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第88話 貧困! 四人の貧乏神と魔法少女 (Cパート)
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「さあ、ついたぜ」
ミドリがそう言って着いた先は何の変哲もないビルの中だった。
「このビルのどこに貧乏神がいるっていうのよ?」
「地下だ」
かなみが訊くとミドリは答える。
そういうわけで、かなみ達はエレベーターを使って地下一階へ降りる。
しかし、そこは空き部屋とトイレがあるくらいで貧乏神どころか人っ子一人いない。
「何も無いじゃない」
「確かにこの下から気配がするんだ、俺に間違いはねえ」
「この下? まだ下があるってこと?」
ミドリの物言いを、かなみはそう解釈する。しかし、エレベーターにあるのは地下一階までだ。
「どこかに地下二階へ行く秘密の階段かエレベーターがあるわね」
これまでそういう構造のビルに何度か入ったことがある。そういう時は決まってネガサイドが関わってきた。
探してみると地下二階への階段はすんなりと見つかった。空き部屋の一つにあったのだ。
「かなみちゃん、下に怪人がいるわよ」
「はい、わかってます。気配を感じます」
階段を一段降りていくごとに怪人の気配が強くなっていく。この先は間違いなくネガサイドの拠点だろう。
「……ということは、最後の貧乏神は……」
想いを巡らせているうちに、地下二階に着いた。
そこは、何かのスモークが漂う退廃的な空間で、一言で言うと大人のバーみたいだった。
「いらっしゃい」
カウンターでコップを磨いている店主らしき怪人が出迎える。毛玉の塊のような頭をした怪人の店主だ。
人間である千歳やかなみに驚くでもなく敵意を向けるわけでもなく、ただ客として扱っているように感じる。
「お客さん達は初顔だね、注文は?」
「あ、えっと……」
「結構よ。私達はお酒を飲みにきたわけではないので」
慌てるかなみに対して、千歳はきっぱりと言う。大人らしいとかなみは感心する。
「それじゃ、何の用で」
「人探しよ」
千歳はそう言って、周囲を見回す。
このバーの中には、店主の怪人以外にはカウンターで酒を静かに嗜んでいる怪人が一人、奥のビリヤードで遊んでいる怪人が三人いる。
カン!
その中の一人、鷹の頭をした怪人が玉を突く。
コンコンコン!
玉は勢いよく弾かれて転がっていくけど、ポケットには落ちなかった。
「あ~、またかよ! ついてねえ!!」
「それじゃ、俺がもらったぜ」
もう一人の怪人がニヤリと笑って、玉を突く。
カン! ポン!
玉はあっさりとポケットに落ちた。
それで勝敗は決したと一目で分かった。
「くそ~! なんでだよ!?」
鷹の頭をした怪人は頭を抱えて項垂れる。
「あいつですね」
まだ貧乏神の姿は見えていないけど、かなみは確信をもって言えた。
「ええ、あいつね」
千歳も同意した。
貧乏神達の返事を待たずに、かなみ達は怪人の方へ向かう。
「なんでだ。あそこで落ちてくれれば……ついてねえ、とことんついてねえ、これで二十連敗だ……! 最近はむしろついているはずの方だったのに……急に、負けまくるようになって……」
鷹の頭をした怪人が苦しみながら言う。
どことなくかなみは同類の雰囲気を感じ取ってしまう。
(貧乏神にとりつかれている時点で、まあ同類ね……)
嫌な同類だ。
「ちょっと、そこのあなた?」
千歳が声をかける。
「お、なんだ!? あ、お前ら人間じゃねえか!!」
「人間の客とは珍しいな!」
三人目の怪人が感心する。
「こんなところに何しに来たんだ?」
「用があるのはそこの鷹よ!」
千歳は鷹の怪人へ言う。
「お、タカナスに用か」
仲間の怪人が感心する。
鷹の頭をした怪人はタカナスという名前らしい。なんとなく縁起が良さそうな印象がある。
「この最高についてない俺に何の用だ!?」
「後ろ向きで偉そうね」
変な奴だとかなみは思った。
「こいつ、今ビリヤードで二十連敗してるところなんだ」
「余計なこと言うんじゃねえ!」
タカナスは仲間の怪人に文句を言う。
「あなたに貧乏神がとりついているのよ」
千歳が切り出す。
「なに、貧乏神!?」
タカナスは驚く。
「後頭部の体毛の中にいるぞ!」
かなみの肩に乗っかっているミドリが言う。
「おわ!? なんだ、そいつらは!?」
タカナスはさらに驚く。
「こいつらは貧乏神よ」
千歳は事情を説明する。
「なるほど、俺がついてないのは貧乏神のせいだったってわけか……って、そんな話信じられるか!?」
「いや確かにお前から貧乏神の気配がするぜ!」
否定するタカナスにミドリはきっぱりと言う。
「そんなわけねえだろ。大体、お前みたいなチビでもとりついてたらすぐ気づくぞ!」
「おんや、お前達久しぶりだな」
いきなり、タカナスの肩から赤色にさびついた小判が姿を現わす。いうまでもなく貧乏神だ。
「うんぎゃああああああッ!! な、なんだ、こいつはああああッ!?」
タカナスは大いに驚く。
「とりつかれてることに気づいてなかったのね」
千歳は納得する。
「人間だったら気づかねえのはわかるが、怪人が気づかねえとはな……運絞りとり放題だな」
ミドリは羨ましそうに言う。
「冗談じゃねえ、はなれやがれええええッ!!」
タカナスは貧乏神を振り払おうとする。しかし、貧乏神はしっかりしがみついているせいで離れない。
「くそ、なんで離れねえんだよ!?」
「貧乏神は自分の意志以外でとりつく先を変えることはありえない」
タカナスと貧乏神のやり取りにかなみは勝手に親近感を覚える。
「タカナス、お前も災難だったな、ハハハ!」
仲間の怪人に笑われる。
「うるせえ! なあお前ら、こいつをなんとかする方法知ってんじゃねえのか!?」
「そうね……」
千歳は手をポンと叩く。
