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第108話 炎上! 狂乱の遊戯盤に駒の少女は進む (Aパート)
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ルールその一、ゲームの開始は会議終了後。
ルールその二、ホテルがフロアごと倒壊するような損害を与えた場合はその者はゲーム失格とする。判定はホテルの支配人が執り行う。
ルールその三、カリウスがホテルの外に出た時点でこのゲームは終了とする。外というのは一階のロビーの出入り口。ただしその出入り口を破壊した場合も即終了。
以上、三つのルールを守った上でカリウスを倒したものに、最高役員十二席の座を明け渡す。
「それでは諸君、頑張ってくれたまえ」
カリウスはまるで他人事のように、最後に支部長達へ発破をかけるように言う。
「ケ! そうやって余裕ぶっこいてられるのも今のうちだけだ! 俺が後悔すらさせる暇を与えずに消し炭にしてやるぜ!」
ヒバシラはそう言って、会議室を出ていく。
「フフフ、血気盛んなことだ。ゲームを大いに盛り上げてくれることだろう」
「ヒバシラのセリフではないが、余裕ありすぎて油断してはいないか?」
チューソーが問う。
「まさか。私は君達のチカラを評価している。油断していれば即座に君達に倒されることだろう」
「とてもそうはみえないが……言動と態度が必ずしも一致するとは限らないものだ」
極星が言う。
「特に――お前のような詐欺師まがいの十二席はな」
極星とチューソーは続いて会議場を出ていく。
「私もこの状況を楽しませてもらうわ」
「お祭り、大いに結構や!」
いろか、マイデとハーンがそれに続いて出ていく。
「………………」
メンコ姫はかなみを一瞥し、無言のまま会議場を出ていく。
(私、目の敵にしてる? そりゃ、応鬼って怪人を倒したあるみ社長と同じ魔法少女だけど……それだったら、あるみ社長に恨みを向けてほしいんだけど……)
あるみだったら、そのくらいものともしないだろう。
「私もこのチャンスをものにさせてもらいます」
影鉄もそう言って出ていく。
そして、会議場には、かなみとヨロズだけになった。
「さて、ゲームは開始された。君達はどうする?」
カリウスは二人に問いかける。
「俺は十二席の座に興味がないわけではないが、お前を倒してその座につこうとは思わん」
「静観か」
「ただし、襲いかかってくるのなら容赦はしない。お前も支部長達も」
「フフフ、結構」
ヨロズは獣の目を光らせて答えて、カリウスは満足そうに笑みを浮かべた、ように見えた。
「それで、君は?」
「どうするも何も私はホテルを出たいだけよ」
「それもまた結構。だが今は下手に動かない方がいい」
「どうして?」
「今頃、ヒバシラあたりは血眼になって私を探していることだろう。そんなときにもし誰かと遭遇したら……」
「あ~、そういうことね」
かなみはカリウスの言いたいことが理解できた。
「誰彼構わずケンカ売ってきそうだし、私は戦いたくないわよ」
第一戦っても一文の得にならない。
そんな戦いはしたくないからこそ一刻も早くこのホテルを出たいところなのに。
「あんたがさっさと倒されたらいいのに。そうすれば早く終わるのに」
かなみはカリウスへ言う。
「正直な意見だね。だが、それもありうるだろう、何しろ支部長達だからね」
「他人事みたいに……狙われてるのはあんたなのよ?」
「もちろん理解しているさ。私は望んでこの状況になっている」
「そうよね、私は望んでないから大迷惑よ」
かなみははっきりと今の気持ちを伝えてやった。
それでもこの男に対してはノレンに腕押しだろうけど。
「迷惑か。しかし、私は君にもこのゲームに参加して欲しいと思っているんだよ」
カリウスはそう言って、スッと姿を消す。
「参加って、あいつは私を十二席につかせたいの?」
「かもしれないな」
かなみは冗談のつもりで言ったのだけど、ヨロズはそれを真顔で返す。
「……何考えてるんだか」
人間の自分が怪人達の秘密結社の役員。それも最高役員の地位に上り詰める。
おかしなことこの上ない話だ。
第一、魔法少女として怪人と敵対している。そんな自分が悪の秘密結社に入るなんてありえない。
「しかし、お前は何を考えてる?」
「え?」
「支部長達がホテルを闊歩するこの状況……易々と出口までいけるとは思えんが」
「そうね……」
かなみは考える。
すると、会議場がやたら広くなったかのように感じる。
先程までここでは一触即発、どころか爆発してしまいそうなほど強烈な圧迫感に襲われていた。
それも支部長達が揃いも揃って血の気が多くいつこの会議場が血の惨状にならないか、不安と緊張で生きた心地がしなかった。
今はその支部長達がいなくなって、すっかり閑散としていた。まるで廃墟になったみたいだ。
「あ……」
途端に気疲れがだるみになって襲いかかってくる。
「ひとまず休みたいわね」
「なるほど、一旦様子見に徹するというわけか。状況を踏まえた判断だ」
「そこまで考えたわけじゃないんだけど……」
様子見というのは悪くない判断な気がする。
その間に、誰かがカリウスを倒してくれればゲーム終了で誰とも戦わずにホテルが出られる。うん、そうしよう。
「スイートルームに行くわ」
「では、俺もそうしよう」
「なんでよ? 別にあんたも戦えばいいじゃない?」
「状況を見据えて待機する。それも必要なことだとテンホーから教わった、今それを実践する時だと判断した」
「……テンホー、また余計なことを。まあいいわ、今回は別にあんたと戦うわけじゃないんだから」
「む、それはそうだが、俺はお前と戦いたい」
「あんたのそんな気持ちを知りたいわけじゃないわ。早く部屋に戻りましょう」
かなみとヨロズは会議室を出る。
「なんで、あんたが私達のスイートルームにいるわけよ!?」
「私が予約した部屋だ。私がいて何の不思議がある?」
カリウスは当たり前のようにそう答える。
「私が予約した部屋って……私とヨロズで予約したんじゃないの?」
「正確には、君とヨロズ――私だ」
カリウスはそれぞれ指差して、最後に自分を指して答える。
「三人で予約したの!?」
「そうだよ。気に入ってくれたかい?」
「スイートルームは気に入ったわ。あんたは気に入らないけど」
「フフフ、正直な感想どうもありがとう」
カリウスはかなみの嫌味さえ愉快そうだった。
