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第100話 宴会! 色づいた少女の魔法は続く! (Aパート)
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ヂリリリン
目覚ましの音が鳴り響く。
かなみは起きて、それを止める。
台所にいくと、母がいなくなっていたことを思い出す。朝食の用意がなかったからだ。
「母さんがいることに慣れちゃったのね」
違和感を口にして、冷蔵庫を物色する。
食パンが一枚とイチゴジャムがあるだけ。
ひとまずこれで朝食はできる。
顔を洗って、食パンにジャムを塗ってから食べる。
あっという間に食べ終わってひとまず満足してから、制服に着替える。
カバンをもって部屋を出ようとする。
「行ってきます」
その言葉を向ける人間がいないことを言ってから気づく。
「母さん、どこ行ったんだろう?」
きっと今頃どこかで呑気に空を見上げているんだろうな、と心の中で悪態をついた。
学校の授業。
退屈でありながらも平和を感じられる。
ここには借金も、魔法少女の戦いも、怪人の襲撃もない。
穏やかに時間が流れていく。
「三者面談……」
唐突に渡されたプリントにかなみは顔をしかめる。
親に渡すためのプリントだ。
「かなみんちは誰が来るんだ?」
貴子が無邪気に訊いてくる。
「誰って?」
「三者面談っていったら、親、子供、先生の三人でやるもんだろ」
「あぁ……」
「あの人がまた来るの?」
理英が訊く。
「白くてキレイな人」
あるみのことだ。
以前、授業参観でやってきて、ちょっとした話題になってしまった。
かなみとしては早く忘れ去ってほしい出来事だった。
「あの人は私の母さんじゃないから」
「あ、そうだったな。でも、なんかそういう雰囲気だったぞ」
「そ、そうかしら……?」
かなみは疑問符を浮かべる。
あるみが母さん……不思議と違和感が無い。
(あ、でも、来葉さんが母さんもいいかも……)
来葉の方が断然優しい。
あるみはスパルタすぎて怖い。そういう印象だった。
「へえ、三者面談ですか」
「あんた!?」
不意に背後から柏原が現れた。
「いきなり出てこないでよ!?」
「驚きすぎですよ。教育実習生の僕がこの場にいて何かおかしいことがあるんですか?」
「おかしいわよ、そもそも――!」
怪人のあんたが教育実習生をしているのがおかしい、と言いかけてやめた。
「そもそも、なんですか?」
柏原は、かなみが言えないことをわかっていて挑発するように言ってくる。
「な、なんでもないわよ」
理英も貴子も、魔法少女や怪人とはまったく無縁の普通の中学生なのだから、そんなこと言っても信じてもらえない。
(私も普通の中学生だと思っていたんだけどな……)
そこまで考えて、かなみは自分の人生が普通とは程遠いものになったことに気づく。
「あんたのせいで嫌なこと思い出した」
「それは幸いでした」
柏原はそう言って、教室を出ていく。
「何しに来たのよ、あいつ?」
「かなみに会いに来たんじゃないか」
「ええ!? 冗談じゃないわ!?」
貴子の発言に、拒否反応を示す。
「かなみ、柏原のことが嫌いなの?」
理英が訊く。
「嫌いってわけじゃないんだけど……相性が悪いっていうか……」
魔法少女と怪人。
敵同士で戦い合わなくちゃならない運命にあって……まあでも、あの性格はちょっと受け入れづらいというか……とにかく「嫌い」の一言で言い表せない関係なのだ。
「まあ、確かにちょっと不釣り合いだよな」
貴子が言う。
「どういう意味?」
「だって、あいつイケメンだしな」
「それに大学生だしね」
貴子、続いて理英が言う。
そういえば教育実習生といえば大学生、ということを思い出す。
「それで結構モテるのよね」
「柏原が!?」
それはちょっと意外だった。
「かなみ、知らなかったのか?」
「貴子は知ってたの?」
「知らなかったに決まってるだろ」
そう言われて安心する。