「決めたわ、その貧乏神は赤いからアカよ!!」
「俺の話を聞けえええええええええええッ!!」
「あいつ、耳遠いんじゃないのか?」
「千歳さんはマイペースなのよ」
ミドリが訊き、かなみが苦笑して答える。
「おう、そうだ! お前!!」
突然タカナスはかなみの方を向く。
「お前にも貧乏神とりついてるんだろ、こいつの面倒もみろよ!」
「なんでそうなるのよ!? あんたこそこの貧乏神達の面倒みなさいよ!!」
「できるか!! 大体なんで三人もとりついてやがるんだ!?」
「私が知らないわよ! いい迷惑よ!?」
「今さら、一人増えても問題ないだろ!」
「あるわよ!」
「まあまあ」
千歳が仲裁に入る。
「貧乏神がとりつく先は貧乏神が決めるみたいだから、彼女に決めましょう」
彼女とはアカのことだ。
「この場所、気に入ってるんだけどね」
アカは離れようとしない。
「いっそこのままとりついてもらったら?」
「冗談じゃねえぞ! 貧乏神にとりつかれたらお先真っ暗だ!! あいつはもう三人にとりつかれてるんだから一人増えたっていいだろ!」
「……やっぱり聞き捨てならないわね」
かなみからしてみたら三人とも引き取ってもらいたいものだけど。
「それだったら一つ勝負してみねえか?」
仲間の怪人が提案する。
「勝負?」
「貧乏神がとりついている奴同士の勝負なんて滅多に見れる機会がねえからな。タカナスとそこの嬢ちゃんとで勝負して取りつき先を決めるっていうのはどうだ?」
「面白そうね」
千歳は乗り気になる。
「千歳さん、私そんな勝負なんて……」
「いいじゃない。貧乏神がとりついてたってかなみちゃんなら負けないわよ」
「勝負の方法にもよります」
「だったら、下の闘技場を使いな」
店主の怪人がやってきて提案する。
「お、そいつはいいな!!」
仲間達は盛り上がってくる。
「下の闘技場?」
店主の怪人が壁のスイッチを押すと、床が動いて階段が出現する。
「……そういう仕掛けなのね」
驚くというよりも呆れてしまうかなみだった。
そしてその下の階には店主が言ったようにこじんまりとしているものの闘技場があった。
「おし、ここでやってやるか!」
タカナスはやる気満々だった。
怪人として闘争本能がそうさせるのか。血気盛んである。
「さあ、かなみちゃん。頑張って!」
千歳もやる気満々だった。やるのは、かなみなんだけど。
「なんで、私が……」
「大丈夫よ、かなみちゃんなら勝てるわ」
「他人事だと思って……第一、千歳さんが糸で引っぺがせば万事解決じゃないですか!」
これまでの二人はそうしてきたのに、どうしてしないのかかなみは疑問に思った。
「怪人にとりついてるから様子見してたのよ」
「本当にそうなんですか?」
かなみは疑いの眼差しを向ける。
「これに勝ったら、ボーナスの取り分はかなみちゃんが九割でいいわよ」
「本当ですか!? って、そういえばこの仕事のボーナスっていくらなんですか?」
肝心なことを聞いていなかったことに今更気づくかなみだった。
「あるみは五十万って言ってたわね」
「五十万! その九割ということは四十五万!」
思っていた以上に高額案件だった。
「よおし、それじゃ頑張りますよ!!」
かなみはこれまでの不満を吹っ飛んで大いにやる気を出す。
そういうわけで、何の変哲もないビルの地下二階にあった闘技場でかなみと怪人タカナスの戦いが始まる。
ギャラリーは千歳と店主の怪人、仲間の怪人二人であった。
「マジカルワーク!」
かなみはコインを投げ上げて、金色の光が降り注がれる。
「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!」
お馴染みの口上とともに黄色の魔法少女が闘技場に降り立つ。頭と両肩に合わせて三人の貧乏神を引き連れて。
「おお!? お前が噂に名高い魔法少女カナミだったのか!!」
タカナスは驚く。
「どんな噂か、あえて聞かないけど……」
というか、聞きたくないというのが本音だ。
「おもしれえ! お前を倒せば俺の名がうれて昇進も有り得るってことだ!!」
タカナスは上機嫌で言う。
「あんた、妙に前向きね」
同じ貧乏神にとりつかれているというのに、とカナミは感心する。
「頭は前を向いているからな!」
タカナスはビリヤードのキューを持ち出して突いてくる。
「ながッ!?」
そのリーチはカナミが思っていたよりも長く、キューの先端が顔に届く。
「く!」
カナミはこれをかわして距離をとる。
バァン!
魔法弾を撃ち込む。
「フン!」
タカナスはこれをキューで打ち返す。
「うわッ!?」
魔法弾を撃ち返されるとは思わなかったので、カナミは面を食らう。しかし、ちゃんとかわす。
「うわ、危なかった!」
「こらー! 打ち返されるようなやわな弾撃ってるんじゃねえ!!」
「しかし、よくかわしましたね」
ミドリ、クロ、シロの三者三様の言いように、カナミは煩わしさを感じる。
「かぁー、うるさい!!」
カナミは振り落とそうとするけど、貧乏神達はしっかりしがみついてて、魔法少女の力を使っても離れない。
「千歳さん、どうやってこの貧乏神を引き離したのよ!?」
「経験と勘よ」
千歳は参考にならない助言を送る。
カン!
玉を突く音がする。
「え?」
気づいた時にはもう目の前に玉が迫っていた。
「あた!?」
玉がカナミの頭に命中する。
「いた……なに、いまの!?」
「へへ、俺が突いたんだ」
タカナスはキューとビリヤードの玉を見せびらかせて得意顔になる。
「そういう魔法ね!」
「へへ、どこへ飛ぶかわからねえナインボール戦法だぜ!!」
「名前まで意味わかんない!?」
カナミはビリヤードのことをよく知らない。
「もう一発だ!」
カン!
キューから突かれたボールが勢いよくカナミへ向かってくる。
しかし、かわせない速度ではなかった。
ヒョイ、とかるくかわしてみせる。
ポン!
