まほカン

jukaito

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第104話 新風! 少女が踏み入れる世界は怪人と魔法と (Dパート)

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「お前!? 魔法少女だったのか!?」
「ええ、そうよ!」
「魔法少女はゴミとは無縁だと噂に聞いていたが!」
「た、確かにそうね」
 カナミはゴ―ミィの言い分に頷かざるを得なかった。
「でも、魔法少女だって怪人を倒すためにゴミ屋敷に足を踏み入れるわよ!」
「ボーナスのためでしょ」
 マニィが余計なことを付け加える。
「な、なんだ……!? お前からなんともいえない気迫を感じる! これが魔法少女の気勢というやつか!?」
「なんか勘違いされてないかい?」
「いいわよ」
 カナミは呆れつつも、ステッキを振るい、魔法弾を発射する。
「うおっと!?」
 ゴ―ミィはヒョロリと避ける。

バァン!

 そして、避けられた魔法弾はゴ―ミィが持ってきたゴミ袋に命中する。
「あ……!」
 ゴミ袋は破れ、ゴミが床に散乱する。
「くさい……!」
 カナミは思わず鼻を抑える。
 魔法少女になったせいで五感が強化されているので、この強烈な臭いが余計に感じ取ってしまった。
「こいつは腐敗臭! かぐわしい香りじゃねえか!」
「ど、どこが!?」
「魔法少女はこいつを理解できねえのか」
「理解できる人間なんていないわよ、怪人!」
「そうか。だから俺の国が必要なんだよ!」
「あんたの国が必要なのはわかったけど、それは人のいないところでやって!」
「お前バカか!? 人がいなかったらゴミがなくて俺の国は建国できねえだろ!?」
「はああ!? あんたの国ってゴミが絶対必要なの!?」
「当たり前じゃねえか!」
「あ、当たり前なの……?」
「怪人の価値観はそれぞれだからね」
 マニィが補足する。
「あ~うん、それわかってたつもりだし、今までさんざんみてきたんだけど……」
 だからといって、いざ相対したときに「あ~またそういう怪人か」と嫌な気分にならないわけがなく、慣れるものでもなかった。
「とにかく! こういう敵はさっさと倒すに限るわ!」
 カナミは気持ちを切り替えて、魔法弾を撃つ。
「ちょいっと!!」
 ゴ―ミィはまたもヒョロリと避けてしまう。

バァン!

「ああ、しまった!?」
 そして、魔法弾が壁に着弾して粉塵が巻き上がる。
 それは臭いが一緒に周囲に撒き散らされることだった。
「くっさ!?」
「お、手を止めたな!? チャンスだぜ!!」
 ゴ―ミィは何かを投げてくる。
「え、何!?」
 カナミは思わず魔法弾で撃ち落とす。

パシャン!!

 それは、魔法弾が当たると同時に破裂して水を撒き散らす。
「わあ!?」
 その水はカナミにもかかる。
「ん~、なにこれ……」
 ゴミを集めるゴ―ミィが投げつけてきた。
 そいつが投げてきたものなんだからきっとろくなものじゃない。それになんだかこの水の感覚、覚えがある。
「……おすい」
 マニィが嫌な単語を口走る。
「わあああああ!? やめてやめてやめてええええッ!?」
 カナミは思考を停止するように叫んだ。
「スキありだぜ!」
 ゴ―ミィはすかさず手を伸ばす。
 細長い手が存外に伸びてきて、カナミの腕をつかむ。
「ふん!」
 そのまま、力任せにぶん回して叩きつけられた。
「あいたッ!?」
 その叩きつけられた先に、ゴミ袋があったので衝撃で中身がぶちまけられた。
「あぁ……気分悪くなってきた……」
 正直、叩きつけられたことより、ゴミが身体についたことの方がダメージが大きかった。
「ハハハハ! みたか、俺の実力を!」
「あんたよりもゴミの方が厄介ね」
「そんなに褒めるなよ!」
「褒めてない!」
 このまま怪人を調子づかせるとロクなことにならない。
 そう直感した、カナミはステッキから刃を引き抜く。
(魔法弾でかわされたら、またゴミがぶちまけられるからこれで!)
 ステッキの刃で斬ることを選んだ。

フン!