だけど、柏原がモテるのは意外だった。
(外面はいい、ってわけね)
そういうことで納得する。
ただ、もしそれで学校の生徒に手を出すことになったら容赦はしない、と密かに心に決める。
キンコンカンコーン
終業のチャイムが鳴る。
「それじゃ、またね」
かなみは理英と貴子に一言挨拶して教室を出る。
「かなみ、あんなに早く帰って何してるんだろうな?」
貴子は疑問を口にする。
「うーん、夕飯の準備とか、ほら親が出張でいないから」
理英が推測する。
「あ~そうだったな。でも、それだけか?」
「それだけって?」
「いや、なんかすごい大変な目にあってるような気がするんだよな。……カンだけど」
「すごい大変な目……?」
理英は、貴子が言っていることがあながち的外れでもない、そんな気がした。……カンだけど。
「おはようございます」
かなみはいつものようにオフィスへやってくる。
「おはよう」「おはよう」「おはようございます」
翠華、みあ、紫織の三人は既に自分達のデスクにいる。
「みんな、今日は早いね」
「たまたまよ。あんたこそ遅刻じゃないの?」
みあは時計を見ながら答える。
「別にそんなことないわよ。いつもどおりで」
「言ってみただけよ」
かなみはデスクにつく。
「……なんか変ね」
「え、変?」
みあが呟いて、翠華が反応する。
「いつものツッコミにキレがないのよ」
「キレ?」
翠華からするといつもどおりの反応に見えた。
「だって、ツッコミに!がないのよ」
「え、どういう意味!?」
「ハァハァ、俗に言うメタ発言ってやつだ」
「ウシシ、知らなくていいことだぞ、お嬢」
久しぶりに台詞のあったマスコット達であった。
「ああ、かなみ君。今日は頼みたい仕事があるんだけど」
鯖戸がかなみを呼ぶ。
「え、それってボーナスあるやつ?」
「今月の家賃ぐらいは払えるんじゃないかな」
「テキトーね……でも、家賃払えるならやってやるわよ」
かなみは鯖戸のデスクに向かう。
「ほら、ないでしょ。!(エクスクラメーション)」
「ほらって、言われてもわからないんだけど!」
翠華のツッコミにはちゃんとあった。
「わかったらいけないような気がします」
紫織はコメントする。
「このくらいだったら、すぐやれるわね。それじゃ行ってきます」
かなみはさっさとオフィスへ出ていった。
「でもなんだか、かなみさん。やっぱり元気が無いわね」
翠華が心配する。
「無理してるんじゃない」
「無理、ですか……」
みあが言い、紫織はよくわからなくて答えられなかった。
「やっぱり色々あったからじゃない」
「色々……お父さんのことでしょうかね」
「私達が事情を聞いただけでも混乱したのに、当事者になると……」
翠華は言いながら、だんだんかなみが心配になってくる。
「私がついていった方が良かったんじゃ……」
「待ちなさい」
みあが引き止める。
「あいつ、家賃が厳しいんだから払えるくらい稼がせてあげなさいよ」
翠華が手伝ってしまうと、ボーナスは二人で山分けになってしまう。
「で、でも……」
そう言われても、翠華は煮え切らないままだった。
「私達で何かかなみさんに出来ることはないでしょうかね?」
紫織が提案する。
「出来ることって言われても……」
翠華は困った。
出来ることは何でもしてあげたいと思っていても、いざ何が出来るかと言われるとすぐに思い浮かばない。
「みあちゃん、何がいい考えない?」
こういう時に頼りになるのはみあだと翠華は判断した。
「なんであたしがあいつのために……」
みあはぼやく。
「あいつのことだから、ごちそうあげたらすぐ元気になるでしょ」
「そんないい加減な……」
「でも、かなみさん、いつも元気そうに食べますよね」
「言われてみれば、確かに……」
紫織の発言に、翠華も納得する。
「決まりね、それじゃ今夜ご飯に誘うわ。あいつ喜んでホイホイついてくるでしょうね」
みあの声が心なしか弾んでいるように聞こえる。
「待って、みあちゃんにばかり任せてたら悪いわ」
「そんなことに気を遣わなくてもいいのに」
「他にいい方法はないの?」
「あんたも自分で考えなさいよ」
「そ、それもそうね……」
小学生のみあに正論を言われる翠華。
「そうね……パーティなんてどうかしら?」
「パーティ?」
「そう、ホームパーティ。前にやった時にかなみさんすごく喜んでて楽しそうだったから」
「そんなこともあったわね」
「いいんじゃないですか、パーティ」
紫織が同意する。
「うーん、そうね。でも、またかなみの部屋でやるの?」
「そこまで考えてなかった……」
「だったら、ここでやったらどうかなパーティ?」
「え……?」
そんなことを提案したのは鯖戸だったので、一同は驚く。
「そんなに驚くことかな?」
「あるみが言うんならともかく、あんたがそう言うのがね」
みあは正直に言う。
「そうかな……」
「部長は反対するかと思いました、正直」
「翠華君まで……そう思われても仕方ないか」
鯖戸は少し落胆しているように見えた。
「ああ、すみません。それより本当にいいんですか、オフィスを使ってパーティ?」
「別に反対するつもりはないよ。みんなの親交が深まるなら積極的にやるべきだと思ってる」
「……意外です」
紫織も正直に言う。
「意外、かな……みんなが私のことをどう思っているのか、なんとなくわかったよ」
「すみません……」
紫織は謝る。
「普段の接し方に問題があるんでしょ」
みあが言うと、鯖戸は少し深刻そうな顔をする。
「そうかな、うん、考えておく必要があるかも」
「改善しなさいよ。するつもりがあるんなら」
「わかった。それでどうするの、パーティ?」
「え、ああ、そうですね。かなみさん、いつくらいに戻ってきますか?」
翠華が訊く。
「うーん、三時間くらいかな。一応報告のために戻ってくるように言っておいたから、直帰はしないはずだよ」
「三時間……三時間ですか。買い出しに行けば、なんとかパーティできるわね」
「ごはんとおかしと飾り付けと、あとパーティグッズね」
みあが提案する。
「パーティグッズ?」
そういうわけでオフィスでパーティをするため、買い出しへいくことに仕事の合間に手分けして買い出しをすることになった。
「オードブルセットとケーキ、あとピザを買ってきたわ」
翠華が近くのスーパーとケーキ屋から買ってきた物を会議用のテーブルに置く。
「翠華さん、こんなに買ってきたんですか?」
紫織は驚きの声を上げる。
「ええ、かなみさんよく食べるから」
「私も手伝いましたから!」
沙鳴は誇らしげに言う。その片手にはピザのケースがあった。
「あんた、なんでいるの?」
みあが訊く。
「そこで偶然会ってね。事情を説明したら是非協力したいって」
翠華が説明する。
「かなみ様のお役に立てるなら是非協力させてください!」
「ま、人手があると助かるわね。次は私と紫織が行くわ」
「あまり自信はありませんが……」
みあは紫織の手を引いて、二人でオフィスへ出ていく。
「何なのよ、これ?」
食べ物の匂いにつられたか、萌実がやってくる。
「つまみぐいはダメですよ」
沙鳴が釘を刺す。
「そんな行儀悪いことしないわよ。んで、なんなのこれは?」
「パーティよ。かなみさんを元気づけるための」
「かなみのパーティ? あいつに何かあったの?」
「それは……」
翠華は答えていいかわからなかった。
かなみのプライベートの問題なので、おいそれと話していいものか。それに翠華は萌実のことを信用していない。
「かなみちゃんのことで色々あったのよ」
千歳がやってくる。
「千歳さん、話していいんですか!?」
「萌実ちゃんだって、会社の一員で仲間なんだから知ってもいいでしょ」
「でも、萌実は……」
ネガサイドの一員で、いつ敵になるかわからないのに……と言いかけたところで、翠華の口を千歳の人差し指を立てる。
「まあまあ。仲間外れはダメよ」
千歳が言う。
「仲間ですか……」
にわかに受け入れられない言葉だった。
「フン!」
それは萌実も同じだった。
「これ、かなみのためのものだったの?」
「え、ええ、そうよ」
「だったらいらないわ」