「どうして三人で予約したの?」
「その方が楽しいことになると思ってね」
「私は楽しくない!!」
「私は楽しい」
かなみはカリウスへ睨みつける。
「……平行線だな」
「そうね。交わらないわね」
かなみはため息をついて、別のソファーに座る。
「交わらないなら交わらないなりの接し方があるということか」
「別にそんな大したものじゃないわよ」
「いや、実際大したものだよ」
「私をおだてて、何が狙いなの?」
かなみは依然として、不満顔で返す。
「正当に評価しているだけだよ」
「あんたの正当は信じられないのよね」
「まあ、正当な判断だよ」
どうにもおちょくられているような気がしてならない。
「しかし、君は十二席の座に興味はないのか? この場で私を倒せばその座につけるのだぞ」
「興味ないって言ったでしょ! 私は魔法少女よ、悪の秘密結社の幹部になんてなるわけないじゃない!」
「常識で言えばそうだろう。だが、君はその枠にはまらない存在だと私は思ってるの?」
「それでおだててるつもりなの? あんた相当ヘタね」
「そんなつもりはない。言っただろ、正当に評価しているだけだと」
カリウスがそう言っても、かなみは不審な目を向けたままだった。
「ところで、以前の話は憶えてるかな?」
「以前の話?」
「最高役員十二席の席長・判真の件だよ」
「あ……!」
カリウスにそう言われて、かなみは思い出す。
以前、カリウスから持ちかけられたことがあった。
『最高役員十二席の席長・判真を倒す』
それを果たしたときに、十億円渡すという話。
「それは断ったはずでしょ」
「だが、その際に君はこうもいった『最低百億は用意しなさいよ』とも」
「……憶えてないわ」
嘘だった。かなみはちゃんと憶えている。
「あのとき、私は表立って動けなかったからね。だが、今は違う」
「百億用意したっていうの?」
「そうだ」
カリウスはあっさり答えた。
「えぇ!?」
かなみが驚くと、カリウスは指をパチンと鳴らす。
アタッシュケースがテーブルの上に出現する。
「一億円ある」
「一億!?」
パカッとケースが開く。そこにはビッシリと詰め込まれた一億円札があった。
「ほ、本当に本物の!?」
「本当に本物だよ」
「悪いことすると儲かるのね」
「まさしくそのとおりだよ」
嫌味で言ったつもりだったけど、カリウスはまともに返された。
「そんな悪いことしたお金なんていらないわ」
「金に善悪はない。それは魔法も同じことだよ」
「…………」
金と魔法は同じ。
そう思ったら、アタッシュケースの中に詰まった札束から魔力めいたものを感じた。
「感じ取ったかい?」
カリウスが問いかける。
「人の想いが込められた物品には魔力が宿る。これはそういうものだよ」
「あんた、このお金はどうやって手に入れたの!?」
「さあ……君の言う通り、悪いことか。ご想像に任せるよ」
「………………」
かなみはアタッシュケースの札束を見つめる。
「今ならこのケースを百個分用意できる。いや君が望むならそれ以上用意もできる」
「前にも言ったでしょ、この話は受けられないわ」
「どうしても?」
「どうしてもよ!」
「ふむ……」
カリウスはもう一度指をパチンと鳴らして、アタッシュケースを消す。
「気が変わったらいつでも、といったところかな」
「変わらないわよ!」
「さて……」
かなみは強く言い返すものの、カリウスは気にした素振りもなく話題を変える。
「君はこの状況をどうするつもりかな?」
「どうするって……」
「君が興味はなくとも、嵐の渦中にいるということだよ」
「その嵐に放り込んだのはあんたでしょ」
かなみは恨めしげにカリウスを見る。
「今頃ヒバシラが血眼になってあんたを探してるでしょうね」
「それはさぞ見ものだろうね」
「あんたがここにいるって言ってもいいのよ」
「私は『売り渡す』つもりかい?」
「う……」
カリウスに問われて、かなみは口をつまらせる。
売り渡す。嫌な言い回しだ。
かつて、かなみは借金のせいで黒服の男に売り渡されるかもしれない危機的状況に陥った。
それに、このカリウスにも翠華達を人質にして強制契約という形で、売り渡されたこともあった。
カリウスはわざとそういう言い回しで、かなみへ問いかけた。
「あんた、本当に嫌な奴ね」
「そう思うのだったら、『売り渡せば』いい」
「………………」
かなみは顔をしかめる。
できることなら、そうしてやりたい。
でも、『売り渡す』なんてことはしたくない。
嫌な奴だけど、『売り渡す』ことで、自分が『売り渡された』ときのことを連想して、嫌な想いがこみ上げる。
それはとても後味の悪いことだった。
こいつはかなみのそういう気性を理解していて、あえてそういう言い回しをする。
とても苛立たしい。だけど……。
「あんたを売り渡さない」
かなみはそう決断した。
「それが賢明だろう」
カリウスは感心したように言う。
その上から目線がまた苛立たしい。
「よいのか?」
ヨロズが問う。
「それで面倒事に巻き込まれたら嫌なのよ。ヒバシラなんて呼んできたらこの部屋を火の海になりそうだし」
「逆にお前がヒバシラを倒せばよいのではないか?」
「そんなことできるわけないでしょ」
会議室で直接相対してその威圧感を肌で感じた。戦っても勝ち目がないということを。
「冷静で確実な状況分析だ」
「……褒めても何も出ないわよ」
「無一文だからな」
ヨロズは言う。
「そういうことじゃなくて!」
かなみがツッコミを入れる。
「って、こんなところで和気あいあいしている場合じゃなくて!」
「紅茶でも淹れようか? いや、コーヒの方がいいかな?」
カリウスが提案してくる。
「そうじゃなくて! どうするのよ、これから?」
かなみはカリウスへ問う。
「まさか、ずっとこのまま部屋にいるつもりじゃないでしょうね?」
それは、かなみとしてはとても困る。
いつヒバシラやチューソーや他の支部長達がこの部屋にやってこないとも限らない。
もちろん、追い返すつもりではあるものの、強引に踏み込まれたら防げる自信はまったくない。
そうなったら地獄絵図になることは間違いない。
そうならないためにも一刻も早く出ていって欲しいのだけど。
「まさか。それではゲームの面白みがない」
「だったら……」
「だが、それは今すぐじゃない」
「今すぐじゃないんだったら、いつよ?」
「さあて、いつかな?」
のらりくらりとした回答に、かなみは睨みつける。
コンコン!