 しかし、刃は空(くう)を切る。
 ゴ―ミィは魔法弾を避けたときのようにヒョロリと軽やかに避けた。
「おっと!」
「こんのおおお!!」
 カナミはすかさず刃を振るう。
 しかし、ゴ―ミィはことごとくかわしてしまう。
 思ったよりもすばしっこく、身軽だった。狭い部屋で器用に立ち回って、カナミの斬撃をかわす。
「そらよ!」
 ゴ―ミィは避けたスキに、また何かを投げつける。
「水風船!?」
 カナミがその何かを視認した瞬間、頭にそれが当たる。

パシャン!!

 水風船がカナミの頭に命中し、割れて水がカナミの頭に思いっきりかかる。
「………………」
 水風船が当たったところで、ダメージはない。
 しかし、その中身はさっきと同じように生ゴミの生々しい臭いがたっぷりこもった汚水だった為、精神的ダメージが凄まじい。
「もう、いや……帰って、シャワー浴びたい……」
 両膝をついて弱音を吐く。
「ハハハハハ! まいったか、俺の実力に!!」
 ゴ―ミィは高笑いする。それがまた精神にくる。
「しかしよ、お前な」
 ゴ―ミィはカナミを覗き込む。
「――ゴミがよく似合うな」
 そう言われて、カナミは衝撃のあまり制止する。
「……今なんて?」
「――ゴミがよく似合うな。ゴミ魔法少女!」
「そこまで言ってないでしょ!?」
 カナミは立ち上がって、魔法弾を撃ち放つ。

ババババババァァァン!!

 けたたましい爆音とともに、爆発が巻き起こる。
「あ、なるほど!」
 カナミは一つ学習した。
――ゴミなんて舞う前に、こうして全部吹き飛ばしちゃえばいいんだ!
 度重なる不快感と屈辱感で、理性がやや明後日の方に吹っ飛んでいた。
「うわわわああああ、ちょっとまて! ちょっと待たんかい!?」
 魔法弾をかわし続けるゴーミィも、カナミのあまりの思いきりの良さに狼狽する。
「待たない! 誰が待つか!!」
「お前、迫力増したな!? ゴミ魔法少女!!」
「その呼び方やめなさい!」
「それじゃ、魔法少女ゴミ!」
「ゴミはあんたでしょ!?」
「俺はゴミじゃねえ! ゴ―ミィだ!!」
「どっちも変わらないでしょ!!」
「変わるわ! 名前っていうのは大事なんだぞ!! 魔法少女ゴミ!!」
「ああそうね! そんな気がしてきたわ!! とりあえず吹っ飛ばす!!」
 カナミは思う存分魔法弾をぶっ放す。

ババババババァァァン!!

 気づいた時には二階の部屋の壁やら天井やらが吹き飛んでしまった。
「あいつは!?」
 ちょっとだけ冷静になったカナミは、ゴ―ミィを探す。
 思う存分、魔法弾を撃ったけど、それでゴ―ミィが倒せていたわけではない。
 まだ近くにいる。そういう気配がするのだ。
「……どこに?」
 カナミは緊張した面持ちで周囲を見渡す。
「うりゃああああああああッ!!」
 ゴ―ミィの雄叫びが聞こえてくる。
 声がしたのは頭上の方だった。見上げると、夜空よりも黒い影が迫ってきた。
 黒い影――ゴミ袋だった。
 カナミはそれが何かを認識した途端、避けようとしたけど、遅かった。
 巨大な袋が質量に物を言わせて、カナミを押しつぶした。
「ギャブ!?」
 トマトが潰れたような悲鳴だった。
「どうだ!? 俺のとっておきだ!? ありったけのゴミを放り投げてぶつけてやったぜ!!」
 ゴ―ミィは勝利宣言のように言う。
「このゴミ袋がお前の墓石代わりだ。ちょうどいいだろ、魔法少女ゴミ?」
 ゴ―ミィは嫌味たっぷりにカナミに語りかける。
「冗談じゃないわあああああッ!!」
 カナミは叫びを上げて、ゴミ袋を魔法弾で吹き飛ばす。
「セブンスコール!!」
 特大の魔法弾を夜空へ打ち上げられる。

パァァァァァン!!