しかし、かわしたはずのボールがカナミの後頭部を直撃する。
「あいた!? 何!?」
「ボールが後ろから飛んできた!」
ミドリが言う。
「後ろ……?」
カナミが振り向くと、飛んでくるボールが見える。
「わ!?」
カナミはこれをかわす。
「打ったボールを弾き飛ばす魔法ね!」
「そうとも!」
カナミの分析に対して、タカナスはまっとうに答える。
「どこに飛ぶかわからねえって言っただろ! 俺の打ち出したボールの行く先はボールに聞けってな! これが俺のナインボール戦法だ!!」
「ただ大雑把なだけじゃないの!?」
カナミはツッコミを入れる。
「ぬかせ! 追加ボールだ!!」
タカナスはさらにボールを突いて、はじき出される。
「あ、わかった!」
千歳が手をポンと叩く。
「わかったって何が?」
隣にいた仲間の怪人が訊く。
「今はじき出された玉の数が九個あるわ!」
「お、そうだな。よく数えられたな」
「たしか九は英語でナイン、玉が英語でボール。九個の玉だからナインボールなのね!」
千歳は目を輝かせて言う。
それこそ初めて英語を理解できた幼児のようなはしゃぎぶりだ。
「あ、ああ……多分違うと思うぞ」
怪人は言いづらそうに答えるけど、多分聞こえてない。
しかし、九個のボールを高速で打ち出されているのを完全に避けきるのは難しい。それが不規則に跳ね返ってくるのだから厄介だった。
カンカンカンカン!
「あいたたたたた!?」
ボールがカナミの身体のあちこちに当たる。
「あた!?」
その中の一つのボールが肩に乗ったミドリに当たる。
「気をつけろ! 俺にまで当たったじゃねえか!」
「そんなこと言ったってね! 早いし、跳ね返るしで避けきれないのよ!! あた!?」
文句を言い返しているうちにまたボールが当たる。
「ええい、こうなったら!! ジャンバリック・ファミリア!!」
カナミはステッキから鈴を飛ばす。
バァン! カン! バァン! カン!
鈴から放たれる魔法弾でボールが勢いよく弾かれる。
そして、何かにあたったかのようにボールが跳ね返ってくる。
「あた!?」
そのボールが再びカナミに飛んで頭に当たる。
「弾き返したのにまた返ってきた」
「ついてないな、嬢ちゃん」
ミドリは偉そうに言う。
「ついてないってそういう問題なの? だったら!!」
カナミはさらに鈴から魔法弾を飛ばして、ボールを弾き飛ばす。
バァン! カン! バァン! カン!
ボールを弾いて、跳ね返ってきて、それをまた弾く。
それを九つ同時に繰り広げていく。
「あいた!?」
気を抜くと自分にボールがぶち当たる。
「あいつ、本当はこのボールをコントロールしてるんじゃないの?」
そうとしか思えないぐらい、カナミにばかり向かってくる。
「いや、そんな能力は俺にない!」
タカナスは胸を張って言う。
「威張って言うことじゃないでしょ!」
「ボールはランダムに壁のないところも弾いて跳ね返っていく。どこに跳ね返るかは神のみぞ知る!」
「ようは運任せってことね!」
「そういうことだ! 運が悪い奴に当たり続ける仕組みだ、これが俺のナインボール戦法だ!!」
「だから威張って言うほどのもんじゃないでしょ!!」
カナミは威勢よく言い返す。
「フフン、貧乏神三人にとりつかれてるお前に勝ち目はないぜ!」
「そ、そっちだって貧乏神にとりつかれてるでしょ!」
「一対三じゃ勝負にならないぜ!」
「く~! やっぱりあんた達、離れなさいよ!」
カナミがそう言っても、貧乏神は三人とも離れようとしない。
「そんなこと言っても嬢ちゃんには絞り取るだけの運がねえからな」
「俺達が一人いようが三人いようが関係ねえ!」
クロが熱く言う。
「むしろ、運を絞り取られ続けてる彼の方が不利のはずです」
シロが冷静に言う。
「本当……?」
「とはいっても、嬢ちゃんはゼロだから大した差じゃないかもな、ハハハ!」
ミドリが笑って言う。
「あ~、それじゃ私の方が不利じゃない!」
カナミは理不尽さを感じる。
「ま、でも、いつものことじゃないか」
マニィが言う。
「君はいつもそういう不運で不利な戦いばかりしてきたじゃないか」
「ろくでもない戦いばかりね」
カナミはため息をつく。
「ま、でもそれが私か! せい!」
カナミは勢いよく魔法弾をタカナスに飛ばす。
「ブフッ!?」
タカナスは文字通り面食らう。
「ボールを何発くらってもあんたに魔法弾を食らわせて倒せばいいだけの話じゃない!」
「むう、そこに気づくとは……! さすがは悪名高い魔法少女カナミ!」
「って、悪名って何よ!? 噂じゃなかったの!?」
「噂も悪名も同じだろ!」
「違うわよ!!」
カナミはムキになって否定する。
「もうなんだっていいだろが! くらえ、ナインボール!!」
タカナスはキューでボールを突いて、九個のボールをはじき出す。
「ジャンバリック・ファミリア!」
鈴でそのボール達を弾き飛ばす。
バァン! カン! バァン! カン!
ボールはやはりカナミにばかり飛んでくる。
(なんだか、あのボールは受けたらまずい気がする)
カナミのカンがそう告げている。
カン!
そう思っていた矢先、魔法弾で弾ききれなかったボールがカナミへ飛んでくる。
「あ、しまった!」
バァァァァン!
ボールがカナミに当たった途端、爆発する。
「くう、うぅ……!」
痛みと熱さでうずくまる。
「ば、爆発するボール!」
「そうとも! こいつをくらっちゃタダじゃすまないだろ! それもう一発!!」
カナミが爆発のダメージに気をとられているうちにもう一個ボールが飛んでくる。
「この勝負もらったぜ!」
「――こんの!」
カキィィィィィン!!
カナミはステッキを振ってボールを打ち返す。
「なッ!?」
バァァァァン!
打ち返したボールは見事タカナスに命中した。
「ギャァァァァ!? なんてことしやがるんだ!?」
タカナスはダメージを負いながらも雄叫びを上げる。
「あんただってボール突いてるじゃない」
「突くのと打ち返すのとじゃ全然違うだろおおおッ!」
「いや、一緒でしょ。えいッ!」
カナミはさらにもう一発ボールを打ち返す。
バァァァァン!