萌実はそそくさと出ていこうとする。
「まあまあ! 萌実ちゃんも参加しなさいよ」
「うぅ!?」
萌実の歩みが止まる。
千歳が糸を伸ばして、足を止めたのだろう。
「かなみちゃんもその方が喜ぶと思うから」
「な、なんで、かなみが私に?」
「かなみちゃんはあなたのことを仲間だと思ってるから」
「え……?」
翠華は訝しむ。
「そんなわけないでしょ。あいつは私のことが敵だと思ってるでしょ」
「そんなことないわよ。なんだったら、かなみちゃんに訊いてみなさい」
「はあ……」
そんなことできるか、って言いたげなため息だった。
「仕方ないわね。言っておくけど、かなみのためじゃなくてご馳走のためだから」
「素直じゃないわね、フフフ」
千歳は和やかに笑う。
「………………」
翠華はそんな気にはなれなかった。
「飾り付けって何を買えばいいんですか?」
紫織は訊く。
「そうね、ひとまずあそこの小売店に行けばなんかあるでしょ」
「かなみさん、喜んでくれるでしょうか?」
「喜ぶようにするのよ」
「はりきってますね」
「親父のことで苦労してるみたいだしね」
「ああ、それで……」
紫織は納得する。
「あいつの場合、母さんの方も問題あるのよね。娘をほっぽり出して今頃どこで何やってるのやら」
みあはふと物陰に目をやる。
「何やってるのやら……」
みあはこれみよがしに言う。
「え? あ、あの……みあさん、誰に?」
紫織は戸惑う。
「すごいわねぇ、みあちゃん」
物陰から涼美が姿を現す。
「見つけてほしいそうに、気配ダダ漏れだったじゃない」
「あははははぁ」
涼美は笑ってごまかす。
「全然気づきませんでした……」
紫織は、みあがすごいと思った。
「まったく。帰ってきてるんならさっさと、かなみのところに顔を見せなさいよ」
「それがぁ、なんていうかぁ……気まずくて~」
涼美は苦笑する。
「まったくしょうがないわね」
みあはため息をつく。
「気まずいって……そんな年頃でもないでしょ」
「あ、そ、そうねぇ……」
「みあさん、あまり歳の話はしない方がいいんじゃないでしょうか」
「あのぉ紫織ちゃん、そういう風にぃ気を遣われる方がぁかえって傷つくのよぉ」
「ああ! すみません!」
紫織は慌てて頭を下げる。
「いいのよぉ、紫織ちゃん」
「かなみにしたことを考えたら傷つくくらい何だって言うのよ」
「みあちゃん、辛辣ぅ」
「そのくらいがいいでしょ」
「まあ、ねぇ……」
涼美は視線をそらす。
「どうせ、親父も見つけられなくて気まずかったんでしょ」
「そうなのよぉ。戻ってきたらぁ、みあちゃんがパーティを提案してたからぁ、ちょうどぉいいかなぁって」
「盗み聞きしてたんじゃない!?」
「私~耳が良いからぁ」
涼美は自慢げに言う。
みあはイラッときた。
「油断もスキもないわね」
「褒められたぁ」
「あ~、なんかそういうところ、かなみに似てるかも」
「そ、そうでしょうか?」
紫織は同意しなかった。
「ま、パーティに出ればあいつも喜ぶでしょ。だから協力しなさいよ」
「もっちろん~、パーティなら任せて~」
三人は小売店に向かった。
目覚ましの音が鳴り響く。
かなみは起きて、それを止める。
台所にいくと、母がいなくなっていたことを思い出す。朝食の用意がなかったからだ。
「母さんがいることに慣れちゃったのね」
違和感を口にして、冷蔵庫を物色する。
食パンが一枚とイチゴジャムがあるだけ。
ひとまずこれで朝食はできる。
顔を洗って、食パンにジャムを塗ってから食べる。
あっという間に食べ終わってひとまず満足してから、制服に着替える。
カバンをもって部屋を出ようとする。
「行ってきます」
その言葉を向ける人間がいないことを言ってから気づく。
「母さん、どこ行ったんだろう?」
きっと今頃どこかで呑気に空を見上げているんだろうな、と心の中で悪態をついた。
学校の授業。
退屈でありながらも平和を感じられる。
ここには借金も、魔法少女の戦いも、怪人の襲撃もない。
穏やかに時間が流れていく。
「三者面談……」
唐突に渡されたプリントにかなみは顔をしかめる。
親に渡すためのプリントだ。
「かなみんちは誰が来るんだ?」
貴子が無邪気に訊いてくる。
「誰って?」
「三者面談っていったら、親、子供、先生の三人でやるもんだろ」
「あぁ……」
「あの人がまた来るの?」
理英が訊く。
「白くてキレイな人」
あるみのことだ。
以前、授業参観でやってきて、ちょっとした話題になってしまった。
かなみとしては早く忘れ去ってほしい出来事だった。
「あの人は私の母さんじゃないから」
「あ、そうだったな。でも、なんかそういう雰囲気だったぞ」
「そ、そうかしら……?」
かなみは疑問符を浮かべる。
あるみが母さん……不思議と違和感が無い。
(あ、でも、来葉さんが母さんもいいかも……)
来葉の方が断然優しい。
あるみはスパルタすぎて怖い。そういう印象だった。
「へえ、三者面談ですか」
「あんた!?」
不意に背後から柏原が現れた。
「いきなり出てこないでよ!?」
「驚きすぎですよ。教育実習生の僕がこの場にいて何かおかしいことがあるんですか?」
「おかしいわよ、そもそも――!」
怪人のあんたが教育実習生をしているのがおかしい、と言いかけてやめた。
「そもそも、なんですか?」
柏原は、かなみが言えないことをわかっていて挑発するように言ってくる。
「な、なんでもないわよ」
理英も貴子も、魔法少女や怪人とはまったく無縁の普通の中学生なのだから、そんなこと言っても信じてもらえない。
(私も普通の中学生だと思っていたんだけどな……)
そこまで考えて、かなみは自分の人生が普通とは程遠いものになったことに気づく。
「あんたのせいで嫌なこと思い出した」
「それは幸いでした」
柏原はそう言って、教室を出ていく。
「何しに来たのよ、あいつ?」
「かなみに会いに来たんじゃないか」
「ええ!? 冗談じゃないわ!?」
貴子の発言に、拒否反応を示す。
「かなみ、柏原のことが嫌いなの?」
理英が訊く。
「嫌いってわけじゃないんだけど……相性が悪いっていうか……」
魔法少女と怪人。
敵同士で戦い合わなくちゃならない運命にあって……まあでも、あの性格はちょっと受け入れづらいというか……とにかく「嫌い」の一言で言い表せない関係なのだ。
「まあ、確かにちょっと不釣り合いだよな」
貴子が言う。
「どういう意味?」
「だって、あいつイケメンだしな」
「それに大学生だしね」
貴子、続いて理英が言う。
そういえば教育実習生といえば大学生、ということを思い出す。
「それで結構モテるのよね」
「柏原が!?」
それはちょっと意外だった。
「かなみ、知らなかったのか?」
「貴子は知ってたの?」
「知らなかったに決まってるだろ」
そう言われて安心する。
だけど、柏原がモテるのは意外だった。
(外面はいい、ってわけね)
そういうことで納得する。
ただ、もしそれで学校の生徒に手を出すことになったら容赦はしない、と密かに心に決める。
キンコンカンコーン
終業のチャイムが鳴る。
「それじゃ、またね」
かなみは理英と貴子に一言挨拶して教室を出る。
「かなみ、あんなに早く帰って何してるんだろうな?」
貴子は疑問を口にする。
「うーん、夕飯の準備とか、ほら親が出張でいないから」
理英が推測する。
「あ~そうだったな。でも、それだけか?」
「それだけって?」
「いや、なんかすごい大変な目にあってるような気がするんだよな。……カンだけど」
「すごい大変な目……?」
理英は、貴子が言っていることがあながち的外れでもない、そんな気がした。……カンだけど。
「おはようございます」
かなみはいつものようにオフィスへやってくる。
「おはよう」「おはよう」「おはようございます」
翠華、みあ、紫織の三人は既に自分達のデスクにいる。
「みんな、今日は早いね」
「たまたまよ。あんたこそ遅刻じゃないの?」
みあは時計を見ながら答える。
「別にそんなことないわよ。いつもどおりで」
「言ってみただけよ」
かなみはデスクにつく。
「……なんか変ね」
「え、変?」
みあが呟いて、翠華が反応する。
「いつものツッコミにキレがないのよ」
「キレ?」
翠華からするといつもどおりの反応に見えた。
「だって、ツッコミに!がないのよ」
「え、どういう意味!?」
「ハァハァ、俗に言うメタ発言ってやつだ」
「ウシシ、知らなくていいことだぞ、お嬢」
久しぶりに台詞のあったマスコット達であった。
「ああ、かなみ君。今日は頼みたい仕事があるんだけど」
鯖戸がかなみを呼ぶ。
「え、それってボーナスあるやつ?」
「今月の家賃ぐらいは払えるんじゃないかな」
「テキトーね……でも、家賃払えるならやってやるわよ」
かなみは鯖戸のデスクに向かう。
「ほら、ないでしょ。!(エクスクラメーション)」
「ほらって、言われてもわからないんだけど!」
翠華のツッコミにはちゃんとあった。
「わかったらいけないような気がします」
紫織はコメントする。
「このくらいだったら、すぐやれるわね。それじゃ行ってきます」
かなみはさっさとオフィスへ出ていった。
「でもなんだか、かなみさん。やっぱり元気が無いわね」
翠華が心配する。
「無理してるんじゃない」
「無理、ですか……」
みあが言い、紫織はよくわからなくて答えられなかった。
「やっぱり色々あったからじゃない」
「色々……お父さんのことでしょうかね」
「私達が事情を聞いただけでも混乱したのに、当事者になると……」
翠華は言いながら、だんだんかなみが心配になってくる。
「私がついていった方が良かったんじゃ……」
「待ちなさい」
みあが引き止める。
「あいつ、家賃が厳しいんだから払えるくらい稼がせてあげなさいよ」
翠華が手伝ってしまうと、ボーナスは二人で山分けになってしまう。
「で、でも……」
そう言われても、翠華は煮え切らないままだった。
「私達で何かかなみさんに出来ることはないでしょうかね?」
紫織が提案する。
「出来ることって言われても……」
翠華は困った。
出来ることは何でもしてあげたいと思っていても、いざ何が出来るかと言われるとすぐに思い浮かばない。
「みあちゃん、何がいい考えない?」
こういう時に頼りになるのはみあだと翠華は判断した。
「なんであたしがあいつのために……」
みあはぼやく。
「あいつのことだから、ごちそうあげたらすぐ元気になるでしょ」
「そんないい加減な……」
「でも、かなみさん、いつも元気そうに食べますよね」
「言われてみれば、確かに……」
紫織の発言に、翠華も納得する。
「決まりね、それじゃ今夜ご飯に誘うわ。あいつ喜んでホイホイついてくるでしょうね」
みあの声が心なしか弾んでいるように聞こえる。
「待って、みあちゃんにばかり任せてたら悪いわ」
「そんなことに気を遣わなくてもいいのに」
「他にいい方法はないの?」
「あんたも自分で考えなさいよ」
「そ、それもそうね……」
小学生のみあに正論を言われる翠華。
「そうね……パーティなんてどうかしら?」
「パーティ?」
「そう、ホームパーティ。前にやった時にかなみさんすごく喜んでて楽しそうだったから」
「そんなこともあったわね」
「いいんじゃないですか、パーティ」
紫織が同意する。
「うーん、そうね。でも、またかなみの部屋でやるの?」
「そこまで考えてなかった……」
「だったら、ここでやったらどうかなパーティ?」
「え……?」
そんなことを提案したのは鯖戸だったので、一同は驚く。
「そんなに驚くことかな?」
「あるみが言うんならともかく、あんたがそう言うのがね」
みあは正直に言う。
「そうかな……」
「部長は反対するかと思いました、正直」
「翠華君まで……そう思われても仕方ないか」
鯖戸は少し落胆しているように見えた。
「ああ、すみません。それより本当にいいんですか、オフィスを使ってパーティ?」
「別に反対するつもりはないよ。みんなの親交が深まるなら積極的にやるべきだと思ってる」
「……意外です」
紫織も正直に言う。
「意外、かな……みんなが私のことをどう思っているのか、なんとなくわかったよ」
「すみません……」
紫織は謝る。
「普段の接し方に問題があるんでしょ」
みあが言うと、鯖戸は少し深刻そうな顔をする。
「そうかな、うん、考えておく必要があるかも」
「改善しなさいよ。するつもりがあるんなら」
「わかった。それでどうするの、パーティ?」
「え、ああ、そうですね。かなみさん、いつくらいに戻ってきますか?」
翠華が訊く。
「うーん、三時間くらいかな。一応報告のために戻ってくるように言っておいたから、直帰はしないはずだよ」
「三時間……三時間ですか。買い出しに行けば、なんとかパーティできるわね」
「ごはんとおかしと飾り付けと、あとパーティグッズね」
みあが提案する。
「パーティグッズ?」
そういうわけでオフィスでパーティをするため、買い出しへいくことに仕事の合間に手分けして買い出しをすることになった。
「オードブルセットとケーキ、あとピザを買ってきたわ」
翠華が近くのスーパーとケーキ屋から買ってきた物を会議用のテーブルに置く。
「翠華さん、こんなに買ってきたんですか?」
紫織は驚きの声を上げる。
「ええ、かなみさんよく食べるから」
「私も手伝いましたから!」
沙鳴は誇らしげに言う。その片手にはピザのケースがあった。
「あんた、なんでいるの?」
みあが訊く。
「そこで偶然会ってね。事情を説明したら是非協力したいって」
翠華が説明する。
「かなみ様のお役に立てるなら是非協力させてください!」
「ま、人手があると助かるわね。次は私と紫織が行くわ」
「あまり自信はありませんが……」
みあは紫織の手を引いて、二人でオフィスへ出ていく。
「何なのよ、これ?」
食べ物の匂いにつられたか、萌実がやってくる。
「つまみぐいはダメですよ」
沙鳴が釘を刺す。
「そんな行儀悪いことしないわよ。んで、なんなのこれは?」
「パーティよ。かなみさんを元気づけるための」
「かなみのパーティ? あいつに何かあったの?」
「それは……」
翠華は答えていいかわからなかった。
かなみのプライベートの問題なので、おいそれと話していいものか。それに翠華は萌実のことを信用していない。
「かなみちゃんのことで色々あったのよ」
千歳がやってくる。
「千歳さん、話していいんですか!?」
「萌実ちゃんだって、会社の一員で仲間なんだから知ってもいいでしょ」
「でも、萌実は……」
ネガサイドの一員で、いつ敵になるかわからないのに……と言いかけたところで、翠華の口を千歳の人差し指を立てる。
「まあまあ。仲間外れはダメよ」
千歳が言う。
「仲間ですか……」
にわかに受け入れられない言葉だった。
「フン!」
それは萌実も同じだった。
「これ、かなみのためのものだったの?」
「え、ええ、そうよ」
「だったらいらないわ」
萌実はそそくさと出ていこうとする。
「まあまあ! 萌実ちゃんも参加しなさいよ」
「うぅ!?」
萌実の歩みが止まる。
千歳が糸を伸ばして、足を止めたのだろう。
「かなみちゃんもその方が喜ぶと思うから」
「な、なんで、かなみが私に?」
「かなみちゃんはあなたのことを仲間だと思ってるから」
「え……?」
翠華は訝しむ。
「そんなわけないでしょ。あいつは私のことが敵だと思ってるでしょ」
「そんなことないわよ。なんだったら、かなみちゃんに訊いてみなさい」
「はあ……」
そんなことできるか、って言いたげなため息だった。
「仕方ないわね。言っておくけど、かなみのためじゃなくてご馳走のためだから」
「素直じゃないわね、フフフ」
千歳は和やかに笑う。
「………………」
翠華はそんな気にはなれなかった。
「飾り付けって何を買えばいいんですか?」
紫織は訊く。
「そうね、ひとまずあそこの小売店に行けばなんかあるでしょ」
「かなみさん、喜んでくれるでしょうか?」
「喜ぶようにするのよ」
「はりきってますね」
「親父のことで苦労してるみたいだしね」
「ああ、それで……」
紫織は納得する。
「あいつの場合、母さんの方も問題あるのよね。娘をほっぽり出して今頃どこで何やってるのやら」
みあはふと物陰に目をやる。
「何やってるのやら……」
みあはこれみよがしに言う。
「え? あ、あの……みあさん、誰に?」
紫織は戸惑う。
「すごいわねぇ、みあちゃん」
物陰から涼美が姿を現す。
「見つけてほしいそうに、気配ダダ漏れだったじゃない」
「あははははぁ」
涼美は笑ってごまかす。
「全然気づきませんでした……」
紫織は、みあがすごいと思った。
「まったく。帰ってきてるんならさっさと、かなみのところに顔を見せなさいよ」
「それがぁ、なんていうかぁ……気まずくて~」
涼美は苦笑する。
「まったくしょうがないわね」
みあはため息をつく。
「気まずいって……そんな年頃でもないでしょ」
「あ、そ、そうねぇ……」
「みあさん、あまり歳の話はしない方がいいんじゃないでしょうか」
「あのぉ紫織ちゃん、そういう風にぃ気を遣われる方がぁかえって傷つくのよぉ」
「ああ! すみません!」
紫織は慌てて頭を下げる。
「いいのよぉ、紫織ちゃん」
「かなみにしたことを考えたら傷つくくらい何だって言うのよ」
「みあちゃん、辛辣ぅ」
「そのくらいがいいでしょ」
「まあ、ねぇ……」
涼美は視線をそらす。
「どうせ、親父も見つけられなくて気まずかったんでしょ」
「そうなのよぉ。戻ってきたらぁ、みあちゃんがパーティを提案してたからぁ、ちょうどぉいいかなぁって」
「盗み聞きしてたんじゃない!?」
「私~耳が良いからぁ」
涼美は自慢げに言う。
みあはイラッときた。
「油断もスキもないわね」
「褒められたぁ」
「あ~、なんかそういうところ、かなみに似てるかも」
「そ、そうでしょうか?」
紫織は同意しなかった。
「ま、パーティに出ればあいつも喜ぶでしょ。だから協力しなさいよ」
「もっちろん~、パーティなら任せて~」
三人は小売店に向かった。
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しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
スーパー忍者・タカシの大冒険
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時は現代。ある日、タカシはいつものように学校から帰る途中、目に見えない奇妙な光に包まれた。そして、彼の手の中に一通の封筒が現れる。それは、赤い文字で「スーパー忍者・タカシ様へ」と書かれたものだった。タカシはその手紙を開けると、そこに書かれた内容はこうだった。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
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主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
自力で帰還した錬金術師の爛れた日常
ちょす氏
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「この先は分からないな」
帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。
さて。
「とりあえず──妹と家族は救わないと」
あと金持ちになって、ニート三昧だな。
こっちは地球と環境が違いすぎるし。
やりたい事が多いな。
「さ、お別れの時間だ」
これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。
※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。
※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。
ゆっくり投稿です。
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