扉をノックする音が聞こえる。
「――!」
誰か支部長がここにカリウスがいるのを嗅ぎつけてやってきたのか。
「来客か。出たらどうだ?」
カリウスが言ってくる。
一体誰のせいでこんなことになっているのか、と恨めしく思う。
「それにしても誰が……?」
かなみはドアスコープを覗いてみる。
「ひ……!」
思わず小さく悲鳴を上げる。
廊下を覗いてみたら、そこに浮かんでいた般若の面に恐ろしさを感じたからだ。
「メンコ姫だ」
彼女はそう名乗った。
「な、何か用?」
「話したいことがあって来た。入れて欲しいのだが」
「入れたくない、って言ったら?」
「――扉を壊して押し入る」
「強引!? でも、そんなことしたらゲームは失格なんじゃないの!?」
「ルールはホテルがフロアごと倒壊するような損害を与えた場合、失格だったはず。ドアの一つや二つ壊したくらいで失格にならない」
「あ……そうだったわね」
ドアの一つでも壊したら失格にしなさいよ、
「それに、オラの最優先目的はおめえにある」
「ええ、なんで私!?」
「おめえと話がしたいから入れてくれ。さもなくば、この扉を壊す」
「だから強引だってば!! ちょっ、ちょっと落ち着きなさい!!」
「オラはいたって冷静だ。冷静だから扉を壊す」
「それのどこが冷静なのよ!? 話だったらここでちゃんときくから!!」
「それはダメだ」
「どうして!?」
「話をするときは面と向かってするのが礼儀だと教わっている」
「扉を壊さないのが礼儀だって教わらなかったの!?」
「教わらなかった」
「一体どんな教育受けてるのよ、怪人達は!?」
ヨロズといい、人間の常識とはかけ離れた教育を受けているみたいだ。
どうせ教育するなら人間の常識を学ばせるべきだ、とクレームをつけてやりたい、と思った。
「わ、わかったわ。話を聞くわ」
かなみは部屋の奥にいるカリウスの方を見やる。
「一つだけお願いがあるんだけど、聞いてくれる?」
「きこう」
意外にそこは素直に聞いてくれた。
「何があっても、ここで戦わないこと」
「不戦協定というものか」
「そうよ。不戦協定! 何があっても不戦よ!」
「いいだろう。オラも戦いにきたわけじゃねえからな」
「ほ、本当?」
「オラ、嘘つかねえ」
「それはよかった。それじゃ、入って」
かなみはドアを開ける。
改めて見ると廊下にポツンと立っているメンコ姫の姿はどこか可愛げを感じる。背中のバカでかい棍棒がなければ、の話だけど。
「邪魔する」
メンコ姫は一礼する。意外に礼儀正しい。
さっきまでのドアを壊して入る。と物騒なことを言い放った怪人とは思えない。
「それじゃお話しましょう」
かなみはメンコ姫を玄関で引き止めた。
いくら、戦わないと約束はしても、カリウスと鉢合わせしたらどうなるかわからない。
メンコ姫の言い分、面と向かって話をする。それだけなら、この玄関だけで十分にできる。
なんとかして、カリウスと会うこと無くこの場を切り抜ける。
「立ち話もなんだから、紅茶を淹れるよ」
「――!?」
背後からカリウスの声がする。
かなみは心臓ごと身体が飛び上がらんばかりに跳ね上がる。
「な、なななな!?」
「こちらに来たらどうだ、メンコ姫」
かなみが何か言ってやろうとして、先にカリウスがメンコ姫へ語りかける。
「ああ」
メンコ姫は短くも簡潔に答える。
そのリアクションからして、いきなり襲いかかることはないだろう。
かなみが呆気にとられているうちに、カリウスのいる奥へと歩み寄る。
「た、戦わないの?」
かなみは自分の隣にまで踏み込んできたメンコ姫に訊く。
「戦わないと不戦協定を結んだはず。それに言ったはずだ、オラの最優先目的はおめえだと」
「ああ、それは本気なのね……」
「オラは本気しか言わねえ」
般若の面で表情は窺い知ることはできないけど、その語気から嘘は感じられなかった。
ひとまずいきなり戦いになることは回避できそうだ。
そんなわけで、かなみとメンコ姫はテーブルを挟んで対面している。
「君の場合、緑茶の方が良かったかな?」
カリウスはテーブルにティーカップを並べ、手にはティーポットを持って、メンコ姫へ問う。
「そうだな、緑茶は好きだ」
「そうか」
メンコ姫が答えるやいなや、テーブルのティーカップは湯呑に、ティーポットは急須に変化する。
「マジシャンに向いてるんじゃないの?」
「自分でもそう思うよ」
かなみの問いかけに、カリウスはおどけた調子で返す。
「それで話って何?」
かなみはメンコ姫に訊く。
十二席の座より優先する目的とは一体何か。
思い当たる節はある。
前東北支部長・応鬼はあるみが倒した。そのことに関して、あるみや魔法少女に対して強い敵対心を持っているはず。
会議室でも応鬼を侮辱したヒバシラに対して強い憎しみを向けていた。
あれがかなみに向けられないとも限らない。
正直とんだとばっちりだ。応鬼を倒したのはあるみであって、自分は関係ない。
それを言っても、このメンコ姫が納得してくれるだろうか。
憂鬱で胸が張り裂けそうだ。
「応鬼様を倒した、というのは、魔法少女アルミの仕業というのは本当か?」
「……え?」
「本当か? と、訊いている」
「本当、よ。私は実際に見たわけじゃないから、本人から聞いただけだけど」
「そっか……」
メンコ姫は顔を伏せる。
面のせいで表情は伺いしれないけど、悔しさと悲しさが伝わってくる。それが怒りになって自分が向けられないかと、かなみは内心ヒヤヒヤする。
「その魔法少女アルミとおめえ、魔法少女カナミはどっちがつええ?」
「どっちが強いかって? そんなの比べるまでもないわよ」
「おめえはつええのか?」
「そんなわけないでしょ……強いのは――魔法少女アルミよ」
「そっか、魔法少女アルミはそんなに強いのか。それじゃ、――オラじゃ逆立ちしても勝てねえな」
メンコ姫は自嘲気味に言う。
かなみはその様子に少しだけ親近感を覚えた。
「応鬼様は偉大な御方だった。オラはそれに近づけるよう頑張ってきたが、足元にも及ばない」