見事タカナスに命中した。
「ギャァァァァ!!」
タカナスは悲鳴を上げる。
「お見事!」
「百発百中じゃねえか!!」
「こうなったら運とかもう関係無いですね」
ミドリ、クロ、シロはそれぞれ称賛する。
「くそ、まさかボールを打ち返すなんて非常識もいいところだぜ!」
「いや、爆発させる方が非常識でしょ」
「さすが、悪名名高い魔法少女カナミだぜ! こうなったら!!」
「……こうなったら?」
「ありったけの玉を撃ち込んでやるぜ!」
タカナスは爆弾付きのボールを宙に出す。その数十五個。
「それじゃ、ナインじゃないわね」
千歳は言う。
カン!
ボールは突き出されて弾け飛ぶ。
バァァァァン!!
ボールがタカナスに命中して爆発する。
「ギャァァァァァッ!!」
今度はカナミが打ち返すまでもなく、たまたま弾け飛んだボールがタカナスに命中した。
「ば、バカな……! あっちには三人の貧乏神がいるんだぞ!! 一人の俺の方になんで当たるんだ!?」
「あ~これは流れね」
アカは言う。
「今の魔法少女の力技で流れが彼女に向いたのよ。こうなったらもう貧乏神の運の絞り取りも関係無いわ」
「はあ、流れ!?」
「わからないからあんたは負けるのよ」
「な、何を言ってるんだ!?」
タカナスが混乱しているうちに、ボールは次々に飛んでくる。
バァァァァァァァァァァァァン!!
十個以上のボールが一斉に爆発して、タカナスは悲鳴を上げることさえできなかった。
「神殺砲!」
カナミは好機とみてステッキを砲台へと変化させる。
「ボーナスキャノン!!」
必殺の砲弾を撃ち込む。
バァァァァァァァァァァァァン!!
タカナスは砲弾に飲み込まれて爆散する。
「あいつ、負けたな」
「ああ、ものの見事にな」
仲間の怪人二人はしたり顔で話す。
「やっぱり貧乏神に取りつかれた奴の末路は悲惨だな」
「しかし、魔法少女カナミは三人の貧乏神を従えていた……さすがだぜ」
怪人はゴクリと唾をのむ。
「今日はこのぐらいにして帰るか」
「ああ、こっちの運まで絞られちゃたまらねえ」
そう言って仲間の怪人二人は帰っていきます。
「かなみちゃんもすっかり貧乏神ね」
千歳は楽しそうに言う。
その後、かなみと千歳は貧乏神のアカを回収する。
アカは神殺砲が直撃する前に避難していたので無事だった。
「あなたのことは興味深いからとりついてあげるわ」
などと上から目線で言われて、勝手にかなみにとりついた。
かくして、四人の貧乏神がかなみにとりつくことになった。
「……これはなんとも奇怪な光景じゃな」
その様子を見物しに来た煌黄は唖然とする。
「仙人の目から見てもこれは珍しいの?」
千歳は煌黄に訊く。
「そうじゃな……滅多に見られない光景じゃが、まあかなみじゃしな」
「なんでそういう言い方なの?」
かなみはため息気味に言う。
「っていうか、この四人の貧乏神をなんとかしてよ!」
「別に面白い光景じゃからよいではないか。人間でそこまで貧乏神を飼いならせるのはそうそうおらんぞ」
煌黄は楽しそうに言う。
「そうじゃ、いっそそのまま仙人になったらどうじゃ?」
「冗談じゃないわよ!」
「そうじゃな、ホホホ! 貧乏神じゃったら、もうそれは神じゃ! 仙人の儂よりも位は上じゃな、ホホホ!」
「笑い事じゃないわよ!」
仙人とか神とかその辺りの位はよくわからない。というか、貧乏神は妖精に近いから神じゃなかったような。
「しかし、ここは居心地悪いな」
「運が無いからな、メシが一切出ないみたいな状態だぜ」
「このままでは私達は餓死してしまいます」
「そうなったら、かなみは人殺しならぬ神殺し、いいえ貧乏神殺しね」
四人の貧乏神は好き放題言ってくる。メチャクチャやかましい。
「社長、早く引き取り先に渡してくださいよ」
かなみは懇願するように言う。
「それがまたごねられてね」
「ごねたのは社長じゃないんですか?」
「直前に出ししぶってきてね。かなみちゃんのボーナス減額ね、こりゃ」
「思いっきりごねてください!」
かなみは力強く言う。
「社長がごねれば、金額十倍ですから!」
「おだてても何も出ないわよ」
「いやいや、ボーナスは出してください!」
「引っかからなかったか」
「でも、貧乏神の引き取り先ってどんなところなんですか?」
「かなみちゃんが知らなくていいところよ」
「あ、これ以上聞きません」
あるみがそう言うなら、自分は関わってはいけないことなんだろうと判断した。
「マフィアが敵対組織のボスに送り付けて破産に追い込む計画に使わされるそうよ」
「聞きませんって言いましたよね!? って、貧乏神ってそういう風に使うんですか?!」
「まあ、そうね。これがまた結構引く手あまたなのよ、そういう組織から」
「そういう組織!?」
かなみは関わりたくないなと本心から思ってしまう。
「まあそういう組織っていうのは太い運持ってるもんだからな」
「数年分は困らない食料分の運にはありつけるということです」
ミドリとシロは楽しそうに言う。
「そういうわけでもうあんたには興味無いわね」
アカは素っ気なく言う。
「あ、それじゃ!」
あるみはかなみに取りついている貧乏神達を手に取って、ダンボールを押し込む。
「え?」
あっという間の出来事だったので、後から驚き追いついてくる。
「ええぇぇぇぇッ!?」
「「「「なぁぁぁぁぁぁッ!?」」」」
貧乏神達も驚愕している。
「社長、掴めたんですか!?」
「これぐらい掴めるでしょ!」
「私がどんなにやっても払えなかったのに……」
そういえば千歳も糸で捕まえていたと思い出す。そのあたりは技術というか経験の差かもしれない。
「っていうか、最初からそうすればよかったじゃないですか!?」
「まあ、かなみちゃんに経験積ませるためよ。面白そうだったし」
「あ、ははは……」
前半が口実で、後半が本音のように聞こえてならない。
しかし、あるみにそう言われると反論する気さえ起きない。
