まほカン

jukaito

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第57話 船出! 釣り糸に引き寄せられる少女の縁 (Aパート)

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キンコーンカンコーン

 授業終了の鐘が鳴り、カナミは即座に学校を出る。
「今日も仕事だけど、ボーナスの出るやつがいいわね」
 この前は、羽振りのいい仕事を引き受けたのだが、怪人が思いの外強かった。そのせいで、周囲の被害が大きくてボーナスは天引きされてしまった。
 おかげで今月も相変わらず金欠だ。
 一つここはボーナスが出る魔法少女の仕事を見事やり遂げて、ちょっとした贅沢をしたい。

ブオオオオオン!!

 そう思っていたら、目の前までバイクが止まる。
「かなみ様!」
 ヘルメットを取ると、見知った顔が呼びかけてくれる。
「沙鳴!? そのバイク、どうしたの?」
「仕事で借してもらったんです。二輪の免許はとってあったんで今日初乗りなんです」
「そうだったの。こんなところで会うなんて奇遇ね」
 彼女は山吹沙鳴。
 十八歳だが、高校は中退している。両親が残した借金のせいで学業を続けられなくなったから、らしい。もっとも、かなみが会った時の借金の大半は競馬による大敗によるものだったが。
 その借金のせいで、黒服の男にどこかに身売りされる寸前だったのを、あるみが代わりに看破してくれたおかげで事なきことを得た。
 今はあるみが紹介した仕事で少しずつ借金を返しているようだ。何の仕事をしているか、詳しいことまでは知らないが。
「それが奇遇でもないんですよ」
 沙鳴は嬉し気に言う。
「え、どういうこと?」
「これから、かなみ様のオフィスに向かうところなんですから」
「オフィスに? 何か用なの?」
「ちょっと、社長に渡すものがありましてね。一緒に行きましょ?」
「一緒にって……乗せてくれるの?」
「もちろんです! ささ、はやくはやく!」
「ええ!」
 かなみは背中に乗って、備え付けられていた予備のヘルメットを着ける。
「それじゃ、魔法少女のオフィスまで一飛びです」

ブオオオオオン!!

 かなみは沙鳴の背中に捕まり、疾走するバイクの風を肌で感じる。
 オフィスまであっという間に着いてしまった。
「さ、着きましたよ」
「速いわね」
「そりゃもうバイク超特急便ですから!」
 沙鳴は自慢げに言う。
「ありがとうね」
「かなみさん?」
 ヘルメットを取ると、翠華に呼び止められた。
 ちょうど翠華もオフィスにきたところのようだ。
「翠華さん、おはようございます」
「おはよう、かなみさん。いきなりバイクで来たからビックリしたわ」
「沙鳴に乗せてもらったんです」
「こんにちは!」
 沙鳴はバイクから降りて挨拶する。
「こんにちは。あなたはこの前の……」
 翠華は、借金取りからかなみと一緒にオフィスへ逃げ込んだ時のことを思い出す。
「その節はどうも。今オフィスに社長はいらっしゃいますか?」
「社長はよく留守にしているから今いるかどうかはわからないわ」
「そうですか。それじゃとりあえず行ってみます!」
 沙鳴はオフィスへ元気に入っていく。
「あの……か、かなみさん?」
「なんでしょうか?」
「バイクに乗りたいなら、私がいつでも乗せてあげるわよ」
「……え?」
 いきなりの発言に、かなみはキョトンとする。
「ほ、ほら、私も免許と単車は持ってるから!」
「急にどうしたんですか?」
「あ、いえ、なんでもない! なんでもないのよ!!」
 翠華は慌てて両手を振る。
 かなみには何が何だかわからなかった。