「でも、あなたはその応鬼の後を継いで東北支部長になったんじゃないの」
「そうだな。だけんども、オラから申し出たことじゃねえ。幹部の御座敷がオラを推挙したからだ。そんで誰も反対しなかった。オラには過ぎた立場であるにも関わらずな」
「そ、そうなんだ」
かなみは意外に思う。
怪人連中はどいつもこいつもギラついた目で野心に溢れてて出世欲にまみれた印象だった。
支部長の座と、聞けば喜んで奪い取ろうとするものだとばかりだと思っていた。なのに、このメンコ姫は他の怪人から推挙されて東北支部長の座についた。どうにも周りから祭り上げられたような感じだ。
「分不相応な地位だと思っている。だが、与えられた地位とかけられた期待には全身全霊で応えたいと思っている」
それはメンコ姫からの決意表明だった。
「そう……それは、いいことね」
正直、怪人とは敵対関係なので、あまり大っぴらには言いづらいけど。
「いいことか。おめえもそう思うか?」
「え、ええ……」
「魔法少女カナミか……噂に聞いた通りだ」
「どんな噂よ!?」
「相手を認める度量の深さがある。それは支部長クラスの器の大きさときく」
「俺もそう思う」
ヨロズも同意する。
「あんたがその噂を流してるんじゃないの」
「俺は本当のことを言ってるだけだ」
「やっぱりあんたじゃないの!?」
とんだ迷惑行為だった。
「まあ、十二席や支部長と戦っていれば嫌でも名は上がる。あることないこと、噂は広まっていくものだよ」
カリウスは言う。
「あんたは黙ってて……」
かなみは頭を抱えて言う。
「魔法少女カナミ、逢えてよかった」
メンコ姫はかなみへ言う。
「一つおめえに頼みがある」
「何?」
魔法少女アルミに会わせて欲しい。
それくらいの頼みだったらきいてもいいかな、と、かなみは内心予想していた。
「――オラと友達になってほしい」
「と、ともだちぃッ!?」
あまりにも予想外の頼みだった。
「断るか? やっぱり、怪人と魔法少女は友達になれねえか」
「こ、ここ断るつもりじゃないわ! ただびっくりしただけで!」
「びっくりしたと断るは同じ意味でねえか?」
「違う意味よ!」
「だけんども、オラと魔法少女カナミでは友達になるには釣り合いがとれねえ。無茶な頼みなのは重々承知だ」
「そ、そういうわけじゃなくて!? あんた、支部長でしょ! そんな凄い怪人が、魔法少女の、人間の私と友達なんて……」
「人間でもおめえはすげえことは噂でよお聞いている」
「私は別に凄くないわよ」
「いやいや、謙遜しなくたってええ。十二席のヘヴル様とも渡り合ったのならオラには遠く及ばねえ」
「そんな大したことしてないんだけど……」
「……やっぱり、怪人と魔法少女は友達になれねえか……」
メンコ姫はガックリと肩を落とす。
「そ、そんなこと言ってないでしょ! でも、どうして私と友達になりたいって?」
何か裏があるんじゃないかと警戒してしまう。
「おめえに憧れていた。それだけじゃダメなのか?」
「憧れてるって?」
「応鬼様を倒したっていう魔法少女に興味があったし、十二席のヘヴル様と渡り合ったって話を聞いて憧れてたんだ。それにできれば友達になりてえとも思った。嘘じゃねえし、騙すつもりもねえ、このとおりだ、オラと友達になってほしい」
メンコ姫は両手をテーブルについて頭を下げる。
「そ、そんなことしなくていいわよ! 友達になるんだったらそんな頭を下げることはないわ!!」
「それなら!」
メンコ姫は顔を上げる。
「あ、でも、お面くらいは取って欲しいかな……そのお面、ちょっと怖いから……」
「そっか……! 友達になるんだったら、これ外さねえとな」
メンコ姫は般若の面を取る。
「――!」
「いやあ、支部長になるんだったら、迫力がねえといけねえと、御座敷が付けろとうるさくてな」
「かわいい……」
「え?」
「可愛い!!」
かなみはテーブルから乗り出して食い気味に言う。
メンコ姫の素顔は、クリッとした桃色の瞳、芸術的な曲線を描いた花、愛嬌を感じる唇。
般若の面をとったらそれ以上に恐ろしい怪人の素顔があると思っていただけに意外すぎる可愛らしい童女の顔だった。
「え、え!? 可愛いって!?」
メンコ姫は頬を赤らめて慌てふためく。
慌てふためいた顔が余計に可愛らしい。
「あんたのことよ!? そんな可愛い顔してるんならお面なんて付けなくてもいいじゃない!?」
「そ、そっか……付けなくてもいいか……」
メンコ姫は般若の面を見つめる。
「それで友達になってくれるのか、魔法少女カナミ?」
メンコ姫は懇願の表情を浮かべる。
同じ問いかけだけど、面を付けていた時は威圧感があったものの、素顔の今はまったくそれがない。むしろ、可愛げすら感じる。
迫力がないから般若の面をつけろといった、その御座敷という幹部の意見も納得がいく。
「そ、それは……」
懇願されると、かなみは弱かった。
「わかったわ。でも、もう一つお願いがあるわ」
「なんだ? できる限りのことはきくが」
「友達相手に大げさな呼び方はやめて。かなみでいいわ」
かなみは立ち上がって手を差し出す。
「……そっか」
メンコ姫は立ち上がって、その手を握り返す。
「かなみ、こんな呼び方でいいか?」
「ええ、メンコちゃん」
「メンコちゃん?」
「あ、ごめんね。その可愛い顔をしてたからつい?」
「いや、それでええ。その呼び方、気に入った」
「本当、よかった。あははは」
かなみが笑うと、メンコ姫もつられて笑みを浮かべる。
ルールその二、ホテルがフロアごと倒壊するような損害を与えた場合はその者はゲーム失格とする。判定はホテルの支配人が執り行う。
ルールその三、カリウスがホテルの外に出た時点でこのゲームは終了とする。外というのは一階のロビーの出入り口。ただしその出入り口を破壊した場合も即終了。
以上、三つのルールを守った上でカリウスを倒したものに、最高役員十二席の座を明け渡す。
「それでは諸君、頑張ってくれたまえ」
