まほカン

jukaito

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第104話 新風! 少女が踏み入れる世界は怪人と魔法と (Bパート)

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「……え?」
 かなみは怪訝そうな顔をする。
 あるみが『根本的に人間』。それにしては人間離れしすぎている。
 以前、最高役員十二席の一人・壊ゼルと戦ったときなんかは、戦いの余波だけで街一つがキレイに吹き飛んで真っ平らになったことを目の当たりにしたことがある。
 あんなものを見せられて、あるみが人間だと言うのを信じるのは難しい。
「地震や台風をなんとかしろと言われても難しい」
「……え?」
 あるみならなんとかできそうな気がするのだけど。
「難しいといっただけで無理とはいってないよ」
「あぁ……」
 マニィが耳打ちして納得する。
「絵里奈ちゃん、絵里奈ちゃんが見ていた魔法少女のアニメには敵がつきものだったでしょ」
「それはそうですけど……」
 絵里奈は不安そうな表情をする。
「敵が……いるんですか? 本当に?」
「いるわ」
 あるみは即答する。
「悪の秘密結社ネガサイド。それが敵の名前よ」
「悪の秘密結社……そんなものが、本当にいるなんて……」
「信じられないのは無理ないわね。でも、私もかなみちゃんも他の魔法少女もそいつらと戦い続けてきたのよ」
「その、秘密結社って一体何なんですか?」
「簡単に言うと怪人達の集まりよ」
「怪人!?」
「アニメの怪人、そのままよ」
「本当にそのままだったり、そのままじゃなかったり、色々ありますけどね……」
 かなみはこれまで戦ってきた怪人達の特徴をおぼろげながら思い出していく。
「髪を切ったり、財布を釣ったり、ロボットだったり、テレビだったり……」
「かなみちゃん、そういう怪人と戦ってきたの!? すごいけど、そんな怪人がいたの?」
「いました!」
 かなみは力強く言う。
 実際に戦ってきただけに、あんな強烈な怪人達の存在を否定するわけにはいかなかった。
「そんな怪人達が……あの、それって本当にいるんでしょうか? いえいえ、社長さんやかなみちゃんを疑うわけじゃないですけど!!」
 絵里奈は手を振る。
「まあ、仕方ないわね。これも見てもらった方が早いわね」
 あるみは携帯電話を取り出す。
「みあちゃん、首尾はどう?」
 通話の相手はみあだった。
「もうオフィスまで連れてきてる? オッケー、グッドタイミングだったわね。それじゃ備品室に連れてきて」
 あるみは通話を切る。
「連れてくる? みあちゃんが誰を?」
「みあちゃん?」
 かなみが訊く。
「みあちゃんには弱い怪人を倒さずにここに連れてきて、って指示を出しておいたの」
「そんな指示出してたんですか……それがもうすぐ来るということですか」
「ええ、そうよ」
「さすが、みあちゃん!」
「あの……みあちゃんって?」
 絵里奈が訊く。
「みあちゃんっていうのは、私の先輩で妹みたいな娘よ」
「先輩で妹みたいな……?」
「まあ、ここではそういうこともあるわね」
「なんというか不思議な場所ですね」
 絵里奈はそう評する。

パタン

 部屋の扉が開く。
「注文通りちゃんと連れてきたわよ」
「うんぐわえ!? はなしゃがれ!!」
 みあとヨーヨーの糸でグルグル巻きにされた手足が長い怪人がやってくる。
「わ、わわ、なんですか、この二人組!?」
「二人組じゃない。こんな奴とペアなんかじゃないわよ!」
 驚く絵里奈にみあはツッコミを入れる。
「っていうか、あんたが話になった新人?」
