手の平に降りる。
「どうしたの?」
 リュミィはうずくまって、震えている。
「怯えているね」
「怯えて……怪人が怖いの?」
 問いかけても、リュミィは答えず、震えたままだ。
「だったら、ここに残っていてもいいのよ」
 かなみがそう言うと、リュミィはブンブンと身体を大きく揺らして首を振る。
 否定している。かなみと離れたくない、そういう意思表示に見える。
「ありがとう、嬉しいわ」
 リュミィにオプスのような力がある。
 そうは思っていても、今は生まれたばかりのか弱い妖精にしか、かなみには見えない。
 それでも傍で、一緒にいてくれるだけで心強い。
 あるいは光の妖精というのはそういう力を与えてくれる存在なのかもしれない。
「一緒に行きましょう」
 その呼びかけで、リュミィの震えが止まり笑顔を浮かべる。
 家電屋にはシャッターが降りていて、当然のことながら営業はしていない。
 さっきの喫茶店みたいにシャッターを上げて正面から入るわけにはいかない。そもそも開いているとは思えない。
「裏口から入るように、ってテンホーは言っていたわね」
 かなみは家電屋の裏手に回る。
 そこに開けっ放しの扉があった。
(なんて不用心……)
 というより、侵入した人間を生かしては帰さない。そういう怪人の信条の現れなのかもしれない。
「強敵かもね」
「そんなのわかってるわよ」
 テンホーからの依頼。リュミィの怯え。それらがここにいる怪人の強さを物語っている。
(それでも引き受けたからには、倒す)
 そう決意し、扉の内側へ踏み込む。
 空気が一層重くなる。薄汚れた廃店、人の気配はない。代わりに満ちているのはとびっきり危険な猛獣の殺気。
 そこを恐れず一歩ずつ踏みしめて進む。
(どこに……どこに、いるの……?)
 かなみは目を凝らす。
 魔法少女に変身しなくても、これで常人の数倍以上に視力が強化されて遠くを見通せる。しかし、薄暗く、壁が多い裏口からの店内は見通しが悪い。

ザザァー、ザー、ザザァー……

 急なテレビの音に心臓がすくみあがりそうになった。
「――!」
 必死にこらえて、売れ残った冷蔵庫の陰に隠れる。
(――いる!)
 テレビの砂嵐の音がした方を見ると、わずかながら影が見えた。
 あれがバッタイ。鉄の色をした毛。たくましすぎる二の腕。わずかながらも全身を震え上がらせるほどの威圧感が迸っていた。
「お前から連絡が来るとはな」
 腹にずしりとくる低い声が砂嵐のテレビに向かって放たれる。
『たまにはこういった趣向も面白いものだ』
 聞き覚えるのある声色だ。
 砂嵐に混ざって、バッタイに語り掛ける威圧感のある声。
「俺にはお前の趣向など理解できない。この手で捻りつぶしたいがな」
『君の気性は中々好ましいものだ。だが、それももうすぐ見納めになるからね』
 テレビの声はかなり挑発的だ。言われたバッタイは怒気を強める。
「なに、どういう意味だ?」
 バッタイはテレビに向かって言う。
 殺気が満ちている。テレビといえどもテレビの向こう側から語り掛けている男ごと殺しかねないほどだ。
(それにしてもこの声、聞き覚えが……)
 丁寧で紳士的であるものの、どこか高圧的な物言い。
『言葉通りの意味だ。あと後ろには注意した方がいい』
「なに?」
 バッタイはそう言われて振り返る。
「――!」
 かなみは慌てて身を隠す。
 物音を立てず、気づかれないよう注意を払って。

ギリ!

 牙を噛み鳴らす音がした。
 獲物を見つけて、喜びを露にする猛獣のそれだ。
「ネズミか……!?」
『気を付けた方がいい。そのネズミは牙をもっている』
「おもしれえ、虎を噛むネズミか!」
 ここまで言われて、自分のことだと自覚できないほど、かなみは間抜けじゃなかった。
(気づかれている! だったら!)
 意を決して、かなみはコインを投げる。
「マジカルワーク!」
 光と共に黄色の魔法少女の姿を現す。
「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!」
 カナミは即座にステッキを構える。
「魔法少女……! そうか、お前がカンセーやテンホーを倒した野郎か!!」
 バッタイは嬉々として腕を振るう。
「野郎じゃないわよ!」
 カナミは魔法弾を撃つ。
「そうかい!!」
 バッタイはその腕で魔法弾をあっさり薙ぎ払う。
「あの程度じゃダメージすら与えられないね」
「わかってるわよ。でも、こんなところで神殺砲は……!」
 ただでさえ狭い店内で、そんな大砲を撃ち込めば被害は甚大。想像することすら躊躇われる。
「おらあ!」
 しかし、バッタイは一切気にせず腕を振るい、カナミを飛ばす。
「くッ!」
 カナミは宙で立て直し、先程隠れた冷蔵庫を蹴って、距離をとる。

グシャン!!