カリウスはまるで他人事のように、最後に支部長達へ発破をかけるように言う。
「ケ! そうやって余裕ぶっこいてられるのも今のうちだけだ! 俺が後悔すらさせる暇を与えずに消し炭にしてやるぜ!」
ヒバシラはそう言って、会議室を出ていく。
「フフフ、血気盛んなことだ。ゲームを大いに盛り上げてくれることだろう」
「ヒバシラのセリフではないが、余裕ありすぎて油断してはいないか?」
チューソーが問う。
「まさか。私は君達のチカラを評価している。油断していれば即座に君達に倒されることだろう」
「とてもそうはみえないが……言動と態度が必ずしも一致するとは限らないものだ」
極星が言う。
「特に――お前のような詐欺師まがいの十二席はな」
極星とチューソーは続いて会議場を出ていく。
「私もこの状況を楽しませてもらうわ」
「お祭り、大いに結構や!」
いろか、マイデとハーンがそれに続いて出ていく。
「………………」
メンコ姫はかなみを一瞥し、無言のまま会議場を出ていく。
(私、目の敵にしてる? そりゃ、応鬼って怪人を倒したあるみ社長と同じ魔法少女だけど……それだったら、あるみ社長に恨みを向けてほしいんだけど……)
あるみだったら、そのくらいものともしないだろう。
「私もこのチャンスをものにさせてもらいます」
影鉄もそう言って出ていく。
そして、会議場には、かなみとヨロズだけになった。
「さて、ゲームは開始された。君達はどうする?」
カリウスは二人に問いかける。
「俺は十二席の座に興味がないわけではないが、お前を倒してその座につこうとは思わん」
「静観か」
「ただし、襲いかかってくるのなら容赦はしない。お前も支部長達も」
「フフフ、結構」
ヨロズは獣の目を光らせて答えて、カリウスは満足そうに笑みを浮かべた、ように見えた。
「それで、君は?」
「どうするも何も私はホテルを出たいだけよ」
「それもまた結構。だが今は下手に動かない方がいい」
「どうして?」
「今頃、ヒバシラあたりは血眼になって私を探していることだろう。そんなときにもし誰かと遭遇したら……」
「あ~、そういうことね」
かなみはカリウスの言いたいことが理解できた。
「誰彼構わずケンカ売ってきそうだし、私は戦いたくないわよ」
第一戦っても一文の得にならない。
そんな戦いはしたくないからこそ一刻も早くこのホテルを出たいところなのに。
「あんたがさっさと倒されたらいいのに。そうすれば早く終わるのに」
かなみはカリウスへ言う。
「正直な意見だね。だが、それもありうるだろう、何しろ支部長達だからね」
「他人事みたいに……狙われてるのはあんたなのよ?」
「もちろん理解しているさ。私は望んでこの状況になっている」
「そうよね、私は望んでないから大迷惑よ」
かなみははっきりと今の気持ちを伝えてやった。
それでもこの男に対してはノレンに腕押しだろうけど。
「迷惑か。しかし、私は君にもこのゲームに参加して欲しいと思っているんだよ」
カリウスはそう言って、スッと姿を消す。
「参加って、あいつは私を十二席につかせたいの?」
「かもしれないな」
かなみは冗談のつもりで言ったのだけど、ヨロズはそれを真顔で返す。
「……何考えてるんだか」
人間の自分が怪人達の秘密結社の役員。それも最高役員の地位に上り詰める。
おかしなことこの上ない話だ。
第一、魔法少女として怪人と敵対している。そんな自分が悪の秘密結社に入るなんてありえない。
「しかし、お前は何を考えてる?」
「え?」
「支部長達がホテルを闊歩するこの状況……易々と出口までいけるとは思えんが」
「そうね……」
かなみは考える。
すると、会議場がやたら広くなったかのように感じる。
先程までここでは一触即発、どころか爆発してしまいそうなほど強烈な圧迫感に襲われていた。
それも支部長達が揃いも揃って血の気が多くいつこの会議場が血の惨状にならないか、不安と緊張で生きた心地がしなかった。
今はその支部長達がいなくなって、すっかり閑散としていた。まるで廃墟になったみたいだ。
「あ……」
途端に気疲れがだるみになって襲いかかってくる。
「ひとまず休みたいわね」
「なるほど、一旦様子見に徹するというわけか。状況を踏まえた判断だ」
「そこまで考えたわけじゃないんだけど……」
様子見というのは悪くない判断な気がする。
その間に、誰かがカリウスを倒してくれればゲーム終了で誰とも戦わずにホテルが出られる。うん、そうしよう。
「スイートルームに行くわ」
「では、俺もそうしよう」
「なんでよ? 別にあんたも戦えばいいじゃない?」
「状況を見据えて待機する。それも必要なことだとテンホーから教わった、今それを実践する時だと判断した」
「……テンホー、また余計なことを。まあいいわ、今回は別にあんたと戦うわけじゃないんだから」
「む、それはそうだが、俺はお前と戦いたい」
「あんたのそんな気持ちを知りたいわけじゃないわ。早く部屋に戻りましょう」
かなみとヨロズは会議室を出る。
「なんで、あんたが私達のスイートルームにいるわけよ!?」
「私が予約した部屋だ。私がいて何の不思議がある?」
カリウスは当たり前のようにそう答える。
「私が予約した部屋って……私とヨロズで予約したんじゃないの?」
「正確には、君とヨロズ――私だ」
カリウスはそれぞれ指差して、最後に自分を指して答える。
「三人で予約したの!?」
「そうだよ。気に入ってくれたかい?」
「スイートルームは気に入ったわ。あんたは気に入らないけど」
「フフフ、正直な感想どうもありがとう」
カリウスはかなみの嫌味さえ愉快そうだった。
「どうして三人で予約したの?」
「その方が楽しいことになると思ってね」
「私は楽しくない!!」
「私は楽しい」
かなみはカリウスへ睨みつける。
「……平行線だな」
「そうね。交わらないわね」
かなみはため息をついて、別のソファーに座る。
「交わらないなら交わらないなりの接し方があるということか」
「別にそんな大したものじゃないわよ」
「いや、実際大したものだよ」
