141 / 356
第60話 観劇! 観客の少女もまた役者なのか (Bパート)
しおりを挟む
「映画館に怪人が出没するそうだ」
「……はあ?」
翌日、オフィスにやってきたかなみは鯖戸からいきなりそう切り出された。
「映画館に怪人が出没するそうだ」
「二回も言わなくてもわかるわよ!」
かなみは課長のデスクを叩いた。
「いや、君の理解力だと三回ぐらい言わないとわからないかと思ってね」
「一回言えば十分よ! 大体、映画館に怪人が出没って何よ!?」
「言葉のままの意味だ。確定的な情報じゃないから、調査して欲しいって依頼だ」
「映画館の調査、ですか?」
かなみは顔をしかめる。
何故ならそこに怪人がいることは既にわかっていて、見逃してきたばかりなのだからバツが悪い。
「まあ、調査だから報酬は安いけどね」
鯖戸にはそれが、安い仕事を言い渡されたから不服そうにしている、と見えたようだが。
「不満なのはわかっているが、やってくれ」
鯖戸は形式だけの書類を肩に乗ったマニィへ渡す。
「どうするの?」
マニィが訊いてくる。
事情はわかってるくせに、と、恨めし気に言う。
「みあちゃん、どうしよう? あれ、みあちゃんは?」
かなみはみあに救いを求めるが、そのみあの姿がオフィスに無かった。
「ああ、みあ君なら紫織君と一緒に仕事に出かけたよ」
「ええ、このタイミングで!?」
「間が悪いね」
マニィが茶々を入れてくる。確信犯なのかと勘繰ってしまう。
「それじゃ、翠華君と一緒に行ってもらうか、それとも一人で行くか」
「……え?」
突然の翠華の指名に驚いて、こちらを見る。
「翠華さん、一緒に映画行ってもらえますか?」
「え、えぇ!?」
昨日なけなしの勇気を振り絞って行ってきたばかりなのに、今日かなみから誘われる。
「そ、そんな、いきなり……!」
「翠華さん、もしかしてみあちゃんや紫織ちゃんも連れてきちゃって、怒ってます?」
「え、いや、そんなことないけど……」
むしろ楽しかったぐらいなので怒るはずがない。
「でしたら、また行きましょう。今度は二人ですが……」
「うんうん!」
翠華は大きく首を横に振る。
「喜んで! 一緒に行きましょう!」
「はい!」
かなみは元気よく答える。
(って勢いで言っちゃったけど、またかなみさんと映画いけるんだ……)
たとえ仕事でも、それはとても嬉しいことであった。
「今度は二人っきり……」
また映画館にやってきたことで、改めて実感がこみ上げてくる。
「はあ、また来たんだけど、どうしようかしら……」
そんな翠華の気持ちをつゆしらず、かなみは途方に暮れていた。
いっそのこと、翠華に正直に話して判断を仰ぐべきか。そう思ったところで、翠華は映画のポスターを見る。
「かなみさん、今日は何を観ようかしら?」
「え、えぇ、はい、そうですね……」
ついつい流されて、かなみはポスターへ視線を移す。
「今日の映画は経費で見れるから、チケット代でもめることもありませんよね」
「ええ、そうね……かなみさん、今度はこれを観ましょうか?」
『ニトロコンビ』
ノンストップ爆破ムービーと銘打たれたハリウッド映画で、向こうでは興行収入一位ともポスターに書かれている。
「面白そうですね! 観ましょう観ましょう! 是非観ましょう!」
かなみは露骨に興味を示す。
せっかく映画館に来たのだから、映画を観なくちゃ損だと思ったからだ。
「え、えぇ……」
翠華はその態度にちょっとだけ引く。
そんなわけでかなみにとって三度の映画鑑賞になった。
「別に怪人の気配は感じないわね」
「そ、そうですか……私、感知能力には自信が無くて……」
昨日だって、みあは気づいていたのにまったく気づかなかった。
なんてことを喉まで出かかって止める。
とりあえず、いないのなら別にいい。
後で廃工場へ行けばいいのか。そして、その後はどうしようか。やっぱり倒すべきなのだろうか。
ブオオオオン!
考えているうちに、上映開始をしらせるブザーが鳴る。
(まあ、映画が終わった後に考えればいいか……)
楽観的な思考をするかなみであった。
バゴォォォォォォォォォォン!!
開幕早々に凄まじい爆発がスクリーンいっぱいに広がる。
「………………」
「びっくりした?」
翠華は訊く。
「いいえ、これでびっくりしてたら、神殺砲撃つ度に心臓が飛び出てますよ」
「……それもそうね」
そんなやり取りをしているうちに、映画は進む。
バゴォォン!!
バゴォォン!!
バゴォォン!!
ノンストップ爆破ムービーというだけあって、何回も大爆発が起こり、街の高層ビルやら豪邸やらモニュメントやらが次々と爆破されては破壊されていく。
「これだけ爆破したら被害総額いくらになるのかしら?」
「気にするところそこなのね」
「よく仕事でああいうの壊してしまうので、ついつい気になってしまって……」
「あははは、そ、そうね」
翠華は苦笑する。
バゴォォン!!
リュミィはこんな爆発が出る度に、空中で仰け反って一回転する。これはこれで映画を楽しんでいるように見える。
「あ、今のビル破壊しちゃったら、また借金が増える!?」
一方のかなみは爆発で街に被害が出ると思わず頭を抱える。
翠華はそんなかなみを不憫に思う。
そんなこんなで、爆破を起こしている犯人を追いかけ続けていくうちに街一帯が爆破されて火の海になっていく。
「犯人、絶対に許さないわよ……!」
「ええ、そうね」
かなみは犯人への怒りに燃えていた。
(かなみさん、なんだかんだ言ってのめり込むタイプなのね……)
知らない一面を見れて嬉しく思った。
「ところで怪人の気配が無いわね……」
「………………」
それとなく翠華は仕事の件を切り出してみたが、返事が来ない。
バゴォォン!!
「――!」
爆発の度に目を見開いて驚いているのがわかる。
すっかり映画に見入っている。これは仕事の話をするのは難しそう。
(まあ、怪人の気配はしないからいいか……)
映画が終わった後でまた話せばいいかとも思った。
しばらくして映画は終わった。
クライマックスはとてつもない爆発と共に暗転して、幕引きになった。
『Continue to the episode2(エピソード2へ続く)』
とメッセージがスタッフロールの最後に出てきた。
「かなみさん……」
「は、はい」
「2も観に行きましょうね」
そう言われて、かなみは笑顔になって答える。
「はい! 絶対行きましょう!!」
(やったー!)