 そして、花火のように炸裂したかと思ったら、雨のように魔法弾が降り注ぐ。
「うぎゃあああああああああッ!!?」
 魔法弾を避け続けてきたゴ―ミィもさすがに雨まではかわしようがなく、文字通りに浴びるように魔法弾を受け続けた。
「ハァハァ、よくもやってくれたわね! 臭くて死ぬかと思ったわ!」
 カナミは荒らげた息を整えながら、ゴ―ミィへ歩み寄る。
「ゴミがゴミに押しつぶされて何がおかしいっていうんだよ!?」
「誰がゴミよ!?」
 カナミは言い返して、ステッキの刃を振るう。
「仕込みステッキ・ピンゾロの半!!」
 刃はゴ―ミィの黒い腕を切り払う。
「ぎゃああああああ、こりゃたまらん!!」
 ゴ―ミィは腕を捨てるように、この場を逃げようとする。
「あ、待て!」
 しかし、ゴ―ミィの素早さはゴミ袋を盗むときに証明されている。
 魔法弾を打ちまくったせいで、二階のこの部屋は吹きさらしになっている。つまり、すぐ外に逃げ出せる状況なのだ。
「待たない!」
 ゴ―ミィに外に逃げられる。そう思った瞬間だった。
「マジカルピストル!」

バァン!

 魔法の発声とともに、銃声が鳴り響く。
「あがッ!?」
 銃弾は、ゴ―ミィの頭に命中し、体勢が崩れる。
 それは、銃弾の威力というより、思わぬ方向から飛んできたことにより驚きの方が大きかったように見える。
「絵里奈さん!?」
 カナミは銃声が聞こえた方を見る。
 そこに立っていたのは絵里奈だった。
「あ、本当に魔法できちゃいました……」
 呆然と立ちつくしていた。
 今起きたことに理解が追いつていない様子だった。
 カナミにしても、驚きはあった。
 絵里奈が必死に魔法の練習をしていたのを目の当たりにしていた。
 だから、頑張り続ければいつかは魔法を扱うことはできると思っていた。
 いつか。そう、いつかのことであって、それは今夜できるなんて予想だにしなかった。しかも、ものの見事に敵に弾を命中させた。
「絵里奈さん、凄いです!」
 カナミは思わず絶賛する。
「え、えぇ、私にも魔法できちゃったんですけど……! あの、どうしましょう、これ!?」
「どうしましょうって……」
 絵里奈もカナミも困惑している。
――いや、まだ敵はいる。
 カナミはいち早く我に返って、その敵を見る。
「もう一人、仲間がいやがったのか!?」
 ゴ―ミィは絵里奈に敵意を向けていた。
「絵里奈さん、逃げてください!」
「えぇ!?」
 逃げて、と言われても、普通の人はいきなり逃げられるものじゃない。
「これでもくらえ!」
 ゴ―ミィは水風船を投げつける。
「危ない!!」
 カナミはとっさに動いて、絵里奈の前に出る。

パシャン!!

 水風船が割れて、カナミが頭を濡らす。
「…………………」
 カナミは沈黙する。
「カナミちゃん、大丈夫ですか!? 私を庇っちゃって!?」
「だ、大丈夫です……」
 カナミは震える声で言う。
「どうだ、俺の水風船爆弾はきくだろ!?」
 さらにゴ―ミィが煽ってくる。
「神殺砲!!」
 カナミはステッキを大砲へと変化させる。
「た、大砲!?」
 絵里奈は驚愕する。
「ボーナスキャノン!!」
 こうなったら、一気に決着をつけるべく砲弾を発射する。

バァァァァァァァァァァン!!