「私をおだてて、何が狙いなの?」
かなみは依然として、不満顔で返す。
「正当に評価しているだけだよ」
「あんたの正当は信じられないのよね」
「まあ、正当な判断だよ」
どうにもおちょくられているような気がしてならない。
「しかし、君は十二席の座に興味はないのか? この場で私を倒せばその座につけるのだぞ」
「興味ないって言ったでしょ! 私は魔法少女よ、悪の秘密結社の幹部になんてなるわけないじゃない!」
「常識で言えばそうだろう。だが、君はその枠にはまらない存在だと私は思ってるの?」
「それでおだててるつもりなの? あんた相当ヘタね」
「そんなつもりはない。言っただろ、正当に評価しているだけだと」
カリウスがそう言っても、かなみは不審な目を向けたままだった。
「ところで、以前の話は憶えてるかな?」
「以前の話?」
「最高役員十二席の席長・判真の件だよ」
「あ……!」
カリウスにそう言われて、かなみは思い出す。
以前、カリウスから持ちかけられたことがあった。
『最高役員十二席の席長・判真を倒す』
それを果たしたときに、十億円渡すという話。
「それは断ったはずでしょ」
「だが、その際に君はこうもいった『最低百億は用意しなさいよ』とも」
「……憶えてないわ」
嘘だった。かなみはちゃんと憶えている。
「あのとき、私は表立って動けなかったからね。だが、今は違う」
「百億用意したっていうの?」
「そうだ」
カリウスはあっさり答えた。
「えぇ!?」
かなみが驚くと、カリウスは指をパチンと鳴らす。
アタッシュケースがテーブルの上に出現する。
「一億円ある」
「一億!?」
パカッとケースが開く。そこにはビッシリと詰め込まれた一億円札があった。
「ほ、本当に本物の!?」
「本当に本物だよ」
「悪いことすると儲かるのね」
「まさしくそのとおりだよ」
嫌味で言ったつもりだったけど、カリウスはまともに返された。
「そんな悪いことしたお金なんていらないわ」
「金に善悪はない。それは魔法も同じことだよ」
「…………」
金と魔法は同じ。
そう思ったら、アタッシュケースの中に詰まった札束から魔力めいたものを感じた。
「感じ取ったかい?」
カリウスが問いかける。
「人の想いが込められた物品には魔力が宿る。これはそういうものだよ」
「あんた、このお金はどうやって手に入れたの!?」
「さあ……君の言う通り、悪いことか。ご想像に任せるよ」
「………………」
かなみはアタッシュケースの札束を見つめる。
「今ならこのケースを百個分用意できる。いや君が望むならそれ以上用意もできる」
「前にも言ったでしょ、この話は受けられないわ」
「どうしても?」
「どうしてもよ!」
「ふむ……」
カリウスはもう一度指をパチンと鳴らして、アタッシュケースを消す。
「気が変わったらいつでも、といったところかな」
「変わらないわよ!」
「さて……」
かなみは強く言い返すものの、カリウスは気にした素振りもなく話題を変える。
「君はこの状況をどうするつもりかな?」
「どうするって……」
「君が興味はなくとも、嵐の渦中にいるということだよ」
「その嵐に放り込んだのはあんたでしょ」
かなみは恨めしげにカリウスを見る。
「今頃ヒバシラが血眼になってあんたを探してるでしょうね」
「それはさぞ見ものだろうね」
「あんたがここにいるって言ってもいいのよ」
「私は『売り渡す』つもりかい?」
「う……」
カリウスに問われて、かなみは口をつまらせる。
売り渡す。嫌な言い回しだ。
かつて、かなみは借金のせいで黒服の男に売り渡されるかもしれない危機的状況に陥った。
それに、このカリウスにも翠華達を人質にして強制契約という形で、売り渡されたこともあった。
カリウスはわざとそういう言い回しで、かなみへ問いかけた。
「あんた、本当に嫌な奴ね」
「そう思うのだったら、『売り渡せば』いい」
「………………」
かなみは顔をしかめる。
できることなら、そうしてやりたい。
でも、『売り渡す』なんてことはしたくない。
嫌な奴だけど、『売り渡す』ことで、自分が『売り渡された』ときのことを連想して、嫌な想いがこみ上げる。
それはとても後味の悪いことだった。
こいつはかなみのそういう気性を理解していて、あえてそういう言い回しをする。
とても苛立たしい。だけど……。
「あんたを売り渡さない」
かなみはそう決断した。
「それが賢明だろう」
カリウスは感心したように言う。
その上から目線がまた苛立たしい。
「よいのか?」
ヨロズが問う。
「それで面倒事に巻き込まれたら嫌なのよ。ヒバシラなんて呼んできたらこの部屋を火の海になりそうだし」
「逆にお前がヒバシラを倒せばよいのではないか?」
「そんなことできるわけないでしょ」
会議室で直接相対してその威圧感を肌で感じた。戦っても勝ち目がないということを。
「冷静で確実な状況分析だ」
「……褒めても何も出ないわよ」
「無一文だからな」
ヨロズは言う。
「そういうことじゃなくて!」
かなみがツッコミを入れる。
「って、こんなところで和気あいあいしている場合じゃなくて!」
「紅茶でも淹れようか? いや、コーヒの方がいいかな?」
カリウスが提案してくる。
「そうじゃなくて! どうするのよ、これから?」
かなみはカリウスへ問う。
「まさか、ずっとこのまま部屋にいるつもりじゃないでしょうね?」
それは、かなみとしてはとても困る。
いつヒバシラやチューソーや他の支部長達がこの部屋にやってこないとも限らない。
もちろん、追い返すつもりではあるものの、強引に踏み込まれたら防げる自信はまったくない。
そうなったら地獄絵図になることは間違いない。
そうならないためにも一刻も早く出ていって欲しいのだけど。
「まさか。それではゲームの面白みがない」
「だったら……」
「だが、それは今すぐじゃない」
「今すぐじゃないんだったら、いつよ?」
「さあて、いつかな?」
のらりくらりとした回答に、かなみは睨みつける。
コンコン!