こ翠華はまたかなみと映画を観に行く約束が取り付けられた、と内心大いに喜んだ。
「あ、あの、それで……」
そこから、かなみは一転してもじもじした態度を取り出す。
「うん、どうしたの?」
「ちょ、ちょっと、この後……来て欲しいところがあるんです……」
その態度に、翠華はドキリとさせられる。
(こ、ここのあと、って、き、ききき、来てほしいって、つまり、そ、そそ、それって、どど、どういう……ことなの!?)
そこへやってきたのが、隣の廃工場だった。
(翠華さんになんて言って説明したらいいんだろう……)
(か、かなみさんが、こんなところに、つれてくるだなんて……!
でも、こういうところの方が、二人っきりになれて……! ええ、まさかそんな……!)
かなみと翠華はまったく別の事を考えていた。
「あ、あの、翠華さん……?」
「は、ひゃい!?」
翠華の返事の声が裏返っていた。
「話しておきたいことが、あるんですけど……」
「は、話しておきたい!? そ、それは、何……!?」
「え、ええ、それは……」
翠華はあまりのきょどりように、かなみは若干引く。そのせいで余計に話しづらくなってしまった。
「あ、あの……やっぱり、やめておきます……!」
「ええ、そんな!?
話して! 話しておきたいことってなに!?」
翠華はかなみへ迫る。
せっかく、かなみから切り出してくれた機会なのだから、逃したくない気持ちが強い。
「そ、それは……」
「教えて……! お願い、かなみさん……!」
翠華は懇願するように言う。
「で、でも……」
「カァァァァァット!」
そこへ間へ割って入らせるように大声で叫ぶ怪人がいた。
「え……?」
「あ……」
突然の乱入者に、翠華は驚き、かなみは気まずそうにする。
「お前等のコントはつまらなすぎる! どうせやるなら、もっと笑えるやつをやらんかッ!」
「こ、こんと……?」
「監督さん、私達は別にコントをやっていたわけじゃないのよ」
「なんだよ、違うのかよ。紛らわしい真似してんじゃねえ!」
「す、すみません」
かなみは苦笑いして答える。
「あの、かなみさん、監督って……?」
「あ、翠華さん、ごめんなさい……! 実を言いますと」
ごまかされたような雰囲気になったが、かなみはきちんと説明しなければと事情を話す。
「監督のホントック、俳優のクータ、カメラマンのスコップ、ね……」
「話せなくてすみません」
かなみは一礼して謝る。
「別に、かなみさんが悪いわけじゃないけど……これは問題ね」
そう言いながら、翠華は怪人三人へ視線を移す。
「お、お願いします!!」
その視線を感じて、クータは即座に土下座する。
「ど、どうか、生命だけは……!」
後ろに控えているスコップも同様にかなみと翠華に怯えている。
そんな情けない姿を見て、翠華も退治する気が失せているのが顔からみてとれる。
「……これが映画館に現れる怪人の正体だったなんてね」
「正確には俺だけなんだがな」
「威張って言うことじゃないわ。無断で映画を観るなんていけないことよ」
「す、すまえねえ……」
翠華に注意されて、ホントックは途端にしおらしく謝る。
「どうしましょうね、これ……」
かなみの予想通り、翠華は困り果てた。
「退治した方が、いいんでしょうか?」
「そうね……」
翠華は顎に手を当てて考える。
「この仕事って、映画館に出てくる怪人を退治する、じゃなくて、調査するって内容じゃなかったかしら?」
「あ……」
「確かに、『調査して欲しい』って言ってたね」
マニィがボイスレコーダーのように鯖戸の言質を述べる。
「それなら、調査結果だけ報告して、後のことは社長や部長に任せた方がいいんじゃないかしら?」
「それがいいですね! あ、でも……」
かなみは何か気がつく。
「もし、社長や部長が退治しろって言ってきたらどうしましょう?」
「あ、それは……社長命令だったら、絶対だけど……」
「だったら、私報告しません」
「……え!?」
「命令だったらきかないといけませんけど、命令されなかったらききようがありませんよね?」
「確かに……それはそうだけど……」
理屈的にはそうなるけど、社員として正しいこととは思えない。
「あのさ、かなみ。それをボクがいる前でいうのもどうかと思うよ」
「あ、マニィ……」
かなみは一気に気まずくなる。
「一応、今の発言も含めて査定に響くそうだよ」
「ええぇぇぇぇ、そんなぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
かなみは頭を抱えて悲鳴を上げる。
「おお、そのリアクション、素晴らしいな」
ホントックは感心する。
スコップはばっちり親指を立てている。
「お、バッチリとれたか」
「って、何とってるのよ!?」
かなみはスコップをはたく。
「こうなったら、あんた達を退治してそれでボーナスをもらうわよ!!」
かなみは一転してビシッと言い放ってくる。
「ひ、ひぃぃぃぃッ!?」
クータとスコップは震え上がってホントックの背後に回る。
「お、お前等、俺は戦闘はからっきしなんだぞ! 戦うならクータ、お前だろ! その筋肉はどうした!?」
「だって、これはいい画をとるためだけの見掛け倒しだって! 実際戦ったらスコップの方が強いですよ!!」
「え、俺!?」とスコップはリアクションをとる。
無理無理! と、手を大きく交差させてジェスチャーをとる。
「お前等、そろいもそろって役立たずが! こうなったら、俺がやってやる!」
ホントックはファイティングポーズをとる。
しかし、その肩はプルプル震え、足はガタガタ笑っていて、はっきり言って見掛け倒しなのが一目でわかる。
「……あんた、それで戦うつもりなの?」
「おうとも! 俺は映画をとるのに生命賭けてるんだ!!