 砲弾は大爆発を起こす。
「す、凄い……! カナミちゃん、こんな魔法を使えるなんて……」
「外しちゃいました!」
「え?」
「ですから、外しちゃったんです!!」
「と、ということは……!」
 絵里奈は緊張で顔をひきつらせる。
「まだいますよ」
 カナミも大砲を構えたままだった。
「危ねえところだったじゃねえか!?」
 ゴ―ミィが目の前に飛び出てきて、叫んでくる。
「キャッ!?」
 絵里奈は驚いてのけぞる。
「あんな危ない大砲を撃ち込んできやがって!? 人に当たったらどうするんだよ!?」
「いや、あんたは人じゃないから問題ないでしょ」
「人でなし!!」
 ゴ―ミィは言い返す。
「ボーナスキャノン!!」
 すかさず砲弾を発射する。

バァァァァァァァァァァン!!

 しかし、外してしまった。
「ぬああああああああッ!! 神回避ぃぃぃぃぃぃッ!!」
 ゴ―ミィは魂の叫びとともに、砲弾を紙一重で回避した。
「なんて、身軽なのよ!?」
 カナミは毒づく。
「危なかった、今のは当たったらやばかった!? とんでもなくモンを二連発してきやがったな!? こんな魔法少女ゴミとは戦ってられるか!?」
 ゴ―ミィは撤退する。
「あ、待ちなさい!」
 カナミは止めようとする。
 しかし、砲弾を二連発した反動で、少し身体が重くなる。
(あ、逃げられる!)
 カナミがそう思った。
「マジカルキャノン!!」
 その時、絵里奈の手から砲弾が放たれる。

バァン!

 砲弾は見事ゴ―ミィを捉えて、腕に命中する。
「あがあああッ!!?」
 思いもよらない方向からの砲撃により、ゴ―ミィは体勢を崩す。
 砲弾自体は見た目が派手だったものの、威力は大したものじゃなかった。しかし、思いもよらない方向から、というのは大きなダメージになった。
「ボーナスキャノン!!」
 そこへ、カナミは間断なく砲弾を撃ち込む。
「うぎゃあああああああああッ!?」
 三発目でとうとうゴ―ミィに命中し、断末魔と爆音を上げる。
「よし!」
 カナミはガッツポーズをとる。
「こ、これで倒したんでしょうか?」
 絵里奈は不安げに訊く。
「はい、神殺砲の直撃でしたから! 跡形もなく消えましたよ!!」
「あ、跡形もなく……」
 絵里奈はもう一度、砲弾が爆散した方を見る。
 確かに怪人は跡形も吹っ飛んでいたことを認識させられた。
「すごい……」
 絵里奈は素直な気持ちを呟く。
「すごいです、カナミちゃん! あんな恐ろしい怪人をぶっ飛ばしちゃうなんて!?」
「そ、それほどでもないんですけど……」
「それほどでもありますよ! カナミちゃんこそ正義の魔法少女ですよ!!」
「あ、あははは」
 そこまで言われて、カナミは照れて頬を掻く。
「それでは、怪人も倒したことですし、直帰しましょう」
「あ、もう帰っちゃうんですね」
「そうですね……あとは鯖戸部長に報告するだけですよ。そっちは他に何かあるんですか?」
「いえ、私は特に何も……そちらの指示に従うだけなんで……でも、なんだか……」
 絵里奈は歯に噛んだ口調で言い継ぐ。
「このまま帰っちゃうのはもったいない気がしまして……」
「そうですか……」
 カナミは自分の身体を確認してみる。
「ひとまず変身を解除します。いつまでも変身してるのはちょっと疲れるので」
「あ、そうですね! もっと見ていたい気もしますが」
「え……」
「あ、いえいえいえ、なんでもないです!!」
「そうですか……」
 カナミは変身を解いて、魔法少女から普通の女子中学生に戻る。
「はあ……」
 変身を解くと、緊張感から開放されて脱力する。
 そのあたりは余所行きの高い服を脱いだ時に近い。
「ん?」
 変身を解くと、いつも汚れや怪我は消えて綺麗さっぱり消える。
 ただ今回はいつもとは違う違和感があった。
 身体が濡れていて、異臭がする。
「かなみちゃん、臭いです……」
 絵里奈は言う。
「あ、そ、そうですね……」
 変身しても汚水と異臭はこびりついていた。
 これはあのゴーミィの魔法なのか、それとも執念なのか。
 いずれにしても、おぞましいものを感じる。
「あ、ごめんなさい! 私を庇ってくれましたし!」
「いえいえ、大丈夫ですよ!」
「そうだ! そうですよ!!」
 絵里奈は名案を思いついたように両手を叩く。
「かなみちゃん、うちにお風呂入ったらどうでしょうか?」
「ええ!?」
「この近くですし、かなみちゃんの家は借金で水道が止まってると思いますので、いいと思ったのですけど」
「水道は止まってませんよ!!」
 さすがにそこまでは貧窮していない。
「えぇ!? そうだったんですか!?すみませんでした!?」
「あ、いえ……でも、お風呂はありがたいです……」
 かなみは、恐縮する絵里奈を見て、思わずそう言ってしまう。
「え、それじゃうちにきてくれますか!?」
「そ、それは……」
 かえって断りづらくなってしまった。
「いいんですか? 私、今汚いんですけど、あがっちゃって?」
「全然いいです! 私を庇ってくれたんですから! 全然迷惑じゃありませんから!!」
「え、えぇ……」
 ここでマニィは密かに「かなみは押しに弱いからね……」と呟いていた。
「来てください、かなみちゃん!!」
「は、はい……」
 かなみは絵里奈の異様な押しに負けた。



