まほカン

jukaito

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第85話 行進! 百鬼夜行の行き着く先は少女 (Aパート)

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『あるみが仕留めそこなうなんてね』
「ごめんね、なんとかして解決させたかったんだけど」
『私に謝ることないわ、それよりケガしなかったの?』
「私がするわけないじゃない、来葉」
『あなたじゃなくてかなみちゃんよ! あなたはどうせかすり傷一つないでしょ!』
「……ちょっとぐらい心配してもいいじゃないの」
 あるみはちょっといじける。
『あ~そうじゃないの。あるみなら大丈夫だって信じてるから』
「あらそう!」
『それで、かなみちゃんは?』
「大丈夫よ、傷の一つや二つはしたけど」
『それ、大丈夫じゃない!』
「耳がキーンとなった……あなたも過保護ね」
『あ~心配だから、私迎えに行った方がいいかしらね』
「大丈夫だから。あなたはあなたの仕事しなさいよ」
『本当に? 本当に大丈夫なの?』
「大丈夫よ、私が太鼓判を押すから」
『あるみがそう言うんなら……』
 しかし、声色には不安の色がまだ残っている。
「それより来葉、何か視えた?」
『うーん、ちょっと不吉なのがあるわね』
「来葉のちょっとはあてにならないのよね……どういう未来?」
 来葉は話し始める。



「さあ、今日はこれから仕事だよ」
 マニィがカバン越しから言う。
「はいはい、わかってるわよ」
 学校を終えたかなみはいつものやりとりをして少しホッとする。
 なんだか日常に帰ってきた感じがする。
「今日の仕事は何かしらね?」
「このところはヘヴルや最高役員十二席絡みだろうね」
「はあ~もう関わりたくないわ……」
 カナミは本音を漏らす。
 こういった絡みに関わると、生きた心地がしない。
 この前もそうだった。
 アルミとヘヴルとの戦いに自分は直接参加しなかった。できなかったのだ。加勢に入れば足手まといになるか、一瞬でやられてしまっただろう。
 近くで観戦するだけでも命懸けだった。
 特に今回はヘヴルだけではなく、無明と白道化師、十二席の二人が加わって、計三人となった。十二席のチカラは未知数で、少なくとも無明はヘヴルの姿と能力を似せることができるとアルミから聞いたから、ヘヴルが二人といるという恐ろしい状況になっていた。
 よく生きて帰れたものね、と思う。
 結局、白道化師が空間転移で一瞬にして三人は消えた。
 後に取り残された三匹の怪人もアルミが相手では戦況が悪いと判断してすぐに撤退した。
 あれ以上もう戦いたくない。そう思っていたカナミとミアにとってはありがたかった。
「いやはや、もうクタクタじゃ」
 煌黄は身体にまとわりついた砂埃を払いながら言う。
「ここまで付き合うことも無いのに」
 アルミは言う。
「なあに、乗りかかった船じゃ。それにヘヴルをこちらの世界にやってこさせたのは儂の不手際でもあるのじゃからな」
「コウちゃん……」
「そんな顔するでないカナミ。お主達と一緒にいるのは楽しいからな。ほんの礼だと思えばいい」
「ほら、仙人もこう言っているんだから辛気臭くならないの。ただでさえ借金臭いのに」
「借金臭いって何よ!」
「ホホホ!」
 カナミが言い返すと、煌黄は愉快気に笑う。
「ところで親父は?」
「ああ、あやつなら結界を張ってそこから出ぬよう言っておいた」
「あれね」
 アルミが指差した先に彼方はいた。
「まったく、一緒に吹き飛んでもよかったのに」
「ミアちゃん、冗談でもそういうこと言わないの」
 カナミは失笑して言う。ともかくこれで全員無事だということがわかって一安心だ。