最高の映画とれるまでやられるわけにはいかないんだぁぁぁッ!!」
ホントックを拳を突き出して、かなみへ突っ込む。
「えい」
かなみはほこりをとるように軽く手で払いのける。
「あぎゃぁぁぁッ!!」
それを受けたホントックは、まるでハンマーで叩かれたかのように吹っ飛ぶ。
「監督!?」
クータは我が事のように悲鳴を上げる。
「……よ、弱い」
その様を見て、翠華は漏らす。
何しろ、かなみはまだ変身さえしていない。魔法で腕力を強化をしているわけでもない。
つまり、あのホントックという怪人は、魔法を使えない一般人、それも女の子にさえ勝てないほど弱いということだ。
「こんなに弱い怪人がいていいのかしら?」
「いるんだからしょうがないでしょ」
かなみのぼやきに、マニィは淡々とした口調で言う。
「でも、あの監督より弱いって言ってたわよね、あいつ」
かなみはクータとスコップの方へ視線を移す。途端に、二人の怪人は怯える。
「ひ、ひぃぃぃぃ、そうなんです! 俺、戦いはからっきしダメなんです!!」
「演技もダメそうだったけど」
「それを言わないでくださいッ!!」
クータの悲痛な叫びが響き渡る。
「かなみさん、泣いてるけど……」
翠華は困惑してきた。
「これって、演技じゃないの?」
「こいつは演技がダメダメなんですってば」
「グサリッ!」
言葉のナイフがクータの胸へと突き刺さった。……ことを表現する効果音をクータが発する。
「なんだか、殴るよりダメージを受けてそうだけど」
「うーん、なんだか悪い気になってきちゃいました……」
「た、頼むから、これ以上俺達を追い詰めないでください……!」
クータは懇願してくる。
「弱い者いじめって感じがしてきたわ」
翠華は頭を抱える。
「マニィ、社長はなんて言ってるの?」
「煮るなり焼くなり好きにしなさい、だって」
なんとも社長らしく投げやり気味な返答であった。
「社長らしいっていうか……困る返事ね
まあ、退治しなさいって言われるよりはマシだけど……翠華さん、どうしましょう?」
かなみは翠華に意見を求める。
「そんなこと、私に言われても……」
翠華はホントック、クータ、スコップの三人を見やる。
「特に害は無さそうだし、」
退治するのは可哀想だからやめよう。そう言おうとした瞬間だった。
「――このままで終われるかッ!」
吹っ飛ばされたホントックは立ち上がって、敵意をむき出しにしてくる。
「俺は監督だ! 映画とるまえにやられてたまるかよッ!!」
「あ、だから、見逃すって……」
「そんな言い訳はいいッ!」
「えぇ……」
ホントックは完全に頭に血が上っているようだ。
「こうなったら、なりふり構っちゃいられねえッ!! ――でぇいッ!!」
バァァァァン!!
かなみ達の背後が爆発して燃え上がる。
「……はあ?」
ホントックが何かスイッチを押したみたいだが、魔法を使ったようには見えなかった。
「爆弾!?」
さっき見たばかりの『ニトロコンビ』のCG と実際の爆弾を織り交ぜた爆発が脳裏をよぎった。今のは後者の方に近かった。
「なんで、本物の爆弾がここに!?」
「俺達は爆発の魔法は使えないからなッ!」
「そういう問題じゃない!」
「だけど、爆破は映画の華だからなッ!」
「だから、そういう問題じゃないって!」
「火薬をありったけかっぱらってきたんだよ!!」
「何やってるのよ、あんた達!? やってることは立派な悪事じゃないの!!」
かなみは突っ込みを入れる。
「ええい、それがどうした!! 俺達は悪の秘密結社ネガサイドの怪人なんだぞ!!」
「開き直らないで! ああ、もうだったら退治してやるわよ!!」
かなみと翠華はコインを取り出す。
「「マジカルワークス」」
光に包まれて、黄と青の魔法少女が姿を現す。
「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!」
「青百合の戦士、魔法少女スイカ推参!」
カナミの肩から降りたマニィはハンドカメラを手に持ってしっかり撮影する。
「撮影はしっかりしておくから派手にやってね」
「またいい加減なことを」
カナミがぼやく。しかし、これが収入に僅かばかりに結びついているのだから止めろとはいえない。
「カナミ……あいつがあの悪名高い魔法少女だったなんて……!」
ホントックは歯噛みして震える。
「ひぃぃぃぃ、怪人に情け容赦ないって有名だからなぁぁぁぁッ!! どうか助けてください!!」
クータは恐れおののき、スコップは土下座する。
「カナミさん……」
「また、このパターン……」
カナミはため息をつく。
「随分と、怪人達の方に名前が広がっているみたいね」
「不本意なんですけど」
有名になるのならともかく悪名なのだから悪口を言われているみたいで気分が悪い。
「くそー、いくら魔法少女カナミだからって、俺は負けねえ!」
ホントックはスイッチを押す。
バァァァァァァァン!!
カナミとスイカの背後から爆発が起きる。
「ま、また……!」
「いくつ仕掛けたのよ!?」
「そんなの答えるわけねえだろ! 俺達の切り札なんだぞ!!」
カナミの問いかけに、ホントックはやけくそに答える。
「こ、こんなのが切り札って……」
カナミは呆れる。
「俺はこの廃工場の至る所に仕掛けた爆弾を全部把握してるんだ! こいつをまともに食らったらタダじゃすまねえぜ!」
ホントックはスイッチを押す。
「――危ないです!」
カナミは直感で、足元の爆弾のスイッチを押したことを察する。
バァァァァァァァン!!
カナミとスイカはすんでのところで回避する。
「えぇぇい、こうなったらやぶれかぶれだ!!」
ホントックはスイッチを次々と押す。
バァァァァァァァン!!
バァァァァァァァン!!
バァァァァァァァン!!
カナミとスイカはその爆発をなんとかかいくぐる。
「いくらなんでも多すぎでしょ」
「『ニトロコンビ』の影響だったりして……それにしてもいい迷惑よ!」
カナミはそう言って、ホントックに向けて魔法弾を撃つ。
「のわあああああッ!!」
ホントックはこれを必死に避ける。
バァァァァァァァン!!
避けた先にあった爆弾が魔法弾で誘爆する。
「あ……」
カナミは気まずそうにスイカを見る。
「う、迂闊に撃たない方がいいわね」
スイカは苦笑いする。
「は、はい」
カナミは縮こまる。
「ええい、チャンスだ!!」
ホントックはスイッチを押す。
バァァァァァァァン!!
本当にいくつか爆弾を仕掛けたのか。火薬量だけならハリウッド映画級だと思うが、これじゃただの迷惑行為でしかない。
「スイカさん、お願いします!」
「ええ!!」
カナミの呼びかけに応じて、スイカはホントックへ向けて駆け出す。
カナミの魔法弾だと、そこら中に仕掛けられている爆弾に誘爆してしまい、とても危険だ。だけど、スイカのレイピアで接近戦に持ち込めばいける。
(そう、カナミさんは期待してくれている!)