 そんなわけで、かなみは絵里奈の家にやってきた。
 絵里奈の家はマンションの一室で、みあほどではないけど清潔感が合ってそれなりの家賃がしそうなくらい立派なものだった。
 マンションに入った時、かなみは身なりを気にする。
 学校が終わってからずっと学生服のままだけど、汚水で身体は濡れてるし、異臭は残ったままなので、なんとなく汚れていて、場違いな感じがしてしまう。
「さ、かなみちゃん入って入って!」
「……お邪魔します」
 かなみは遠慮気味に、絵里奈の部屋に上がる。
「絵里奈さん、一人暮らしなんですか?」
「はい。就職を機にはじめまして」
 家具は整っていて、掃除は行き届いている。
「さ、かなみちゃん! さっそくお風呂に入りましょう!」
「え、ええ……って、絵里奈さんも一緒に!?」
「それは、私も汚れちゃいましたから……かなみちゃんと一緒にはいってみたいですから……」
「え、えぇ……!?」
 気づいたら、かなみは風呂場前の洗面場にいた。
 風呂場にはお湯をはる水音が聞こえてくる。
「そういえば……」
 ちゃんと浴槽につかるのは何日ぶりだろうか。
 大抵は水道代節約のためにシャワーですませている。でも、できれば浴槽にどっぷり浸かりたい。
 今ならそうしてもいい。
 はっきりいって、とても魅力的に感じる。
「……おふろ、おふろ、おふろ」
 かなみは自然と制服を脱いで、自然と風呂場に足を向ける。