 その後は、煌黄の転移魔法で病院に戻った。
 それであの戦いは終わった……はずなのだけど。
「向こうのヘヴルはまだこの世界において、問題は残っているわ」
 あるみの言う通りで、そのせいですっきりしていない。それどころか、ますます問題が大きくなっているような気がして憂鬱になってくる。
――ヘヴルをこちらの世界にやってこさせたのは儂の不手際でもあるのじゃからな。
 煌黄はそう言ってくれたけど、やはり直接の原因は自分にあるように思えてならない。
 自分のリュミィ――妖精のチカラを無闇に使ってしまったばかりに。
「いたッ!?」
 リュミィがかなみの髪を引っ張っていた。
「な、何するの?」
「君が自分を責めていることを怒ってるんだよ」
「え、そうなの?」
 かなみが訊くと、リュミィは大きく頷く。
「私のせいじゃないって? 自分責めるのをやめろって?」
 コクンコクン! リュミィは頷く。
 相変わらず、リュミィの声は聞き取れないものの何を言おうとしているのかはなんとなくわかる。
「ごめんね。ここのところ大変なことばかりあったから弱気になってた」
 フンフフン! とリュミィは身振り手振りする。どこか上から目線に見える。
「わかればよろしい、ね……」
「よくわかるね」
 マニィは感心する。
「うーん、でもやっぱりちゃんと話し合いたいわね。どうしたらいい?」
 リュミィは厳しめの顔で返す。
 「精進あるのみ」と言っているように見えた。意外に厳しい。
「それしかないわね」
「社長に特訓をつけてもらったら?」
「なななな、なんて恐ろしいこと言うのよ!?」
「それが手っ取り早いと思うんだけどね」
「確かにそうだけど、赤信号の交差点をまっすぐ進むみたいなものよ!」
「赤信号と社長の特訓だとどっちが危ないかな?」
「……社長の特訓」
 かなみは少し考えてから答える。
 あるみがつける特訓はとにかくスパルタで、ダンプカーで引き殺されるかもしれない勢いなのだ。交差点で自動車にひかれるかもしれないぐらいの危険じゃ比較にならない。
「なんかもうちょっと安全に特訓とかできないかしらね?」
 かなみがマニィにそう言った後、予想外のモノが目に入る。
「――!」
 かなみは足を止める。
「なんとなくここで待っていれば来る気がしていた」
「……ヘヴル」
 かなみはその名前を静かに呼ぶ。
 恐怖で足先から歯まで全身がガタガタと震えそうだ。
「何の用?」
 あまりにも予想外の遭遇。
 道端を歩いていたら十二席のヘヴルと会うなんてあり得るのだろうか。ダンプカーで引き殺される、とかそういう想像をしていたのが、かわいらしくなる。
「身構えなくていい、戦うつもりできたわけではない。もっとも、そちらが戦いたいというのなら別だが」
「私は戦いたいわけじゃないわ……!」
 かなみは今にも震えそうだけど、なんとか平静を保って答える。
「結構。今日は話がある」
「話?」
「向こうの喫茶店でしようか」
「……え?」
 そんなわけで、ヘヴルに誘われるまま向こうの喫茶店に入った。
 「いらっしゃいませ」とウェイトレスはごく普通に接客した。
 ヘヴルの六本の腕は普通の人間には見えず、ただの大男に見えているみたいだよ、とマニィが説明してくれる。
 だから、病院にやってきたときも大騒ぎにならなかったのだろう。
 ヘヴルは入ってまっすぐ進んだ席を選ぶ。入り口から入って真っ先に目につく席だ。
 席に着くと、ヘヴルは注文する。
「……ストロベリーパフェとチョコバナナパフェ、それにトロピカルフルーツパフェ」
「へ?」
 意外な注文にかなみは面を食らう。
「……かしこまりました」
 ウェイトレスは一瞬硬直した後、営業スマイルで承る。
