まほカン

jukaito

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第87話 演劇! 少女は舞台に上がり魔法をかける (Bパート)

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 開始のブザーが鳴って、体育館の照明が落ちて真っ暗になる。
 舞台だけの照明が照らされ、演目『桃太郎』の文字が見える。
 緞帳が上がって、劇が始まる。


――昔々あるところにおじいさんとおばあさんがすんでいました」
 ナレーターを務める女子生徒が語り始める。
――ある日、おじいさんは山へ竹をとりに、おばあさんは川へ洗濯へいきました。
――おじいさんが竹を切っていると竹の中から女の子がでてきました。
 竹林で竹を切っている竹から女の子が出てくる。
「これはたまげた。なんと美しい女の子じゃ」
 それを見つけたおじいさんは女の子と一緒に帰っていく
――おじいさんはその女の子を連れて帰りました。
 おじいさんと女の子が舞台から出て行って、代わりにおばあさんが出てくる。
――一方のおばあさんは川で洗濯をしていると、大きな桃が流れてきました。
 ナレーションとともに生徒二人で大きな桃を運んでくる。
「おやおや、なんとまあ大きな桃じゃ。持って帰っておじいさんのお土産にしよう」
 そう言ったおばあさんの手前で桃が割れる。
――ですが、桃は割れてしまい、桃の中から男の子がでてきました。
 中から男の子が出てくる。
「なんと男の子が」
 おばあさんは驚いた。
 しかし、おばあさんは男の子を連れて帰っていく。
――おばあさんはその男の子を連れて帰りました。
 場面は切り替わって、おじいさんとおばあさんの家へ。
 女の子が持ったおじいさんと男の子を持ったおばあさんが家の前で顔を合わせる。
――おじいさんとおばあさんはこうして、竹からでてきた女の子を『かぐや姫』、桃からでてきた男の子を『桃太郎』と名付けて育てました。
 場面は暗転する。
――桃太郎とかぐや姫はすくすく育ちました。
 舞台で見つめ合う桃太郎とかぐや姫。
――やがて、二人は愛し合うようになりました。
「かぐや姫、俺はあなたが好きです」
「桃太郎、私もあなたが好きです」
「俺と結婚しましょう」
「あなたと結婚します」
 二人が幸せになると観客達も思いました。
――ですが、幸せな時間は長く続きませんでした。
 突然雷の音が鳴り、三人の鬼達がやってくる。
「美しい女の子だ!」
「お宝だ、お宝だ!」
「連れ去っていこうぜ!」
「「「おうおうおう!!!」」」
 鬼達はかぐや姫の手を引いてさらっていく。
「きゃー!」
 鬼達はかぐや姫をさらって舞台袖に行く。
「かぐや姫! かぐや姫ぇぇぇッ!!」
 桃太郎の絶叫が空しく木霊して、舞台は暗転する。
 舞台の照明がつくと、桃太郎、おじいさん、おばあさんの三人が登場する。
「桃太郎や、どうしても行くのか?」
 おじいさんは桃太郎へ問う。
「はい」
「決心は固いのか?」
 今度はおばあさんが桃太郎へ問う。
「はい。必ず鬼達からかぐや姫を取り返してきます」
「鬼は鬼ヶ島にいる。辛い旅になる。これをもっていくんじゃ」
 おじいさんは桃太郎へ刀を渡す。
「桃太郎や、このキビダンゴをもっていくんじゃ」
 おばあさんは桃太郎へキビダンゴを渡す。
「おじいさん、おばあさん、ありがとうございます。それでは行って参ります」
 すると、舞台袖から青年がやってくる。
「桃太郎さん、私もあなたの仲間にさせてください」
「あなたは浦島太郎さん、俺と一緒に鬼退治してくれるのですか?」
「はい。鬼が村人達をいじめているのが許せなくて」
「わかりました。キビダンゴをおひとつお食べください。それで俺とあなたは仲間です」
「はい」
 桃太郎は浦島太郎にキビダンゴを渡す。
「それでは参りましょう」
――こうして、桃太郎と浦島太郎は鬼退治するために鬼ヶ島を目指して旅に出ました。
 舞台は暗転して、次に背景が竹林に切り替わる。背景が少ないので使いまわしていくということでここはかぐや姫がでてきた竹林と同じになったそうな。
――桃太郎達が道を歩いていると、ドレスを着た美しい女の子がいました。
 そのナレーションとともに、シンデレラ役のかなみは登場する。
「お嬢さん、こんなところでどうしましたか?」
 桃太郎が声をかける。
「私はシンデレラ。鬼に盗まれてしまったガラスのくつを取り返すために鬼ヶ島に向かっているところなのです」
「鬼ヶ島? それなら俺も向かっているところです」
「まあ、なんという偶然!」
「よければご一緒にきていただけませんか? キビダンゴを一つ差し上げますので俺の仲間になってください」
「よろこんで、あなたの仲間に加わりましょう」
 桃太郎はシンデレラにキビダンゴを渡す。
「ありがとうございます」
「それでは参りましょう」
「はい」