ガラ

 浴槽を見ると、お湯ははられていて、湯気が立っている。
「あ、こりゃダメね……」
 かなみは観念して、浴槽に浸かる。
「あ~~~」
 思わず声を上げる。
 お湯に浸かる。そのあまりの気持ちの良さに天にも昇る気分になってくる。
 いつまでもこうしていたい。
「かなみちゃん、入りますよ」
「ええ!?」
 地上に足から引きずり下ろされた気分だった。
「絵里奈さん、どうして!? 私、まだ入ってるんですけど!?」
「せっかくですから一緒に入りたいと思いまして。ダメでしたか?」
「い、いえいえ、そんなことないですけど!」
「それでは遠慮なく」
 そう言って本当に絵里奈は遠慮なく入ってくる。
「かなみちゃん、お湯加減はどうですか?」
「は、はい……ちょうどいいですよ!」
「良かったです。そろそろ身体を洗った方がいいんじゃないですか?」
「そ、そうですね……」
 かなみは浴槽から出て、備え付けのボディソープを使う。
 タオルで身体を拭くたびに身体の汚れが落ちていく感覚が心地よい。
「身体を拭いてるかなみちゃん、なんだか……」
「え、なんですか?」
「色気がありますね」
「えぇ!?」
「なんでもありません。かなみちゃんはそのまま身体を拭いて、じっくり見てますから」
「え、えぇ……」
 じっくり見ているとやりづらい。
 そう思ったけど、お風呂を借りている手前、ちょっと言いづらい。
 とはいえ、身体を拭くのは気持ちいいので拭いてしまう。
「あ、私お背中を流しましょうか?」
「え、背中?」
「というか、流します!」
「え、確定事項!?」
「さあ、大人しく座ってください」
「は、はい」
 絵里奈がなんだか押しが強くなった。そして、かなみは押しに弱かった。
「かなみちゃん、どうですか?
「あ、そ、そ、その……気持ち……いいです」
 素直に答えるのがなんだか怖い。でも、気持ちいいのは事実だった。
「かなみちゃんのちっちゃくて可愛い背中、とてもいいですね……」
 そんな一言を聞くと、ブルッと寒気で震えた。
「あ、あの……背中はもういいですから!」
「背中はもういいです、か……それでしたら、次は髪を洗いましょうか」
「か、髪!? それでしたら、自分で洗えますから大丈夫です!!」
「そうですか……」
 絵里奈はもの凄く残念そうに言う。
(そういえば、翠華さんも私の髪を触りたがっていたような……)
 思わぬところで、翠華にも飛び火した。



 かなみはお風呂を出た後、代わりの服がないことに気がつく。
「絵里奈さん、制服は?」
「あれなら汚れていたので洗濯しました」
 着てきた制服を着ようとしたものの、絵里奈はその選択肢を潰してきた。
「え、それじゃ私どうしたら……?」
「大丈夫です! 私の服を着てください!」
「え、でも……」
 かなみは中学生、しかも小柄で小学生並の体格だけど、絵里奈は大人の体格をしている。
 服にしてもサイズが違いすぎる。
「あ、サイズですね! 大丈夫ですよ! かなみちゃんのサイズの服も揃えていますから」
「なんで揃ってるんですか!?」
 疑問はあるものの、裸のままでいるわけもなく、着替えざるをえなかった。
「すごい派手……」
 その服は何かのアニメのコスプレかと思うほど凝った衣装で、これで外を出るにははばかられる。
「思った通り、凄く似合います!!」
「は、はあ……そうですか……」
 かなみは変身したときとはまた違う感覚に気恥ずかしさがこみ上げてくる。
「制服が洗濯し終わるまでうちでゆっくりしていってくださいね」
「え、それって……」
 もう時間は三時になりそうだった。
「ふわああああ」
 時間を確認したら急に眠気が押し寄せてきて、あくびをする。
「眠くなってきましたか? それでしたら、ベッドを使ってください!」
「ベッド? でも、ベッドを使っちゃったら、絵里奈さんが……」
「一緒に寝れば問題ないですよ!」
「………………」
 かなみは絵里奈が何を言っているのか理解できなかった。
 多分、睡魔でウトウトしているせいだろうとも思った。