「おいおい、かなみ!」
ミドリが顔を出して呼んでくる。
「ん、何?」
「また会えそうな気がするが、最後にこれだけは言っておきたいことがあるんだ」
どうやらお別れの挨拶のようだ。若干不吉な感じもするけど。
「生きてりゃそのうちいいことあるぜ!」
「う、うん……ありがとう……」
かなみは微妙な表情でお礼を言った。
ミドリがそう言って着いた先は何の変哲もないビルの中だった。
「このビルのどこに貧乏神がいるっていうのよ?」
「地下だ」
かなみが訊くとミドリは答える。
そういうわけで、かなみ達はエレベーターを使って地下一階へ降りる。
しかし、そこは空き部屋とトイレがあるくらいで貧乏神どころか人っ子一人いない。
「何も無いじゃない」
「確かにこの下から気配がするんだ、俺に間違いはねえ」
「この下? まだ下があるってこと?」
ミドリの物言いを、かなみはそう解釈する。しかし、エレベーターにあるのは地下一階までだ。
「どこかに地下二階へ行く秘密の階段かエレベーターがあるわね」
これまでそういう構造のビルに何度か入ったことがある。そういう時は決まってネガサイドが関わってきた。
探してみると地下二階への階段はすんなりと見つかった。空き部屋の一つにあったのだ。
「かなみちゃん、下に怪人がいるわよ」
「はい、わかってます。気配を感じます」
階段を一段降りていくごとに怪人の気配が強くなっていく。この先は間違いなくネガサイドの拠点だろう。
「……ということは、最後の貧乏神は……」
想いを巡らせているうちに、地下二階に着いた。
そこは、何かのスモークが漂う退廃的な空間で、一言で言うと大人のバーみたいだった。
「いらっしゃい」
カウンターでコップを磨いている店主らしき怪人が出迎える。毛玉の塊のような頭をした怪人の店主だ。
人間である千歳やかなみに驚くでもなく敵意を向けるわけでもなく、ただ客として扱っているように感じる。
「お客さん達は初顔だね、注文は?」
「あ、えっと……」
「結構よ。私達はお酒を飲みにきたわけではないので」
慌てるかなみに対して、千歳はきっぱりと言う。大人らしいとかなみは感心する。
「それじゃ、何の用で」
「人探しよ」
千歳はそう言って、周囲を見回す。
このバーの中には、店主の怪人以外にはカウンターで酒を静かに嗜んでいる怪人が一人、奥のビリヤードで遊んでいる怪人が三人いる。
カン!
その中の一人、鷹の頭をした怪人が玉を突く。
コンコンコン!
玉は勢いよく弾かれて転がっていくけど、ポケットには落ちなかった。
「あ~、またかよ! ついてねえ!!」
「それじゃ、俺がもらったぜ」
もう一人の怪人がニヤリと笑って、玉を突く。
カン! ポン!
玉はあっさりとポケットに落ちた。
それで勝敗は決したと一目で分かった。
「くそ~! なんでだよ!?」
鷹の頭をした怪人は頭を抱えて項垂れる。
「あいつですね」
まだ貧乏神の姿は見えていないけど、かなみは確信をもって言えた。
「ええ、あいつね」
千歳も同意した。
貧乏神達の返事を待たずに、かなみ達は怪人の方へ向かう。
「なんでだ。あそこで落ちてくれれば……ついてねえ、とことんついてねえ、これで二十連敗だ……! 最近はむしろついているはずの方だったのに……急に、負けまくるようになって……」
鷹の頭をした怪人が苦しみながら言う。
どことなくかなみは同類の雰囲気を感じ取ってしまう。
(貧乏神にとりつかれている時点で、まあ同類ね……)
嫌な同類だ。
「ちょっと、そこのあなた?」
千歳が声をかける。
「お、なんだ!? あ、お前ら人間じゃねえか!!」
「人間の客とは珍しいな!」
三人目の怪人が感心する。
「こんなところに何しに来たんだ?」
「用があるのはそこの鷹よ!」
千歳は鷹の怪人へ言う。
「お、タカナスに用か」
仲間の怪人が感心する。
鷹の頭をした怪人はタカナスという名前らしい。なんとなく縁起が良さそうな印象がある。
「この最高についてない俺に何の用だ!?」
「後ろ向きで偉そうね」
変な奴だとかなみは思った。
「こいつ、今ビリヤードで二十連敗してるところなんだ」
「余計なこと言うんじゃねえ!」
タカナスは仲間の怪人に文句を言う。
「あなたに貧乏神がとりついているのよ」
千歳が切り出す。
「なに、貧乏神!?」
タカナスは驚く。
「後頭部の体毛の中にいるぞ!」
かなみの肩に乗っかっているミドリが言う。
「おわ!? なんだ、そいつらは!?」
タカナスはさらに驚く。
「こいつらは貧乏神よ」
千歳は事情を説明する。
「なるほど、俺がついてないのは貧乏神のせいだったってわけか……って、そんな話信じられるか!?」
「いや確かにお前から貧乏神の気配がするぜ!」
否定するタカナスにミドリはきっぱりと言う。
「そんなわけねえだろ。大体、お前みたいなチビでもとりついてたらすぐ気づくぞ!」
「おんや、お前達久しぶりだな」
いきなり、タカナスの肩から赤色にさびついた小判が姿を現わす。いうまでもなく貧乏神だ。
「うんぎゃああああああッ!! な、なんだ、こいつはああああッ!?」
タカナスは大いに驚く。
「とりつかれてることに気づいてなかったのね」
千歳は納得する。
「人間だったら気づかねえのはわかるが、怪人が気づかねえとはな……運絞りとり放題だな」
ミドリは羨ましそうに言う。
「冗談じゃねえ、はなれやがれええええッ!!」
タカナスは貧乏神を振り払おうとする。しかし、貧乏神はしっかりしがみついているせいで離れない。
「くそ、なんで離れねえんだよ!?」
「貧乏神は自分の意志以外でとりつく先を変えることはありえない」
タカナスと貧乏神のやり取りにかなみは勝手に親近感を覚える。
「タカナス、お前も災難だったな、ハハハ!」
仲間の怪人に笑われる。
「うるせえ! なあお前ら、こいつをなんとかする方法知ってんじゃねえのか!?」
「そうね……」
千歳は手をポンと叩く。
「決めたわ、その貧乏神は赤いからアカよ!!」
「俺の話を聞けえええええええええええッ!!」
「あいつ、耳遠いんじゃないのか?」
「千歳さんはマイペースなのよ」
ミドリが訊き、かなみが苦笑して答える。
「おう、そうだ! お前!!」
突然タカナスはかなみの方を向く。
「お前にも貧乏神とりついてるんだろ、こいつの面倒もみろよ!」
「なんでそうなるのよ!? あんたこそこの貧乏神達の面倒みなさいよ!!」
「できるか!! 大体なんで三人もとりついてやがるんだ!?」
「私が知らないわよ! いい迷惑よ!?」
「今さら、一人増えても問題ないだろ!」
「あるわよ!」
「まあまあ」
千歳が仲裁に入る。
「貧乏神がとりつく先は貧乏神が決めるみたいだから、彼女に決めましょう」
彼女とはアカのことだ。
「この場所、気に入ってるんだけどね」
アカは離れようとしない。
「いっそこのままとりついてもらったら?」
「冗談じゃねえぞ! 貧乏神にとりつかれたらお先真っ暗だ!! あいつはもう三人にとりつかれてるんだから一人増えたっていいだろ!」
「……やっぱり聞き捨てならないわね」
かなみからしてみたら三人とも引き取ってもらいたいものだけど。
「それだったら一つ勝負してみねえか?」
仲間の怪人が提案する。
「勝負?」
「貧乏神がとりついている奴同士の勝負なんて滅多に見れる機会がねえからな。タカナスとそこの嬢ちゃんとで勝負して取りつき先を決めるっていうのはどうだ?」
「面白そうね」
千歳は乗り気になる。
「千歳さん、私そんな勝負なんて……」
「いいじゃない。貧乏神がとりついてたってかなみちゃんなら負けないわよ」
「勝負の方法にもよります」
「だったら、下の闘技場を使いな」
店主の怪人がやってきて提案する。
「お、そいつはいいな!!」
仲間達は盛り上がってくる。
「下の闘技場?」
店主の怪人が壁のスイッチを押すと、床が動いて階段が出現する。
「……そういう仕掛けなのね」
驚くというよりも呆れてしまうかなみだった。
そしてその下の階には店主が言ったようにこじんまりとしているものの闘技場があった。
「おし、ここでやってやるか!」
タカナスはやる気満々だった。
怪人として闘争本能がそうさせるのか。血気盛んである。
「さあ、かなみちゃん。頑張って!」
千歳もやる気満々だった。やるのは、かなみなんだけど。
「なんで、私が……」
「大丈夫よ、かなみちゃんなら勝てるわ」
「他人事だと思って……第一、千歳さんが糸で引っぺがせば万事解決じゃないですか!」
これまでの二人はそうしてきたのに、どうしてしないのかかなみは疑問に思った。
「怪人にとりついてるから様子見してたのよ」
「本当にそうなんですか?」
かなみは疑いの眼差しを向ける。
「これに勝ったら、ボーナスの取り分はかなみちゃんが九割でいいわよ」
「本当ですか!? って、そういえばこの仕事のボーナスっていくらなんですか?」
肝心なことを聞いていなかったことに今更気づくかなみだった。
「あるみは五十万って言ってたわね」
「五十万! その九割ということは四十五万!」
思っていた以上に高額案件だった。
「よおし、それじゃ頑張りますよ!!」
かなみはこれまでの不満を吹っ飛んで大いにやる気を出す。
そういうわけで、何の変哲もないビルの地下二階にあった闘技場でかなみと怪人タカナスの戦いが始まる。
ギャラリーは千歳と店主の怪人、仲間の怪人二人であった。
「マジカルワーク!」
かなみはコインを投げ上げて、金色の光が降り注がれる。
「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!」
お馴染みの口上とともに黄色の魔法少女が闘技場に降り立つ。頭と両肩に合わせて三人の貧乏神を引き連れて。
「おお!? お前が噂に名高い魔法少女カナミだったのか!!」
タカナスは驚く。
「どんな噂か、あえて聞かないけど……」
というか、聞きたくないというのが本音だ。
「おもしれえ! お前を倒せば俺の名がうれて昇進も有り得るってことだ!!」
タカナスは上機嫌で言う。
「あんた、妙に前向きね」
同じ貧乏神にとりつかれているというのに、とカナミは感心する。
「頭は前を向いているからな!」
タカナスはビリヤードのキューを持ち出して突いてくる。
「ながッ!?」
そのリーチはカナミが思っていたよりも長く、キューの先端が顔に届く。
「く!」
カナミはこれをかわして距離をとる。
バァン!
魔法弾を撃ち込む。
「フン!」
タカナスはこれをキューで打ち返す。
「うわッ!?」
魔法弾を撃ち返されるとは思わなかったので、カナミは面を食らう。しかし、ちゃんとかわす。
「うわ、危なかった!」
「こらー! 打ち返されるようなやわな弾撃ってるんじゃねえ!!」
「しかし、よくかわしましたね」
ミドリ、クロ、シロの三者三様の言いように、カナミは煩わしさを感じる。
「かぁー、うるさい!!」
カナミは振り落とそうとするけど、貧乏神達はしっかりしがみついてて、魔法少女の力を使っても離れない。
「千歳さん、どうやってこの貧乏神を引き離したのよ!?」
「経験と勘よ」
千歳は参考にならない助言を送る。
カン!
玉を突く音がする。
「え?」
気づいた時にはもう目の前に玉が迫っていた。
「あた!?」
玉がカナミの頭に命中する。
「いた……なに、いまの!?」
「へへ、俺が突いたんだ」
タカナスはキューとビリヤードの玉を見せびらかせて得意顔になる。
「そういう魔法ね!」
「へへ、どこへ飛ぶかわからねえナインボール戦法だぜ!!」
「名前まで意味わかんない!?」
カナミはビリヤードのことをよく知らない。
「もう一発だ!」
カン!
キューから突かれたボールが勢いよくカナミへ向かってくる。
しかし、かわせない速度ではなかった。
ヒョイ、とかるくかわしてみせる。
ポン!
しかし、かわしたはずのボールがカナミの後頭部を直撃する。
「あいた!? 何!?」
「ボールが後ろから飛んできた!」
ミドリが言う。
「後ろ……?」
カナミが振り向くと、飛んでくるボールが見える。
「わ!?」
カナミはこれをかわす。
「打ったボールを弾き飛ばす魔法ね!」
「そうとも!」
カナミの分析に対して、タカナスはまっとうに答える。
「どこに飛ぶかわからねえって言っただろ! 俺の打ち出したボールの行く先はボールに聞けってな! これが俺のナインボール戦法だ!!」
「ただ大雑把なだけじゃないの!?」
カナミはツッコミを入れる。
「ぬかせ! 追加ボールだ!!」
タカナスはさらにボールを突いて、はじき出される。
「あ、わかった!」
千歳が手をポンと叩く。
「わかったって何が?」
隣にいた仲間の怪人が訊く。
「今はじき出された玉の数が九個あるわ!」
「お、そうだな。よく数えられたな」
「たしか九は英語でナイン、玉が英語でボール。九個の玉だからナインボールなのね!」
千歳は目を輝かせて言う。
それこそ初めて英語を理解できた幼児のようなはしゃぎぶりだ。
「あ、ああ……多分違うと思うぞ」
怪人は言いづらそうに答えるけど、多分聞こえてない。
しかし、九個のボールを高速で打ち出されているのを完全に避けきるのは難しい。それが不規則に跳ね返ってくるのだから厄介だった。
カンカンカンカン!
「あいたたたたた!?」
ボールがカナミの身体のあちこちに当たる。
「あた!?」
その中の一つのボールが肩に乗ったミドリに当たる。
「気をつけろ! 俺にまで当たったじゃねえか!」
「そんなこと言ったってね! 早いし、跳ね返るしで避けきれないのよ!! あた!?」
文句を言い返しているうちにまたボールが当たる。
「ええい、こうなったら!! ジャンバリック・ファミリア!!」
カナミはステッキから鈴を飛ばす。
バァン! カン! バァン! カン!
鈴から放たれる魔法弾でボールが勢いよく弾かれる。
そして、何かにあたったかのようにボールが跳ね返ってくる。
「あた!?」
そのボールが再びカナミに飛んで頭に当たる。
「弾き返したのにまた返ってきた」
「ついてないな、嬢ちゃん」
ミドリは偉そうに言う。
「ついてないってそういう問題なの? だったら!!」
カナミはさらに鈴から魔法弾を飛ばして、ボールを弾き飛ばす。
バァン! カン! バァン! カン!
ボールを弾いて、跳ね返ってきて、それをまた弾く。
それを九つ同時に繰り広げていく。
「あいた!?」
気を抜くと自分にボールがぶち当たる。
「あいつ、本当はこのボールをコントロールしてるんじゃないの?」
そうとしか思えないぐらい、カナミにばかり向かってくる。
「いや、そんな能力は俺にない!」
タカナスは胸を張って言う。
「威張って言うことじゃないでしょ!」
「ボールはランダムに壁のないところも弾いて跳ね返っていく。どこに跳ね返るかは神のみぞ知る!」
「ようは運任せってことね!」
「そういうことだ! 運が悪い奴に当たり続ける仕組みだ、これが俺のナインボール戦法だ!!」
「だから威張って言うほどのもんじゃないでしょ!!」
カナミは威勢よく言い返す。
「フフン、貧乏神三人にとりつかれてるお前に勝ち目はないぜ!」
「そ、そっちだって貧乏神にとりつかれてるでしょ!」
「一対三じゃ勝負にならないぜ!」
「く~! やっぱりあんた達、離れなさいよ!」
カナミがそう言っても、貧乏神は三人とも離れようとしない。
「そんなこと言っても嬢ちゃんには絞り取るだけの運がねえからな」
「俺達が一人いようが三人いようが関係ねえ!」
クロが熱く言う。
「むしろ、運を絞り取られ続けてる彼の方が不利のはずです」
シロが冷静に言う。
「本当……?」
「とはいっても、嬢ちゃんはゼロだから大した差じゃないかもな、ハハハ!」
ミドリが笑って言う。
「あ~、それじゃ私の方が不利じゃない!」
カナミは理不尽さを感じる。
「ま、でも、いつものことじゃないか」
マニィが言う。
「君はいつもそういう不運で不利な戦いばかりしてきたじゃないか」
「ろくでもない戦いばかりね」
カナミはため息をつく。
「ま、でもそれが私か! せい!」
カナミは勢いよく魔法弾をタカナスに飛ばす。
「ブフッ!?」
タカナスは文字通り面食らう。
「ボールを何発くらってもあんたに魔法弾を食らわせて倒せばいいだけの話じゃない!」
「むう、そこに気づくとは……! さすがは悪名高い魔法少女カナミ!」
「って、悪名って何よ!? 噂じゃなかったの!?」
「噂も悪名も同じだろ!」
「違うわよ!!」
カナミはムキになって否定する。
「もうなんだっていいだろが! くらえ、ナインボール!!」
タカナスはキューでボールを突いて、九個のボールをはじき出す。
「ジャンバリック・ファミリア!」
鈴でそのボール達を弾き飛ばす。
バァン! カン! バァン! カン!
ボールはやはりカナミにばかり飛んでくる。
(なんだか、あのボールは受けたらまずい気がする)
カナミのカンがそう告げている。
カン!
そう思っていた矢先、魔法弾で弾ききれなかったボールがカナミへ飛んでくる。
「あ、しまった!」
バァァァァン!
ボールがカナミに当たった途端、爆発する。
「くう、うぅ……!」
痛みと熱さでうずくまる。
「ば、爆発するボール!」
「そうとも! こいつをくらっちゃタダじゃすまないだろ! それもう一発!!」
カナミが爆発のダメージに気をとられているうちにもう一個ボールが飛んでくる。
「この勝負もらったぜ!」
「――こんの!」
カキィィィィィン!!
カナミはステッキを振ってボールを打ち返す。
「なッ!?」
バァァァァン!
打ち返したボールは見事タカナスに命中した。
「ギャァァァァ!? なんてことしやがるんだ!?」
タカナスはダメージを負いながらも雄叫びを上げる。
「あんただってボール突いてるじゃない」
「突くのと打ち返すのとじゃ全然違うだろおおおッ!」
「いや、一緒でしょ。えいッ!」
カナミはさらにもう一発ボールを打ち返す。
バァァァァン!
見事タカナスに命中した。
「ギャァァァァ!!」
タカナスは悲鳴を上げる。
「お見事!」
「百発百中じゃねえか!!」
「こうなったら運とかもう関係無いですね」
ミドリ、クロ、シロはそれぞれ称賛する。
「くそ、まさかボールを打ち返すなんて非常識もいいところだぜ!」
「いや、爆発させる方が非常識でしょ」
「さすが、悪名名高い魔法少女カナミだぜ! こうなったら!!」
「……こうなったら?」
「ありったけの玉を撃ち込んでやるぜ!」
タカナスは爆弾付きのボールを宙に出す。その数十五個。
「それじゃ、ナインじゃないわね」
千歳は言う。
カン!