「あいつ、キビダンゴ渡したら本当にホイホイついていきそうよね?」
 みあが呟く。
「さすがにそれはないと思います、多分」
 多分のあたりで自信の無さが思いっきり出てしまう紫織。
「かなみさん、ドレスできれい……」
 かなみのシンデレラドレスに見惚れる翠華。
「かなみ、いい演技ね。でも、あの口調、どこかで……」
 などと呟く希奈の声が翠華の耳に入った。
(もしかして希奈さん気づいた!? かなみさんが魔法少女カナミだってことは秘密なのに!)
 翠華は焦る。
「あ、あの、かなみさんのドレス素敵じゃない?」
 ごまかす方に発言する。
「え、ああ、そうね。テレビの衣装みたい」
「……え?」
 希奈の方こそテレビに出ているのに、翠華は思ってしまう。


――シンデレラを仲間にした桃太郎は先へ進みます。
 桃太郎達の前に一人の男性がやってくる。
「鬼退治に出かけている桃太郎というのは君か?」
「そうですが、そういう君は?」
「俺はアラジン。そのキビダンゴを食べるから仲間に加えて欲しいんだ」
 アラジンは陽気にそう言う。
「君も鬼退治の仲間になってくれるのかい?」
「俺は鬼退治に興味はないが、鬼が盗み出した宝をいただきたいのさ」
「なるほどそうですか」
 桃太郎は納得して、腰のキビダンゴに手を伸ばす。
「桃太郎さん、アラジンを仲間にするのですか?」
 浦島太郎は桃太郎に訊く。
「味方は一人でも多い方がいいですわ」
 シンデレラ(かなみ)が代弁する。
「そうですね。シンデレラの言う通りだ。アラジン、君を仲間に加えましょう。さあ、キビダンゴをお食べ」
「ありがとう!」
 桃太郎はアラジンにキビダンゴを渡す。
――こうして桃太郎は、浦島太郎、シンデレラ、アラジンを仲間にしました。
 舞台は浜辺に移り変わる。
――桃太郎達は浜辺にやってきました。ですが、この海を渡って鬼ヶ島へ行くためには船が必要でした。
「船がないから海を渡ることができません」
「まあ、困りましたわ」
 シンデレラ(かなみ)は両手を合わせて困ってみせる。
「どうするんだよ、鬼ヶ島はあの海の先なんだぜ」
 アラジンは文句を言う。
「うーん」
 桃太郎は腕を組んで考える。
「おや」
 浦島太郎が何かを見つける。
――浦島太郎は浜辺で亀をいじめている子供たちを見つけました。
「こら、そこの君達、亀をいじめるのはよくない」
 浦島太郎は三人のいじめっ子に注意する。
「なんだお前は!?」
 いじめっ子三人は文句を言う。
「ほらほら君達、このキビダンゴをあげるから亀をいじめるのはやめなさい」
 桃太郎はいじめっ子達にキビダンゴを渡す。
「キビダンゴだって!」
「わーいわーい」
 子供たちははしゃぎながら舞台袖に入っていく。
「さあ、亀さん。もう大丈夫ですよ」
 シンデレラ(かなみ)は亀に話しかける。
「ありがとうございます」
 亀がお礼を言う。
「お礼にあなた達を竜宮城へ招待します」
「竜宮城? そんなところに興味はないぜ」
 アラジンは言う。
「亀さん、私達は鬼ヶ島に行きたいんです」
 浦島太郎は提案する。
「鬼ヶ島に? それじゃ、僕が運んであげましょう」
 亀は快く応えてくれる。
「本当ですか! ありがとうございます!」
――桃太郎達は助けた亀に乗って、海を渡りました。
 そのナレーションとともに舞台は暗転する。