「お前は何か注文しなくてよかったのか?」
 などと聞いてくる。
「いえ、水で十分よ」
 お財布の中が心もとない、なんて言えないから見栄を張る。
「そうか。思ったより魔力の消費が少ないのか?」
「……どういうことよ?」
「俺達の原動力は魔力だ。魔力は様々な形で摂取できる。空気を吸うだけで大気の魔力を取り込む奴もいれば、人の感情から漏れ出る魔力を摂取する奴もいる。俺にとってもっとも手っ取り早いのは糖分の摂取だ」
「だから、パフェを三杯も食べるのね」
「そうだ」
「お金はどうするのよ?」
 かなみは一番の懸念を問いかける。
 もし、勘定を踏み倒すなんて言ってきたらこの場で戦わなければならない。
「金か? 金なら問題ない」
 そう言って、ヘヴルは手元から一万円札を出してきた。
「い、一万円!?」
 かなみにとっては目もくらむような大金だ。それを怪人のヘヴルが出してきたのだから驚きも倍増だ。
「ん、どうした?」
 ヘヴルは訊く。
「ど、どうしてあんたがこんな大金を!?」
「大金? これはネガサイド本部から支給されたほんの一部だが」
「ほんの一部!?」
「そうか、これはそれほどの待機なったか。貴様ほどのものがそういうのであれば」
「いや、それは彼女がオーバーすぎるだけだよ」
 思わずマニィが出てきて、ツッコミを入れる。
「そうか。貴様がオーバーなのか」
 ヘヴルは勝手に納得する。かなみは納得がいかない。
「それで話って何よ?」
「それなのだが……」
「お待たせしました」
 会話がウェイトレスによって打ち切られる。狙ったかのようなタイミングだ。
 そして、テーブルに三つのパフェが並べられる。
「いただくとするか」
 ヘヴルはそう言って、三つのパフェを同時に手を取って食べ始める。
「………………」
 かなみは呆気にとられた。大男といってもいい体格のある怪人が六本ある腕を駆使して三つのパフェを同時進行で食べていく。しかも速い。
 シュールを通り越して圧倒的異様な光景といっていい。
 傍目にはこれがどう見えているのかも気になるところだ。
 普通の人には六本の腕が見えず、ヘヴルは普通の大男に見えるそうだけど六本の腕がパフェとともに動いているこの状況はどうなっているのだろうか。そうでなくとも、大男と女子中学生のペアというのは異様な組み合わせだというのに。
 そんなことをかなみが考えているうちに、ヘヴルは三つのパフェを完食してしまった。凄まじい速さだ。
 大食い選手権に出たら間違いなく有償だろう。怪人がそういう大会に出るかはおいといて。
「……うむ」
 ヘヴルはそれだけ言う。表情は相変わらずいかついままだけど、どこか満足そうにみえるのは気のせいだろうか。
「――それで話だったな」
 とようやく本題を切り出してくる。
「貴様は最高役員十二席の座に興味はあるか?」
 そう問われると一変して空気が重くなる。
 「最高役員十二席」という言葉がヘヴルの口から発せられた重みだろう。
「どういうことよ?」
 しかし、その内容の意図がわからず訊き返す。
「しらされていないのか?」
「何のことだかさっぱりわからないんだけど」
 かなみがそう答えると、ヘヴルは意外そうな顔をする。しかし、やがてなんだか納得しような顔に変化する。
「最高役員十二席の座につく方法を判真は怪人達に通達したのだ」
「それが私と何の関係があるの?」
 最高役員十二席を決める選考試験には何度か不本意ながら巻き込まれたことがある。それゆえに興味がないわけじゃない。しかし、積極的に知りたいとも思わない。むしろ知ってしまったらまた巻き込まれるのでは、と危惧してしまう。
「最高役員十二席の座を決める方法は――」
 ヘヴルはもったいぶった口調で告げる。