ボールは突き出されて弾け飛ぶ。
バァァァァン!!
ボールがタカナスに命中して爆発する。
「ギャァァァァァッ!!」
今度はカナミが打ち返すまでもなく、たまたま弾け飛んだボールがタカナスに命中した。
「ば、バカな……! あっちには三人の貧乏神がいるんだぞ!! 一人の俺の方になんで当たるんだ!?」
「あ~これは流れね」
アカは言う。
「今の魔法少女の力技で流れが彼女に向いたのよ。こうなったらもう貧乏神の運の絞り取りも関係無いわ」
「はあ、流れ!?」
「わからないからあんたは負けるのよ」
「な、何を言ってるんだ!?」
タカナスが混乱しているうちに、ボールは次々に飛んでくる。
バァァァァァァァァァァァァン!!
十個以上のボールが一斉に爆発して、タカナスは悲鳴を上げることさえできなかった。
「神殺砲!」
カナミは好機とみてステッキを砲台へと変化させる。
「ボーナスキャノン!!」
必殺の砲弾を撃ち込む。
バァァァァァァァァァァァァン!!
タカナスは砲弾に飲み込まれて爆散する。
「あいつ、負けたな」
「ああ、ものの見事にな」
仲間の怪人二人はしたり顔で話す。
「やっぱり貧乏神に取りつかれた奴の末路は悲惨だな」
「しかし、魔法少女カナミは三人の貧乏神を従えていた……さすがだぜ」
怪人はゴクリと唾をのむ。
「今日はこのぐらいにして帰るか」
「ああ、こっちの運まで絞られちゃたまらねえ」
そう言って仲間の怪人二人は帰っていきます。
「かなみちゃんもすっかり貧乏神ね」
千歳は楽しそうに言う。
その後、かなみと千歳は貧乏神のアカを回収する。
アカは神殺砲が直撃する前に避難していたので無事だった。
「あなたのことは興味深いからとりついてあげるわ」
などと上から目線で言われて、勝手にかなみにとりついた。
かくして、四人の貧乏神がかなみにとりつくことになった。
「……これはなんとも奇怪な光景じゃな」
その様子を見物しに来た煌黄は唖然とする。
「仙人の目から見てもこれは珍しいの?」
千歳は煌黄に訊く。
「そうじゃな……滅多に見られない光景じゃが、まあかなみじゃしな」
「なんでそういう言い方なの?」
かなみはため息気味に言う。
「っていうか、この四人の貧乏神をなんとかしてよ!」
「別に面白い光景じゃからよいではないか。人間でそこまで貧乏神を飼いならせるのはそうそうおらんぞ」
煌黄は楽しそうに言う。
「そうじゃ、いっそそのまま仙人になったらどうじゃ?」
「冗談じゃないわよ!」
「そうじゃな、ホホホ! 貧乏神じゃったら、もうそれは神じゃ! 仙人の儂よりも位は上じゃな、ホホホ!」
「笑い事じゃないわよ!」
仙人とか神とかその辺りの位はよくわからない。というか、貧乏神は妖精に近いから神じゃなかったような。
「しかし、ここは居心地悪いな」
「運が無いからな、メシが一切出ないみたいな状態だぜ」
「このままでは私達は餓死してしまいます」
「そうなったら、かなみは人殺しならぬ神殺し、いいえ貧乏神殺しね」
四人の貧乏神は好き放題言ってくる。メチャクチャやかましい。
「社長、早く引き取り先に渡してくださいよ」
かなみは懇願するように言う。
「それがまたごねられてね」
「ごねたのは社長じゃないんですか?」
「直前に出ししぶってきてね。かなみちゃんのボーナス減額ね、こりゃ」
「思いっきりごねてください!」
かなみは力強く言う。
「社長がごねれば、金額十倍ですから!」
「おだてても何も出ないわよ」
「いやいや、ボーナスは出してください!」
「引っかからなかったか」
「でも、貧乏神の引き取り先ってどんなところなんですか?」
「かなみちゃんが知らなくていいところよ」
「あ、これ以上聞きません」
あるみがそう言うなら、自分は関わってはいけないことなんだろうと判断した。
「マフィアが敵対組織のボスに送り付けて破産に追い込む計画に使わされるそうよ」
「聞きませんって言いましたよね!? って、貧乏神ってそういう風に使うんですか?!」
「まあ、そうね。これがまた結構引く手あまたなのよ、そういう組織から」
「そういう組織!?」
かなみは関わりたくないなと本心から思ってしまう。
「まあそういう組織っていうのは太い運持ってるもんだからな」
「数年分は困らない食料分の運にはありつけるということです」
ミドリとシロは楽しそうに言う。
「そういうわけでもうあんたには興味無いわね」
アカは素っ気なく言う。
「あ、それじゃ!」
あるみはかなみに取りついている貧乏神達を手に取って、ダンボールを押し込む。
「え?」
あっという間の出来事だったので、後から驚き追いついてくる。
「ええぇぇぇぇッ!?」
「「「「なぁぁぁぁぁぁッ!?」」」」
貧乏神達も驚愕している。
「社長、掴めたんですか!?」
「これぐらい掴めるでしょ!」
「私がどんなにやっても払えなかったのに……」
そういえば千歳も糸で捕まえていたと思い出す。そのあたりは技術というか経験の差かもしれない。
「っていうか、最初からそうすればよかったじゃないですか!?」
「まあ、かなみちゃんに経験積ませるためよ。面白そうだったし」
「あ、ははは……」
前半が口実で、後半が本音のように聞こえてならない。
しかし、あるみにそう言われると反論する気さえ起きない。
「おいおい、かなみ!」
ミドリが顔を出して呼んでくる。
「ん、何?」
「また会えそうな気がするが、最後にこれだけは言っておきたいことがあるんだ」
どうやらお別れの挨拶のようだ。若干不吉な感じもするけど。
「生きてりゃそのうちいいことあるぜ!」
「う、うん……ありがとう……」
かなみは微妙な表情でお礼を言った。
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