 舞台袖にて。
「よし、そろそろ出番だな!」
 鬼の仮面をつけた貴子は張り切る。

ドシドシ!

 やたら物々しい足音が来る。
「お!?」
 貴子はその音がした方を見ると、――そこに鬼は立っていた。


「独特のお話ね」
 あるみは興味津々にコメントする。
「あんた、こういう話好きなの?」
 みあが訊く。
「ええ」
「……意外でもないか」
 みあがそう言うと、あるみはフフッと微笑む。
「桃太郎、浦島太郎、シンデレラ、アラジン……すごい組み合わせですね」
 希奈は翠華に言う。
「ええ、そうね。最初かなみさんがシンデレラやるって言った時には驚いたけど」
「ははは、それは驚きますよね」
 希奈は笑う。
「それにしてもぉ」
「涼美さん、どうかしたんですか?」
「ん、ちょっとぉ気になることがぁ、舞台袖で~起きているかもしれないわねぇ」
「何かあったんですか?」
「さあぁ、そこまではぁわからないけどぉ、まあ、かなみだったらぁなんとかぁするでしょぉ」
 涼美はすっかり安心して言う。
「それにぃ、あるみちゃんがいざとなったらぁ助け舟出すでしょぉ」



 舞台は鬼ヶ島に移る。
――さあそして、とうとう鬼ヶ島に辿り着きました。
「鬼達、かぐや姫は返してもらうぞ!」
 桃太郎は堂々と言い切る。
 ここでかぐや姫をさらった三人の鬼達が出てくる。――はずだった。

ドシドシ!

 轟轟しい足音とともに、角を生やした鬼が登場してくる。
「えぇ……!?」
 桃太郎をはじめとした一行は驚きの声を上げる。
 それはそうだ。何しろこんなことは台本に書かれていないのだから。
「桃太郎というのは貴様か!」
 鬼は仰々しい口調で告げる。
「え、ええ、あぁ……あ、あぁ、そそ、そうだ……!」
 桃太郎役の男子生徒はたどたどしいながらも答える。
(まさかの本当に出てくるなんて……みあちゃんの予想当たっちゃったよ……!)
 かなみはシンデレラとして一番平静を装う。
 なんというか、この異常事態にもわりと慣れを感じる自分もいる。
(っていうか、なんでせっかくの学芸会当日にやってくるのよ!!)
 むしろ、怒りや憤りの感情の方が強かった。
「いつもいつも鬼を退治して迷惑してるんだ! 俺様が退治しかえしてやるんだ!!」
 鬼が桃太郎を襲う理由を語る。
 間違いなく劇団のセットや桃太郎役の男性を襲ったのも同じ理由だろう。ますます、かなみは怒りでブルブル震えた。
(本当なら今すぐに変身して倒したいところだけど……!)
 とはいっても、今は劇の真っ最中。同級生や学校の人達、観客の父兄までいる中でそんなことをするわけにはいかない。
 しかし、不幸中の幸いなのか。まだこの鬼の登場は劇の一部として受け止められていて騒ぎにはなっていない。
 頼みのあるみや涼美は動く気配が無い。あの二人ならこんな状況でもなんとかしてくれるだろうから早くなんとかしてほしいと祈る想いなんだけど。
「いくぞおおおおおおッ!!」
 鬼は持っていた棍棒を振るう。
 よく見たら、その棍棒は貴子が劇で使うプラスチックのものだった。

ブオン!