「は、はい! 新人の南城なんじょう絵里奈えりなです!」
 絵里奈は襟を正すように礼儀正しく名乗る。
「そう! まあ、どうでもいいわ」
「えぇ……」
 落胆する絵里奈をよそに、みあはあるみの方へ歩く。
「はいテナガオニ。指示通りに生け捕りにしてきてあげたわ」
「ご苦労さま。糸の拘束術、腕を上げたわね」
「苦労したわよ。まあ、まだ千歳には遠く及ばないけど」
「千歳に追いつこうだなんて十年早いわよ。向こうは年季が違うもの」
「そりゃそっか……十年どころか百年かかりそうだけど」
 みあは千歳の顔を思い浮かべてそんなことを言う。
「あの……あのちっちゃい子は?」
「ちっちゃい?」
 絵里奈の一言に、みあは怪訝そうな顔をする。
「え、だって、ちっちゃいかなみちゃんよりちっちゃいじゃないですか!?」
「私、ちっちゃい……?」
 かなみにも飛び火した。密かに気にしていた。
「何なのよ、あんた!?」
「あ、はい、この度、魔法少女の担当に就任しました南條絵里奈といいます」
「担当? あんた、新しい魔法少女じゃないの?」
「え、いや、私は新しい魔法少女じゃありませんよ」
「そうだと思ったわ。あんた、どうみても魔法少女って柄じゃないものね」
「が、がら……?」
 絵里奈はみあの物言いに困惑する。
「みあちゃん、口は悪いですけど、いい子ですから」
「そ、そうですか……よろしくお願いします」
「みあちゃんも」
 かなみに促されて、みあも「やれやれ」といった面持ちで答える。
「まあ、よろしく。阿方みあよ」
 お互いに一礼する。
「こりゃああ!! オラァを無視して話してんじゃねえ!!」
 糸で拘束された怪人テナガオニが騒ぎ出す。
「あの……ところで、その相方は?」
 絵里奈がみあに訊く。
「相方じゃないわよ、漫才やってんじゃないだから!」
「そうよ、みあちゃんの相方はかなみちゃんよ」
「違うわよ!」
 あるみにみあは即座にツッコミを入れる。
「えぇ、違うの……」
「なんであんたがガッカリしてるのよ? あんた、あたしと漫才やりたいの?」
「ちょっとやってみたいかも」
「……マジかよ」
 みあは真顔で言う。
「ね、面白いでしょ?」
 あるみは絵里奈に言う。
「はい……」
「だから、俺を無視すんじゃねえ!?」
「キャー!?」
 テナガオニが騒いで、絵里奈を驚かす。
「それで、これは何なんですか!?」
「これが怪人よ」
 あるみが言う。
「え、こ、これが……!? 怪人、ですか?」
 絵里奈はテナガオニを見る。
「仮装とか、着ぐるみとか、じゃなくてですか?」
「着ぐるみ……」
 みあは顔をしかめる。
 以前、着ぐるみを着て怪人に偽装して怪人達の集会に潜入したことがあった。その時の苦い思い出したのだろう。
「いいえ、本物よ。本物の怪人よ」
「俺は仮装なんかじゃねええ!!」
「ほら、本人もこう言ってるし」
 あるみはニコリと笑って言う。
「そ、そうですか……」
 絵里奈は恐る恐るテナガオニを見る。
「ジロジロ見るんじゃねえ! 見世物じゃねえぞお!!」
「ひい!」
 絵里奈はたじろぐ。
「こ、これは本当に本物みたいですね……!」
「あん! まだ俺が着ぐるみだと疑ってんのか!?」
「い、いいえ、本物だと思います!!」
「よおし、そんなに言うんだったら俺が本物だってことを見せてやるよ!」
「ですから、本物だって!」
「見てろや! あ、あれ……?」
 絵里奈の反論を無視して、テナガオニは能力を披露しようとする。
 しかし、糸のせいで身動きが取れなくなっていることに気づく。
「あんたを好きにさせるわけ無いでしょ」
 みあが言う。
「くそお! はなしゃがれえええッ!」
 テナガオニはあがいて、糸を振りほどこうとする。