スイカは心弾ませながら、ステップを踏んでホントックの目前まで一気に詰める。
「くるな! くるなぁぁぁぁぁッ!!」
ホントックは悲鳴にも似た叫びを上げて、仰け反る。
「せいッ!」
スイカはレイピアを突き出す。
「わああああああッ!!」
ホントックはとっさにスイッチを盾代わりに出す。
ポチッ!
そのせいで、スイッチがレイピアによって押されてしまう。
「……あ!」
バァァァァァァァン!!
これまでにない大爆発が周囲で巻き起こる。
ガラガラガラ!!
さらに廃工場を支えていたであろう柱や壁が次々と崩れていく。
そうすることで屋根が頭上から降り注いでいく。
「うそおおおおおッ!?」
カナミは悲鳴を上げて逃げ出そうとするが、それ以上に廃工場が崩れていく速度の方が早い。
「ええい、こうなったら、神殺砲!!」
カナミは落ちてくる屋根に向けて大砲を掲げる。
「ボーナスキャノン!!」
バァァァァァァァン!!
カナミがそれを発射させたことによって、最大級の爆発とともに廃工場は空き地へと変わった。
「なるほど、映画館に出没する怪人は隣の廃工場に潜伏していたというわけか」
「……はい」
報告書を読み上げる鯖戸に対して、かなみはしおらしい態度で返事する。
「それで、その怪人達はどうしたのかな?」
「く……!」
報告書に書いてあるのに、わざわざかなみに訊く。
そういう態度がとてつもなく嫌味ったらしい。
「……逃がしてしまいました!」
かなみは悔しさと恥ずかしさが入り混じった声色で答える。
廃工場が倒壊のゴタゴタで、気づいたらホントックを始めとする三人の怪人はどこかへ行ってしまい、逃がしてしまった。
「なるほど、逃がしてしまったか。
それじゃ、今回の仕事は成功とはいえないな」
「そ、それじゃ、ボーナスは?」
「あると思っているのかい」
「あるんじゃないんですか!?」
「君もいい加減学習した方がいいよ」
「うるさいわね! ボーナスは期待してなくちゃもらえないってことは学んだわよ!!」
「よくない学習の仕方だね」
鯖戸は呆れる。
「期待させて悪いが、今回のボーナスは無しだ」
「きぃぃぃぃぃッ!!」
かなみは歯ぎしりして食い下がるが、一度言った事は決して撤回しないのが鯖戸であった。
「かなみさん、ごめんなさいね。私がしくじったから」
翠華が謝る。
「翠華さんのせいじゃありませんよ。私がちゃんと仕留めておけばよかったんです」
「かなみさん……
でも、今回は私が爆破スイッチを押してしまったんだから、どう考えても私のせいよ……」
「そ、それは……」
そこは、かなみも否定しきれないところであった。
「ああ、それと、ボーナスはあげられないけど、これ」
そう言って、鯖戸は一枚の紙を渡す。
「特別報酬!?」
「ボーナスはあげられないって言っただろ」
「じゃあ、これは……! 請求書ッ!?」
「その辺りは学習したみたいだね」
鯖戸は感心する。
「……したくなかったですよ、こんな学習」
かなみはうんざり気味に返答して、視線を請求書へ移す。
「こんなの払えるわけないでしょ!!」
「でも、払ってくれないと困るわよ。ああ、払えない場合は来月分の給料が差し引くから私は困らないか」
「鬼! 悪魔! 怪人より質が悪いんだから!!」
かなみがいくら罵っても、鯖戸には暖簾に腕押しだった。
「あのかなみさん……やっぱり、私のせいだから払うわよ」
「いいですよ! 他の請求書も溜まっていますし、ボーナスもそれなりにありますから!」
「で、でも……」
「か、代わりに、一つお願いしてもいいですか?」
「え、お、お願い……?」
翠華はドキリとする。
「もう一度、私と一緒に映画を観てくれませんか?」
「え、映画……?」
翠華は一瞬だけ思考が停止する。
そして、理解が追いつく。
かなみからまた映画を観たいと言ってもらえた。
それは、願っても無いことだった。
「ダメ、ですか?」
かなみは不安げに訊く。
「ダメなんかじゃないわ! 一緒に行きましょう!
いつ? 今から!? 明日!? 明後日!?」
「え……今度の休み、でいいですか?」
かなみはちょっと控えめに答える。
「うん、全然オッケーよ!!
……あ、でも、かなみさん今度の休日っていつなの?」
「……あ」
かなみは冷や汗をかきながら、鯖戸の方を見る。
「しばらくない、とだけ言っておく」
次の瞬間、本日二度目の「鬼! 悪魔!」が炸裂した。
「……というわけで、ようやくやってきた休日で、かなみさんと映画館にやってきたはずなのに……」
翠華はため息をつく。
「今日は映画なにみる? 『夢恋』?」
「みあさん、それはこの前観ましたよ」
ポスターの前で、みあと紫織が楽しそうにしている。
「……なんで?」
かなみさんと二人っきりじゃないの? と、疑問を口に仕掛けた。
「翠華さん、今日は何を観ましょうか?」
「え、ええ……」
翠華は戸惑いながら、ポスターを見る。
「この前上映予定の『明日の恋は昨日の愛』なんてどうかしら?」
「あ、いいですね!」
「でも、みあちゃんはなんて言うか……」
「いいんじゃない、それで」
いきなりみあがやってきて言う。
「みあちゃん、いいの? あんまり好きじゃない恋愛映画だよ?」
「別にあたしは恋愛もコメディも映画は好きよ」
「そうだったの?」
これは翠華だった。
「意外……」
「何よ? あたしがアニメとか特撮しかみない女の子だと思ってたの?」
「そ、そういうわけじゃないけど」
「ま、つまらなかったら三分で寝るけどね」
「そ、そうなのね……」
翠華は苦笑する。
「私は最後まで観ますよ!」
「紫織ちゃん?」
「せっかくお誘いしてくれたのですから、最後までちゃんと観たいです」
「気持ちは嬉しいんだけど、映画ってそんなにりきむものじゃないわよ」
「は、はあ……」と紫織は嘆息する。
「楽しめればいいのよ」
「私はとっても楽しみですよ」
かなみは笑顔でそう言ってくれる。
それだけで、今日来た甲斐があった、と翠華は思う。
(二人っきりになるより話しやすいから、この方がよかったのかも……)
そう思うことで、今日は楽しく過ごそうかと心に決めるのであった。
「……はあ?」
翌日、オフィスにやってきたかなみは鯖戸からいきなりそう切り出された。