「うわあああああッ!?」
 桃太郎は慌ててかわす。
(お、遅い……)
 かなみは呆れる。
 何しろ桃太郎役の男子生徒は運動部所属なんだけど、戦いは素人だし劇の衣装もきていて怪人の攻撃なんてとてもかわせるはずがない。その彼がかわせるのだから、鬼の怪人はよっぽど動きが遅かった。
『うん、ただの壊されたセットにしか見えなかったわ』
『逆に言うと、あんたが感じないぐらい微弱だったってことね。そんなに強い怪人じゃないかもしれないわね』
 みあとの劇団の壊されたセット見た後のやりとりを思い出す。
 そんなに強い怪人じゃないかもしれない、どころか相当弱い怪人だったみたいだけど。
(弱いのはよかったんだけど、このままだと怪我人が出るわ……! なんとかしないと……っていうか、社長! 母さん! なんとかして!!)
 かなみは舞台下に向かって心の声で叫ぶ。
「かなみ、変身するんだ」
 耳元でマニィが囁く。
「マニィ……!」
 いつの間に懐にもぐりこんでいたのか。今は耳元にいて髪で隠れているので観客には見えていない。
「社長からの指示だよ。面白そうだから変身して鬼退治しよう」
「え、えぇ……そんな無茶な……」
「大丈夫。今は劇なんだから、シンデレラが変身しても劇の演出だと思ってくれるよ」
 あるみがマニィの声を借りて喋っているような物言いに思えた。無茶振りである。
「うぅ……」
「ああ、言っておくけど社長達は助けるつもりはないって」
「……そうよね」
 かなみはぼやく。
 社長や涼美はこういう切羽詰まった時に限って助け船を出してくれない。
 だから、この場は自分でなんとかするしかない。
(しょうがないわよね。マニィも言ってるけど、みんな劇だと思ってくれるに違いないわ! ええきっとそうよ! そうに決まってるわ!!)
 半ばヤケクソ気味に心中で叫び、コインを取り出す。
「マジカルワーク」
 ピカピカとコインから輝きが放たれて、シンデレラのドレス衣装から魔法少女の衣装へと変化する。
「魔法少女シンデレラ参上!」
 劇の上なので、いつも違う名乗り口上を上げる。
「え……?」「おお!?」「すごい!?」
 当然のことながら観客からは驚きと戸惑いの歓声が上がる。
「すごい演出だな」
「とても学芸会とは思えない」
 だけど、おおむね好評の声だし、まだみんな劇の中の演出だと思ってくれている。
「……すごい、魔法少女になっちゃった!?」
 そして、翠華の隣にいた希奈もビックリしながらも目を輝かせる。
「っていうか、あれ魔法少女カナミの衣装じゃないですか!? やっぱり、かなみって思った通りあの衣装が似合いますね!?」
「え、ええ、そうね……」
 興奮気味の希奈に翠華は戸惑う。
(カナミさんのファンだって聞いてたけどここまでだなんて……これでカナミさんが本物の魔法少女だって知ったら……どうなっちゃうのかしらね……)
 翠華は一抹の不安を抱く。
「か、かなみさん、変身しちゃいましたよ」
「みりゃわかるわよ」
 みあは面倒そうに言う。
「まさか……本当に当日に出てくるなんてね……」
 みあも適当に言ったことが現実になるとは思わなかったので、ちょっと責任を感じてしまう。
「あるみ、どうするの?」
「どうもしないわよ。このまま劇を観ましょう」
 あるみは何の焦りも見せずに答える。
「鬼も魔法少女も劇の演出だと思われてるみたいだし」
「まったく呑気な観客よね……とはいってもあんなに弱い怪人じゃ怪我人も出ないか」
「そういうことぉ」
 涼美は呑気に言う。