扉をノックする音が聞こえる。
「――!」
誰か支部長がここにカリウスがいるのを嗅ぎつけてやってきたのか。
「来客か。出たらどうだ?」
カリウスが言ってくる。
一体誰のせいでこんなことになっているのか、と恨めしく思う。
「それにしても誰が……?」
かなみはドアスコープを覗いてみる。
「ひ……!」
思わず小さく悲鳴を上げる。
廊下を覗いてみたら、そこに浮かんでいた般若の面に恐ろしさを感じたからだ。
「メンコ姫だ」
彼女はそう名乗った。
「な、何か用?」
「話したいことがあって来た。入れて欲しいのだが」
「入れたくない、って言ったら?」
「――扉を壊して押し入る」
「強引!? でも、そんなことしたらゲームは失格なんじゃないの!?」
「ルールはホテルがフロアごと倒壊するような損害を与えた場合、失格だったはず。ドアの一つや二つ壊したくらいで失格にならない」
「あ……そうだったわね」
ドアの一つでも壊したら失格にしなさいよ、
「それに、オラの最優先目的はおめえにある」
「ええ、なんで私!?」
「おめえと話がしたいから入れてくれ。さもなくば、この扉を壊す」
「だから強引だってば!! ちょっ、ちょっと落ち着きなさい!!」
「オラはいたって冷静だ。冷静だから扉を壊す」
「それのどこが冷静なのよ!? 話だったらここでちゃんときくから!!」
「それはダメだ」
「どうして!?」
「話をするときは面と向かってするのが礼儀だと教わっている」
「扉を壊さないのが礼儀だって教わらなかったの!?」
「教わらなかった」
「一体どんな教育受けてるのよ、怪人達は!?」
ヨロズといい、人間の常識とはかけ離れた教育を受けているみたいだ。
どうせ教育するなら人間の常識を学ばせるべきだ、とクレームをつけてやりたい、と思った。
「わ、わかったわ。話を聞くわ」
かなみは部屋の奥にいるカリウスの方を見やる。
「一つだけお願いがあるんだけど、聞いてくれる?」
「きこう」
意外にそこは素直に聞いてくれた。
「何があっても、ここで戦わないこと」
「不戦協定というものか」
「そうよ。不戦協定! 何があっても不戦よ!」
「いいだろう。オラも戦いにきたわけじゃねえからな」
「ほ、本当?」
「オラ、嘘つかねえ」
「それはよかった。それじゃ、入って」
かなみはドアを開ける。
改めて見ると廊下にポツンと立っているメンコ姫の姿はどこか可愛げを感じる。背中のバカでかい棍棒がなければ、の話だけど。
「邪魔する」
メンコ姫は一礼する。意外に礼儀正しい。
さっきまでのドアを壊して入る。と物騒なことを言い放った怪人とは思えない。
「それじゃお話しましょう」
かなみはメンコ姫を玄関で引き止めた。
いくら、戦わないと約束はしても、カリウスと鉢合わせしたらどうなるかわからない。
メンコ姫の言い分、面と向かって話をする。それだけなら、この玄関だけで十分にできる。
なんとかして、カリウスと会うこと無くこの場を切り抜ける。
「立ち話もなんだから、紅茶を淹れるよ」
「――!?」
背後からカリウスの声がする。
かなみは心臓ごと身体が飛び上がらんばかりに跳ね上がる。
「な、なななな!?」
「こちらに来たらどうだ、メンコ姫」
かなみが何か言ってやろうとして、先にカリウスがメンコ姫へ語りかける。
「ああ」
メンコ姫は短くも簡潔に答える。
そのリアクションからして、いきなり襲いかかることはないだろう。
かなみが呆気にとられているうちに、カリウスのいる奥へと歩み寄る。
「た、戦わないの?」
かなみは自分の隣にまで踏み込んできたメンコ姫に訊く。
「戦わないと不戦協定を結んだはず。それに言ったはずだ、オラの最優先目的はおめえだと」
「ああ、それは本気なのね……」
「オラは本気しか言わねえ」
般若の面で表情は窺い知ることはできないけど、その語気から嘘は感じられなかった。
ひとまずいきなり戦いになることは回避できそうだ。
そんなわけで、かなみとメンコ姫はテーブルを挟んで対面している。
「君の場合、緑茶の方が良かったかな?」
カリウスはテーブルにティーカップを並べ、手にはティーポットを持って、メンコ姫へ問う。
「そうだな、緑茶は好きだ」
「そうか」
メンコ姫が答えるやいなや、テーブルのティーカップは湯呑に、ティーポットは急須に変化する。
「マジシャンに向いてるんじゃないの?」
「自分でもそう思うよ」
かなみの問いかけに、カリウスはおどけた調子で返す。
「それで話って何?」
かなみはメンコ姫に訊く。
十二席の座より優先する目的とは一体何か。
思い当たる節はある。
前東北支部長・応鬼はあるみが倒した。そのことに関して、あるみや魔法少女に対して強い敵対心を持っているはず。
会議室でも応鬼を侮辱したヒバシラに対して強い憎しみを向けていた。
あれがかなみに向けられないとも限らない。
正直とんだとばっちりだ。応鬼を倒したのはあるみであって、自分は関係ない。
それを言っても、このメンコ姫が納得してくれるだろうか。
憂鬱で胸が張り裂けそうだ。
「応鬼様を倒した、というのは、魔法少女アルミの仕業というのは本当か?」
「……え?」
「本当か? と、訊いている」
「本当、よ。私は実際に見たわけじゃないから、本人から聞いただけだけど」
「そっか……」
メンコ姫は顔を伏せる。
面のせいで表情は伺いしれないけど、悔しさと悲しさが伝わってくる。それが怒りになって自分が向けられないかと、かなみは内心ヒヤヒヤする。
「その魔法少女アルミとおめえ、魔法少女カナミはどっちがつええ?」
「どっちが強いかって? そんなの比べるまでもないわよ」
「おめえはつええのか?」
「そんなわけないでしょ……強いのは――魔法少女アルミよ」
「そっか、魔法少女アルミはそんなに強いのか。それじゃ、――オラじゃ逆立ちしても勝てねえな」