「私だってかなみさんを背中に乗せて走りたい!!」
 翠華は不満をドリング―のコップへと叩きつける。
「……はあ?」
「そ、そうですか……」
 同席したみあは苛立ち、紫織は困惑する。
「かなみさん、私に頼めばいつでも乗せてあげるのに、どうしてあんな人に……」
「いや、それがどうしたってのよ?」
「だから、かなみさんとツーリングしたいって!」
「それ、あいつに言えばいいんじゃないの?」
 みあは至極もっともな返事をする。
 正直、こんな愚痴を聞かされてうんざりしているところだ。
「あ、いえ……かなみさんに、そんなこと、言えるわけが……」
 翠華は頬を赤らめて言う。
「はっきりしないわね! そんなんだから、その沙鳴って女に出番とられるのよ!!」
「は、はい!」
 みあの反論に、翠華は恐縮する。
「どっちが年上かわかりませんね」
 紫織は二人の力関係を見て、そうコメントする。
「でも、いざかなみさんの目の前にいくと、き、緊張して……うまく誘える自信がないっていうか……」
「ふうん、あたしたちは気軽に誘えるのに?」
「うぅ……」
 それはその場の勢いで、と翠華は言い訳した。
 それにしてもみあは、翠華が気にしていることを的確に突く。不満を漏らすのに誘ってしまったのは失敗だったかなと思ってしまう。逆に傷口を広げるような結果になりかけているだけに。
「みあちゃんにはわからないのよ。いつも、かなみさんと寝泊まりしていて慣れているから」
 その一言にかなりの嫉妬を込める。
「あのね……あれはあいつの方が強引にいってくるから仕方なく泊めてあげてるのよ!!」
「それが羨ましいって言ってるのよ!」
 ダンダン! っと、台を叩きながら言い争いになってくる。
「あ、あの……お二人とも、お、落ち着いてください……」
 紫織はあたふたする。



 翌日の夜、魔法少女のオフィスで。
「……あんた、もう帰るの?」
 みあが訊く。
「ええ、今日は仕事が早く終わったからね」
 かなみは上機嫌で答える。
「そう……」

――いつも、かなみさんと寝泊まりしていて慣れているから。

 昨晩の翠華の一言が脳裏をよぎる。
(別に、慣れているわけでも……いつも、でもないのに……)
 心の中でぼやき返す。
 翠華に余計なことを言われたせいで、意識してしまう。
(いつもなら、そろそろ……『今日はみあちゃんの家にお邪魔していい?』って行ってくるところなんだけど……)
 二人でオフィスを出て、帰り道に着く。
(たまには、あたしからいってみるか)
 そんな風に意識してみた。
「あ、あの、かなみ……?」
「なに、みあちゃん?」
「今夜、あたしんち来る?」
「……え?」
 みあがかなみを誘う。
 いつもと逆のパターンに、かなみは面を食らう。ここまでは予想通り、あとは目を輝かせて「いくいく!」と快諾してくれるだろう。
(あ~まったくちょろいわ……)
 翠華はこんな簡単なこともできないのだから理解に苦しむ。後日たっぷり悔しがらせてやろうとほくそ笑む。
「あ~でも、ごめん!」
「はあ?」
 予想外の返答に、今度はみあが面を食らう。
「今夜はダメなの」
「こんやはダメ? どういうこと?」
 みあは片言で訊く。
「先に約束があって……」
 かなみは後ろめたそうに言う。

ブオオオオオン!!

 目の前にバイクが止まる。
「かなみ様、お疲れ様です!」
 沙鳴はヘルメットをとってやってくる。
「沙鳴も今あがったの!」
「はい。かなみ様がいつもこの時間までお仕事頑張っていると聞いたので、駆け付けました」
「今日はたまたま早く終わったけどね」
「………………」
 かなみと沙鳴のやり取りに、みあは呆然としてしまう。
「ああ、みあちゃん! この娘、前に来てた沙鳴なんだけど、今日初給料だから食事に誘ってくれてそれで今日は無理なの、ごめんね!」
「は、はあ……」
 かなみにそういわれて、みあは状況が分かった。
「そう、そういうことね!」
「だから、みあちゃんちでお泊りはまた今度で……」
「今度も何もないわよ!!」
 みあは激昂し、そそくさと帰ってしまう。
「み、みあちゃん……?」
 突然のことに、かなみは唖然とする。