 一方の舞台では、鬼が出たり、カナミが魔法少女に変身したりと台本に無いハプニングの連続で混乱にあった。特に舞台にいる桃太郎や浦島太郎、アラジンをやっている男子生徒は困惑していて、どうすることもできず立ち尽くしている。
「ど、どうなっているんだよ……!?」
 浦島太郎は言う。
「こんなこと台本に無いぞ!」
 アラジンは文句を言って、舞台袖へ退場しようとする。
「いいから続けて!」
 カナミ――魔法少女シンデレラは告げる。
「鬼は退治すればいいんだから!」
「た、退治するって言ったってよ!?」
 桃太郎が反論する。
「ははは、退治とは大きく出たな! まずは貴様からやってやる!!」
 鬼は大笑いして、シンデレラへ襲い掛かる。
(遅い、これなら簡単に避けられる)
 シンデレラはかろやかに避ける。
 「おお!」と歓声が上がる。
「こ、こいつ!!」
 鬼は力任せに棍棒をブンブン振るう。
 しかし、魔力によって強化された動体視力ならば止まっているのかと感じる程に遅く見えた。
 魔法少女と鬼の怪人の戦い。
 しかし、はた目から見ればこれは立派な劇の演出に見えた。観客も共演している桃太郎の一行達すらも。
「ガラスのくつは返してもらいます!」
 これはシンデレラの台詞だ。
 桃太郎達もこの台詞のおかげで今は劇の真っ最中だと錯覚することができた。
「鬼達め、退治してやる!」
「宝は俺がいただくぜ!」
 桃太郎もアラジンも台本にあった劇の台詞を言う。
「ひとまずこれで混乱は収まったね」
 マニィはカナミへ耳打ちする。
「それはいいんだけど、どうやって倒せばいいの?」
 舞台の上で神殺砲どころか魔法弾を撃つわけにはいかない。流れ弾が桃太郎達や観客達に当たってケガでもさせたら目も当てられない。
「それは君が考えるんだ」
 またもや無茶振りだった。
 しかし、カナミは瞬時にその方法を思いつく。
――仕込みステッキ。ステッキの刃を引き抜いて鬼の棍棒を斬り裂く。
「何!?」
 鬼は驚愕する。
 カナミはその勢いのままに鬼に斬りかかる。

カキィィィン!!