「俺には! 俺にはでっかい野望があるんだ! こんなところでやられてたまるかあああ!!」
「野望?」
 絵里奈は興味を示す。
「それはなんですか? やっぱり悪の怪人だから世界征服ですか?」
「よくぞきいてくれた!!」
「別にきかなくてもいいのに……」
 テナガオニは嬉々として表情で答え、みあはため息をつく。
「俺の野望は世界を闇で覆い尽くすことだ!!」
「せ、世界を闇で覆い尽くす……! い、いったい、それはどうやって!?」
「……カメラをとるときに、その長い手で覆うことよ」
 みあが呆れるように代弁する。
「え、カメラを手で……? それってどういうことなんですか?」
 絵里奈は目が点になったようにわけがわからないといった顔をする。
「いいか、カメラを手で覆ったら、真っ暗になるだろ。つまり、それは闇で覆い尽くされているってことだ! 俺はそうやって世界中のカメラを手で覆えば世界は闇で覆い尽くされるってわけだ!!」
 テナガオニは高らかに自分の野望を披露する。
「…………あの、かなみちゃん?」
「なんでしょうか?」
「この怪人、言っている意味がまったくわかりません! 怪人だからですか!? それとも、私の理解力が足りないからですか!?」
「安心してください、私もまったくわかりませんから」
 かなみもみあと同じように呆れたように答える。
「なるほど、これが怪人なんですか!? わけがわからない具合が常軌を逸しています!!」
「ご理解いただけて嬉しいわ。みあちゃん、そういうわけで、その怪人はもう倒しちゃって」
「了解。運ぶのが面倒だったのよ」
 みあはコインを取り出す。
「マジカルワーク!」
 コインから降り注いだ光に包まれて、赤色の魔法少女が姿を現す。
「勇気と遊戯の勇士、魔法少女ミア登場!」
「魔法少女ミアちゃん!? すごい! 可愛い!!」
 絵里奈は興奮する。
「Gヨーヨー!!」
 ミアは構わずヨーヨーをテナガオニにぶつける。
「ガハッ!?」
 額にぶつけられて、豪快に倒れる。
「一丁上がり!」
「可愛くてかっこいい!!」
 絵里奈は食い気味にミアへ言う。
「カナミちゃんもそうだったけど、魔法少女って可愛いですね!! 写真撮っていいですか!?」
「写真?」
「そういうのはNGよ」
 あるみが制止する。
「ハァハァ、ミアお嬢の写真は永久保存しなくちゃな!」
「余計なこと言うな」
「それは、マスコットですか?」
「ハァハァ、俺はイノシシ型のマスコット・イシィだ! よろしくな、お嬢ちゃん!!」
「はあ……よろしくお願いします」
 イシィのテンションにおされて、絵里奈は遠慮気味に答える。
「こいつの相手はしなくていいから。それより、ほら見てみなさい」
 ミアは倒れたテナガオニを指す。
「あ……!」
 テナガオニの身体が光の粒子が上がっていき、一分もしないうちに身体が跡形もなく消える。
「き、消えた……!? ど、どういうことなんですか?」
 絵里奈はあるみへ訊く。
「あれが怪人の怪人たる所以よ」
「怪人の怪人たる所以……?」
「怪人の身体は魔力で構成されている。生命を失うと魔力は身体を維持することができずにバラバラになるの。水が気化するようにね」
「水が気化ですか……」
「人間の目からしてみれば跡形もなく消えちゃったようにみえるけど、魔力に関して鋭いカンを持っている人は残滓が見えるのよ」
「私には見えませんが……」
「まあ、かなみちゃんでも見えないと思うから、そういうのは魔法少女の中でも感知能力に長けている子しか見えないわ」
「あたしには見えるわね……」
 みあはジト目でテナガオニのいたところを見つめる。
「すごいですね、みあちゃん!」
「とはいっても、水たまりの跡みたいにちょっと濡れてるくらいの感じね」