「映画館に怪人が出没するそうだ」
「二回も言わなくてもわかるわよ!」
かなみは課長のデスクを叩いた。
「いや、君の理解力だと三回ぐらい言わないとわからないかと思ってね」
「一回言えば十分よ! 大体、映画館に怪人が出没って何よ!?」
「言葉のままの意味だ。確定的な情報じゃないから、調査して欲しいって依頼だ」
「映画館の調査、ですか?」
かなみは顔をしかめる。
何故ならそこに怪人がいることは既にわかっていて、見逃してきたばかりなのだからバツが悪い。
「まあ、調査だから報酬は安いけどね」
鯖戸にはそれが、安い仕事を言い渡されたから不服そうにしている、と見えたようだが。
「不満なのはわかっているが、やってくれ」
鯖戸は形式だけの書類を肩に乗ったマニィへ渡す。
「どうするの?」
マニィが訊いてくる。
事情はわかってるくせに、と、恨めし気に言う。
「みあちゃん、どうしよう? あれ、みあちゃんは?」
かなみはみあに救いを求めるが、そのみあの姿がオフィスに無かった。
「ああ、みあ君なら紫織君と一緒に仕事に出かけたよ」
「ええ、このタイミングで!?」
「間が悪いね」
マニィが茶々を入れてくる。確信犯なのかと勘繰ってしまう。
「それじゃ、翠華君と一緒に行ってもらうか、それとも一人で行くか」
「……え?」
突然の翠華の指名に驚いて、こちらを見る。
「翠華さん、一緒に映画行ってもらえますか?」
「え、えぇ!?」
昨日なけなしの勇気を振り絞って行ってきたばかりなのに、今日かなみから誘われる。
「そ、そんな、いきなり……!」
「翠華さん、もしかしてみあちゃんや紫織ちゃんも連れてきちゃって、怒ってます?」
「え、いや、そんなことないけど……」
むしろ楽しかったぐらいなので怒るはずがない。
「でしたら、また行きましょう。今度は二人ですが……」
「うんうん!」
翠華は大きく首を横に振る。
「喜んで! 一緒に行きましょう!」
「はい!」
かなみは元気よく答える。
(って勢いで言っちゃったけど、またかなみさんと映画いけるんだ……)
たとえ仕事でも、それはとても嬉しいことであった。
「今度は二人っきり……」
また映画館にやってきたことで、改めて実感がこみ上げてくる。
「はあ、また来たんだけど、どうしようかしら……」
そんな翠華の気持ちをつゆしらず、かなみは途方に暮れていた。
いっそのこと、翠華に正直に話して判断を仰ぐべきか。そう思ったところで、翠華は映画のポスターを見る。
「かなみさん、今日は何を観ようかしら?」
「え、えぇ、はい、そうですね……」
ついつい流されて、かなみはポスターへ視線を移す。
「今日の映画は経費で見れるから、チケット代でもめることもありませんよね」
「ええ、そうね……かなみさん、今度はこれを観ましょうか?」
『ニトロコンビ』
ノンストップ爆破ムービーと銘打たれたハリウッド映画で、向こうでは興行収入一位ともポスターに書かれている。
「面白そうですね! 観ましょう観ましょう! 是非観ましょう!」
かなみは露骨に興味を示す。
せっかく映画館に来たのだから、映画を観なくちゃ損だと思ったからだ。
「え、えぇ……」
翠華はその態度にちょっとだけ引く。
そんなわけでかなみにとって三度の映画鑑賞になった。
「別に怪人の気配は感じないわね」
「そ、そうですか……私、感知能力には自信が無くて……」
昨日だって、みあは気づいていたのにまったく気づかなかった。
なんてことを喉まで出かかって止める。
とりあえず、いないのなら別にいい。
後で廃工場へ行けばいいのか。そして、その後はどうしようか。やっぱり倒すべきなのだろうか。
ブオオオオン!
考えているうちに、上映開始をしらせるブザーが鳴る。
(まあ、映画が終わった後に考えればいいか……)
楽観的な思考をするかなみであった。
バゴォォォォォォォォォォン!!
開幕早々に凄まじい爆発がスクリーンいっぱいに広がる。
「………………」
「びっくりした?」
翠華は訊く。
「いいえ、これでびっくりしてたら、神殺砲撃つ度に心臓が飛び出てますよ」
「……それもそうね」
そんなやり取りをしているうちに、映画は進む。
バゴォォン!!
バゴォォン!!
バゴォォン!!
ノンストップ爆破ムービーというだけあって、何回も大爆発が起こり、街の高層ビルやら豪邸やらモニュメントやらが次々と爆破されては破壊されていく。
「これだけ爆破したら被害総額いくらになるのかしら?」
「気にするところそこなのね」
「よく仕事でああいうの壊してしまうので、ついつい気になってしまって……」
「あははは、そ、そうね」
翠華は苦笑する。
バゴォォン!!
リュミィはこんな爆発が出る度に、空中で仰け反って一回転する。これはこれで映画を楽しんでいるように見える。
「あ、今のビル破壊しちゃったら、また借金が増える!?」
一方のかなみは爆発で街に被害が出ると思わず頭を抱える。
翠華はそんなかなみを不憫に思う。
そんなこんなで、爆破を起こしている犯人を追いかけ続けていくうちに街一帯が爆破されて火の海になっていく。
「犯人、絶対に許さないわよ……!」
「ええ、そうね」
かなみは犯人への怒りに燃えていた。
(かなみさん、なんだかんだ言ってのめり込むタイプなのね……)
知らない一面を見れて嬉しく思った。
「ところで怪人の気配が無いわね……」
「………………」
それとなく翠華は仕事の件を切り出してみたが、返事が来ない。
バゴォォン!!
「――!」
爆発の度に目を見開いて驚いているのがわかる。
すっかり映画に見入っている。これは仕事の話をするのは難しそう。
(まあ、怪人の気配はしないからいいか……)
映画が終わった後でまた話せばいいかとも思った。
しばらくして映画は終わった。
クライマックスはとてつもない爆発と共に暗転して、幕引きになった。
『Continue to the episode2(エピソード2へ続く)』
とメッセージがスタッフロールの最後に出てきた。
「かなみさん……」
「は、はい」
「2も観に行きましょうね」
そう言われて、かなみは笑顔になって答える。
「はい! 絶対行きましょう!!」
(やったー!)