「あたしがせっかく誘ったのに! なんなのよ、あの女!!」
 翌日の仕事明けにみあはファミレスでコップを叩きつける。
「……かなみさんが沙鳴さんと、二人きりで、また、ツーリングしていた……?」
 事情を聞いた翠華はカタカタと震えている。
「デジャビュ……」
 ついこの二日前にもこんな光景を見た気がする、といった具合に、紫織は呟く。
「そこじゃないから! 大事なのは! あたしが誘ってんのに、断ったのよ、かなみは!!」
「みあちゃん、凄いわね……そんなに簡単にお泊まりに誘えて……
でも、それも断られたってことは、私なんかじゃ……」
 激昂するみあに対して、翠華は羨ましげにブツブツぼやく。
「だああああ! そういうんじゃなくて!!」
 ダンダンとみあはテーブルを叩く。
「あ、あの、他のお客様の迷惑になりますんで……」
 紫織は店員のような発言をして、二人をなだめる。
「まったく、もうなんなのよ、あいつ! 人がせっかく誘っているのに!」
「かなみさん……かなみさん……バイクでツーリングなら私もできるのに……」
 紫織は頭を抱える。
「かなみさんは、……罪作りです」
 何よりも、元凶のかなみがここにはいない。
 そのせいでこじれているのでないか、とさえ紫織は思えてしまう。