 その間、かなみの中で聞きたくない拒否感と知りたい好奇心がせめぎあった。
「俺もしくは貴様を倒したものとする、そうだ」
「俺?」
 かなみはヘヴルは指差す。
「うむ」
 ヘヴルは肯定する。
「貴様?」
 かなみは自分を指差す。
「うむ」
 ヘヴルは肯定する。
「はああああああああああああああッ!!?」
 かなみは悲鳴にも似た大声を上げる。
「なんで!? なんでそうなるのよ!?」
 怒りを覚える疑問をヘヴルへぶつける。
「俺も知らない。判真が決めたことだ」
「判真は何を考えてるのよ!?」
 かなみは文句を言ってやる。
「奴が何を考えているのかわかる奴はいない。強いていうなら局長の六天王ぐらいか」
「六天王……」
 かなみはまだ見たことすらない。日本で最も位の高い怪人。きっと恐ろしい怪人に違いない、とそれぐらいの想像しかできない。
「そのことで聞きたいことが貴様にあったんがな」
「聞きたいこと?」
「今どんな気分だ?」
「………………」
 ヘヴルに問いかけられて、かなみは沈黙する。
 今、どんな気分かと訊かれても理解が追いつかなくて混乱している。
 自分を倒したら十二席の座につける。どうしてそういうことになったのかわからない。
 でも、十二席の座を狙っている怪人は確実にいることなのは確かだ。それも強い怪人だ。そういう怪人につけ狙われることは間違いない。
 そうなると怖くなってくる。けど、同時にどうして自分がそんな目にあわなければならないのかと理不尽に対する怒りも沸き起こってくる。
「なるほど」
 ヘヴルはかなみの顔を見て何かを察する。
「困惑と怒りか……面白いものだ」
「私の顔は見世物じゃないんだけど」
 かなみは不満を口にする。
「それで、貴様は最高役員十二席の座につこうとは思わないのか?」
「どうしてそんなことを訊くの?」
「俺は現状で貴様こそが十二席に一番近いと思っている」
「……どうして、そうなるのよ……?」
 かなみはますます混乱する。
 自分が悪の秘密結社の役員? そんなことありえない。
 自分は魔法少女で、どちらかというと正義の側に立っているはずだと思うのに。
「今この場で俺を倒せば、貴様がその場で十二席になれるからだ」
「――!」
 ヘヴルに言われて初めて気づく。
「もっとも、貴様に俺を倒せるとは思えんがな」
 そして、見下すように言う。
「私、そういうのに興味無いから! 悪の秘密結社には入らないから!」
「そうか」
 ヘヴルは席を立つ。
「支払いは俺がしておく」
「あ……」
 あっという間に店を出て行ってしまう。
「食べたの、あんただけじゃない」
 ヘヴルがいなくなったあとに、そんな文句が口から洩れた。



「生きた心地がしなかったね」
「それは私の台詞よ」
 そう言って、かなみはため息をつく。溜まっていた緊張を吐き出すように。
「十二世のこと、あんた知ってたの?」
 マニィが知っているイコールあるみも知っているということになる。その逆もあり得る。
 もし知っていて黙っていたのなら文句を言ってやろうと思う。その上でどうしたらいいか相談しよう。
「ボクもついさっき知ったよ。言うタイミングを逃しちゃっただけだよ」
 マニィの返答は意外なものだった。
「それも来葉さんからの情報だったよ。いわゆる、また聞きに近い感じだよ」
 つまり、来葉が未来視の魔法で得た情報をあるみへ伝える。あるみとマニィで魔力供給を介して知識を共有したというわけだ。それをまた聞きに近い感じというのだからちょっとややこしい。
「そうなのね……」
 ひとまず、文句を言うのはやめよう。冷静に考えると、あるみが怖いし。



「おはようご、」
 オフィスにやってきていつものように挨拶しようとして声が途切れる。入ってくるなり、あるみが迫ってきたからだ。