 金属音が鳴る。
 ステッキの刃を鬼の腕が受け止めた。
「いてえええッ!!」
 鬼はうなって、腕を振り回す。
 シンデレラは距離を保つ。
「よくもやりやがったな!」
 鬼はシンデレラに標的を絞って襲い掛かる。
「つ、強い!」
「とてもかなわない!」
 桃太郎とアラジンは口々に言う。実際はそれほど強くないけど、演技ではない鬼の本気のせいで勝てないかもしれないと思わせるだけの迫力は伝わってくる。
「ん、こんなところにランプが!?」
 ここでアラジンは劇の予定通り、魔法のランプを発見する。
「もしやこれは俺が探していた魔法のランプ! このランプをこすると、魔人が出てくるんだ!」
 そして、台本通りの台詞とともにアラジンはランプをこする。
 すると、ランプの魔人が登場してくる。
(よく出てくれたわね)
 カナミは感動さえ覚えた。
 こんな鬼の怪人が飛び込んできて、アドリブだらけだけどなんとか台本通りに帳尻を合わせようとしている滅茶苦茶な状況に台本通りにランプの魔人として登場してくれた同級生に。その度胸に。
「なんだ!?」
 鬼の怪人は驚く。偶然にもその台詞は台本通りだった。
 観客達は「とても演技に見えない」と思ったことだろう。
「わ、わわ、我はランプの魔人。お、おお、お前達の願いを、なな、なんでも、ひ、一つ叶えてやろう」
 ランプの魔人は震える声で台詞を紡ぐ。
 さすがにちゃんと台詞を言い切るだけの演技力までは備わっていなかったようだ。
 それでも、観客には何を言っているかある程度は理解できた。
「………………」
 一瞬、沈黙する。
 台本ならここでアラジンが「それだったら、俺達の願いは一つ。この鬼達を退治してくれ」と言う。それで魔人が鬼を倒すという筋書きになっている。
 だけど、それで本当に台本通りに鬼の怪人を倒せるかわからないし、願ってもいいのかもわからない。
「ど、どど、どうする? ど、どうすればいいんだよ??」
 アラジンは桃太郎に訊く。
「そ、そんなこと、言われても……!」
 桃太郎は当然の反応で返す。
「――鬼を倒します!」
 それはシンデレラの台詞だった。
 本来の台詞「この鬼達を退治してくれ」ではなく「(自分が)鬼を倒します」と言った。
「「「――!!」」」
 桃太郎達、ランプの魔人、観客達さえも驚愕しているうちに、シンデレラは斬りかかる。
「仕込みステッキ・ピンゾロの半!!」
 シンデレラは華麗に舞い、鬼の怪人を一刀両断する。
「ぎゃああああああああッ!?」
 耳をつんざくような断末魔が響き渡る。
 その断末魔のあとに鬼は真っ二つになって光になる。
「………………」
 その場が沈黙に満たされる
「さあ、これで鬼退治はできました!」
 シンデレラは勝どきの台詞を上げる。本来のアラジンの台詞だけど。
「う、うん、これでかぐや姫を助け出せるぞ!」
 桃太郎は台本通りの台詞を言う。
 これで劇は予定通りに進行する。カナミは心の中で安堵する。
「その声は桃太郎ですか? 来てくれたのですか?」
 かぐや姫は登場する。
「おお、かぐや姫! 無事だったのですね!」
 桃太郎の台詞だった。
 それは同時にカナミの心中の台詞でもあった。鬼の怪人に襲われたかもしれないのだから。
 それがこうして無事を確認できて、劇を再開できた。
 桃太郎とかぐや姫は手を取り合う。
「桃太郎、私を助けに鬼と戦ってくれたのですね」
 かぐや姫も台詞を紡ぐ。
 本当は「私が倒したんだけど」とシンデレラは喉元から出かかった。。だけど、これは劇なのだから、それを言ってはいけない。

「はい! 鬼は退治いたしました! これで帰ることができます。そして、俺と結婚してください!」
 桃太郎は求婚する。
 ここから先は最初に出来上がった台本とは違う展開だ。
「私と結婚……」
 かぐや姫は桃太郎から離れる。
「それはできません」
「かぐや姫、どうしてですか?」
「私は月からやってきました。もうすぐ月に帰らなければならないのです」
「そ、そんな!」
「さようなら、桃太郎。あなたに会えてよかったです」
 舞台は暗転する。
 そして、照明が開けた時、かぐや姫はその場にいなかった。
 竹取物語の原案通り、かぐや姫は月に帰った。
「かぐや姫! かぐや姫-!!」
 桃太郎は叫ぶ。
「桃太郎! 私にお任せください!」
「シンデレラ?」
 ここでシンデレラは助け船を出す。
「私の魔法でかばちゃの馬車を出します。さあ、これで追いかけてください」
 シンデレラは魔法でカボチャの馬車を出す。
 本来、魔法少女カナミにはそんな魔法は使えない。
 でも、この劇の上ではできる。まるで劇という魔法にかかったみたいで。
「ガラスのくつを取り返せたお礼です。どうぞお乗りください」
「ありがとうございます、シンデレラ」
 桃太郎をお礼を言って、舞台は暗転する。
 カボチャの馬車は生徒達がダンボールで手ぐくりしたものなのでさすがに乗るわけにはいかない。そういうわけで舞台を暗転させて乗ったつもりで話が進行する。
 暗闇になった舞台にスポットライトがあたる。
 そこは月の世界で、中心にかぐや姫が立っていた。
「かぐや姫!」
 桃太郎はその月の世界にやってくる。
「桃太郎! どうしてあなたが?」
「あなたをおいかけてきました。もう離しません、一緒になりましょう」
「ああ、桃太郎!」
 桃太郎とかぐや姫はお互いの手を取り合う。
 劇はこれで大団円で終了した。