「………………」
 翌日、翠華はオフィスで虚ろになっていた。
「かなみさん……どうして……?」
 かなみとバイクでツーリング。
 これまで仕事上でしかできていなかった夢のような光景だ。それをいきなり現れた沙鳴が実現させてしまった。
 私がどんなに勇気を振り絞っても出来ないことをいとも容易く……。
 そもそも、バイクは私だけが持っている特権だったはずなのに。アイデンティティもあっさりとられてしまった。
(そうでなくても、最近存在感薄いんじゃないかって思ってたのに……! このままだとかなみさん、私のこと、忘れられちゃうんじゃ!?)
 だんだん悩みが大きくなっていって、ダンベルのようにのしかかってくる。耐えきれずにとうとうデスクに突っ伏す。
「あの……翠華さん、こちらの品の在庫なんですが……?」
 かなみは仕事のことで、翠華は訊く。
「え、な、なに、かなみさん!?」
 翠華は即座に顔を上げて、応える。その勢いのかなみは「へ!?」と驚く。
「あ……」
 醜態を晒したことに翠華は気づく。
「ご、ごめんなさい。ちょっと悩み事があって!」
「……翠華さんでも悩み事があるんですね」
 かなみの素直な物言いに困惑する。
(かなみさんには私がどういう風にみえてるのかしら……? それよりも悩み事って、かなみさん絡みなのに……!)
 翠華は頭を抱えだす。
「あ、あの、翠華……?」
 かなみに声をかけられて我に返る。
「あ、ご、ごめんなさい。それで、なんだったかしら?」
「あの……この品の在庫ってどうなってましたっけ?」
 かなみはクリップにつけた用紙を見せる。
「ああ、これなら一階の備品室に在庫があったはずよ。あとこれは明日納入する予定よ。今日搬送は……これとこれね」
 翠華は的確に助言する。
「……助かりました。やっぱり翠華さんは頼りになります」
 かなみは素直に感心し、尊敬を込めてそう言うと翠華は顔を真っ赤にする。
「そ、そんなことないわよ。こ、これぐらい誰にだってできるわ……!」
 翠華は極力平静を装って答える。しかし、狼狽しているのは一目見て丸わかりであった。
「ごめんください!」
 そこへ沙鳴がやってくる。
「沙鳴、またきたの?」
「はい! かなみ様に会えますから!」
 沙鳴は屈託なくそう言うので、翠華はドキリとする。
(こ、この人、まさか……私と一緒で……!)
 翠華は沙鳴を見定めるように睨む。
「かなみさん……なんだか、あの人が睨んでいるような気がするんですが……」
 沙鳴はそれに気づいてか、警戒してかなみへ言う。
「え、そう?」
 かなみが翠華へ視線を向ける。
「――!」
 翠華は慌ててデスクへ視線を移す。
「私に客が来たみたいね」
 バタン、と、あるみがけたたましい扉を開ける音を立ててやってくる。
「ひ!」
 沙鳴は身をすくませる。
 借金取りが押し入ってきたかのと思ったのかもしれない。
「社長、沙鳴がびっくりしていますよ」
 社員のかなみも翠華も対応は慣れたものだ。
「私に用って何?」
 あるみは気にすることなく沙鳴に訊く。
「は、はい……こちらです!」
 沙鳴は手提げのカバンから封筒を取り出して渡す。
「……ふむ」
 あるみは即座にその封筒を破いて、中の書面を読む。
「なるほどね」
「え、もう読み終わったんですか!?」
 沙鳴は驚く。
「社長、速読ができるそうですよ」
「そういえばそうだったわね」
 翠華は思い出したように言う。
 まあ、色々と規格外のあるみならそのぐらいできても不思議じゃない。
「はえ……こんな長い文書を一瞬ですか……」
 返された書類を見て、沙鳴は感心する。
「かなみちゃん、翠華ちゃん、一仕事いけるかしら?」
 あるみにそういわれて、翠華は反射的にたじろぐ。
 社長から直接社命をくだされる。そのことに良い思い出がないからだ。
「ぼ、ボーナスははずむんですか!?」
 かなみは瞳を輝かせる。
 かなみにとって危険よりもボーナスの方が重要なのだ。それに翠華が一緒ということも心強いのもある。
「一応ね、それには四十万のボーナスを出すって書いてあるわ」
「「「よ、よんじゅうまん!?」」」
 かなみは喜び、翠華は怯え、沙鳴は飛びあがらんばかり、に三者三様に驚く。
「って、えぇ!? これ四十万のお仕事の書類だったんですか!?」
 沙鳴は手に持ったその書類をガタガタ震えながら見る。書類に書かれている文字は細かい上に長いせいで、読むのを早々に断念する。
「四十万ってことは二人で分けても、二十万ですよ! 二十万あったら、借金が二十万減りますよ!」
「え、ええ、そうね……」
 八億のうちの二十万って、〇.一パーセントにも満たないのでは……と、翠華は思ったが、水を差すのもよくないので言わないでおいた。
「それで、どんな仕事なんですか?」
「それはね」
 あるみは今回の仕事内容を説明する。



 青い空に白い雲、そして水平線上にどこまでも続く青い海。
「………………」
「………………」
 かなみと翠華はかれこれ一時間近くも釣り糸を垂らして獲物が引っかかるのを待っていた。
「……釣れませんね」
「……そうね」
 このやり取りも四度目。
 だんだん黙り込む時間が長くなってくる。
 気まずい。空気が重い。どうにかしないと思いつつもきっかけがつかめない。
「………………」
 結果的に沈黙が長くなる。
(せっかく海の上で、かなみさんと二人っきりなのに……)
 口に出して嘆きたくなる。
 しかし、この気持ちを悟られるわけにはいかない。
(海の上……二人きり……かなみさんと、……海の、二人……)
 心の中でうわ言のように繰り返す。
 頭で反芻して、オーバーヒートし、湯気が出始める。
「翠華さん、どうかしたんですか!?」
 かなみはその異変に気付いて、心配する。
「あ、いえ、いえいえ、なんでもないのよ!!」
「そうですか。もしかして、船酔いとかだったりしませんか?」
「あ、いえ、違うわ。ちゃんと酔い止めの薬も飲んでおいたし」
「そうですか……辛くなったら、沙鳴に行って丘に戻っておきますから」
「沙鳴……」
 そう言われて、思い出す。
 この小船は、沙鳴の操縦で海に出ている。
 つまり、二人っきりではないのだ。
(本当は私とかなみさんの二人っきりがよかったのに……どうして、よりによって、あの沙鳴って女と……)
 不満を漏らすが、船舶免許を自分は持っていなくて沙鳴は持っていたのだから仕方が無い。
「かなみ様、船酔いですか?」
 何やら話し声を聞きつけた沙鳴がやってくる。
「ううん、私は大丈夫。ただ、翠華さんが調子悪いみたいで」
「ええ、翠華さん大丈夫ですか?」
「え、ええ、大丈夫よ……さ、仕事仕事!」
 翠華は釣り竿に力を込める。
 そんなことをしても、目的のものは釣れそうにないが。
「……とはいっても、釣れそうにないですね」
「なんの!」
 かなみは釣り糸が垂れる水面を燃える瞳で見つめる。
「たとえ、目的のブツが釣れなくても、今晩のおかずさえ釣れれば万々歳よ!!」
「おお、さすがかなみ様です!」
「……でも、さっきから一匹釣れてないのよね」
「あ……」
 翠華の一言に、かなみは水をかけられたように元気を消す。
「そうなんですよね。さっきから一匹も引っかからなくて、このままじゃ飢え死にしてしまいそうです」
「ええ? そんなに切実だったの!?」
 いつもながら、かなみの食生活はギリギリであった。
「ええ、こうなったら不肖山吹沙鳴! 助太刀いたします!」
 沙鳴は釣り竿を持ち出す。
「とおりゃッ!!」
 気合の一声を上げ、釣り糸を飛ばす。
「さあ、かなみ様! 大船に乗った気でいてください!」
「実際船に乗っているものね」
「そういうことです!」
 小型船舶だけどね、と、翠華は内心思ったが口に出しはしなかった。
「ところで、沙鳴って凄いわね。船舶免許持ってるし、釣りもできるなんて」
「あははは、大したことありませんよ」
 そんなやり取りを見て、翠華は焦る。
(ま、まずい……このままじゃ、かなみさんをとられちゃう!)
 危機感を覚えた翠華は釣り竿を握りしめる。
「かなみさん、私もご飯を釣りますから!」
「翠華さん……」
「むむ、負けていられません!」
 二人は対抗心を燃やして隣り合う。
「どうしちゃったの、二人とも……」
 一番切実なはずのかなみは蚊帳の外だった。
「おお、かかりました!」
 そう言ったのは、沙鳴だった。
「せい!」
 沙鳴は釣り糸を引っ張り上げる。
「おお、アジです!」
「おいしそう!」
 初めて捕った獲物に二人ははしゃぐ。
「く……」
 そんな二人の陰で翠華は一人苦い顔をする。
(初めての獲物をとられた……私だって、かなみさんの役に……)
 釣り糸を垂らした水面を見る。
 ちっともかかる気配が無い。翠華は大きくため息をつく。
(私、来なければよかったかも……社長、どうしてかなみさんと私を組ませたのかしら……?)
 少しだけ後悔が出てくる。
『海に出て、怪人を釣り上げてくるのよ!』
 あるみがいきなりそう言ってきた。まあ、あるみがいきなりなのはいつものことなのだが。
『近頃、海を荒らす怪人が出て漁師さん達が困ってるそうなのよ』
 あるみは書類の文面をかなりわかりやすくかみくだいて話す。
『そこでその怪人を釣り上げて退治してほしいって依頼ね』
 「どうしてそこで釣り上げる話になるんですか!?」と、ここでかなみがツッコミをいれた
『特に釣りをしている人から餌を食べたり、釣った魚を食い散らかしていくみたいなのよ』
 それを聞いたかなみと翠華の印象は「なんかせこい」であった。
『というわけで、あなた達で海に出て怪人を釣り上げるのよ』
 何が「というわけで」なのか。
 少々強引すぎるが、これもいつものことだし、まだ危険度指数は低い方だから大丈夫な気がしてくる。あくまで、怪人がいるかもしれないヤクザの事務所にカチコミを入れたりするのに比べたら、だが。
 そんなに簡単にいくのか。と、疑問に思ったが、この仕事の報酬は四十万。つまり、そういうことなのだろうと察する。
 危険度と成功率は必ずしもイコールではないが、成功率の低さは報酬の金額に反映される。
 危険は無さそうだし、ということで、かなみは仕事を引き受けた。それにつられて翠華も受けた。
 ここで問題と疑問が浮上した。