 あるみは、かなみをじぃ~と見つめる。
「あの……なんでしょうか?」
「うん、どこもケガしてないみたいね」
「ケガ?」
「来葉がね、言うのよ。あの子、心配性だから」
 あるみはぼやくように言う。
「あの……私、来る途中でヘヴルに会いました」
「わかってるわ。それと十二席のこともね」
 そう言われて、かなみは安心する。
「そういうわけで全員集めて会議よ」
 いつになく真面目な面持ちでそんなことを言われた。
 それで会議のテーブルが持ち出されてかなみ達はそこについた。
 出席者は社長のあるみ、部長の鯖戸、社員のかなみ、翠華、みあ、紫織の四人、インターンの萌実、非常勤の千歳、それに捕虜のスーシーも加えて九人。それに……
「なんで、コウちゃんも会議に?」
 煌黄も当然の顔をしてこの場にいた。
「あるみが特別顧問として会社にいてくれぬか、と提案されてな。面白そうじゃから引き受けたんじゃ」
「ま、いいんじゃない」
 それに対して、みあは投げやり気味に言う。
「仙人とも友人になるとは、さすがというか、コメントに困りますね」
 スーシーは言う。彼は今、千歳の魔法糸によってできた手錠で拘束されている。逃がさないための措置らしい。

パンパン!

 あるみが手を叩いて、音頭をとる。
「はいはい。みんな揃ったところで、会議を始めるわよ!」
「会議って何を話すのよ? こんだけ雁首並べたんだから、大ごとなんでしょうね?」
 みあが文句のように言う。
「ええ、議題は『次の最高役員十二席について』よ」
「次の十二席……」
 翠華達は初耳だったので困惑している。
「ヘヴルが抜けた後の十二席の後釜が決まったのですか?」
 スーシーが訊く。
 元関東支部の幹部とはいえ、ずっとこのオフィスビルに囚われたままの状態だから、今ネガサイドがどういう情勢になっているか知らないのだ。
「決める方法が決まったといった方がいいわね」
「へえ、どんな方法ですか?」
 あるみは一瞬カナミの方を見てから言う。
「別世界から来たヘヴルかかなみちゃんを倒した者とする、そうよ」
「ええ、かなみさんが!?」
 初耳だった翠華達は驚き、かなみへ視線が集中する。
「なんか勝手にそんなことになったみたいなのよ」
 かなみは困り顔で言う。
「相変わらず妙なことに巻きこまれるわよね」
「みあちゃん、相変わらずって……」
「大変ですね、ただでさえ借金があるのに」
「うん、そうね。借金だけで手一杯なのにね」
 紫織の発言に、かなみは苦笑して答える。
「凄いですね、かなみさんは。次から次へと災難を引き起こすなんて」
 スーシーは言う。
「好きで災難が引き起きてるわけじゃないのよ!!」
「なんでもいいわよ」
 萌実はかなみの戯れ言は聞き飽きたといった感じで言う。
「つまり、今ここであんたを撃ち抜けば私が十二席ってわけね」
 萌実は魔法銃を生成して、かなみへ銃口を向ける。
「――!」
 翠華はかなみと萌実の間に入る。
「そうはさせないわ!」
「フン!」
 萌実は鼻を鳴らして、銃をしまう。
「十二席の座になんて興味ないわよ」
「意外ね」
 かなみは素直に言う。
「出世したらうっとおしいもの」
「出世ね……」
「あんたはどうなのよ?」
「え……」
「とぼけてんじゃないわよ。あんたかヘヴルを倒したら十二席ってことはあんたがヘヴルを倒して十二席になるってこともあり得るのよ」
「………………」
 ヘヴルと全く同じことを萌実から言われて愕然とする。
「……私は、悪の秘密結社で出世なんかしたくないわよ」
「どうだか、似合ってるんじゃない」
 萌実の嫌味に、かなみはキィッと睨み返す。
「さて、それじゃこれからどうするかなんだけど、かなみちゃん、どうする?」
 あるみが訊く。
「どうするって……どうしたらいいですか?」
 かなみは弱気になって訊き返す。
「私が答えるわけにはいかないわ。どうしたらいいか、あなたが決めないと意味が無いわ」
 あるみは厳しめに言う。
「そんな……意味なんて無くたっていいですよ……」
「だったら、このまま大人しくやられる?」
「それは嫌です……」
「だったら、考えて自分で意志を示しなさい」
「………………」
「私だってどうにもならない状況はいくらでもあるんだから、かなみちゃん自身のチカラで切り抜けて欲しいのよ」
「あんたがどうにもならない状況だったら、どうしようもないんじゃないの?」
 萌実があるみへ嫌味を言う。
「さあ、どうかしらね……」
 あるみはかなみにも向けて言う。
「私は……」
 かなみは目を伏せて、考え込む。
「十二席の座になんて興味ないけど、こんなふざけたやり方を決めた奴に怒鳴りつけてやりたいです」
「フフ、それでいいのよ」
 あるみは満足げに笑う。
「さて、それじゃあ、かなみちゃんのご希望通り、こんなふざけたやり方を決めた奴に怒鳴りつける方法を考えましょうか」
「ええ!?」
「まず、そいつの特定なんだけど」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
 かなみは止めに入る。
「あ、あの、私そんなつもりで言ったわけじゃないんですけど……」
「そう、結構本気で聞こえたんだけど」
「いや、あれは……意気込みというか、できたらいいなってぐらいなんですけど……」
「『殺す』とか『殴る』とかそういうこと言わずに怒鳴るってマイルドに言ったあたりが特にね、控えめな言葉を使ったあたりが余計に本気度を感じたわ」
「殺す、ってよく言う人に限って、本当の殺しはできない。それの逆って感じですね」
 スーシーが言う。
「そうそう」
「まあ、いいんじゃないの。怒鳴ったついでに殴ったり、殺す、でもね!」
「みあちゃん、物騒なこと言わないで」
「なるほど、まずは怒鳴ってから、殴る、殺す、と。手順を踏むことが大事なんですね」
「紫織ちゃん、だから物騒だって」
「でも、かなみさんがよくても私は一突き入れたいわね」
「す、翠華さん……?」
 意外なことに、かなみ以外の少女達はあ、あるみの提案に乗り気のようだ。
「かなみちゃん、そんなわけでみんな全面的にあなたの意見を支持するみたいよ」
「え、えぇ……」
 かなみは困惑する。
「当然、私もね」
「私もよ!」
 あるみに乗っかって、千歳まで指示してくる。
「まあ、面白そうだし」
 嫌々ながらも萌実も。
 こんなはずじゃ、
「言ったのは君だよ」
 マニィが言う。
「君が絞り出した本音なんだよ」
「う、うん……」
「文句を言ってやりたいのは本音でしょ」
「そうね……!」
 かなみは改めてそれを言った時の心境を思い出す。
 やり場の無い苛立ちと怒りが言葉になった。どうにか一矢報いてやりたい。そういう気持ちが再びこみ上げてくる。
「それじゃ、社長はチカラを貸してくれますか?」
「もちろん」
 あるみはニコリと笑って答える。
「それじゃ、改めて特定ね」
「っていうか、それはもうすんでるんでしょ」
 みあが言う。
「まあね。最高役員十二席の座を決める権限を持ってる奴なんて、席長の判真か局長の六天王ぐらいしかいないわね」
「判真……六天王……どっちもやばい奴ね……」
 かなみは勢いでとんでもないことを言ってしまったと改めて思う。
「どっちだろうね、来葉にも訊いてみるわ」
「大ごとになってきた……」
「元から大ごとでしょ」
 みあは冷静にツッコミを入れる。
「でも、判真でも六天王でもどっちみち他の十二席とも戦うことになるでしょうね。はは、こりゃ大ごとね!」
 萌実は笑い出す。