 カナミは舞台の緞帳(どんちょう)が降りてから舞台袖から外に出て変身を解く。
「あ~つかれた~」
 そこでようやく一息つく。
「ご苦労様。無事終わってよかったね」
 マニィが言う。
「あれが無事っていえるのかしらね」
「少なくとも拍手喝采じゃないか」
 マニィにそう言われると、不思議と拍手の音が聞こえてくる。
 それは「無事終わったよ」「いい劇だった」と観客に言われているような気がする。
「……それはよかったわ」
 かなみは安堵の息をつく。
 鬼が途中で出て来てどうなることかと思ったけど、魔法少女に変身して無理矢理にだけど帳尻を合わせて倒せた。
「そういえば、貴子は?」
 鬼の親分役だった貴子が舞台に出てこなかった。
 何かあったのか。ひょっとしたら、鬼に襲われていないか。
「貴子……!」
 貴子が心配になって、舞台袖に戻る。
「あ、かなみ!」
 入るなり、貴子がすぐに呼んでくる。
「貴子、大丈夫だったの!?」
「大丈夫って?」
「ほら、舞台に出てこなかったから!」
「ああ、なんぁ鬼役を譲れていってきたおっちゃんだな。キビダンゴやるからって言ってきてな」
「鬼がキビダンゴって……」
 あの鬼の怪人、桃太郎に恨みを抱いていたみたいだけど桃太郎の道具を使うことに抵抗は無かったのだろうか。
「んで、キビダンゴ食ったら眠くなっちまって……気づいたら劇が終わってたんだけど、どうなったんだ?」
「……眠り薬だね」
 マニィが耳打ちする。
「劇は無事に終わったけど」
「みたいだな。なんかかなみにそっくりの魔法少女って奴が出てきて何とかしてくれたんだろ」
「私にそっくり?」
「あたしは観ていなかったけど理英とかがそう言ってたぞ」
 かなみは疑問で首を傾げる。



「ややこしいことになったわね……」
 事務所で、かなみ達は状況を整理していた。
 そして、とうとうかなみはぼやいた。
「正体がバレるよりいいじゃない」
 みあが言う。
「それはそうだけど……同級生には、あれは私とそっくりの娘にいつの間にか入れ替わってたってことになってて、希奈さんには、私が魔法少女カナミに早着替えをして演技をしたってことになってるのはね……」
「正体を隠蔽する魔法にかかる人とそうでない人の差でしょ」
 みあが言うかかる人というのは普通の観客や同級生達のこと、そうでない人というのは希奈のことを指す。
 魔法少女に変身するとかかる正体を隠蔽する魔法。それは大抵の人は魔法少女カナミの顔を見ても、それを結城かなみと認識することが出来ず、別の人と認識してしまう。
その為、魔法少女に変身したシンデレラを大抵の人はかなみが魔法少女カナミに変身した瞬間、
「一瞬のうちに別の人に入れ替わった」と認識してしまったのだ。
 かなみのクラスにどういう生徒がいて、どんな配役になっているか知らない観客は「すごい早変わり」だと感心した。
 ただ、さすがに同級生はあれは誰だったのか気にする人もいた。
理英なんかは直接聞いてくる始末だ。「親戚の子にどうしても出して欲しいと頼まれた」と適当にごまかした。今度訊かれたらごまかす自信は無い。
 一方の魔法少女カナミをかなみと認識できた希奈はというと劇が終わるとすぐに、かなみに駆け寄ってきた。
「かなみ! すごかったわ、魔法少女カナミになりきってたわ! それに殺陣もできるなんて!!」
 それはもう大興奮で、かなみは戸惑うばかりだった。
 他の人達と違って、変身したカナミのことを別人と認識していない。とはいえ、あれはあくまでかなみが劇の演出で魔法少女カナミの衣装に着替えて戦ったと認識している。希奈には魔法少女になり得る才能があることがわかった。
 もし劇じゃなかったら、事前にかなみが魔法少女カナミのファンだと嘘を信じていなかったら、確実にかなみは魔法少女カナミだとバレていた。
「いっそのこと、バレた方がよかったかもしれないわね」
 かなみは今回の劇の最中でも、終わった後も色々ありすぎてこんがらがって投げやりなことをぼやいてしまう。
「バレたら、あるみが激怒したんじゃない?」
 みあがそう言うと、かなみは青ざめる。
「そういえば社長って劇、観てた?」
「ええ、バッチリ」
 そう答えられた瞬間から汗がドバドバと出始める。
「どう――」