メンコ姫は自嘲気味に言う。
かなみはその様子に少しだけ親近感を覚えた。
「応鬼様は偉大な御方だった。オラはそれに近づけるよう頑張ってきたが、足元にも及ばない」
「でも、あなたはその応鬼の後を継いで東北支部長になったんじゃないの」
「そうだな。だけんども、オラから申し出たことじゃねえ。幹部の御座敷がオラを推挙したからだ。そんで誰も反対しなかった。オラには過ぎた立場であるにも関わらずな」
「そ、そうなんだ」
かなみは意外に思う。
怪人連中はどいつもこいつもギラついた目で野心に溢れてて出世欲にまみれた印象だった。
支部長の座と、聞けば喜んで奪い取ろうとするものだとばかりだと思っていた。なのに、このメンコ姫は他の怪人から推挙されて東北支部長の座についた。どうにも周りから祭り上げられたような感じだ。
「分不相応な地位だと思っている。だが、与えられた地位とかけられた期待には全身全霊で応えたいと思っている」
それはメンコ姫からの決意表明だった。
「そう……それは、いいことね」
正直、怪人とは敵対関係なので、あまり大っぴらには言いづらいけど。
「いいことか。おめえもそう思うか?」
「え、ええ……」
「魔法少女カナミか……噂に聞いた通りだ」
「どんな噂よ!?」
「相手を認める度量の深さがある。それは支部長クラスの器の大きさときく」
「俺もそう思う」
ヨロズも同意する。
「あんたがその噂を流してるんじゃないの」
「俺は本当のことを言ってるだけだ」
「やっぱりあんたじゃないの!?」
とんだ迷惑行為だった。
「まあ、十二席や支部長と戦っていれば嫌でも名は上がる。あることないこと、噂は広まっていくものだよ」
カリウスは言う。
「あんたは黙ってて……」
かなみは頭を抱えて言う。
「魔法少女カナミ、逢えてよかった」
メンコ姫はかなみへ言う。
「一つおめえに頼みがある」
「何?」
魔法少女アルミに会わせて欲しい。
それくらいの頼みだったらきいてもいいかな、と、かなみは内心予想していた。
「――オラと友達になってほしい」
「と、ともだちぃッ!?」
あまりにも予想外の頼みだった。
「断るか? やっぱり、怪人と魔法少女は友達になれねえか」
「こ、ここ断るつもりじゃないわ! ただびっくりしただけで!」
「びっくりしたと断るは同じ意味でねえか?」
「違う意味よ!」
「だけんども、オラと魔法少女カナミでは友達になるには釣り合いがとれねえ。無茶な頼みなのは重々承知だ」
「そ、そういうわけじゃなくて!? あんた、支部長でしょ! そんな凄い怪人が、魔法少女の、人間の私と友達なんて……」
「人間でもおめえはすげえことは噂でよお聞いている」
「私は別に凄くないわよ」
「いやいや、謙遜しなくたってええ。十二席のヘヴル様とも渡り合ったのならオラには遠く及ばねえ」
「そんな大したことしてないんだけど……」
「……やっぱり、怪人と魔法少女は友達になれねえか……」
メンコ姫はガックリと肩を落とす。
「そ、そんなこと言ってないでしょ! でも、どうして私と友達になりたいって?」
何か裏があるんじゃないかと警戒してしまう。
「おめえに憧れていた。それだけじゃダメなのか?」
「憧れてるって?」
「応鬼様を倒したっていう魔法少女に興味があったし、十二席のヘヴル様と渡り合ったって話を聞いて憧れてたんだ。それにできれば友達になりてえとも思った。嘘じゃねえし、騙すつもりもねえ、このとおりだ、オラと友達になってほしい」
メンコ姫は両手をテーブルについて頭を下げる。
「そ、そんなことしなくていいわよ! 友達になるんだったらそんな頭を下げることはないわ!!」
「それなら!」
メンコ姫は顔を上げる。
「あ、でも、お面くらいは取って欲しいかな……そのお面、ちょっと怖いから……」
「そっか……! 友達になるんだったら、これ外さねえとな」
メンコ姫は般若の面を取る。
「――!」
「いやあ、支部長になるんだったら、迫力がねえといけねえと、御座敷が付けろとうるさくてな」
「かわいい……」
「え?」
「可愛い!!」
かなみはテーブルから乗り出して食い気味に言う。
メンコ姫の素顔は、クリッとした桃色の瞳、芸術的な曲線を描いた花、愛嬌を感じる唇。
般若の面をとったらそれ以上に恐ろしい怪人の素顔があると思っていただけに意外すぎる可愛らしい童女の顔だった。
「え、え!? 可愛いって!?」
メンコ姫は頬を赤らめて慌てふためく。
慌てふためいた顔が余計に可愛らしい。
「あんたのことよ!? そんな可愛い顔してるんならお面なんて付けなくてもいいじゃない!?」
「そ、そっか……付けなくてもいいか……」
メンコ姫は般若の面を見つめる。
「それで友達になってくれるのか、魔法少女カナミ?」
メンコ姫は懇願の表情を浮かべる。
同じ問いかけだけど、面を付けていた時は威圧感があったものの、素顔の今はまったくそれがない。むしろ、可愛げすら感じる。
迫力がないから般若の面をつけろといった、その御座敷という幹部の意見も納得がいく。
「そ、それは……」
懇願されると、かなみは弱かった。
「わかったわ。でも、もう一つお願いがあるわ」
「なんだ? できる限りのことはきくが」
「友達相手に大げさな呼び方はやめて。かなみでいいわ」
かなみは立ち上がって手を差し出す。
「……そっか」
メンコ姫は立ち上がって、その手を握り返す。
「かなみ、こんな呼び方でいいか?」
「ええ、メンコちゃん」
「メンコちゃん?」
「あ、ごめんね。その可愛い顔をしてたからつい?」
「いや、それでええ。その呼び方、気に入った」
「本当、よかった。あははは」
かなみが笑うと、メンコ姫もつられて笑みを浮かべる。
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