「なんだか探偵みたいですね、みあちゃん」
「探偵……?」
 みあはそう言われて意外そうな顔をする。
「みあちゃん、とても嬉しそうね」
 かなみにそう言われてハッとする。
「そ、そんなことないわよ! 誰が名探偵よ!?」
「『名』探偵みあちゃんね」
 かなみは微笑ましく言う。
「それ以上話していると迷走しそうだから、話を戻すわね」
 あるみが話題を切り替える。
「さっきも言ったけど怪人は魔力の塊で出来ているわ。彼らはどこからか生まれてきて、悪の秘密結社ネガサイドに所属するようになるわ」
「どこからか生まれてきて……あの、そのどこからかって、どこなんですか?」
「色々あるわね。山の中、森の中、崖の下、川の中、海の中、地の底、街の中、雲の中……彼らが生まれる条件は一つ、魔力が密集して集まるときよ。ただ魔力が集中する現象は自然現象だし、偶然起きるものだから、彼らは自然に生まれてくるといって差し支えないわ」
「自然発生……それじゃ、彼らを全部倒すことは……」
「――不可能ね。今こうしている間も新しい怪人は生まれてきているかもしれないし、生まれたばかりの怪人を感知して根こそぎ倒そうにも人手が少なすぎるわ」
「………………」
 あるみの話を聞いて、絵里奈だけじゃなく、かなみもみあも沈黙した。
『――不可能ね』
 怪人を一人残らず倒すこと。
 それは心の何処かで無理かもしれないと思っていたけど、はっきりと口にされた。
 かなみやみあがよく知るアニメだったら、怪人を生み出している怪人の親玉がいて、それを最終回で倒してハッピーエンドとなるのだけど、現実はそんな親玉なんていなくて、こいつを倒したら全部解決するなんて都合よくはいかない。そういう現実を突きつけられたのだ。
「悪の秘密結社ネガサイドはそんな怪人達を集めて一員に組み込んでいくの。中には最初からネガサイドの怪人として生まれてくる奴もいるわ」
 かなみは、ヨロズのことを思い出す。
「その、ネガサイドの怪人を倒すのが魔法少女のお仕事ということなんでしょうか?」
「ええ、そうよ。彼らは人に害を成すことが目的よ」
「いかにも悪の怪人らしい目的ですね」
 絵里奈はそうコメントする。
「ええ、まったくもってそのとおりよ。身体が魔力で出来ている怪人にとって食事は魔力をいただくこと。彼らは人に害を成すことで、人の負の感情を集めてそれを魔力としているのよ」
「それって……」
 絵里奈は言いかけて、もう一度考え直してから、やっぱり同じ結論になったので言い直す。
「それって、怪人にとって私達人間はエサってことですか?」
「そうとも受け取れるわね」
 それに対して、あるみは否定とも肯定ともとれる返答をする。
「だからこそ彼らは積極的に命をとろうとはしないし、
人間を根絶やしにしようとする奴とかもいないわ。彼らからしてみれば人間の負の感情がなければ生きていけないのだからね、人間とはある意味共存の関係なのよ」
「なるほど……さっきの怪人も世界を闇で覆い尽くすって言ってたんですね」
 絵里奈が納得する傍らで、かなみも密かに納得していた。
 最高役員十二席、各地方の支部長……そういった怪人達は文字通りの怪物で、その気になったら人間の街を破壊して人間を全滅させることだって簡単にできそうだと思っていた。
 しかし、かなみが知る限りそんなことをしようとする怪人はいなかった。
 できるのにしようとしないのはなぜなのか、密かに疑問に思っていたのだけど、それが今解けた。
「とはいえ、私達人間だって黙ってエサとしてやられたままじゃいられないのが本音でしょ?」
「それは……たしかにそうですが、あんな怪人とかなみちゃん達は戦っているんですか?」
 絵里奈は不安げに訊く。
「もう慣れましたよ」