こ翠華はまたかなみと映画を観に行く約束が取り付けられた、と内心大いに喜んだ。
「あ、あの、それで……」
そこから、かなみは一転してもじもじした態度を取り出す。
「うん、どうしたの?」
「ちょ、ちょっと、この後……来て欲しいところがあるんです……」
その態度に、翠華はドキリとさせられる。
(こ、ここのあと、って、き、ききき、来てほしいって、つまり、そ、そそ、それって、どど、どういう……ことなの!?)
そこへやってきたのが、隣の廃工場だった。
(翠華さんになんて言って説明したらいいんだろう……)
(か、かなみさんが、こんなところに、つれてくるだなんて……!
でも、こういうところの方が、二人っきりになれて……! ええ、まさかそんな……!)
かなみと翠華はまったく別の事を考えていた。
「あ、あの、翠華さん……?」
「は、ひゃい!?」
翠華の返事の声が裏返っていた。
「話しておきたいことが、あるんですけど……」
「は、話しておきたい!? そ、それは、何……!?」
「え、ええ、それは……」
翠華はあまりのきょどりように、かなみは若干引く。そのせいで余計に話しづらくなってしまった。
「あ、あの……やっぱり、やめておきます……!」
「ええ、そんな!?
話して! 話しておきたいことってなに!?」
翠華はかなみへ迫る。
せっかく、かなみから切り出してくれた機会なのだから、逃したくない気持ちが強い。
「そ、それは……」
「教えて……! お願い、かなみさん……!」
翠華は懇願するように言う。
「で、でも……」
「カァァァァァット!」
そこへ間へ割って入らせるように大声で叫ぶ怪人がいた。
「え……?」
「あ……」
突然の乱入者に、翠華は驚き、かなみは気まずそうにする。
「お前等のコントはつまらなすぎる! どうせやるなら、もっと笑えるやつをやらんかッ!」
「こ、こんと……?」
「監督さん、私達は別にコントをやっていたわけじゃないのよ」
「なんだよ、違うのかよ。紛らわしい真似してんじゃねえ!」
「す、すみません」
かなみは苦笑いして答える。
「あの、かなみさん、監督って……?」
「あ、翠華さん、ごめんなさい……! 実を言いますと」
ごまかされたような雰囲気になったが、かなみはきちんと説明しなければと事情を話す。
「監督のホントック、俳優のクータ、カメラマンのスコップ、ね……」
「話せなくてすみません」
かなみは一礼して謝る。
「別に、かなみさんが悪いわけじゃないけど……これは問題ね」
そう言いながら、翠華は怪人三人へ視線を移す。
「お、お願いします!!」
その視線を感じて、クータは即座に土下座する。
「ど、どうか、生命だけは……!」
後ろに控えているスコップも同様にかなみと翠華に怯えている。
そんな情けない姿を見て、翠華も退治する気が失せているのが顔からみてとれる。
「……これが映画館に現れる怪人の正体だったなんてね」
「正確には俺だけなんだがな」
「威張って言うことじゃないわ。無断で映画を観るなんていけないことよ」
「す、すまえねえ……」
翠華に注意されて、ホントックは途端にしおらしく謝る。
「どうしましょうね、これ……」
かなみの予想通り、翠華は困り果てた。
「退治した方が、いいんでしょうか?」
「そうね……」
翠華は顎に手を当てて考える。
「この仕事って、映画館に出てくる怪人を退治する、じゃなくて、調査するって内容じゃなかったかしら?」
「あ……」
「確かに、『調査して欲しい』って言ってたね」
マニィがボイスレコーダーのように鯖戸の言質を述べる。
「それなら、調査結果だけ報告して、後のことは社長や部長に任せた方がいいんじゃないかしら?」
「それがいいですね! あ、でも……」
かなみは何か気がつく。
「もし、社長や部長が退治しろって言ってきたらどうしましょう?」
「あ、それは……社長命令だったら、絶対だけど……」
「だったら、私報告しません」
「……え!?」
「命令だったらきかないといけませんけど、命令されなかったらききようがありませんよね?」
「確かに……それはそうだけど……」
理屈的にはそうなるけど、社員として正しいこととは思えない。
「あのさ、かなみ。それをボクがいる前でいうのもどうかと思うよ」
「あ、マニィ……」
かなみは一気に気まずくなる。
「一応、今の発言も含めて査定に響くそうだよ」
「ええぇぇぇぇ、そんなぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
かなみは頭を抱えて悲鳴を上げる。
「おお、そのリアクション、素晴らしいな」
ホントックは感心する。
スコップはばっちり親指を立てている。
「お、バッチリとれたか」
「って、何とってるのよ!?」
かなみはスコップをはたく。
「こうなったら、あんた達を退治してそれでボーナスをもらうわよ!!」
かなみは一転してビシッと言い放ってくる。
「ひ、ひぃぃぃぃッ!?」
クータとスコップは震え上がってホントックの背後に回る。
「お、お前等、俺は戦闘はからっきしなんだぞ! 戦うならクータ、お前だろ! その筋肉はどうした!?」
「だって、これはいい画をとるためだけの見掛け倒しだって! 実際戦ったらスコップの方が強いですよ!!」
「え、俺!?」とスコップはリアクションをとる。
無理無理! と、手を大きく交差させてジェスチャーをとる。
「お前等、そろいもそろって役立たずが! こうなったら、俺がやってやる!」
ホントックはファイティングポーズをとる。
しかし、その肩はプルプル震え、足はガタガタ笑っていて、はっきり言って見掛け倒しなのが一目でわかる。
「……あんた、それで戦うつもりなの?」
「おうとも! 俺は映画をとるのに生命賭けてるんだ!!