バタン!!

 「だった?」と訊こうとした瞬間、扉が開く音に遮られる。
 あるみの入室の音だ。
「あ、かなみちゃん、いたの?」
「ひい!?」
 思わず悲鳴を上げる。
「げ、げげ、劇めちゃくちゃになってしまったんですが!?」
「そうだった? よくまとまって楽しめたわよ」
「……え?」
 あるみの感想に、かなみはキョトンとする。
「鬼が出てきた時にはどうなることかと思ったけど、まあかなみちゃんならどうにかできると思ったしね」
「そ、そそそ、それは!? 社長がマニィを通じて助言してくれたから!!」
「でも実際にやったのは、かなみちゃんよ。いい劇だったわよ」
 あるみはかなみの肩をなでて言う。
「……ありがとうございます」



「社長って桃太郎好きなの?」
「うん、結構ね」
 帰り道で、かなみとマニィが言う。
 なんというか色々あったけど、あるみのあの一言で今回は良かったんじゃないかと思ってしまう。
「意外というか、そうでもないというか……」
「かなみからして、あるみが好きそうなものってなんなの?」
「うーん……」
 マニィからの問いかけに、かなみは頭を悩ませながらアパートの階段を上がる。
「なんていうか、こう……豪快なやつ!」
 かなみはそう答えて扉を開ける。
「おお、やっと帰ってきたか!!」
 アパートの部屋にいないはずの人がいた。いや、正確に言うと人ではなく、仙人だ。
「コウちゃん!?」
「まったくお主はいつも帰りが遅いのう。まあ儂は仙人じゃから一時間も一日もそう大した違いはないがな。お主を待っているとそれが一年ぐらい長く感じるぞ」
「なんで、元の世界に帰ったんじゃないの!?」
 かなみは疑問をぶつける。
 煌黄はヘヴルを元の世界に帰すためにこちらの世界にやってきた。そのヘヴルは、かなみ達が必死に戦い抜いたことで元の世界に送り返すことができた。
 だから、煌黄もこの世界にやってきた使命を果たしたことで元の世界に帰った。そうかなみは思っていた。
「元の世界っていうのは定かではないな。元々お主と同様に流れ着いただけじゃからな」
「そうなの!?」
「じゃから使命を果たしたあと、儂は居心地のいい、お主のいる世界にやってきたのじゃ!」
「……それって、この世界にお引越してきたってこと?」
「おお、そうじゃな。世界を跨いだ引っ越しじゃな。まあこの仙人身一つじゃから引っ越しというほど大仰でもないがな、ホホホ!」
「そうなの」
「そういうわけじゃから、これから末永くよろしく頼むぞ」
 煌黄は手を差し出す。
「うん、よろしくね!」
 かなみはそれを快く握り返す。
「それじゃ、引っ越し祝いしなくちゃね!」
「うむ。そういえばこの国では引っ越しそばという風習があるときいたのじゃが」
「引っ越しそば? ああ、だったら、そばを買いにいかないと。一緒に行く?」
「ホホホ、よかろう! それでは共にゆくか!」
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