「ひ、他人事だと思って……」
「他人事だものね」
 萌実が恨めしく思う。
「それで、他の十二席って、どんな人達なんですか?」
 翠華は訊く。
「とはいっても、私も持ってる情報はそんなに多くないんだけどね」
 とあるみは前置きする。
「席長の判真、グランサー、壊ゼル、無明、視百、嬢王、女郎姪、白道化師、ジェマス、不動大天、音速ジェンナ、そして、ヘヴル」
 あるみは写真を貼っていく。
「いつの間に、それだけの写真を用意したのよ」
 みあがツッコミを入れる。
「まあ、どうにか収集したものよ。ただ無明だけは真の姿を見たことが無いからね」
「選考会のときに、ヘヴルの姿をして襲ってきた人ですよね?」
 紫織に確認するように言う。
「ええ、姿形だけではなくその能力まで似せることができる、恐ろしい能力よ」
「変身……嫌な能力ね」
 みあはしかめ面で言う。
「ですが、これだけ十二席の顔と能力を調べ上げているのは驚きです。案外、判真を倒してしまうこともそう難しくないのでは、と思えるほどに」
 スーシーは感心して言う。
「まさか、こっちと向こうには天と地ほどの戦力差があるわ」
 あるみは答える。
「そこで負けるとは言わないあたりがあなたらしいというか……」
 スーシーは呆れる。
「しかし、ヘヴルを見る限り、十二席の連中はどいつもこいつも規格外のようじゃな」
「文字通りの化け物ね。確かにあたし達じゃ手に負えないわ……」
 みあは悔し気に言う。
「そうね、あなた達じゃまだ手に負えないわね」
「まだ、というところに将来への期待を感じるのう」
 煌黄は愉快気に言う。
「……期待ですか?」
「あるみ社長は、私達が十二席に勝てる将来があるというんですか?」
 翠華は訊く。
「――あるわね」
 あるみは断言する。
「あははは、それは大きく出たわね」
 萌実は手を叩いて笑う。
「今は無理でも、将来はね。そのぐらいは期待してるわよ」
「本当にですか?」
 翠華は怪訝な顔をして訊く。
「本当よ。嘘でこんなこと言わないわ。ただ今の時点では無理だということも忘れないで」
「それは承知していますが……」
 翠華は今一つあるみの言葉を飲み込めていない。
 それだけ自分達と十二席にはチカラの差があるということを言いたい。
「思い出して、あなた達はあの選考会であなた達のチカラを合わせてヘヴルを倒したことを」
「あ……」
 言われて思い出す。
 選考会の時、ヘヴルの姿をした無明と戦わされた。
 理不尽な台風といってもいいヘヴルのチカラとまともに戦って、よく全員生き残れたと思う。
「あれは、かなみさんとリュミィのチカラがあったから……」
「でも、かなみちゃんだってあなた達がいなかったら勝てなかったわよ」
「はい、そうです!」
 かなみは同意する。
「あの時、リュミィのチカラを借りても全然ダメで押し負けそうでした。みんなの援護があったから勝てたんです!」
「あんた、あたし達の援護がないとダメダメなのよね」
「あははは、そうそう」
 かなみは苦笑する。
「いや、笑い事なの、それ?」
 萌実は疑問を挟むけど、かなみは気にしなかった。
「まあ、そんなわけで、かなみちゃん達に将来性があるのはいいんだけど」
 千歳が気を引き締めるよう言う。
「――今の戦力じゃ、とても十二席一人相手にするのだって辛いんじゃないの?」
 あるみへ核心を問う。
「そうね、あなたの言うとおりよ」
「それじゃ、どうするのよ? あるみのことだから考えはあるんでしょ?」
「考えね……」
 あるみは一呼吸を置く。

オオオオオオオオ!!

 しかし、その後の返答は外の騒音によって遮られる。
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