最高の映画とれるまでやられるわけにはいかないんだぁぁぁッ!!」
ホントックを拳を突き出して、かなみへ突っ込む。
「えい」
かなみはほこりをとるように軽く手で払いのける。
「あぎゃぁぁぁッ!!」
それを受けたホントックは、まるでハンマーで叩かれたかのように吹っ飛ぶ。
「監督!?」
クータは我が事のように悲鳴を上げる。
「……よ、弱い」
その様を見て、翠華は漏らす。
何しろ、かなみはまだ変身さえしていない。魔法で腕力を強化をしているわけでもない。
つまり、あのホントックという怪人は、魔法を使えない一般人、それも女の子にさえ勝てないほど弱いということだ。
「こんなに弱い怪人がいていいのかしら?」
「いるんだからしょうがないでしょ」
かなみのぼやきに、マニィは淡々とした口調で言う。
「でも、あの監督より弱いって言ってたわよね、あいつ」
かなみはクータとスコップの方へ視線を移す。途端に、二人の怪人は怯える。
「ひ、ひぃぃぃぃ、そうなんです! 俺、戦いはからっきしダメなんです!!」
「演技もダメそうだったけど」
「それを言わないでくださいッ!!」
クータの悲痛な叫びが響き渡る。
「かなみさん、泣いてるけど……」
翠華は困惑してきた。
「これって、演技じゃないの?」
「こいつは演技がダメダメなんですってば」
「グサリッ!」
言葉のナイフがクータの胸へと突き刺さった。……ことを表現する効果音をクータが発する。
「なんだか、殴るよりダメージを受けてそうだけど」
「うーん、なんだか悪い気になってきちゃいました……」
「た、頼むから、これ以上俺達を追い詰めないでください……!」
クータは懇願してくる。
「弱い者いじめって感じがしてきたわ」
翠華は頭を抱える。
「マニィ、社長はなんて言ってるの?」
「煮るなり焼くなり好きにしなさい、だって」
なんとも社長らしく投げやり気味な返答であった。
「社長らしいっていうか……困る返事ね
まあ、退治しなさいって言われるよりはマシだけど……翠華さん、どうしましょう?」
かなみは翠華に意見を求める。
「そんなこと、私に言われても……」
翠華はホントック、クータ、スコップの三人を見やる。
「特に害は無さそうだし、」
退治するのは可哀想だからやめよう。そう言おうとした瞬間だった。
「――このままで終われるかッ!」
吹っ飛ばされたホントックは立ち上がって、敵意をむき出しにしてくる。
「俺は監督だ! 映画とるまえにやられてたまるかよッ!!」
「あ、だから、見逃すって……」
「そんな言い訳はいいッ!」
「えぇ……」
ホントックは完全に頭に血が上っているようだ。
「こうなったら、なりふり構っちゃいられねえッ!! ――でぇいッ!!」
バァァァァン!!
かなみ達の背後が爆発して燃え上がる。
「……はあ?」
ホントックが何かスイッチを押したみたいだが、魔法を使ったようには見えなかった。
「爆弾!?」
さっき見たばかりの『ニトロコンビ』のCG と実際の爆弾を織り交ぜた爆発が脳裏をよぎった。今のは後者の方に近かった。
「なんで、本物の爆弾がここに!?」
「俺達は爆発の魔法は使えないからなッ!」
「そういう問題じゃない!」
「だけど、爆破は映画の華だからなッ!」
「だから、そういう問題じゃないって!」
「火薬をありったけかっぱらってきたんだよ!!」
「何やってるのよ、あんた達!? やってることは立派な悪事じゃないの!!」
かなみは突っ込みを入れる。
「ええい、それがどうした!! 俺達は悪の秘密結社ネガサイドの怪人なんだぞ!!」
「開き直らないで! ああ、もうだったら退治してやるわよ!!」
かなみと翠華はコインを取り出す。
「「マジカルワークス」」
光に包まれて、黄と青の魔法少女が姿を現す。
「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!」
「青百合の戦士、魔法少女スイカ推参!」
カナミの肩から降りたマニィはハンドカメラを手に持ってしっかり撮影する。
「撮影はしっかりしておくから派手にやってね」
「またいい加減なことを」
カナミがぼやく。しかし、これが収入に僅かばかりに結びついているのだから止めろとはいえない。
「カナミ……あいつがあの悪名高い魔法少女だったなんて……!」
ホントックは歯噛みして震える。
「ひぃぃぃぃ、怪人に情け容赦ないって有名だからなぁぁぁぁッ!! どうか助けてください!!」
クータは恐れおののき、スコップは土下座する。
「カナミさん……」
「また、このパターン……」
カナミはため息をつく。
「随分と、怪人達の方に名前が広がっているみたいね」
「不本意なんですけど」
有名になるのならともかく悪名なのだから悪口を言われているみたいで気分が悪い。
「くそー、いくら魔法少女カナミだからって、俺は負けねえ!」
ホントックはスイッチを押す。
バァァァァァァァン!!
カナミとスイカの背後から爆発が起きる。
「ま、また……!」
「いくつ仕掛けたのよ!?」
「そんなの答えるわけねえだろ! 俺達の切り札なんだぞ!!」
カナミの問いかけに、ホントックはやけくそに答える。
「こ、こんなのが切り札って……」
カナミは呆れる。
「俺はこの廃工場の至る所に仕掛けた爆弾を全部把握してるんだ! こいつをまともに食らったらタダじゃすまねえぜ!」
ホントックはスイッチを押す。
「――危ないです!」
カナミは直感で、足元の爆弾のスイッチを押したことを察する。
バァァァァァァァン!!
カナミとスイカはすんでのところで回避する。
「えぇぇい、こうなったらやぶれかぶれだ!!」
ホントックはスイッチを次々と押す。
バァァァァァァァン!!
バァァァァァァァン!!
バァァァァァァァン!!
カナミとスイカはその爆発をなんとかかいくぐる。
「いくらなんでも多すぎでしょ」
「『ニトロコンビ』の影響だったりして……それにしてもいい迷惑よ!」
カナミはそう言って、ホントックに向けて魔法弾を撃つ。
「のわあああああッ!!」
ホントックはこれを必死に避ける。
バァァァァァァァン!!
避けた先にあった爆弾が魔法弾で誘爆する。
「あ……」
カナミは気まずそうにスイカを見る。
「う、迂闊に撃たない方がいいわね」
スイカは苦笑いする。
「は、はい」
カナミは縮こまる。
「ええい、チャンスだ!!」
ホントックはスイッチを押す。
バァァァァァァァン!!
本当にいくつか爆弾を仕掛けたのか。火薬量だけならハリウッド映画級だと思うが、これじゃただの迷惑行為でしかない。
「スイカさん、お願いします!」
「ええ!!」
カナミの呼びかけに応じて、スイカはホントックへ向けて駆け出す。
カナミの魔法弾だと、そこら中に仕掛けられている爆弾に誘爆してしまい、とても危険だ。だけど、スイカのレイピアで接近戦に持ち込めばいける。
(そう、カナミさんは期待してくれている!)
スイカは心弾ませながら、ステップを踏んでホントックの目前まで一気に詰める。
「くるな! くるなぁぁぁぁぁッ!!」
ホントックは悲鳴にも似た叫びを上げて、仰け反る。
「せいッ!」
スイカはレイピアを突き出す。
「わああああああッ!!」
ホントックはとっさにスイッチを盾代わりに出す。
ポチッ!