 翌朝、学校は休日だったので、朝から出社した。
「おはようございます」
「おはよう、かなみさん」
 オフィスには既に翠華がいた。
「翠華さん、相変わらず早いですね」
「かなみさんも昨日は遅かったから寝不足じゃないの?」
「そうなんですよ。昨日は夜中に現れる怪人が相手でして……」
 かなみは昨晩の戦いを翠華に話す。
「……それは大変だったわね」
「絵里奈さんが魔法を出した時には驚きましたよ」
「それもびっくりね。社長はそういうところを見ていたのかしら?」
「ありそうですね。絵里奈さんの魔法少女の素質ですかね」
「そうね。ところで、かなみさん」
 翠華は神妙な面持ちで次のことを問いかける。
「――シャンプの香りがいつものものと違うんだけど変えたの?」
「……え?」
 かなみは硬直する。
「か、香りって、どういうことですか?」
「かなみさんの髪からはいつも石鹸か高級そうなシャンプーの香りがするのだけど、今朝はそれのどちらでもないのよ」
「あはは、翠華さん鋭いですね」
 なんだか翠華が怖く感じるかなみだった。
 ここで素直に絵里奈の家に泊めてもらったといってもいいのだろうか。
「シャンプーを変えただけならいいのだけど……」
「変えただけなら……」
「――あの絵里奈って奴の家に泊めてもらった、とか?」
 かなみの背後から、みあの声がする。
「みあちゃん、おはよう」
「それより、絵里奈さんの家に泊めてもらったって、どういうこと?」
 かなみはみあに挨拶するのに対して、翠華は構わずかなみを問い詰める。
「え、えぇ……」
「それはあたしも気になってるのよね。泊めてもらったの?」
 翠華とみあは揃って、かなみを問い詰める。
「そ、それは……」
 正直、別に隠しておくことでもないのだけど、二人にこうして問い詰められると正直に答えると面倒なことになりそうな気がしてならない。
「かなみ?」「かなみさん?」
「うーん……」
 しかし、ここまで迫られると答えないわけにもいかない。
「実は昨晩、絵里奈さんに泊めてもらいました」
 それから、かなみは昨晩の一部始終を話しはじめた。
 ゴミを盗む怪人が現れるのを待って、一晩中ゴミ捨て場を見張っていた。
「……というわけで、お風呂で背中を流してもらったり、変わった服を着せてもらったりしたんだけど……」
「背中を流す……服を着せる……」
 翠華はそれを聞いて、わなわなと震える。
「そのあとのことをよく憶えてなくて……――朝起きたら、ベッドの上にいました」
「「ベッド!?」」
 翠華とみあは揃って驚く。
「かなみ!!」
「は、はい!?」
 みあは両手をかなみの両肩に乗せて迫る。
「一緒にベッドで寝たの、あたし以外の奴と?」
「そ、それが憶えてないの!! いつの間にか寝ちゃって……」
「あの女は? 絵里奈はどこで寝てたの?」
「え、えっと……ソファーで寝てた……」
「ソファーで、寝てた? ベッドじゃなくて?」
 みあはキョトンとする。
「多分、今もまだ寝てると思うんだけど……一緒のベッドには多分、寝てないと思うわ、多分……」
 かなみはよく憶えてないので、多分が多い言い方になってしまった。
「そう……だったら、今夜はあたしんちに泊まる?」
「え、えぇ……」
 どうしてこの話の流れでそうなるのか、かなみにはわからず戸惑った。
「ウシシ、おいこのままでいいのか?」
「こ、このままって……」
 ウシィは翠華へ耳打ちする。
「ウシシ、ぽっと出の女もかなみ嬢を泊めちまったんだ。ウシシ、このままだと盗られちまうんじゃねえか?」
「と、盗られる……」
「ウシシ、ただでさえ、みあ嬢にリードされてるんだ。積極的にいけよ」
「そんな……私は……」
 翠華はウシィの提案に及び腰になってしまう。
「おはようございます」
 そして、その話題の渦中にある絵里奈がやってくる。
「絵里奈さん!? どうして!?」
「昨晩の怪人退治の報告にやってきたのですが」
「あ、いえ、そうじゃなくて、ソファーで寝ていたんじゃ……」
「はい、すぐ起きてから来ました」
「そうなんですか……」
 かなみは、なんてタイミングで来るのかと困惑する。
「あんた、かなみとお風呂入ったり、同じ部屋に泊めたそうじゃないの?」
 みあが絵里奈に問い詰める。
「はい、泊めました」
 絵里奈はあっさり認める。
「そ、そそそ、それじゃ、」
 翠華は顔を真っ赤にして絵里奈に迫る。
「か、かか、かなみさんと同じ、べべ、ベッドで寝たんですか!?」
「同じベッド? かなみちゃんと?」
 絵里奈はポカンとする。
「………………」
 しばし、気まずい沈黙が流れる。
「……ちょ、ちょっとだけ」
 やがて、絵里奈が顔を赤らめて答える。
「添い寝しました」
「「「………………」」」
 少女達は絶句する。
 まさに爆弾発言だった。
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