 次の瞬間、その冷蔵庫が発泡スチロールのように簡単にグシャグシャになった。
 もし、ちょっとでも遅れていたら……自分もああなっていたかもしれない。そう思うと恐怖で震える。
「負けるか!」
 カナミは声を上げ、ステッキの鈴を飛ばす。
「ジャンバリック・ファミリア!!」
 狭い店内を縦横無尽に飛び回り、右から左から上から下から魔法弾を撃つ。
「おおッ!」
 しかし、これもバッタイを怯ませるもののダメージを与えるに至っていない。
「ああ、うっとおしい!! まさにネズミだ!!」
 バッタイの雄たけびにカナミはムッとする。
「ネズミでも、牙はある! ピンゾロの半!!」
 カナミは仕込みステッキを引き抜いて踏み込む。

パキン!!

 これをバッタイは逞しい剛腕を盾にして受け止める。
「――!」
 仕込みステッキの刃が欠ける。
 まるで、鋼鉄のように固い。いや、鋼鉄なら仕込みステッキの刃で十分斬れる。
「狙いは悪くなかったぜ! だが、所詮ネズミの牙だったな!!」
 拳から放たれる突きが砲弾のように力強く放たれる。
「くあッ!?」
 ステッキをとっさに前に出して盾代わりにしたが、それでも衝撃を防ぎきれるず、シャッターまで叩きつけられる。
「があッ!!」
「今ので潰れなかったのだけは褒めてやる」
「……あんた、本気できてないわね」
 カナミは立ち上がり、闘志を叩き返す。
「――わかるか?」
 バッタイはそれでも歯向かってこようとするネズミに対して歓喜する。
「わかるんなら、本気になっていいってことだよな!」
 剛腕から鉄拳が砲弾のように放たれる。
 かなみはこれを横っ飛びでかわす。すると背後にあったはずの扉とシャッターが外へと吹き飛ぶ。
「周囲の被害とか考えないの!?」
 かなみは外を見てみるが、幸いにも人に飛んでいっていなかったようだ。というよりも元々辺りが人気の無いシャッター街なのが幸いしている。
 これだけ騒ぎ立てても、人が来る気配が無い。
「人払いは万全みたいだよ」
 マニィが補足してくれる。
「それなら!」
 カナミはステッキを砲弾へと変化させる。
「神殺砲! ボーナスキャノン!!」
 剛腕の砲弾にしてこっちは魔法の砲弾だ。

バァァァァァァン!!

 エアコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機……店に並べられた廃棄同然の家電商品を蹴散らして砲弾はバッタイへ直撃する。
「ガアアアアアアアアッ!!」
 鋼鉄の虎怪人は咆哮し、砲弾の直撃をものともせず直進する。

ガシィ!

 その鋼鉄の左腕で、砲弾を放った直後で硬直していたカナミを捉える。
「やるじゃねえか! おかげで右腕が使い物にならなくなっちまったぜ!」
 右腕を盾にして、神殺砲を受け止めて見せた。
 それだけにとどまらず、反撃に打って出てきた。その闘争心は恐るべきもので、完全に意表を突かれた。
 神殺砲を撃てば倒せる。倒せないまでも踏みとどまらせることができる。そういう考えを打ち壊すような強敵だ。
「くッ!」
 カナミはもがいて掴んだ左腕から逃れようとする。
「フン!」
 しかし、カナミが逃れる前に投げ飛ばされる。
 天井にたたきつけられ、床へ転がされる。
「いっつぅ……!」
 背中に激痛が走り、立ち上がろうとする意志をくじこうとする。
 痛い。まるでもう大人しくしようよ、と全身が訴えているみたいだ。
 でも、それでも、立ち上がらなくちゃ!
 カナミは投げ飛ばされても手放さなかったステッキを握りしめ、立ち上がろうとする。
『――君は相変わらずだね』
 声がした。
 聞き覚えがある。
 冷たい声色で、背筋を凍り付かせるような恐怖を与える怪人の声。
「誰?」
 声のした方を見る。
 その声は、床に転がったテレビから聞こえている。
 ケーブルは切れている。電源が入っていないにもかかわらず、砂嵐がかかっている。
 繋がっている。このテレビはどこかへ繋がっていて、声の主は自分とバッタイの戦いを楽しんで観ている。
 この声の主は一体誰なのか。
『私を忘れたのか?』
 ゾクリとする。
 まるでテレビから冷気が沸き上がっているかのようだ。
「忘れたも何もあんたなんか憶えていないわよ」
『そうか……まあいい。
私はこの戦いを楽しませてもらう。くれぐれも無様を晒さないようにな』
 挑発するように、発破をかけるように、その声は言った。
 そこから砂嵐が止み、画面は消える。
(一体、なんだったの……?)
 それをゆっくり考える時間をバッタイは与えなかった。
「――!」
 痛みを忘れて、後ろを飛ぶ。
 あの声の冷たさは、痛みを消し去る効果でもあったのだろうか。ともかく襲い掛かるバッタイから避けて、外へ出る。
「そっちへ逃げたか!」
 狭い屋内は不利だ。むしろ街道に出た方が思う存分魔法を撃てる。

バァン!

「グギィッ!」
 壊れた左腕に撃ち込まれて、バッタイは歯を食いしばる。
「そこね!」
 カナミは鈴を飛ばして、集中砲火する。
「容赦ってやつがねえのか! 気に入った!!」
 バッタイは左腕を食いちぎる。
「――!?」
 カナミはそのあまりのグロい行動に、驚愕する。
「な、なにやってんの?」
「邪魔になったからな! 無い方が戦えるんだよ! うおりゃッ!」
 バッタイはちぎった左腕を投げる。
「あぐッ!」
 左腕に殴れたようにカナミは仰け反る。
「く、こんの……!」
 倒れないように踏みとどまる。
 その闘志を見て、バッタイは満足げに笑う。
「いくぞおおおおおッ!」
 バッタイは咆え、突撃する。
「神殺砲!」
 カナミは大砲へ変化させる。
 最大威力には程遠いが、魔力充填を一瞬ですませて放たなければならない。
「ボーナスキャノン!!」
「うおおおおおおッ!!」
 右腕を盾代わりに前に出す。
 砲弾を右腕で受け止める。
(やっぱり充填が間に合わなかった。威力が弱い!)
「おおぉぉぉぉぉぉッ!!」
 咆哮と共に砲弾を弾き飛ばす。
「これで俺の勝ちだ!」
 敵の切り札を破り、勝利宣言する。
「――ッ!」
 次の瞬間、バッタイは絶句する。
 左腕。自分が食いちぎったはずの左腕が飛んできたのだ。
「それ、返すわよ!」
 鋼鉄の左腕を投げ返した。
 相当痛かったのだから、バッタイに投げつけても痛いはずだとそう思ってやってみた。
「ガァッ!」
 効果はてきめん。左腕が顔面へまともに受けて突撃が止まる。
 チャンスは今しかない、と、カナミは大砲を構える。
「神殺砲! ボーナスキャノン!!」
 今度は十分魔力を充填した一発。バッタイを飲み込み、店ごと吹き飛ばす。
「ちくしょう、が……!」
 ボロボロになったバッタイは倒れ伏し、塵となって消える。
「ハァハァ……」
 戦いの緊張から解かれ、魔力を使い果たしたせいで膝をつく。

ヒラヒラ

 そんなカナミの周囲をリュミィが飛び回る。
「ね、大丈夫だったでしょ?」
 家電屋に入る前、不安げだったリュミィに大丈夫だと語り掛ける。
 今、それを証明した。と言わんばかりに胸を張って笑顔で言う。
 リュミィは嬉しそうに笑顔でカナミの肩に乗る。
「でも、ちょっと疲れたかも……」
 決して楽な戦いじゃなかった。何度も腕で投げ飛ばされ、壁へ叩きつけられたりして、全身が痛む。

ピカ!

 その時、リュミィの身体が光る。
 光は温かく、痛みを消してくれて、とても心地良い。
「リュミィ、あなたが……?」

コクン

 リュミィは言葉を話さず、ただ頷くだけ。それでも、カナミは十分に伝わった。
「気持ちいいわ。痛みも消えて、楽になるわ」
 もしかしたら、この光がリュミィの力なのかもしない、と思った。
 オプスに比べたら、か細く、すぐに消えてしまいそうな光だけど、この力は安らぎと温もりを与えてくれる。
「ありがとう、リュミィ」



 テンホーはカナミとバッタイの戦いを遠くの店の屋根から観ていた。
「相変わらず面白い戦いをするわね、あの娘は」
 内容は概ね満足のいくものだった。見物料としてボーナスをさらに弾んでいいくらいとさえ思った。
「これでヨロズの関東支部長就任へ一歩近づいたわ。あの娘とまた戦う日が来るのが楽しみね」
『――それが実現するかは、君の働き次第だよ』
 テンホーへ語り掛ける声。
 カナミをゾクリと背筋を凍り付かせたあの声と同じものだった。
「はい! このテンホー、全身全霊でその任を務めさせていただきます」
 テンホーは声のした方へ一礼する。
「――元関東支部長・カリウス様」
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