――どうやって海に出るのか?

 これには、あるみが「船に決まってるじゃない」と即答した。
「社長が船を出してくれるんですか?」
 実はあるみは船舶免許を持っていて、一緒に船で海へ出たこともあった。
『私は忙しいから無理ね』
 あっさり断られた。
「えぇ、どうするんですか!? 翠華さん、持ってるんですか!?」
「……私だって持ってないわ」
「翠華さんなら、って思ったんですが……」
 普通の女子高生が船舶免許を持っていないんだけど。それでも、期待を裏切ったりしちゃったかなと、ちょっとだけ翠華は嫌な気持ちになった。
「そこで沙鳴ちゃんの出番よ」
「「えぇ!?」」
 思ってもみなかった指名であった。
「船舶免許なら小型ですが、持ってますよ」
 さらに意外な返答が来た。
「沙鳴、持ってるの!?」
「はい。今の仕事でとっておくようにと言われまして」
「バイクを持ってて、さらに船舶免許まで……これじゃ、ますます私の立場が……」
 翠華は一人深刻な顔になった。
『まさにこの時のためね。さあ、沙鳴と一緒に海へ出なさい!』
 あるみは元気よく号令をかける。
 しかし、問題が一つあった。
「でも、社長……」
 かなみは他の人に聞こえないよう、あるみへ耳打ちする。
「沙鳴に魔法少女のことがバレても大丈夫なんですか?」
 沙鳴はかなみ達が魔法少女であることを知らない。
 借金はしているものの普通の女の子だ。普通の人間に魔法少女のことを知られるとペナルティが課せられる。秘密主義なのであったが、仕事で行動を一緒にするということは必然的に秘密がバレる危険を背負うことになる。
(狭い船の上じゃ、絶対バレる気がする……)
 秘密を知らない沙鳴と一緒に船で海に出るということはそういうことなのだ。

――バレないように頑張りなさい

 そんな事情に対して、あるみの返答は単純そのものであった。それだけにとてつもなく無理難題だ。
(そ、そういいますよね、社長は!?)
 どこかでそんなことを言う気がしていたが、やっぱり無茶もいいところだとかなみは思った。
 しかし、社長の発言は絶対だった。
「沙鳴、お願いしていいの?」
 かなみは沙鳴に話を振ってみる。
 というか、今までの話を聞いていてバレてないのだろうか。絶対バレているという想いもあった。
「任せてください! 必ずやそのカイジンって大物を釣り上げましょう!」
 どうやら話を聞いていた沙鳴は怪人や魔法少女といった事情を知らないなりにそう解釈したらしい。
「そ、そうね、頑張りましょう! かなみさん!!」
 そこへ翠華も便乗する。
 そんなわけで、怪人を釣り上げるためにレンタルで借りた小船で海へ出てきたのだが、結果は一時間弱でアジ一匹というありさまであった。
「まあ、これで坊主は免れたけど……そういう目的じゃないのよね」
 かなみはぼやく。
「むむ! やはり、こんな小物を釣り上げたところで、かなみ様の気がすぐれないようですね! やはり大物のカイジンを釣らないとダメですか! よおし、とおりゃぁッ!!」
 沙鳴は張り切って再び釣り糸を投げ入れる。
「私も負けていられないわね!」
 かなみも張り切る。
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