「こいつの場合、借金があるからね。倒さなくちゃ色々と死活問題なのよ」
「みあちゃん!? そういうこと言わなくていいんだよ!?」
「借金……?」
 絵里奈は首を傾げる。
「借金というと、お金を借りたから返さなくちゃいけない、あの借金ですか?」
「そ、その借金ですけど、気にしなくていいですからね! スルーしてください!」
「あ、そ、そうですか! スルーですね、わかりました! それでかなみちゃんは借金をしているのですね、おいくらですか?」
「スルーしてないですよね!?」
「す、すみません。気になってしまって……えっと、千円くらいですか?」
「たったそれだけだったら、どんなによかったことか……」
 かなみはため息をつく。
「八億よ」
 みあが答える。
「えぇ!? 八億!? 八億って、八円じゃなくて!?」
「八億円ですよ」
 かなみが思わず言ってしまう。
「八億円……」
「あ、しまった……」
「まったくすぐ口が滑るんだから」
「みあちゃんがバラすからでしょ!」
「あたしは八億としか言ってないわよ」
「あ、そういえば……」
 とはいえ、あのタイミングだと確信犯としか言いようがない。
「まあ、些細なことだからいいでしょ」
「よくないですよ、社長。っていうか、全然些細なことじゃありませんから」
「かなみちゃん、苦労してるんですね……」
 絵里奈はしみじみ言う。
「あの、絵里奈さん? そういう同情はいいですから」
「それじゃ、話を戻しましょうか。私達の仕事は主に怪人を倒すこと。とはいっても、私達は少人数だし、マスコットを使っても集められる情報はそこまで多くない。だからこそ、絵里奈ちゃん、あなた達の出番なのよ」
「え、そ、そうなんですか!?」
「絵里奈さんの担当って、そういう担当だったんですね……」
「情報収集役ってわけね。そういう人がうちに来るのって珍しいわね」
 みあはあるみへ言う。
「ええ、本当なら私か仔馬が案件をとってくるのだけど、彼女は特別なのよ」
「特別?」
 かなみとみあは絵里奈に訊く。
「え、私って特別なんですか?」
「自覚はないのね」
 みあは呆れる。
「でも、どこが特別なのよ? どこからどうみたって普通の大人の女の人みたいだけど」
 みあは絵里奈を見ながら訊く。
「そう。その普通が大事なのよ」
「普通が大事?」
 みあと絵里奈は揃って首を傾げる。
「……社長が普通の人をここに連れてくるなんて珍しいですよね」
 かなみが知っている限り、沙鳴くらいだ。
「言われてみれば……そうね」
 みあはかなみを見て言う。
 以前、あるみは同級生の貴子に見どころはあると言っていた。それでも関わらせないとあるみは決めた。
 そういえばあのときも貴子は魔法を信じる心が無いから魔法使えない、なんてことを言っていたことを思い出した。
「社長は普通の人を魔法や怪人に関わらせないようにしてますよね」
「ええ、そうよ。危険だから」
「でも、絵里奈さんは関わらせていますよね?」
 その違いは何なのか、かなみは問う。
「彼女をこの件に関わらせるよう決めたのは彼女の上役うわやくよ」
「上役?」
「はい、上役さんです。突然呼び出されて辞令だと言われてこういう仕事の担当になったんです。まだよくわかってないですけど」
 絵里奈は言う。
「その上役さんはどうして絵里奈さんをこの仕事に?」
 かなみはあるみに訊く。
「新しい風を吹き込みたい、そう言っていたわ」
「新しい風?」
「私達に情報を提供してくれる組織は、怪人や魔法のことについては知っているわ。俗にいう常識では考えられない超常現象の情報を取り扱う以上はその手の知識が必要だからね」
胡散臭うさんくさい組織ね」
 みあは怪訝そうな顔をして言う。
「そう、胡散臭い組織ゆえに、構成員は厳選されてるわ。普通の人は魔法少女や怪人について信じてもらえない。だから、そういうことを知っている人達が構成員になるわ」
「普通じゃない人がいる組織なんですね」
「そう。かなみちゃん達はこれまで怪人退治で関わってきた人がいるでしょ? そういう人達って普通といえる人達だった?」
「えっと、怪人退治に関わってきた人達というと……」
「うちの親父とか、やのつく連中とか……まあ、普通じゃないわね」
 みあは忌々しそうに言う。
 できれば、あまり関わり合いたくない連中だからだ。もちろん、みあの父親も含めて。
「それが基準になるのかどうかわからないけど……」
 かなみ的にはあれはあれで特殊な気がするけど。
「でも、おおむねそのイメージで合ってるわ。あとは大手の社長やら国会議員やら、またはその親族ね」
「みあちゃんとか?」
「みあちゃんは社長令嬢だけど、みあちゃんは特殊な事例よ」
「特殊……」
 みあは嫌そうな顔をする。
「どう特殊なのですか?」
 絵里奈が訊く。
「みあちゃんは親から魔法や怪人のことは何も教えてもらってないからね」
「そうなの!?」
 それは、かなみも初耳だった。
「あるみ……」
 みあはジト目で、あるみを射抜く。
「そのあたりは、みあちゃんから詳しく聞いてね」
「ぜったいはなさない」
 みあの鉄の意志を感じた。
「話してくれそうにないんですけど……」
 かなみとしてはみあが不機嫌になるのが困るのだけど。
「それはまあ自分で考えて聞き出しなさい」
「そんな無茶な……」
 かなみはそんな弱音を吐く一方で、今度お泊りした時に聞き出せないか、こっそり考えていた。
「それに対して、絵里奈ちゃんは普通の大人よ。ただ就職先がそういう組織だっただけで」
「どうして、そんな組織に就職したんですか?」
 かなみは絵里奈に訊く。
「大学に紹介されて、公務員になれるからと面接したら受かってしまって……」
「そんなことで入れる組織なんですか!?」
「それはそれでまあ特殊な事例ね」
 あるみは感心したように言う。
「それで、あるみさんとこの会社を紹介されたんですよ」
「うちでいうと翠華や紫織もそんな感じよね」
 みあが言う。
「普通の家族で魔法や怪人と関わりがなかったっていうとそうね」
「私は?」
 かなみが訊く。
「あの両親が普通だと思うの?」
「……思わないです」
 涼美と金太を思い出して、自分に普通の家族というものがないことを認める。
「あれが普通だったらあんたの普通を疑うところだったわよ」
「みあちゃん……」
「どんな家族なんでしょうか?」
 絵里奈は首を傾げる。
「かなみちゃんの家族には機会あったら会うでしょうね。それより今は絵里奈ちゃんの家族よ」
「私の?」
「絵里奈ちゃん、家族は?」
「父と母と、あと姉がいます」
「お父さん、お母さん、お姉さんは何をしているの?」
「えっと、父は商社の営業で、母は専業主婦、たまにパートをしています。姉は……作家志望のフリーターです」
「ね、普通でしょ?」
「たしかにそうね……」
「あの……普通なのがそんなにおかしいんでしょうか?」
 かなみは訊く。
「おかしいっていうより、特別なのよ。さっきも言ったけど、魔法は公に広めることが出来ないから、魔法を知っている人間は限られてくる。魔法を使える才能を持った人間、その関係者、親族……まあ、知るべくして知る特別な人間にしか公開されない。でも、絵里奈ちゃんは普通の家庭環境、普通の人間として魔法に関わらされている」
「そういうふうに言われると不自然ね。どうしてこの人はそんなんで魔法に関わることになったの?」
「さあ、そこまでは組織の采配だから詳しいことまではわからないわ」
「……なんだ」
 あるみにそう答えられて拍子抜けする。
「私もわかりませんね」
「そのことについては上役がおいおい教えるでしょうね」
「教えてくれるんでしょうか?」
「それはあの人の方針次第よ」
 あるみがそう答える。
「あの人って誰?」
「さあ、秘密が多そうだけど」
 かなみとみあはボソボソと小声でやり取りする。
「まあ、今日のところは魔法や怪人についてわかってもらえて何よりだわ」
「はあ……衝撃の連続でしたけど」
「常識がひっくり返るようなことばかりだったでしょ?」
「そうですね」
「これからもっとそういうことが起きるから今のうちに慣れた方がいいわよ」
「な、慣れるでしょうか……?」
「慣れないと、仕事にならないわよ」
「うぅ……」
 絵里奈は弱り果てる。



 それからしばらく雑談をして、絵里奈は帰ってもらった。
「新人さんかい?」
 オフィスに戻ってきた鯖戸とオフィスから出ていった絵里奈は入れ違いになる形だった。
「ええ、面倒を頼まれたのよ」
 あるみが答える。
「君は面倒見がいいからね」
「ああいうまっさらな子と話すのは難しいわよ」
「そうかい、かなり上手に話したと思うんだけどね」
「見てたわけじゃないのに、なんでわかるの?」
「彼女の顔を見たからわかるよ」
「どんな顔をしてたの?」
「じっくり考え事をしている顔だった。君の話したことを理解して、自分の中で噛み砕いているみたいだったよ」
 鯖戸は事も無げに言う。
「よく見たのね」
「そりゃ見ない顔だからね」
「そういう意味じゃないんだけど、まあいいわ」
「彼女、魔法の素質はないんだろ?」
「ええ、中々そういう子は現れてくれないのよね」
「こっちも探しているものの、紫織ちゃん以来はね……」
「難しいわね」
 あるみは頬杖をついてぼやく。
「それで、彼女と彼女の組織はどうなっているの?」
「今のところはなんとも言えないわね。――それと彼女はかなみちゃんにつけるわ」
「うん、それがいいと思う」
 鯖戸は二つ返事で了承する。
「少しずつ関わらせておいた方がいい」
 そう付け加える。



 翌日、絵里奈はオフィスへやってくる。
「こんにちは」
 即座に鯖戸のデスクに向かい、封筒を差し出す。
「これを渡すように指示されてきました」
「ご苦労様」
 鯖戸は封筒をペーパーナイフで開けて、中の書類を確認する。
「君宛のものはあるよ」
「私宛?」
 鯖戸は書類の束から一枚を渡す。
「私がこれからすることも書かれています。『ここの鯖戸という人の指示に従え』と」
「私が鯖戸だよ」
「あ、そうなんですね! 南城絵里奈です、よろしくお願いします」
「よろしく」
「あの~それで、指示というのは?」
「かなみ君!」
「はい!」
 かなみが鯖戸に呼ばれてやってくる。
「この案件は君に任せようと思うんだけど」
 デスクに三枚の書類を提示する。
「三枚あるんだけど、三件もあるの?」
 それならボーナスは期待できると声が自然と弾む。
「いや、一件だよ。他の二枚は多分違う情報だよ」
「違う情報って?」
「怪人の仕業じゃないということさ。絵里奈君、この中でどれが怪人関係の案件かわかるかい?」
「え、私ですか?」
「テストだよ。この三枚のうち一枚ある怪人の案件がどれかあててみてよ?」
「テストですか……」
 絵里奈は三枚の書類を手にとってじっくり読む。
 三枚の書類には、要約してこう書かれていた。


一枚目、魚屋の魚が目を離したスキになくなっていた。
二枚目、たんすにあった通帳がなくなっていた。
三枚目、ゴミ捨て場のゴミ袋がなくなっていた。


「これのどれか一件が怪人の仕業なんですか?」
「うん、そのはずだよ」
「うーん……」
 絵里奈は頭を悩ませる。
「魚屋……通帳……ゴミ袋……」
「かなみ君はわかるかい?」
「正直どれも怪しいんですけど……一つだけというなら」
「ストップ、それ以上はいいよ」
 かなみはその一つを答えようとして、鯖戸が止める。
「かなみちゃんはわかるんですね……」
「それが答えかどうかはわからないんですけど」
「うーん……」
「昨日の怪人を思い出して」
 マニィが助言する。
「昨日の怪人……」
 絵里奈の脳裏に昨日の怪人がよぎる。
『俺の野望は世界を闇で覆い尽くすことだ!!』
 大げさな野望を掲げていた昨日の怪人テナガオニ。
『俺はそうやって世界中のカメラを手で覆えば世界は闇で覆い尽くされるってわけだ!!』
 やっていることはせこいし、到底その野望に到達できるとは思えない。
「………………」
 それが昨日見た怪人の特徴。その特徴から考えてみる。
「これです」
 絵里奈はおもむろに三枚目の書類を指差す。
「そうかい。それじゃ、この案件をかなみちゃんにお願いするよ」
「正解、ですか?」
 絵里奈は不安そうに訊く。
「そこまでは私にもわからない。怪人の行動に一定の法則はあるものの絶対ではない。一応調査も行うのだけど、今回はかなみ君にそれもやってもらう」
「ボーナス、もらえるのよね?」
「その請求先が彼女の組織だよ」
「絵里奈さん、お願いします!!」
「え、えぇ!?」
「ボーナスください! できればいっぱい!!」
「あ、あの、新人の私にそういう権限にないんですけど……」
「え……」
 かなみは面を食らったあと、「あはは……」と力なく笑う。
「冗談ですよ。私にだってそのくらいわかってますよ」
「凄く必死に見えましたけど、冗談なんですね……」
 本人がそういうのだからそうなのだろう、と絵里奈は思った。
「さて現場には、かなみ君が行ってもらうんだけど、絵里奈君も同行してほしい」
「私もですか、同行?」
「私の指示に従うように。そういう指示でしょ?」
「は、はい」
 そう言われて、絵里奈はかなみの方を向く。
「それじゃ、現場に行こうか」
 マニィが言う。
 かなみは絵里奈の方を向く。
「よろしくお願いします、絵里奈さん」
「よ、よろしくお願いします」
 二人はお互いに礼をする。



 そんなわけで、二人は盗まれたというゴミ捨て場にやってくる。
「じ~」
 かなみはじっくりその場を凝視する。
「はあ、ダメです」
 かなみはため息を付いて目を伏せた。
「ここで魔力は全く感じません」
「魔力を全く感じませんか。それではここに怪人がいないってことですか?」
「まだそうとは決まったわけじゃないんですけど……」
「かなみはそういう感知能力が鈍いからね」
「そ、そうです」
 マニィが言っていることは正しいのだけど、そう言われると素直に認めるのが憚られるのが人間の心理だった。
「みあちゃんや社長だったら何か感知することができるかもしれないんですけど」
「それでしたら、みあさんか社長に来てもらったらどうでしょうか?」
「そうしたいんですけど、社長は忙しいでしょうし、みあちゃんは『自分でなんとかしなさい』って言うだろうし」
「それは困りましたね……」
 かなみと絵里奈はゴミ捨て場を見つめる。
 今日は回収日ではないので何もない。
「ここか……あまりいい思い出がないのよね」
「え?」
「あ、こっちの話です」
 若芽もいが倒れていた場所がここだったからだ。
 かなりつらい想いをしてここから運び出したあのときのことが脳裏をよぎった。
「どうしましょうか、かなみちゃん?」
「こういうときはあれしかないですね」
「あれ?」
「――張り込みです」
 かなみは断言する。
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