そのせいで、スイッチがレイピアによって押されてしまう。
「……あ!」
バァァァァァァァン!!
これまでにない大爆発が周囲で巻き起こる。
ガラガラガラ!!
さらに廃工場を支えていたであろう柱や壁が次々と崩れていく。
そうすることで屋根が頭上から降り注いでいく。
「うそおおおおおッ!?」
カナミは悲鳴を上げて逃げ出そうとするが、それ以上に廃工場が崩れていく速度の方が早い。
「ええい、こうなったら、神殺砲!!」
カナミは落ちてくる屋根に向けて大砲を掲げる。
「ボーナスキャノン!!」
バァァァァァァァン!!
カナミがそれを発射させたことによって、最大級の爆発とともに廃工場は空き地へと変わった。
「なるほど、映画館に出没する怪人は隣の廃工場に潜伏していたというわけか」
「……はい」
報告書を読み上げる鯖戸に対して、かなみはしおらしい態度で返事する。
「それで、その怪人達はどうしたのかな?」
「く……!」
報告書に書いてあるのに、わざわざかなみに訊く。
そういう態度がとてつもなく嫌味ったらしい。
「……逃がしてしまいました!」
かなみは悔しさと恥ずかしさが入り混じった声色で答える。
廃工場が倒壊のゴタゴタで、気づいたらホントックを始めとする三人の怪人はどこかへ行ってしまい、逃がしてしまった。
「なるほど、逃がしてしまったか。
それじゃ、今回の仕事は成功とはいえないな」
「そ、それじゃ、ボーナスは?」
「あると思っているのかい」
「あるんじゃないんですか!?」
「君もいい加減学習した方がいいよ」
「うるさいわね! ボーナスは期待してなくちゃもらえないってことは学んだわよ!!」
「よくない学習の仕方だね」
鯖戸は呆れる。
「期待させて悪いが、今回のボーナスは無しだ」
「きぃぃぃぃぃッ!!」
かなみは歯ぎしりして食い下がるが、一度言った事は決して撤回しないのが鯖戸であった。
「かなみさん、ごめんなさいね。私がしくじったから」
翠華が謝る。
「翠華さんのせいじゃありませんよ。私がちゃんと仕留めておけばよかったんです」
「かなみさん……
でも、今回は私が爆破スイッチを押してしまったんだから、どう考えても私のせいよ……」
「そ、それは……」
そこは、かなみも否定しきれないところであった。
「ああ、それと、ボーナスはあげられないけど、これ」
そう言って、鯖戸は一枚の紙を渡す。
「特別報酬!?」
「ボーナスはあげられないって言っただろ」
「じゃあ、これは……! 請求書ッ!?」
「その辺りは学習したみたいだね」
鯖戸は感心する。
「……したくなかったですよ、こんな学習」
かなみはうんざり気味に返答して、視線を請求書へ移す。
「こんなの払えるわけないでしょ!!」
「でも、払ってくれないと困るわよ。ああ、払えない場合は来月分の給料が差し引くから私は困らないか」
「鬼! 悪魔! 怪人より質が悪いんだから!!」
かなみがいくら罵っても、鯖戸には暖簾に腕押しだった。
「あのかなみさん……やっぱり、私のせいだから払うわよ」
「いいですよ! 他の請求書も溜まっていますし、ボーナスもそれなりにありますから!」
「で、でも……」
「か、代わりに、一つお願いしてもいいですか?」
「え、お、お願い……?」
翠華はドキリとする。
「もう一度、私と一緒に映画を観てくれませんか?」
「え、映画……?」
翠華は一瞬だけ思考が停止する。
そして、理解が追いつく。
かなみからまた映画を観たいと言ってもらえた。
それは、願っても無いことだった。
「ダメ、ですか?」
かなみは不安げに訊く。
「ダメなんかじゃないわ! 一緒に行きましょう!
いつ? 今から!? 明日!? 明後日!?」
「え……今度の休み、でいいですか?」
かなみはちょっと控えめに答える。
「うん、全然オッケーよ!!
……あ、でも、かなみさん今度の休日っていつなの?」
「……あ」
かなみは冷や汗をかきながら、鯖戸の方を見る。
「しばらくない、とだけ言っておく」
次の瞬間、本日二度目の「鬼! 悪魔!」が炸裂した。
「……というわけで、ようやくやってきた休日で、かなみさんと映画館にやってきたはずなのに……」
翠華はため息をつく。
「今日は映画なにみる? 『夢恋』?」
「みあさん、それはこの前観ましたよ」
ポスターの前で、みあと紫織が楽しそうにしている。
「……なんで?」
かなみさんと二人っきりじゃないの? と、疑問を口に仕掛けた。
「翠華さん、今日は何を観ましょうか?」
「え、ええ……」
翠華は戸惑いながら、ポスターを見る。
「この前上映予定の『明日の恋は昨日の愛』なんてどうかしら?」
「あ、いいですね!」
「でも、みあちゃんはなんて言うか……」
「いいんじゃない、それで」
いきなりみあがやってきて言う。
「みあちゃん、いいの? あんまり好きじゃない恋愛映画だよ?」
「別にあたしは恋愛もコメディも映画は好きよ」
「そうだったの?」
これは翠華だった。
「意外……」
「何よ? あたしがアニメとか特撮しかみない女の子だと思ってたの?」
「そ、そういうわけじゃないけど」
「ま、つまらなかったら三分で寝るけどね」
「そ、そうなのね……」
翠華は苦笑する。
「私は最後まで観ますよ!」
「紫織ちゃん?」
「せっかくお誘いしてくれたのですから、最後までちゃんと観たいです」
「気持ちは嬉しいんだけど、映画ってそんなにりきむものじゃないわよ」
「は、はあ……」と紫織は嘆息する。
「楽しめればいいのよ」
「私はとっても楽しみですよ」
かなみは笑顔でそう言ってくれる。
それだけで、今日来た甲斐があった、と翠華は思う。
(二人っきりになるより話しやすいから、この方がよかったのかも……)
そう思うことで、今日は楽しく過ごそうかと心に決めるのであった。
0
あなたにおすすめの小説
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
スーパー忍者・タカシの大冒険
Selfish
ファンタジー
時は現代。ある日、タカシはいつものように学校から帰る途中、目に見えない奇妙な光に包まれた。そして、彼の手の中に一通の封筒が現れる。それは、赤い文字で「スーパー忍者・タカシ様へ」と書かれたものだった。タカシはその手紙を開けると、そこに書かれた内容はこうだった。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる