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第87話 演劇! 少女は舞台に上がり魔法をかける (Aパート)
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「お腰につけたきびだんご一つ、私にください」
台本をたてて、かなみは台詞を音読みした。
「いきなり何言ってんのよ?」
「わあ!?」
かなみは驚き、すくみあがった。
ここは会社のオフィス。台本に書いてある台詞を覚えなければならないのだけど、時間が足りないということで、仕事が空いた時間にオフィスに誰もいないことを確認してから音読みしていた。
にも関わらず、いつの間にか後ろには翠華とみあがいた。
よっぽど集中していたということだろうか。それとも、二人が抜き足忍び足で忍び寄ったのか。
「なんであんた、劇の練習してるのよ? 食うに困って劇団のバイト始めたの?」
「違うわよ!」
「じゃあ……ドラマにでも出んの? モデルやったときのコネで」
「そんなわけないでしょ。学校の学芸会よ」
「な~んだ」
みあは拍子抜けする。
「学芸会って何をやるの?」
翠華が訊く。
「桃太郎です」
かなみは台本の表紙を見せる。
「ああ、それできびだんごなのね。あんた何役なの? 犬? サル?」
「かなみさんだったら、かわいらしいキジなんじゃないかしら?」
「それが……」
かなみは答えるのを躊躇う。
言いづらい役なのか。しかし、そんな態度をとられると余計に気になるのが人間の性(さが)だ。
「気になるじゃないの。教えなさいよ」
「かなみさん、笑わないから教えて」
「…………はい」
観念したようにかなみは白状する。
「――シンデレラ役なんです」
「「え??」」
翠華とみあは揃って驚きの声をあげる。
「なんで桃太郎なのにシンデレラ役なのよ!?」
「桃太郎ってシンデレラは出ないわよね?」
「国が違うし、別々のおとぎ話だし」
「それがうちのクラス、変わってまして『普通の桃太郎じゃつまらない』からって脚本家志望の子が色々アレンジしまして、色々なおとぎ話を混ぜちゃったんです」
「なるほど、それでシンデレラね」
かなみの説明で、みあと翠華は納得する。
「かなみさんのシンデレラ役……素敵だと思うわ」
「そうでしょうか……私は台詞が少ない役が良かったんですが……」
台詞が多いとそれだけ時間をかけて憶えなければならない。
かなみにはそんな時間はとれない。だからこそこうしてオフィスで密かに練習していたのだ。
いや、それ以前に……。
「シンデレラって台詞多いの……ちょっと台本見せて」
みあはそう言って台本を取り上げます。
「えっと……役は、桃太郎、かぐや姫、シンデレラ、アラジン、浦島太郎……本当に色々混ぜてるわね」
「クラスのみんなもそれを面白がっちゃって……やることになったのよ」
「それでどんな話かっていうと……」
昔々あるところにおじいさんとおばあさんが暮らしていました。
ある日、おじいさんは山へ竹を取りに、おばあさんは川へ洗濯をしに行きました。
おじいさんが竹を切っていると、竹の中から女の子が出てきました。
おばあさんが洗濯をしていると、川から大きな桃が流れてきました。その大きな桃の中から男の子が出てきました。
こうして、おじいさんとおばあさんは竹から出てきた女の子をかぐや姫、桃から出てきた男の子を桃太郎と名付けて育てました。
やがて、桃太郎とかぐや姫はお互いを愛し合うようになります。
しかし、ある日鬼がやってきて、かぐや姫を連れ去っていってしまいます。かぐや姫を取り返すために桃太郎は鬼ヶ島へと旅立ちます。
道の途中で桃太郎はシンデレラ、アラジン、浦島太郎を仲間にしました。
「なるほどね。かぐや姫を取り返すために鬼を退治する。犬、サル、キジの代わりにシンデレラ、アラジン、浦島太郎を仲間にするのね。結構面白いじゃない」
みあは面白そうに台本の続きを読んでいく。
浜辺に出ると、亀がいじめられていました。浦島太郎がいじめっ子から亀を助けました。
亀はお礼に「竜宮城へお連れします」と言いましたが、浦島太郎は「鬼ヶ島へ連れていってほしい」と言います。「わかりました」と亀は桃太郎達を背中に乗せて海を渡り、鬼ヶ島に辿り着きます。
鬼ヶ島に着いた桃太郎達は鬼と戦います。しかし、親分の鬼がとても強くて桃太郎達は負けてしまいそうになります。
そこでアラジンは鬼が盗んできた宝の中から魔法のランプを見つけます。その魔法のランプから魔人が現れます。
「どんな願いも三つだけ叶えてやる」と魔人は言いました。
アラジンは鬼をやっつけてくれとお願いしました。お願いを聞いた魔人はあっという間に鬼をやっつけてしまいました。
鬼をやっつけた桃太郎はかぐや姫と再会しました。
しかし、かぐや姫は魔女にさらわれてしまいました。
なんと、鬼達を操っていたのはその魔女でした。さらわれかぐや姫を取り返す為、桃太郎達の戦いは続く。
「………………」
台本を読み終わったみあは絶句する。しかし、すぐにブルブルと怒りで身体を震わせる。
「なんなのよ、これぇぇぇぇぇぇッ!!」
台本をデスクへ叩き落とす。
「わ、私に言われても!」
「最後、投げっぱなしじゃない! 何なのよ、魔女って!? いきなり現れて、黒幕でしたって観客から総スカンうけあいじゃない! しかも続くって終わってないじゃない! 学芸会なんだからキチンと終わらせなさい!!」
矢継ぎ早に批評が飛び出してきて、かなみ達は呆気にとられる。
「みあちゃん、厳しいわね……」
「厳しいんじゃなくて、当たり前のことでしょ。一体誰よこの台本書いた奴は……一言文句言ってやりたいわ!」
「私のクラスメイトだけど……」
今の調子からすると一言だけですみそうにない気がするけど。
「楽しそうな話してるわね」
いつの間にか入ってきたあるみが声をかけてくる。
「別に楽しいわけじゃないわよ」
みあはへそを曲げる。
「そんなみあちゃんにちょっと頼みたい仕事があるのよ」
「何?」
「この近くの劇団でトラブルがあってね」
「トラブル?」
「劇団のセットが壊されたのよ。あと主役の人が怪我を負わされたって」
「怪人の仕業、ですか?」
「多分ね。目撃者の証言によると犯人は『角を生やした大男』だって」
「まるで鬼ね。それであたしが調査するってわけ?」
「そうそう。ちなみに劇団がやるはずだった劇は――『桃太郎』だったみたい」
「……え?」
そう言われて、かなみ達は台本の『桃太郎』の字を注視した。
「このビルだね」
かなみの肩に乗ったマニィは言う。
「何が近くよ。ほとんど隣町じゃない」
マニィが案内し終わると、みあが文句を言う。
「社長にとっては近くなのね」
かなみもぼやく。
このビルの三階が劇団の拠点で怪人に襲われたという話だ。
同じ『桃太郎』をするということ、なんだか気になってしまったかなみも同行した。
『劇団一寸(げきだんいっすん)』
ビルに入って三階に上がるとその表札が見えた。
まったく、かなみがインターフォンを鳴らす。大人の女性が出てくる。
「何か用かしら?」
「見学をさせてください」
「見学?」
「私達、今度の劇で『桃太郎』をやるんです。それで参考にしたいと思いまして……お願いします!」
かなみ達は一礼する。すると、女性は困った顔をする。
「見学はいいんだけど、今はちょっと……」
「ダメですか?」
かなみは懇願するように食い下がる。
「誰かがにセット、壊されて掃除しているところなのよ」
女性は言いづらそうに答える。
かなみ達はその惨状を見ることが目的だったのだけど、それを口に出さず、ただ「それでもいいので見学させてください!」と一生懸命お願いをする。
やがて、女性は「しょうがないわね」と入れてくれた。
「あ、かなみ!」
入るなり、皆木希奈と会った。
「希奈さん、どうしてここに!?」
「知り合いが劇団にいて、見学に来てたの。芝居の参考になると思ってね。かなみこそどうして?」
「わ、私も芝居の参考に! 今度学芸会で桃太郎やるから!!」
かなみはあわてて答える。
学芸会で桃太郎をやるというのは本当なので嘘が苦手なかなみでもそれらしく聞こえた。
「ふうん。そうなんだ、でも今はセット壊れたから掃除してるだけなのよね。主役の人も襲われて入院しちゃったし、とても練習できる状態じゃないのよ」
「襲われた? 誰かにやられたの?」
「うん……私は見てないけど、角を生やした鬼みたいな人だって聞いたわ」
「鬼みたいな人……」
かなみとみあは顔を見合わせる。
鬼みたいな、どころか鬼そのものの怪人とは何度も出くわしている。ここで暴れたのはそういった怪人の可能性が高いと踏んでいる。
「じゃ、じゃあ、そのセットの掃除、手伝わせてくれる?」
かなみ達は掃除の手伝いをしながら、その怪人の魔力の痕跡か何か残ってないか調べた。
「間違いなく怪人の仕業ね」
掃除を手伝った後、近くの喫茶店で休憩しているとみあは断言する。
「みあちゃん……やっぱり、そう感じるのね」
壊されたセットから魔力の痕跡を感じたらしい。かなみはそういった感知能力が無いから何も感じなかった。
「あんたは感じなかったのね」
「うん、ただの壊されたセットにしか見えなかったわ」
「逆に言うと、あんたが感じないぐらい微弱だったってことね。そんなに強い怪人じゃないかもしれないわね」
「でも、なんでそんな怪人が劇団を襲ったのかしら?」
「さあ、怪人の考えることなんてわからないわ。『鬼を退治している桃太郎が憎くてやった』なんてこともありえるわよ」
「あはは、いくらなんでもそれは……」
ありえない、と言いかけて、いや、ありえるかもしれないと思いなおした。
何しろ怪人の思考と行動は予想がつかないのだから。そうなると、そんなとばっちりみたいなことでやられた劇団には同情を禁じ得ない。
「でも、そうなると同じ『桃太郎』をやるあんたんとこにも現れないとも限らないわね」
「えぇ……それはないわよ」
「限らないってだけの話よ」
「学芸会に現れたらいい迷惑よ」
「逆にそうなったら面白いかもね……――よし、決めたわ!」
「決めたって何を?」と言う前に、みあはオフィスへ電話を入れる。その会話内容に、かなみは思わず「えぇ!?」と驚きの声を上げる。
「あんたがあの桃太郎の台本を書いた脚本家ね?」
かなみのクラスの教室で、みあは細身の男子生徒に向けて言う。
「そうだけど、君は何?」
「あたしのことなんかより、この台本よ! なんなの、この話は! 酷いなんてものじゃないわよ!!」
みあは教室中に響くぐらいの大きい声で言う。
「あ~」
始まちゃったか、と、かなみは憂鬱になってうなだれる。
「なんなんだ、あれ?」
「かなみの知り合い?」
理英と貴子が訊いてくる。
みあが教室に最初に入ってきた時、かなみに声をかけてきたからだろう。ちなみに、入校許可は鯖戸に電話でとってきてもらっていた。
「えっと……」
しかし、みあとの間柄を友達に話すとなると困ることに気づいた。
実際のところは同じ会社の仲間であり先輩と後輩なのだけど、そもそも会社勤めしていることも秘密なので言えるはずがなく、小学生と中学生なので歳が離れていて友達と言うにもちょっと苦しい。
「か、母さんの友達の子なの!?」
なんてとっさに思いついた嘘で返してしまう。
「へえ、あの母さんの友達の子なんだ。でも、なんでうちのクラスに?」
すかさず貴子は追及してくる。
「そ、それは……参考にって言ってたわ! みあちゃんのクラスでも桃太郎を学芸会でやるからだって!!」
またしても嘘でごまかす。劇団に訪問をしたときと似たような言い訳だけど、今回の場合みあは桃太郎どころか学芸会すらする予定はないので百パーセント嘘だった。
「へえ、あの子のところでも桃太郎やるんだ。流行ってんのかな?」
単純な貴子はすぐ信じてくれた。
「参考ね……とてもそうは見えないけど」
しかし、理英はそうはいかない。脚本家の子とやりとりしているみあの姿は確かに演技の参考に来たとは言い難い。
「そ、それより理英! 演技の練習しよう! 本番までそんなに日が無いんだし!」
「え、ええ、いいけど、でも、かなみはシンデレラでしょ。おばあちゃんと絡みあったっけ?」
「鬼の親分とは戦うぞ!」
劇では理英がおばあさん、貴子が鬼の親分をする配役になった。
「え、それじゃ私の演技みて!」
かなみは台本を持って演技をする。
「『私はシンデレラ。鬼に盗まれてしまったガラスのくつを取り返すために鬼ヶ島に向かっているところなのです』」
シンデレラが初登場するシーンだった。
「うん、うまいうまい!」
理英を手を叩いて称賛する。
「すごいな、かなみって演技ができたんだな!」
貴子も素直に褒める。
「そ、そう、これぐらい普通だと思うけど」
「ううん、そんなことないわよ。テレビに出れるぐらいの演技力よ。推薦した私の目に狂いはなかったわ!」
(そのせいで私は苦労してるんだけど……)
かなみは心中でぼやく。
劇の配役を決める時、桃太郎やアラジンといった男の子の主役は積極的な運動部の男子にすぐ決まったけど、シンデレラ役をやりたい女子はいなかった。
何しろ桃太郎でのシンデレラというのはよくわからない役割の上に鬼と戦わなければならないアクション要素まであるのだから「すごくむずかしそう……」とみんな敬遠してしまったのだ。
それを見かねて理英がいきなりかなみを推薦してしまったのだ。その時、睡眠不足でうたたねしていたかなみにとってはまさに寝耳に水だった。ひとまず断ろうとしたのだけど、一節だけ台詞を言ってみてと言われたので、試しに今の最初の台詞を言ってみたところ、クラスの満場一致でシンデレラ役に決まってしまったものは仕方が無いとあきらめた。
ちなみに貴子は暴れたいから鬼をやってみたいと言ったら、みんなで「じゃあ親分だ」と言われてあっさり決まった。
「『ハッハッハッ! よくきたな桃太郎!! ここがお前達の年貢の納め時だ!!』」
貴子はノリノリで演技をするけど、そんな台詞は台本に無い。
「鬼が年貢っていうのも変じゃない?」
理英がツッコミを入れる。
「それになんで、鬼が桃太郎の名前知ってんのよ?」
すかさずカナミもツッコミに加わる。
一方のみあと脚本家の子は台本について話し合っていた。
「前半は良かったんだけど、後半特に終わり方が雑よ」
「いや、こうして盛り上がった方がいいんじゃないかな」
「大体、学芸会なんだから『つづく!』なんて終わり方はダメでしょ。キチンと終わらせなさいよ」
「だってこうした方が続編が作りやすいじゃないか。続編だと……」
「はいはい、出ない続編の話はいいわよ。それよりラストはね、」
「出ないってひどいな」
「伏線を放置して終わるのはよくないわ。魔人のお願いが二つ残ってるじゃない」
「いや、だから、その二つは続編で……」
「続編の話はやめなさい! 思い切って一つにしなさい!」
「あと、シンデレラっていうのは意外性あるけど、それが全然いかせてないわよ」
「う……確かに、僕もそこは気になってて」
「あたし的には、このラストでかぐや姫の設定をいかして~」
「あ~なるほど! それはいいね!」
二人のやり取りはだんだん熱が入ってきて、数時間は続いた。
「みんな、ごめん! 最後の方の話、書き直す!!」
と、その子は練習の終わりに宣言した。当然クラスのみんなから「ええ」とヒンシュクを買った。
それでも、脚本家の子は熱心に訴えたので納得してくれた。それはみんな、どこかであの終わり方は納得していなかったのかもしれない。
こうして台本はその晩に書き直され、翌日に配られた。当然のごとく見学にやってきていたみあもその台本を読んで「いいじゃない」と納得した。かなみは憶える台詞の量が増えたとため息をつく羽目になった。
そういうわけで台本の書き直しがあったものの、生徒達の放課後の熱心な練習もあって準備は整っていく。
本番前日のリハーサルには、衣装を使って本番同様に最初から最後まで演技する。
「かなみ、すごい!!」
理英は驚嘆の声を漏らす。
それはかなみのシンデレラ用の衣装のクオリティが高かったからだ。
「本物のお姫様みたい!」
「知り合いの衣装屋さんが気合入ったやつを貸してくれて……」
かなみは苦笑いで答える。涼美にシンデレラ役をやると話したら「それじゃあぁ、とびっきり~かわいいドレスをぉ~用意しなくちゃねぇ」と言って、山田健太に頼んで用意してもらった。
山田健太は、以前かなみに(本人とは知らずに)魔法少女カナミのコスプレをさせようとした人で、再現度の高いカナミのコスチュームを自作していた。どうして、涼美と山田健太が知り合いなのか気になったものの、彼にシンデレラの衣装を用意してもらった。
ちなみに交換条件としてシンデレラで劇をするかなみの写真を要求し、涼美は勝手に了承した事実をかなみは知らない。知らない方が幸せかもしれない。
「それにしても、衣装いいけど大丈夫なのか? ほとんど練習に来てなかったけど」
貴子は心配する。
その貴子は鬼のお面を被り、プラスチックの棍棒をかついでやる気満々だ。
「うん、台本はちゃんと読んでるし、母さんも練習に付き合ってくれたから」
かなみはここ数日仕事があったから放課後の練習にはあまり顔を出せなかった。
しかし、オフィスや家で練習することはできた。特に涼美が女優顔向けの演技力で色々な役をやってくれたおかげで台詞読みはとてもやりやすかった。
どこでそんな演技力を身に着けたのかと訊いたら、「秘密よぉ」とはぐらかされた。
そういうわけで、前日のリハーサルは問題なく終わった。
「怪人、出なかったわね……」
練習が終わった後、みあは浮かない顔でぼやく。
当然のごとく、みあはかなみのクラスに練習に付き合っている。
なんというか、監督みたいだなとかなみは思ってしまう。椅子に座って見学をしているだけなんだけど。
「どうだった?」
脚本家の子はみあに訊く。
「悪くなかったわ」
そう答えるみあの声が聞こえてきた。
(みあちゃんの悪くなかったわ、は『結構よかった』って意味なのよね)
かなみはそう解釈してクスリと笑う。
「怪人、来なかったわね」
かなみはみあに話しかける。
「怪人の狙いが読めないからね。ま、本番当日に出てくるんじゃない?」
「ふ、不吉なこと、言うのやめてよ……」
そんなわけで学芸会の当日がやってきた。
中学校の体育館に父兄が集まってくる。当然、母の涼美は来ているのだけど、翠華、紫織、みあ、あるみまでやってきていた。
「萌実さんは留守番ですか?」
紫織はあるみへ訊く。
「ええ、仔馬と一緒にね。「行くべきなんじゃないかな」って言われて……あなた達が休暇を申し出てたから、オフィスも休日にしたらってね」
「でも、部長は来なかったんですね」
「そうなのよ。休暇にしようって提案した人が休まないのよ、おかしな話でしょ」
「あの人、いつ休んでるでしょうか……」
翠華は疑問を口にする。
「親父といい勝負な働きぶりよね」
みあは言う。
「大企業の社長と張り合うって言うのは中々光栄な話ね」
「ただのワーカーホリック親父よ」
「みあちゃん、お父さんにそういうこというのはよくないですよ」
紫織が諫める。
「ところで来葉さんはどこにいるんですか?」
翠華は辺りを見回す。
「来葉ちゃんならぁ、ちゃんと席を確保してるって~」
「確保って……本当に舞台を見ているみたいですね」
「うん、かなみのぉシンデレラをぉちゃんといい写真に残すって~張り切ってたわよぉ」
「そ、そうですか……」
翠華はそれを訊いて、一瞬躊躇った後申し出る。
「あの……その写真って私にもいたただけないでしょうか?」
そうしたら、あるみは「私じゃなくて来葉に交渉しなさい」と返答が来た。
「みあちゃん!」
希奈がみあを見つけて声をかける。
「あんた、本当に来たの?」
みあは意外そうに言う。
「ええ、かなみが出るっていうから気になっちゃって。それに演技の参考になるかもと思って」
「勉強熱心ね」
「みあちゃん、こちらの人は?」
紫織はみあに訊く。
皆木希奈はみあ以外の魔法少女の社員とは初対面だった。
「かなみさんのお友達? それにしては親しいみたいだけど……」
翠華は警戒する。
かなみとみあの知り合いということは魔法少女の関係者なのかもしれないけど、ひょっとしたら恋敵かと思うと気が気がいられないのだ。
「皆木希奈といいます。かなみとはこの前、お友達になったばかりです」
翠華が高校生とわかったのか、希奈は丁寧に自己紹介する。
「そう、かなみさんとはこの前……って、皆木希奈さん?」
翠華はこの名前に聞き覚えがあった。
「あの、希奈さん?」
「はい?」
「つかぬことを聞くけど、あなた声の仕事をしてないかしら?」
「あ、はい、私声優をやっています」
「そ、それじゃ、フェアリープリンセスのフェアリーソイルとか」
「はい、演じています」
「………………」
希奈の返事を聞いて、翠華は絶句する。
翠華も『魔法妖精フェアリープリンセス』は毎週欠かさず観ている熱心なファンだ。その主役の一人を演じている声優が目の前にいることが信じられない。
「あの、どうかしましたか?」
「あ~こいつ、あんたのファンだからビックリして固まっただけよ」
みあは面倒そうに解説する。
「みあちゃん! その通りだけど!」
「え、私のファンなんですか?」
「は、はい! いつも楽しみにしています!!」
翠華が素直にそう言うと、希奈の顔もパッと明るくなる。
「嬉しいです! あなたのような素敵な人に観てもらえて、その上ファンだなんて!」
「はい……あとでサインをお願いしてもよろしいですか?」
「もちろんです」
希奈は笑顔で答える。
そうしているうちに、劇は始まる。
フランダースの犬や白雪姫といった童話が中心になっている。中には道徳の教科書に出てくるような寓話もあったりする。
一年生の部が終わって、二年生の部が始まってかなみ達の番になる。
「いよいよですね」
翠華は緊張した面持ちで言う。
「ええ……まあ、でもあいつが緊張でとちることはないと思うわよ」
「どうしてですか?」
紫織は訊くと、みあはわかりきったように答える。
「あいつ、土壇場に強いからね。それにこれぐらいだったら怪人との戦い……支部長や十二席のヘヴルと戦ってた時の方がよっぽど緊張する。昨日のリハーサルであいつはそう言っているように感じたわ」
台本をたてて、かなみは台詞を音読みした。
「いきなり何言ってんのよ?」
「わあ!?」
かなみは驚き、すくみあがった。
ここは会社のオフィス。台本に書いてある台詞を覚えなければならないのだけど、時間が足りないということで、仕事が空いた時間にオフィスに誰もいないことを確認してから音読みしていた。
にも関わらず、いつの間にか後ろには翠華とみあがいた。
よっぽど集中していたということだろうか。それとも、二人が抜き足忍び足で忍び寄ったのか。
「なんであんた、劇の練習してるのよ? 食うに困って劇団のバイト始めたの?」
「違うわよ!」
「じゃあ……ドラマにでも出んの? モデルやったときのコネで」
「そんなわけないでしょ。学校の学芸会よ」
「な~んだ」
みあは拍子抜けする。
「学芸会って何をやるの?」
翠華が訊く。
「桃太郎です」
かなみは台本の表紙を見せる。
「ああ、それできびだんごなのね。あんた何役なの? 犬? サル?」
「かなみさんだったら、かわいらしいキジなんじゃないかしら?」
「それが……」
かなみは答えるのを躊躇う。
言いづらい役なのか。しかし、そんな態度をとられると余計に気になるのが人間の性(さが)だ。
「気になるじゃないの。教えなさいよ」
「かなみさん、笑わないから教えて」
「…………はい」
観念したようにかなみは白状する。
「――シンデレラ役なんです」
「「え??」」
翠華とみあは揃って驚きの声をあげる。
「なんで桃太郎なのにシンデレラ役なのよ!?」
「桃太郎ってシンデレラは出ないわよね?」
「国が違うし、別々のおとぎ話だし」
「それがうちのクラス、変わってまして『普通の桃太郎じゃつまらない』からって脚本家志望の子が色々アレンジしまして、色々なおとぎ話を混ぜちゃったんです」
「なるほど、それでシンデレラね」
かなみの説明で、みあと翠華は納得する。
「かなみさんのシンデレラ役……素敵だと思うわ」
「そうでしょうか……私は台詞が少ない役が良かったんですが……」
台詞が多いとそれだけ時間をかけて憶えなければならない。
かなみにはそんな時間はとれない。だからこそこうしてオフィスで密かに練習していたのだ。
いや、それ以前に……。
「シンデレラって台詞多いの……ちょっと台本見せて」
みあはそう言って台本を取り上げます。
「えっと……役は、桃太郎、かぐや姫、シンデレラ、アラジン、浦島太郎……本当に色々混ぜてるわね」
「クラスのみんなもそれを面白がっちゃって……やることになったのよ」
「それでどんな話かっていうと……」
昔々あるところにおじいさんとおばあさんが暮らしていました。
ある日、おじいさんは山へ竹を取りに、おばあさんは川へ洗濯をしに行きました。
おじいさんが竹を切っていると、竹の中から女の子が出てきました。
おばあさんが洗濯をしていると、川から大きな桃が流れてきました。その大きな桃の中から男の子が出てきました。
こうして、おじいさんとおばあさんは竹から出てきた女の子をかぐや姫、桃から出てきた男の子を桃太郎と名付けて育てました。
やがて、桃太郎とかぐや姫はお互いを愛し合うようになります。
しかし、ある日鬼がやってきて、かぐや姫を連れ去っていってしまいます。かぐや姫を取り返すために桃太郎は鬼ヶ島へと旅立ちます。
道の途中で桃太郎はシンデレラ、アラジン、浦島太郎を仲間にしました。
「なるほどね。かぐや姫を取り返すために鬼を退治する。犬、サル、キジの代わりにシンデレラ、アラジン、浦島太郎を仲間にするのね。結構面白いじゃない」
みあは面白そうに台本の続きを読んでいく。
浜辺に出ると、亀がいじめられていました。浦島太郎がいじめっ子から亀を助けました。
亀はお礼に「竜宮城へお連れします」と言いましたが、浦島太郎は「鬼ヶ島へ連れていってほしい」と言います。「わかりました」と亀は桃太郎達を背中に乗せて海を渡り、鬼ヶ島に辿り着きます。
鬼ヶ島に着いた桃太郎達は鬼と戦います。しかし、親分の鬼がとても強くて桃太郎達は負けてしまいそうになります。
そこでアラジンは鬼が盗んできた宝の中から魔法のランプを見つけます。その魔法のランプから魔人が現れます。
「どんな願いも三つだけ叶えてやる」と魔人は言いました。
アラジンは鬼をやっつけてくれとお願いしました。お願いを聞いた魔人はあっという間に鬼をやっつけてしまいました。
鬼をやっつけた桃太郎はかぐや姫と再会しました。
しかし、かぐや姫は魔女にさらわれてしまいました。
なんと、鬼達を操っていたのはその魔女でした。さらわれかぐや姫を取り返す為、桃太郎達の戦いは続く。
「………………」
台本を読み終わったみあは絶句する。しかし、すぐにブルブルと怒りで身体を震わせる。
「なんなのよ、これぇぇぇぇぇぇッ!!」
台本をデスクへ叩き落とす。
「わ、私に言われても!」
「最後、投げっぱなしじゃない! 何なのよ、魔女って!? いきなり現れて、黒幕でしたって観客から総スカンうけあいじゃない! しかも続くって終わってないじゃない! 学芸会なんだからキチンと終わらせなさい!!」
矢継ぎ早に批評が飛び出してきて、かなみ達は呆気にとられる。
「みあちゃん、厳しいわね……」
「厳しいんじゃなくて、当たり前のことでしょ。一体誰よこの台本書いた奴は……一言文句言ってやりたいわ!」
「私のクラスメイトだけど……」
今の調子からすると一言だけですみそうにない気がするけど。
「楽しそうな話してるわね」
いつの間にか入ってきたあるみが声をかけてくる。
「別に楽しいわけじゃないわよ」
みあはへそを曲げる。
「そんなみあちゃんにちょっと頼みたい仕事があるのよ」
「何?」
「この近くの劇団でトラブルがあってね」
「トラブル?」
「劇団のセットが壊されたのよ。あと主役の人が怪我を負わされたって」
「怪人の仕業、ですか?」
「多分ね。目撃者の証言によると犯人は『角を生やした大男』だって」
「まるで鬼ね。それであたしが調査するってわけ?」
「そうそう。ちなみに劇団がやるはずだった劇は――『桃太郎』だったみたい」
「……え?」
そう言われて、かなみ達は台本の『桃太郎』の字を注視した。
「このビルだね」
かなみの肩に乗ったマニィは言う。
「何が近くよ。ほとんど隣町じゃない」
マニィが案内し終わると、みあが文句を言う。
「社長にとっては近くなのね」
かなみもぼやく。
このビルの三階が劇団の拠点で怪人に襲われたという話だ。
同じ『桃太郎』をするということ、なんだか気になってしまったかなみも同行した。
『劇団一寸(げきだんいっすん)』
ビルに入って三階に上がるとその表札が見えた。
まったく、かなみがインターフォンを鳴らす。大人の女性が出てくる。
「何か用かしら?」
「見学をさせてください」
「見学?」
「私達、今度の劇で『桃太郎』をやるんです。それで参考にしたいと思いまして……お願いします!」
かなみ達は一礼する。すると、女性は困った顔をする。
「見学はいいんだけど、今はちょっと……」
「ダメですか?」
かなみは懇願するように食い下がる。
「誰かがにセット、壊されて掃除しているところなのよ」
女性は言いづらそうに答える。
かなみ達はその惨状を見ることが目的だったのだけど、それを口に出さず、ただ「それでもいいので見学させてください!」と一生懸命お願いをする。
やがて、女性は「しょうがないわね」と入れてくれた。
「あ、かなみ!」
入るなり、皆木希奈と会った。
「希奈さん、どうしてここに!?」
「知り合いが劇団にいて、見学に来てたの。芝居の参考になると思ってね。かなみこそどうして?」
「わ、私も芝居の参考に! 今度学芸会で桃太郎やるから!!」
かなみはあわてて答える。
学芸会で桃太郎をやるというのは本当なので嘘が苦手なかなみでもそれらしく聞こえた。
「ふうん。そうなんだ、でも今はセット壊れたから掃除してるだけなのよね。主役の人も襲われて入院しちゃったし、とても練習できる状態じゃないのよ」
「襲われた? 誰かにやられたの?」
「うん……私は見てないけど、角を生やした鬼みたいな人だって聞いたわ」
「鬼みたいな人……」
かなみとみあは顔を見合わせる。
鬼みたいな、どころか鬼そのものの怪人とは何度も出くわしている。ここで暴れたのはそういった怪人の可能性が高いと踏んでいる。
「じゃ、じゃあ、そのセットの掃除、手伝わせてくれる?」
かなみ達は掃除の手伝いをしながら、その怪人の魔力の痕跡か何か残ってないか調べた。
「間違いなく怪人の仕業ね」
掃除を手伝った後、近くの喫茶店で休憩しているとみあは断言する。
「みあちゃん……やっぱり、そう感じるのね」
壊されたセットから魔力の痕跡を感じたらしい。かなみはそういった感知能力が無いから何も感じなかった。
「あんたは感じなかったのね」
「うん、ただの壊されたセットにしか見えなかったわ」
「逆に言うと、あんたが感じないぐらい微弱だったってことね。そんなに強い怪人じゃないかもしれないわね」
「でも、なんでそんな怪人が劇団を襲ったのかしら?」
「さあ、怪人の考えることなんてわからないわ。『鬼を退治している桃太郎が憎くてやった』なんてこともありえるわよ」
「あはは、いくらなんでもそれは……」
ありえない、と言いかけて、いや、ありえるかもしれないと思いなおした。
何しろ怪人の思考と行動は予想がつかないのだから。そうなると、そんなとばっちりみたいなことでやられた劇団には同情を禁じ得ない。
「でも、そうなると同じ『桃太郎』をやるあんたんとこにも現れないとも限らないわね」
「えぇ……それはないわよ」
「限らないってだけの話よ」
「学芸会に現れたらいい迷惑よ」
「逆にそうなったら面白いかもね……――よし、決めたわ!」
「決めたって何を?」と言う前に、みあはオフィスへ電話を入れる。その会話内容に、かなみは思わず「えぇ!?」と驚きの声を上げる。
「あんたがあの桃太郎の台本を書いた脚本家ね?」
かなみのクラスの教室で、みあは細身の男子生徒に向けて言う。
「そうだけど、君は何?」
「あたしのことなんかより、この台本よ! なんなの、この話は! 酷いなんてものじゃないわよ!!」
みあは教室中に響くぐらいの大きい声で言う。
「あ~」
始まちゃったか、と、かなみは憂鬱になってうなだれる。
「なんなんだ、あれ?」
「かなみの知り合い?」
理英と貴子が訊いてくる。
みあが教室に最初に入ってきた時、かなみに声をかけてきたからだろう。ちなみに、入校許可は鯖戸に電話でとってきてもらっていた。
「えっと……」
しかし、みあとの間柄を友達に話すとなると困ることに気づいた。
実際のところは同じ会社の仲間であり先輩と後輩なのだけど、そもそも会社勤めしていることも秘密なので言えるはずがなく、小学生と中学生なので歳が離れていて友達と言うにもちょっと苦しい。
「か、母さんの友達の子なの!?」
なんてとっさに思いついた嘘で返してしまう。
「へえ、あの母さんの友達の子なんだ。でも、なんでうちのクラスに?」
すかさず貴子は追及してくる。
「そ、それは……参考にって言ってたわ! みあちゃんのクラスでも桃太郎を学芸会でやるからだって!!」
またしても嘘でごまかす。劇団に訪問をしたときと似たような言い訳だけど、今回の場合みあは桃太郎どころか学芸会すらする予定はないので百パーセント嘘だった。
「へえ、あの子のところでも桃太郎やるんだ。流行ってんのかな?」
単純な貴子はすぐ信じてくれた。
「参考ね……とてもそうは見えないけど」
しかし、理英はそうはいかない。脚本家の子とやりとりしているみあの姿は確かに演技の参考に来たとは言い難い。
「そ、それより理英! 演技の練習しよう! 本番までそんなに日が無いんだし!」
「え、ええ、いいけど、でも、かなみはシンデレラでしょ。おばあちゃんと絡みあったっけ?」
「鬼の親分とは戦うぞ!」
劇では理英がおばあさん、貴子が鬼の親分をする配役になった。
「え、それじゃ私の演技みて!」
かなみは台本を持って演技をする。
「『私はシンデレラ。鬼に盗まれてしまったガラスのくつを取り返すために鬼ヶ島に向かっているところなのです』」
シンデレラが初登場するシーンだった。
「うん、うまいうまい!」
理英を手を叩いて称賛する。
「すごいな、かなみって演技ができたんだな!」
貴子も素直に褒める。
「そ、そう、これぐらい普通だと思うけど」
「ううん、そんなことないわよ。テレビに出れるぐらいの演技力よ。推薦した私の目に狂いはなかったわ!」
(そのせいで私は苦労してるんだけど……)
かなみは心中でぼやく。
劇の配役を決める時、桃太郎やアラジンといった男の子の主役は積極的な運動部の男子にすぐ決まったけど、シンデレラ役をやりたい女子はいなかった。
何しろ桃太郎でのシンデレラというのはよくわからない役割の上に鬼と戦わなければならないアクション要素まであるのだから「すごくむずかしそう……」とみんな敬遠してしまったのだ。
それを見かねて理英がいきなりかなみを推薦してしまったのだ。その時、睡眠不足でうたたねしていたかなみにとってはまさに寝耳に水だった。ひとまず断ろうとしたのだけど、一節だけ台詞を言ってみてと言われたので、試しに今の最初の台詞を言ってみたところ、クラスの満場一致でシンデレラ役に決まってしまったものは仕方が無いとあきらめた。
ちなみに貴子は暴れたいから鬼をやってみたいと言ったら、みんなで「じゃあ親分だ」と言われてあっさり決まった。
「『ハッハッハッ! よくきたな桃太郎!! ここがお前達の年貢の納め時だ!!』」
貴子はノリノリで演技をするけど、そんな台詞は台本に無い。
「鬼が年貢っていうのも変じゃない?」
理英がツッコミを入れる。
「それになんで、鬼が桃太郎の名前知ってんのよ?」
すかさずカナミもツッコミに加わる。
一方のみあと脚本家の子は台本について話し合っていた。
「前半は良かったんだけど、後半特に終わり方が雑よ」
「いや、こうして盛り上がった方がいいんじゃないかな」
「大体、学芸会なんだから『つづく!』なんて終わり方はダメでしょ。キチンと終わらせなさいよ」
「だってこうした方が続編が作りやすいじゃないか。続編だと……」
「はいはい、出ない続編の話はいいわよ。それよりラストはね、」
「出ないってひどいな」
「伏線を放置して終わるのはよくないわ。魔人のお願いが二つ残ってるじゃない」
「いや、だから、その二つは続編で……」
「続編の話はやめなさい! 思い切って一つにしなさい!」
「あと、シンデレラっていうのは意外性あるけど、それが全然いかせてないわよ」
「う……確かに、僕もそこは気になってて」
「あたし的には、このラストでかぐや姫の設定をいかして~」
「あ~なるほど! それはいいね!」
二人のやり取りはだんだん熱が入ってきて、数時間は続いた。
「みんな、ごめん! 最後の方の話、書き直す!!」
と、その子は練習の終わりに宣言した。当然クラスのみんなから「ええ」とヒンシュクを買った。
それでも、脚本家の子は熱心に訴えたので納得してくれた。それはみんな、どこかであの終わり方は納得していなかったのかもしれない。
こうして台本はその晩に書き直され、翌日に配られた。当然のごとく見学にやってきていたみあもその台本を読んで「いいじゃない」と納得した。かなみは憶える台詞の量が増えたとため息をつく羽目になった。
そういうわけで台本の書き直しがあったものの、生徒達の放課後の熱心な練習もあって準備は整っていく。
本番前日のリハーサルには、衣装を使って本番同様に最初から最後まで演技する。
「かなみ、すごい!!」
理英は驚嘆の声を漏らす。
それはかなみのシンデレラ用の衣装のクオリティが高かったからだ。
「本物のお姫様みたい!」
「知り合いの衣装屋さんが気合入ったやつを貸してくれて……」
かなみは苦笑いで答える。涼美にシンデレラ役をやると話したら「それじゃあぁ、とびっきり~かわいいドレスをぉ~用意しなくちゃねぇ」と言って、山田健太に頼んで用意してもらった。
山田健太は、以前かなみに(本人とは知らずに)魔法少女カナミのコスプレをさせようとした人で、再現度の高いカナミのコスチュームを自作していた。どうして、涼美と山田健太が知り合いなのか気になったものの、彼にシンデレラの衣装を用意してもらった。
ちなみに交換条件としてシンデレラで劇をするかなみの写真を要求し、涼美は勝手に了承した事実をかなみは知らない。知らない方が幸せかもしれない。
「それにしても、衣装いいけど大丈夫なのか? ほとんど練習に来てなかったけど」
貴子は心配する。
その貴子は鬼のお面を被り、プラスチックの棍棒をかついでやる気満々だ。
「うん、台本はちゃんと読んでるし、母さんも練習に付き合ってくれたから」
かなみはここ数日仕事があったから放課後の練習にはあまり顔を出せなかった。
しかし、オフィスや家で練習することはできた。特に涼美が女優顔向けの演技力で色々な役をやってくれたおかげで台詞読みはとてもやりやすかった。
どこでそんな演技力を身に着けたのかと訊いたら、「秘密よぉ」とはぐらかされた。
そういうわけで、前日のリハーサルは問題なく終わった。
「怪人、出なかったわね……」
練習が終わった後、みあは浮かない顔でぼやく。
当然のごとく、みあはかなみのクラスに練習に付き合っている。
なんというか、監督みたいだなとかなみは思ってしまう。椅子に座って見学をしているだけなんだけど。
「どうだった?」
脚本家の子はみあに訊く。
「悪くなかったわ」
そう答えるみあの声が聞こえてきた。
(みあちゃんの悪くなかったわ、は『結構よかった』って意味なのよね)
かなみはそう解釈してクスリと笑う。
「怪人、来なかったわね」
かなみはみあに話しかける。
「怪人の狙いが読めないからね。ま、本番当日に出てくるんじゃない?」
「ふ、不吉なこと、言うのやめてよ……」
そんなわけで学芸会の当日がやってきた。
中学校の体育館に父兄が集まってくる。当然、母の涼美は来ているのだけど、翠華、紫織、みあ、あるみまでやってきていた。
「萌実さんは留守番ですか?」
紫織はあるみへ訊く。
「ええ、仔馬と一緒にね。「行くべきなんじゃないかな」って言われて……あなた達が休暇を申し出てたから、オフィスも休日にしたらってね」
「でも、部長は来なかったんですね」
「そうなのよ。休暇にしようって提案した人が休まないのよ、おかしな話でしょ」
「あの人、いつ休んでるでしょうか……」
翠華は疑問を口にする。
「親父といい勝負な働きぶりよね」
みあは言う。
「大企業の社長と張り合うって言うのは中々光栄な話ね」
「ただのワーカーホリック親父よ」
「みあちゃん、お父さんにそういうこというのはよくないですよ」
紫織が諫める。
「ところで来葉さんはどこにいるんですか?」
翠華は辺りを見回す。
「来葉ちゃんならぁ、ちゃんと席を確保してるって~」
「確保って……本当に舞台を見ているみたいですね」
「うん、かなみのぉシンデレラをぉちゃんといい写真に残すって~張り切ってたわよぉ」
「そ、そうですか……」
翠華はそれを訊いて、一瞬躊躇った後申し出る。
「あの……その写真って私にもいたただけないでしょうか?」
そうしたら、あるみは「私じゃなくて来葉に交渉しなさい」と返答が来た。
「みあちゃん!」
希奈がみあを見つけて声をかける。
「あんた、本当に来たの?」
みあは意外そうに言う。
「ええ、かなみが出るっていうから気になっちゃって。それに演技の参考になるかもと思って」
「勉強熱心ね」
「みあちゃん、こちらの人は?」
紫織はみあに訊く。
皆木希奈はみあ以外の魔法少女の社員とは初対面だった。
「かなみさんのお友達? それにしては親しいみたいだけど……」
翠華は警戒する。
かなみとみあの知り合いということは魔法少女の関係者なのかもしれないけど、ひょっとしたら恋敵かと思うと気が気がいられないのだ。
「皆木希奈といいます。かなみとはこの前、お友達になったばかりです」
翠華が高校生とわかったのか、希奈は丁寧に自己紹介する。
「そう、かなみさんとはこの前……って、皆木希奈さん?」
翠華はこの名前に聞き覚えがあった。
「あの、希奈さん?」
「はい?」
「つかぬことを聞くけど、あなた声の仕事をしてないかしら?」
「あ、はい、私声優をやっています」
「そ、それじゃ、フェアリープリンセスのフェアリーソイルとか」
「はい、演じています」
「………………」
希奈の返事を聞いて、翠華は絶句する。
翠華も『魔法妖精フェアリープリンセス』は毎週欠かさず観ている熱心なファンだ。その主役の一人を演じている声優が目の前にいることが信じられない。
「あの、どうかしましたか?」
「あ~こいつ、あんたのファンだからビックリして固まっただけよ」
みあは面倒そうに解説する。
「みあちゃん! その通りだけど!」
「え、私のファンなんですか?」
「は、はい! いつも楽しみにしています!!」
翠華が素直にそう言うと、希奈の顔もパッと明るくなる。
「嬉しいです! あなたのような素敵な人に観てもらえて、その上ファンだなんて!」
「はい……あとでサインをお願いしてもよろしいですか?」
「もちろんです」
希奈は笑顔で答える。
そうしているうちに、劇は始まる。
フランダースの犬や白雪姫といった童話が中心になっている。中には道徳の教科書に出てくるような寓話もあったりする。
一年生の部が終わって、二年生の部が始まってかなみ達の番になる。
「いよいよですね」
翠華は緊張した面持ちで言う。
「ええ……まあ、でもあいつが緊張でとちることはないと思うわよ」
「どうしてですか?」
紫織は訊くと、みあはわかりきったように答える。
「あいつ、土壇場に強いからね。それにこれぐらいだったら怪人との戦い……支部長や十二席のヘヴルと戦ってた時の方がよっぽど緊張する。昨日のリハーサルであいつはそう言っているように感じたわ」
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